著者
益子 洋人
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.125-132, 2020-08

本研究の目的は,援助要請における利益・コストの予期がその意図におよぼす影響を,過剰適応傾向の調整効果を確認するという観点から再検討することであった。大学生179名の回答を分析の対象として,「援助要請意図」の3因子を目的変数,援助要請における利益・コストの予期と過剰適応傾向の各因子を説明変数とする階層的重回帰分析を行った。その結果,「心理・対人関係に関する悩み」や「学業の悩み」を相談しようとする意図には「ポジティブな結果」の予期のみが有意な関連を示すことが示された。また,「健康の悩み」を相談しようとする意図には「ポジティブな結果」の予期だけではなく,「友人への他者志向性」と「友人への自己抑制」の交互作用項が有意な関連を示すことが示された。援助要請の利益・コストの予期と援助要請意図の間の関連の再現性が示され,相談相手と文脈を共有できるかどうかが明白ではない場面では,過剰適応傾向が一定の調整効果を持つ可能性が示唆された。
著者
服部 充洋 廣瀬 勝一 吉田 進
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.422, pp.85-91, 2004-11-09
参考文献数
9

SHA-OのメッセージスケジュールにはGF(2)上の16次原始多項式が用いられている.GF(2)上の16次原始多項式は全部で2048個存在する.各多項式を用いてメッセージスケジュールを構成することにより,2048個のSHA-O variantが構成される.本稿ではこれらのSHA-O variantsに対しCRYPTO'98で提案されたChabaud-Joux攻撃を適用する.そして,いくつかのvariantsが攻撃に耐性を持つこと,元のSHA-Oが必ずしも攻撃に耐性をもたないことを示す.また最も攻撃に弱いvariantにおけるcollisionを示す.これらの結果はChabaud-Joux攻撃を何ら改良することなくそのまま適用することにより得られる.
著者
藤田 欣裕
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.118-119, 2006-02-01 (Released:2008-03-07)
参考文献数
1
被引用文献数
2 1
著者
野村 岳志
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.123-132, 2016-03-01 (Released:2016-03-18)
参考文献数
41

肺エコー診断が集中治療領域に浸透してきている。肺エコーの利用といえば胸腔内の液体貯留の確認のみと考えられていたが,プロトコール化されたアーチファクト画像の理解により種々の病態が把握できるようになった。肺をエコーで診るというより,胸膜の動きと種々のアーチファクトを組み合わせて肺の状態を把握すると考えたほうが分かりやすい。そしてベッドサイドで短時間に種々の病態が診断できるようになり,不安定な患者状態のpoint-of-care診断に占める肺エコー診断の役割が増している。今後,異常呼吸音,副雑音などを聴診技法で教育するように,肺エコーも教育が必須となる診断技法と考える。この総説では,基本的な知識と主に診断に用いられる所見,肺エコーでの代表的な診断法,またピットフォールなどについて解説する。
著者
石垣 今朝吉
出版者
法政大学社会学部学会
雑誌
社会労働研究 (ISSN:02874210)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.p325-345, 1994-02

1973年10月に勃発した第4次中東戦争を契機として、翌74年から75年にかけて資本主義世界を襲った戦後最大といわれる不況は、成長率、失業率、国際収支、インフレなど、どの指標をとってもその危機的様相を反映したものであった。折しも1975年7月末から8月にかけて、フィンランドの首都ヘルシンキにおいて開催されるヨーロッパ安保協力会議(CSCE)に、35カ国の政府首脳が出席のため集まったのである。そのなかの西側4大国の首脳―アメリカのG.フォード大統領、フランスのV.ジスカールデスタン大統領、西ドイツのH.シュミット首相、イギリスのH.ウィルソン首相―は、それぞれ外相を伴って7月31日に、ヘルシンキのイギリス大使館での昼食会に参加したが、その席上、ジスカールデスタン大統領は極めて深刻な不況に直面している現実を前にして、日本も加えて経済・通貨問題に対処する会議を同年末にも開くべきだとする提案を行い、各国首脳の了解を得たのである。これがサミットの起源である。こうして、第1回サミットは、これら5カ国にイタリアを加えた6カ国首脳(第2回以降カナダを入れて7カ国)の参加のもとに、1975年11月15~17日、フランスのランブイエにおいて開かれたのである。以上のようなサミット生誕の経緯から明らかなように、当面の経済不況を各国の政策的協調によって切り抜けるための方策を話し合い、かつそれを見い出していこうということでサミットは始められたものであるが、経済的指標のいずれを取り出してみても、国際的側面と国内的側面との長いあいだの相互作用からもたらされた結果であって、国際的な政策協調だからといって、単純に方向転換できるようなものではないのである。それに各国の経済の発展は均等なものではないだけに、各国間の経済調整は容易なものではない。サミットが回を重ねるごとに、各国間の利害対立が小さくなるどころか、逆に激しくなる部分もあって、当初安易に考えられた成熟した資本主義国としての先進国の経済的利害調整は思うように行われなかったのである。この点で、フランス大統領ジスカールデスタンの当初の意気込みとは裏腹に、毎回会議の成果を集約して発表される共同「宣言」が世界各国の経済運営に影響を与え、なんらかの指針になるということはほとんどなかったのではないかと思われる。サミットは比較的均質化している経済構造をもつ先進7カ国首脳が一堂に会して相互間の経済調整を行い、もって世界経済の展望を切り開こうとするのであるが、各国とも石油危機あるいは世界的インフレからひき起こされた経済不況に対処して、自国内の景気政策を展開しなければならない。この点で、国際的な政策協調と国内的な経済対策とのあいだに齟齬をきたすことがしばしばあったようである。本稿は以上の点を特に念願におきつつ、国際的な政策協調の観点からサミットの分析を試みたのである。不十分とはいえ、以上の分析視角からのサミット論は、わが国では初めてではないかと思っている。
著者
寺田 徹 横張 真 田中 伸彦
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.723-726, 2009
被引用文献数
4 4

IPCCの第4次評価報告書をうけ、洞爺湖サミットにおいて各国首脳によりCO2排出量削減の必要性が確認された。今日、"低炭素化"は世界における共通の価値尺度となっている。京都議定書目標達成計画においては、CO2に代表される温室効果ガスの削減対策は、吸収源対策と排出削減対策とに分かれている。緑地による対策は、森林整備や都市緑化に代表される吸収源対策のみならず、管理時に発生する木質バイオマスのエネルギー利用に代表される、排出削減対策としても認められる。低炭素社会の実現に向け、緑地が従来以上に貢献するためには、吸収源としての役割のみならず、木質バイオマスの供給源としての役割も踏まえた上で、最大限の低炭素化を図ることが重要である。本研究では、首都圏郊外部の自治体のひとつである千葉県柏市を事例に、吸収源対策と排出削減対策とを一体的に捉え、緑地由来と産業由来の木質バイオマスとを共処理した場合の、CO2個定量及び排出削減量を明らかにすることを目的とした。
著者
伊藤 江利子 吉永 秀一郎 大貫 靖浩 志知 幸治 松本 陽介 垰田 宏
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.37-43, 2002-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
18
被引用文献数
1

関東平野におけるスギ林衰退の原因を解明するため,34地点の固定調査地でスギ林衰退度と土壌条件(母材,堆積様式,土性,表層0-8cm・次表層8-16cmの容積重,表層土壌孔隙率,有効土層深)との関係を検討した。衰退度は砂土が卓越する低地で高く,火山灰や堆積岩を母材とする埴壌土が卓越する台地および丘陵地で低い。容積重および孔隙率は衰退度と相関が認められ,表層土壌の物理的特性がスギ林衰退に影響を与えていた。また,表層土壌の堅密化の影響が有効土層深の深さによって緩和されることが示唆された。これらの検討の結果,強度のスギ林衰退は,土層厚が浅く,堅密な土壌で発生していることが明らかにされた。また,寺社境内では踏圧のため,表層が局所的に堅密化しており,そのような場所では極度の衰退が単木的に認められた。人為による土壌の物理性の悪化が,スギ衰退を助長していると考えられた。
著者
塩澤 佑一朗 小板谷 貴典 向井 孝三 吉本 真也 吉信 淳
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学学術講演会要旨集
巻号頁・発行日
vol.33, 2013

銅表面におけるギ酸の分解反応は、二酸化炭素によるメタノール合成の素過程と関連しており重要な反応系である。本研究では、Cu(111)においてギ酸の解離によって生成したフォルメートを時間分解赤外反射吸収分光(TR-IRAS)を用いて研究した。測定結果から、ギ酸分子からモノデンテートフォルメートを経てバイデンテートフォルメートに至る配向変化のキネティクスが明らかになった。
著者
木村 奈緒子
出版者
東京医療学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

これまでの研究結果より、日本におけるピア・サポートに関しては基礎研究が必要であることが明らかとなった。そのため、本年度は2つの基礎研究を行い、データの収集を行った。(1)ピア・サポートの活動内容の分析実際のピア・サポート活動をしているグループ(脳血管障害、頭部外傷)に聞き取り調査を行った。その結果、地域におけるピア・サポートは家族や専門職が運営しているグループがほとんどであることが明らかとなった。家族や専門家が直接介入していないグループは確認できただけでは5グループのみであった。グループの活動内容はグループを構成するメンバーの年齢と重症度によって変わっており、比較的若く後遺症が軽いグループは屋外での活動が多く、社会的就労も念頭に置いていた。一方高齢で歩行範囲が限られるメンバーがいるグループは話し合いが中心となっていた。どのグループも強いリーダーシップをとるメンバーがおり、全体の構成を考えながらスタッフ的な役割を担っていた。リーダーシップをとる人の負担は大きく、時間的経済的に大きな問題がないと行なえない現状があることが分かった。(2)ピア・サポーターの成長過程ピア・サポート活動をしている人(脳卒中既往者)を対象にインタビューを実施。得られた回答を分析した結果、「集まれる場所の必要性を実感する」、「同病者が気持ちを分かり合えることの重要性」、「助けられるばかりの自分から助ける自分への変革」、「既往者としての役割の任氏指揮」のカテゴリーに集約された。ピア・サポートを行うきっかけは多様であるが、必要性を強く認識していった過程が明らかとなった。更にリハビリテーションの中でピア・サポートの意識が育まれていったケースがあることが明らかとなった。
著者
青木 義勇
出版者
日本ハンセン病学会
雑誌
レプラ (ISSN:00241008)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.55-72,117, 1932

結核菌は酸素含有量の大な肺臓に,癩菌は同含有量の小な皮膚及び粘膜内に共の主臓器親和性を有する事は衆知の事實であつて,又同じく結核菌と雖も人型,牛型,鳥型,冷血動物結核菌間に共の差異ある事も否む事は出來ない。然るが故に抗酸性菌の各々は其發育に際し酸素を必ずしも同一の張力で要求しないといふ想像は強ち無根の推定ではあるまい。<br>著者は各種抗酸性菌16株(人型,牛型,鳥型,蛙各結核菌,BCG,ケドロウスキー氏,クレーグ氏,渡邊氏各所謂癩菌,著者が昭和6年春古木某男癩結節より分離せる抗酸性菌,鼠癩菌,チモテー菌,恥垢菌等の各原株及び近時共原株との生物學的性状,毒力の差異によつて興味を持たれて居る解離せられた所謂S型結核菌,BCG,チモテー菌)を選び,ハーリス氏法に從ひ培養試験管内に種々の張力(50mm, 100mm, 150mm,……1氣壓)の酸素を封入し,發育を觀察し同時に集落形成,菌體變形,抗酸性度の變化等を参考とし,共發育に必要な張力の限界を決定した。(菌株の來歴,各菌株の發育に最適な培地の撰定,ハーリス氏酸素封入装置及操作,抗酸性度測定法及び成績等詳細に独文原著参照)
著者
佐々木 順二
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.221-230, 2010

明治末期から昭和戦前期の日本の聴覚障害教育の方法的整備に耳鼻咽喉科学が果たした役割を明らかにするために、九州帝国大学医学部耳鼻咽喉科学教室の臨床・研究環境の整備が国内の聾唖教育の方法的整備にどのように関与したのかを分析した。同教室による聾唖教育の方法的整備への関与の内容を要約すれば、(1)無響室、声音及言語障碍治療部等の設置による聾唖や残聴利用の基礎的・臨床的研究の促進、(2)臨床・研究上の知見に基づく、福岡盲唖学校の口話教育・残聴利用の教育との連携、(3)聾唖教育関係者への日本初の検査設備・機器の紹介という三点であった。今後、同時期における聴力検査の実質的効果、耳鼻咽喉科医師による聾唖教育の制度的・方法的整備への影響等、さらに解明していく必要がある。
著者
土屋 大洋
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.155, pp.155_109-125, 2009

This paper analyzes political connections using a method based on network theory. Recent developments in network theory, which have been accelerated by advances in computers and data collection, can be applied to various research areas including physics, information society studies, sociology and other social sciences.<br>This paper uses network theory to analyze networks among U.S. senators who submitted bills related to Japan in the 109th Congress, focusing on cosponsorship of bills. Senators sometimes submit bills with other senators to make them more prospective, to gain more attentions, or just to deal with political bargains. This paper assumes that senators who co-submit bills more often have tighter connections and organize wider networks. Although it is difficult for an outsider to know who has what kinds of connections with whom in politics, it is easier to track who acted with whom in co-sponsoring bills in Congress.<br>The results of the analysis show that Japan-related bills were led by influential leaders in the senate such as Barack Obama, Joe Biden, Hillary Clinton and Joseph Lieberman, who played important roles in the 2008 Presidential election. They were active in submitting and co-sponsoring bills and had higher scores in network indexes such as degree, between centrality, and closeness centrality. This implies two possible hypotheses. First, those influential leaders themselves were interested in Japan-related issues. Second, no specific senators were interested in the issues and that is why the influential senators seemed to be leading. These hypotheses should be tested in combination with other analytical methods.<br>Network analysis has three advantages. First, it focuses more on relationships among actors instead of looking at the characters of individual actors. Most of conventional analysis methods look at who actors are and what they do. In contrast, network analysis focuses on who is connected to whom and how. Second, the development of network analysis and data collection could give us alternative perspectives and new results based on large amounts of data. Third, network analysis could be used not only for proving hypotheses, but also for finding new ones.<br>Network analysis can be applied both to case studies in international relations and to enriching the theories of international relations. Actors in international relations vary from nation states (or governments), multi-national or global corporations, non-profit or non-state organizations, and even to individuals. Network analysis tells how they are connected and how they are interacting. It should reveal more dynamic relations rather than stable structures.
著者
中川 幸子
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌. C (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.389, 2017

<p>2016年9月,アメリカで癌撲滅への国際ネットワークを強化したいとする「日米韓・保健省会合」が開催され,各国の保健相が,共同研究支援,治療方法の特定,治療情報の共有を目指して協議した。長男を脳腫瘍で喪失して日の浅いアメリカのバイデン副大統領は,『がん撲滅は人を月に</p>
著者
羽鳥 修 Osamu HATORI
出版者
駒沢女子大学
雑誌
駒沢女子大学研究紀要 (ISSN:13408631)
巻号頁・発行日
no.15, pp.115-133, 2008-12

The American Presidential Erection of 2008 is drawing near. The parties have already nominated each candidate; the Democratic Party's nominee is Barack Obama and his VicePresident Joseph Biden; while Republicans field John McCain and Sarah Palin.The aim of this paper is to explore the meaning of this "historic election," even though the Democratic campaign originally was between Obama and Hillary Clinton. Obama is the first African-American presidential candidate and Clinton would have been the first female candidate in America political history. This means a black or a female president would be the first such president in U.S. history. Obama finally got the nomination. Is his nomination "historic" in itself? This seems to be unquestionable, but more important is who Obama is. What does this choice mean? Why was he nominated? What made American voters choose Obama? What did over 35 million voters who participated in the primaries and the caucuses of the Democratic Party expect of Obama? Answers to these questions lie in Obama's duel strengths. One is his race, which Obama has separated from traditional black candidates'stances. The other is his "diversity," which finds sources in his social background; having an African father and an American mother. This diversity has been effectively utilized in his " grassroots" campaign strategy. This is why Obama has been supported by a wide spectrum of supporters, especially by those of the younger generation, who supported Obama in his campaign organizationally and financially using such contemporary tools as the social networking sites "YouTube" and "Facebook." Technology makes it easier than ever to create networks and share enthusiasm among young people. Obama spoke not only directly and personally but spiritually and inspirationally to voters in his campaign. Those who voted for Obama are expecting him to promote the American dream of uniting a racially and culturally diverse country; the national motto "E Pluribus Unum"(one from many) indicates this. Obama's nomination reflects the public sentiment of over 17.5 million voters; this is a very" historic election, " which American voters showed through the primary race in the Democratic Party.
著者
大河内 眞也
出版者
東北大学
雑誌
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 探索タイプ
巻号頁・発行日
2012

我々は間葉系幹細胞(MSC)が分泌する液性因子STC1(Stanniocalcin-1)が、1過酸化ストレス軽減、ミトコンドリア機能改善を介して肺胞上皮細胞を保護すること、2STC1の気管内投与が間質性肺炎動物モデルの線維化を軽減すること、を見出し特許出願した。しかしいくつかの癌でSTC1高発現例が報告されており、投与による癌化誘発の懸念がある。MSCが障害局所に集積する作用を持つことに着目し、STC1過剰発現MSCを作成、投与し、肺障害局所への効率的STC1デリバリーと癌化リスク低減を可能にすることを本課題の目的とした。今回我々はSTC1過剰発現MSCを作成し、動物モデルにおける研究より上記目的をほぼ達成した。今後、臨床応用に向けた研究、技術移転などを展開する予定である。
著者
長谷川 稔
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-36, 2008 (Released:2008-03-01)
参考文献数
130
被引用文献数
2 2

全身性強皮症は,皮膚や内臓臓器の過剰な細胞外基質蛋白の沈着と血管障害により特徴づけられる自己免疫疾患である.その病態はいまだ不明であるが,ほとんどの症例がレイノー現象という虚血再還流による臨床症状で発症する.繰り返すレイノー現象による血管内皮細胞障害がトリガーとなって,組織への細胞浸潤,浸潤細胞からのサイトカイン産生が生じ,組織の線維化が生じる可能性が考えられる.これらの過程において,ケモカインは白血球の浸潤,活性化とそれに引き続く浸潤細胞と線維芽細胞との相互作用などを介して,重要な役割を果たしているものと考えられる.これまでに,強皮症やそのモデルマウスにおいて多様なケモカインの発現異常や病態への関与を示唆する知見がみられるが,中でもmonocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1/CCL2)とその受容体であるCCR2の役割が重用視されている.本総説では,これまでに報告されている各種ケモカインの強皮症において想定される役割について概説する.
著者
大日向 耕作
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

食欲調節におけるプロスタグランジン(PG)類の役割を明らかにするため、飢餓状態における視床下部PG合成酵素の発現量の変化を測定し、リポカリン型PGD2合成酵素の発現量が上昇することを見出した。PGD2がDP1受容体を介して摂食促進作用を示すとともに、DP1受容体を阻害することにより摂食量、体重、脂肪量が著しく低下することから、PGD2はエネルギー不足状態で活性化される新しい摂食促進因子であり、食欲調節に重要な役割を演じていることがわかった。一方、PGD2の構造異性体であるPGE2はEP4受容体を介して摂食抑制作用を示すが、angiotensin AT2アゴニストのnovokininが、本経路を活性化する経口投与で有効な摂食抑制ペプチドであることを明らかにした。また、中枢神経系にも存在するangiotensin IIがAT2受容体の下流でPGE2-EP4経路を活性化し、摂食抑制作用を示すことも明らかにした。菜種タンパク質由来の摂食抑制ペプチドArg-Ile-TyrがCCK分泌能を有することをSTC-1細胞を用いて明らかにした。また、本ペプチドは動脈弛緩作用ならびに血圧降下作用を有するが、動脈弛緩作用がコレシストキニン(CCK)放出を介することを明らかにした。これはCCK自身が動脈弛緩・血圧降下作用を有することを示唆する重要な実験結果である。なお、大豆タンパク質由来のグレリンアゴニストペプチドを探索したが、新規ペプチドの同定には至っていない。現在検討中である。