著者
伊藤 眞 小野 浩 五十棲 泰人 片野 林太郎 戸崎 充男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、我々が高気圧制限比例領域において見出した特異的放電モードを利用してガス封入型高性能位置検出器を開発するための基礎研究をおこなった。主たる研究成果は次の通り。(1)制限比例領域における高気圧比例計数管の動作機構及び性能に関して(a)高気圧下制限比例領域での特徴ある検出器応答である特性X線によるHalo(暈)効果を定量的に解明し論文(1)にまとめた。Halo効果は位置分解能を悪化させるが、高気圧下では波高選別によりこのHaloイベントを排除できることを明らかにした。このことは、実用上大きな利点と成り得ることを示した。(b)我々の開発した位置検出器が、荷電粒子加速器を利用した微量元素分析(PIXE)法での高精度エネルギー分析に応用出来ることを示し、論文(2)にまとめた。(c)我々は既に、初期電子雲の構造変化が引金になって特異的放電モード遷移が発生することを見出していたが、異なる計数ガス(^7気圧Ar+30% CH_4)においてもこの現象が存在することを確認した。この結果を論文(3)にまとめた。(d)高エネルギー研放射光施設で10-60keV領域の高エネルギーX線に対する検出器応答を調査し、20keV X線に対して122μm(FWHM)、35keVに対して140μmの良好な位置分解能を得た。この時の結果の一部を論文(4)に示した。(e)本検出器を、本年2月加速器実験に応用した。陽子ビームを標的物質に衝撃させ、放出されるX線を本検出器を組み込んだ結晶分光装置により高精度エネルギー測定に成功し、X線ピーク構造に電子系の多体効果が強く反映していることを見出した。現在精力的に解析を進めていて、早急に論文発表する予定である。(2)今後の問題点:新たに改良した位置検出器、脱酸素、脱水カラムを備えたガス純化装置、計数ガスの種類、混合比を変化させることが出来る高気圧ガス混合回路、空気中酸素のback diffusionを軽減化できる検出器用ガス回路、これらすべてをオイルフリーターボポンプと組み合わせたシステムを完成させている。ガス封じ込め特性調査を行ってきたが、Ar系の計数ガスに対しては、良好な性能を得ている。Xe系のガスについてはまだ改良が必要で、特にガス純化装置の性能を向上させる必要がある。
著者
高橋 実 有冨 正憲 井上 晃
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

磁場閉じ込め核融合炉の第一壁・ブランケットの液体金属沸騰冷却の基礎研究として、液体金属の沸騰気泡挙動と熱伝達特性を解明することを目的としている。はじめに、鉛直円筒容器内の純水銀の水平平板におけるプ-ル飽和核沸騰に対して、水平磁場を与えた場合の沸騰気泡特性を2針電極プロ-ブを用いて調べた。実験条件は、系圧力0.026、0.1MPa、最大熱流束250kW/m^2、最高磁束密度0.85テスラである。その結果、離脱気泡直径と気泡成長速度は磁場によってほとんど影響を受けず、この傾向を気泡成長理論と気泡離脱モデルを用いて解析的にも説明できた。磁場の増加と共に気泡離脱頻度が増加し、これは待ち時間の減少によるものであることがわかった。その機構を解析的検討した結果、磁場により自然対流熱伝達が抑制され、周囲の高温度から発泡点へ熱流が増加するため、休止期間の発泡点近傍の温度上昇が速められると解釈された。次に、核融合炉相当の強磁場の水銀の飽和プ-ル核沸騰熱伝達への影響を調べた。装置は前と同様であり、立て置き超伝導磁石を用いて鉛直磁場を与えた。純水銀にチタンとマグネシウムを添加した。実験結果は、5テスラ以下では磁場の増加に対して核沸騰伝熱が低下したが、5テスラ以上では磁場増加に対しては伝熱低下がほとんど認められなかった。高熱流束になるほど磁場による伝熱低下が減少した。このことから核融合炉の磁場条件でも液体金属の沸騰による冷却が十分可能と考えられる。楕円形気泡成長モデルにより解析を行い、磁場による伝熱低下を実験結果より過小に評価することがわかった。今後の課題としては、沸騰気泡特性の結果に基づくより正確な沸騰伝熱理論の開発と、強磁場における液体金属の沸騰二相流伝熱特性の実験的把握が必要がある。
著者
浜下 昌宏 STURTZSREETHARAN Cindi L.
出版者
神戸女学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、関西弁を話す女性の話し方の特徴を調査・分析することにある。一般に関西女性の話者は関西弁を話すことで個々の場合において個性と主体性を維持している。より限定して本研究が追究するのは、関西女性の個々の言語活動が関西女性としてのジェンダー(女性的役割の表現)の創出に寄与し、日本語の中の女性語という、より一般的な領域へも関与していることである。その女性語とは、社会言語学的事実というより、社会的意識(イデオロギー)を構成しているものである。そうした研究目的のために、言語表現の特殊な側面に焦点が当てられる。すなわち、文末の口調(「ね」「てよ」「のよ」「わね」、等々)や、話しかけや指示の人称語(「わたし」「あなた」「あんた」、等々)に注目する。その調査を通して明らかにしたいことは、(1)女性同士の日常会話でそうした語法をしているかどうか、(2)もししているのであれば、どの程度しているのか、ということである。作業として、データを収集するために、60人以上の話者によって話された20の会話を収集した。(各会話はほぼ80分である。)録音したその会話を書き取るという作業が現在、進行中である。そのデータには、30代前半の若い女性から75歳の老女までの会話が含まれている。また話者は大阪から兵庫在住の女性にまでわたっている。予備的分析の結果、関西女性は日本女性の標準的な言語使用をしてことが明らかになった。たとえば、日本語の中の女性言葉という、きわめて社会的意識の強い言葉を使っていることが理解できた。しかしながら、彼女たちはそうした言語活動を通して、たんに女性としての主体性を創りだしているのみならず、そうした態度をみずから楽しんでいるようでもあり、さらにまた、そのような楽しんでいる言語活動により、日本女性として振舞いかつ話すべしという社会的心理的なプレッシャーを拒んでいるようである。さらなる分析によって、さまざまな年齢と地域的主体性をもった女性の話者の会話例をつうじて、そのような解釈がどの程度まで妥当かどうか、を解明したい。研究の進行状況としては、上記の録音テープの書き起こし作業は本年5月中に完成済みであり、現在、データ分析を遂行中である。さらに研究成果論文を近日中に完成し、学会誌掲載の審査を受けるべく、本年12月ころに審査員に提出の予定である。
著者
磯部 彰 金 文京 三浦 秀一 若尾 政希 大塚 秀高 新宮 学 磯部 祐子 鈴木 信昭 高山 節也 中嶋 隆藏 勝村 哲也 尾崎 康 藤本 幸夫 関場 武 栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本領域研究では、共同研究及び個別研究の両形態をとって研究を進めてきた。研究組織を円滑に運営するため、総括班を設け、目的達成への道標として数値的目標を掲げ、構成員が多角的方法をとりながらも、本研究領域の目標を具体的に達成し得るようにした。本研究では、東アジア出版文化を基軸とする新学問領域を確立することを目標とし、その骨格をなす要素を数値的目標に設定した。それは、(1)東アジア出版文化事典の編纂準備、(2)東アジア研究善本・底本の選定と提要作成、(3)東アジア研究資料の保存と複製化、(4)日本国内未整理の和漢書調査と目録作成、であり、更に、(5)東アジア出版文化研究の若手研究者の育成、(6)国際的研究ネットワークの構築などを加えた。初年度には、総括班体制を確立し、ニューズレターの発刊、ホームページの開設、運営事務体制の設定を行い、計画研究参画予定者を対象に事前の研究集会を実施した。平成13年度からは、計画・公募研究全員参加の研究集会と外国研究者招待による国際シンポジウムを毎年開き、国内の研究者相互の交流と国外研究ネットワークの構築を推進した。前半2年は、総括班の統轄のもとで、主として東アジア出版文化をめぐる個別研究に重点を置き、共同研究の基盤強化を図った。新資料の複製化も同時に進め、東アジア善本叢刊4冊、東アジア出版文化資料集2冊を刊行する一方、展覧会・フォーラムなどを開き、成果の社会的還元を行なった。研究面では、後半は共同研究を重視し、調整班各研究項目での共同研究、並びに領域メンバーや研究項目を越えて横断的に組織した特別プロジェクトを4ジャンル設定し、総括班の指導のもとに小研究域として定着させた。年度末ごとに報告書を編集する一方、前後の終了時に研究成果集を作成している。研究領域の数値的目標は約四分之三達成し、窮極の目的である新学問領域設定も、概然的ながら構想化が具体的になった。
著者
西平 直
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1、教育におけるスピリチュアリティの問題、あるいは、現代社会における青少年のスピリチュアリティの問題を、シュタイナー教育の調査を通して解明するという研究の趣旨は、聞き取り調査を手がかりとした理論研究の形で、最終報告集にまとめられた。(報告集、第一章)2、同校の卒業生に対する聞き取り調査を通し、彼らは、学校教育から影響を受けるのと同じだけ、(場合によってはそれ以上に)こうした学校にわが子を送る保護者の価値観・人生観から強い影響を受けることが明らかとなった。しかしながら、そうした保護者の価値観・人生観の解明のためには、スピリチュアリティの地平を理論的に整理する必要が生じ、最終報告集にその一部がまとめられた。(報告集、第二章)3、ハワイのホノルルシュタイナー学校、京都の京田辺シュタイナー学校など、定期的に参与観察を続ける中で、シュタイナー教育の本質を、日本古来の「芸道思想」との関連で整理する視点が明確になり、東洋思想の理論的研究を蓄積した。その成果もまた最終報告集にまとめられた。(報告集、第三章)4、とりわけ世阿弥の稽古論との関連が注目され、世阿弥の稽古をめぐる思想の解明が進められた。(報告集、第四章)5、総じて本研究は、卒業生への聞き取り調査を基盤としながら、そこで得られた知見を教育人間学的に解明するための理論構築の作業において、大きな成果を得た。
著者
大坪 滋
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では先ず昨年度において、市場主導型地域貿易協定、政策主導型地域貿易協定の過去から現在にいたる動向調査を行い、次に、APECの進化態様に関する応用一般均衡世界貿易モデル分析では、APECが開かれた地域主義へ、自由貿易世界へと流れる内在誘因を有していることが明らかにされた。本年度においては、海外直接投資(FDI)を通して統合の進む世界経済を俯瞰し、その経済効果を供与国側と受領国側の両面から分析した。まずは、FDIの形成要因やそのインパクトに関する理論的考察と実証的研究のサーベイを行った。次に、FDIの効果にかんして、特に「雇用」や「国際収支」に及ぶ影響について、多くの議論が短期的、部分均衡的であり、FDIというミクロ経済行動の効果が、マクロ経済面にこの様な形で現れると主張することの間違いを正した。規模の経済や不完全競争市場というFDIに纏わる特有の市場構造や、長期における貯蓄・投資バランスへの影響を加味する為に、再度応用一般均衡分析を試み、その結果を政策提言としてまとめ、セミナー活動も行った。一部は「経済分析」に他の部分は名古屋大学APEC研究センターのディスカッションペーパーとするとともに、学術雑誌に投降中である。また、これまでの研究を総合して、本にまとめる作業に取り掛かっている。
著者
向田 一郎 下村 義治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

JMTR温度制御中性子照射を用いて10^<-2>〜10^<-1>dpaの照射量の範囲で詳細な実験が行われた。本研究では、さらに損傷欠陥形成の初期過程を調べるために、より低照射量(10^<-4>〜10^<-3>dpa)の温度制御中性子照射を京大原子炉で行い、その結果より純銅中の損傷欠陥形成過程を調べることを目的とする。試料は公称純度99.9999%の純銅を用いた。また、残留ガスの効果を調べるために超高真空中で熔解することによりガス除去を行った試料を同時に照射した。温度制御中性子照射は京大原子炉水圧輸送照射管において300℃にて行った。試料は放射線冷却の後、電解研磨を行い透過電子顕微鏡試料とした。純銅においては、電子顕微鏡観察の結果、転位周辺の格子間原子集合体の集合、微小なボイドおよび積層欠陥四面体(SFT)が観察された。照射量の増加に伴ってボイド・SFTの数密度は減少した。この数密度は未処理試料と残留ガス除去試料での差はない。また、ボイド・SFT共に照射量の増加にしたがって成長するがボイドの成長はSFTに比べて著しく大きかった。これらの結果より中性子照射中にボイドが移動して合体することにより成長すると考え、照射試料の焼鈍実験を行った。その結果、直径3nm程度のボイドは250℃で移動することがわかった。合計37個のボイドを観測し、その内8個のボイドが移動した。最大で23.9nm移動していた。また、移動方向はfccの[110]方向に近い方位に移動していた。焼鈍実験による結果を踏まえてさらにボイド動的挙動高温その場観察を行った。試料は加熱ステージに装填し、300および350℃においてその場観察を行った。純銅中に形成されたボイド(サイズ:3〜16nm)の観察を行った結果、10nm以下のボイドは300℃以上において移動することが確認された。ボイドが移動する際には円状に白く観察されるボイドが楕円状に変化して長手方向に一次元運動をして移動する。このコントラストの変化はボイド周辺の原子の構造緩和によると考えられる。さらに大きなボイド(サイズ:16nm)は楕円状の構造緩和は起こさないが、観察中に3つに分裂してそれぞれが移動できるサイズに変化することが観察された。これらの観察結果より、10nm以下のボイドは移動することが可能であり、照射中にボイドが移動・合体をすることによりボイド数密度の減少およびボイドサイズの増大が起きていると考えられる。
著者
石澤 良昭 上野 邦一 菱田 哲郎 一島 正真 VERIATH Cyiril 丸井 雅子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

上智大学アンコール遺跡国際調査団は、2001年3月と8月に仏教遺跡バンテアイ・クデイから274体の廃仏と千体仏石柱を発掘した。歴史上初めての大量廃仏発掘であった。この大発見は国内外の各紙に報じられた。仏像の大きさは大きいもので1.8mほど、小さいもので20cmほどの大中小があった。仏像は砂岩製で,青銅製の小物2体も見つかった。これら仏像は蛇神ナーガの上に結跏跌座したブッダ坐像であり、仏陀を守っている彫像(以下ナーガ坐像と略す)である。時代は11世紀から13世紀である。<インドからヒンドウ教と仏教が到来>カンボジアには1~2世紀頃インドから海のシルクロードを通じてヒンドゥー教と仏教が入ってきたが,カンボジアで土着した大乗仏教は、観世音菩薩のナーガ坐仏を信仰していた。<政治抗争と廃仏事件>これら廃仏はほとんどが首を切られていた。13世紀半ば頃ヒンドゥー教を信奉するジャヤバルマン8世(1243-1295)が命じて全国の仏教寺院に安置されていた仏像を引っ張り出し、首を切断して埋納抗に埋めたのであった。本研究は、この274体の廃仏事件から始まるものである。<バンテアイ・クデイ遺跡周辺調査>バンテアイ・クデイ遺跡発掘を再開し、アンコール遺跡群および地方の仏教系遺跡(バンテアイ・チュマール、コンポンスヴァイ、プリヤ・カンなど)の遺跡調査を実施。<マトゥラー地方の発祥ナーガ坐仏の歴史背景調査および東南アジアとの比較研究>マトゥラー地方ではクシャン朝(BC2世紀~AD6世紀)からグブタ朝(4~7世紀)にかけて多数のナーガ坐仏が製作された。これらナーガ坐仏は力強く量感に富む造形を持ち、インド各地、そして海外のカンボジアなどに伝播した。インドとカンボジアに共通するナーガ坐仏が何故時を超えて存在したかを問い、両地域に存続した仏教的精神価値体系の結晶を探ろうとする初めての試みであった。<カンボジア・インドのナーガ坐仏の図像学的特相調査および比較考察>(1)肉髷相、(2)衣相、(3)耳朶相、(4)自毫相、(5)手足の千幅輪相、(6)印層、(7)宝冠飾り、(8)身広長等相、(9)真青眼相などについて調査し、両地域における図像解明を実施し、信仰における受容状況とその展開、さらにその時代の仏教精神の比較検討をした。加えて両国におけるヒンドウ教徒と仏教の政治的背景と歴史展開をそれぞれ詳解に考究し、大きな学術研究の成果をおさめた。
著者
鎌倉 真音
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、有形文化資源の3次元デジタルアーカイブデータの利活用について、データの計測作業と取得データを用いた解析と考察を通して、その有効な方法や今後の展開、可能性について3ヶ年で考察、検討するものである。最終年度である本年度も昨年度に引き続き、特に有形文化資源のデジタルデータの利活用に関して、考古学、美術史学、建築史学、など多分野にわたって具体的な解析や活動を通して研究を遂行した。主に、以下の2点に着目して研究を行った。(1)カンボジア、アンコール遺跡バイヨン寺院の大きな特徴である尊顔に関して、3次元デジタルアーカイブデータを用いた解析による考古学的考察を行った。12世紀に寺院を建立したとされる王(ジャヤヴァルマンVII)の坐像顔面デジタルデータと寺院尊顔の類似度等を検証する解析、アンコール遺跡群の中でもバイヨン期の寺院にだけ存在する尊顔の制作背景について考察を行った。解析、考察の結果は、バイヨン期の寺院建立の歴史等を明らかにし、多分野横断型研究の結果としても極めて重要なものとなる。(2)3次元デジタルアーカイブデータを用いた具体的事例をもとに、従来では文化資源そのものに対して行ってきた利活用活動を、デジタルデータの特長に着目し、広く文化資源全般にわたってデータとして利活用していく、プロセスデザインを行っている。サーバなどに蓄積されるばかりの文化資源デジタルアーカイブデータを有効に利活用するために、(1)のように具体的な対象を用いた解析、考察を行い、同様に様々な対象に対しても適用していくことは有意義である。本研究の成果は、国内外を問わず文化資源における保存・デジタルデータ化・利活用に関する俯瞰的な考察を可能にし、文化資源を基軸とする多分野にわたる研究領域での具体的研究プロセスモデルの提案につながる。とりわけ国土も狭く、資源にも乏しい日本国において、あらゆる文化資源を有効な手段で保護、保全、保存、そして活用していくことは極めて重要である。
著者
小波蔵 純子
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

これまでに我々は、中性子照射量の増大に伴う半導体検出器X線感度の劣化、また検出器印加電圧の増大に拠る感度の改善等を明らかにし、これらの物理機構が、我々が提唱した「半導体検出器新感度理論」の描像とコンシステントであることを示し、2つのキー・パラメータ、即ち、「信号電荷三次元拡散長」並びに「空乏層厚」が、中性子損傷を受けた半導体感度に対しても主要な本質的パラメータであることを明らかにした。本研究では、p型半等体(p型は中性子照射に強いと考えられている)、並びにn型半導体(n型は廉価でプラズマ計測に広く用いられている)に対する中性子照射効果の差異、また今後の中性子環境下での実用性を調べるために、中性子フルエンス0.1〜100×10^<13>n/cm^2の範囲で原研FNSに於いて照射実験を実施し、半導体X線感度変化と中性子照射量の相関の系統的データ収集を行った。この一連のDT中性子照射実験による、n型、並びにp型シリコン半導体検出器の中性子照射量に対するX線感度特性の評価・比較について以下の結果が得られた。(i)JETで用いているn型X線トモグラフィ検出器の中性子照射積分量に対するX線感度変化データより、n型半導体のX線感度変化の「非線形的振舞い」、即ち「X線感度は、ある中性子照射量の範囲に於いて照射量増大に伴い一時的に増大し、その後減少する」ことが見出されたのに対し、(ii)p型では、n型と同様に照射前に対する感度劣化は見られるものの、n型の非線形的な振る舞いと異なり、「照射量増大に対し緩やかな単調劣化を示す」ことが定量的に確認された。(iii)また、今回用いたp型半導体では、10^<15>n/cm^2を超える照射に対しても、照射前に比べ80%程度の感度を保つことが明らかとなった。これらの結果は、n型に比しp型半導体の優れた耐放射線特性を示すデータと位置づけられる。
著者
中澤 隆雄 今井 富士夫 新西 成男
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ポーラスコンクリートは,その特徴である多孔性によって種々の優れた特性を有している。吸音機能もその1つであり,近年では吸音機能に関する研究も次第に活発に行われてきており,本研究では,これまで道路交通騒音の低減が可能なポーラスコンクリートの開発を目的の1つとして,インピーダンス管による垂直入射吸音率のデータの収集や吸音壁の等価騒音レベル低減効果に関して,実験的な研究を行ってきている。ポーラスコンクリート壁を作製するにあたって用いた火山性軽量骨材のぼら,石灰石およびフェロニッケルスラグ(以下,FNSと記述)の3種類の骨材ならびに2種類の目標空隙率20%と30%が騒音低減効果に及ぼす影響を検討した。騒音低減効果の検討にあたっては,普通騒音計を用いて得られた100〜2000Hzの範囲の各1/3オクターブバンドの周波数の等価騒音レベルを用いている。また,壁供試体から抜き取った直径約100mmのコアに対して,インピーダンス管による垂直入射吸音率も測定し,吸音壁から得られた等価騒音レベルとの関連についても検討を加えている。得られた結果を要約すると以下のとおりである。(1)使用骨材別にみると,FNSを用いた壁の騒音低減効果が最も高くなった。これは粒径が他の骨材よりも小さいために空隙径が小さくなり,実際の空隙率も他の骨材の場合より低めになった影響と思われる。(2)FNSを用いた場合,特に1000HZ以上の周波数に対して,回折行路差の影響を上回る騒音低減が生じていることからも,FNSの吸音効果が高いといえる。(3)ぼらおよび石灰石を用いた壁の騒音低減効果がFNSほど大きくないのは,これらの壁の内部空隙を音が透過する影響によるものと考えられる。(4)ぼらおよび石灰石を用いた場合の垂直入射吸音率は,500Hz近傍で第1の吸音ピークが生じているが,この周波数域での壁の等価騒音レベルの低減量がそれほど大きくないことからも,壁内部の空隙を音が透過する影響があると考えられる。(5)同一骨材を使用した壁の空隙率の影響をみると,空隙率が小さい方が等価騒音レベルの減量は幾分大きくなる傾向が認められた。
著者
森 茂生 池田 直
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では (1-x)BiFeO_3-xBaTiO_3固溶体に着目し、磁気・誘電特性および結晶構造や強誘電分域等の微細構造について調べた。その結果本物質系は、x>0.33組成で存在する立方晶構造は、立方晶構造中にナノスケールサイズで強誘電性を有する菱面体構造が存在する2相共存状態として特徴づけられるとともに、強誘電分域が微細化され、x>0.33組成では、約20~30nm程度の大きさで強誘電ドメインと強磁性ドメインが共存し、磁気誘電リラクサー物質であることが明らかとなった。
著者
綾部 真一 青木 俊夫 明石 智義
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

植物成分の多様性に深く関わるシトクロムP450とトリテルペン環化酵素(OSC)の遺伝子/タンパク質構造と反応様式の関係,発現制御と生成物の生態生理機能,および分子進化を,ゲノム構造解析が進行中のマメ科モデル植物ミヤコグサを主な材料として研究した.ミヤコグサEST中のP450のカタログ化,一部の酵素機能の同定に続いて,イソフラボノイド骨格構築に関わるP450(IFS)の遺伝子構造を調べ,ミヤコグサゲノム中ではIFSが連続した生合成反応を担うO-メチル転移酵素遺伝子と並列して存在することを見出した.またマメ科に特徴的な共生窒素固定器官である根粒で強く発現するP450についてゲノムレベルで解析を行った.さらにIFSの遺伝子情報を基盤としたホモロジーモデリングと部位特異的変異導入によるタンパク質工学的な展開を試み,特異なアリール基転位反応における酵素活性部位のアミノ酸残基の役割を解明した.OSCに関しては,ミヤコグサの主要な酵素をほぼ網羅的に解析し,β-amyrin, lupeol, cycloartenol合成酵素を含む8種の遺伝子を見出した.また他植物の情報とあわせた分子系統解析により,植物トリテルペノイド骨格の多様性の進化要因が,特にβ-amyrin合成酵素群の変異によることが推定された.OSCの過剰発現・発現抑制形質転換ミヤコグサによる遺伝子機能の解析に着手するとともに,exon/intron構造の情報に基づくタンパク質工学的な手法によるOSC触媒機能の厳密な解析が可能になった.さらに生合成系の遺伝子発現と成分変動の全般的な関連付けに向け,ミヤコグサの種々の器官,細胞について成分プロファイルの解析を行った.これらの研究を通じて,特にP450とOSCのタンパク質構造と触媒機能の相関,および特徴的な植物二次代謝系の分子進化の機構に関して興味深い知見がもたらされた.
著者
今田 純雄
出版者
広島修道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究1では,簡便性・経済性を優先する食態度(簡便志向),食物および食卓状況から得られる快を希求する食態度(快希求),高塩分を含有する食物に対する嗜好(塩味嗜好),摂取抑制に特徴づけられる食行動(抑制的摂食),外発反応性に特徴づけられる食行動(外発的摂食),ストレスやつよい感情によって喚起される傾向をもつ食行動(情動的摂食),さらに主観的に知覚された心身の不調感(主観的健康障害)に注目し,それらの間になんらかの因果関係が存在するかどうかを検討した.主観的に知覚された心身の不調感(主観的健康障害)を従属変数側終末におき,共分散構造分析をおこない,仮のモデルを構築した.研究2では,研究1によって仮定されたモデルを,新しいサンプルを用いて,より詳細に検討した.研究1と異なる点は3点ある.第1に食物新奇性恐怖尺度を追加したことである.食物新奇性恐怖は,摂取する食物の範囲を狭くし,結果として栄養的に問題となる食行動を導く可能性がある.食行動と健康の関係を論じる場合に,欠かせない要因であるといえよう.第2は,データの処理を男女別に行った点である.食態度については,性差が顕著であり,今回のデータについても男女によりその構造が相当に異なった.第3は,主観的に知覚された心身の不調感(主観的健康障害尺度)を2因子構造のものとして処理した点である.これは本尺度が,「つかれ」を強調し,身体特定部位に限定的な症状に言及しない心理的疲労と,めまい,息ぎれなど身体的症状が比較的明瞭な身体的疲労との2因子構造をもつことが判明したためである.これらの変更点により,食行動と健康障害との関係は,より精緻に構造化され,食行動と健康障害との因果関係を指摘する結果を得た.研究3および研究4では,研究2でとりあげられた食物新奇性恐怖に関する実験調査をおこなった.研究5では,研究成果の異文化交差研究への発展の可能性について論じた.
著者
塚本 昌彦 義久 智樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

近年モバイルコンテンツが急激に増え、人々は携帯電話などを用いてアウトドアでメールやWebなどのコンテンツを利用するようになってきている。本研究では、このような状況を支援するため、アウトドアでウェアラブルな入出力デバイスを用いて大量の情報の操作を行うためのインタフェースを開発している。本年度は昨年度開発したシステムやテストの結果から得られた各システムに対するニーズや問題点などのフィードバックをもとに、今までのシステムを統合したルール処理エンジンを作成した。また、このルール処理エンジンを組み込んだマルチモード型デバイスの試作も行った。さらにマルチモードデバイスを用いた様々な状況依存型の入力方法について検討し、いくつかのシステムを構築した。両手に加速度センサをつけて角度でポインティングを行うXANGLEや、ボタンの押下時間を利用して少数のボタンに多数の機能を割り当てる方式、アナログジョイスティックと多層パイメニューを用いる方式、フットステップの動きを用いる方式など、さまざまな状況下で有効に活用できるような手法を実現し、検証を行っている。本研究に関して、本年度は論文1編と国際会議3編、国内研究会等6編の研究成果が出ている。現在さらに何編かの論文をまとめ、投稿中となっている。この分野は、今後、ユビキタス社会が進展するに伴い、ますます重要となる分野であるため、本研究で生み出された手法が実際に世の中で有効に活用されるようになる日は近いうちに必ず来るものと考えられる。
著者
神寶 秀夫
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

この三年間、科学研究費補助金の交付を得て、領邦都市マインツの統治構造を考察し、それを通して「中間権力」の観点から近世ドイツ絶対主義の特質を論究してきた。絶対主義体制において中間権力がどの程度の機能を果たしていたのかについて、最終的に以下の結論に至ることができた。領邦都市段階の当市の統治構造は、市民の誠実宣誓をまって大司教支配権が成立し得るという、前近代的な二元主義の特質を有していた。しかし、固有の身分制国家段階はすでに過去のものであって、市民の臣民としての服従義務が前面に出ているのである。市民の一定程度の自律性を保証する都市参事会及び兄弟団も、一方においては確かに「中間権力」としての性格をなおも維持しているものの、他方では、その性格も、都市参事会における参事会員の「終身制」、兄弟団の集会における同意権と「口伝の法」に関係した場合の裁判権・規約制定権にしか見て取れないほどに、制約されていた。兄弟団を、政治権力を制約された「社会的団体」と規定することができる所に、政治的権利と社会的権利(=営業独占権)との分離の一定の進展が認められ得るのである。以上のことから、近世(領邦)都市は、完全な「中間権力」の態をなしていた中世都市と「公法上の地方団体」である近代都市との間に位置する、独自の都市類型と把握することができるのである。そして、宮廷都市における中間権力の機能は、中世に比較し、限定的であったのである。
著者
荒川 正晴 吉田 豊 武内 紹人 吉田 豊 武内 紹人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

コータンより出土した豊富な文字資料のうち、漢語およびコータン語・ソグド語・チベット語関係の資料について精査し、新たな資料を発見するとともに、従来の研究の不備を補った。とりわけ大英図書館が所蔵するコータン出土木簡に未発表のものがあることを公表するとともに、これまで等閑にされてきたスウェーデン国立民族学博物館所蔵のコータン出土資料を調査し、これまでの研究の誤りを訂正したことは, 今後の文書研究および中央アジア史研究に資するところ大である。
著者
兵藤 晋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

軟骨魚類が海に生きるために、体内に尿素を蓄積することは必要不可欠で、複雑な構造を持つ腎臓での尿素再吸収がそのことを可能にしている。ゾウギンザメで新規尿素輸送体を複数同定し、飼育下のドチザメでは尿素輸送体が環境浸透圧の変化によって細胞膜への集積が可逆的に制御されることを見出した。進行中の広塩性アカエイや培養系での解析とあわせ、軟骨魚類の腎機能、脊椎動物での腎機能の進化の解明に大きく貢献した。
著者
西嶋 恭司 櫛田 淳子 河内 明子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,地上における大気チェレンコフ望遠鏡観測において,観測のスケジューリングや観測効率,観測データの質に大きな影響を及ぼす雲を常時監視し客観的な記録を残すために,赤外線全天雲モニターの開発を行うことであった.国立天文台で実用化された中間赤外線雲モニターをベースに,検出器部には8μmから14μmの赤外線に対して感度がある非冷却型固体撮像素子を備えた市販の赤外線カメラを用い,視野角を全天に拡大するための反射凸面鏡および副鏡を組み合わせた光学系を設計・製作した.画像の取得は,特注の45m長RS232Cケーブルでカメラとコントロールルームをつなぎ,パソコン上からGUIを用いてリモートコントロールできるようにした.リモートコントロールについては,適切なキャリブレーションを行えば,オフセットをオートにし,ゲインのみ調整すれば見やすい画像が得られることがわかった.また,昼間は摂氏40度を越える猛暑の砂漠の中で9日間の長時間連続運転テストの結果,一部のピクセルにノイズが乗ったものの正常に動作することが確認された.夜間の観測中には肉眼では視認できなかった薄い雲が,モニター画面上でははっきり見えており,その有効性が確かめられた.さらにデータを1次元スライスすると,雲の位置とその厚さが明確に見え,快晴でも天頂より低空の方が赤外線が強く見られた.当初,信号雑音比を上げるために画像の演算処理による重ね合わせを考えていたが,その必要が無いことも確かめられた.本雲モニターの導入により,空の状態の常時監視と客観的記録が実現するため、データの質の向上が期待され、効率的な観測のスケジューリングが可能となった。
著者
野村 彰夫 斉藤 保典
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

最終目標を"生活空間圏におけるバイオおよび有機微粒子動態の解明と制御"に置き、(1)太陽背景光の地上到達成分の精密計測(平成16年度に終了)と、(2)バイオ微粒子のレーザー発光スペクトル情報の取得(平成17年度課題)、について検討してきた。主な成果は次の通りである。1)花粉蛍光スペクトルのデータベース作成:バイオ微粒子代表として花粉を選び、蛍光スペクトルのデータベースを作成した。花粉症の主物質であるスギ、ヒノキ、ブタクサの他に、果樹や鑑賞植物等の花粉を含め20品目のデータが入力された。2)発光スペクトル計測システムの製作:励起には波長355nmのパルスYAGレーザを使用した。微弱な蛍光発光を効率良く集光するために、直径25cmの天体望遠鏡を利用した。蛍光発光は分光器でスペクトルに分解された後に、イメージインテンシファイアー付きのCCD検出器で検出された。3)発光スペクトル観測実験:3-1スギ花粉:システムから25m離れた位置にスギ花粉塊を置き、その発光スペクトルを観測した。480nmにピークを持つなだらかなスペクトルが得られた。3-2ヒノキ花粉:440nmにピークを持ち420nmに肩を有するスペクトルが得られた。スペクトル形状の比較により、スギとヒノキの花粉を区別できることが示された。3-3植物葉:40m離れた自生ポプラの葉の蛍光スペクトルを観測した。クロロフィル有機分子に由来する685nmと740nm、光合成の代謝二次産物に由来する460nmと530nmの特徴的なスペクトルが観測された。3-4ごみ焼却排煙:約3km離れた大型ゴミ焼却炉からの排煙の散乱検出実験を行った。廃出源から少なくとも1.6km以上に渡る拡散状況の三次元分布を得た。