著者
児玉 秀治 佐貫 直子 酒井 美紀子 山川 智一 宮本 翔子 藤井 稚奈 秦 いづみ 北山 智美 今出 雅博 吉田 正道
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.111-116, 2023 (Released:2023-04-19)
参考文献数
9

症例は73歳女性.肺扁平上皮がん(cT3N3M0-Stage IIIC)に対し当科治療中.2022年6月より肺がん進行に伴い後腹膜リンパ節転移による腰背部痛が増強した.疼痛以外に両下肢浮腫による体動困難もあり7月8日に緊急入院し,後腹膜リンパ節転移に対して放射線治療(30 Gy/10 fr)を行った.タペンタドール200 mg/日で疼痛管理を行っていたが入院中にフェンタニル貼付剤1200 µg/日へ変更し腰背部痛は軽減した.また浮腫の原因疾患を鑑別し,理学所見・検査所見や病歴から,後腹膜リンパ節転移に関連したリンパ浮腫と診断した.入院31日目に浮腫は改善し,ベッド周囲のADLが向上し一時退院可能となった.リンパ節転移に関連したリンパ浮腫の治療方法は確立されておらず,放射線治療の有効性が報告されている.リンパ浮腫の診断に至るまでに他の病態を鑑別し,放射線治療によりリンパ浮腫が改善した1例を報告する.
著者
酒井 幹夫 山田 祥徳 茂渡 悠介
出版者
The Society of Powder Technology, Japan
雑誌
粉体工学会誌 (ISSN:03866157)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.522-530, 2010-08-10 (Released:2010-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
5 5

The Discrete Element Method (DEM) is widely used in computational granular dynamics. The DEM is a Lagrangian approach where individual particle is calculated based on the Newton's second law of motion. Hence, the DEM enables us to investigate the granular flow characteristics at the particle level. On the other hand, the DEM has a difficulty to be used in large-scale powder systems because the calculation cost becomes too expensive when the number of particles is huge. Consequently, we have developed a coarse grain modeling as a large scale model of the DEM. The coarse grain particle represents a group of original particles. The coarse grain model was applied in typical gas-solid and solid-liquid two phase flows. The cohesive force like the van der Waals force was not considered in these simulations. In the present study, the coarse grain model is evolved to simulate the cohesive particles by considering the interparticle van der Waals force. The adequacy of the coarse grain model is proved by comparing the simulation results of original particle system. It is shown that the coarse grain model considering the interparticle force can simulate the original particle behavior precisely.
著者
酒井 雄大 井森 恵太郎 松本 直樹 松村 恵理子 千田 二郎
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.1103-1107, 2018 (Released:2018-11-26)
参考文献数
6

筒内直接噴射式ガソリンエンジンはポート噴射式と比較し高効率・低エミッションである一方,非常に緻密な混合気分布の制御が求められる.本研究においては,燃料を加熱する手法による混合気分布の制御を目的とする.本報においては,急速圧縮膨張機関を用いて加熱噴霧が燃焼特性に及ぼす影響を把握する.
著者
福家 真也 渡辺 勝子 酒井 久視 鴻巣 章二
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.67-70, 1989-01-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
28
被引用文献数
21 20

かつお節のもつ特有の味の構成成分を解明する目的で,まずエキス成分の詳細な分析を行い,次の結果を得た. (1) 遊離アミノ酸としては,ヒスチジン(かつお節100g中1992mg,以下同様)が多量検出されたが,他のアミノ酸はいずれも50mg以下であった.イミダゾールジペプチドのアンセリン(1250mg)が著量含まれ,カルノシン(107mg)も比較的多量検出された.(ヒスチジンとアンセリンはそれぞれエキス窒素の26%および14%を占めていた.)加水分解により,ほとんどすべてのアミノ酸が著しく増加し,結合アミノ酸の合計量は2657mgに達した.核酸関連物質ではIMP (474mg)およびイノシン(186mg)が主要な成分であった.その他の窒素化合物としてはクレアチニン(1150mg)およびクレアチン(540mg)が著量存在したが,クレアチニンはかつお節製造中にクレアチンから生成したものと推定された.測定された窒素成分の窒素量(2140mg)のエキス窒素(2177mg)に対する回収率は98.3%に達し,エキス中の主要窒素成分の分布はほぼ完全に解明できたものと考えられる. (2) 無窒素成分のうち有機酸としては,多量の乳酸(3415mg)が検出され,その他にコハク酸(96mg),酢酸(52mg)など4種類が認められた.糖としては6成分が検出されたが,いずれも少量であった.無機イオンでは, Cl- (1600mg), K+ (688mg), PO4 3- (545mg)およびNa+ (434mg)が主な成分であった.
著者
鈴木 静男 田中 康平 大沼 巧 玉置 慎吾 大庭 勝久 酒井 基至 竹口 昌之 白井 秀範 芳野 恭士
出版者
公益社団法人 日本工学教育協会
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.4_80-4_85, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
11

In the experiments performed in the advanced course of the National Institute of Technology, Numazu College, data science education was conducted remotely by using asynchronous and synchronous interactive methods. The Tellus platform with satellite and terrestrial data was used to analyze data in a cloud environment. We adopted the development of data engineering, data analysis, and value creation skills as basic educational guidelines. From the answers to the questionnaire, we conclude that 1) the asynchronous interactive method made us aware of many benefits, 2) the synchronous interactive methods gave us some issues to be solved, and 3) the three guidelines were successfully achieved.
著者
酒井 映子 末田 香里 内島 幸江 サカイ エイコ スエダ カオリ ウチジマ ユキエ Eiko SAKAI Kaori SUEDA Yukie UCHIJIMA
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 = Journal of Nagoya Women's University. Home economics・natural science
巻号頁・発行日
vol.40, pp.145-153, 1994-03-05

"中国貴州省吾南部の苗族と布依族の食文化の特徴の一端を栄養的側面から明らかにすることを目的として,日常の食事状況について調査研究を行った.中国における栽培作物の事情は,1980年の「包産到戸」,すなわち農家の個人販売許可によって,食料作物から経済作物へと変化している.このような状況の中で,少数民族である苗族や布依族においても食料事情には変化が生じているものと考えられる.そこで,主として日常の食物摂取状況から両民族間の比較検討を行い,さらに,現状の栄養的問題についても若干の検討を行ったので報告する."
著者
諏訪 僚太 中村 崇 井口 亮 中村 雅子 守田 昌哉 加藤 亜記 藤田 和彦 井上 麻タ理 酒井 一彦 鈴木 淳 小池 勲夫 白山 義久 野尻 幸宏
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-40, 2010-01-05 (Released:2022-03-31)
参考文献数
103

産業革命以降の二酸化炭素(CO2)排出量の増加は,地球規模での様々な気候変動を引き起こし,夏季の異常高海水温は,サンゴ白化現象を引き起こすことでサンゴ礁生態系に悪影響を及ぼしたことが知られている。加えて,増加した大気中CO2が海水に溶け込み,酸として働くことで生じる海洋酸性化もまた,サンゴ礁生態系にとって大きな脅威であることが認識されつつある。本総説では,海洋酸性化が起こる仕組みと共に,海洋酸性化がサンゴ礁域の石灰化生物に与える影響についてのこれまでの知見を概説する。特に,サンゴ礁の主要な石灰化生物である造礁サンゴや紅藻サンゴモ,有孔虫に関しては,その石灰化機構を解説すると共に,海洋酸性化が及ぼす影響について調べた様々な研究例を取り上げる。また,これまでの研究から見えてきた海洋酸性化の生物への影響評価実験を行う上で注意すべき事項,そして今後必要となる研究の方向性についても述べたい。
著者
内野 博司 本多 勇介 中島 健太 佐々木 功二 小林 明 田中 江里 久米 信夫 酒井 崇 嶋崎 豊 石川 巌 岡野 信雄 京極 英雄 船越 昭治 北田 嘉一 淵之上 康元 田中 萬吉
出版者
日本茶業学会
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.107, pp.107_19-107_30, 2009-06-30 (Released:2011-12-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

茶新品種‘ゆめわかば’が埼玉県農林総合研究センター茶業特産研究所で育成された。‘ゆめわかば’は1968年に‘やぶきた’ב埼玉9号’の交配により得られた個体群より選抜され,1994年から2003年に県単試験を含む栄養系適応性試験,裂傷型凍害抵抗性及びもち病抵抗性検定試験を実施し,更に2004年,2005年には香気の更なる発揚を目的に試験を行った。この結果,優秀と認められ,2006年10月17日に茶農林53号‘ゆめわかば’として命名登録,2008年10月16日に品種登録された。‘ゆめわかば’は摘採期が‘やぶきた’より1日から2日遅い中生品種である。生育,収量とも‘やぶきた’並である。耐寒性は赤枯れ抵抗性が「強」,青枯れ抵抗性が「やや強」,裂傷型凍害抵抗性が「強」でいずれも‘やぶきた’より強い。また,病虫害抵抗性は,炭疽病に「やや強」である。製茶品質は外観が優れ,内質も‘やぶきた’並に優れる。また,摘採葉を重量減15%から20%に軽く萎凋させることによって,香気及び滋味が向上する。耐寒性が強いために,関東やそれに類似した冷涼な茶産地に適する。
著者
酒井 恵子 久野 雅樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.388-395, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13
被引用文献数
6 4

The purpose of this study is to constract a scale to measure value-intending mental acts, characterized by six types of values (theoretical, economic, aesthetic, religious, social, political) originally proposed by Spranger (1921). A typical test based on Spranger's classification of values, i. e.,“Study of Values” (Allport et al., 1951), relates only the socio-cultural objects to which individuals feel the value, without treating the way in which individuals feel the value. Our scale is made to measure the latter subjective experience (“mental act”) itself. Basing upon personal interviews and preliminary survey, 54 items (6 mental acts X 9 items) are selected and administered to 493 college students (292 male and 201 female). With factor analysis, six subscales are extracted from those items to construct a Value-Intending Mental Act Scale. Relations of this scale, focused on subjective mental process of valuation, with preference between school subjects and vocational interest, are regarded as objective manifestations of the subjective processes making the object of a discussion.
著者
酒井 麻衣 鈴木 美和 小木 万布 柏木 信幸 古田 圭介 塩湯 一希 桐畑 哲雄 漁野 真弘 日登 弘 勝俣 浩 荒井 一利
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ハクジラ亜目のホルモンレベル・行動とストレス・心理的幸福との関係を明らかにするため、行動観察および垢と血中のホルモン濃度測定を行った。対象動物は期間中大きな疾病はなく、得られた行動頻度・ホルモンレベルの時、おおむね健康な状態と言えた。顔を壁にこすりつける行動が比較的多かった期間に、血中および垢中コルチゾール濃度が高く、この行動がストレスの現れであることが示唆された。静止時間が多いときほど血中βエンドルフィン濃度が低く、運動量と関係があることが示唆された。また、中層での静止時間が長いほど、血中コルチゾール濃度が高いことがわかり、長時間静止する行動がストレスの現れである可能性が考えられた。
著者
三宅 紀子 酒井 清子 曽根 保子 伊坂 亜友美 鈴木 恵美子 倉田 忠男
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成25年度(一社)日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.75, 2013 (Released:2013-08-23)

【目的】アスコルビン酸(ASA)は調理過程において容易に酸化、加水分解されてジケトグロン酸(DKG)になる。ASA酸化生成物は反応性が高いジカルボニル構造を有することから、タンパク質とのメイラード反応が懸念される。近年このメイラード反応が生体内においても進行し、様々な疾病に関わることが報告され、飲食物由来のメイラード反応生成物の健康への影響についても関心が向けられるようになった。本研究ではASA酸化生成物と食品タンパク質との反応生成物の生体への影響について検討を行った。【方法】食品の加熱調理のモデル系として、ASA、DKG(50mM)とカゼイン(10mg/ml)との反応をリン酸緩衝液(0.1M、pH6)中、70℃で一定時間行い、ジカルボニル化合物の生成をHPLC法により定量した。また、反応生成物の高分子画分を用いて、ヒト腸管上皮モデル細胞Caco-2について増殖への影響をMTT法により、AGEレセプター(RAGE)のmRNA発現をリアルタイムRT-PCR法により調べた。【結果】DKGとカゼインとの加熱反応の過程において、数種のジカルボニル化合物の生成が確認され、その中でグリオキサール(GO)量は反応初期において高く、反応時間15分以降GO量が著しく減少した。DKGとカゼインとのメイラード反応生成物(DKG-Casein)の培養細胞への影響を調べたところ、GOおよびMGの場合よりも低濃度での細胞増殖抑制が示された。さらにCaco-2のRAGEのmRNA発現は、DKG-Casein処理により、カゼイン処理の約1.4倍に有意に上昇した。よって、食品中のASA由来メイラード反応生成物が生体に影響を与える可能性が示唆された。
著者
上野 明 松崎 悦子 百木 克夫 斉藤 伍作 酒井 純雄
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
真菌と真菌症 (ISSN:05830516)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.109-114, 1965-06-20 (Released:2009-12-18)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

11-jodo-10-undecynoic acid (K-4172) was synthesised in our laboratory from 10-undecynoic acid reacting with iodine in presence of alkaline hydroxide. Fungistatic and bacteriostatic activities of K-4172 were examined. It showed significant antifungal activities, especially against Trichophytons and Crytococcus neoformans, but it had weak antibacterial activities.In in vivo test by experimental trichophytosis on guineapigs, it showed also significant therapeutic activities at the concentration of 0.5% in alcohol solution. It is very interest that in the in vivo test 0.5% tincture of K-4172 was more effective when it was applied in combination with 10% of 2, 4, 6-tribromophenyl caproate.Interperitoneal and oral LD50 of K-4172 dissolved in olive oil were 132 and 225mg/Kg respectively and intraperitoneal LD50 of its sodium salt was 134mg/Kg. Chronic toxicity test of K-4172 on mice and rat showed both almost no side effect when it was admidistrated intraperitoneally and orally. The authers persume from these data that K-4172 is safely available for treatment of human trichophytosis.
著者
酒井 利信
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.17-18, 1988-11-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
3
著者
酒井 昇
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.251-257, 2018 (Released:2018-10-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1
著者
石渡 奈緒美 堤 一磨 福岡 美香 渡部 賢一 田口 靖希 工藤 和幸 渡辺 至 酒井 昇
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.265-274, 2012 (Released:2014-01-31)
参考文献数
19
被引用文献数
3

IHクッキングヒーターを加熱源とし,フライパンでハンバーグを片面ずつ焼成する時の温度と水分移動を予測できる数学モデルを構築するため,モデル試料(シリコン,ボロニアソーセージ)を用いた解析を行った。蓋をしたフライパン内全体を調理空間とみなした伝熱モデルは,IH発熱層,フライパン伝熱層,フライパンと試料との接触層および試料から構成される伝導伝熱領域と,フライパン内の空気との熱伝達からなる。試料表面と空気との熱伝達とともに,フライパンから空気への放熱が,試料の温度上昇に影響をおよぼすことから,試料のないフライパン面と空気との熱伝達も考慮した。水分移動の計算では,試料表面とともに,試料内部も水分蒸発の計算領域とした。本モデルの妥当性を検証するため,調理中に形状が一定とみなせるボロニアソーセージを用い,中心温度50℃で一度反転させた際の温度と含水率変化を算出した。その結果,解析値は実験値と同様な傾向を再現可能であった。
著者
酒井 雄希
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.101-105, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
17

小さな即時報酬と大きな遅延報酬の選択(異時点間の選択問題)において,前者を過度に頻繁に選ぶ「衝動的選択」は衝動性をとらえる指標の1つとされ,前頭葉や線条体といった脳領域の障害やセロトニン機能低下で引き起こされることが知られている。近年,計算モデルを用いた機能的MRI解析によって,線条体・島皮質において,腹側が衝動的な短期報酬予測に関与し背側が長期報酬予測に関与すること,セロトニン濃度が低いときは短期報酬予測に関連した腹側の活動が優位となることが明らかとなり,衝動的選択の神経基盤として注目されてきた。 一方で,様々な精神疾患において前頭葉─線条体回路の障害・セロトニン機能障害の関与を示唆する知見が集積してきているが,その包括的理解は進んでいない。本稿ではセロトニン機能障害を背景とした前頭葉─線条体回路の機能変化と衝動的行動選択といった観点から,様々な精神疾患の理解が深まる可能性を示す。
著者
酒井 潔 Kiyoshi Sakai
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.8, pp.7-20, 2010-03-28

"ライプニッツのcaritas 概念は、一方で伝統的なキリスト教の立場に、他方で十七世紀の啓蒙主義の時代思潮にそれぞれ連続する面を有する。「正義とは賢者の慈愛である」(Justitia est caritassapientis)、そして「慈愛とは普遍的善意(benevolentia universalis)である」というライプニッツの定義には、キリスト教的な「善き意志」のモチーフとともに、(プラトニズム起源のものだけではない)近代の合理主義的性格が見出される。ライプニッツは彼の政治学、ないし政治哲学の中心にこのcaritas 概念をすえている。それは彼の「社会」(societas)概念とも密接にリンクしつつ、今日の社会福祉論への射程を示唆する。ライプニッツの「慈愛」、「幸福」、「福祉」(Wohlfahrt)という一連の概念のもつ広がりは、アカデミー版第四系列第一巻に収載されている、マインツ期の覚書や計画書に記載された具体的な福祉政策(貧困対策、孤児・浮浪者救済、授産施設、福利厚生など)に見ることができる。しかしcaritas 概念の内包を改めて検討するならば、caritas 概念の普遍性と必然性は、その最も根底においては、ライプニッツの「個体的実体(モナド)」の形而上学に基礎づけられている、ということが明らかになるであろう。