著者
森川 友義
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

政治脳の進化過程を「囚人のジレンマ」において研究する第一段階(平成15年度)から、「ゼロサムゲーム」や「Hawk-Doveゲーム」を含めた複数のゲームに拡大する作業を行った(平成16年度)。一年目の成果は米国政治学会誌においてリード論文として掲載されたことで結実し、世界の政治学者から高い評価を受けることになった。この論文では、「政治脳」と「人間の協力性」との関係を明確にした。2人の人間関係において嘘をつく能力、見抜く洞察力、及び他者に対してある程度懐疑的になることの3つが人間の協力性を最も高める要因である、という一見してパラドクシカルな仮説を提出して、コンピュータ・シミュレーションによって検証を行った。更に経済学等でしばしば用いられる「合理性」という言葉について政治進化論の立場から新たな定義づけも行い、「合理性」とは社会科学で使われるものの他に、その時代環境に適合できるかどうかの「合理性」(そしてそれは必ずしも利己的ではない)も長い時間のスパンでは重要であり、伝統的な「合理性」の定義は普遍的なものでないことを主張した。第二段階では前年度のパラダイムを更に前進させたが、特に中心となったのは個人と個人の利害関係が直接的に対立するような非協力ゲームにおいて、得られる利得が小さかった場合、争いに参加するかどうかの意思決定について分析を行った。「意思決定の重層」(Orders of Intentionality)という全く新しい分野がそれであるが、相手の出方及び自分の出方を幾重にも推理しながら、最大の利得を獲得させようとする戦略であり、食料や異性の獲得といった人間の存在に根源的に関わるような場面で、リスク高く利得が必ずしも高くない場合に、人間は政治脳を最も駆使することが分かった。
著者
高田 時雄 BATTAGLINI M VITA Silvio 森賀 一恵 井波 陵一 MARINA Batta SILVIO Vita
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

十六世紀末葉から、イエズス会をはじめとするカトリック各会派は精力的に中国布教を開始した。ローマ及びイタリア各都市には彼ら宣教師によって中国からもたらされた、明清代の漢籍が数多く保存されている。しかしこれらはほとんど手つかずのまま放置されているのが実状である。これらの書物は、それ自身が東西文化交流史の貴重な財産であるばかりか、中には学術的価値の高い資料も含まれ、その調査は、中国学の各方面に新たな材料を提供するものであることは確実である。今回の国際学術研究のプロジェクトにおいては、主としてイタリアの公共図書館に所蔵される中国書を調査し、それを目録化するための基礎研究を行うことであった。ローマの国立中央図書館をはじめとして、全国に散在する中国書を徹底して調査するため、アンケート調査を行いつつ、カード採取を実施した。その結果、公共図書館の所蔵漢籍については、ほぼすべての調査を完了し、現在コンピュータ入力中である。その作業の終了を待って、冊子目録の刊行の運びとなる。調査によって明らかになった要点は以下のごとくである。(1)16世紀末あるいは17世紀初頭にヨーロッパにもたらされたと思われる明版本が少数ながら存在する。これらのほとんどが未報告の書物で、研究に資するところが大きい。(2)ローマ国立中央図書館には、義和団事件の時にイタリア軍によって持ち帰られた殿版が相当数存在することで、これも今まで知られなかった事柄である。(3)同じくローマの図書館には広東の曲本の古い刊本が大量に存在し、俗文学研究の上に貴重な資料を提供する。(4)古く伝来した書物の中には、宣教師による書き込みが見られ、ヨーロッパにおける中国学の発展史を知る上での参考となる。
著者
新井 利幸 蜂須賀 喜多男 山口 晃弘 磯谷 正敏 堀 明洋 青野 景也 森 直治 前田 敦行 河合 正巳 高野 学 山口 竜三
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.27, no.9, pp.2135-2140, 1994-09-01
被引用文献数
21

最近10年間に経験した消化器外科手術後に発症した急性肺塞栓症例8例を臨床的に検討した. それらは同期間の手術例の 0.07% に相当し, 平均年齢65.5歳 (55∿75), 1例が男性, 7例が女性, また7例が悪性疾患, 1例が胆石症であった. 術後の安静解除の時期に呼吸困難, 胸痛, 胸部不快感あるいは急性循環不全の症状がみられ, 心エコーで右心の拡張が認められれば急性肺塞栓症が強く疑われる. 肺動脈造影は診断のもっとも確実な方法であり, これを施行した5例全例で塞栓が証明された. 8例中5例は線溶・抗凝固療法で軽快したが, 3例は死亡した. そのうち2例は発症後数時間で失ったが, 1例は補助循環下に線溶・抗凝固療法を行い11日間の生存が得られた. 急性肺塞栓症に対しては, 必要なら補助循環を併施し, 強力な循環管理下に線溶・抗凝固療法をまず行うのがよいと思われる.
著者
内藤 林 森 淳彦 箕浦 旨彦 高木 健 別所 正利 一色 浩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

次の研究成果を得た。1)船首可動翼の制御について考察を深め、可動翼を制御するための入力信号を明確にすることが必要であることから、船首船底圧力を制御信号に選定することにし、その可能性を調べる実験を行った結果、船首船底圧力と、翼への流入迎角の間には明確な相関関係があることが実験的にも明らかになった。船首船底圧力の計測は容易であり、圧力計測装置は安価なことから、良い制御信号であるとの結論を得た。2)船首船底圧力と、翼への流入迎角の間の周波数応答関数(A)を求めた。更に、その結果を使い時間領域のインパルス応答関数(A)を求めた。それを使い、規則波中で予測した流入迎角と、その実測値を比較し、船首船底圧力を使って船首翼への流入迎角を十分な精度で予測できることを示した。3)船首船底圧力を使って不規則波中における船首翼制御の初歩的な検討を、下記の手順で計算機シュミレーションを行い、検討した。(1)船首翼が最も推力を出す場合の、船首船底圧力と翼への流入迎角の間の周波数応答関数(B)を求める。(2)それの時間領域の表現である、インパルス応答関数(B)を求める。(3)船首船底圧力の実測値とインパルス応答関数(B)から求められた信号をリファレンス信号とし、船首船底圧力の実測値とインパルス応答関数(A)から求められた信号の差を補償する制御回路を設計した。(4)船首固定翼の場合と可動翼の場合について推力を計算比較した所、可動翼にすることで固定翼が発生する推力の1.5倍以上の効果があることがシミュレーション上で確認できた。(5)翼への流入迎角が15度以上になった時、翼は失速するが、その影響は統計的等価線形化手法を使って考慮した。本来、失速しないように制御することが可能であり、今後その制御法を考察する。4)船首翼を制御することで、推力発生だけでなく大幅な横揺れを軽減できることを昨年の研究で示した。更に、コンテナー船等の場合、ラッシングレスコンテナーにすることの可能性について検討を行い、その可能性が大きいことを示した。これはアンチローリングフィンは船体中央に設置することよりは、改良を加えて船首に設置する方が、よりフィンの有効性を拡大することになり、効果的であることを示すものである。5)波エネルギーの有効利用の可能性をより一層広げるために、船首にムーンプールを作り、そこに設置したウェールズタービンでエネルギーを吸収し、それを船内電源に利用する方法に関する基礎的検討を行った。ムーンプールを作るために船内空間を一部使用することになる経済的損失との兼ね合いがあるが、一つの大きな可能性を示すものである。
著者
山内 恭 和田 誠 塩原 匡貴 平沢 尚彦 森本 真司 原 圭一郎 橋田 元 山形 定
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

両極におけるエアロゾルの航空機集中観測を通じ、極域のエアロゾルにとって、南極・北極ともに,大気の長距離輸送過程が支配的であることが明らかになり、気候影響の大きい黒色炭素の問題等も興味ある発展が期待される。1.16年度5〜6月に、ドイツ、アルフレッド・ウェーゲナー極地海洋研究所(AWI)と共同で、同航空機2機を使った「北極対流圏エアロゾル雲放射総合観測(ASTAR 2004)」を実施した。航空機による散乱係数,吸収係数とも汚染の度合いの高かった北極ヘイズの活発な時期であったASTAR 2000の3〜4月の結果に比べいずれも低めの値が示されたほか、黒色炭素粒子が硫酸液滴に取り込まれた内部混合粒子が卓越することが明らかにされた。また、地上では降水に伴うエアロゾルの除去過程が観測され、エアロゾルと雲の相互作用が類推された。2.18年12月から19年1月にかけて、引き続きAWIの航空機による南極域での「日独共同航空機大気観測(ANTSYO-II)」を実施した。大西洋セクターではノイマイヤー基地を中心に内陸のコーネン基地まで、合計22フライトを実施し、インド洋セクターの昭和基地側では大陸上S17拠点をベースに内陸、海洋上水平分布と鉛直分布を取得する観測飛行を合計15フライト実施した。エアロゾルの物理、光学、化学特性の3次元分布を得たと共に、温室効果気体の鉛直分布を得るための大気試料採取も行った。南極大陸沿岸域でも、西経側に位置するノイマイヤー基地周辺では、大気が南極半島側から輸送されることが多く、一方東経側に位置する昭和基地では、南大洋を越え南米大陸からの輸送が多いことが、エアロゾルの性質を特徴づけていること、さらに昭和基地近傍で内陸からの大気の中にも黒色炭素の多いエアロゾルが見られることが明らかになった。そのほか、昭和基地観測、海鷹丸観測と併せ、海洋起源物質の寄与の解明も期待される。
著者
小場 弘之 森 雅樹 鳥脇 純一郎 山岸 雅彦 小場 弘之
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.肺腫瘤影の良悪性の鑑別に関する研究-X線学的特徴とデジタルパラメータ良性40例,悪性40例,計80例の小型孤立性肺腫瘤影の胸部X線像を対象とし,X線学的特徴とデジタルパラメータによる肺腫瘤影の良悪性鑑別について検討した.良性腫瘤影は悪性に比し,形状は整で,濃度が高く,辺縁が鮮明で,スピキュラや血管収束像が少ない傾向があった.腫瘤影の面積Sをもとに半径を設定した多重円構造のウィンドウを設定し、デジタルパラメータを測定した.腫瘤影中央部のDCF-N出力値,腫瘤影辺縁の濃度勾配値および腫瘤影周辺部の濃度値と濃度差エントロピー値を測定し,腫瘤影の良悪性鑑別に有用な情報を得た.今回採用したデジタルパラメータによる良悪性の判別率は78%で,医師の読影による上記のX線像所見によって良悪性を判別した場合の判別率は74%であった.これらのデジタルパラメータは,腫瘤影の良悪性鑑別に関する診断支援に役立つ可能性があると考えられた.2.胸部X線像を用いた肺気腫の進行度の定量評価計算機によって胸部X線像上の血管影の太さを自動計測し,その結果を正常例と比較することによって肺気腫の病勢進行度を定量評価するための基礎的検討を行った.胸部単純像上で肋間部に複数のPOIを設定し,様々な方向の2階差分フィルタ出力の最大値を出力するMax-DDフィルタを用いて血管影の強調と抽出を行う.その後,孤立点や枝の除去・穴埋めを行い,血管影の太さの推定を行った.正常例および肺気腫例(中等度,重度)の胸部X線像を対象に検討したところ,肺気腫例では正常例よりも血管影の太さの分布が有意に細い方に偏っていた.今後は,各ROIの肺気腫進行度について医師と計算機の評価結果を比較し,本法の臨床的な有用性について検討する必要がある.
著者
中野 雄介 近藤 悟 森谷 高明 大西 浩行 赤埴 淳一 寺西 裕一 西尾 章治郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.5, pp.780-790, 2011-05-01

ネットワーク上の複数PCの計算リソースを用いるグリッドコンピューティングに関する研究が行われてきた.特に,Webブラウザを介して計算リソースを利用することで,より多くのPCの計算リソースを利用できる有効な手法がある.しかし,PCの負荷を考慮せずにリソースを利用するため,ユーザのWeb閲覧を妨げる可能性がある.加えて,計算対象がXMLのような複雑な構造をもち,問題分割の時間を考慮する必要がある場合,効率的に計算できないと考えられる.本論文ではこのような課題を解決する,Web閲覧者のPCの余剰リソースの効率的利用の手法を提案する.本手法はWebブラウザの負荷に応じて計算速度を動的に変化させることで,ブラウザユーザのWebページ閲覧に対する影響を考慮した計算を行う.これにより,Webアプリケーションを提供するために必要なリソースを,Webアプリケーションユーザ自身から収集することが可能となる.また,計算対象問題の分割に掛かる時間を考慮した効率的な問題の分配を実現する.
著者
森江 隆 田中 秀樹 厚地 泰輔 是角 圭祐 中田 一紀
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.281, pp.55-60, 2008-10-31

我々は従来より,パルス変調信号により時間領域で積和演算および任意非線形変換が行える「アナログ・デジタル融合回路アーキテクチャ」と名付けた方式を提案し,これに基づき各種の脳型視覚処理LSIおよびニューラルネットワークLSIを開発してきた.時間領域での非線形変換は,変換関数と同形の非線形な時間関数で表される電圧または電流波形を用いることで実現できる.これまで,波形生成回路の占有面積の関係から,任意非線形関数波形を複数の演算回路で共有する方式を用いてきたが,この方式では各演算回路が同期的に動作せざるを得ない.しかし,いくつかのモデルでは非同期動作が必要となることがある.スパイクタイミング依存シナプス可塑性(STDP)はその一例である.本報告では,他の例として相対的なスパイクタイミング差による類似度(距離)演算回路を紹介する.また,準周期的にスパイク発火するニューロンのモデルである位相振動子を同期・非同期両方式でCMOS回路で実現した例を示す.回路シミュレーション結果より,このモデルをスパイクタイミングイベント駆動により非同期で動作させることにより,処理時間および消費電力の大幅な削減が期待できることを示す.
著者
木村 玲二 森山 雅雄 篠田 雅人
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ダストの発生源であるモンゴル・中国の乾燥地域において,ダスト発生モニタリングに関する観測ステーションを設置し,春季における黄砂の発生と地表面の状態の関係に関するデータを得ることに成功した。その結果,黄砂の発生に対する植生(特に枯れ草)や土壌水分の効果が観測によって明らかにされるとともに,ダストの発生と地表面状態の関係について定式化し,黄砂被害の軽減資料として役立つ「黄砂ハザードマップ」の試作品を公表した。
著者
森山 徳長
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.72-79, 1999-09-30

ゴールドラッシュ時代のカルフォルニア州のサンフランシスコに流れて来た歯科医エルメンドルフは,この繁栄の町で開業した.約一年弱の努力も空しく,彼はニューヨーク州北部の田舎町で開業している歯科医の父の後を継ぐため撤退した.その間日記を克明につけていたので,当時のサンフランシスコの市民生活と歯科開業の実態が,彼の日記という貴重な一次史料により手にとるようにわかる.米国は南北戦争の最中であり,リンカーン再選の選挙風景を含め原著者Malvin E. Ring氏の歯科医史学的解説を加えて紹介した.
著者
大森 修一 奈良林 直 森 治嗣 渡邉 史紀
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.75, no.751, pp.403-405, 2009-03-25

A Steam Injector (SI) is a simple, compact and passive pump. We are developing this innovative concept by applying the SI system for core injection system in emergency core cooling systems (ECCS) to further improve the safety of nuclear power plants. Passive ECCS in nuclear power plants would be inherently very safe and would prevent severe accidents by keeping the core covered with water (Severe accident-free concept). The passive core injection system (PCIS) driven by high-efficiency SI is a system that, in an accident such as a LOCA, attains a higher discharge pressure than the supply steam pressure used to inject water into the reactor by operating the SI. This report describes the experiments and the analytical simulation on a SI-driven PCIS for innovative-simplified nuclear power plant. In addition, we conducted the analytical simulations of SI, which grew in size for the actual nuclear power plant.
著者
大槻 晃 橋本 伸哉 土屋 光太郎 佐藤 博雄 吉田 次郎 和田 俊 石丸 隆 松山 優治 前田 勝 藤田 清 森永 勤 隆島 史夫 春日 功 鎌谷 明善 村野 正昭 多紀 保彦 平野 敏行 白井 隆明 荒川 久幸 兼廣 春之 平山 信夫
出版者
東京水産大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本研究はROPME-IOCの要請に答えるものとして計画された。本年度の主目的は、調査海域を更に広げて昨年と同様な継続的な観測を行うと共に、ROPME側から要望のあったホルムズ海峡における流向・流速の係留観測を再度試みることであったが、ROPME側で係留流速計の調達が出来なかったこともあり、急きょ底生動物採取等に時間を割り振ることになった。又本年度は、最終年度となるため、ROPME事務局のあるクウェートに入港するこを計画した。本研究グループは、研究練習船「海鷹丸」を利用する海域調査班(研究者7名、研究協力者8名)と車で海岸を調査する陸域調査班(研究者4名)とに分かれて行動した。海域班としては、ROPME事務局が計画した調査航海事前打ち合わせ会(9月26〜27日)に、研究代表者と「海鷹丸」船長2名がクウェートに赴き航海計画、寄港地、ROPME側乗船人数等を伝え、要望事項を聴取した。陸域調査班は、10月28日成田を出発し、バハレーンを経て、クウェートに入り、車を利用して海岸に沿って南東に下り、サウジアラビアのアルジュベールで調査を終了し、11月7日に帰国した。各地点で原油汚染・被害の聞き取り調査、研究試料・魚類試料の収集、水産物の流通・利用の調査を行った。海域調査班は、11月15日に遠洋航海に出発する「海鷹丸」に調査研究器材を積載し、アラブ首長国連邦アブダビ港で乗船すべく12月11日成田を出発した。シンガポールを経て、アブダビに到着、13日には「海鷹丸」に乗船し、器材の配置等研究航海の準備を行った。12月14日ROPME側研究者14名(クウェート4名、サウジアラビア7名、アラブ首長国連邦1名、オマーン1名、ROPME事務局1名。尚、カタールから1名乗船予定であったが出港時間迄に到着しなかった)をアブダビ港で乗船させ、12月15日朝調査を開始するため、出港した。先ず、ホルムズ海峡付近に向かい、1993年に調査した最もホルムズ海峡側の断面から調査を行い、徐々に北上、アラビア湾中部海域に向った。アラブ首長国連邦クワイアン沖からサウジアラビア・アルジュベール沖までの7断面24地点の調査を行い、12月26日予定より1日早くクウェートに入港し、ROPME側研究者及び日本側研究者全員下船した.調査成果の概要は、以下の通りである。1)全ての地点で、湾内水塊移動及び海水鉛直混合調査のためのCTD観測、溶存酸素及び塩検用試料採取と船上分析を行い、観測データを得た。2)全ての地点で、栄養塩測定用試料採取(オルト燐酸イオン、珪酸、アンモニュウムイオン、硝酸塩、亜硝酸塩)を行い、更にそれらの船上分析を行い、観測データを得た。3)海水中の原油由来の溶存微量炭化水素分析用の試料採取、及び船上抽出を行った。4)全ての地点で、底泥の採取に成功した。5)全ての地点で、ボンゴネット及びプランクトンネットによる動・植物プランクトンの採取を行い、幾つかの地点で基礎生産力の測定を行った。6)全ての地点で、海水の光学的特性と懸濁粒子の分布調査を行った。7)全ての停泊地点で、3枚網、籠網、縦縄、釣りによる魚類採取を行う予定であったが、航海後半の悪天候の為、前半に6調査地点に限られた。8)全ての地点で、稚魚ネット引きを行い試料を得た。12月27日には、ROPME事務局関係者2名、日本側研究者7名及び、ROPME研究者7名が参加し、ROPME事務局において、「海鷹丸」による調査結果を主体とした成果発表会をどのように行うか検討会がもたれた。その結果、1995年12月5〜8日まで東京水産大学で行うことが決定した。12月30日クウェート空港を出発し、シンガポール経由で12月31日参者全員帰国した。
著者
森 真理
出版者
(財)生産開発科学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昨年の我々の報告では、感染症等にかかり易い小児、特に重症心身障害者施設入所者ではカスピ海ヨーグルト(クレモリス乳酸球菌<LCFC>)の摂取により、栄養改善効果やインフルエンザワクチンの抗体価並びに免疫賦活効果を確認した。その他、元気に活躍しているお年よりの集団で同検討を行ったところ、免疫能と関係が深い好中球貪食能でカスピ海ヨーグルト群の有意の増加を認めるなど、ヨーグルト摂取と免疫能には関係があると考えられた。そこで食の乱れから慢性的な野菜不足や極端なダイエットなどで便秘気味な女性が増加傾向にあり、腸内環境が良好でないことが推測され、充分な栄養素を体に取り込みにくい状態が考えられる若い世代で検討を行った。充分な説明に対して同意の得られたS大学在学中の学生77名を対象にカスピ海ヨーグルト200gを毎日摂取してもらった。摂取前後には空腹時採血を含む健康診断、摂取中3回の採便回収と毎日、食事日誌と採便記録を付けてもらった。血液データの所見に特に問題はなく、8週間後の健診でも特に変化はなかった。免疫賦活効果に関わる貪食能もプラセボとの差はみられなかった。採便調査や日誌から「記入漏れ」や、「摂取率70%以下」の者を対象外とした30名(試験群15、プラセボ群15)の検討では、排便日数、排便回数では改善傾向がみられ、排便量で摂取前と比較し有意(p<0.01)な改善がみられた。さらに、便秘傾向者18名(試験群8名、プラセボ群10名)では、同じく排便日数、排便回数では改善傾向がみられ、排便量で摂取前と比較し有意な改善、プラセボ群と比較し3-4週目と7-8週目で有意(p<0.05)の群間差を認めた。回収した便の状態を示すPHではプラセボ群で有意(p<0.05)の悪化を確認し、アンモニア量では試験群の状態が良くプラセボ群と比較し有意なの群間差(p<0.05)を認めた。