著者
福井 康貴
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.73-88, 2015 (Released:2016-06-30)
参考文献数
41
被引用文献数
3

本稿は, 二重構造論の枠組みを非正規雇用の問題に導入することで, 若年期の非正規雇用から正規雇用への移動という現象に従来とは異なる図柄を示す. 二重構造論によれば, 各セクターの雇用慣行の違いから, 求められる職業能力や市場環境への反応は異なっていると考えられる. また下位セクターから上位セクターへの移動も困難だと予想される. そこで, 初職に非正規雇用として就業した若年層を対象として, (1) 非正規雇用時の職業と市場環境が正規雇用時の従業先に与える影響と, (2) 非正規雇用時の従業先が正規雇用時の従業先に与える影響を, 2005年SSM調査のデータを用いて検証した.分析の結果, 大企業・官公庁では専門職が正規就業しやすく, 初職に就いた後の景気後退が正規就業を妨げているのにたいして, 中小企業では熟練職が正規就業しやすく, 学卒時の市場環境の悪さや初職に就くまでの間断が正規就業に負の影響を与えていた. また, 大企業・官公庁の出身者が大企業・官公庁で正規雇用として就業しやすく, 非正規雇用時の従業先が正規雇用時の従業先に影響を与えることが明らかになった. 以上の結果は, 日本における非正規雇用からの移動において, 労働市場の構造のなかでの非正規労働者の位置づけが, 望ましい従業先への到達チャンスに影響することを示しており, 二重構造論的な視角の有効性が示唆される.
著者
齋藤 道彦
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.539-561, 2015-11-30

琉球革命同志会・台湾省琉球人民協会・琉球国民党などの組織は,中国国民党/中華民国政府の意を受けた「琉球」吸収工作機関だった。本稿では,中国国民党・中華民国政府による1948年から1971年までの琉球/沖縄吸収工作を検討する。検討対象資料は,「喜友名嗣正(中国名:蔡璋)1948年8月22日付け葉次長閣下あて文書」,「琉球革命同志会工作報告」・台湾省琉球人民協会「工作報告(8,9月分)」(1948年10月付け),琉球革命同志会1949年12月「備忘録」,蔡璋「琉球国徽の由来琉球『万暦の役』の惨痛」(1949年2月25日『中華日報』)「琉球革命同志会・琉球人民協会」名「籲議書」(日付け不明),「中国国民党中央改造委員会から葉公超部長あて1951年2月20日付け代電」,「中国国民党中央委員会第 組から外交部葉公超部長あて1952年7月14日付け書簡」ほかの中華民国中央研究院近代史研究所檔案館所蔵の外交部檔案電子資料である。
著者
萩原 俊紀
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.510-513, 2011-10-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
6

クメン法は開発されて半世紀以上が経った今でもフェノールの工業的合成方法の主流となっている優れた反応である。高校の教科書にも必ず記載されているが,その反応機構についてはまったく触れられていない。それはこの反応がプロピレンとベンゼンの求電子置換反応,ラジカル連鎖機構によるクメンの空気酸化,アニオン転位を伴うクメンヒドロペルオキシドの酸分解などを含む,高校の有機化学の範囲をはるかに超えた複雑な機構で進行しているためである。本講座では有機化学の基本となる電子と結合の関係から始まって,クメン法の反応機構をできるだけ平易に解説する。
著者
馬渡 玲欧
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.139-163, 2019-10-16 (Released:2021-10-24)
参考文献数
38

本論文ではマルクーゼの「労働と遊び」論における一九三〇年代初頭の議論と一九五〇年代の議論を再検討する。前者については、必需品を生産する領域の彼方にある自由の領域において、歴史的な現存在である人間をつくりあげる「行為としての労働」にとっては、他者や対象への予測が必要となり、その予測を可能とするのは現存在の存在論的な場であることを明確にする。この場を確保するための条件として、労働と労働のあいまに位置する「遊び」が必要となるのである。マルクーゼは三〇年代の問題構成を五〇年代に洗練させる。特に本稿では精神分析家ヘンドリックが主張する、効率的な仕事が快楽をもたらすとする議論へのマルクーゼの反論を取り上げる。この過程でマルクーゼが遊びこそが疎外された労働や産業社会における生産性信仰を克服する方途であるとみなしていたことを示す。市民社会における業績原理は生産性という桎梏にとらわれており、それゆえに必然的に承認のイデオロギーや強制された自己実現の隘路に陥らざるを得ない。「労働と遊び」論の社会理論的検討は生産性信仰に陥りがちな労働の過程から距離を取ることができる点で有用である。
著者
西岡 大輔 上野 恵子 舟越 光彦 斉藤 雅茂 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.461-470, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
43

目的 経済的困窮や社会的孤立など,生活困窮状態は健康の社会的リスクであり,医療的ケアの効果を阻害する要因でもある。近年,患者の社会的リスクに対応する医療機関の取り組みが広がりを見せつつあり,その対象者を適切にスクリーニングできる方法の確立が求められる。そこで,医療機関で活用することを想定した生活困窮評価尺度を開発しその妥当性と信頼性の一部を検証した。方法 5つの医療機関を新規に受診した成人を対象に横断研究を実施した。生活困窮に関する25の質問の回答結果を用いて探索的因子分析を行った。反復主因子法により因子数を規定し因子を抽出した。プロマックス回転を用いた。抽出された因子の妥当性と信頼性を検証した。信頼性の検証には標準化クロンバックα係数を算出した。得られた結果から因子負荷量が高い設問を選択し,簡易尺度の問診項目を選定した。結果 対象者は265人であった(回答率:75.1%)。因子分析の結果,経済的困窮と社会的孤立の2因子が抽出され,因子負荷量が0.40以上のものとして,経済的困窮尺度では8問,社会的孤立尺度では5問が主要な設問の候補として抽出された。標準化クロンバックα係数は,経済的困窮尺度で0.88,社会的孤立尺度で0.74であった。さらに,簡易尺度の問診項目を各因子の因子負荷量が高いものから2項目ずつ選定した。すなわち「この1年で,家計の支払い(税金,保険料,通信費,電気代,クレジットカードなど)に困ったことはありますか。」「この1年間に,給与や年金の支給日前に,暮らしに困ることがありましたか。」「友人・知人と連絡する機会はどのくらいありますか。」「家族や親戚と連絡する機会はどのくらいありますか。」であった。考察 医療機関で患者の生活困窮を評価することを想定した尺度を開発し,一定の妥当性・信頼性を確認した。尺度の実用化に向けては,保健・医療・介護・福祉・地域社会の十分な連携のもと,質問項目の回答に対するスコアリングと地域や医療機関の特性に応じた本尺度のカットオフ値の設定,さらなる一般化可能性の検証等が必要である。
著者
柏木 充 田辺 卓也 七里 元督 玉井 浩
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.310-315, 2003-07-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
13

せん妄は脳炎, 脳症の急性期にみられることがあり, 早期診断と早期治療において注意を要する症状である. そこで, 高熱に伴うせん妄を呈した10症例を検討することより, 一過性良性のいわゆる “高熱せん妄” と, 中枢神経感染症によるせん妄との鑑別を試みた. せん妄は視覚の幻覚が多く, 内容では鑑別は困難であった. 昼間覚醒時にも認めたこと, せん妄を呈さない時も意識障害を認めたこと, 脳波における背景活動が著明な徐波化を示したことなどが脳炎・脳症に伴うせん妄の特徴であり, いわゆる “高熱せん妄” と異なっていた. せん妄を呈した症例の診断には経過や神経学的所見と合わせ積極的な脳波検査が必要と思われた.
著者
松本 正生
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.60-73, 2013 (Released:2017-12-06)
参考文献数
14

「小泉郵政解散」総選挙時(2005年)に筆者が措定した「そのつど支持」は,日本人の政治意識として広く一般化した観がある。09年の政権交代前後からは,とりわけ,中高年層の「そのつど支持」化が顕著である。投票態度との関連で言えば,「そのつど支持」と は「その時限り」の選択でもあり,投票行動は眼前の選挙限りで完結し,選挙そのものが短期的なイベントとして消費されがちになる。いわゆる無党派層や浮動票は,若年層の政治意識や投票行動を表象する概念として用いられてきた。しかしながら,これらはすでに,中高年層の特性へと転移したと言わざるを得ない。中高年層の「そのつど支持」化は,また,選挙ばなれと表裏の関係にある。2012年総選挙結果は,近年の地方選挙における選挙ばなれが,国政選挙にも波及しつつあることを示唆している。すなわち,12年総選挙での投票率の低落には,政治不信や政党不信と形容される一票のリアリティの消失に加えて,社会の無縁化に起因する地域社会の変容も介在していると思われる。この小論では,筆者が上記解釈のよりどころとしたデータをいくつか紹介する。なお,論述のスタイルは,仮説-検証型の演繹的手法ではなく,各種調査結果の単純比較を通じた経験的解釈に終始する。会員諸兄のご批判を仰ぎたい。
著者
村上 茂
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.34-36, 2016 (Released:2019-11-11)

さまざまな動物モデルを用いて、タウリンの抗肥 満作用が明らかにされてきた。タウリンの抗肥満作 用には、脂質代謝改善作用、抗炎症作用、ミトコン ドリアの機能維持作用、中枢作用などが関係してい ると考えられる。健常な小型の脂肪細胞はタウリン 合成活性が高いが、肥満動物の肥大した脂肪細胞で はタウリン合成能が低下し、これに伴い血中タウリ ン量も減少することが知られており、タウリン欠乏 と肥満の関連も示唆されている。一方、ヒトにおけ るタウリンの抗肥満作用は研究例が少なく作用も 明確ではない。
著者
村田 陽平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.463-482, 2004-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

今日の空間論においてジェンダーという視点は注目されつつある一方,男性という主体がその意味を的確に認識しているかは疑問の余地がある.そこで本稿では,男性によってジェンダーの視点を導入して設計されたといわれる岐阜県営住宅「ハイタウン北方・南ブロック」を事例に,この問題を検討した.具体的には,総合プロデューサーの男性建築家,南ブロックの居住者,男性建築家に選定された7名の女性設計者,施工主の岐阜県,という四つのアクターから,この居住空間の実態を分析した.その結果,この居住空間は,ジェンダーの視点を踏まえたものというより,むしろその視点が問題にしてきた男性中心的な発想で生産されたものであることが判明した.このことは,空間論においてジェンダー概念に伴うポジショナリティの意味が,男性という主体に十分に把握されていない表れであると考えられる.
著者
中村 絵美
出版者
北海道立北方民族博物館
雑誌
北海道立北方民族博物館研究紀要 (ISSN:09183159)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.071-084, 2022-03-25 (Released:2022-07-01)

The Hokkaido Museum of Northern Peoples houses one Ainu garment and one Tamasai (Ainu necklace) which were donated by one of the Ainu people, SHIBA Haru (birth date unknown -1963) to a researcher, TANIMOTO Kazuyuki (1932-2009). The author has been conducting research on local photographs taken in Hokkaido, particularly taken in the Oshamambe area. Our research group including the author has confirmed that the photographs and the postcard's pictures from the Meiji period (1868-1912) to around the 1950s show not a few scenes of rituals and commemorative photos shoots of the Ainu people of Oshamambe wearing traditional garments. In this paper, the author first shows photographs of these two materials as above from the museum and then identifies each artifact by the photographs. Thus the author clarifies the areas where the materials were used, the approximate dates of use, and the wearing situation of Ainu people including the donor. In addition, the auther argues that there is a close relation between the materials of the Hokkaido Museum of Northern Peoples and the Ainu clothing collections of Oshamambe town regarding their situations in which they are used by cross-referencing and analyzing the materials and the photographs.
著者
神吉 直人
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.308-311, 2021-09-30 (Released:2021-10-21)
参考文献数
13

Mark S. Granovetter's "The strength of weak ties," known for its paradox that "weak ties have more social functions than strong ties," has contributed to academic progress in various fields. This is truly an epoch-making paper.His key findings in this paper can be summarized as follows. First, as a premise of the proposition, Granovetter proposed a viewpoint that focuses on the strength of the relationship (dyadic ties) between two parties. Next, the function of transitivity caused by strong ties is discussed. And it is also emphasized that the process of interpersonal networks should be analyzed as a bridge between micro- and macro-level social theories. In this essay, I will discuss the importance of this paper mainly from the viewpoint of innovation management, focusing on these three points.
著者
鈴木悠理
出版者
未来の人類研究センター
雑誌
コモンズ (ISSN:24369187)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.1, pp.127-142, 2022 (Released:2022-05-11)

本研究は、初期近代イングランドを中心としたヨーロッパに焦点を当て、その時代における男同士の身体的、性的接触にまつわる言説を分析する。イングランドを含むヨーロッパのキリスト教圏では、男同士の性的な結びつきはソドミーやバガリーと呼ばれ、神に対する反逆的な行為であり、社会の秩序を転覆させかねない大罪と見なされていた。その一方で、ギリシア・ローマ古典を再生産する芸術活動の分野においては、男同士、特に成人男性と少年のあいだに生ずる性的な接触がホモエロティックなものとして美化されることも可能であった。 現代におけるホモセクシュアリティとホモフォビアは、前者が同性間の愛情あるいは欲望、後者がその嫌悪の対極に位置している。しかし、初期近代に用いられていたソドミー/バガリーという非難的な言葉と、牧歌的なギリシア・ローマ神話の再生産のなかにみられる同性間の接触の肯定的表現は、そうした軸の両極に位置するわけではなかった。本研究では、そのどちらもが異教/異郷の他者の表象であり、身体の接触が強制されること、そして少年への嫌悪と性愛が混在しているという共通項を持っていることを指摘する。そして、ソドミー/バガリーとホモエロティックな表現の共存は、先行研究で指摘されたような矛盾ではなく、同性間の性的な欲望という同じ領域における表現のあり方であったことを明らかにする。
著者
近藤 真由 後藤 昌人 安田 孝美
出版者
日本社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会全国大会研究発表論文集 日本社会情報学会 第24回全国大会
巻号頁・発行日
pp.140-143, 2009 (Released:2010-02-26)

In recent years, the websites that were successful on web business are the ones that functions as a "database media". An original database is built, and users participate adding data to it. As a result, the value of contents that can be offered on the website is enhanced. In this study, we verify how these concepts of database media are applied in a new local community website. Showing clearly how database media are utilized in an area and what kind of effect is obtained is important not only for the local website, but also for the local community.