著者
真下 節 浜中 俊明 内田 一郎 西村 信哉 吉矢 生人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的はキセノンの麻酔作用が非特異的それとも特異的かということを明らかにすることである。1)X線回折法を用いた紫膜に対する吸入麻酔薬の結合部位の同定:揮発性麻酔薬を作用させた紫膜と作用させない紫膜の双方のX線回折結果から得られた位相、強度比から差フーリエ図を作成し、さらにモデル計算による結合位置の精密化を行った。その結果、麻酔薬分子はバクテリオロドプシン3量体内のタンパク質/脂質境界付近に結合していることが明らかになった。さらに、膜厚方向のX線散乱強度の変化から、麻酔薬分子は膜表面に存在することがわかった。さらに、耐圧測定セルにキセノンおよび亜酸化窒素を1,2,3,4,5気圧の各濃度で封入した紫膜試料においてX線回折を試みている。2)GABA_A受容体およびNMDA受容体に対するキセノンと亜酸化窒素の作用:抑制系受容体の再構成GABA_A受容体(α1β2とα1β2γ2s)のイオンチャンネル機能に対するキセノンの作用を亜酸化窒素や揮発性麻酔薬と比較検討した。その結果、GABA_A受容体のClカレントに対してキセノンが亜酸化窒素とともに賦活作用を示さないことを明らかにした。そこで、キセノンや亜酸化窒素は他の受容体に特異的に作用するのではないかと仮定し、興奮性受容体であるNMDA受容体に対する作用を検討した。再構成NMDA受容体(ζ_1ε_1)のイオンチャンネル機能に対するキセノンの作用を亜酸化窒素や揮発性麻酔薬と比較検討した。2電極固定法を用いてNMDAにより誘発されるNMDA受容体Ca^<2+>/Na^+電流に対する各麻酔薬の効果を測定した。イソフルランとセボフルランは0.5MACさらに1.0MACにおいてNMDA受容体Ca^<2+>/Na^+電流に影響しなかった。一方、臨床濃度のキセノンと亜酸化窒素はNMDA受容体Ca^<2+>/Na^+電流を濃度依存的および可逆的に抑制した。これらの結果は、揮発性麻酔薬はGABA_A受容体系に対して、キセノンと亜酸化窒素はNMDA受容体に特異的に作用することを示唆している。本研究により、キセノンは不活性ガスであるにもかかわらず作用特異性を有するという結論が得られた。
著者
川内 規会 オガサワラ メリッサ 山田 真司
出版者
青森県立保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、医療通訳に焦点を当てながら外国人患者と医療従事者が抱えているコミュニケーションの問題を分析し、医療通訳の今後の可能性を考察した。在日外国人対象の調査では、外国人患者の医療現場における言語上の不安要因が明らかになり、さらに外国人患者は病院内の説明を十分に理解していないという結果から、「情報保障」の問題が重要視された。医療通訳の調査では、通訳者の活躍が期待されているが、医療通訳派遣システムが形作られている大都市の課題と外国人が少ない地域でかかえる課題には、将来的な改善点が大きく異なることから、今後、地域社会のニーズに合わせた段階的な医療通訳の対応が必要であると考える。
著者
景井 充 大谷 いづみ 中井 美樹 天田 城介 崎山 治男 出口 剛司 中里 裕美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

長きにわたって日本社会の基盤であり続けてきた、日本独特の<社会的なるもの>が、1990年代後半に始まった新自由主義的な社会変革によって、急速に喪われつつある。このことを、社会階層やライフスタイルの変化、「心理主義」の広範な浸透、ケアの個人化、生命倫理に関わる言説の変化に着目して、理論的および実証的に明らかにした。また、そうした状況を踏まえて、今後新たな社会的連帯を再構築するための基本的方向性を検討した。
著者
東樹 宏和
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

クリシギゾウムシは、ブナ科植物の種子(ドングリ類)に産卵を行う。しかし、ブナ科の植物の多くは、ゾウムシに食害されないために、タンニンという毒物質を高濃度で種子に蓄積するよう進化している。しかし、昆虫は一般に、タンニンを分解する酵素を生成できないと考えられており、なぜクリシギゾウムシがブナ科種子を食害できるのか、明らかになっていない。そこで、クリシギゾウムシ体内に共生する細菌類に着目して、この細菌類がドングリの毒を無害化する上で「助っ人」として働いているのか、検証を行った。タンニン分解酵素(タンナーゼ)の生成は、様々な細菌類で報告されおり、この細菌の潜在的な機能に焦点をあてた。ゾウムシ体内からクローニングした細菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列を調べたところ、新奇な共生細菌がクリシギゾウムシと共生していることが明らかになった。この細菌(以下、一次共生細菌)の16S rRNA配列をターゲットとした蛍光in situハイブリダイゼーションの結果、この一次共生細菌がゾウムシ幼虫体内の中腸前部に付着する「菌細胞塊」に詰め込まれていることがわかった。さらに、雌成虫の体内では、卵巣小管への感染が認められ、卵への感染を通じて、ゾウムシの世代を越えてこの一次共生細菌が受け継がれていることが推測された。この一次共生細菌の塩基配列の組成から、ゾウムシとの長い共生関係を経てゾウムシの体内でしか生存できないような進化を遂げていることが示唆され、すでにゾウムシの「体の一部」としてゾウムシの生存や繁殖に有利な機能を提供していることが推測された。
著者
河内 啓二
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

トンボのモーターニューロンを染色し、詳細に観察した。その結果、胸部ガングリオンからはばたき飛翔筋までの神経系は極めて複雑で、多くの神経情報を処理統合して、はばたき運動を行っていることが明らかになってきた。今後はセンサー系からの信号ループがどう連なっているかを調べる必要がある。一方、はばたき運動の外見の観察からは多くの事が明らかになってきている。トンボの翅は付け根において、胴体と一枚の翅につき2つの関節で結合されており、1つづつの関節に最低一対のはばたき飛翔筋が備わっている。左右前後の翅を合わせると、1匹のトンボで計8対(16本)以上のはばたき飛翔筋が見い出せ、それに加えて制御用と思われる筋肉が多数存在する。それぞれの筋肉が上記のモーターニューロンで制御されており、飛行に要する情報量は膨大なものとなっており、この情報処理の課程が、昆虫の知能を解くキ-ポイントである。トンボの翅は、はばたき運動で生ずる慣性力や空気力に比べて極めて剛く、殆ど弾性変形を利用しないではばたき運動を行なう。従って、打ちおろしと打ちあげの空気力の差は、殆どが翅の捩り制御によって行われ、この運動の1つ1つの筋肉によって正確かつ意図的にに行われていることが明らかになってきた。これに対して、蝶のような低アスペクト比の翅を使う昆虫は、翅の捩り制御が構造的に大きくできず、低速において捩り制御だけでは、必要なだけの制御を行なうことができない。その結果、胴体も翅と一緒にピッチング運動させ、大きな迎角の変化を実現させている。蝶が外から観察するとヒラヒラと飛んでいるように見えるのは、翼面荷重が極めて小さく加速度運動に優れていることに加えて、上記の制御方法をとっているからである。
著者
田中 健夫 今村 亨
出版者
山梨英和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,いじめ体験が生徒の自己形成にどのような影響を及ぼすか,とりわけ被害体験を併せもつ加害生徒に焦点を当てて臨床心理学の視点から検討した。養護教諭と児童自立支援施設専門員に対して半構造化面接を実施し,学校と矯正教育における指導・支援の実情と課題を整理した。思春期に特有の加害-被害者の結びつきに関する理解をふまえること,閉じた関係とは異なる文脈の人間関係のなかで自ら罪悪感を表現すること,加害性を含めた生徒自身の問題について生活や作業場面でのつまずきや不満を糸口にして支援を進めることの意義について考察した。
著者
福田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1年目となる19年度においては,オーストリアとチェコにおけるオリエンタリズムの比較を行った。その素材として着目したのが,戦間期にヨーロッパ運動の担い手として活躍したチェコ地域出身の貴族,リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーとカール・アントン・ロアンの2人である。両者はヨーロッパ統合史のなかで重要な意義を持つ人物であるが,私は,彼らのヨーロッパ意識とその裏返しとしてのオリエント意識に注目し,オーストリアとチェコにおける「非ヨーロッパ」への眼差しを抽出する作業を行った。この点に関しては,東欧史研究会などで口頭報告を行い,既に論文を投稿しているが,今年度中に公にするには至らなかった。本報告書で挙げた2つの業績は,この作業の副産物と言えるものであるが,メインの成果ではない。今年度の反省点である。なお,私は19年2月より在スロヴァキア大使館の専門調査員に採用されたため,本研究は18年度で終了し,19年度と20年度については廃止せざるを得なくなった。私が若手研究(B)を途中でキャンセルするのはこれが2回目である。前回(課題番号14720059,H14〜16)の場合は,北海道大学法学部助手の任期が途中で切れたため,今回については,同大学スラブ研究センター助手の任期が18年度で切れたため,である。今回については,同機関で無給のポストを得,科研を継続できる見込みはあったが,生活が成り立たなくてはそもそも研究はできない。痛恨の極みである。無給のポストでも科研費を得られるという現在の制度については,多くの若手研究者が高く評価しているが,アルバイトなどで生活の糧を得ながら研究を遂行するには多くの困難が伴うのも事実である。今後は,科研費の「中断」などを可能にするなど,一層の柔軟な運用をお願いする次第である。
著者
福井 勝則 大久保 誠介 羽柴 公博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

AM帯域に混在する電磁波の観測を行い, 地震発生の1ヶ月前から電磁ノイズが増加し始め, 10日前にピークに達し, その後低下し(空白期間といえる部分が存在), 地震に至るという例が多数見られることを示した. 岩石破壊試験を実施した結果, 電磁ノイズなどの予兆現象が地震のかなり前にピークを迎えることは解釈が難しく, 破壊の集中あるいは水の移動により, 空白期間が発生した可能性が高いことを示した.
著者
坂本 多穂
出版者
福島県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

高コレステロール血症治療薬スタチンは横紋筋融解症や筋力低下などの筋毒性をもつが、その発症機序は不明である。低分子量G蛋白質Rabは、脂質ゲラニルゲラニルピロ燐酸(GGPP)を介してオルガネラ膜に結合し、小胞輸送を制御する。我々は以前、スタチンがGGPPを枯渇させ、Rabを不活性化させて筋空胞変性を起こすと報告した(Sakamoto et al.,2007EASEB J)。しかし、Rabには60以上のアイソフォームがあり、それぞれが固有の輸送経路を制御する。本研究では、スタチンがどのRabアイソフォーム、どの経路を阻害し筋毒性を起こすのか調べた。小胞体・ゴルジ輸送は全小胞輸送系の起点であり、Rab1Aが制御する。初代培養ラット骨格筋線維に1μMフルバスタチン(Flv)を4日間作用させると、Rab1Aは膜から離脱した。GGPP補充で膜への結合は回復した。GGPPは、Flvによる空胞変性と壊死も抑制した。ER-ゴルジ輸送阻害薬ブレフェルジンAはFlvによる毒性を再現した。以上より、スタチンがRab1Aを阻害し、細胞内の物流が停滞して、筋が壊死すると考えられる。さらに、スタチンによる筋収縮低下について検討した。Flv(10μM)存在下で筋線維を3日間培養するとカフェイン誘起性収縮が有意に抑制した。スタチンは、筋原線維には影響しなかったが、筋小胞体Ca^(2+)貯蔵量および筋ATP量を低下させ、これらが収縮抑制の原因と考えられた。スタチンはミトコンドリア障害を起こし、これがATP低下の原因だと思われる。GGPPはスタチンによる収縮抑制、ATP低下を抑制した。本研究より、スタチンによる筋壊死や収縮抑制が低分子量G蛋白質の不活性化が原因であることが分かった。またスタチンの毒性が、GGPP補充で軽減できることも分かった。治療への応用が期待される。
著者
坂本 正裕 有田 秀穂
出版者
東邦大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本年度は、ネコの脳幹を免疫組織化学的方法で染め出し、特定の表情筋を支配する顔面神経核内の細胞群とそこに投射する伝達物質を含有する神経終末の分布様式を化学顕微鏡で調べた。1)セロトニン含有終末は、顔面神経核内のいずれの亜核においても細胞体や近位の樹状突起に対して付着している様に見えた。その中で特に腹内側核と腹外側核には強い投射が観察された。このセロトニン入力の起始細胞は脳幹の縫線核にあると考えられる、縫線核の細胞の活動は日中増大し、夜間には減少する。したがってセロトニン入力の役割が覚醒時の口唇部の緊張維持に関係していることが示唆された。2)「痛み」に関係している伝達物質とされているエンケファリンは、主に眼輪筋を支配する運動神経細胞の樹状突起の遠心部に付着しているが、セロトニンにはそのような付着がみられなかった。このことは眼の周囲の表情形成にはエンケファリンの影響が強いと考えられる。3)p物質は主に近位の樹状突起に付着しており、鼻の周囲以外の表情筋の緊張(特に口唇部において)に関与している可能性があった。上記の研究成果は、情動表出における表情筋の動きが顔面神経核レベルでの神経伝達物質含有終末の分布差に影響されていることを示唆している。しかし、表情表出パターンの生成は、より上位の中枢で行われているらしい。そこで表情パターンの発生機構を探るために、予備実験をラットを用いて行った。顔面神経核に投射を持つ扁桃核を電気刺激した結果、中心核より深い部位の刺激は、血圧の上昇とともに刺激と同側の眼球突出や耳、口唇の動きを誘発した。また、顔面神経核に逆行性標識物質を微量注入して、扁桃核の吻側部の中心核付近に標識細胞を見いだした。これらのことは扁桃核が表情表出パターンの生成に直接に関与していることを示唆した。
著者
榎本 美香 寺岡 丈博 坊農 真弓 傳 康晴 細馬 宏通 高梨 克也 高梨 克也
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

祭りの支度を通じて以下に示す共同体固有の〈心体知〉を後継者世代が仲間内や現役世代と多対多の相互作用から集団学習するメカニズムを解明した。 (1) 心: 成員たちがもつ価値観や見識、信頼感といったエートス (e.g. 他者への気配り, 自己犠牲の精神) (2) 体: 成員間で力や身体位置の配分が必要な協働活動技法 (e.g. 唄のリズムと木や縄の操作との同調) (3) 知: 祭具の名称や用法、祭りのしきたりといった共有知識 (e.g. 社各部位の木材や縄結びの呼称)共同体〈心体知〉を学習する成員たち自身のやり方を相互行為分析から炙り出し、その学習のメカニズムを解明した。
著者
石川 徹夫 NORBERT KAVASI NORBERT Kavasi KAVASI Norbert
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

自然放射線源による被ばく線量のうち、ラドンによる被ばくはかなりの割合を占めることは世界共通の認識である。とりわけ屋内環境のラドンに関しては、制御可能な線源として考えられており、欧米ではラドン濃度に関して規制値が設定されている。しかしながら被ばくの直接の原因となるのはラドンではなく、ラドンが壊変してできるラドン子孫核種(固体粒子として存在)である。すなわち、ラドンガスを吸入しても大部分が即座に呼気で排出されるのに対して、固体粒子は吸入するとかなりの割合で呼吸気道に沈着するためである。また、ラドンと同様に環境中に存在しているトロンに関しては、今まであまり知見がなかった。トロンに関しても、トロンガスそのものよりもトロン子孫核種濃度が被ばく評価にとって重要である。このようにラドン・トロン子孫核種は、被ばくの直接の原因となる物質であるものの、それらを直接測定することはラドン・トロンの測定に比べて技術的に難しかった。昨年度までの研究で、ラドン・トロン子孫核種の簡易測定法の開発をほぼ終了した。この測定法はパッシブ型と呼ばれ、測定中は測定器を設置(放置)しておくだけで良く、電力などを必要としない。数か月の設置期間が終了後に測定器を分析することによって、設置期間中の平均的なラドン・トロン子孫核種濃度を評価可能である。本年度は研究の最終年度であることから、調査結果のとりまとめ及び結果の公表に重点をおいて研究を実施した。具体的には、ハンガリーにおけるラドン・トロン子孫核種測定データ、及び関連する環境因子などのデータを取りまとめ、さらにはラドン・トロン(子孫核種)に起因する線量評価のとりまとめも行った。この結果、原著論文2報、及び学会発表4件を行うことができた。
著者
仲 眞紀子 (2009 2011) 仲 真紀子 (2010) JANSSEN S.M. JANSSEN Stephanus
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

自伝的記憶とは,思い出や体験,自己に関わる出来事の記憶であり,典型的には手がかり語法を用いて調べる。手がかり語法とは「木」などの手がかり語を提示し,そこから想起される出来事と,出来事が起きた年齢を思い出してもらう方法である。このようにして想起された記憶の個数を,10代の記憶,20代の記憶,30代の記憶…というように年代ごとにプロットすると,10-20代の記憶の個数が高くなる。この現象はレミニセンス・バンプ(想起のコブ)と呼ばれ,忘却曲線等では説明できない現象として注目されている。レミニセンス・バンプの説明要因としては,(1)社会文化的な要因(ライフスクリプト等)と(2)認知的要因(作業記憶)とがある。これら二つの要因がバンプの形成にどの程度寄与しているかを調べることで,レミニセンス・バンプが生じるメカニズムに迫るとともに,自伝的記憶の成立に関わる要因を明らかにすることが,本研究の目的である。具体的には,インターネットを通じた調査により,若年から高齢までの広い範囲の参加者から,(1)自伝的記憶におけるレミニセンス・バンプ,(2)ライフスクリプト(人生において重要な出来事はいつ起きるか),(3)作業記憶の経年的変化(10-20代の作動記憶機能が高いために,多くの情報が蓄積されるのか)に関するデータを収集する。(2)は文化の影響を受けやすく,(3)は文化の影響を受けにくいと考えられるので,(2)と(3)における日,米,オランダの差を検討することで,レミニセンス・バンプが社会文化的要因と認知的要因の影響を受ける度合いを調べる。期間内に,インターネットでの調査を可能にするシステムを構築する。また,ネットに接続する参加者の偏りや,調査媒体(パソコンか「紙と鉛筆」による質問紙か)によるバイアスの効果を検討するために,オフ・ネット条件でも資料を収集する。
著者
星 正治 山本 政儀 坂口 綾 大瀧 慈 岡本 哲治 川野 徳幸 豊田 新 今中 哲二 遠藤 暁 木村 昭郎 片山 博昭 ズマジーロフ カシム ステパネンコ ヴァレリー シンカレフ セルゲイ 武市 宣雄 野宗 義博
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

放射線の危険度(リスク)はほぼ広島・長崎の被ばく者の調査を元に決められてきた。そして国際放射線防護委員会(ICRP)での議論を経て放射線障害防止法で規定され、被ばくの限度を定めてきた。原爆の放射線は一瞬の被ばくである。セミパラチンスクやウラン鉱山の被曝は長時間被曝である。そのリスクは異なっていると考えられ本研究を推進した。内容は線量評価と共同研究によるリスク評価である。測定や調査は以下である。1.土壌中のセシウムやプルトニウム、2.煉瓦による被曝線量、3.歯から被曝線量、4.血液の染色体異常、5.聞き取り調査による心理的影響、6.データベースの整備とリスクなどであり、被爆の実態を解明した。
著者
田中 健次 鈴木 和幸 嶋崎 真仁 鈴木 和幸 伊藤 誠 田中 健次
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

インターネットを用いた信頼性・安全性の作り込みの為のデータベース構築の原理と解析手法を5分野に分け究明・検討を行ない、以下の成果を得た。1.計算機のデータベース支援インターネットを援用した3層 Client/Server型システムにより、FMEAの自動作成および信頼性データ解析法の原理と一提案を行った。2.故障情報データベースに基づく信頼性解析Warranty dataのような不完全な故障データベースより、寿命評価への有用な情報を導出する方法を提案した。また、databasesに蓄積すべき最小十分なdatabasesの検討を行った。3.ヒューマンエラーに着目した安全性解析広辞苑より1120個の副詞を抽出し、ヒューマンエラーに関するガイドワードのデータベースを作成し、本ガイドワードに基づく「人間の誤使用」をエラーモードとするFMEA構築システムを提案した。また、誤報による人間の心理的変化、信頼の変化を探り、時間制約がどの程度、状態判定の誤りを引き起こすか、あるいは誤動作がどのような発生状況であると人間がシステムを信頼しなくなるか等を認知実験を通して明らかにした。4.ヒューマンインターフェイスと安全性設計ヒューマン・コンピュータ・インターフェイスの観点から人間中心の設計に着目し、安全と危険の間のグレイゾーンを考え、この領域をも危険とに含めて考え、それらを回避する"安全保証設計"を提案し、危険回避型設計との比較検討を行った。5.状態監視保全による未然故障防止システム状態監視保全システムにおけるリアル監視情報の有効利用法を目指し、可変しきい値をもつモニタリングシステムの最適設計法と異種の監視特性のセンサを用いた異質センサ型システムモデルを解析・究明した。
著者
加藤 祐三 新城 竜一
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1993年8月、沖縄島中部西海岸読谷村の海岸でハンマーの打撃で発火する物質の存在が確認され、これが天然の白リンであることが明らかになった。このリンの分布を明らかにすることと、実験にたえる量の試料を採集する目的で、第1発見地点付近を中心に、50m×36mの範囲を2m間隔のメッシュで切り、潮溜まりであるために採集できない場所を除いて系401個の試料採集を行った。採集した試料は水に漬けて実験室に持ち帰った。試料は白色の物が多いが、リンを含む地点の周辺では不規則に黒色に着色している。この黒色物質は不安定で、保管するうちに次第に消失し、試料全体が白色に変化していく。全岩分析をしてP_2O_5%を定量・比較すると、黒色部では明瞭に多く、0.15%以上、最大0.82%含有しているのに対して、白色部では平均0.10%である。これらの値は今回沖縄島各地で採集した琉球石灰岩の平均値0.05%より明らかに多い。リンを主成分とする唯一の造岩鉱物であるアパタイトの含有を、黒色部を粉末にし重液分離して調べたところ、極めて僅かであるが共生鉱物としての存在が確認できた。一方、白リンについてX線粉末回折実験を行った結果、人工合成したリンと、産状から見て人工物と判断されるフィリピンで発見されたリンの2試料には、リンのピークには一致しない不明のブロードピークが同じ位置に存在するのに対して、読谷村産のリンにはこのピークが認められない。このことは、このリンが前2者とは成因が異なり天然産であることの傍証となる。
著者
三神 弘子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

<聖パトリックの煉獄>への贖罪巡礼が毎夏実施されるダーグ湖は、強烈な磁力をもった聖地として、アイルランド人の深層に刻みつけられている。本研究は、ダーグ湖の贖罪巡礼の800年以上におよぶ時間軸を意識しながら、主に19世紀前半から1980年代にかけて書かれたダーグ湖をめぐる諸作品を通して、アイルランド社会がいかに変遷したか分析を試みた。本研究は、以下の3つの観点から進められた。(1)ダーグ湖の贖罪巡礼をめぐる文学の文献研究。カールトンの『ダーグ湖巡礼』(1843)、ともに『ダーグ湖』と題された、カバナーとデブリンの1940年代に書かれたふたつの詩、ヒーニーの連作詩「ステーション・アイランド」(1984)を主に扱い、個人と国家のアイデンティティの問題、芸術的創造性の根源に関する葛藤の問題などについて分析し、ダーグ湖の巡礼が自己と社会を再考する上で、いかに大きな役割を果たしてきたかについて検討した。(2)今日のダーグ湖における賦罪巡礼の社会学的考察。ヒーニーの作品が書かれて20年が経過したが、その間、アイルランド社会がどのように変遷したか、分析検討した。対象としたのは、3日間にわたる巡礼の実体験と現地でのインタビュー(平成14年実施)、新聞記事、大衆文学(旅行記など)に描かれたダーグ湖巡礼などである。カトリック離れがさかんに論じられる現代アイルランド社会で、ダーグ湖への巡礼者の数が減っていない背景には、純粋な宗教体験とは別の、<ツーリズム>の要素があるのではないか、という仮説が導かれた。(3)日本における巡礼(特に四国八十八カ所遍路)、巡礼をめぐる文学との比較研究。ダーグ湖にみられるアイルランド贖罪巡礼の理解を深めるために、海外共同研究者のマッカートニー博士と四国遍路(の一部)をこ体験し、その体験が文学作品にどのようにあらわれているか(いないか)、共同討議をおこなった。
著者
ルミアナ ツエンコヴァ 近江戸 伸子
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

研究成果の概要(和文):近赤外分光法及び水分子と生体分子との相互作用から生体システムの動態を明らかにするための新しい分析法であるアクアフォトミクスを用いて、細胞の生存能力に関与するDNAの分析を行なった。DNAにおける近赤外スペクトルの水分子振動を表わす OH 第1 倍音領域(1300-1600 nm)を解析することで、4 種類の異なる構造の DNA それぞれの濃度を定量化し、その回帰モデルから DNA の違いを明らかにした。また、直鎖 DNA と環状 DNA を識別し、DNA 構造の違いを表わす水分子吸収バンドを明らかにした。
著者
浅野 有紀 横溝 大 藤谷 武史 原田 大樹 清水 真希子 松中 学 長谷川 晃 田村 哲樹 松尾 陽 加藤 紫帆
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究2年目に当たる本年度は、トランスナショナルローを巡る法的・政治的問題についての理論研究をさらに進めると共に、組織規範動態WGと国際金融規制WGにおいて、実証研究に向けた本格的検討を開始した。先ず、理論研究については、3回の全体研究会を開催し(2017年7月、8月、及び、2018年2月)、共同研究者や国内の他の研究者による報告を基に意見交換を行い、知見を深めた。具体的に扱ったテーマは、「トランスナショナル・ローと法哲学の課題――多様な正統性と機能主義的考察」、「グローバルな土地収奪のトランスナショナル・ローの観点からの研究」、「解釈主義的法理論とトランスナショナル・ロー」、「立法過程と政治学の応用」、「批判法学から法多元主義、法多元主義から批判法学へ-無意識的な『法の帝国』化について」、「グローバル・ガバナンスと民主主義-方法論的国家主義を超えて」である。また、実証研究については、組織規範動態WGが2回の会合を(2017年9月、12月)、国際金融規制WGが1回の会合を(2018年3月)開催し、実証研究を進める際のテーマの選定や方法について検討を重ねた。その上で、各研究分担者が、3年目以降にさらに理論又は実証研究を進展させるべく、その基礎となる論稿を中間的成果として日本語・英語で執筆・公表した。具体的には、'Self-regulations and Constitutional Law in Japan as Seen From the Perspective of Legal Pluralism'、「法多元主義の下での抵触法」、「グローバル・ガバナンスと民主主義」、「グローバル化と行政法の変容」、「ソフトロー」、「コーポレートガバナンスと政治」、「グローバル資本規制」等である。