著者
市川 彰
出版者
国立民族学博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、1)先古典期から古典期(紀元後100年から900年)にかけてのメソアメリカ太平洋沿岸部の製塩活動と社会の実態を解明すること、2)イロパンゴ火山噴火が沿岸部社会に与えた影響を解明すること、そして3)紀元後5世紀イロパンゴ火山の巨大噴火前後のメソアメリカ太平洋沿岸部の生業と社会の特質について考古学的に明らかにすることにある。本研究の遂行により、「沿岸部社会・塩・火山噴火」というメソアメリカ考古学研究において重要視されながらも研究の実現が困難であった、もしくは調査研究が不十分であった課題を克服することが可能となり、生業研究や災害考古学への貢献が期待できる。研究成果は以下のとおりである。ヌエバ・エスペランサ遺跡の考古学調査では、発掘調査に加えて大量に出土する粗製土器片に付着する白色物質の化学分析、土壌成分の分析をおこなった。その結果、エルサルバドル太平洋沿岸部では少なくとも紀元後100年頃にはすでに集約的な土器製塩活動が存在し、それらは植物質食料(C4植物)を中心として定住生活を営む社会集団による季節労働であると推察され、製塩活動以外にも黒曜石などを遠隔地から入手し、墓には往時の社会的地位などを反映させていたことが明らかとなった。またイロパンゴ火山灰との層位的関係・出土遺物の分析の結果、噴火年代は紀元後400から450年頃、噴火時に儀礼をおこなう時間が存在したこと、つまり避難する猶予が存在したことが明らかとなった。また、イロパンゴ火山灰との層位的関係の明瞭な遺跡から出土した土器の型式学的分析や放射性炭素年代測定によって、火口からの距離によって噴火のインパクトが異なることを明らかにし、先スペイン期の人々の多様な火山噴火への対応の一部を考古学的に明らかにした。
著者
若宮 建昭
出版者
近畿大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

血液脳関門(Blood blain barrier;BBB)透過性を有するダイノルフィン様ペプチド(DLAP)および副腎皮質刺激ホルモン類縁体のエビラタイドの構造をもとに約20種のペプチドを合成したところ、両者の下線部分の構造を合わせ持つペプチドH-MeTyr-Arg-MeArg-D-Leu-NH(CH_2)_8NH_2(001-C8)が極めて高い透過性を示した。この001-C8を蛍光標識したペプチド001-C8-NBDの調製を行ない、まだ推測の域をでないAMT機構解明研究に用いた。その結果、従来の放射性標識では不可能であったペプチドの経時的な透過過程の追跡が可能となり、正電荷を持つペプチドが脳毛細血管細胞脂質膜上の負電荷部分に吸着したあと、徐々に膜を通過して脳実質へ移行する。AMT機構を視覚的に確認することができた。しかしながら、脂質膜上の負電荷部分の詳細に関してはまだ全く未知であり、今後明らかにされねばならない重要な課題である。001-C8を用いた種々の実験から、これを薬物の運搬役として利用するにはまだ血液中のペプチド分解酵素に対する安定性および脂溶性が、必ずしも十分高くはないことが明らかとなった。そこで、H-D-Tyr-D-Arg-D-Arg-D-Leu-NH(CH_2)_8NH_2,H-MeTyr-Arg-MeArg-D-Leu-NH(CH_2)_8NHCH(CH_3)_2,H-MeTyr-Arg-MeArg-D-Leu-NH(CH_2)_8NHCH_2CH(CH_3)_2などのペプチドを新たに合成し、それらの酵素安定性と透過性の試験を行っているが、その結果をもとに運搬役として理想的なペプチドの創製を目指す予定である。以上のように、本研究課題はまだ緒についたばかりであるが、これまでの研究により基礎的な問題は解決したので、今後の飛躍的な展開を期待して研究を続けて行きたい。
著者
谷口 眞子 中島 浩貴 竹本 知行 小松 香織 丸畠 宏太 斉藤 恵太 柳澤 明 長谷部 圭彦 原田 敬一 佐々木 真 吉澤 誠一郎 鈴木 直志 小暮 実徳
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、国民国家が形成される19世紀を中心とし、軍人のグローバルな移動による人的ネットワークと、軍事関連書の翻訳・流通・受容という分析視角から、軍事的学知の交錯を研究するものである。日本・フランス・ドイツを主とし、オランダ・オスマン帝国・清朝を参照系と位置づけ、軍人と軍事関連書(人とモノ)の移動から、軍事的学知(学知)に光を当てることにより、軍事史的観点からみた新たな世界史像を提起したい。
著者
小川 一仁 渡邊 直樹 田口 聡志 高橋 広雅 尾崎 祐介
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

2017年度の研究実績については2点ある。1:各大学が実験参加者プールを構築すること研究グループで何度か打ち合わせを行い、実験参加者プールの構築と収集データの統一を図ることで合意した。関西大学と同志社大学についてはすでに実験参加者プールが完成している(関西大学)か、すでに構築を始めていた(同志社大学)。広島市立大学では研究分担社が過去に実験を実施した経験があるので、その時の経験を基に実験参加者プールの再構築に着手した。大阪産業大学はコンピュータ室の使用許可や、謝金の支払い方に関するルールの策定など実験実施環境の構築を終え、被験者プールの構築に着手した。これらは大学をまたいだ共通実験環境の構築の第一歩として必要である。2:複数の大学で共通して実施する実験の選定各大学で共通に実施する実験として、参加者募集など実験の実施が容易(1人で意思決定を行うタイプ)であり、なおかつ学問的価値も高いものとしてGuerci et al.(2017)のWeighted voting gameを利用することとした。現在、Guerci et al.(2017)の基本枠組みで実験を実施し、なおかつ多地点での実験実施による効果の違いを検討できる実験計画を選定中である。なお、実験参加者プールがすでに確立されている関西大学についてはGuerci et al.(2017)の基本枠組みに従った実験を17年度中に4セッション実施できた。さらに、Guerci et al.(2017)のデータも利用できることになった。
著者
中浜 博 山本 光璋 相川 貞男 小暮 久也 熊澤 孝朗 森 健次郎
出版者
東北大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本システムの実用化に向けて、皮膚温センサとして採用した皿型センサの安定性評価というハ-ド的な検討を行うとともに、時間法による痛覚閾値測定法および反復輻射熱刺激法の評価というソフト的な検討を行った。さらに、実際に健常者に対する痛覚閾値の基礎デ-タ収集、各種疼痛患者に対する測定をはじめとする各種応用の検討がなされた。以下に、主な研究成果を示す。(1)本システムを用いた輻射熱刺激では被刺激部位の皮膚表面温度分布は釣り鐘型であるが、採用した2mmφの皿型センサ-では0.5mmの設定立置ずれに対しても最大0.3℃程度の測定誤差であることが示された。(2)心療内科領域における各種疼痛患者、痛みの無い心因性疾患者などにおける測定から、背景病態心理別に異なった痛反応時間パタ-ンを有することが示され、器質性の痛みと心因性の痛みの差異が示唆された。(3)異なる刺激強度で時間法による痛覚閾値測定を行った結果、最高到達温度に対する感覚および情動的ビジュアルアナログ得点にベキ関数が適合することが示唆された。(4)身体各部で痛覚閾値を測定し、部位差の影響を調べた結果、測定部位の反膚温度が閾値パラメ-タに影響を与える場合があることが示された。従って、測定結果の評価には測定部位の温度を考慮する必要がある。(5)各種血管拡張薬の末梢への投与による痛覚閾値の変化が測定された。(6)反復輻射熱刺激法による二次痛の測定の可能性が示された。(7)SMON患者において熱痛覚閾値の測定を行った結果、健常者に比較し痛覚閾値が有意に高い部位があることが認められた。また脊髄髄節域でみた場合、遠位部での閾値の上昇が顕著である例が示された。(8)全身麻酔下での痛覚閾値測定の応用が検討された。
著者
渡邊 洋
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

路面雪氷正常予測モデルの改良について、数値計算また、補足的な室内実験により検討を進めた1 単一層路面雪氷状態モデルの課題抽出(1) 雪氷厚および質量含氷率の計算誤差が、雪氷厚の増大に伴って、雪氷厚20mmを境に急増する。(2) 単一層路面雪氷状態モデルの適用範囲は、雪氷厚20mm以下が望ましい。2 多層路面雪氷状態モデルへ改良し、適切な雪氷分割要素厚により、計算精度の向上に努めた。(1) 多層路面雪氷状態モデルの方が、先出の単一層路面雪氷状態モデルより高く、雪氷厚が20mm以下であれば、計算精度は無次元計算誤差0.06以下(雪氷厚の計算誤差1.2mm以内)となる。(2) 多層路面雪氷状態モデルでの雪氷分割要素厚は初期雪氷厚の2割程度で良い。3 路面薄雪氷層に入射するアルベドと透過率を考慮したモデル改良を行った(1) アルベドは、雪氷密度および質量含氷率で規定され、厚さ0.04m以下の薄雪氷層では融解に伴うアルベドの低下は著しい。(2) 透過率は、雪氷厚の増加とともに指数関数的に低下し、その低下率は湿潤、シャーベット、乾燥雪の順で大きくなる。(3) 透過率は、雪氷厚と水、氷および空気の体積割合で表現できる。4 雪氷層と路面との間の接触熱抵抗の考慮した改良を実施した(1) 雪密度が増加するにつれて、乾燥積雪路面の接触熱抵抗は指数関数的に減少する。(2) シャーベット路面の接触熱抵抗は、質量含氷率が0.6以下では湿潤路面の値(1.1×10-3m^2K/W)と変わらないが、0.6以上になると非線形的に増加する。(3) 雪氷状態に係らず、接触熱抵抗は体積含空率の増加に伴って指数関数的に増大する。今後は、凍結防止剤の散布に伴う雪氷性状の変化を取り入れたモデル改良が必要である。
著者
内山 吉隆
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

0℃付近における氷上のゴムの摩擦係数は著しく低い。そのため、実用の自動車用タイヤにおいては重大な問題である。この0℃付近での摩擦係数を増大させるために、摩擦の掘り起こしの頃を利用したスパイクタイヤが実用化されている。しかし、このスパイクタイヤは路面の摩耗を生じさせるため、その改善が望まれている。スパイクピンの作用力が0℃よりも高い温度で弱まり、0℃以下の温度では通常の作用力を示す温度順応性スパイクタイヤの基礎実験を行い、すべり摩擦時の路面損傷を軽減できることがわかった。現在ではスパイクタイヤの製造禁止が行われるため、スタッドレスタイヤの基礎研究として氷とゴムとの摩擦が重要となってきた。そしてゴムと氷との摩擦係数に及ぼす温度、接触圧力、摩擦速度及びゴム材質の影響について研究を行い、以下の結果を得た。1.氷とゴムとの摩擦係数に及ぼす温度及び接触圧力の影響各ゴム試料とも-20℃及び-15℃では比較的高い摩擦係数を示すが、-10℃においては摩擦係数は著しく低下し、-5℃から0℃においては0.2以下という低い値を示した。さらに接触圧力の増大とともに摩擦係数は減少し、天然ゴム試料では0.8MPaのときの値は0.2MPaのときの約半分の摩擦係数である。2.氷とゴムとの摩擦係数に及ぼすゴム材質の影響天然ゴム及びブタジエンゴムと氷との摩擦を行ったところ、ブダジエンゴムに比べ天然ゴムの方が-20℃から-15℃にかけて摩擦係数は約2倍高い値を示したが、-5℃から0℃にかけてはあまり大きな差はみられず低い値を示した。この摩擦係数の違いは接触面におけるせん断強さの違いによるものと考えられる。
著者
笹岡 利安 恒枝 宏史 和田 努
出版者
富山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

エストロゲン(E2)は性周期や妊娠の制御に加えて糖脂質代謝にも関与する。本研究では、E2が制御性T細胞(Treg)を介して慢性炎症を制御することで糖代謝に関わる可能性を検討した。雄性マウスでは、高脂肪食負荷により内臓脂肪組織のTregは減少するのに対し、雌性マウスではTregは増加し、卵巣摘出によりTregの増加は消失した。また、雌性では高脂肪食負荷による慢性炎症が抑制されるのに対し、卵巣摘出により雄性の高脂肪食負荷マウスと同程度の慢性炎症を認めた。以上より、雌性マウスのE2はTregの内臓脂肪組織への局在と機能を高めることで、肥満に伴う代謝障害に対して防御的に作用する可能性が示された。
著者
有竹 浩介 鎌内 慎也 丸山 敏彦 星川 有美子 早石 修 永田 奈々恵
出版者
(財)大阪バイオサイエンス研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

チューリヒッヒ大学睡眠研究グループと共同で、睡眠障害患者の脳脊髄液および血液中の睡眠覚醒調節に関与する物質を分析し、健常人と比較した。ナルコレプシー患者では脳脊髄液中のリポカリン型PGD合成酵素濃度が有意に減少していること、パーキンソン病患者では有意に増加していることが判明した。更に、ヒスタミンやアデシンの濃度を調べたところ、脳脊髄液中のヒスタミン濃度は、多発性硬化症患者で増加し、イノシン濃度は、全ての睡眠障害患者で高い値を示した。これらの結果から、脳脊髄液中のL-PGDS、ヒスタミン、イノシン濃度の測定と比較が睡眠障害の新たな診断マーカーになることを見出した。
著者
北川 浩 中谷 彰宏 仲町 英治 渋谷 陽二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

金属多結晶材料の破壊は,ミクロスケールでの原子結合形態の破綻が,様々なメゾスケールの不均一内部構造とダイナミックに作用し合って伝播・拡大し,マクロ的な破面を形成する過程である。本研究では,このような破壊現象に力学的な視点に立った実体論的検討を加えた。具体的には,分子動力学(MD)シミュレーションによる原子スケールでの動的構造解析からき裂の発生・伝播の最も基本的な素過程についての知見を獲得し,転位論および結晶塑性モデルをベースにした連続体力学解析結果と対比させることにより,ミクロ/メゾ/マクロにわたる結晶構造材料の強度特性の基本的検討を行った。得られた主な成果をまとめると,(1)MDシミュレーションにより,(1)転位や双晶構造の相互干渉により生じるき裂発生過程,(2)fcc-Cu,bcc-FeをモデルとしたモードI,II,III型荷重下のき裂先端原子の動的構造解析,とくに延性破壊の結晶方位,温度依存性,(3)粒界構造と格子欠陥の相互干渉作用,(4)粒界近傍での拡散特性の温度依存性などを明らかにした。(2)連続結晶塑法モデルを,転位運動の現象論的カイネテックスを組み込めるように精緻化し,有限要素法によりき裂先端の変形場の解析を行って,原子モデルシミュレーション解析結果をその実体的なデータとみなして,ミクロ的な応力の意味,せん断帯の形成のミクロメカニズムの検討を行った。(3)MDシミュレーションに用いた原子間ポテンシャルの妥当性とその限界を検討するため,超格子法に基づくバンド構造解析および分子軌道法をベースとするクラスタ構造に対する,いずれも第一原理計算を実施した。(4)走査型トンネル顕微鏡によるHOPG材表面に見られる原子レベル段差構造,き裂,格子欠陥の構造の大気下での観察を行って,結晶材料の強度を律している微視的基本構造の計測を行った。
著者
京 明
出版者
香川大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

「適切な大人(Appropriate Adult)」制度をめぐる裁判例の検討等を契機として、日英間における自白の証拠排除の基本構造の異同、傷つきやすい被疑者の供述の自由に対する日英間の配慮の違い、ひいては虚偽自白の防止に対する日英間の裁判所の姿勢の違いを明らかにした。
著者
青木 亮人
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

アメリカ日系移民一世が詠んだ俳句・短歌を包括的に研究する。アメリカに渡り、ほぼ日本語しか出来なかった一世移民が母国語で伝統韻文を詠んだ際、彼らの言語表象からうかがえる「日本」とはいかなるものだったのか、また当時のアメリカにおける日系移民を取り巻く生活状況等がいかに表現され、何が表現されなかったかを研究する。特に太平洋戦争勃発後、強制収容所に隔離された日系移民一世に注目して研究する。
著者
吉原 大作 藤原 範子 崎山 晴彦 江口 裕伸 鈴木 敬一郎
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、「フェロトーシス(Ferroptosis、鉄依存的細胞死)の分子機構」を明らかにして、加齢による生体機能の低下(=老化)に鉄が果たす役割を解明することである。 フェロトーシスは、鉄キレート剤によって阻害されることから、鉄依存的な「制御された細胞死(Regulated cell death:RCD)」であると定義されている。RCDは、生体恒常性を維持する上で非常に重要な機構で、老化との関連も深い。研究代表者らは、加齢に伴う鉄代謝異常が老化を促進する背景には、フェロトーシスが関与しているのではないかと考えている。しかしながら、どのような鉄代謝異常がフェロトーシスを引き起こすのかということは未だに明らかになっていない。これまでに、研究代表者らは、フェロトーシスが誘導される際に、細胞内の鉄量が増加していること、鉄代謝調節タンパク質IRP1が顕著に減少していることを見出している。 平成29年度には、培養細胞を用いて、フェロトーシスの誘導機構に関する検討を行った。その結果、これまでにフェロトーシスの誘導剤として知られていたErastin以外にも、酸化ストレスを誘導する薬剤によってフェロトーシスに類似した細胞死が誘導されることを見出した。また、二価鉄イオン特異的な蛍光プローブであるRhoNox-1などを用いて、Erastinや酸化ストレスによって細胞死が誘導される際の鉄イオン動態を解析した。
著者
和田 真
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、自閉症の当事者・支援者が感じる身体像に対する違和感を定量化するために、視覚-触覚の時空間統合と身体感覚の個人差や発達過程を調べることを目標としている。本年度は、昨年度に引き続き、複数の心理物理実験、脳機能計測(fMRIによる機能結合評価)、神経内分泌計測(唾液中オキシトシン濃度)に関する研究を行い、自閉傾向に関連した認知神経科学的な特性を明らかにした。自己身体像の錯覚を評価できるラバーバンド錯覚課題では、コミュニケーションや社会スキルの困難の自覚が強いほど、錯覚で生じるラバーバンドへの身体所有感が弱く、さらに錯覚の身体所有感と唾液中オキシトシン濃度との間に正の相関を見出した (Ide & Wada, 2017)。また自閉傾向の高い参加者では、周期的な刺激が錯覚を強化した (Ide & Wada, 2016)。視触覚の相互作用を調べる触覚誘導性視覚マスキング課題では、この現象の生起に二次体性感覚野と視覚野の機能的結合が重要である可能性を発見した(Ide et al., 2016)。さらに視点切り替えにおける身体像の影響と自閉傾向の関係も調査した。自己と他者の左右を判断させる課題では、細部への注意が強いほど、他者の背面像への投影が弱く、想像力の困難感が強いほど、他者の身体部位への注意が強い可能性が示唆された(Ikeda & Wada, ECVP2016)。また、日常生活上の困難と認知特性の関連を探るためにグループインタビューを実施した。以上のように、発達障害のコミュニケーション困難の背景には、情報のまとめ上げの困難とその結果生じる身体性の問題が深く関与しているという当初の仮説を裏付け、自閉症の当事者が感じる身体像に対する違和感の背景にある認知特性を定量的に示すことができた。
著者
一條 彰子 奥村 高明 岡田 京子 寺島 洋子 藤田 千織 上野 行一 藤吉 祐子 室屋 泰三 今井 陽子 細谷 美宇
出版者
独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

国内外の主要美術館で行われている鑑賞教育のスクールプログラムについて調査し、米国と豪州から教育責任者を招聘してシンポジウムやワークショップを4回開催、海外の先進的事例を日本に紹介した。また、国立美術館と博物館の所蔵作品49点から、小・中学生の発達段階にあわせて作品を選べるウェブプログラム「鑑賞教育キーワードmap」を開設して、学習指導要領に準じた鑑賞授業をどこでも行うことのできる環境を整えた。これらの成果は、美術科教育学会等で発表した。
著者
仲川 涼子
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,動物の発声が進化的に獲得されてきた上で,情動による絞込みが言語発生に重要な役割を担っているのではないかという仮説のもとで,デグーの発声の中でも情動との関与が深い求愛歌や警戒声に注目し,齧歯類の発声の脳内メカニズムを明らかにするためにデグーの情動性発声の脳内機構およびを検討することであった。視覚刺激・聴覚刺激を用いて警戒声の誘発可能性を検討した結果,天敵を連想させる視覚刺激を提示したところ,デグーの警戒声が誘発されるが,その刺激への順化は急激に生じることが明らかになった。次に,これらの社会性および情動発声の脳機構を明らかにするために,海馬損傷手術を行ったデグーの行動と発声の解析を行った。これまでの研究において,社会性齧歯類であるデグーには豊富な音声レパートリーがあり,約20種類の音声を状況別に使い分けコミュニケーションをすることがわかっている。また,デグーの発声中枢PAGの電気刺激実験の結果から,状況依存的発声はより上位の領域において制御され,特定の文脈における適切な発声が可能になっていることがすでに明らかになっている。本研究では,社会性行動と発声行動における海馬の役割を明らかにするため,海馬損傷を施した個体について,馴染み個体に対する発声及び行動の変化を,術前と術後で比較した。その結果,行動解析においては海馬損傷群と馴染み個体との間で攻撃行動が増卸した。しかし発声解析においては,馴染み個体の拒絶発声は,海馬損傷群よりも偽損傷群に対して多く発せられることが明らかになった。
著者
纐纈 朋弥 後閑 容子 石原 多佳子 玉置 真理子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

地域で保健師・助産師が協働し妊娠判明期から育児期まで継続して行う禁煙サポートプログラムの開発を行った。主な研究成果は,1)妊娠判明後のパートナーの喫煙行動に関連する要因の検討,2)家庭における受動喫煙曝露状況に関する調査及び受動喫煙防止啓発用教材の制作,3)禁煙支援者へのサポート:保健師・助産師を対象に禁煙サポートに対する重要度,自信度についてインタビュー調査を行い,支援者に必要なサポートを検討,4)プログラムの試行実施:平成25年3月から1年間,岐阜県B市で妊娠届け出書を提出した全妊婦とパートナーを対象にプログラムを提供しアンケート調査を実施した。
著者
坂下 美咲
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究の目的は,骨の多様な形態が形成されるメカニズムを骨に加わる外力に基づいて理解することである.研究対象の魚類の椎骨は側面の形態が種によって異なる.観察から,これらの形態は各魚種の遊泳法との関連が予想された.そこで,外力依存的に形態を生成する数理モデルを構築し,現在までに一部の形態が再現できた.研究期間中はより多種の形態を正確に再現するため,数理モデルの改良に必要な生物的要因を実験から明らかにする.加えて,椎骨の構造強度解析と変異体を用いた遺伝子操作実験により,椎骨の形態と外力の関連を調べ,数理モデルを検証する.改良した数理モデルを用いて,異なる形態に共通の形成メカニズムを明らかにする.
著者
深澤 秀夫 箕浦 信勝 飯田 卓
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

国語にも指定されているマダガスカル語とマダガスカルのろう者たちが用いる手話の会話場面を臨地調査によって収集・記録し分析した結果、マダガスカル語の動詞の態の選択、語順の選択、主語の単数/複数の選択の頻度を会話場面毎に計測することによってそこに内在する行為主体の志向の強弱を判定し、マダガスカルの人びとの文化の共通性と多様性を測定することが可能であるとの見通しを得た。その一方、マダガスカル語とマダガスカル手話とでは、挨拶の定型性、同時発話の頻度、動詞の態の種類をめぐり明らかな違いが認められ、その要因についてはさらなる調査が必要である。