著者
西原 克成 手嶋 通雄
出版者
特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1-2, pp.42-57, 2011-08-30 (Released:2014-01-14)
参考文献数
42

人間の生命を扱う医学と生命科学で最も重要な考えは,ミトコンドリアのエネルギー代謝と環境エネルギーと動物自身の動きの生体力学エネルギーであるが,このエネルギーの概念が今日完璧に見過ごされている.筆者は医学・生命科学にこれらの考えを導入して新しいエネルギーに立脚した「顔と口腔の医学」をまとめ,出版した.本稿では人工歯根療法について述べる.エネルギーを導入した新しい医学の考えに立って筆者は,骨癒着型のインプラントに代わって新型の歯根膜(歯周線維組織)を持つ釘植型人工歯根を開発した.これまでのすべてのインプラントには歯周支持構造の固有歯槽骨・歯周靭帯線維関節が欠けていたので,歯を支える骨組織の改造システムがなかった.筆者は,生体力学の観点から,人工歯根の材料,形状,機能効果を研究し,セメント質・歯周靱帯線維関節・固有歯槽骨を機能下で発生させる特徴的波状形のアパタイト焼結体とチタンの人工歯根を開発した.これらの人工歯根を成犬と日本猿に植立して,基礎的動物実験を行った後に生体力学研究を行った.人工歯根植立術後に連続冠で固定し,直後から咀嚼させるのであるが,咀嚼運動エネルギーによって生ずるハイドロダイナミクスは流動電位を随伴して生じ,この電位によってセメントブラストと固有歯槽骨と歯周靱帯線維関節が毛細血管とともに誘導される.これらの光学顕微鏡とSEM(走査型電子顕微鏡)およびマイクロアナライザーによる病理組織学的研究につづいて有限要素解析FEA 法を用いて釘植型と骨癒着型の人工歯根の比較研究および人工歯根の形状効果および機能効果に関する研究を行った.
著者
槻本 康人 木股 正樹 夜久 均 田中 大 曽田 祥正 松本 恵以子 柴田 奈緒美 松尾 洋史 並河 孝 藤原 克次 岡野 高久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da1000, 2012

【はじめに、目的】 開心術後リハビリテーションは、二次的な廃用症候群や術後肺炎などの合併症予防に有用のみならず、早期離床を可能とし早期退院に有用である。当院でも二次的合併症の予防や術後運動耐容能を改善する目的で、クリティカルパスに沿って理学療法士が術後早期から介入を行っている。術後リハビリテーションでは、日本循環器病学会の開心術後クリティカルパスを用いている施設も多い。開心術の対象疾患である心臓弁膜症と虚血性心疾患は、術前の病態や重症度は異なる。しかし、同一の開心術後クリティカルパスで術後リハビリテーションを行った結果、体力の低下に不安を抱えて退院する患者も散見される。今回開心術後リハビリテーションに関連する術前の因子について、心臓弁膜症と虚血性心疾患の間で検討した。【方法】 対象は、平成21年4月から平成23年10月までの間に当院で待機的に開心術を行った76例のうち、急性心筋梗塞および複合手術を除く心臓弁膜症患者(20例)および虚血性心疾患患者(25例)である。入院時の性別、年齢、身長、体重、BMIおよび移動能力を調査した。移動能力の指標として、アメリカ胸部学会のガイドラインに従って術前6分間歩行テストを行った。また予備調査として、性別、年齢、身長および体重をもとに6分間歩行距離の予測値を算出した。統計処理はWilcoxon順位和検定を行い、5パーセント未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、対象者へ研究の趣旨と内容、調査結果の取り扱いについて説明し、同意を得た上で調査を実施した。【結果】 性別は心臓弁膜症が男性10名、女性10名、虚血性心疾患は男性17名、女性8名であった。年齢は心臓弁膜症74.8±9.2歳、虚血性心疾患69.3歳±8.7歳と心臓弁膜症が有意に高かった。身長は心臓弁膜症156.8±10.7cm、虚血性心疾患162.3±9.5cmと有意差はなかった。体重は心臓弁膜症55.2±9.8kg、虚血性心疾患64.2±8.9kgと虚血性心疾患が有意に高かった。BMIは心臓弁膜症22.3±4.4、虚血性心疾患24.3±2.4と虚血性心疾患が有意に高かった。また6分間歩行距離は心臓弁膜症302.1±92.0m、虚血性心疾患は379.2±83.8mと虚血性心疾患が有意に高かった。予測6分間歩行距離は心臓弁膜症503.8±41.9m、虚血性心疾患は491.2±45.9mと有意差はなかった。【考察】 今回の予備調査では、予測6分間歩行距離に心臓弁膜症と虚血性心疾患の間で有意差はなかったが、実際の6分間歩行距離では心臓弁膜症に有意な低下が見られた。近年リウマチ熱等による若年者の大動脈弁狭窄症は減少し、高齢者の動脈硬化性大動脈弁狭窄症が増加傾向にある。加齢による移動能力の低下が、心臓弁膜症患者の6分間歩行距離低下に影響したと推察された。また、心臓弁膜症患者は、左室拡張末期圧の上昇等で労作時の胸部症状が出現し、日常生活活動の低下や活動量が減少している症例が見られる。これら日常生活の不活発化が、6分間歩行距離の低下に影響を与える可能性が示唆された。虚血性心疾患患者は心臓弁膜症患者と比較してBMIが高く肥満傾向であったが、若年者が多く加齢による移動能力の低下が少なかった事、亜硝酸薬の内服で運動制限が少なく良好な日常生活を過ごしていた事などが影響し、6分間歩行距離が有意に高かったと推察された。よって、術後リハビリテーションでは、心臓弁膜症患者は活動量の増加や移動能力の向上を目的に、歩行トレーニングを中心とした低負荷長時間の運動療法が重要であると思われる。また虚血性心疾患患者は肥満傾向にあったので、冠危険因子を是正し再イベントの発生を回避するため、減量指導や継続して有酸素運動を中心とした心臓リハビリテーションが重要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 心臓弁膜症患者と虚血性心疾患患者の間で術前調査を行った。心臓弁膜症患者は、胸部症状の出現や加齢により移動能力が低下、虚血性心疾患患者は肥満傾向にある事が示唆された。本研究より、開心術後リハビリテーションでは、同一のクリティカルパスであっても両疾患の特性に応じたリハビリテーションが提供されるべきであると思われる。
著者
中村 真里 中村 康雄 林 豊彦 福田 登 駒井 正彦 橋本 淳 信原 克哉 Chao Edmund Y.
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
no.16, pp.13-25, 2002-06-25
被引用文献数
9 4

Baseball pitching involves a complicated and rapid movement that has been investigated to prevent injuries and to improve the pitching performance. It is difficult to assess the pitching motion with high accuracy and a high sampling rate, due to the limitations of preexistent camera systems. The current camera system, however, has enough capacity to measure pitching motions with high accuracy and a high sampling rate. We have been diagnosing shoulder joint injuries caused by pitching. The patients (N=939) felt pain during the pitching sequence as follows: top position (32.5%), maximum external rotation (27.2%), and ball release (14.5%). Hence the top position is one of the most important postures to investigate the mechanisms of shoulder joint injury in pitchers. There have been no studies that focused on the top position, however. The main purpose of this study was to develop a system to assess the pitching motion accurately. Another purpose was to estimate the instant of the top position and evaluate the kinematics of the shoulder and elbow joints. Pitching movement was assessed using a motion capture system (ProReflex MCU500, Qualisys Inc., Sweden) in a studio that has an official pitcher's mound and home base. This system can record the positions of reflective markers at 500 Hz using seven CCD cameras. Thirty-two markers were mounted on the joints and body landmarks of each subject. Two markers were mounted on the ball. The pitching motions of eleven subjects were assessed, after a period for warm up. Kinematics parameters were calculated using three-axis gyroscopic Euler angle. The instant of the top position was observed for all subjects before the lead foot touched the ground. The interval from the top position to ball release was 0.242±0.0438 [s] (n=11). The subjects were divided into two groups by the type of posture at the instant of the top position, as follows: internal rotation group (n=5), 11.8±6.08 degrees, and external rotation group (n=6), 38.1±19.97. Other kinematics parameters at the top position were adduction of the shoulder at 74.2±19.84 degrees, horizontal adduction of the shoulder at 37.3±14.10 degrees, and extension of the elbow at 92.1±21.63 degrees. The timing and posture of the estimated top position were almost the same as those of the conventional top position. From the top position to lead foot contact on the pitching sequence, there were three patterns of elbow leading. The three patterns did not depend upon experience. We interpreted them as individual variations.
著者
上田 泰之 田中 洋 亀田 淳 立花 孝 乾 浩明 信原 克哉
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.101-108, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
28

【目的】投球動作中の肩関節離開力,前後および上下方向の力学的ストレスに影響を与える因子を明らかにすること。【方法】対象は野球選手81 名。肩関節最大離開力・前方・上方関節間力を従属変数とし,肩関節,体幹,骨盤に関する因子27 個を独立変数とした重回帰分析を行った。【結果】肩関節離開力を従属変数とした場合,ボール・リリースでの肩関節水平内転角度,体幹回旋角度など6 個の因子が選択された。肩関節前方関節間力を従属変数とした場合,非投球側足部接地での肩関節水平外転角度と肩関節水平外転トルクの因子が選ばれた。肩関節上方関節間力を従属変数とした場合,肩関節最大外旋位での肩関節外旋トルク,ボール・リリースでの肩関節外転トルクなど7 個の因子が選択された。【結論】肩関節離開力に影響する因子は報告されていたが,本研究では肩関節前方・上方関節間力についても検討した。その結果各々の力学的ストレスに対し影響する因子は異なることが示された。
著者
小玉 重夫 荻原 克男 村上 祐介
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_31-1_52, 2016 (Released:2019-06-10)

これまでの政治学・教育学では, 1950年代を教育において文部省対日教組による保革のイデオロギー対立が激化した時期であると捉えることが一般的であった。それに対し本論は, そうした表面上のイデオロギー対立が注目される中で, その底流ではこの時期に教育の脱政治化が進行していったことに焦点を当てて, 教育行財政の制度と地方教育行政の実態がむしろ脱政治化へと向かったことを歴史的な検証から明らかにすると同時に, 教育行財政の制度・実態だけでなく, 現場の教育実践のレベルにおいても, この時期に脱政治化の萌芽が生じてそれが進行してきたことを示した。具体的には, 教育行財政の制度面 (2節), 教育関係団体秩序の側面 (3節), そして教育運動, 教育実践の側面 (4節) から論証した。以上の作業を通じ, 1950年代の教育政治について通説とは異なる理解を提示すると同時に, 教育が政治化する陰で, 現在に至る教育の脱政治化への転換点が1950年代に埋め込まれていたことを明らかにした。
著者
片岡 拓実 加藤 直也 菊池 隆司 芦原 克宏
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.1521-1526, 2009 (Released:2010-06-18)
参考文献数
13

軸受設計において、最小油膜厚さは最も重要な情報の一つである。油膜厚さ計測手法確立のため、軸受メタル表面に形成した数μm厚の薄膜電極とシャフト間の静電容量から油膜厚さを求める方法を検討し、単体試験機でEHL計算値と一致した。この手法を用いてエンジン実働時の主軸受の油膜厚さを最大負荷条件まで実測した。
著者
居倉 博彦 児玉 光司 池田 俊太郎 橋田 英俊 桑原 大志 岡山 英樹 原 裕二 重松 裕二 小原 克彦 濱田 希臣 日和田 邦男 藤原 康史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.619-622, 1997-06-15

症例は47歳,男性.1995年4月22日午前7時頃,くしゃみをした直後に前胸部圧迫感が出現した.痛みは約15分続いた.さらに,同年5月16日午前7時頃,くしゃみをした直後に前胸部圧迫感が生じた.その際,便意も催し,排便後に失神したが,意識は10分弱で同復し,胸痛も消失した.近医の紹介により同年5月29日に当院に入院した.6月1日に冠動脈造影検査を施行,コントロール造影では両側冠動脈に器質的狭窄を認めなかったためアセチルコリン冠攣縮誘発試験を行った.その結果,右冠動脈,および左回旋枝は完全閉塞し,それに伴って胸部圧迫感と心電図上ST上昇を認めた.以上より異型狭心症と診断した.以後,抗狭心症薬の投与により狭心症発作は一度も起きていない.本症例は狭心症発作の前駆症状にくしゃみを認めた稀な症例である.
著者
桑原 克義 福島 成彦 田中 凉一 宮田 秀明 樫本 隆
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.354-361_1, 1986
被引用文献数
2

ムラサキイガイに残留する低極性有機蛍光物質濃度の数値化の試みとして, 蛍光分析と蛍光検出器付きHPLC分析を行った. 蛍光分析では, 大阪港, 京都舞鶴, 北海道各海域でよく類似したスペクトル (Ex λmax=ca.310; Em λmax=ca.350nm) を与えた. HPLC分析では, 共通する残留性のピークとその他のピークに別れた. 試料間で, 蛍光分析で約10倍, HPLC分析で約100倍以上の差が得られ, 本方法が上記化合物による海産食品汚染監視の一指標になるものと考えられた.
著者
石川 尚子 庭野 慎一 今木 隆太 竹内 一郎 桐生 典郎 入江 渉 豊岡 照彦 栗原 克由 相馬 一亥 和泉 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.SUPPL.2, pp.S2_97-S2_104, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
11

背景と目的: わが国では, 年間10万人を超える院外心肺停止(cardiopulmonary arrest; CPA)患者が報告されているが, その救命率は6.3%程度といまだに低い. CPA症例の救命率を規定する因子を検討するため, 当院における院外CPA患者データを解析し予後予測因子を検討した.方法: 対象は2009年1月1日から2010年6月30日の間に当院3次救命救急センターへ搬送された18歳以上の内因性CPA患者. 1カ月後の予後で生存群, および死亡群の2群に分類し, 虚脱から病着までの経過(プレホスピタル因子)および病着後の所見(インホスピタル因子)を両群間で比較検討した.結果: 観察期間中に789症例のCPA患者が搬送され, 外因死を除く連続581症例(平均年齢71±1歳, 男: 女 352人: 229人)について検討を行った. 各評価項目を多変量解析した結果, 以下の8つの項目が独立予後予測因子として統計学的に有意であった. (1)目撃あり(オッズ比12.8, 95%信頼区間1.6-185.0), (2)バイスタンダーCPR(cardiopulmonary resuscitation)あり(オッズ比10.9, 95%CI 1.9-107.6), (3)初回心電図が脈なし心室頻拍/心室細動(ventricular tachycardia; VT/ventricular fibrillation; VF) (オッズ比12.6, 95%信頼区間2.3-86.0), (4)病着前自己心拍再開あり(オッズ比60.6, 95%信頼区間7.8-524.0), (5)心原性CPA(オッズ比 17.5, 95%信頼区間4.4-119.4), (6)血中pH≥7.0(オッズ比14.5, 95%信頼区間5.1-49.3), (7)血中K+≤5.0mEq/L(オッズ比36.0, 95%信頼区間9.6-235.3), (8)血中CRP≤0.5mg/dL(オッズ比6.6, 95%信頼区間1.9-31.5). これらの8因子を各1点ずつで加算したものを予後予測スコアと定義すると, 生存のためには5点以上を要し, さらに6点以上のスコアは神経学的に良好な予後を得るための優れた指標となった(感度92.3%, 特異度88.8%).結語: 予後予測スコアは, 院外内因性CPA患者の予後予測に有用であり, 救命率向上に役立つ可能性が示唆された.
著者
西原 克敏
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1409, pp.173-176, 2007-09-24

今年6月末の株主総会をもって、私は軽貨急配(現トラステックスホールディングス)から去りました。 1984年に創業した同社は、個人事業主のドライバーと契約し、軽貨物の輸送を委託する新ビジネスを開拓。順調に業容を広げ、2000年10月には大阪証券取引所第2部に上場しました。
著者
原 克己 阿波野 昌幸 田渕 博昭 濱田 一豊
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.49-60, 1996-05-01 (Released:2013-04-26)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

大阪市新中央体育館 (仮称) は, メインアリーナ, サブアリーナなど全ての施設を公園地下に設けるという前例のない建物である。直径110m, 高さ30mのメインアリーナを覆う屋根は, プレストレストコンクリート球形シェル構造とした。屋根面の盛土・植栽等の荷重 (平均5~6t/m2) を支持するシェルドームに対し, その裾野部とテンションリングには約2万tの緊張力を導入する。また, シェルドーム部はプレキャストPC部材と現場打ちコンクリートの合成構造とした。本稿は, 大断面を有するテンションリングのマスコン対策, およびシェルドーム裾野部・テンションリングへのプレストレスカの導入について報告する。
著者
古島 早苗 尾長谷 喜久子 恒任 章 井手 愛子 木村 由美子 賀来 敬仁 前村 浩二 江石 清行 栁原 克紀
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.274-280, 2018-06-01 (Released:2018-07-11)
参考文献数
13

症例1:40代女性,4年前に他院にて二尖弁による大動脈弁狭窄症と診断され,大動脈弁置換術(CarboMedics 21 mm)が施行された.胸部違和感を自覚したため近医受診したところ,収縮期雑音を指摘され,精査目的に当院紹介となった.心エコー図所見:大動脈弁最大通過血流速度5.0 m/s,平均圧較差(MPG)58 mmHg,有効弁口面積(EOA)0.77 cm2,有効弁口面積係数(indexed EOA)0.45 cm2/m2,Doppler velocity index (DVI) 0.28,acceleration time (AT) 130 msec,弁周囲逆流(−),経胸壁・経食道エコーともに血栓弁やパンヌスを疑うような塊状エコー等は指摘できなかった.左室壁肥厚は認めず収縮良好であった.PT-INR: 2.22.X線透視所見:両弁葉ともに開放制限は認めなかった.症例2:60代女性,11年前に大動脈弁(ATS 18 mm)および僧帽弁(ATS 27 mm)置換術が施行され,経胸壁心エコー図にて経過観察を行っていた.心エコー図所見:大動脈弁最大通過血流速度3.6 m/s,MPG 36 mmHg, EOA 0.59 cm2, indexed EOA 0.42 cm2/m2, DVI 0.21, AT 122 msec,弁周囲逆流(−),経胸壁・経食道エコーともに血栓弁やパンヌスを疑うような塊状エコー等は指摘できなかった.全周性に軽度左室壁肥厚を認め,左室収縮は良好であった.PT-INR: 2.78.X線透視所見:両弁葉ともに開放の低下を認めた.両症例ともにドプラ所見から弁機能不全と診断し弁置換術が施行された.術中所見では両症例ともに弁下に輪状のパンヌス形成が認められた.まとめ:心エコー図では血栓弁やパンヌスを疑うような塊状エコーを描出できなかったが,ドプラ所見から大動脈弁位人工弁機能不全を診断し得た2症例を経験した.最大通過血流速度や平均圧較差,またAT, DVI等も考慮し,これらの指標の急激な変化や経年的な増悪があれば,人工弁機能不全を疑うことが重要であると考えられた.