著者
高原 弘樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

つり下げた容器で液体を搬送する場合の安全性や効率を向上させるためには,容器の運動と内部液体の振動の基本的な特性を明らかにする必要がある.そこで本研究課題では,水平励振を受ける振り子型直方体容器とその内部液体の非線形連成振動特性に着目した.振り子型直方体容器の液面揺動が,二次元的な揺動から三次元的な揺動に遷移する条件を解析で予測し,実験により確認した.さらに,条件により概周期振動が生じることが実験によりわかり,解析からも確認した.
著者
千野 拓政
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

2010年度は特別研究期間に当たり、一年間上海に在住した。その環境を利用して、資料の収集を進めるとともに、研究計画に沿って、上海、北京、台北、香港、シンガポールで、大学生を対象に、村上春樹の受容、マンガ・アニメ、ライトノベルの受容、同人活動(二次創作、コスプレなど)への参加などに関するアンケート調査を実施し、あわせて、ライトノベル作家、漫画家、同人の書き手、同人活動の企画者・参加者などにインタビューを行った。調査期間は、上海(6月~2月)、北京(11月~2月)、台北(1月~2月)、香港(1月~2月)、シンガポール(1月~2月)。それら調査の結果をまとめ、この時点までの分析の結果を発表することを目的に、3月15日、16日の二日間にわたり、早稲田大学で国際シンポジウムを開催した。千野の基調報告、各都市の調査結果報告、各領域の専門家による報告、および討論がその内容である。発表者として、作家で『萌芽』雑誌編集長の趙長天氏、作家の落落さん、復旦大学教授顧錚氏、写真家の曽翰、楊長虹氏、華東師範大学教授の雷啓立氏、上海comicup主催者の馮凝華さん、各都市の調査報告者として、姚瑶さん(復旦大学大学院)、趙楠さん(北京大学)、陳柏青君(台湾大学大学院)、黄微子(香港嶺南大学)、陳宇〓(シンガポール聯合早報)を招聘した。しかし、東日本大震災の影響などで、雷啓立、落落、趙楠、陳柏青、陳宇〓の各氏以外は来日がかなわず、一日に短縮してシンポジウムを終了した。同シンポジウムは、繰り越して2011年度に再度開催することとした。(新たな内容を加え、2012年3月23日24日に開催した。)成果の公表としては、雑誌・新聞に論考を発表したほか、学会発表とともに、中国社会科学院、復旦大学、南京大学、華東師範大学その他で、研究テーマに関わる招待講演を計12回行った。また、新聞《中国経営報》《姑芳晩報》、雑誌《品味・経典》《上海壹周/小文学》《鳳凰周刊》にインタビューが掲載された。
著者
西口 清勝 仲上 健一 松野 周治 長須 政司 小山 昌久 守 政毅 西澤 信善 渡辺 周央 ンガウ ペンホイ
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ASEAN(Association of South-East Asian Nations、東南アジア諸国連合)が現在目指している最重要かつ喫緊の課題は2015年までにASEAN共同体(AC)と構築すること、とりわけその土台となるASEAN経済共同体(AEC)を構築することにある。しかし、そのためにはASEANの先発6カ国と後発4カ国-メコン地域に位置するCLMV4カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマーおよびヴェトナム)-との経済格差、いわゆる"ASEAN Divide"、を克服しなければならない。本研究ではメコン開発計画(GMS)と日本のODAがCLMV諸国の経済開発に大きな役割を果たしており、なかでもメコン諸国間の連結性を3つの経済回廊の建設という形で推進したことを明らかにした。
著者
久米 順子
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

夏季にスペイン・イタリアへの出張を行った。スペインではマドリード国立図書館やスペイン高等学術研究院人文社会科学研究センターなどで、イスラーム支配下の社会で生きたキリスト教徒であるモサラベに関して文献を収集した。イタリアではフィレンツェおよびローマの国立図書館などで、ロマネスク導入期のイベリア半島におけるローマ教皇庁の存在とその影響力に関する資料調査を行った。投稿を予定していたレオン・カスティーリャ王アルフォンソ6世没後900年記念の国際会議には、日程の面で都合がつかず、参加することができなかった。しかしそのためにまとめていた成果は、日本の雑誌論文として出版された。アルフォンソ6世の姉ウラーカによる美術のパトロネージ活動を取り上げ、宮廷と修道院の狭間で生きたこの王女が、西ゴート王国に連なるレオン王国の伝統の存続に力を尽くす一方で、イスラーム、北方のバイキング、フランスの諸侯や神聖ローマ帝国など半島内外の多様な異文化との接触体験を持ち、外来様式であるロマネスク美術の導入にも積極的に関わっていたことを示した。他には、昨年行った国際シンポジウムでの発表のうち1件が刊行された(残り2件については印刷中)。また、ロマネスク美術への移行期におけるマージナルな挿絵の特質を論じた欧文論文が1本、マドリードで刊行された研究論文集に掲載された。これらの成果によって、スペイン・ロマネスク美術の生成における異文化受容の田一端を明らかにすることができた。
著者
岩坂 泰信 飯田 孝夫 NELLBER R. 藤原 玄夫 SHOW G. 李 敏熈 金 潤信 よん 知本 石 広玉 長田 和雄 林 政彦 松永 捷司 柴田 隆 GONG Shiben 李 敏煕 こん 知本
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

粒子状の硫黄酸化物あるいは窒素酸化物のグローバルな循環は地球環境の変動過程とさまざまなつながりをもっている。火山性の硫酸エアロゾルの極地域への拡散が極成層圏のオゾン消失にあたえる影響などはその代表的なものでる。中緯度地域に発生の起源を持つ物質が北極圏へ輸送される過程、およびそれが全球規模の物質循環にしめる役割を明らかにすることを主たる目的とし、本年度は以下のような観測研究を行なった。中国、韓国、日本、およびアラスカ(アメリカ)で、黄砂(対流圏)や火山灰(成層圏)、あるいは硫黄酸化物や窒素酸化物からなるエアロゾルの高度分布やその時間変化を図ること目的として;アラスカでは成層圏エアロゾルの濃度変動を知るためのライダー観測をフェアバンクス郊外で平成6年から7年にかけての冬期および7年から平成8年にかけての冬期に行なった。これらの研究からは、アラスカ地域においてある期間は北極圏の典型的な様相を示すがある期間は名古屋地方とほとんど同様なエアロゾル分布をしめすなど、きわめて変化の幅が大きいことがわかった。また自由対流圏においては頻繁に中緯度地帯からエアロゾルをはじめとする大気物流が運ばれていることを示している。また一方では、極成層圏の物質が圏界面下から中緯度へ流失したことによると考えられる現象も見いだされている。同時に、この地域において多点試料採集を計画するための予備調査も実施した。生成7年度に行なった観測結果を、ノルウェーで実施されている成層圏観測の結果と比較した結果極渦周辺で極起源の成層圏物質の分布が著しく極渦の動きに左右されていることがわかった。この問題についてはすでに成果報告がなされつつある。中国では、平成6年度の夏期間に北京市郊外において大型気球による対流圏成層圏の観測をおこなった。これらの観測は、この地域において土壌起源物質の活発な自由対流圏への供給が示唆される結果が得られており、東アジアから西太平洋域における大きな大気化学物質の供給源であることを示唆している。またこのような大気の運動に連動して生じていると考えられる成層圏起源のエアロゾル粒子、オゾンなどが成層圏から自由対流圏に流入している現象も見いだされている。これの結果の詳細は現時点では取り纒め途中であり、成果報告されているものはそく法的なものにすぎないが、今後機会をみて合同の国際シンポジュウムをもち成果を世に問う計画である。中国の研究者とのあいだでは、今回使用した放球場所とは異なる場所での気球実験が検討中である。韓国では、多点観測のための予備調査を実施し、関係機関を訪問すると同時に共同の試料採集計画を検討した。韓国での多点観測ネットワークと日本における観測ネットワークを結んだ、大気成分の長距離輸送観測計画を実施することになった。観測結果は、年度末に互いに交換し相互比較することとしている。また、今後の観測の発展には韓半島でのライダー観測が必要との認識を共通にもつことができた。このことに備えて、観測に適する場所の予備調査を行ない漢陽大学キャンパス内に設置場所を第1の候補地とした。中国大陸から偏西風によって運ばれ、韓半島上空を通過して日本へ飛来する大気と直接日本上空へ達する空気塊を比較すると、韓半島を通過したものには韓半島上空で地上起源の汚染大気と混合し変質したと考えられるものが観測された。
著者
上 真一 小路 淳
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、ミズクラゲやエチゼンクラゲなどの有害クラゲを捕食する天敵クラゲを探索し、その捕食能力を利用した有害クラゲ種の発生制御の開発を目的としている。今年度は下記の研究成果を得た。(1)天敵クラゲ種の探索と捕食能力の測定水温25℃において、有櫛動物のウリクラゲ(湿重量:約20g)は体重約10gのカブトクラゲを1日に最大2個体捕食した。水温20℃において、刺胞動物のユウレイクラゲ(湿重量:約300g)は体重130gのミズクラゲを8時間で完全に捕食した。アカクラゲ(湿重量:約150g)は体重5gのエチゼンクラゲを2-3時間で完全に捕食した。オキクラゲは自らより大型のミズクラゲを捕食可能であった。また、アマクサクラゲもミズクラゲやエチゼンクラゲを捕食可能であった。以上のように、旗ロクラゲ目の中で比較的強い刺胞毒を有する種類は、他のクラゲ種を捕食し、天敵として機能することが明らかとなった。(2)安定同位体比に基づくクラゲ類の餌-捕食者関係瀬戸内海に出現するカブトクラゲ、ミズクラゲ、アカクラゲの安定同位体比から、それらの食性を推定した。安定同位体比はいずれもカイアシ類などの動物プランクトン食性を示し、本方法では天敵クラゲとなるクラゲ種を特定することはできなかった。(3)汽水湖におけるミズクラゲの餌生物と共食い可能性の調査富栄養汽水湖である中海本庄工区には膨大なミズクラゲ個体群が出現する。それらの消化管内容物を調査することにより、餌生物の特定と共食いの有無の調査を行った。ミズクラゲは湖内に出現するカイアシ類などの動物プランクトンをほぼ無選択に捕食しており、ミズクラゲを餌として捕食することはなかった。サイズの異なるミズクラゲ同士を水槽内に収容しても、共食いを行うことはなかった。
著者
繁野 麻衣子 山本 芳嗣 吉瀬 章子 八森 正泰 岩田 覚 後藤 順哉
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ネットワーク理論において横の広がりとなる基礎理論の構築と縦の広がりを作る実社会に適応したモデルの伸張を行い,基礎問題と拡張問題の両方に対して,アルゴリズム開発を行った.具体的には,修正可能性を考慮したネットワーク上の配置問題に対するアルゴリズム提案,通信ネットワークにおける耐故障性の指標開発,社会ネットワークにおけるコミュニティ抽出のハイパーグラフ上への拡張,グラフの向き付けに関する基本的性質やアルゴリズム開発などを行った.
著者
小野里 雅彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

災害に見舞われた被災地の情報疎外を防ぎ地域防災力を強化することを目的に,現代版の火の見櫓と成りうる係留型情報気球システムInfoBalloonの研究開発を行った.扁平球形とピボット係留により風に対して安定な係留法を可能とし,InfoBalloonに搭載された監視カメラによる鳥轍映像システムを開発し,周辺の被災状況確認機能を実現した.さらにInfoBalloonを被災地での利用を目的に運用シナリオと安全ガイドラインを提示した.
著者
前田 英三 三宅 博 石原 愛也 武岡 洋治 河野 恭廣 谷口 武 和田 富吉
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

イネについて、in vivoにおける受精胚の発達様式と、in vitroであるカルスの再分化過程を詳細に比較したが、in vitroでの不定胚形成は認められなかった。アブサイシン酸(ABA)や高濃度の糖はカルスの再分化を促進した。数種イネ科作物を異なった土壌水分条件下で生育させ、根の形態を比較した結果、乾燥条件下で皮層内厚壁組織の発達が顕著であった。+ABAやブラシノライドがイネ科作物やマメ科牧草の老化種子の発芽促進効果を持つことを明らかにした。熱量計を用いて種子の活性を迅速かつ非破壊的に判別する方法を開発した。高温・乾燥などの異常環境下で生育させたイネの生殖器官に現れる形態異常を明らかにし、ジベレリン(GA)とABAの関与を推察した。イネの花粉と葯内緒組織の発達過程を調べ、タペ-ト肥大が発生する際には、当初は小胞子の細胞も活性化することを明らかにした。リンゴの胚珠内胚培養、葯培養からの不定胚発生、葉カルスからの再分化について最適条件を明らかにした。またリンゴ台木マルバカイドウの胚珠内胚培養を行い、高蔗糖濃度の培地で胚の生長が起こり、GAを含む培地に移すことにより実生を得ることができた。イネカルスやダイズ懸濁培養からプロトプラストを分離し、電気的に融合させ、融合過程の微細構造を明らかにした。レ-ザ光による植物細胞への色素導入を行い、生細胞に色素が導入されていることを確認した。マツバボタンの緑色カルスにおける葉緑体のグラナ構造を観察し、カルス内に維管策鞘が分化するとそこではグラナ形成が抑制されることを明らかにした。シコクビエのジャイアントド-ムからの花芽形成に成功した。またジャイアントド-ムとバミュ-ダグラスの体細胞胚の微細構造を明らかにした。Nicotiana glutinosaのカルスより分化能を持つ細胞のみを分離して継代培養することに成功した。このカルス系統の組織構造と遊離アミノ酸含量の特徴を明らかにした。
著者
篁 宗一
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

早期介入を目的として、精神科看護師ら精神保健専門職と協働して小学生を対象としたメンタルヘルス教育を開発し、効果を測定した。小学6年生の115名を対象に調査した。過去一年間に悩みを抱えた者は52.8%と多かった。対象者を二群に分けて、教育プログラムの有無によって教育効果を測定した。介入群では知識尺度で介入後の得点の上昇が有意にみられた。ストレスコーピングの「サポート希求」の項目にも有意な変化がみられたことから、教育には対象者が悩みを抱えた際の相談につながる効果があることが示唆された。
著者
澁谷 渚
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

全7章から成る本研究はザンビアの生徒の基礎的能力と高次的能力の向上をめざした数学の授業開発をおこない、その過程を教師、生徒、教材の三者の相互作用に着目して描くことが目的であった。これは数学学習達成度が低いと言われていながら、学習の過程や認知的側面が明らかになっていない途上国の現状を課題意識としてとらえるところから端を発したものである。本研究において基礎的能力は正の整数の四則計算能力を指し、高次的能力はパターン性の発見、探究、口頭や記述で数学的な見方を話し合うこと、そして授業開発は授業改善サイクル「計画-実施-評価(反省、改善を含む)」とすることを先行研究のレビューやザンビアや他の途上国の現状に鑑み設定した。今年度はザンビアにおける調査データから授業における三者の相互作用を浮かび上がらせるために授業の内実を掘り下げる分析を行った。分析では定量的授業分析と、数学の学習指導において教師と生徒の発話が活性化した場面を抜き出す定性的授業分析から、生徒の学びとそれを取り巻く指導、教材との関連性を論じた(第5章、第6章)。そこでは、先進的な教材の特性を教師が生徒の学習に合わせる形で用い高次な数学的能力の萌芽がみられる成功的な互作用と、対照的に基本とされる1桁の計算に生徒がつまづき、教師が従来型のアルゴリズムを強調する授業を展開したことで、教師中心型の授業に陥る様相の二つを生徒の学習過程とともに掘り下げた。本研究の成果は二点に集約される。・途上国の数学授業の内実を描き、授業における二つの対照的な教師、生徒、教材の経時的な相互作用をモデルとして示したこと・基礎的能力と高次的能力の同時的達成を途上国の授業で具体化したこと本研究の重要性は、国際協力の研究が見落としてきた教科の特性に注目した授業の内実を描き出し、生徒の学習の可能性と課題を事例ベースで描き、教育の質に関して貢献した点にあろう。
著者
水野 恒史 片桐 秀明 深沢 秦司 釜江 常好
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

銀河宇宙線のエネルギー分布と空間分布を明らかにするべく,最新のフェルミ衛星を用いたガンマ線データの解析を2009年度から3年間に渡り精力的に進めた.その結果[ 1]太陽系近傍の宇宙線スペクトルが,地球上で測られた物に近いことを観測的に明らかにした一方で[ 2]太陽系付近の数100pc以内で宇宙線強度が20%程度ばらつくことと[ 3]銀河系の外側の領域で,宇宙線強度が従来の予想に反してあまり弱くならないことを見出した.これらの成果のうち,[ 1][ 3]は執筆責任者として論文を出版し,[ 2]も投稿済みである.関連する研究も加えると計17編の論文をフェルミチームメンバとして出版した.また多数の国内外の学会で継続的に成果発表を行った.
著者
藤澤 正視 稲村 哲也 渡部 森哉 福山 洋 菊池 健児 高橋 浩 五十嵐 浩也 山本 紀夫 川本 芳 大山 修一 大貫 良夫 阪根 博 ワルテル トソ セノン アギュラール カルロス サバラ 鶴見 英成 藤井 義晴 阿部 秋男
出版者
筑波技術大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

ラス・シクラス遺跡の発掘を実施し、同遺跡の中核的遺構の北マウンドの様態を解明した。マウンド上部の建築群は形成期早期(紀元前2900~1800年)の神殿建築であり、少なくとも8回の神殿更新が認められた。その過程で多量のシクラが使用されたのがこの遺跡の特徴である。シクラ構造を模擬した試験体で振動台実験を行った。その結果、一定の制振効果をもつことが確認される一方で、ある条件のもとでは、その効果がなくなるという特徴が示唆され、シクラを持つ神殿の地震動に対する挙動と被害軽減効果を確認した。
著者
佐藤 忠弘 新谷 昌人 今西 祐一 大橋 正健 福田 洋一 田村 良明
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は科研費の最後の年度であり、神岡超電導重力計(SG)の性能の向上、特に冷凍機関係の性能向上を図るため、筑波大学研究基盤総合センター低温部門の池田博講師に、また、従来も共同研究をしてきたJSPSの外国人特別研究員(水沢勤務)Severine Rosat博士の2名に研究協力者として参加してもらった。スマトラ・アンダマン地震(Mw=9.0-9.3)の信号は世界の多くのSGで明瞭に捉えられた。神岡、松代を含む世界13ケ所のSG記録を使い、地球自由振動_0S_0モード(地球の半径が変化するモード)の解析結果を出版した。従来の研究で、このモードの地球の扁平度、回転の影響(緯度依存性)は知られていたが、緯度のみのならず、経度方向にも変化すること、また、その変化が3D-地震波トモグラフィーを使ったモデル計算から予測される分布と矛盾がないものであることが分かった。これは、世界初である。神岡と松代の解析結果は観測誤差の範囲で一致しており、解析の信頼度を測る目安になった。本科研費で実施した一連の観測・研究の大きな成果と言える。観測された_0S_0の振幅変化幅は全地球で2%程度の小さなものである。しかし、本研究の結果も示すように、振幅変化は地球の横方向の構造変化に敏感で、地球内部構造の研究にとって重要と言える。SGは絶対重力計を使い0.1%以上の精度で検定されている。これが、このような微小な現象が議論できる基礎になっている。しかし、SG観測点の数は、国際観測網で使われている地震計の数に比べ圧倒的に少ない。一方、地震計の振幅精度は数%程度で、これを0.1%台に向上できれば、地球内部構造の研究に大いに寄与すると言える。地震計検定の精度向上を目指し、本研究のレーザ歪計グループが開発したレーザ地震計とSGとの比較観測を、本年度、神岡で開始した。重力観測への大気圧変動、海洋変動の影響についての研究でも、大きな進展がみられた。なお、絶対重力計FG5によるSGの検定を3回(江刺1回、神岡2回)実施した。
著者
HORTON William・B
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

第2次世界大戦の終戦日は、インドネシアにとって独立戦争という新たな戦いの始まりの日であり、インドネシアで半生を送った熊本県出身の復帰邦人アブドラ・ラフマン・イチキ(市来竜男)にとっては、祖国日本と決別し第2の祖国インドネシアの独立戦争に本格的に身を投じた時期でもあった。その後、市来は1949年1月9日オランダ軍の銃弾に倒れ、東部ジャワ島ダンピット村で42年の人生の幕を閉じた。当研究の目的は、民間人市来が、なぜ戦後の早い時期からオランダから追跡されなければならなかったのか、なぜインドネシア国軍との連携が図れたのかを解明することであった。調査は、市来および独立に関わった日本人に関する戦前から戦後に至るインドネシア及び和蘭の史・資料を収集し読み解くことが中心となり、オランダ国立公文書館三館所蔵の公文書収集調査、早稲田大学中央図書館で当時の文献資料収集調査を行った。公文書および当時の文献から、戦前インドネシアに渡った日本人市来が、「異国」で身につけたのは単にインドネシア語という言語だけではなく、人類学的な意味の「文化」をも身につけ、将に身も心も「インドネシア人」アブドラ・ラフマン・イチキとして独立を希求していたことが理解できた。その長けた言語能力を高く評価した日本軍は、インドネシア防衛義勇軍の教科書の翻訳および訓練に係わらせていくが、一方、市来は軍事訓練を通じインドネシアの独立達成への道を見出し、後日インドネシア国軍と変容していく防衛義勇軍と深くかかわったことが理解できた。民間人でありながら、その言語能力のため日本軍上層部とも深く係わり、そのため戦後戦犯裁判に向けオランダが、日本軍部を追及していく中、市来の情報も収集していったようだ。戦争に関する研究は、その時代に生きた人々をとかく単一的に扱われることが多いが、当研究を通じ、戦前からの邦人移民にとっては、単に国籍のある国が祖国というわけではなく、戦争を契機に身の振り方、ナショナル・アイデンティティーが高まることを詳らかにできたことに意義がある。戦争を通じての邦人移民の多様な身の処し方は、米国の日系邦人の研究では幾分明らかにされてはいるものの、アジアの邦人移民に関しては今後さらなる研究が期待され、そのことは、現在の政治化した言説にも見られる単純な2項率からなる戦争の歴史観を再構することに大いに貢献すると考えられる。
著者
平井 邦彦 後藤 哲男 森田 守 渡邉 誠介 澤田 雅浩
出版者
長岡造形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本年度はこれまで新潟県南魚沼郡で行ってきたさまざまな調査研究の集大成として、より広範な施設に関するバリアフリー状況調査を実施するとともに、その簡便な改善策の実証的研究を当該地域において実施した。具体的には、バリアフリー状況調査で抽出した観光・レジャー施設を複数抽出し、その施設のより詳細な調査を実施するとともに、簡便な設備で状況が改善可能な場合にはそのような対策を施した。また実際に障害者や高齢者が訪問した場合の障害に対してのシミュレーションを実施した上で、南魚沼郡全域にわたる一日観光ルートを設定し、そのルートを利用した実地調査を行った。調査に際しては、抽出した施設からの協力を受けるとともに、塩沢町社会福祉協議会の支援を受け、実際に車椅子を利用されている方をモニターとして4名の方にご参加いただき、利用時の問題点や対策の有効性についてユーザー側からの情報を提供してもらうことができた。ハートビル法が成立したものの、一定規模以下の施設ではバリアフリー改修が不必要なことも多く、またそれらの施設はそのような設備改修の余裕を有していない場合が多いが、今回の調査で事前に行った対策は費用、手間両面からも大変扱いやすいレベルのものであり、その効果を実際に施設管理者が目にすることで、障害者受け入れの精神的障壁を取り除くことができるようになることも調査の中で明らかとなった。手近なところの工夫によって今後国内で増加する高齢者・障害者を積極的に受け入れることができるようになることが実証的に明らかにされるとともに、この知見を地域内で共有することでより広範かつ綿密な「もてなし」が実現する可能性が示唆されたといえる。
著者
高島 成剛
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

カーボンナノ構造体創成プラズマ中のラジカルの挙動解明を行い、下記の成果を得た。1.カーボンナノウォール創成プラズマ中の水素ラジカルおよび炭素ラジカル計測のための真空紫外吸収分光システムを構築した。2.カーボンナノ創成プラズマにおける水素ラジカルおよび炭素ラジカルの絶対密度計測を行った。圧力13.3Paから79.8Paの範囲で、炭素ラジカル絶対密度は4.0×10^<12>[cm^<-3>]で一定であり、圧力変化により変化はなかった。3.水素ラジカル絶対密度は、圧力13.3Paから39.9Paまで1.6×10^<12>[cm^<-3>]で一定であり、圧力53.2Paから79.8Paの範囲で増加し、圧力79.8Paで2.5×10^<14>[cm^<-3>]であった。4.水素ラジカル、炭素ラジカル絶対密度計測条件においてカーボンナノウォールの合成実験を行った。圧力範囲13.3Paから79.8Paにおいてカーボンナノウォールを合成することができた。しかし、ウォールの間隔に差異があり、13.3Paから79.8Paの圧力増加に伴い、ウォールの間隔は広くなった。5.カーボンナノウォールの成長速度は、圧力の増加に伴い減少した。6.圧力範囲13.3Paから79.8Paにおける水素ラジカル、炭素ラジカル絶対密度計測結果と合成されたカーボンナノウォールのウォール間隔及び成長速度より、水素ラジカルは、カーボンナノウォール最表面のF元素を引き抜く(エッチング)効果があり、カーボンナノウォール合成および形状制御に重要な役割を担っていることが明らかになった。
著者
清川 清 竹村 治雄
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

今年度は、前年度の研究成果を継承し、協調作業のための超広視野頭部搭載型映像装置について検討を進めた。まず、超広視野頭部搭載型ディスプレイ(Head Mounted Display, HMD)に関して、まず1. 前年度に試作したHMDであるHyperbolic Head Mounted Projective Display(HHMPD)のためのGPUを用いた高速なコンピュータグラフィックスの描画手法を開発した。これにより実時間性の高いアプリケーションの製作が可能となった。また、2. 同装置を用いてVRウォークスルーシステムを開発して学術展示などで専門家より高い評価を得た。一方、超広視野頭部搭載型カメラ(Head Mounted Camera, HMC)に関して、3. 双曲面ハーフミラーの形状に関する種々のパラメタの関係式を導き、それらのトレードオフについて検討した。また、4. 求めた関係式を用いてミラーパラメタの選択とその結果得られる視体積形状や視野角などの情報を実時間で確認・検討可能なシミュレーションプログラムを開発した。さらに、5. 実際に単眼の試作システムを開発し、利用者視点での広視野映像を撮影できることを確認した。さらに、6. 得られた利用者の眼球映像を用いた実時間の視線検出システムの開発を行った。その結果、装着者の視線方向を5度〜15度程度の精度で実時間で検出可能であることを確認した。今後は、これらの装置を用いて、実際に協調作業を実施し、その有用性を確認していく予定である。
著者
西尾 章治郎 原 隆浩 寺田 努 小川 剛史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

無線通信機能をもつ小型センサノードで形成するセンサネットワークに対し、(1)センサネットワークノードのための動的機能交換ミドルウェア、(2)センサネットワークのためのデータ配置管理技術、(3)センサネットワークのためのデータ送受信技術の3 テーマを中心に研究を推進し、センサネットワークのためのデータ処理基盤となる技術の研究開発を行った。本研究の成果は、多数の学術論文誌や国際会議録等に掲載され、国内外において高い評価を得ている。
著者
芥川 智行
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2003

16年度に、有機デバイスへの応用が可能な有機物等のナノ構造、特にナノドットやナノワイヤ構造等の低次元ナノ構造の構築を可能とした。17〜18年度では、ナノドット・ナノワイヤ・ナノリング・2次元ドメイン構造に至る種々の低次元ナノ構造を作製する技術を確立すると同時に、金ナノ粒子や有機半導体ナノドット構造と半導体ナノワイヤ構造が接合した集積化構造の作製に関する検討を行った。Langmuir-Blodgett (LB)法やスピンコート法に代表されるウエット法を用いて、分子の有する自己組織化を利用したナノデバイス構造の作製を試みた。研究対象として用いた分子系は、電気伝導性・超分子化学・界面化学の観点から設計した両親媒性マクロサイクリックbis-TTF分子である。ウエット法を用いて作製した様々な形態の低次元ナノ構造の集積化について検討した。直径13nmの金ナノ粒子とナノワイヤの集積化構造の作製について検討を行った結果、金ナノ粒子は、ナノワイヤの交差点上に配列し、Langmuir-Blodgett法を用いる事で金ナノ粒子の専有面積を自由に制御する事が可能となった。次に、ナノワイヤー金ナノ粒子複合構造から成るLB膜の電気伝導性に関する検討を行った。金ナノ粒子の専有面積の増加に伴い、電気抵抗の温度依存性に変化が見られた。金ナノ粒子の占有面積の増加に伴い、電気抵抗の温度依存性に変化が見られ、金ナノ粒子の基板上での占有面積が2次元パーコレーションの閾値を越えると、その電気伝導度の温度依存性に特異的な挙動が観測された。室温付近では、活性化エネルギーE_a=0.14eV程度のナノワイヤにより支配される半導体的な温度領域が観測されるのに対して、温度の低下に伴いより活性化エネルギーの小さなE_a=0.01eV及びE_a〜0eV程度の伝導領域が出現する事が明らかとなった。低温領域に於ける伝導は、金ナノ粒子間のホッピングとトンネリングによる伝導で支配されていると考えられる。ナノワイヤー金ナノ粒子集積化構造においては、基板面内で少なくとも3種類の伝導パスが存在し、低温においては金ナノ粒子間の量子伝導が出現していると考えられた。