著者
許衛 東 白坂 蕃 市川 健夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.104-115, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

雲南省,西双版納倦族自治州は,中華人民共和国の南西端に位置し,南はラオス,ビルマと国境を接している。西双版納は植物資源の宝庫といわれ,中国だけではなく,ひろく外国の研究者にも興味深い地域である。 西双版納は東南アジアのマレーシアやイソドネシアのような,典型的な熱帯多雨林地域と比べると,熱帯の限界的性格が強く,それ故に複雑な自然条件に対応した様々な農業や集落がみられる。 西双版納倦族自治州には,傑族をはじめ,基諾族など10を越す少数民族が独特の生活様式を持って生活している。本稿では,筆者の実地調査をもとに,西双版納における集落立地を含めた農業的土地利用と近年の変化を,民族別に考察した。 1980年代に入るとともに,西双版納では農業において生産責任制が採り入れられたこともあり,かつてない急速な農業変革が進められている。その中心は,西双版納の自然環境に基づいたゴム,茶そして熱帯果樹を中心とした換金性の高い近代的集約農業の拡大である。中でもゴム栽培は,多かれ少なかれ,ほとんどの民族に取り入れられ,その高距限界は海抜1,360メートルにもおよんでいる。この,いわゆる“近代化”農業への移行過程で,盆地においては水田耕作の比重が増し,山地においては焼き畑の比重が低下し,仏教文化を持たない少数民族ほど,伝統的農法や固有の農耕文化要素が衰退し,漢民族化・漢文化化が速いテンポで進んでいる。
著者
石井 英也 白坂 蕃
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.141-149, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
7 6

この報告の目的は,これまでの研究成果を踏まえ,とくに最近10年間ほどの業績に注目しながら,わが国における観光・レクリェーション地理学の特徴と課題を検討することにある。ここではまず,わが国における観光・レクリェーション活動の発達とその特徴を簡単に概観した後,それらに関する地理学的研究を空間構造論的研究,景観形成論的研究,その他(景観評価や観光資源の認知などに関する研究)に分類して,検討した. その結果,空間構造論的研究の範疇では,都市を中心とした観光空間の形成に関する研究のほか,観光地の専門分化に基づく複合観光地域形成論など,注目される主張がなされたりして,少しつつ研究成果が蓄積されてきた。しかし,観光空間を把握するには,とくにわが国では重要な,都市内やその周辺地域の観光・レクリェーションに関する研究の進展が不可欠である。また,景観形成論的研究は,空間構造論的研究に比べると研究蓄積がはるかに豊富である。しかし,それらの多くは温泉集落と民宿集落に研究対象が限られており,その観点も経済地理学的考え方への傾斜が目立ち,社会地理や文化地理学的観点,あるいは環境問題の視点がもっと導入されるべきである。その他,景観評価や観光資源の認知に関しても研究の萌芽がみられるが,全体として見ると,わが国の観光・レクリェーション地理学研究の現状は,計量化や環境認知など,地理学で近年よく用いられている研究手法の導入が遅れている。また,欧米諸国に比べると,わが国における観光・レクリェーション地理学的研究は,地域計画などを志向した応用地理学的研究も少ない。現在の社会や経済の趨勢を考えると,わが国では観光・レクリェーション現象がますます重要になり,それに応じて地理学者の任務も重くなることが明らかである。
著者
李 民雄 小林 幸夫 熊本 高信 白井 孝三
出版者
The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.228-231, 1976-04-01 (Released:2009-11-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

アミノグアニジン臭化水素酸塩と臭化シアンとの反応によりアミノグアニジンは4位の窒素がニトリル化され, これが直ちに加水分解された1-グアニルセミカルバジド臭化水素酸塩 (1), ならびにニトリル基にさらにアミノグアニジン塩が付加した直鎖状N1, N2-ジグアニジノグアニジン三臭化水素酸塩 (2) のいずれも新規化合物を得た。 (1) はmp186℃ (分解) の白色鱗片状結晶で, 非極性溶媒には不溶, 水, エタノール, ジメチルホルムアミド, ジメチルスルホキシドなどに可溶である。 (2) はmp238℃ (分解) の白色結晶で, その溶解性は (1) とほぼ同様であるが, エタノールには難溶である。(1) および (2) を酢酸ナトリウム存在下に無水酢酸でアセチル化すると閉環し, それぞれトリアゾール環を有する3-アセトアミド-5-メチル-1, 2, 4-トリアゾール, ならびに3, 5-ジアセトアミド-1, 2, 4-トリアゾールを生成する。なお, (2) を塩基性水溶液中で煮沸すると脱アンモニア閉環して3-アミノ-5-グアニルヒドラジノ-1, 2, 4-トリアゾール (3) を73.3%の好収率で得た。以上の結果からアミノグアニジン塩と臭化シアンとの反応では予想した3, 5-ジアミノ-1, 2, 4-トリアゾール (別名グアナゾール) は得られず, 直鎖状化合物を生成することがわかった。
著者
白柳 洋俊 倉内 慎也 坪田 隆宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.I_191-I_197, 2020 (Released:2020-04-08)
参考文献数
17

本研究は,街並の視覚性ワーキングメモリが注意捕捉を促進するとの仮説を措定し,室内実験により同仮説を検証した.和風型街並を回遊する際,一定時間歩行すると同街並を構成する和風建築要素に対して注意捕捉が促進されることがある.注意捕捉は視覚性ワーキングメモリに保持された視覚的な記憶と類似した要素に対して促進される.そこで本研究は和風型街並を対象に,事前に保持した和風型街並の視覚性ワーキングメモリが駆動することで,事後の和風型街並の和風建築要素に対して注意捕捉の促進が生じるとの仮説を措定し,同仮説を視覚探索課題により検討した.実験の結果,和風型街並を事前に認知することで,事後の和風建築要素に対する注意捕捉が促進すること,すなわち仮説を支持する結果が得られた.
著者
切目 栄司 白川 治
出版者
先端医学社
雑誌
分子精神医学 (ISSN:13459082)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.306-310, 2009-10
著者
宮川 俊夫 白井 靖男 津田 元久 一色 真幸 西村 英之 遠藤 正治 長嶋 正春
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.205-213, 1993-06-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
14

This paper is the first one of scientific reports on Tsui-shu (wooden, urushi lacquered and engraved) cameras. These were made and used in the last days of the Tokugawa shogunate. It was considered that three sets of this kind of cameras were in existence. But today, we can see only two. The authors show X-ray computed tomograms of the camera kept in Fukui Municipal Museum of History. Coating layer on the outer surface of the wooden camera body was estimated at 6 mm thickness in maximum. Hg and Fe were detected by means of fluorescent X-ray spectroscopic analysis, as metal element components contained in the layer. It was observed that the painted crust composed of a thin coated reddish pigment-urushi lacquer layer on a heavy coated and reliefed clay-urushi layer, by means of soft X-ray photography and low magnification micrography. Computed tomograms also showed that the optical system of this camera was composed of only two pieces of single lenses and had about 17 cm of focal length. The F-number was estimated at about 7. The first lens was almost a flat plate and the second was in plano-convex type. UV-visible spectrogram showed that the former was made of glass, not quartz. It was considered that the Tsui-shu Camera was made in Japan, not in China, because of following reasons: 1) an imitative “tsui-shu” and Japanese style wooden craft, 2) the optical system, and its cloisonne wared lens cap and the outer cylider were prepared in Owari area of this country.
著者
田澤 和子 白川 真一 長尾 智晴
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.800-809, 2008-10-15
参考文献数
24

従来の神経回路網では,与えられた問題に応じて階層型や相互結合型などの基本構造を選択し,対応する学習方法を用いて結合荷重やしきい値を調整するのが一般的である.しかし,あらかじめ選択した構造で,与えられた問題を必ず解けるとは限らない.そこで,遺伝的アルゴリズム(GA)を用いて,任意性が高く未知の問題に柔軟に対応できる神経回路網の獲得を可能とするFlexibly Connected Neural Network(FCN)が提案されている.FCNはエイリアス問題を含むエージェントの行動制御などで有効性を示している.しかし,従来のFCNでは中間ユニットの個数は経験的に決定していた.あらかじめ与えた中間ユニットの個数が適切な場合は問題を解くことができるが,中間ユニット数が足りなければ問題の解は得られず,多過ぎると冗長な部分が増え最適化が困難になるという問題点があった.本論文では,FCNに進化過程で中間ユニット数を増減させる拡張を導入する.本手法は,中間ユニット数を進化によって自動的に決定するため,中間ユニットの個数に対する試行錯誤を必要としない.このユニット数自動決定型FCNを,静的環境での未学習マップにおけるエージェントの行動制御を扱うタルタロス問題に適用し,有効性を示すとともに,獲得した構造による行動規則の解析結果について述べる.
著者
白石 公
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
日本小児循環器学会雑誌 (ISSN:09111794)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.88-98, 2018-09-01 (Released:2018-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
2

先天性心疾患は,胎生期における心臓形態形成の過程が,胎児の遺伝子異常もしくは母体の環境要因により発症する多因子遺伝疾患と考えられている.心臓発生学を理解することは,先天性心疾患の形態診断,心疾患の病態把握,合併病変の予測,内科的治療方針の決定,外科手術手技の決定,長期予後の予測において大変重要である.本稿では,先天性心疾患の発症のメカニズムを理解するための胎生期の心臓形態形成のアウトラインについて解説する.近年目覚ましく進歩した,分子細胞生物学的手法および遺伝子改変マウスを用いた発生工学による先天性心疾患の発症メカニズムの知見は成書に譲ることとし,臨床医にとって基礎となる古典的な心臓形態形成の流れを中心に,図示してわかりやすく示す.
著者
白石 隆
出版者
JAPAN ASSOCIATION OF INTERNATIONAL RELATIONS
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.84, pp.27-43,L7, 1987-02-20 (Released:2010-09-01)
参考文献数
16

In the age of the United Nations, the state derives the meaning of its existence from the imagined nation, from the fiction that the executives of the modern state are a committee for managing the common affairs of the whole nation. From this, constitutional democratic thinking draws one conclusion: the key to legitimacy is the mandate of the nation/people, represented through fair and free elections; governmental performance in managing the common affairs of the nation is important, but it is translated into legitimavy only through elections. “Authoritarianism and development” thinking draws another: the legitimacy of a regime and hence regime stability ultimately depend on governmental performance in carrying out the common affairs of the nation, that is, national independence, unity, order and welfare. It is not the mandate of the nation/people represented through elections, but governmental performance itself that is the key to legitimacy. The ruling elite are those who know what the national goals are. The Important thing is to do the job. Legitimacy will come if the job is done well.Thailand, Indonesia and the Philippines adopted this “authoritarianism and development” strategy for nation-building in the 1960s and 1970s with different results. Thailand and Indonesia have been successful in the task of state-building and are now trying to cope with the task of expanding political participation in different ways. In Thailand the bureaucratic polity has become a thing of the past and the search for a new form of “power-sharing” is now under way. In Indonesia, in contrast, the bureaucratic polity has been consolidated and the integratin of social forces in the regime is being attempted through functional representation. Only in the Philippines Marcos' “revolution from the center” and “democratic revolution” proved to be a dismal failure. But the argument Marcos made proved to be valid. It was indeed a “reoriented political authority” that initiated the “democratic revolution.”
著者
服部 尚子 朝比奈 昭彦 渡辺 孝宏 白井 明 鑑 慎司 渡辺 玲 岸 晶子 大原 國章
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.270-279, 2007-01-15 (Released:2008-01-15)
参考文献数
26

可変式ロングパルスダイレーザー(Vビーム®,595nm-long pulsed dye laser with adjustable pulse duration (ALPDL))は波長595nm,最大出力40 J/cm2のパルスダイレーザーであるが,パルス幅が可変(0.45ms~40ms)で,ダイナミック・クーリング・デバイス®とよばれるテトラフルオロエタンガス(-26.1℃)による皮膚冷却装置を付属していると言う特徴を有する.従来型の機種より波長の長いことから,より深くまでレーザー光が到達し,長いパルス幅,大きい出力により,より少ない副作用で,より大きな血管をターゲットとできる.ALPDLは5種類の円形のハンドピースと3x10mmの矩形のハンドピースを装着することができる.色素斑用ハンドピースは,患部の血管を障害することなく,老人性色素斑等の色素性病変を治療可能としている.ALPDLは,単純性血管腫,苺状血管腫,毛細血管拡張症,老人性色素斑,ウイルス性疣贅, 瘡,肥厚性瘢痕/ケロイド,乾癬,光老化等,様々な病変の治療に利用され,有効であるとの報告が示されている.ALPDLのこれらの疾患への治療可能性について報告する.
著者
中村 高康 吉川 徹 三輪 哲 渡邊 勉 数土 直紀 小林 大祐 白波瀬 佐和子 有田 伸 平沢 和司 荒牧 草平 中澤 渉 吉田 崇 古田 和久 藤原 翔 多喜 弘文 日下田 岳史 須藤 康介 小川 和孝 野田 鈴子 元濱 奈穂子 胡中 孟徳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、社会階層の調査研究の視点と学校調査の研究の視点を融合し、従来の社会階層調査では検討できなかった教育・学校変数をふんだんに取り込んだ「教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM2013)を実施した。60.3%という高い回収率が得られたことにより良質の教育・社会階層データを得ることができた。これにより、これまで学校調査で部分的にしか確認されなかった教育体験の社会階層に対する効果や、社会階層が教育体験に及ぼす影響について、全国レベルのデータで検証を行なうことができた。
著者
白岩 健
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.29-33, 2017 (Released:2017-06-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1

多くの先進諸国では医療技術の発展等にともなう医療費増加が社会的課題となっている.そのような状況の中で,限られた医療資源をより効率的に配分するため,費用効果分析が意思決定にも活用されるようになってきた.多くの国ではこのような医療経済性も含んだ医療技術評価(HTA)を専門的に実施する研究機関が存在する.特に費用効果分析を医薬品や医療機器に関する意思決定に活用している国々では,このようなHTA機関が意思決定に関与しており,日本でも体制の整備が必要である.医療経済評価で使用するデータは主に(i) 臨床的な有効性・安全性,長期的な予後・病態の推移,(ii)QOL値,(iii) 費用の3 種類がある.QOL値や費用データについては,医療経済評価を実施する目的のために必要なものであり,また,QOL値や費用データは可能ならば国内データを用いることが望ましく,特に費用は海外データの外挿が困難である.よって,医療経済評価を意思決定に活用できるよう実装するためには,これらのデータを利用できるような研究の蓄積やデータベースの構築などが重要である.