著者
満薗 勇
出版者
マーケティング史学会
雑誌
マーケティング史研究 (ISSN:24368342)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.147-164, 2023-09-30 (Released:2023-09-30)
参考文献数
15

日本企業における消費者対応部門は1970年代から整備が進んだが,当初の消費者対応は,苦情処理という位置づけにとどまり,社内での地位も低かった。そうしたなかで1980年に発足したACAPは,企業や業種の枠を越えて消費者対応のノウハウを蓄積・共有するとともに,消費者対応という業務をマーケティングの一環として位置づけることに努め,「消費者志向体制」の整備に大きく貢献した。先進的な企業においては,コンピュータを利用したシステム整備が進み,消費者対応を通じて集めた消費者の声を,社内のさまざまな部門にフィードバックする態勢も整えられ,商品の改善や開発につながる成果も表れた。1980年代後半以降には,消費者対応部門の名称に「お客様」の呼称を冠する企業が増えていったが,そうした変化は,消費者対応の業務がマーケティング上の位置づけを獲得していったことと,深く結びついていたと考えられる。
著者
設楽 佳世 袴田 智子 大西 貴弘 池田 達昭
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.369-382, 2017-10-01 (Released:2017-09-29)
参考文献数
41
被引用文献数
2

The objectives of this study were 1) to quantify the differences in body densities and percent body fat using various methods for evaluating body composition (e.g., underwater weighing (UWW), air displacement plethysmography (ADP), skinfold caliper (SKF) measurement, ultrasound (US), bioelectrical impedance analysis (BIA), and dual-energy x-ray absorptiometry (DXA)), and 2) to examine the relationship between trends of the differences in body density and percent body fat obtained by these methods and characteristics of morphology and body composition. To this end, the body compositions of 73 healthy male adults were measured using UWW, ADP, SKF, US, and BIA. Twenty-seven of these 73 subjects underwent further measurement using DXA. Differences in body densities determined with ADP, SKF, and US were compared with those measured using UWW as a reference, and the differences in percent body fat estimated with UWW, ADP, SKF, US and BIA were compared with those measured by DXA as a reference. The results of this study indicate that 1) ADP is useful as a method for evaluating body density, as the results differed insignificantly from the reference method and showed no systematic errors due to differences in morphological characteristics and body composition, and 2) UWW measurements exhibited the smallest difference in percent body fat from the reference method, however, more than in any other method, there were systematic errors due to differences in morphological characteristics and body composition, specifically, trunk composition.
著者
西野 浩史
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.26-37, 2006-04-20 (Released:2007-10-05)
参考文献数
62
被引用文献数
1

広い動物界にあって聴覚を有し, これを同種間コミュニケーションに役立てている動物は前口動物の頂点に位置づけられる昆虫と, 後口動物の頂点に位置づけられる脊椎動物に限定される。系統的に大きく隔てられたこれらの動物が聴覚を発達させていることは, 収斂進化の典型例とみなされてきた。しかし近年の研究からは, 音を処理する感覚細胞は動物間共通の分子機構を持つことが明らかとなってきている。むしろ収斂進化のもっとも顕著な部分は音エネルギーを効率良く感覚ニューロンに伝えるための体構造の修飾にある。鼓膜がその良い例である。本稿では最近10年の聴覚研究の新発見を広くとりあげ, 昆虫の聴覚器官の進化について論じてみたい。
著者
坂本 薫 森井 沙衣子 上田 眞理子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.193-199, 2015 (Released:2015-07-06)
参考文献数
34
被引用文献数
3

温水浸漬と低温浸漬が米の吸水率に与える影響について,浸漬水中の固形分を考慮して経時的に検討した。5~50°Cの温度で5~240分間米を浸漬し,米の吸水率を測定したところ,温水浸漬と低温浸漬では,吸水曲線が交差する現象が観察され,平衡状態まで吸水させた場合では,温水浸漬よりも低温浸漬の米の吸水率が高かった。浸漬水中の固形分の量を経時的に測定したところ,40°C,50°Cの温水浸漬では固形分は多く浸漬液中に懸濁していた。そこで固形分を加えた補正吸水率を算出したが,吸水曲線が交差する現象が同様に観察され,平衡状態では温水浸漬よりも低温浸漬の米の吸水率が高かった。
著者
落合 恵美子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.533-552, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
52
被引用文献数
1 7

日本の近代家族研究の蓄積は世界の家族変動研究にどのような貢献ができるのか, アジアとヨーロッパを例に検討する. まず, 人口転換とジェンダーへの注目を理論的基礎として, 近代の家族変動と社会変動をとらえる枠組みを提出する. 第1次人口転換と主婦化が近代家族を単位とする「第1の近代」を作り, 第2次人口転換と脱主婦化が個人化と家族の多様化を特徴とする「第2の近代」を開始させたとする枠組みである. この枠組みをアジア社会に適用するため, 日本以外の東アジア諸国は圧縮近代, 日本は半圧縮近代ととらえることを提案する. 圧縮ないし半圧縮近代においては, 「個人主義なき個人化」すなわち, 家族が互いに支え合う社会において, 家族というリスクを回避するための「家族主義的個人化」が起こる. また, 人口学的条件等の違いの結果を文化的優劣と誤解して, 間違った政策判断をする危険がある. とりわけ自己オリエンタリズムによって「第1の近代」の近代家族や性別分業を自らの社会の伝統と思い込む「近代の伝統化」が起こりやすい. 日本よりも圧縮の強い他のアジア社会では, 伝統と近代とグローバル化が絡み合って家族のグローバル化が急速に進行する. 他方, ヨーロッパの「第2の近代」は, 世界的視野で見ると, 世界システムにおける地位の低下に対応する現象と考えられる. 多くの社会が行き着く経済成長の鈍化した高齢社会に対応した社会システムを構築する試みが「第2の近代」なのである.
著者
谷口 貴章 横井 裕之
出版者
国立研究開発法人物質・材料研究機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

酸化グラフェンの還元により、室温強磁性体と室温超伝導体を創出することを本研究の狙いとした。酸化グラフェンの局所構造とマイクロ構造は還元手法により異なり、磁性も還元手法に依存することを明らかにした。この中で、光還元を行った場合は、炭素欠陥と部分的水素終端により強磁性を示すことを見出した。 電気化学酸化還元グラフェンについては、還元によりラジカルが消滅し、再酸化によりラジカルが生成する、可逆的な反応を見出した。室温超伝導については達成することができなかったが、酸化グラフェン電気化学還元における巨大磁気抵抗の可能性と大疑似キャパシタンス容量を見出した。
著者
根村 直美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.73-88, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
22

本稿では,まず,押井守監督の映画『イノセンス』と欧米発の「サイボーグ映画」との比較考察を行った。そして,『イノセンス』には,「ポスト・モダン」状況の中で呼び起こされつつある理論的・思想的な懐疑がヒューマニズムへと回収されてしまうのを回避しようとする思考が認められることを明らかにし,そのような思考をポスト・ヒューマニズムと呼んだ。 続いて,そうしたポスト・ヒューマニズムがどのような身体図式・イメージをうみだしているのかを分析することを試みた。『イノセンス』においては,人形の身体は人工的に構築されたものとして捉えられている。その身体図式・イメージは,映画全体の基調となっているのであるが,人形の身体は,実は人間の身体の表現に他ならない。すなわち,『イノセンス』は,その<社会的に構築されたもの>という身体理解を通じて,<有機体>としての<人間の身体>に付与された<神秘性>から我々を解き放ったのである。 また,『イノセンス』の身体図式・イメージにおいては,構築される身体とは,<他者>と関わることにより立ち現れる具体的な状況において,画定された境界線をもつ。すなわち,その身体は,自分ではないが自分の一部であるような<他者>とのネットワークと相互作用がうみだす「偶発性」に基づくものである。しかも,そうした身体図式・イメージは,ヒューマニズムの枠組みには回収されえない<他者>への<敬意>とも結びついているのである。
著者
大平 英樹
出版者
日本感情心理学会
雑誌
エモーション・スタディーズ (ISSN:21897425)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.2-12, 2017-10-01 (Released:2018-01-10)
参考文献数
28
被引用文献数
3

Lisa Feldman-Barrett, who has promoted a psychological constructivism theory of affect, recently proposed the Embodied Predictive Interoception Coding (EPIC) model of affect, on the basis of the perspective of predictive coding. The theoretical framework of predictive coding argues that the brain creates inner models which can provide predictions for perception and motor movement, and that perception and behaviors are emerged from Bayesian computations rooted on the predictions. The EPIC model expands this perspective into interoception, which is perception of inner body states, and tries to explain phenomena of affect as integrative experiences based on interoception. This article introduces concepts of the EPIC model and examines the model by referencing to empirical findings.
著者
森口 佑介 土谷 尚嗣 西郷 甲矢人
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.94.22403, (Released:2023-06-30)
参考文献数
39

One important problem in current cognitive development research is the lack of theory. In this article, therefore, we propose a cognitive development theory based on mathematical structures. Specifically, we first focus on the concept of structure, which is the concept Piaget introduced to cognitive developmental research. Piaget’s theory was mainly inspired by mathematical group and lattice, but many concepts Piaget himself invented (e.g., grouping) were difficult to deal with in a mathematically rigorous manner. Therefore, here, the authors recapture some of the concepts proposed by Piaget in a mathematically understandable form based on the concept of mathematical category, a generalization of the group. Furthermore, we would like to introduce cognitive developmental research on structural concepts since Piaget and suggest directions for future research.
著者
浦田 隆行 徳満 修三 清野 竜太郎 田坂 雅保
出版者
Japan Society for Environmental Chemistry
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.29-37, 1999-03-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

水道水中の残留塩素, トリハロメタン, かび臭などの成分を除去する方法を確立するために, 加熱, 沸騰, 保温の仕方による, pH値と残留塩素, トリハロメタン, かび臭の濃度変化を測定した。水道水を沸騰近くまで加熱するとpH値はアルカリ性となった。この条件下では, 残留塩素は不揮発性の次亜塩素酸イオン (ClO-) の状態で存在している。したがって, 水道水中の残留塩素は, 揮発よりも水道水中に溶解している前駆有機物との反応により減少すると推測される。水道水を沸騰まで加熱すると, トリハロメタンは, 残留塩素と前駆有機物との反応により増加するとともに, 揮発により減少する。トリハロメタンを除去する上で, 沸騰時に発生する泡の状態が重要な役割を果たしている。したがって, トリハロメタンを除去するために, もっとも効果的な泡の発生方法を検討することは重要と考えられた。残留塩素が溶液中に存在するときは, 水道水中のトリハロメタンを除去した後でも, トリハロメタンは増加した。沸騰は2-メチルイソボルネオールを除去するのにも有効であった。2-メチルイソボルネオールの量は沸騰エネルギーの増加とともに減少した。
著者
今井 むつみ 岡田 浩之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

ヒトの非論理的だが効率のよい思考の背景に、本来一方向でしか成り立たないA→Bの関係の学習から逆方向のB→Aを同時に推論してしまう「対称性バイアス」があると言われている。このバイアスは私たちの言語学習と深い関連をもつと考えられてきたが、その詳細や発達的・進化的起源は不明である。本研究ではヒト乳児とチンパンジーの種間比較から、対称性バイアスがヒトで言語獲得以前に現れること、チンパンジーに比べヒトではこのバイアスが強く現れることを明らかにした。以上の結果をふまえ、対称性バイアスの発達や言語機能との関係等について考察した。
著者
冨岡 薫
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.68-75, 2022-09-28 (Released:2023-08-01)
参考文献数
29

生命倫理とフェミニズムを融合するひとつの動きとして「フェミニスト生命倫理」の発展が挙げられる。本稿はそこで論じられるトピックの中でも特に、自律を抑圧に抵抗する拠点として論じる「フェミニスト的な関係的自律」に関する先行研究を概観することを主たる趣旨としている。フェミニスト的な関係的自律は、それが「関係的であること」と「フェミニスト的であること」に関して、それぞれ批判を受けてきた。そこで本稿では第一に、それらの批判を概観し、哲学的な理論上ではフェミニスト的であることを重くとらない関係的自律の議論に一定の優位性があることを確認する。第二に、フェミニスト生命倫理やフェミニスト的な関係的自律の起源として、性と生殖を巡るフェミニズムの運動に立ち返る。このことを通して、抑圧への抵抗としてフェミニスト的な関係的自律を論じ続けることには依然として意義があり、またそれは歴史的観点から要請されるものでもあるということを提示する。
著者
秋山 虔
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.49-57, 1986-02-10 (Released:2017-08-01)

『源氏物語』「螢」巻の物語論は、光源氏と玉鬘との対話の過程において、物語についての通念を百八十度逆転させ、物語こそ人間の歴史を過不足なく構築するものであると主張する。この主張には律令政府の伝統的価値規範にもとづく一定の公的立場から書かれた官撰国史の権威をも一蹴する気概を感取しうるが、ここに展開される虚構の理論は、とりもなおさず『源氏物語』の作者による『源氏物語』創作の方法についての自注と解することができよう。そうした視点から、最近ことに重視されている准拠・引用(引詩・引歌)等の問題をあらためて爼上にのぼせ、『源氏物語』のまさに現代史として屹立する達成であることを明らかにしたい。