著者
DARRYL Macer
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

様々な職業の人を対象にしたインタビューやアンケート調査が日本で行われた。オープンコメントの分析方法が検討され、書き込み式のアンケートと、対面式のインタビューとの方法の比較が行われた。結果から、社会を構成する全ての人が、科学に関する議論に様々な見解を持って参加できることが示唆された。利益やリスク、道徳的容認度等に重点を置く人には、統計学的傾向があるように思われる。生命倫理の教科書に、どのような内容を含めるか、というプロジェクトが、研究の第二段階として開催された。これは、諸外国における生物・社会科の教師や、生命倫理の専門家との対話を基に行われる。医療倫理への関心が依然として強いように思われるが、環境問題への関心も増加しているようだ。生命倫理教育のためのチャプターが20篇執筆され、現在編集中である。チャプターには次のトピックが含まれる。チャプターが執筆され、改変、編集されるに伴い、それぞれのチャプターが異なる国々で、先生達によって試行される。2004年2月13日から16日にかけて、つくばにおいて専門家や先生方が意見を交わした。オーストラリア、中国、韓国、インド、日本、メキシコ、ネパール、ニュージーランド、フィリピン、ポーランド、そして台湾の先生方、およびコーディネーターとの意見を交換した。数名の先生が大学および高校において授業を実践した。プロジェクトの主な産物は1)生命倫理教育のための教材2)生命倫理の問題について学校および大学で使用することの出来る教科書3)異なる国々の先生同士のネットワークである。生命倫理教育の成功はいくつかの方法で量ることが出来る。1)生命の尊重が増加2)科学と技術の利益とリスクのバランスを取る3)異なる人々の多様性をより良く理解する。これら全てを達成しなければ成功したと呼べないわけではない。また、教師によって、重きを置くゴールが異なってくるであろう。
著者
立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

エチレンは果実の成熟・老化を促進させるため、果実の鮮度を保持するためには、その作用を抑制させる必要がある。1-MCPはエチレン受容体に作用する強力なエチレン作用阻害剤であるが、その効力が樹種によって異なることが報告されており、本剤によるエチレン作用阻害機構について分子レベルでの解明が求められている。昨年度の研究結果より、1-MCP効果による鮮度保持効果が高いリンゴ果実では、1-MCP処理後エチレン情報伝達系を負に制御しているエチレン受容体が蓄積していることが明らかとなった。そこで、今年度は1-MCPの効果が低いモモ果実を用いて解析した。1-MCP処理したモモ‘あかつき'の果肉硬度は、収穫3日後まではやや高い傾向を示したが、5日後には無処理区と同じレベルに低下した。また、エチレン生成量は、1-MCP処理した果実において処理2日後に一過的な増加を示したことから、処理後1〜3日までは、硬度、エチレン生成量とも1-MCPの影響を受けていると推測された。従って、モモにおける1-MCP効果が低い原因として、エチレン受容体と1-MCPの親和性が低いという理由は当てはまらないと考えられた。モモよりエチレン受容体遺伝子Pp-ETR1およびPp-ERS1を単離し、1-MCP処理した収穫後果実における発現様式を解析したところ、無処理区および1-MCP処理区においてPp-ETR1及び年Pp-ERS1の発現量は大きな変化を示さなかったことから、エチレン受容体の発現制御において、モモではリンゴほどエチレンの影響を受けないと推測された。1-MCP処理期のエチレン生成量が、1-MCP効果に影響を及ぼす可能性が考えられたが、リンゴ果実では収穫直後ならばエチレン生成量が多い場合でも、1-MCPの効果は高いことが明らかとなった。
著者
土田 健次郎 SEONG Hyun Chang SEONG HyunChang
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

朱子学とは言うまでもなく、南宋の朱熹(朱子)の思想であるが、これは朱熹個人を超えて、朱子学という教学として圧倒的な権威を東アジア近世で持った。また東アジアの近代化がこの朱子学を抜きにして語れないのも周知の通りである。中国に誕生し、広く東アジアに展開した朱子学に関しては、膨大な研究の蓄積がある。それも、朱熹自体、中国朱子学、朝鮮朱子学、日本朱子学、ベトナム朱子学の研究というように、国を超え時代を超えた研究群である。本研究は、この膨大な研究を収集し整理し、さらにその成果を研究者に便宜を提供することを目的としている。朱子学の研究には、中国語、韓国語、日本語、英語、ドイツ語のものなど各国語のものがあるが、今回は、中国語、韓国語、日本語のものを収集し、整理した。その一端は、「韓国と日本における朱子学の研究史的発展のための予備的考察-日本における朱子学研究の動向を手掛りとして」(韓国語)(『東洋哲学研究』45)、「韓国における朝鮮儒学研究の課題-「朱子学的心学」をめぐって-付・朱子学研究文献目録(韓国篇)」(日本語)(『近世儒学研究の方法と課題』)、「韓国における朱子学研究の動向-二〇〇〇年から二〇〇五年六月まで-」(日本語)(『東洋の思想と宗教』23)、という形で公表した。これらは韓国語で書かれた中国朱子学と朝鮮朱子学に関する研究史的整理が中心であるが、将来は中国語と日本語の朱子学研究も整理して公表する予定である。特に今回は、研究文献のデータベース化の作業を遂行した。これは各研究論文、研究書、資料の、著者、表題、掲載誌、巻号頁、発行所、発行年月、キーワードなどを採録し、そのいずれからも引けるものである。現在まだ作業の途中であるが、今までの分だけでもかなりの蓄積になっている。特にキーワードは、一定の基準を定め統一的に採ったものであって、将来完成したあかつきには、朱子学研究の膨大な資産が多方面から検索できることになろう。
著者
荒 このみ
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アメリカ合衆国の宗教組織「ネイション・オブ・イスラム」の前史から今日に至る<イスラーム>の文化表象を調査・研究し、その主要人物マルコムXについての考察を深めた。その成果を部分的にはすでに紀要論文に発表しているが、総まとめとしての研究成果は、単行本として発表することになっており、今年中に刊行予定である。
著者
長田 俊樹 高橋 慶治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

インド東部のムンダ語族やチベット・ビルマ語族の文献収集のために、まず最初に文献収集リストを作成する必要がある。そこで、従来ある文献目録を使用して、コンピューターに打ち込むことからはじめた。具体的には、Franklin E.Huffman.Bibliography and Index of Mainland Southeast Asian Languages and Linguistics.Yale University Press.1986.を使用した。打ち込みに必要なコンピューターは長田用と高橋用の二台購入する予定であったが、高橋は研究室にある、設置済みのコンピューターで、対応することになった。現在、長田はムンダ語族の文献目録を作り、高橋はチベット・ビルマ語族の文献目録を別個に作成中である。なお、打ち込みのさいには研究協力者に打ち込んでもらっている。打ち込みの際には、トピック(または、キーワード)、著者、書名(または論文名)、出版年、出版社名などを項目別に打ち込み、文献目録が完成したあかつきにはそれぞれの項目別の索引を作るための便宜をはかった。そのため、所期の計画よりも打ち込みに若干時間がかかった。一方、長田は別の科研でインドへ行く機会があったので、その際文献の収集を行った。とりわけ、ムンダ諸語で書かれた出版物を中心に収集を行った結果、かなりの数購入することができた。こちらについては来年度に文献目録に順次追加していく予定である。初年度については、順調に研究は経過しており、本年度の研究計画についてはほぼ達成できたと考えている。
著者
朝倉 政典
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

代数的サイクルと混合モチーフについて研究している。混合モチーフは数論的代数幾何学における壮大な構想であり、理論として確立されたあかつきには、代数幾何学のみならず整数論へも数多くの深い応用をもつことが期待されている重要な分野である。しかし多くの優れた研究者の努力にも関わらず、混合モチーフはいまだ定義すらない極めて研究の困難な分野でもある。私は特に複素数体上の混合モチーフの理論を確立することを目的として研究してきた。これまでに、数論的ホッジ構造という概念を導入し、代数曲面上の0-サイクルや、代数曲線のK群についてのブロック予想について研究してきた。本年度の研究では、代数曲線のK群に関して新しい方向へ踏み出していった。より詳しく説明すると、これまで研究によって代数曲線のK群の研究にはベイリンソン・ホッジ予想が鍵となることが分かっているが、その予想を管状近傍型多様体に対して一般化することを試み、肯定的な結果を得ることができた。但し、予想そのものは未だ解決されておらず今後の研究の進展が待たれる。更にこの研究から派生する問題として、クレメンス・シュミット完全列に関する研究結果を得た。これは既に投稿済みであり掲載が決まっている。
著者
和崎 春日 松田 素二 鈴木 裕之 佐々木 重洋 田渕 六郎 松本 尚之 上田 冨士子 三島 禎子 若林 チヒロ 田中 重好 嶋田 義仁
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

科研共同研究の最終年度にあたり、報告書に向けての総括的なまとめ討論をおこなった。とくに、日本における第1位人口をしめるナイジェリア人と第2位人口のガーナ人の生活動態については、この分野の熟成した研究を共同討論のなかから育てることができた。日本への来住ガーナ人のアフリカ-日本-アフリカという、今まであまり報告されていない新しい移民動態の理論化(若林ちひろ)や、日本に来住したナイジェリア人の大企業従業員になろうとするのではない、起業活動に向かう個人的・野心的なアントルプルヌーシップについての新規な理論化(川田薫)と、まったく情報のなかった、その日本における協力扶助と文化維持のアソシエーション活動の詳細な記述報告(松本尚之)、さらには、アフリカ-日本-アメリカという地球規模のネットワーク形成がナイジェリア人によってなされている動態を、アフリカ移民論のまったく新しい指摘として提示しえた。また、アフリカ人の芸能活動についても、ギニア、マリ、セネガルといった西アフリカ・グリオ音楽文化の「本場」とされる地域からの日本への来住アフリカ人の活動調査と、そのアフリカの母村での活動状況の調査の両方を行い、それをめぐる、やはり新規性に富む、日本ーアフリカ間の何層からもなる往来活動を抽出し、指摘・一般化することができた(鈴木裕之、菅野淑)。こうしたポジティブな活動側面のほかに、ネガティブなHIVをはじめとする病気の実情とそれにむけるホスト社会側からの協力の可能性についても重要な研究糸口を提案している(若林ちひろ)。1年後に『来住アフリカ人の相互扶助と日本人との共生に関する都市人類学的研究』と題して報告書を出版し、この共同研究の成果と今後の継続的発展について、アフリカ学会における集中発表でも熱い期待と高い評価を得た(2008年5月於・龍谷大学)。
著者
林 薫平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

農村共同体における土地利用・土地配分の構造およびその人口圧力下における変容過程を明らかにするために,以下の通りに研究を実施した。まず準備として,資源一般の配分・利用を規制する共同体的メカニズムに関する事例研究を,主に文化人類学の領域を対象として広く渉猟した。成果として,灌概コモンズと漁場コモンズにおけるローテーションや細分化といった様々な共同体的アレンジメントを包括し比較分析することのできる理論フレームを構築した。第二に,上の理論フレームを共同体的土地制度の事例研究に応用した。具体的には,鹿児島県下甑村において極めて人口圧力が高かった昭和20年代の共有田制度を取り上げた。その結果,共有田利用権の配分のさいに細分化とローテーションの組み合わせ方が決定される集合的選択のメカニズムを解明することができた。第三に,以上の知見を東西の土地制度史と照らし合わせ,共同体的土地保有の理論モデルを構築した。具体的には,土地の配分・利用における共同体の規制と各メンバーの個人性の対立関係を描いた。土地資源の利用をめぐる共同体的なメカニズムについては従来の経済学は正面から分析して来なかった。むしろ共同体の影響が除去され土地が私有化されたあかつきの効率性分析に主眼がおかれて来た。本研究の意義は,共同体メンバーの集合的選択によって,個々人への土地配分と各々の土地利用に対して強力な共同体的規制が課される仕組みを,理論的かつ実証的に明らかにした点にある。特に,人口圧力のもとでは,メンバーを養うために規制が強化されることがあるが,従来の理論では説明されなかったこの実態に合理的説明を与えることに成功した。この成果は,政策への含意として,現在発展途上農村地域において広範に行われている土地私有化改革について,推進派と反対派の対立点をクリアにする意義を持つ。
著者
片岡 郁雄 別府 賢治 田尾 龍太郎 久保田 尚浩
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

モモの低温要求性の発現段階を中心に,覚醒段階での人為的調節および低温要求性の遺伝的制御を含め,以下の点について検討を行った.1)環境と樹体要因が低温要求性の発現時期と量に及ぼす影響.多低温要求性品種では、7月上旬より新梢基部のえき芽は休眠に移行し、9月には深い休眠状態に達すること、導入期においても石灰窒素の発芽促進効果が得られること、気温、日長は休眠導入の開始に影響しないことが明らかとなった。2)低温要求性の異なる品種の発芽・開花特性の比較.少低温要求性品種においては、低温遭遇350時間の早期加温でも高い発芽率が得られ、正常な開花がみられた。これらの品種では、休眠完了後、温度感応性が増大し、より早い開花がもたらされるものとみられた。3)低温要求性の異なる穂木,台木を組み合わせた樹の生長様相 発芽・開花は穂木の低温要求量に大きく依存すること、葉芽の発芽には台木の低温要求性が影響することが示された。4)雌性器官生育育に及ぼす休眠覚醒後の温度環境の影響 休眠完了後の雌性器官の退化は、高温により助長され、結実率の低下の一因となっていることが示された。5)各種の休眠覚醒物質処理が低温要求性の異なる品種の発芽に及ぼす影響 シアナミド、石灰窒素は、二硫化アリルに比べ休眠打破効果が大きいが、休眠最深期には効果が小さいことが示された。6)芽の休眠過程における関連遺伝子の発現 休眠期ならびに休眠覚醒期の花芽と葉芽からmRNAを抽出し,サブトラクション法により解析したところ,休眠期と休眠覚醒期で転写量の異なる遺伝子がいくつか見出され,その中にcell cycleの制御に関わっている遺伝子が含まれていた.7)多低温要求性品種と少低温要求性品種の交雑個体の低温要求性 '白鳳'と少ない低温要求性品種の交雑後代において、'白鳳'に比べ、低温要求量は低減した。
著者
野村 幸世
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

Hcmizygote F1マウスは50頭しかそろえられず、50頭にメチルニトロソウレアを投与した。そのうち、投与開始より1年間生存したものは36頭であった。メチルニトロソウレア投与により、その投与濃度にかかわらず、ほぼ100%胃癌の形成が認められた。また、100%に胃以外の臓器にも癌が認められた。担癌臓器はリンパ節、肝臓、肺、脾臓であった。肺以外は胃癌の転移と考えられた。採取した胃はまだすべての解析が終わっていない。すでに解析が終了した5頭においては、すべて組織学的にも担癌であった。5頭のうち2頭は癌が多発していた。これを含む9病変のうち4病変はポリクローナルであった。しかし、これが衝突癌である可能性は否定できるものではない。以上のすでに解析済みのものは、凍結切片にて施行したが、凍結切片では、HE染色像もあまりクリアでない。クローナリテイの解析に使用しているX-gal法そのものは凍結切片でないと不可能であるが、β-galactosidascの免疫染色であれば、パラフィン切片でも可能である可能性があり、今後、これによる解析を検討中である。現在のところ、パラフィン切片に対するβ-galactosidascの免疫染色自体の条件が確率できていない。また、ポリクローナルに見える腫瘍において、真に上皮細胞がポリクローナルであることを証明するために、連続切片におけるケラチンの免疫染色を検討中である。また、発癌剤投与により、X染色体不活化そのものに影響が出た可能性も否定できないため、現在、Homozygousのマウスを作成中であるが、これは出生率が低いため、今だにいる。これが得られたあかつきには、再び、これらにMNUを投与する予定である。
著者
藤田 稔
出版者
山形大学
雑誌
山形大学法政論叢
巻号頁・発行日
vol.18, pp.51-97, 2000-05-25

はじめに 日本における拘束条件付取引に対する独占禁止法の通用の検討は、製造業者と販売業者との売買契約の関係を中心に進められてきた。しかしながら、製造業者と販売業者との間で結ばれる代理店契約には、販売委託契約や代理商契約も利用されている。本稿は、委託販売における委託者による受託販売業者に対する価格拘束の問題を中心に、独占禁止法の不公正な取引方法の規定を適用する際の違法性判断基準の分析枠組みについて論じるものである。これらの問題については、従来、公取委の行った審決や独占禁止法研究会報告、流通・取引慣行指針をめぐって検討が行われてきたが、必ずしも十分ではないように思われる。現在、著作物の再販売価格維持の適用除外規定の改廃に関する検討が公取委によって行われているが、適用除外規定が廃止された場合には、価格維持が委託販売や締約代理商の取引形態によって試みられる可能性もあり、委託販売や締約代理商への独禁法適用をどのように進めるかが問題となるのではないかと思われる。筆者は、既に委託販売における価格拘束の違法性判断基準に関して論考を公表しているが、十分に論じられなかったので、改めて論じるものであり、善管注意義務や問屋の指値遵守義務との関係、独禁法の排除措置との関係についても論じていく。その上で、書籍と新聞の流通に関する独禁法適用の問題も論じる。なお本稿では、再販売価格維持等の拘束条件付取引の公正競争阻害性については、立ち入った検討は行わず、基本的に通説的立場を前提にして論じており、契約形態の差異に由来する独禁法適用の問題を主題としている。
著者
鈴木 宏二郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

太陽光や太陽風を利用するセイル型宇宙機を惑星大気圏飛行させ、その際に発生する空気力を併用することで燃料不要のままセイル型宇宙機の航行能力を向上させる可能性について、高速気体力学の観点から研究を行い、以下のことを明らかにした。1.FullPIC法による磁気セイルまわりの太陽風プラズマ流れ数値解析を行い、磁場生成コイルの姿勢や太陽風条件の影響を明らかにした。姿勢によっては軌道面外を向く力がセイルに働くこと、発生する推力は同じ大きさのソーラーセイルと比較して著しく小さいことなどから、ソーラーセイルの方が実現は容易と考えられる。2.ソーラーセイル機では、セイルを惑星周回軌道投入用の空気ブレーキとして2次利用することで燃料がほとんど必要ない低コスト惑星探査機が実現できることを示した。このような低弾道係数大気突入では、許容突入条件幅、空力加熱、空力荷重が大幅に緩和されるメリットがある。3.フープ支持の膜構造大気圏突入飛行体が極超音速流中で機能することを風洞実験で実証した。フープを形状記憶合金で製作すると空力加熱で自動展開する飛行体が実現でき、小型低コスト大気突入プローブへの応用が期待される。また、複数のフープを組み合わせてデルタ翼とし形状最適化すれば、5程度の揚抗比が期待される。4.外惑星大気飛行模擬希薄水素プラズマ風洞を開発して各種膜材料の空力加熱実験を行った。高強度材と高耐熱材をコーティングや接着で組み合わせるものが有望であることがわかった。5.ソーラーセイルと大気圏飛行時の揚力利用によるエアログラビティアシストの組合せを検討した。全長約220m、総重量410kgの機体に対し軌道最適化の結果、30km/sの太陽系脱出速度が得られることを示した。これはカイパーベルトまで約30年で達する速度であり、第1世代の恒星間領域探査機として有望と考えられる。
著者
伊藤 真之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

X線天文衛星「あすか」の位置検出型ガス蛍光比例計数管GISのデータを用いて、太陽X線の地球大気アルベドのスペクトルおよび長期変動を調べた。この結果、太陽活動の極小期から極大期をほぼカバーして、太陽X線とその地球大気アルベドのスペクトルが、0.5-5keVのエネルギー範囲で、いくつかの元素のK輝線を識別できる程度のエネルギー分解能で得られた。スペクトルは、(a)2温度成分の高温プラズマの熱放射、(b)これに対する中性ガスによる反射・吸収の補正、(c)付加的輝線成分から成るモデルで記述された。主として成分(a)が太陽コロナX線の太陽全面にわたる観測期間内の平均スペクトルに相当する。太陽X線に関する主な結果は次のようにまとめられる。1.得られた太陽X線スペクトルは、温度3×10^6K程度および(5-10)×10^6K程度の熱放射としてほぼ記述できる。高温成分は主とし太陽フレアで生成される高温プラズマの放射であり、低温成分は主としてフレア以外のコロナの放射であると考えられる。2. 2成分の温度には、太陽活動周期にともなう大きな変化はみられなかった。3. 2成分の強度は太陽活動周期と同期した変化を示した。変化の割合は高温成分の方が大きく、太陽活動極大期において高温成分の占める割合が大きくなる。付加的輝線(c)には、地球大気のOおよびAr以外に、Mg、SiなどのK輝線が含まれ、これらは(a)の熱放射から期待される輝線に対してエネルギーが低く、強度が大きい。一つの可能性として、太陽コロナにおける電離非平衡の効果が考えられる。なお、研究の構想段階ではASTRO-E衛星も視野に入れていたが、軌道投入失敗のためこれは実現しなかった。ほぼ同じ設計の衛星ASTRO-EIIの打ち上げが予定されており、X線カロリメータによる高分解能のデータを用いて、本研究の方法による展開が期待できる。
著者
米森 敬三 山根 久代
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度も昨年度同様、単一柔細胞からの細胞液採取方法を確立することを主たる目的として実験を行った。まず、カキ果実でヘタ片除去処理によって果実肥大を抑制することによって、果実の単一柔細胞中で誘導される糖組成の変化を再調査した。その結果、昨年度の結果同様、単一柔細胞の細胞液中の糖組成が変化し、還元糖含量が有意に減少し、全糖含量に占めるショ糖の割合が増加していることを確認した。さらに、本年度は様々の果実を用いて、それらの果実での単一細胞からの細胞液採取が可能であるかどうかを調査した。すなわち、ニホンナシ‘二十世紀'、リンゴ‘フジ'、モモ‘あかつき'および‘清水白桃'を収穫期に採取し、単一柔細胞からの細胞液の採取し、その糖含量を顕微鏡での酵素反応を用いた蛍光分析により、また、その浸透圧をピコリッターオズモメーターにより測定することを試みた。その結果、それぞれの樹種において細胞液の採取が可能であり、また、その糖含量および浸透圧を測定することが可能であることが明らかとなった。さらに、ニホンナシ‘二十世紀'とリンゴ‘フジ'から採取した細胞液については、その無機成分をSEMに装着したX線分析装置を用いることで測定することを試み、細胞液中のカリウム含量の測定が可能であることが明らかとなった。以上、マイクロマニピュレーターを用いた単一柔細胞からの細胞液採取およびその糖含量、浸透圧、無機成分などの分析は様々な樹種において可能であることが明らかとなったが、当初目的とした、単一柔細胞から採取した細胞液を用いてのmRNA分析による遺伝子発現の解析については非常に困難であり、発表出来るだけのデータを得ることが出来なかった。ただ、これまで本研究で得られた単一柔細胞から採取した細胞液の糖分析等のデータに関しては現在学会誌への投稿を準備中である。
著者
筧 文生 野村 鮎子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本の宋代文学研究は、一部の古文家や詞の作者を除いて質・量ともに唐代のそれに及ばないのが現状である。この原因の一つには、別集に関する基礎研究の不足があげられる。そこで、我々は清朝考証学の精髄というべき『四庫全書總目提要』宋代別集の部の研究に着手した。『四庫全書』は北宋別集として115家122種の別集を著録している。平成10年度には、この122種の別集の解題すべてについて訳注をつけるという作業を行った。平成11年度は、その中でも特に重要な文学者50家56種の別集提要を選んで整理分析を行い、その成果をまとめた『四庫提要北宋五十家研究』(筧文生・野村鮎子著 汲古書院 2000. 2)を上梓した。また、野村鮎子はこれに関する論文「『四庫提要』にみる北宋文学史観」(立命館文学563号 2000. 2)を発表した。『四庫提要北宋五十家研究』は、日本学術振興会の研究成果公開促進費の助成を受けて出版したものであり、今後、宋代文学研究に必備の文献となるものと確信している。また、版本の研究については、平成10年度は国内の研究機関・所蔵機関を中心に調査し、平成11年度夏には、中国における宋代文学研究の中心である四川大学古籍整理研究所に赴き、日本国内では見ることのできない版本を閲覧する機会を得た。これらの版本研究の成果は上記の本と論文に結実している。ただ、南宋別集は北宋別集の数倍の量があるため、作業が思うように進捗せず、出版に至らなかったことは残念である。数年のうちにはこれを整理し、南宋編の出版をめざしたい。
著者
朝倉 政典
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

昨年度より代数的サイクルと混合モチーフについて研究している。混合モチーフは数論的代数幾何学における壮大な構想であり、理論として確立されたあかつきには、代数幾何学のみならず整数論へも数多くの深い応用をもつことが期待されている重要な分野である。しかし多くの優れた研究者の努力にも関わらず、混合モチーフはいまだ定義すらない極めて研究の困難な分野でもある。私は特に複素数体上の混合モチーフの理論を確立することを目的として研究してきた。これまでに、数論的ホッジ構造という概念を導入し、代数曲面上の0-サイクルや、代数曲線のK群についてのブロック予想について研究してきた。本年度の研究では、代数曲線のK群に関して更なる研究結果を得ることに成功した。より詳しく説明すると、これまでK群の元を扱うときにその元のサポートに条件がついていたのであるが、その条件を弱めることができた。鍵となるのはベイリンソン予想であるが、これについてネーター・レフシェッツ型の定理を、斎藤秀司氏と共同で証明することができた。これらの研究結果は、論文として執筆中である。また多くの研究集会、セミナー等においても講演した。特に本年度は、フランスのフーリエ研究所における研究集会において講演する機会を得た。
著者
松本 康隆
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.71, no.602, pp.191-198, 2006

Sosen KIZU is a designer of modern tea rooms, and the one he designed for the Imperial family in 1930 is one of his most famous work. But, up to know, there has been no study about the whole life work of Sosen Kizu. The purpose of this paper is to settle the fundamental basements for the futures studies about him. In this study, by first piecing out the plans and texts, that is all the historical documents about KIZU and his contemporaries, we want to make a synthesis of his skill as a Tea-Master. By listing up his architecture, we understood where it spread in the different regions, and the approximate proportion of the tea rooms in his all work.