著者
小田 賢幸
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

植物プランクトンであるクラミドモナスから鞭毛を回収し、その運動を司るタンパク質である鞭毛ダイニンの構造解析を行っている。鞭毛ダイニンは微小管を構成するタンパク質であるチューブリンと共重合する性質があり、それにより生成されたダイニン-微小管複合体が私の研究の主要な試料である。ダイニンは2MDaある巨大なATPaseであり、我々の研究によりATP依存的な構造変化を起こすことが明らかになっている(Oda et al.2007)。この構造変化をさらに詳細に解析することが本年度の研究テーマである。1.ATPase活性部位のマッピング電子顕微鏡の実験において、ラベルされた部位が本当に想定されているドメインであることを生化学的に検証するため、アジド化されたATPおよびADPを用いてダイニンとヌクレオチドを紫外線により共有結合させた。そのダイニンをトリプシンで分解し、固相化されたストレプトアビジンを用いてビオチン化ペプチドを精製した。TOF-Mass解析により二つのシグナルを得た。このシグナルは再現性があり、ATPおよびADP両方から同様に検出されている。これにより電顕像でラベルされている部位はATPとADPでは同じであると確認できた。現在、ラベル部位の正確な同定をfinger printingによって試みている。2.電子トモグラフィーネガティブステイニング法を用いてストークドメインのATP依存的構造変化を観察している。モリブデンを染色剤に使用し、サンプルをトレハロースアモルファス膜に包埋することにより高いコントラストを得ること成功した。国立神経精神センターの諸根室長との共同研究により、高傾斜かつ多サンプルのトモグラムを撮影した。通常のback-projection法からある程度ストーク像を観察することができた。
著者
檜垣 恵 坂根 剛
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

慢性関節リウマチ(RA)は関節滑膜を炎症の主座とし軟骨・骨破壊を来たす原因不明の慢性炎症疾患である。関節滑膜には、血管新生、リンパ球浸潤と共に滑膜表層細胞の重層化が認められパンヌスが形成される。このパンヌスはA型のマクロファージ様細胞及びB型の線維芽細胞様細胞からなるが、B型滑膜細胞はA型滑膜細胞の産生するインターロイキン(IL)-1や血小板由来増殖因子(PD-GF)などのモノカインに反応して増殖することも明らかにした。さらに活性化されたB型滑膜細胞は種々のサイトカインと共にコラゲナーゼ、ストロメライジンなどのプロテアーゼ及びプロスタグランジン(PGs)を産生して軟骨・骨破壊を引き起こす。そこで、RAに対する治療戦略としてはB型滑膜相棒の増殖・活性化を阻害することが重要と考えられる。そこでわれわれはビタミンD_3の滑膜細胞増殖抑制効果を検討した。活性型VD3は用量依存性に滑膜細胞の増殖を抑制した。コントロールとして用いたレチノイン酸やデキサメゾンにはこの作用は認められなかた。RA由来、OA由来の滑膜細胞でVD3に対する感受性の違いはなく、線維芽細胞株WI-38には作用しなかった。さらにIL-6及びコラゲナーゼ産生をデキサメサゾンと同様に抑制したが、TIMPの産生には影響しなかった。又、ゲラチンザイモグラフでもコエアゲナーゼ活性の低下を認めた。ゲルシフト法によりVD3添加でIL-1刺激時の滑膜細胞の核蛋白AP-1の抑制が認められた。細胞周期に与える影響ではDNAヒストグラムよりVD3添加によりG1期での阻害が認められ、ノザンプロットでサイクリンD1の発現低下が認められた。以上、活性型ビタンミンD3が滑膜細胞の増殖及び活性化を抑制することが明らかになった。ビタミンD_3のメディエーターと考えられているC18/C2セラミドおよびHerbimycinなどのチロシンキナーゼ阻害剤及びチロシンホスファターゼ阻害剤(Orthovanadate)の作用検索をしたが滑膜細胞に対しては抑制効果はなかった。サイトカイン産生などの活性化抑制に関しては転写因子AP-1の抑制によるものと考えられた。増殖抑制に関してはデキサンサゾンとは異なる活性である。c-mycの発現抑制はなかったが、サイクリンD1の発現抑制によりG1アレストが起きていると考えられた。このような免疫調節作用藻有する活性型ビタミンD3の作用はマン液関節リウマチの治療薬剤としての可能性を示唆した。
著者
海野 倫明 阿部 高明 片寄 友
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は、liver-specific organic anion transporter-2(LST-2)の抗体を作成し、この抗体を使用して免疫染色を施行したところ、一部の結腸癌や乳癌においてLST-2が陽性になることを明らかにした。そこで、結腸癌手術検体および乳癌手術検体を用いてLST-2発現と各種臨床病理学的因子や予後との相関を検討し、LST-2の癌細胞における腫瘍生物学的意義を探索することを目的に以下の検討を行った。大腸癌手術症例255例を用いて、LST-2特異的抗体で免疫染色を施行し、同時に各種臨床病理学的因子と予後に関し相関を検討した。その結果、255例中、67例の癌細胞膜及び細胞質で陽性であった。一方、正常大腸粘膜は陰性(ないし弱陽性)であった。Fig.1に示したように結腸癌組織内ではLST-2陽性細胞はsporadicないしfocalに染色され、陽性細胞は最高でも30%程度であった。次に、LST-2発現と予後に関して、overall survivalを検討したところ、LST-2陽性症例は、女性においてのみ有意に生存率が高い(P=0.0217)ことが明らかとなった。次に既知の結腸癌予後因子群(リンパ節転移/浸潤度/histological grade/血管浸潤/リンパ節浸潤/Ki-67labellingindex等)との単多変量解析を施行した。その結果女性結腸癌症例におけるLST-2の発現は、従来報告されているDukes分類やリンパ管浸潤と同様に予後因子であることが明らかになった。さらに多変量解析を施行したところ、これらを超える優れた独立予後規定因子になることが判明した(P=0.0447,relative risk(95%CI)=8,264)。次いで乳癌で同様な検討を施行した。102例の乳癌症例中、LST-2陽性51例の予後は、陰性51例と比較すると,無再発生存期間、全生存期間の両者で有意に予後が良好(p=0.03,0.01)であるという結果が得られ、LST-2の発現の有無は乳癌の予後予測因子の一つと考えられた。
著者
小野江 和則 岩渕 和也 小笠原 一誠
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

NK-T細胞の分化と機能について研究を行った。先ずリンパ節、パイエル板を欠くaly/alyマウスにおいて、NK-T細胞の分化障害があり、これはaly/alyマウスの胸腺構築異常に起因することを、骨髄キメラを用いて初めて明らかにした。次に、NK-T細胞がVα14を発現しないTCRトランスジェニックマウス(DO11.10)においても産生されること、これらはクローン消去、及びアナジーによるnegative selectionを受けることを明らかにした。さらにNK-T細胞の分化にはチロシンキナーゼのZAP-70の存在が必須であることを明らかにした。また、ZAP-70ノックアウトマウス胸腺には、NKl.1^+TCRαβ^-細胞が増加しており、これらをPMAとイオノマイシンで刺激するとVα14NK-T細胞に分化することを明らかにした。従ってZAP-70ノックアウトマウスのNKl.1^+TCRαβ^-細胞は、NK-T細胞の前駆細胞であることが判明した。さらにaly/alyマウスにおけるNK-T細胞分化欠落の原因を明らかにする研究を行い、NIK突然変異の影響が、胸腺髄質細胞の機能不全を誘導し、その結果NK-T細胞のpositive selectionが生じないことを明らかにした。従って、NK-T細胞の分化には、CD4^+8^+肺腺細胞上のCD1分子と、胸腺髄質上皮細胞からの第2シグナルが必要なことが判明した。最後に自己免疫マウスのNK-T細胞を解析し、1prマウスでは異常がないこと、(NZB/NZW)F1マウスでは加齢とともにNK-T細胞が減少することを明らかにした。NK-T細胞の減少は、自己抗体によることを示唆する結果が得られつつある。
著者
柳田 勉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニュートリノの小さな質量を説明するSeesaw機構によれば、その小さい質量は非常に重いMajoranaニュートリノが存在することを予言する。この重いニュートリノは宇宙の温度がその質量より高ければ大量に生成される。その後、宇宙が膨張し、重いニュートリノの質量より宇宙の温度が下がってくると重いニュートリノの崩壊が始まる。ここで重要なのはMajorana型の質量がレプトン数を破る点である。このために、重いニュートリノはレプトンへの崩壊と反レプトンへの崩壊が可能になる。CPが破れていればレプトンへの崩壊率と反レプトンへの崩壊率は互いに異なる。つまり、この崩壊によりネットなレプトン数が生成される。この生成されたレプトン数はKRS効果によりバリオン数に変換される。このようにして、宇宙のバリオン数が生成される。本研究では、この機構と観測されたニュートリノの質量が矛盾しないことを示した。宇宙のバリオン数の生成を考える上で宇宙のインフレーション後の再加熱過程の考察は不可欠である。本研究の最終年度では、インフラトンの崩壊を超対称性重力理論の枠内で考察した。超対称性が破れると重力子の相棒のグラビチーノが質量を持つ。その質量は超対称性の破れをクォークやレプトンの世界に伝える方法によって異なり、現在のところ未知のパラメターである。上記のバリオン数生成機構はこの超対称性の破れを伝える機構に重要な制限を与える。本研究では、宇宙のバリオン数と矛盾しない超対称性の破れを伝える機構として、Gauge mediationとAnomaly mediationが選ばれることを示した。この結果は来年度から始まるLHC実験により検証されると期待できる。
著者
岡山 博人 佐方 功幸 石見 幸男 白髭 克彦 大矢 禎一 石見 幸夫
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

当研究の主たる課題であり、発癌の根底機構をなす足場依存性・非依存性細胞周期機構の解明に向けて研究を推進し、重要な進展を得た。特に、足場消失に伴い、染色体DNAの複製開始に必須なCdc6タンパクの発現が転写停止とタンパクの分解促進によって遮断されること、このタンパク分解に、少なくとも2種類のユビキチンリガーゼと1種類のカテプシン様システインプロテアーゼが関わっていること、その一つはG1期で作用することが示されているCdh1-APであり、その働きに癌抑制因子p53が必要であること、更にこれらの系によるCdc6タンパクの分解制御にTsc-Rhebシグナル伝達経路が深く関わっていることを見出した。一方、G1期サイクリン依存性キナーゼのなかでCdk6/サイクリンD3の複合体が、阻害タンパクの影響を受けないこと、その結果、増殖刺激が無い状態で細胞の増殖促進効果を発揮し化学発癌に対する細胞の感受性を著しく引き上げること、更に、骨細胞分化を負に抑制することを明らかにした。他方、細胞周期チェックポイント制御に関して、以下の知見を得た。Myt1キナーゼはCdc2の抑制的キナーゼであり、ツメガエル卵の減数分裂においては、Mos/MAPK下流のp90rskキナーゼがMyt1と結合し、その活性を阻害している。また、体細胞周期においてPolo様キナーゼPlx1がMyt1と結合しリン酸化することによってその活性を阻害することを見出した。更に、様々な基質中の二重にリン酸化されたDSGモチーフ(DpSGFXpS)を認識するSCFb-TrCPユビキチンリガーゼが、ツメガエルおよびヒトのCdc25Aにある新規な非リン酸化型DDGモチーフ(DDGFXD)を認識し、分解に導くことを見出した。
著者
澤田 元 尾野 道男
出版者
横浜市立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の特徴である、臓器を皮下に移植することにより、生体内で再生現象を起こさせた場合の変化について調べ、いくつかの重要な知見を得た。本年度に新たにわかったことを以下に記す。(1)気管の上皮細胞は移動に際し、重層扁平化(扁平上皮化生)したが、電子顕微鏡レベルでの観察では、移動先端の細胞は上層の扁平な細胞層と、下層の立方状の細胞層が区別できた。最上層の細胞の上面には徴絨毛が見られるなど、細胞極性は一部維持されていた。細胞間隙は開いており、そこに多数のヒダを出して隣の細胞と結合している。接触面にはデスモソームが見られる。移動先端では不規則な形と大きさのBleb状の構造が見られ、移動にとって重要な役割をしていることが推察された。この構造は中に差相棒ない小器官をほとんど持たずアクチンの断面と思われる点状構造のみが見られた。(2)気管は皮下に空間を作り、上皮の断端が宙に浮くように移植しても上皮間に薄い膜が張って、その内側に上皮が移動、再生した。この膜は上皮が移動した先端部を境にして、フィブリンが主体の中心部分と各種コラーゲンが主体の周辺部に区別される。そこで人為的にコラーゲン膜やフィブリン膜を作成して、この膜上で気管の上皮再生を促したところ、コラーゲン膜では良好な再生が見られたが、フィブリン膜には細胞は接着できなかった。なお、細胞接着タンパクのフィブロネクチンは細胞外マトリックス全体に幅広く分布していた。
著者
野村 徹 齋藤 敦史
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

SAWデバイスを利用したマルチチャネルセンサの構成とそのガスセンシングへの応用について示す。化学特にガスセンサでは、複数のセンサの応答よりガスの識別を行う。本研究では、同一基板に複数のSAW遅延線を並べ、入力には一個のドッグレッグIDTを用いたセンサアレイによるガスセンシングについて提案した。このセンサアレイと増幅器による自励発振器を構成したセンサシステムでは、自動的に温度補償が行え、チャネル間のクロストークも小さいことが分かった。また、ガスセンサに重要な感応膜の塗布に、簡易LB膜法を用いることにより、センサアレイの各チャネルの微小な部分に正確に再現性よく塗布することができた。応用では、このセンサを有機ガスの識別に適用し、いくつかのサンプルガスに対し、ユニークな応答パターンを得た。
著者
若月 利之 石田 英子 増田 美砂 林 幸博 広瀬 昌平 TRAORE S.K.B ALLURI K. OTOO E. OLANIYAN G.O IGBOANUGO A. FAGBAMI A. 小池 浩一郎 宮川 修一 鹿野 一厚 中条 広義 福井 捷朗
出版者
島根大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ナイジェリア中部ニジェール洲、ビダ市付近のエミクパタ川集水域のヌペ人の村落から農民の参加意欲と土と水条件より5ケ村のベンチマーク村落を選んだ。アジア的な水田稲作とヌペの伝統的低地稲作システムを融合させながら展開するための実証試験をニジェール洲農業開発公社の普及研究員と国立作物研究所の研究員の協力を得ながら、農民参加により実施した。又、多目的樹種を中心にした育苗畑の整備と管理法及び成熟苗を利用したアップランドにおけるアグロフォレストリーの実証試験も実施した。東北タイより収集した品種特性の異なるタマリンドの種より育苗した。次年度には移植する予定。ガーナのクマシ付近のドインヤマ川小低地集水域でも、同様の水田農業とアグロフォレストリーを農民参加により実施することにより、劣化集水域を再生するための実証試験を実施するに当たって必要な土と水と気象条件、在来の農林業システム、村落の社会経済的条件等、各種の基礎的調査を実施した。一部では水田造成と稲作、村落育苗畑等の小規模実証試験を行った。ニジェールのドッソ付近のマタンカリ村付近のサヘル帯の小低地集水域でも同様の基礎調査を実施した。タイとインドネシアでは西アフリカに応用可能な農林業システムの文献資科や、上述のように樹木のタネ等を収集した。アジアと西アフリカの研究者と意見交換し、農林業システム融合の条件を検討した。又、タイで採取した樹木種子はナイジェリアの苗畑で発芽生育させ、生育は順調なので移植を準備中である。フィリピンでは世界の稲作システムに関する既存の資料を収集した。
著者
大柳 満之 中沖 隆彦 中野 裕美 青井 芳史
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

積層不規則構造をもつナノ粒子の構造規則化と結晶配向、焼結の相関および、それに影響を及ぼす条件・因子に関する研究を行った。焼結パラメーターや添加材(CにはB、BNにはホウ素酸化物など)を変えることで、ナノ粒子の構造規則化・結晶配向・緻密化に及ぼす影響を調べた。積層不規則構造を保ちながら緻密化した焼結体と結晶配向の著しい焼結体を作り分けることに成功し、それらが特異な性質を示すことを明らかにした。
著者
高井 伸雄
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

これまでに提案してきた破壊パターンは内部空間の損失を反映した指標であるが、さらに定量的に評価するために、内部空問の損失を評価するW-値を導入し、建物の破壊パターンとW-値との関係を明らかにした。ここで、人的負傷とを関連づけることで、建物被害とは独立した、人間への外力と傷害度との関係が導き出される。ここでは人間の負傷度を医学で用いられる指標(傷害度スコア)を引用し、医学研究者との議論を重ね、内部空間損失と人的負傷との関係を明らかにした。以上で地震時の建物被害による人的被害発生のメカニズムが明らかになったが、パターンと傷害度スコアとの関係は、東灘区のデータを利用していることから、一般化を目指し他地域での適用に関して議論した。そこで、対象地域を木造パラメーターの異ならないと思われる地域として、同地震で被害を受けた神戸市長田区を新たに対象地域都市として、GIS上に同様のデータベースを構築し、人的被害を予測した。その結果これまでに利用されてきた手法より精度の高い予測が可能となっている。これまでは木造に関しての解析であるが、1999年トルコ地震におけるRC建物造に関しての建物破壊パターンとW値との関係も議論可能とするべく、一次解析としてRC造の破壊パターンと主要な破壊階と死傷者の関係のデータベースを構築した、RCに関してはさらに詳細な解析を行う準備がある。ここで注目する点は精度の向上よりも、メカニズムに踏み込んだ議論をしていることであり、以上により明らかとなった木造建物の地震被害による人的被害発生メカニズムを基に、より安全性の高い破壊パターンを考慮した建物形式、及び既存不適格建物の補強方法を議論することが可能となった。
著者
川谷 充郎 小林 義和 野村 泰稔
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.橋梁交通振動のアクティブ制御による制振効果の確認研究代表者らが開発してきた模型桁,模型車両およびアクティブ制振装置を用いて実験的にアクティブ制御の制御効果を示すとともに模型実験で用いられた制御理論を用いて理論解析を行い,実験結果との比較を行った。解析で用いる制御理論は出力フィードバック制御とロバスト安定性が高いと思われるH∞最適制御理論とした.そして実橋に対するアクティブ制御の制振効果を理論的に確認するために,阪神高速道路梅田入路橋の応答データに基づき,曲げ振動だけではなく曲げとねじり連成振動に対しても制御を行い,出力フィードバック制御とH∞最適制御理論との制振効果の比較を行った.結果として,H∞最適制御理論による橋梁交通振動の動的応答解析結果から,曲げ振動および曲げとねじり連成振動共に制振効果が高いことが分かった.2.歩道橋群集歩行振動のアクティブ制御による制振効果の確認大阪ドーム前歩道橋のうち最も揺れやすいと報告されている,支間長30.19m,幅員3.4mの区間を対象として現地歩行振動実験を行い,振動応答結果に基づき歩行外力モデルを検討するとともに,歩行者の振動感覚アンケート調査を行った.さらに,単独共振歩行および群集歩行に起因する振動の低減化対策について解析的に検討した.結果としてTMDは単独共振歩行に対しては効果的であるが,群集歩行時には共振成分以外の振動はあまり低減されず,振動を感じることがわかった.アクティブ制御においては,最適レギュレータ理論,H∞制御およびファジィ制御を適用したが,全ての制御理論において制振効果が高く,歩道橋に対しても,その有用性が確認された.各制御理論の比較から,H∞制御が最も制振効率が良く,単独・群集歩行時の共振成分以外の様々な振動成分を低減できることが明らかとなった.
著者
神川 康子 永田 純子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

先進国の中で最も睡眠不足だと言われる日本の子ども達の心身の健康や生活の質を向上させるために、小学生や未就学児を対象に、睡眠・生活実態調査と学力調査、および重心動揺による自律神経機能の測定を行い、それらの関連を分析した。その結果、子ども達の就寝時刻の遅延が、睡眠の質(寝つき、熟眠感、目覚めの気分)も、日中の生活(覚醒度、集中力、いらいら感、)の質も低下させることが判明した。そして子ども達の就寝時刻を遅れさせる最も大きな原因はTVやゲームであり、ついで、習い事の多さも原因となっていた。また、TVやゲームの時間は、試験の成績や健康状態とも有意に関連していた。とくに小学生では、4年生以上において生活習慣が悪化しやすいので、この時期に睡眠習慣を見直す科学的な指導が必要であるといえる。学力と生活習慣の関連では、4教科のうち、国語が最も多くの生活習慣項目(睡眠習慣、規範意識、家族関係、自尊感情など)と関連しており、また算数は、睡眠時間や食生活、健康状態と関連があり、健康状態が良いほど、思考力が必要な問題の正答率が良いことが判明した。また、起床困難を改善するために、小学4,5年生を対象に、子ども部屋に漸増光照射照明器具を設置して、その効果を検証したところ、起床時の気分や日中の気分を改善し、QOLを高める効果が認められた。最後に、学年進行とともに睡眠習慣が改善する児童と、改善しない児童の生活実態の10ヶ月間の変化を比較したところ、就寝時刻が遅延した児童ほど、日常生活(あくび、TV・ゲーム時間、服装など)も悪化し、生活の質が低下することが認められた。小学生までの間に、子ども達には、就寝時刻を乱さないように生活を見直し、TVやゲームの時間を自分で制限するなど、自分で考えて生活する力(自己管理能力)をつけることが重要であると考えられる。
著者
加藤 正 渡邉 一弘
出版者
東北薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

世界的に注目されている疾病であるインフルエンザ、痴呆症および臓器移植時に使用する新規治療薬としての可能性がある天然物の全合成研究を行った。抗インフルエンザA ウイルス剤であるスタキフリン、痴呆症等の治療薬となりうるスキホスタチン、および免疫抑制剤であるカンデラリドA-C の計5種類の天然物において、世界に先駆けてこれらの初めての全合成を達成した。この研究結果は、新規治療薬の開発における基礎となる成果である。
著者
足立 研幾
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、レジーム間相互作用の研究において、まったく扱われてこなかった安全保障分野におけるそれを研究した先駆的業績といえる。対人地雷禁止レジーム形成以後の、通常兵器分野におけるレジーム間相互作用の実証分析に基づき、管轄が直接交錯しないレジーム間でも相互作用が見られること、またそうした相互作用は、国家のみならず、NGOなど非国家主体の行動によっても促進されていることなどを明らかにした。
著者
上村 史朗 斎藤 能彦
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

慢性腎臓病(CKD)は心血管病(CVD)の独立した危険因子であるが、CVDの発症に係わる分子機序は明らかではなかった。本研究では動脈硬化進展作用を有する胎盤成長因子(PlGF)およびその内因性阻害因子である可溶性Fms-like tyrosine kinase 1; 可溶性FLT-1)に着目し、CKD患者における可溶性FLT-1関連分子の動態および動脈硬化病変の進展に寄与するメカニズムの解析を行なった。その結果, CKDの進展に伴う腎での可溶性FLT-1産生低下および血中可溶性FLT-1濃度の低下が, CKD患者における冠動脈病変の重症度を規定する重要な因子であることが判明した. さらにCKD合併動脈硬化マウスモデルを用いた実験により, リコンビナント可溶性FLT-1蛋白の持続投与が動脈硬化病変の進展を抑制することを明らかにし, 可溶性FLT-1が新しい創薬標的分子になる可能性を示した.
著者
孫 晶
出版者
名古屋工業大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

はじめに,サプライヤーリスクマネジメント諸問題を対象とした国内外の文献・実態調査により,サプライチェーリスクを明確化し,問題の体系化を行った.次に,サプライチェーンビジネスの戦略決定に不可欠な,品質・コスト・納期・環境・安全における効率的な評価基準算出方法を提案し,サプライヤー最適経営評価法則及び新たな統括理論を検討した.また,環境負荷軽減を目指し, Win-Winの視点からリュース部品のサプライヤーの最適な物流構築モデルを提案し, LP(LinearProgramming)手法を使って,サプライヤー業者全体の利益を最大にする物流構造の最適解空間とその条件を導くことができ,さらに,提案したモデルを使って,自動車業界のリバースチェーンにおける需要変動に対する最適物流構造の変更方策を考察した
著者
山根 聡 長縄 宣博 王 柯 岡 奈津子 古谷 大輔 山口 昭彦 大石 高志 シンジルト 吉村 貴之 小松 久恵
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では、地域大国の比較研究を中心軸に捉えつつ、異なるディシプリンながらも、地域大国の周縁的存在を研究する点で一致する研究者によって、地域大国のマイノリティとしてのムスリム、移住者、特定の一族など、周縁に置かれるがゆえに中心(大国)を意識する事例を取り上げた。この中で国際シンポジウム主催を1回、共催を2回行った。また国際会議を3回、研究会を25回以上開催し、この期間内に発表した論文も60点を超えた。2013年度には成果を公刊する予定であり、異なる地域を研究対象とする研究者の交流が、研究分野での未開拓分野を明らかにし、今後の研究の深化に大きく貢献することができた。
著者
上田 博史 橘 哲也
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

二者択一の選択試験は,飼料原料の嗜好性や動物の栄養素摂取調節能力を調べるために有効な方法である.しかし,単飼したヒナに同じ飼料を2つの給餌器から与えると,試験開始直後,半数のヒナは右側の給餌器から(右利き),残りの半数は左側の給餌器から飼料を摂取する(左利き).右利きと左利き,あるいは同じ利き腕をもつヒナを2〜4羽群飼して改めて選択試験を行うと,単飼のとき右利きだったものが右側から,左利きが左側から食べるということはなく,常に連れ添って食べる.好みの給餌器の位置が群飼するとリセットされるということは,右利き・左利きが先天的な行動というよりは他の因子によって引き起こされている可能性を示唆する.特定の給餌器に対する固執は時間の経過に伴い消失するが,例外も存在する.単飼ケージは10〜12個が一つの棚に配置されているが,両端にあるケージで飼育されたヒナでは固執の解消が見られないことがある.両端に置かれたヒナの左右の一方にはケージが置かれていない.一般に,体重の等しいヒナを並べて選択試験を行うと,両端のヒナは隣人のいる内側の給餌器から摂食する.しかし,体重の大きなヒナを内側のケージに入れると,内側の給餌器からの摂取量は減少する.したがって,隣人との社会的な関係によって,好みの給餌器は変わるものと考えられる.このような行動は,塩酸キニーネを添加した嗜好性の低い飼料を選択させたときにも見られ,選択試験の精度を低下させることも明らかになった.本研究課題では,脳質内投与法を用いたヒナの摂食調節物質の検索も同時並行して行ってきたが,脳内のガラニンやノルアドレナリンが摂食促進作用をもつこと,また一酸化窒素の食欲促進作用が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンと関連していることも明らかにした.