著者
佐藤 竜一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は,渓流食物網における窒素(N),リン(P)フローを生態学的化学量論の観点から解明するため,様々な底生動物種について,1.食物資源の元素比とその変異,2.栄養素要求(NとPのどちらにより生存,成長,発育が影響されやすいか),3.発育段階及び食物条件による体組織元素比の可塑性,4.回帰する栄養塩の特性(NとPの回帰速度),さらに5.栄養塩添加に対する,落葉リター,微細有機物,藻類のN:P比変化,6.渓流における各発育段階の底生動物種についてのバイオマスの季節変化を明らかにすることを目的とする。渓流における底生動物(シュレッダー)について,食物資源である落葉リターの元素比が,樹種や分解過程によって異なり(目的1),体組織の元素比との比較から,シュレッダーはPよりもNに対する要求度が高いことが示唆された(目的2)。またN:P比の異なる落葉リターを用いた飼育実験から,シュレッダーの元素比可塑性は食物条件よりも発育段階によるところが大きく(目的3),Pの回帰速度はその要求度が規定している可能性が示された(目的4)。さらに,栄養塩の添加によって落葉リターのN:P比,特にP含有率は変化した(目的5)。渓流食物網のエネルギー源として落葉リターが支配的であることから,シュレッダーから他の摂食機能群へのPフローの重要性が示唆されたため,本年度は目的6の達成とともに,シュレッダーについての追加実験を行うことでサンプル数を増やすこと,他の底生動物(コレクター,グレイザー)のそれぞれ数種についてもシュレッダーと同様に栄養素要求の特性について明らかにすることを目的とした。しかしながら,記録的な豪雨による調査地河川の大出水などにより底生動物群集が大きな攪乱を受けた影響で,これらの目的は十分に達成できなかった。
著者
岡田 雄一 一戸 喜兵衛 馬渕 義也 横田 栄夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.600-606, 1979-05-01
被引用文献数
2

排卵やホルモン産生にあずかる卵巣の機能廃絶は,閉経の到来によって象徴されるが,この卵巣機能の寿命を支配する因子を求めるにあたり,明治11年より大正11年までに和歌山県で出生した2,943名の閉経婦人について統計的観察を行った.(1)巷間,初潮発来が早ければ閉経が遅れるとか,逆に早くなる,などといった俗説が横行しているが,この点を明確とすべく初潮および閉経の両輪が明らかな婦人について検討した.しかし初潮の遅速と閉経齢のそれとの問には相関性がみとめられなかった.(2)妊娠期から授乳期間を通じほぼ2年近く生理的に排卵を休止するものはまれではないが,この妊娠から授乳までの期間の多寡が閉経齢に影響しないか検討した.しかし分娩0回の未産婦から9〜10回の多産婦まで,閉経齢の遅速には有意の差はみられなかった.(3)片側卵巣を摘除された婦人では,遺残卵巣は以後2個分の過剰排卵の場となる.20歳から30歳前半で片側卵巣を摘除された婦人の閉経齢を調査したが,これらの婦人は同時代の一般婦人のそれとなんら変わらぬ閉経齢分布を持つことが立証された.以上より,卵巣機能の寿命の決定因子は,排卵の回数の多寡による卵子消耗という単純な観点からは,捉え難いことが示唆された.
著者
鈴木 良雄
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.501-511, 2007 (Released:2007-11-01)
参考文献数
5
被引用文献数
2 2

神奈川県立川崎図書館は昭和33年の開館以来,自然科学と工学分野の専門的資料のある公立図書館として知られている。平成10年から「科学と産業の情報ライブラリー」との愛称を持ち,その特徴を生かしてさまざまなサービスを実施してきた。平成17年からは独自のビジネス支援サービスを展開するとともに,科学技術のテーマに基づき,展示会,講演会,文献目録など事業を関連付けて実施している。さらに,独自の分類法“クラスタ”により,閲覧と収集が一体となった取り組みを進めている。こうしたことは,社会が変化する中にあって,社会の要請を受け止め,自らを変革しながら活動する伝統ある図書館の挑戦である。
著者
安達 博明 Hiroaki Adachi
雑誌
人文論究 (ISSN:02866773)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.87-98, 2004-09-25
著者
竹内 望
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

アジア内陸部天山山脈のウルムチNo.1 氷河の雪氷微生物の調査を行った.その結果,氷河表面には3種のシアノバクテリア,2種の緑藻の繁殖が明らかになった.上流部で採取したサンプル分析の結果,春から夏の融解期に緑藻が繁殖し,さらに融解が激しい年にはシアノバクテリアが繁殖することが明らかになった.この季節変化の要因は主に融解量で,大気降下物として供給される窒素も関与している可能性があることが示唆された.
著者
和田 あづみ 柿添(石田) 裕香 加藤 秀樹 六車 香里 江袋 美知 奥本 正昭 都築 政起
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.427-434, 2000-04-25
被引用文献数
3

我々は, 1992年5月に大阪府堺市で捕獲した野生マウス(Mus musculus molossinus)を起源とする近交系の育成を試み, 1998年4月に新たな近交系MSKR系統として確立した.本研究では, この系統の形態学的, 繁殖学的, および遺伝学的基礎特性を明らかにした.MSKRマウスは60日齢時点で, 一般的な近交系マウスC57BL / 6Nの約60%の体重を示すと共に, C57BL / 6Nより小さい尾長 / 頭胴長比および後足長 / 頭胴長比, C57BL / 6Nより大きい耳介長 / 頭胴長比を示した.本系統は, 近親交配20-22世代において, 初産日齢63.20±2.71日, 初産子数6.20±0.37匹という, 優れた繁殖能力を示した.また, 遺伝学的基礎特性調査として, 34マイクロサテライトマーカータイプ, 29生化学的識遺伝子型, 9免疫遺伝学的標識遺伝子型, 3毛色遺伝子型, ならびに8種の制限酵素によるミトコンドリア制限酵素切断長多型を調査した結果, 本系統が従来の系統と異なるユニークなゲノム組成をもつことが明らかになった.
著者
大谷 貴美子 長渡 麻未 柴田 満 冨田 圭子 佐藤 健司 川添 禎浩
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.239-248, 2007-08-20
被引用文献数
1

伝統食品である京都大徳寺瑞峯院の大徳寺納豆について,ラジカル消去活性の強さを解明するために,製造過程のラジカル消去活性の変化とその関連成分について検討を行った。大徳寺納豆は,7月下旬から9月下旬にかけて仕込まれる。大豆(鶴姫)を蒸煮することで,ゲニスチン,ダイジン,グリシチンが増加した。しかし,室での発酵期間に減少し,熟成期間では,代わってゲニステイン,ダイゼインが増加した。また,室での1週間の発酵期間に,プロテアーゼの働きにより,遊離アミノ酸,特にグルタミン酸やペプチドが増加した。炎天下における2ヶ月間の熟成期間には,徐々にメラノイジン関連物質が産生された。またラジカル消去活性は,ポリフェノール含有量と高い相関を示したが,ラジカル消去活性に寄与している主な成分はメラノイジン関連物質であることが示唆された。
著者
稲垣 照美
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,赤外線センシングの利点を地雷探査に応用して,探査・除去作業に関わる危険を低減する技術の可能性について,数値シミュレーションとモデル実験の観点から探査に付随するメカニズム,探査限界,および探査に付随する影響・因子などについて総合的に検討を加えたものである.その結果,以下のことが明らかになった.なお,数値シミュレーションは,実際に取得した自然環境条件に基づいている.・提案した物理モデルは,従来の金属探知機などで探査しにくいプラスチック製地雷を想定しているが,実際の地雷探査を実施する上で有効であることを一連の数値シミュレーションから明らかにした.・太陽放射や自然環境条件を援用した赤外線センシングによる地雷探査では,地表面放射率や日照時間帯などにより探査に最適な条件が存在する.すなわち,太陽光エネルギーを最も受け易い時間帯及び日没後に熱エネルギーの方向が変化する時間帯が最も赤外線探査に適している.・赤外線センシングによる地雷探査では,地雷が地中深くに埋設されているほど難しくなる.すなわち,太陽放射や自然環境条件に基づいた探査を実施する場合,砂漠における赤外線探査の限界埋設深度は,地雷構成物質・物性などに依存するものの,100mm以下である.・地中に地雷が埋設されていない箇所でも,地中に大小の木片・石片などの混在物が存在したり,地中に水分含有率の差異が存在したり,地表面の放射率が周辺より特異であったりした場合,赤外線探査が困難になる場合がある.本手法のデメリットは,放射率が種々に変化している地表面や周辺土壌中に様々な混入物が存在する場合に探査が難しくなることである.また,ジャングル地帯の地雷探査などでは,地表付近に生育した草木などが障害物となる.これに対して放射率を特定し易い砂漠地帯では,赤外線地雷探査が比較的容易であろう.
著者
石田 英夫 重里 俊行 奥村 昭博 佐野 陽子
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

金融機関といっても、機関によって特性の異なることも確認された。本研究では、(1)銀行、(2)保険、(3)証券、(4)外資系、と4つに分けた。金融全体で見ると私たちがすでにおこなった化学・エネルギ-大企業の本社事務職男子に比べて、総じて仕事の満足度が高いことがわかった。とくに、昇進、能力発揮、給与について満足しているが、労働時間や心身疲労では化学・エネルギ-より不満が多かった。定着性向、つまり定年までいるかという問いに、化学・エネルギ-は、59%がイエスであった。金融平均はそれより低いが、銀行は64%、外資系は11%という開きがあり、機関別に大きな差があることがわかる。HRMの重要な成果たる帰属意識についても、興味深い結果がえられた。内部化ともっとも関係の深いと思われる「運命共同体型」と「安定志向型」は、銀行がもっとも多く、次いで保険であった。反対に「希薄型」は、外資系と証券に多い。しかし、証券には「モ-レツ型」も多いし、外資系は「安定型」と「運命共同体」も多いというように、二分化の傾向が見られるから、単純に1つのモノサシで4つの機関の色分けはできないだろう。製造業を対象とした他の研究と比べると、革新型の帰属意識は見られず、金融機関の伝統的な意識構造の傾向が見られる。金融機関の給与が高いことも、従業員の定着や帰属意識に作用しているが、これは「支払能力」にあずかるところが大きい。しかしそれは、長期勤続者に大きく傾斜した高給与が多いから、利潤分配の性格があるだろう。さらにまた、銀行、証金、保険の各社は、1社のみ突出するのをきらうから、企業間のバランスという「相場」要因も重要である。この「相場」というのは、企業の「格」と言いかえることができる。このような所得配分メカニズムは、金融の特徴ではなく日本の大企業における中核的労働力に共通なものと思われる。
著者
唐木 清志 山田 秀和 森田 真樹 川崎 誠司 桑原 敏典 橋本 康弘 吉村 功太郎 渡部 竜也 桐谷 正信 溝口 和宏 草原 和博 桐谷 正信 溝口 和宏 草原 和博 磯山 恭子 藤本 将人
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アメリカ社会科で展開されるシティズンシップ教育の動向を, 理論レベルと実践レベルから多面的・多角的に考察し, その現代的意義及び日本社会科への示唆を明らかにした。具体的な研究成果としては, 2009年3月に刊行された最終報告書に載せられた13名の論文と, 2009年1月13日にミニシンポジウムを開催したことを挙げることができる。研究を通して析出された「多様性と統一性」や「争点」といった分析枠組み(本研究では「視点」という言葉を用いている)は, 今後日本の社会科においてシティズンシップ教育を推進するにあたっても, 重要なキーワードとなるであろう。
著者
勝井 美沙緒 服部 哲 速水 治夫
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.3, pp.1-4, 2010-01-14

ネットショッピングをするにあたり,さまざまな店舗の購入候補商品を一元管理することによって比較・検討を容易にし,さらに複数商品の購入組み合わせを提案することで,より買い物上手な購入活動を行えるようなネットショッピング支援システムを提案する.When shopping online, information of goods are managed only to each store. So, we propose a system that can manage together that the wanted the goods information for users, regardless of the stores. This allows you to easily compare products. In addition, in a shopping online to assist the user by presenting a combination of goods.
著者
孫 仁俊
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年,強ひずみ加工であるECAP(equal-channel angular pressing)処理によりAlの結晶粒をサブミクロンあるいはナノレベルまで微細化して,強度および延性等の機械的特性を改善することが注目されている。一方,Al合金は,通常,耐食性,硬度等を改善するため陽極酸化(アルマイト処理)を施して使用されることが多い。しかし,陽極酸化したAl合金の耐食性に及ぼすECAP処理の影響については,これまでに報告されていない。そこで本研究では,代表的な高張力Al合金であるAl-Cu合金およびその陽極酸化膜の耐孔食性に及ぼすECAP処理の影響を調べた。Na_2SO_4 0.1mol/L+NaCl 8.46mmol/L(300ppm Cl^-)およびAlCl_3 0.2mol/Lの水溶液における分極曲線およびAlCl_3 0.2mol/L水溶液における腐食速度の測定結果より,Al-Cu合金の耐食性に及ぼすECAP処理の影響はほとんどないことが分かった。Al-Cu合金にはAl_2Cu,Al_2CuMg,Al-Cu-Si-Fe-Mn系金属間化合物が析出しており,腐食はAl_2Cu,Al-Cu-Si-Fe-Mn系,Al-Cu-Mg系析出物の周辺で生じていた。これらの析出物はECAP処理により分断され,サイズが減少したものの,純Al,Al-Mg合金の場合に比べ数が多いため,耐孔食性は向上しなかったと考えられる。一方,陽極酸化したAl-Cu合金においては,孔食が発生するまでの時間は,ECAP処理を行った方が明らかに長くなっており,ECAP処理により耐孔食性が改善されることが分かった。Al-Cu合金には合金元素からなる第2相析出物が存在しているが,この析出物はECAP処理により分断され微細となった。析出物の中でもAl_2Cu,Al_2CuMgは陽極酸化の際に溶解して消失したが,SiおよびAl-Cu-Si-Fe-Mn系金属間化合物は陽極酸化の際に酸化されず酸化膜中にそのまま存在し,欠陥部を形成していた。陽極酸化したAl-Cu合金の孔食は,この析出物の周辺から開始した。ECAP処理を行なうと析出物が分断され微細になることから,ECAP処理により陽極酸化Al-Cu合金の耐孔食性が改善されたのは孔食の起点になる析出物のサイズが減少したことによるものと考えられる。