著者
野口 裕之 島田 めぐみ 熊谷 龍一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2019年度は、以下の調査を実施した。1)「話す(表現)」「書く」および「やりとり」の自己評価調査、2)「漢字運用力」を表わす能力記述文を開発試行調査、3)日本語教育機関のカリキュラムに対応する Can-do statements 自己評価調査( 1)2)と同時実施、中国のみ)。1)では、CEFRから学習者による自己評価が難しい言語能力記述文を除いて、調査票を構成した。回答には4段階評定尺度を用いた。調査協力者は、中国(漢字圏)、インド、ベトナム(非漢字圏アジア)、豪州、米国(非漢字圏非アジア)および日本国内の日本語学習者724名であった。難易度を表す尺度構成にはIRTの段階応答モデルを適用した。その結果、「産出的能力」では、難易度の順序が元のCEFRの順序と一致する部分が少なくないが、「やりとり」では、元のA2項目群とB1項目群に難易度の重なりが見られるなど項目の順序性に関してCEFRと緩やかな一致傾向が見られるに留まった。CEFRの日本語への適用は、単に翻訳するのではなく、日本語に合わせた調整の必要性が示唆された。2)に関しては、現在詳細な分析を継続している。3)に関しては、2018年度に実施した「聞く」「読む」に関する中国A大学のCan-do statements自己評価データと,CEFR言語能力記述文の自己評価データを合わせて同時に分析した結果を比較検討した。すなわち、IRTの段階応答モデルを用いて,グローバルなCEFRとローカルなA-Cdsを同一尺度に乗せて,両者の項目困難度を比較するという試みを行なったが,この手法の有効性が確認できた。CEFRを日本語教育場面で活用するためには、言語能力記述文をそのまま日本語に翻訳するだけではなく、日本語に合わせたレベルの調整・変更や、日本語の独自性を反映する言語能力記述文を加えることなどが必要であることが明らかにされた。
著者
立花 修
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

視力視野障害やホルモン分泌不全を呈する、症候性ラトケ嚢胞の嚢胞増大機序の一つに、水チャンネルを司るアクアポリンが関与していることが判明した。また、ラトケ上皮細胞がアンドロジェン受容体を発現することにより、下垂体での炎症の誘発、ラトケ上皮の増殖に関与すると推測された。アクアポリンやアンドロジェン受容体は、症候性ラトケ嚢胞の治療における標的分子となりうると考えられた。
著者
大場 武
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

火山ガスはマグマに溶存していた揮発性成分から構成され,火山噴火がマグマから揮発性成分が抜けることを駆動力としていることを考えれば,その観測は火山噴火メカニズムの解明に必須であると言える.しかしながら,火山ガスを火口で直接採取することは危険を伴う.その危険を回避する手段として,大気に拡散した火山ガスによる自然光の紫外域,赤外域での吸収を利用する遠隔観測が実用化されている.しかし自然光の光吸収による観測は,SO_2,HCl, CO_2など,限られた気体のみに可能である.火山ガスの重要な成分であるH_2,H_2Sに光吸収法は適応できない.本研究で試みた遠隔観測の手法では,火山ガスにレーザービーム光を照射し,後方散乱するラマン光を観測することにより化学種の特定と濃度の推定を行う.この手法は,ごく一部の気体を除き,火山ガスを構成する主要な気体を全て感知することが原理的に可能である.実験は,532nm cw 0.6Wレーザー発振器,25cmニュートン式反射望遠鏡,CCDマルチチャンネル光ファイバー入力分光器を購入し,組み立てることにより実施した.実験では,レーザービームを夜空に向けて照射し,後方散乱する光を望遠鏡で集光し,分光器でそのスペクトルを観測した.分光器の仕様により露光時間は1分間に限られた.その結果,大気を構成するN_2ガスのラマン散乱光の検出に成功した.しかN_2以外の気体のラマン光強度は,ノイズ光強度以下であった.本研究の結果,実際の火山ガスに応用するために以下の改善が必要であるいえる.それは,レーザー出力の増強,分光器の感度向上,望遠鏡の集光力の増大である.結論として,最終的な目標への道のりは遠いものの,本手法の成功がもたらす革新的な観測能力の向上を考えれば,継続的に発展的な研究を続ける意義があると考えられる.
著者
塩田 勝利 舩田 正彦 岡田 剛史 西嶋 康一 岩村 樹憲
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本邦でもcaffeine中毒を呈する例が増加しているが、caffeine中毒に対する治療は対症療法しか存在しない。そこで我々はcaffeine中毒の薬物治療法を確立するため、caffeineによる高体温及び行動量増加をcaffeine中毒の指標として選択し、これらを抗精神病薬であるrisperidoneが抑制することを報告した。さらにこの作用はrisperidoneの5-HT2A受容体拮抗作用によるものと報告した。Caffineは興奮性薬剤の一種であり、違法性興奮性薬剤のcocaineと意図的に併用されたり、cocaineの混合物として使用されることも多い。そこで今回我々はcaffeine毒性のさらなる研究として、caffeineとcocaineを併用した場合にcocaine毒性が増強されるか実験を行った。Wistar系雄性ラットの頸部皮下にNano Tagを埋め込み、体温及び行動量の測定を室温24度の条件下で行った。Caffeine10㎎/kg、30㎎/kgまたは生食とcocaine30mg/kgと併用したところ、caffeine投与群は用量依存的にcocaineによる行動量増加を増強する傾向にあった。またcocaineを投与すると体温は上昇するが、caffeineを併用するとcocaineによる最高体温には影響を与えないものの、cocaineによる体温上昇を遷延させる傾向であった。これらの結果からcaffeineはcocaineの中毒症状を増悪させると推測された。我々はcocaineによる高体温をrisperidoneが抑制することをすでに明らかにしている。そのためcaffeineとcocaine併用による高体温や活動量の増加に対してもrisperidoneが有効であることが示唆された。
著者
饗場 直美 金田 雅代 中馬 和代 遠山 致得子 廣田 美佐子 村井 栄子 赤松 美雪 川本 輝子 西尾 佳代 亀ヶ谷 照子
出版者
神奈川工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

栄養教諭制度の導入以降10年間の学校給食の変化と給食の食育展開や、学校での食育の連携について実態調査を実施した。 全国7県の研究チームで、平成17年、21年、26年の3年間の給食献立内容について解析した結果、主食+主菜+副菜が明確な献立の増加、野菜の提供の増加、和洋中の献立の区別の明確化、献立中の食塩量の減少などが明らかになった。一方、設備などの環境要因も献立作成に影響を与えていた。給食を活用した食指導状況をみると、食育の6つの観点の中で、「食事の重要性」の観点をもたせた献立が増加していた。 以上のことから、栄養教諭はより意図の明確な献立を作成し給食指導を行って来たことが明らかになった。
著者
但木 謙一
出版者
国立天文台
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

楕円銀河の形成過程の解明は現代銀河天文学における究極的な目標の1つである。現在の我々の理解は、『およそ100億年前にあるコンパクトな大質量銀河がガスの枯渇した小質量銀河との衝突合体を経て、巨大な楕円銀河へと進化した』というところまでであり、さらに遡った歴史についてはほとんどわかっていない。本研究では、コンパクトな大質量銀河の直近の祖先だと考えられるサブミリ波銀河に着目し、世界最高性能のアルマ望遠鏡を用いて分子輝線の観測を行い、ガスの運動学的・物理的性質を明らかにする。
著者
宮沢 孝幸 中川 草 目堅 博久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

レトロウイルスの一種であるフォーミーウイルスは、宿主に終生持続感染するものの、いかなる疾病を引き起こさない。本研究は、フォーミーウイルス由来miRNAの抗腫瘍ポテンシャルに着目し、このウイルスがいかにして宿主にがんを引き起こすことなく宿主と共存しているのかを明らかにする。また、フォーミーウイルスが宿主のmiRNA産生系を乗っ取り、大量のmiRNAを産生するメカニズムを明らかにする。そしてこれらの知見を利用して、腫瘍抑制性miRNAを強力に発現しうる新規ウイルスベクターを開発し、家畜や伴侶動物を対象とした新規がん治療法へ道を拓く。
著者
御興 久美子 赤松 万里 内田 由理子 土家 琢磨 吉野 太郎
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アカデミック・ハラスメントが発生しうる危険性を組織内で予知し、事前に対策を講じることができるようにとの目的で、環境評価基準の策定をおこなった。評価・点検項目のうち、大半の大学で未整備のアカデミック・ハラスメントおよびパワー・ハラスメント防止対応ガイドラインおよび相談窓口設置運用規程について、基準案を策定した。
著者
黒嶋 敏 谷口 央 金子 拓 播磨 良紀 鴨川 達夫 畑山 周平 山田 貴司 福原 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、戦国時代でも非常にまれな合戦での「大敗」に着目して、敗者側の大名領国に与えた政治的・社会的影響および精神面への影響を考察し、そこから戦国大名権力の特質に迫ろうとするものである。3年間の研究期間を通じて、7つの「大敗」事例に関する史料の収集・調査、ならびに関連する史跡の現地調査を行った。また、期間最終年次となる2017年の12月には、「戦国合戦<大敗>の歴史学」と題する公開研究会を東京大学において開催し、研究代表者を含む7名が成果を報告した。
著者
西原 真理 新井 健一 牛田 享宏
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

感覚過敏は中枢神経感作とも重なる概念であるが、その評価は主観的なものに限られ、他覚的に定量化する試みは成功していない。治療法として弁別能力を向上させることが有効であると推測されるが、その生理学的評価を中心に研究を継続している。これまでは聴覚刺激による皮質反応を検討してきたが、触覚による評価も追加した。一連の研究から、触覚でも聴覚と同様の抑制が見られること、その抑制は情報の階層処理が進むほど強くなること、個体内で聴覚、触覚の抑制率に一定の傾向があることなどが分かっている。新しい生理指標として期待できるものであった。また異なる方法として、音圧変化の程度に応じて反応する聴覚誘発反応変化率(loudness dependence of auditory evoked potentials:LDAEP)についても検討し、それらが不安や特定の性格傾向と関連があるかどうかについて調べている。また、更に感覚過敏を社会関係性の視点から検討するために動物実験を追加している。このために高社会性げっ歯類であるハタネズミを用いた。これまで既に、絆が形成されたペアーを短期間離して飼育すると、機械刺激、熱刺激に対する反応性が増強すること、この過敏性は不安と関連していることを報告している。現在は感覚過敏の治療に応用するための正確な生理学的評価である聴覚、触覚刺激による脳内抑制機構の定量化の成果は得られているが、直接的に治療に結びつけ、論文発表に結びつけ、一定の成果を上げるにはさらに追加実験が必要であると考えたため、研究を1年延長した。
著者
工藤 浩 松本 弘毅 松本 直樹
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

初年度にあたり、入力済みの底本卜部兼永筆本の本文をもとに、研究代表者と分担研究者で巻第一~巻第三の訓読文、頭注、口語訳の草稿を作成し、問題点を検討中である。新編日本古典文学全集に倣い、見開きの右頁には校訂本文と校異の頭注、左頁には訓読文を置き語釈に関する頭注と下部に口語訳を付した体裁を採ることとし、頁割見本を作成した。『先代舊事本紀』主題と構想は、物部氏の職掌の起源を明らかにし、石上神宮を顕彰をすることにあると考えられる。本文の大部分は、『古事記』『日本書紀』『古語拾遺』の抄録によって形成されているため、右頁の本文の右側には『古事記』左側には『日本書紀』『古語拾遺』の対応箇所の本文を掲げて、三つの文献の抄録によって記述された部分と『先代舊事本紀』独自の内容を持つ箇所が一目瞭然となるようにする。施注の際には、全体の主題と構想を視野に入れながら、前者の箇所については、記事を選択する意図を明らかにするとともに、後者については詳細な語釈を心がける。未調査の写本数本の閲覧と複写を行い調査を進めている。予定していた写本一本の閲覧が実施に至っていないため作業ができない状況にある。早急に閲覧許可を得て、校訂本文の策定に取り掛かることが当面の課題である。分担研究者の松本弘毅氏によって、写本系統については従来の研究が書き換えられつつあるため、更に調査の及んでいない写本に関しても、能う限り対象に入れた本文校訂を行うことが、必要である。施注では、基盤研究(C)「先代旧事本紀の総合的研究」(15K02236)に於いて明らかにした日本文学、日本史学、日本語学、神道史学の立場からの学際的なアプローチの成果を盛り込みながら、注釈作業を進めてゆくことを確認した。今年度は、三名各自がそれぞれ論文一本を、論集・雑誌に発表した。
著者
長谷部 信行 宮島 光弘 草野 広樹
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

(1)高真空及びガス純化装置を備えた固体キセノン製作クライオスタットの完成。(2)気体から液体を経て固体とする固体作成法と気体から直接固体を製作する固体作成法の完成。(3)基礎的な放射線物性の一つ、固体キセノンの発光現象の観測。
著者
北川 裕子
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、自殺リスクの高い若者を特定するための実用的なリスク予測アルゴリズムを構築し、高リスクの対象への早期の適切な支援促進に貢献することである。具体的には、学校・医療機関の両面の多施設共同での研究遂行により次の2点を実現することである。1)自殺企図および自殺に関連するリスクを予測するアルゴリズムの構築:学校・医療現場から収集される多様な情報を活用し機械学習を用いて自殺リスクを有する若者の特徴・パターンを解明する。2)潜在的に自殺リスクの高い若者と接する学校教員(養護教諭)や医療従事者のリスク発見促進とケアの意思決定を補助するツールの開発:データの収集システムは携帯端末およびクラウドを活用する。システムには国際的に評価されている自殺リスクに関する質問項目に加え日常的な事象に関する項目を搭載し、入力後に個人のリスクの程度が可視化されるシステムを構築する。また若者が精神不調を回答しやすい構造の工夫も進める。以上を達成するために、2019年度中に実施したことは次の通りである。・新潟県教育庁からの要請で、県立高校22校に代表者が開発した「精神不調アセスメントツール(RAMPS)」を導入し、保健室での自殺リスクを含む精神不調スクリーニングを実施。学校でのリスク評価と事後対応(保護者・医療機関等との連携)に寄与した事例が複数件報告された。この実施実績が新潟県に認められ、全県へのRAMPS導入が決定しており、2020年度は33校で実施、段階的に実施校を拡大していく。また、東京都内の高校2校、茨城県内の高校1校での導入要請があり実施準備を進めている。得られたデータをもとに予測指標の妥当性・信頼性を確認し、より予測精度の高いリスク評価指標の構築を目指し、データ解析を進めている。
著者
田島 弥生
出版者
岐阜大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

日本語母語話者の周辺認知の高さと、周辺情報から先に言語化するという日本語の言語習慣との関連性を検証するために、日本語、英語の母語話者を対象に、言語描写を求められているときといないときの2つの条件下で、静止画像に対する眼球運動を計測した。同時に、談話レベルに観察される情報構造の特徴を明らかにするために、静止画像に対する言語描写を録音し、データ分析を実施した。諸事情により、当初の計画通りに実験が進まず、残念ながら、未だ、データ採取、およびデータ分析の途中である。今年度中に研究を完了させる予定である。
著者
福光 正幸
出版者
北海道情報大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年, 「ブロックチェーン」や「IoT機器」の活用に期待が高まっている. しかし, 内在する次の2つの問題により, これらはいずれ破綻する恐れがある. 1つ目は, 生成される署名データ量の肥大化問題であり, 2つ目は, 量子コンピュータが実用化された場合の安全性の破綻問題である. これらは共に, 使用される署名技術の性能に起因しており, 前述の問題を同時に解決できる署名技術は未だ存在していない. そこで本研究では, 前述の問題を同時に解決できる「圧縮可能性」(膨大な署名データ量を縮小できること)と「耐量子性」(量子コンピュータからの攻撃に耐えうること)を共に備えた署名技術を新たに開発する.
著者
立木 康介 TAJAN NICOLAS
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究の目的は、身体的および心理学的な「傷」(traumaというギリシャ語はもともと身体的な傷を意味する)が文明の発展に及ぼした影響、もしくは果たした役割を明らかにすることである。歴史的文書、出版された文献、ならびにフィールド・インタビューを中心とする一次資料の調査を通じて、人文学、社会科学、生物科学、及びエンジニアリング(研究開発)といった諸分野のあいだの学際的対話を促進することが目指された。本研究の実施は、当初の計画からいくぶん変更されたものの、基本的な方向性や枠組みは一貫しており、多様な歴史的時代、および文化的地域を扱った。とはいえ、他の研究者たちの視点と向き合うことで、本研究の焦点の精度は上がり、今年度、本研究は五つのサブテーマに沿って組織し直され、そのそれぞれについて、文献学的、臨床的、および民族誌的方法を用いて、文献調査およびフィールド調査を行った。五つのサブテーマは、具体的には以下の通りである:1/ 西洋古代(ギリシャ・ローマ)における狂気とトラウマ:古代人はトラウマ的記憶を知っていたのか? 2/ フランス革命時の「大恐怖」から神経学臨床の誕生に至る、政治的暴力とトラウマ。3/ ショアーの記憶と世代横断的トラウマ。4/ 現代ヨーロッパにおける戦争トラウマのポリフォニー:フランス退役軍人のPTSDとテロ攻撃の犠牲者。5/ 社会的ひきこもりのトラウマ的特徴:日本のひきこもり患者とその家族の研究。これらのサブテーマは、外国人研究者が2019年の刊行を目指して目下準備している英文著書の五つの章をそれぞれ構成するだろう。プロジェクト全体では、三冊の著書を含む18本の成果が出版される予定である。
著者
村田 幸作 井上 善晴
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

C-P結合は、極めて強固な結合であり、化学的、熱化学的、あるいは、光化学的にこの結合を切断することは不可能に近い。酵素による切断が、現在期待できる唯一効果的な手段である。特に、C-P化合物が除草剤、殺虫剤、あるいは、抗カビ剤などとして多量に自然界に散布されている現状、および、食物連鎖を通じてこれらC-P化合物の生体への高濃度蓄積の懸念を考える時、微生物酵素によるC-P化合物の分解は重要な意味を持つ。そこで、C-P結合開裂酵素の実体を明らかにするため、C-P化合物を唯一のリン酸源として生育し、かつ、培地中に著量の無機リン酸を蓄積するバクテリアとしてEnterobacter aerogenesをスクリ-ニングした。E.aerogenes IFO 12010は、種々のC-P化合物(methylphosphonic acid,pherylphosphonic acid,phosphonoacetic acid)を唯一のリン酸源として生育し、培地中に無機リン酸を蓄積した。しかも、本菌の無細胞抽出液は種々のC-P化合物より無機リン酸を遊離する活性を示し、初めてC-P結合開裂酵素の無細胞系での証明に成功した。本酵素は、リン酸欠乏下で誘導合成されることにより、Phosphate Starvation Inducible(PSI)regulonに含まれる遺伝子にコ-ドされていると考えられた。本菌の抽出液を透析後、DEAE-celluloseとSephaclex G-150(voidに溶出される)で分画し、活性画文をTSK-HW65カラムでゲルロ過することにより、本菌には2種類のC-P結合開裂酵素(E1とE2)が存在し、その中の主要酵素であるE2はC-P結合開裂酵素活性の発現に2種類のタンパク質の共存を必要とすることを明らかにした。このように、E.aerogenes IFO 12010に初めてC-P結合開裂酵素活性を検出し、しかも、この酵素は活性発現に特殊なタンパク質構造をとることを明らかにした。有機化学的に殆んど不可能なC-P結合の開裂が酵素化学的に進行するというこの事実は、酵素の超化学的な機能を物語るものであり、我々の知らない化学反応がまだ残されていることを示唆した。
著者
岡本 成史 山田 博司
出版者
独立行政法人医薬基盤研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

インフルエンザワクチンの経鼻接種は、粘膜表層への抗インフルエンザIgA抗体の産生を誘導し、インフルエンザウイルス感染における交叉防御効果に関与すると考えられている。しかし、実際に抗インフルエンザIgA抗体がこの交叉防御効果に関与する直接的な証明はほとんどなされていない。そこで、我々は、昨年度よりインフルエンザワクチンの粘膜免疫により抗ウイルスIgAモノクローナル抗体を作製し、その抗体の抗ウイルス交叉防御効果の可能性について検討を行った。H3N2型のAインフルエンザウイルス広島株に対する抗ウイルスIgAモノクローナル抗体を採取し、その交叉防御効果について検討したところ、同抗体が広島株以外の複数のH3N2型株に対する交叉性の抗ウイルス中和活性を有することを明らかにした。IgA抗体は、モノマー及びポリマーと形態に多様性を有することから、同抗体のモノマー、ポリマーの形態別による抗ウイルス中和活性の変化の有無を検討した。その結果、ポリマーの形態の方がモノマー形態よりも各ウイルス株に対する交叉反応性の中和活性が数倍以上高いことを明らかにした。次に交叉反応性の中和活性に作用する抗原認識部位についてエスケープミュータントを用いた解析を用いて検討したところ、ヘマグルチニン(HA1)のIgG抗体結合部分と推定される210番目のアミノ酸が関与することを示唆した。以上の結果から、IgA抗体が交叉反応性の中和活性を有すること、その交叉中和活性を効果的に作用するためにポリマーの形態が重要であることを明らかにした。
著者
猪飼 隆明 森藤 一史 沖田 行司 吉村 豊雄 三澤 純 野口 宗親 八木 清治 北野 雄士
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、横井小楠全集(小楠遺稿、関係史料-来翰や小楠に関する当代の記録、講義録など)の刊行に向けての基礎的作業を行うことにあった。横井小楠については、1938年に刊行された山崎正董編著『横井小楠』上下2巻(うち下巻は、山崎正董編『横井小楠遺稿』として1942年に刊行)があり、以後の研究は、ほとんどこの山崎本を頼りに行われてきた。しかし、横井家には、関係史料が沢山保存されていることが分かり、かついくつかの図書館・資料館等にも、未発見の史料があることが確認され、また個人の好事家の蒐集するところともなっていることが判明した。そこで、今後の横井小楠研究のみならず、明治維新研究、立憲制の研究、欧米への関心と洋学受容、開国論、また福井藩の藩政改革論などの研究の発展のためにも、これらの史料を蒐集し、先学の研究の検証を行うことこそ重要であるとして、本研究を3年間継続してきた。1 この間蒐集した史料は、横井家所蔵の資料(ここには、小楠自筆の原稿・書翰類、来翰等が含まれる)、小楠の弟子たちの家から発見された史料(柳瀬家・安場家・徳富家など)、福岡県立九州歴史資料館柳川分館・佐賀県立図書館鍋島文庫・福岡県立伝習館文庫・熊本大学寄託文書永青文庫等から、合計2000点近くの関係史料が蒐集された。2 山崎正董編『横井小楠遺稿』についての考証作業を一通り終了した。3 小楠の弟子が記録した講義録の検討を行った。以上の成果を、なるべく早い機会に、横井小楠全集として次々と刊行していくつもりであるが、現構想では、5巻程度のものになる予定である。
著者
野崎 守英 桜井 進 山田 隆信 中村 春作 山泉 進 百川 敬仁 豊澤 一 清水 正之
出版者
中央大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

1)私たちが意を用いたのは、なるべく多く討論の機会をつくることだった。1990年と91年にかけて、都合6度の会合の機会をえたが、これは、互いに考えを深め合うのにきわめて有効だった。2)私たちは、参加者の間に3つのグループを作った。ナショナリズム・ティーム、ロマンティシズム・ティーム、フォークロア・ティームがそれである。この3つのあり方が、18・19世紀に日本及びヨーロッパ領域に生じた言説のあり方を分析するのに、恰好の視角である、と私たちは考えたのである。そこで、何人かの思想家の思想を取り上げ、次の点を解明するために分析を施した。詳細は、報告書によって見られたい。(1)、「国家」がわれわれの時代において、世界空間を分かつ中心的な枠になったのはなぜか。そして、そうなったことにどういう問題点があるか。ナショナリズムの問題ということになる。(2)、ロマンティシズムといわれる思想動向が、心の故郷を過去に見出だすというかたちで登場するのはなぜか。ロマン的な心性というものは、まさにこの時期を特徴づけるものにほかならないが、その心の向きがかたどられているのはどんなヴェクトルか。(3)、この時期、ある人びとは、自分らの原型になると見做しうる生活のかたちを過去に探る営みをすることになる。こうしたフォークロアに関心を示す心のあり方に潜んでいるのはどういう動向か。3)この探究のあとで、私たちは、現代の倫理問題をどう考えたらよいか、その下敷きとなる知見をうることができたと思っている。今後、探究をより深めて行きたい。