著者
坂本 文徳 大貫 敏彦 香西 直文 五十嵐 翔祐 山崎 信哉 吉田 善行 田中 俊一
出版者
Atomic Energy Society of Japan
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
pp.1111290030, (Released:2011-11-30)
参考文献数
12
被引用文献数
8 10

The environmental behavior of radioactive Cs in the fallout from the accident of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant has been studied by measuring its spatial distribution on/in trees, plants, and surface soil beneath the plants using autoradiography analysis. The results of autoradiography analysis showed that radioactive Cs was distributed on the branches and leaves of trees that were present during the accident and that only a small fraction of radioactive Cs was transported to new branches and leaves grown after the accident. Radioactive Cs was present on the grass and rice stubble on the soils, but not in the soils beneath the grass and rice stubble, indicating that the radioactive Cs was deposited on the grass and the rice plant. In addition, the ratio of the radioactive Cs that penetrated into the soil layer by weathering was very small two months after the accident. These results indicate that trees and other plants are the reservoir of the fallout Cs and function to retard the fallout Cs migration with rain water.
著者
山崎 孝史
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.412, 2008

地政学の「魅力」と地政言説<BR>言葉による表現が、特定の空間や場所をめぐる想像や表象を意味し、歴史的・政治的な文脈の中である種の真実性を持つものとして扱われることがある。その政治的に重要な例が「地政言説」である。オトゥーホール(O' Tuathail)によれば、地政学は「国家間の競争と権力の地理的な側面を強調した世界政治に関する言説」である。オトゥーホールは、現代において地政学がジャーナリスト、政治家、戦略思想家などにとって魅力であるという。ジャーナリストや政治家は地政学をとおして、混沌とした日常的な出来事を超えた、本質化された差異にもとづく永続的な対立や根源的な闘争を見出そうとする。そこで地政学を言説としてとらえるならば、特定の政治家や戦略思想家が「現実」として示す世界が、実は特定の時間と空間の文脈から描き出されていることや、多様で複雑な現実を特定の視点から単純化されていることに気づくことができる。<BR><BR>地政言説の構成と物質的基礎<BR>言説は単に書かれたものとして主体の位置、実生活、あるいは社会の諸制度から遊離しているわけではなく、それらの中に埋め込まれている。地政言説を例にとれば、世界政治の表象は特定の国家の物質的な要素(人口・資源・産業・資本など)と無関係ではなく、それを基礎としてつくり出される。オトゥーホールは地政学の概念的構成を図解している。図の上部におかれるのが三つのタイプの地政言説とその具体的な形態であり、これらの言説は地政的想像力によってつくり出される特定の地政的伝統から派生している。地政的伝統とは、特定の国家の構造を基礎としている。こうした図式は国際関係の分野での言説構成の理解には有効であるが、それ以外のスケールではどうだろうか。<BR><BR>スケールと言説<BR>政治地理学的にみると、地理的スケールは重要な政治的意味を持つ。個人または集団による政治行動は特定の場所において展開し、一定の空間的広がりを持つ。スミス(Smith)が分類する身体からグローバルにいたる7つのスケールは、政治行動が展開される空間的広がりの程度を示している。特定の政治問題や政治行動は特定のスケールを基盤に発生・展開し、またそのスケールの操作をめぐって政治的な駆け引きが起こる。これを「スケールの政治」と呼ぶが、問題のスケールが重層的な場合「スケールのジャンプ」と呼ばれる現象が起こる。こうしたスケールの政治にも地政言説が関係する。それを「スケール言説」と呼び、政治行動の理念的部分において重要な役割を果たす。政治問題や政治運動は単一のスケールで展開するものではなく、多様なスケールの間を往復する。故にスケール言説の分析についてもマルチスケールの視角が求められる。<BR><BR>言説分析の方法<BR>では言説はどのように分析されるのであろうか。社会運動における主体と場所や空間との関係とを明らかにするために、フレーム分析の手法を用いることができる。フレーム分析は、社会運動を「枠づける=フレーミング」言説に着目する。社会運動は特定の信念、価値観、あるいは世界観のもとに組織され、運動組織は自らの活動を正当化し、敵対する立場や組織の考え方を否定する。フレーミングとは、そうした運動の理念を言語的に表現する行為である。フレーミングに着目することで、特定の組織の活動理念の形成過程のみならず、組織内あるいは組織間での異なった理念の同調や対立を検討することができる。こうしたフレーミングは複雑な現実を言説的に単純化することで人々の支持を得ようとする。この点では地政言説と同様の働きをもっている。<BR><BR>地政言説から政治を読む<BR>地政言説と政治との関係を理解することは、地理学という観点から政治を分析する上で有効となる。また、特定の個人や集団が空間や場所を表象する行為から政治的な意図や権力関係を読み取ることは、政治という営みに対する感受性や批判的思考力を高めることにもつながる。そして、私たちがより賢明な市民や有権者であるためには、地政言説の作用に敏感であるばかりでなく、そうした言説の基礎をなすもっと複雑で錯綜した世界や社会の物質的構成(人口・権力・その他資源の配分、すなわち地理そのもの)を理解せねばなるまい。
著者
山崎 慎一 木村 和彦 本吉(手嶋) 博美 武田 晃 南條 正巳
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.30-36, 2009-02-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
34
被引用文献数
6

Over 1500 soils samples have been analyzed for Cd. Samples were 514 soils taken in such a way as to cover a wide range of soil types common to Japan (referred to as nationwide samples), 139 volcanic ash soils also taken nationwide scale (volcanic ash samples), and 887 soils taken from arable lands in Miyagi Prefecture, northeastern Japan (Miyagi samples). Histogram has revealed that the frequency distributions of Cd was positively skewed and coincided well with those of log normal distributions, indicating arithmetic mean value is not appropriate to represent the Cd status in soils. The anti-log values of the minimum, mean, maximum, and 95% confidence limit of the mean calculated using log transformed data were respectively 0.015, 0.27, 3.37 and 0.06〜1.09mg kg^<-1>. Whereas the higher outliers in Miyagi samples were polluted soils, those in nationwide samples were un-polluted dark red soils (Chromic Luvisols) and red soils (Orthic Acrisols) both derived from limestone. It is assumed that trace amounts of Cd contained in the parent materials as impurities at the initial stage of weathering were gradually concentrated during the succeeding weathering processes as almost all of CaCO_3 were lost. The above hypothesis is strongly exemplified in the findings that the concentration levels of more than 30 trace elements in these soils were also higher than those of the other soils. It is worth mentioning that the occurrence of soil samples containing more than 3mg kg^<-1> of Cd not necessarily indicates events related to the anthropogenic soil pollution. The concentration range of Cd in volcanic ash samples was apparently lower than that of the other two groups. Comparison of concentration levels of Cd between volcanic ash soils and non-volcanic ash soils after excluding outliers has revealed that Cd in the former were significantly lower than that in the latter.
著者
山崎 正勝
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.848-852, 2016-12-05 (Released:2017-10-31)
参考文献数
22

変わりゆく物理学研究の諸相 ―日本物理学会設立70年の機会に日本における物理学研究の転換点をふりかえる―平和問題と原子力:物理学者はどう向き合ってきたのか
著者
山崎 彩夏 武田 庄平 鳥居 映太 鈴木 創三 清水 美香 黒鳥 英俊
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-66, 2010-06-20 (Released:2010-07-01)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

Geophagy (soil-eating) is one of the well-known behaviours in many primate species, but the factors influencing this behaviour have been less known. In the captive environment of Tama Zoological Park, 2 female Borneo orangutans (Pongo pygmaeus) showed geophagic behaviour that was restricted to a particular site in the naturalistic outdoor enclosure. We compared the properties of the soil at this site with those of soils from 7 other different sites in the enclosure to determine the differences between the soils. To this end, we examined the landform, vegetation type, the physical and chemical characteristics of the soils at these sites. The enclosure was situated on the hillside of secondary woodland comprising Fagaceae sp. with a gently sloping ridge on the east side and valley bottoms on the west side. The site at which the animals exhibited geophagic behaviour was located at the lowest area of the valley bottoms. We found that this area was thinly covered by a herbaceous layer with Gramineae sp., and most of ground surface was bare. The soil eaten by orangutans had a low density and was highly friable, soft, and wet. Chemical analysis revealed that the soil in the enclosure had a high Ca content (70-80%) and that soils at some points in the enclosure, including the soil at the site of geophagic behaviour, had high Fe and Mg contents. The site of geophagic behaviour was located at the bottom of the valley; therefore, soil ingredients may have accumulated easily in this soil. However, we could not find any definitive chemical factors to explain the geophagic behaviour of orangutans. One possible explanation is that since the site was bare with highly friable, soft, and wet soil, the orangutans would have been able to easily eat the soil from that site.
著者
山崎 博史 藤本 心太 田中 隼人
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ:日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.40-53, 2019-02-28 (Released:2019-03-23)
参考文献数
80
被引用文献数
2

Meiobenthos is a term usually referring to microscopic benthic organisms which pass through a 1 mm mesh sieve and are retained on a 32–63 μm one. Meiobenthos occurs in any aquatic environment, shows high species diversity as well as high biomass, and often plays an important role in ecological and evolutionary studies. However, the species diversity of these animals in Japanese waters has been insufficiently investigated. Here we review several methodologies for collecting extant meiobenthos from the marine environment, including the method for sampling sediments in various environments, extracting meiobenthos from the sediment samples, and some tips for sorting, fixation, and observation of them.
著者
山崎 雅英 朝倉 英策 尾崎 由基男
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.12, pp.2974-2982, 2008 (Released:2012-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
1

凝固・線溶系血液検査は出血性素因・周術期止血管理とともに,日本人の死因の1/3を占める血栓症の早期発見・治療において重要である,凝固時間の延長が見られる場合には,クロスミキシング試験をおこない,凝固因子欠乏と循環抗凝血素の鑑別を行う.凝固・線溶活性化の最も簡便な指標はFDP,D-ダイマーであり,これらが異常高値を示した場合にはTAT,PICなどの分子マーカーを測定することにより病態解析が可能である.血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断にはADAMTS-13活性測定が有用である.
著者
山崎 秀夫 香村 一夫 森脇 洋 加田平 賢史 廣瀬 孝太郎 井上 淳
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

福島第一原発事故で放出され首都圏に沈着した放射性セシウムは東京湾に流入、蓄積していた。東京湾堆積物中の放射性セシウムの分布を解析し、首都圏における放射性セシウム汚染の動態を解明した。本研究では、東京湾の堆積物と水の放射性セシウム濃度の時空間分布を2011年8月から2016年7月までモニタリング調査した。東京湾に流入した放射性セシウムの大部分は首都圏北東部の高濃度汚染地帯が起源であり、そこから流出して東京湾奥部の旧江戸川河口域に沈積していた。現状では,放射性セシウムは東京湾中央部まではほとんど拡散していない。東京湾奥部河口域における放射性セシウムのインベントリーは事故以来、増加し続けている。
著者
諫田 泰成 中村 和昭 山崎 大樹 片岡 健 青井 貴之 中川 誠人 藤井 万紀子 阿久津 英憲 末盛 博文 浅香 勲 中村 幸夫 小島 肇 関野 祐子 古江-楠田 美保
出版者
日本組織培養学会
雑誌
組織培養研究 (ISSN:09123636)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.13-19, 2017 (Released:2017-05-24)
参考文献数
8

近年、細胞培養に関連する技術の急速な開発に伴い、創薬研究、再生医療への応用など、細胞培養が貢献する分野が拡大している。欧米では細胞培養の再現性、信頼性、的確性を確保するうえで、細胞培養の基本概念を研究者・実験者間で共有することの重大性が認識され、Good Cell Culture Practice(GCCP)を作成することにより、細胞培養技術を一定の水準に維持する努力がなされている。我が国の研究者・実験者においても、細胞培養における基本概念を共有すべきと考え、「細胞培養における基本原則」案を作成した。本基本原則案は、培養細胞の脆弱性、入手先の信頼性と使用方法の妥当性、汚染防止、適切な管理と記録、作業者の安全と環境への配慮、の5条項から構成されている。この基本原則の概念が細胞培養を行うすべての研究者・実験者により共有され、日本の細胞培養技術が上進し、細胞培養技術を用いた研究の信頼性が向上することを期待する。
著者
福田 文彦 石崎 直人 山崎 翼 川喜田 健司 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.75-86, 2008 (Released:2008-05-27)
参考文献数
72
被引用文献数
2 1

臨床ガイドラインは、 臨床医師が特定の疾患を治療する際の意思決定を支援することによって最高の診療を推進するという目的のもとに、 系統的に作成されるものである。 それらはエビデンスと連動しており、 より良い診療を行うために作成される。 鍼灸治療は、 医師や看護師、 理学療法士、 助産婦などの保健医療従事者や医療訓練を受けていない施術者などによってさまざまな状況で行われる可能性があるにもかかわらず、 一般の保健医療施設における安全な鍼灸診療のためのガイドラインはない。 ここに示すガイドラインはがん患者の症状、 特に疼痛症状の緩和やその他 (ホットフラッシュなど) の非疼痛性の症状に用いるために作成された。 本ガイドラインは、 がん患者における鍼治療の方針を提示する必要がある鍼灸師のための雛形として示すものである。 本稿には、 ガイドライン及びガイドラインとともに利用するための、 鍼治療のメカニズムや効果、 安全性についての総括的レビューが含まれている。 付記には、 自分自身で鍼治療を行うための方法を示した。 ガイドラインには、 役割と責任、 鍼治療の基準、 適応、 禁忌及び注意事項、 鍼治療、 調査及び監査のセクションが含まれている。 これらのガイドラインは治療に関する基本的で最低限の標準を示すものであり、 今後のデータとエビデンスの蓄積に応じた再評価と確認が必要である。
著者
福島 慶太郎 井上 みずき 山崎 理正 阪口 翔太 高柳 敦 境 優 中川 光 平岡 真合乃 吉岡 憲成 池川 凛太郎 石原 正恵
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-13, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
21

西日本でも有数の生物多様性を誇る京都大学芦生研究林内のブナ・ミズナラ天然林では,2000年代に入りシカによる過剰採食が原因で急速に下層植生が衰退した.2006年に防鹿柵で囲んだ集水域,2017年に囲んだ集水域,防鹿柵を設置していない対照集水域の3集水域を対象に,植生・渓流水質・細粒土砂の調査を行い,集水域単位の防鹿柵設置の効果と実用性を検証した.スポット的な植物保全用の防鹿柵に比べ,集水域単位の大面積防鹿柵の設置は,植物保全だけでなく植物-土壌-渓流水一連の生態系全体を保全する上で非常に有効であることが示された.また,2017年柵設置集水域では,2006年柵設置集水域に比べて設置後の植生回復が遅く,生態系機能への影響が長期間継続する可能性が考えられた.2017年柵集水域で回復が遅かった理由として,採食圧の継続によりシードバンクが劣化していたことの他に,シカの侵入を一時的に許してしまったことが挙げられる.柵の経年劣化や,クマの侵入・台風による倒木等で柵が破損することでシカが侵入することを防ぐため,ネットの交換,定期的な柵の見回りや補修を複数の人員が交代して行う体制を整備することができ,集水域スケールの防鹿柵の長期的な維持管理方法を見出すことができた.
著者
直江 将司 阿部 真 田中 浩 赤間 亮夫 高野 勉 山崎 良啓 藤津 亜季子 原澤 翔太 正木 隆
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.34-40, 2017-02-01 (Released:2017-04-03)
参考文献数
32
被引用文献数
3

放射性セシウムの空間分布の実態を評価し,空間分布に影響している要因を検討することを目的として,2011年と2012年に茨城県北端の落葉広葉樹林内に61個のリタートラップを設置し,回収したコナラ落葉の放射性セシウム濃度を測定した。落葉の放射性セシウム濃度と落葉採取地点の斜面方位,傾斜度,落葉量の関係を調べたところ,2011年において,コナラ落葉の放射性セシウムの空間分布は一様ではなかった。東向き斜面の落葉の放射性セシウム濃度は西向き斜面の落葉のものよりも高く,また落葉量が大きいほど落葉の放射性セシウム濃度が高かった。2012年においても,空間分布の偏りは小さくなったものの同様な傾向がみられた。これらの原因としては放射性セシウムが原発事故時に大量放出された際の風向きが調査地付近では東風であったことなどが考えられた。
著者
菊地 勝弘 神田 健三 山崎 敏晴
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.441-448, 2006-09-25 (Released:2009-08-07)
参考文献数
30

第2次世界大戦末期の昭和18~20年の冬期に,北海道ニセコアンヌプリ山頂の着氷観測所で実験機として使用されたと思われる,「零式艦上戦闘機(通称:ゼロ戦)」の右主翼が1990年8月初旬山頂東側の沢で発見され,その後2004年に回収されて,2005年12月22日から北海道倶知安町の風土館に常設展示されて話題を集めている.それは,60年前のゼロ戦の翼という野次馬的な見方の他に,もはや着氷観測所などといった言葉さえ知らない世代が増えた昨今,そもそも着氷観測所はどんな観測所で,どんな実験をしていて,その結果はどうなったのであろうかという興味とは別に,関連する資料の展示,解説,当時の写真や新聞記事に見られる実験機が,ゼロ戦とは違う「九六式艦上戦闘機(通称:九六式)」のものが多かったからである.どうしてこのようなことになったのか?マスコミ関係や専門家の間で注目されてきたが,幸い「中谷宇吉郎雪の科学館」が所蔵している,当時北海道大学助手で,直接この実験の担当者だった黒岩大助(元北海道大学低温科学研究所長)が撮影していた写真のアルバムから,中谷宇吉郎門下生の一人だった樋口敬二(名古屋大学名誉教授)の考察によって,昭和18~19年の冬が九六式,19~20年の冬がゼロ戦であったという結論が得られた.この報告では,ゼロ戦主翼の発見を契機として着氷観測所ではどのような実験が行われたのか,その実験の主目的であった飛行機の着氷について,使用された実験機の機種とそれに関連するいくつかの疑問について整理したものである.