著者
大釜 敏正 池上 文雄 野田 勝二 寺内 文雄
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

多様な香りを有するバラの香りは、どのようなイメージ空間で捉えられていて、生理学的及び生化学的にどのような影響を及ぼすのか、について検討した。得られた概要は以下のとおりである。1.イメージ構造の検討には、セマンティック・デファレンシヤル法を用いた。評価尺度は、既往の文献及びパーヒューマーの助言をもとに、両極15対及び単極2対を選定した。現代バラ6種の香りについて官能検査を行い、因子分析を行ったところ3因子が抽出された。それらは、「総合的な評価」、「質」及び「強さ」を表していて、ニオイのもつ性質とほぼ対応する。男女間で評価に違いがみられたのはダマスク系の香りで、ティーの香りにはほとんど差はなかった。単複尺度を含めて男女とも評価が高かったのはブルーの香りであった。2.自転車エルゴメータを用いた運動負荷から生じるストレスに及ぼすバラ(ブルー)の香りの影響を唾液中のアミラーゼ活性を指標として調べた。香りは運動負荷を取り除いた直後に与えた。運動経験の豊富な被験者群における運動負荷後のストレスは、運動経験の少ない群よりも小さく、バラツキも少なく、バラの香りを与えた場合には、時間とともに減少し、安静時の値よりも小さくなる傾向がわずかではあるがみられた。3.バラの香りの有無が精神的なストレスに及ぼす影響を調べるため、計算課題を与え、作業終了直後の脳波及び心電図の計測を行った。また、快適感、集中度、疲労感、緊張感に関する主観評価も行った。バラの香りを与えた場合は、ブルーおよびダマスク系のいずれの香りもα波帯域の比率が有意に減少し、β波帯域の比率が増加した。心拍数には香りの有無による影響は認められなかった。また、主観評価では、緊張感に有意な差がみられ、ブルーの香りは緊張感を減少し、ダマスク系の香りは増加した。
著者
久保田 広志
出版者
秋田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ポリグルタミン病は、特定のタンパク質中のポリグルタミン鎖が遺伝的変異により伸長し、構造異常により凝集を起こすのにともなって、神経細胞死を引き起こす疾患である。ポリグルタミン病には原因タンパク質により異なる症状を示すが、その具体例として、ハンチントン病、脊髄小脳失調症、球脊髄性筋萎縮症などが知られている。しかしながら、なぜポリグルタミンタンパク質の凝集過程で神経細胞を障害するのか、なぜ原因タンパク質の違いによって異なる種類の神経細胞が障害を受けるのかなど、その本質は今もなお不明なままである。本研究では、ポリグルタミンのコンフォメーション異常と神経細胞毒性との関係を明らかにすることにより、ポリグルタミン病の発症メカニズムの本質解明をめざした。このため、ポリグルタミンタンパク質の細胞内における凝集過程を、蛍光ライブイメージング技術を中心として解析し、タンパク質凝集をともなう別の神経変成疾患である筋萎縮性側索硬化症の原因タンパク質、変異SOD1の凝集過程と比較した。その結果、昨年度までに、ポリグルタミンリーピートをもったハンチントン病原因蛋白質ハンチンチンの凝集状態は、ポリグルタミンのみの凝集状態と大きく異なることが示唆された。具体的には、ポリグルタミンの凝集は不可逆なのに対し、変異SOD1のそれは可逆性であった。そこで、その原因を調べるため、免疫沈降法による可溶性画分の結合タンパク質の解析を行ったところ、ポリグルタミンに結合しているタンパク質は、変異SOD1に結合しているタンパク質に比べて、種類が少ないか、あるいは、量的に少ないものと考えられた。この結合タンパク質の違いが、細胞内における凝集の可逆性に違いをもたらすのかもしれない。
著者
内田 浩史 忽那 憲治 本庄 裕司 胥 鵬 家森 信善 結城 武延 畠田 敬 山田 和郎 高橋 秀徳
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、前年度からの実態把握をさらに進め、創業ファイナンスの全体像を捉えるとともに、資金制約などに関してより厳密な研究を進め、実務・政策インプリケーションを引き出すための準備を行った。実態把握に関しては、前年度に整備した創業企業データに関し、記述的な分析を包括的に行い、創業企業のタイプを整理した。そのうえで、資金調達に関する情報が得られる企業については調達の実態把握を進めた。資金調達に関する情報が得られない企業についてはより詳細な実態と資金調達に関する情報を得るため、企業向けアンケート調査とインターネット調査を実施して直接データを収集した。各調査の結果はサマリー論文としてとりまとめ、発表した。創業金融に関する研究としては、ベンチャー企業に対するアクセラレーター・ベンチャーキャピタルの役割、IPO市場の特徴と引受会社の選択や引受手数料の決定要因、創業企業の資本構成、収益性と成長性の関係、起業家の人的資本と資金調達の関係などに関して研究を行った。また、創業金融に関する分析の参考となる基礎研究として、日本の銀行市場の状況と金融システムの歴史的変遷、中小企業と銀行の関係、資金調達とイノベーションの関係、金融機関の人材管理、金融機関の効率性、昭和恐慌時の銀行破綻の実態、企業の投資行動、中小企業への政策的支援の意義、証券市場でのディスクロージャーやアナリストの役割などに関して研究を行った。これらの研究は論文・学会発表の形で発表した(「研究発表」欄参照)。2017年5月19日には、欧州・日本の研究者・実務家を招いた国際シンポジウム『アントレプレナーシップと経済活性化』を、関西大学経済政治研究所,関西学院大学産業研究所・イノベーション研究センター・経済学セミナーとともに共催し、起業家やスタートアップ企業の成長や育成のための課題を議論した(会場:関西学院大学大阪梅田キャンパス)。
著者
大嶋 康裕
出版者
崇城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

タッチパネル式電子黒板の機能を活かすことができる大学初年次の数学の単元について、撮影済みの400回程度の授業における板書写真から選定を行った。選定した複数のテーマで、板書と動的な数学ソフトウェアの双方を用いて学生に提示した。教員側から学生側端末への教材配信について、複数の方法を開発および構築し、授業中の実施が可能な方法について実際に授業で実践した。学生同士での成果物共有について、時系列sort表示が可能な電子掲示板への数式投稿による方法を実践した。
著者
片岡 美華 玉村 公二彦 森下 勇 FADDEN Steve BRANDON Alicia
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

短期大学生・大学生が抱えている、講義内容の理解やレポート課題への取り組み、一人暮らしや対人関係などにおける困難さ、及びそれに対する支援ニーズを調査によって明らかにした。この結果と米国等の先進的な取組例を検討した上で、導入・初年次教育の充実、添削等の学習支援や学習方法への助言を行うコーチング、障害の自己認知やセルフ・アドボカシー・スキル形成に関する支援を含めた継続的かつ系統的な支援モデルを提案した。
著者
佐々 政孝 山下 義行 徳田 雄洋 脇田 建
出版者
東京工業大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、属性文法に基づくコンパイラ生成系をフリーソフトウェアとして公開するものである。1.Rieは,1パス型属性文法に基づく生成系である.これは,GNU Bisonをベースに,C言語で実装してある.Rieについては,平成5年度に1.0.3版と1.0.4版,平成6年度に1.0.5版を公開したが,平成7年度は寄せられたコメントやバグ情報へ対応などを行い,GNU規約に基づいたフリーソフトウェアとして1.0.6版を公開した.これらは,fjのニュースグループおよび世界的なネットワークであるusenetのニュースグループcomp.compilersでアナウンスし,具体的にはfip.is.titech.ac.jp:/pub/Rieよりanonymous ftpで入手できるようにした.これに対し,海外からはGNU規約をゆるめられないか等の問合せがあったり,国内ではfjのニュースグループで取り上げられたりしている。また,Rieを用いたコンパイラ記述に関する解説を図書に掲載した.2.Junは,木の上の属性文法に基づく,コンパイラのバックエンド用の生成系である.これはCommon Lispで実装してある.Junは,属性の依存関係にサイクルがある場合も扱えることが特徴で,これにより最適化器の定式化が可能になった.Junについては,初期版に対し,入力記述の仕様を改訂し,継承属性と合成属性とを対称的に扱うよう生成される属性評価器の形を変更し,全面的な書き直しを行った.これをfj.lang.misc,fj.sources.dなどでアナウンスし,具体的にはftp.is.titech.ac.jp:/pub/Junよりanonymous ftpで入手できるようにした.3.RieとJun双方を用いた実用規模言語に対するコンパイラ作成を行った.具体的には言語Cのサブセットについて,フロントエンドをRieにより,最適化器,レジスタ割付け,コード生成器をJunにより記述することで,コンパイラ作成を行った.
著者
大栗 弾宏
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、マリファナに含まれ摂食促進作用を持つカンナビノイドの味細胞における味応答修飾効果、およびレプチンとの拮抗性について、正常系(C57BL/6)マウス、あるいはレプチン受容体変異系であるdb/db肥満マウス、さらにカンナビノイド受容体欠損であるCB1-KOマウスを用いて、カンナビノイド腹腔内投与前後での味覚感受性の変化を電気生理学的および行動学的手法により解析し、末梢味覚器からの情報による食嗜好性の形成・調節メカニズムの検討、ならびに肥満との関連性を検討することを目的としている。正常系マウスを用いて、舌前部の味蕾を支配する鼓索神経応答記録の経時的変化を解析したところ、各種甘味および旨味の相乗効果を引き起こすMSG+IMP応答のみ、内因性カンナビノイド(アナンダミドあるいは2-AG)投与5分後に増大し始め、約30分後にピークに達し、その後ゆるやかにコントロールレベルに戻ることがわかった。またその増大効果は、カンナビノイド投与濃度依存的であることが明らかとなった。CB1-KOマウスでは、それらの効果が認められなかった。さらに、正常系マウスに比べて甘味特異的に高い応答性を示すdb/dbマウスにおいてもそれらの効果が認められなかったが、例数は少ないもののCB1アンタゴニストであるAM251の投与により甘味応答の抑制を示す傾向にあった。一方、行動応答解析においても、正常系およびCB-1KOマウスは神経応答と同様の結果を示すことがわかった。このことから、カンナビノイドはCB1を介し、中枢のみならず末梢からも摂食(特に甘味嗜好)を促進し、食調節に関与している可能性が示唆された。以上の結果をまとめ、現在論文投稿準備中である。
著者
仲町 啓子 宮崎 法子 濱住 真有
出版者
実践女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

研究成果は『「仕女図」から「唐美人図」へ』と題した一冊の本(実践女子学園学術・教育研究叢書、2008年末刊行予定)にまとめられている。その本では下記のごとく、大きく日本編と中国編に分け、それぞれに論文を載せるとともに、本研究の中心となった日本編において、調査資料一覧(作品のデータベース)及び資料の性格や特徴などを簡潔に説いた解説文、代表的な作品の図版を載せている。中国側の資料も、関連する日本の箇所に合わせて掲載している。日本編の論文は、仲町啓子「日本における『唐美人』の絵画化とその意味」、山盛弥生「室町時代の女性半身像について-霊昭女図の制作と制作背景を中心に」、福田訓子「玄宗・楊貴妃図の研究-作品と文献から見た室町末から江戸初の展開を中心に」の3つである。それらでは、唐美人という表象が、単なる外国の女性像ではなく、すぐれて文化的な表象であったという問題意識を共有しつつ、受容史的な視点を入れてそれぞれの固有の場合について考察している。中国編の論文は、宮崎法子「中国の仕女図概観」、太田景子「中国道釈画中の女性像-京都国立博物館蔵『維摩居士像』を中心に」、皆川三知「『韓熈載夜宴図巻』の研究」で、中国の仕女図を概観するとともに、今回の研究で収集した日本に伝わった資料を活用しながら、それぞれのテーマに新知見を出している。日本編の調査資料一覧及び解説は、十四世紀以前の「唐美人」、室町期の絵画作品における中国風俗の女性像、玄宗・楊貴妃関係の図様の展開、桃山時代の「唐美人」、「探幽縮図」にみる「唐美人」、江戸期に描かれた「唐美人」、近代日本画における美人図-明治後期〜昭和初期を中心に、の各項目に分けて整理されている。また巻頭の図版は、楊貴妃・楚連香・西王母などのテーマごとに代表的な作品を集めて示し、さらに実践女子大学に所蔵する唐美人画巻を全巻載せている。以上により、「美人画」という表象(あるいは美人というモチーフ)が、ある特定の歴史的な社会のなかで有した意味について、日本絵画史においては、中国風俗の女性像である「唐美人」という表象が担ってきた文化的な価値あるいは社会的機能を、各時代の実情に沿いつつ考察し、中国絵画史においては女性像(仕女図など)の絵画化の歴史的な変遷とその意味を探った。
著者
吉田 聡
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

アルゴフロートのモニタリング情報と水温塩分プロファイルから鉛直流成分を抽出するアルゴリズム開発に取り組んだ。数値シミュレーションの結果から大きな鉛直流が期待される爆弾低気圧の通過を経験したアルゴフロートの観測結果を重点的に解析した。2015年から2017年の冬季に得られた1148プロファイルのうち、爆弾低気圧の通過を経験したものは73プロファイルあった。このうち、最も急発達した2016年3月1日の事例では、水温塩分プロファイルは低気圧通過に伴って、混合層の深さが100m程度深くなっていた。この事例について鉛直流の推定を試みた。しかしながら、計測ノイズの処理と段階的なピストン変動の処理が難しく、鉛直流速の推定には至っていない。
著者
竹村 明日香
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

当初の予定では,本年度は,(1)落語雑誌『上方はなし』のコーパスの完成,及び,(2)それらのコーパスに基づいた語彙研究を予定していたが,思いがけぬ体調不良により,いずれも達成半ばとなってしまった。しかし(1)のコーパスに関しては,研究補助員2名と大学院生2名の協力により,少しずつ完成の域に近づきつつある。特に『上方はなし』コーパスに関しては,全文検索システム『ひまわり』において本文とフリガナの検索が行えるようにテキストデータを整えた。これにより,旧字体での簡易な語彙検索が可能となったと言える。また,国立国語研究所の「通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開」プロジェクトの構成員に加えてもらったことで,形態論情報の付加と運用に関して多くの情報を得ることができた。来年度はそれらの知識を基にコーパスの完成を目指す予定である。また本コーパスを使った語彙研究に関しては,京阪方言語彙をリストアップする段階まで行うことができた。今後はこれらの語彙的意味を記述し,辞書の形式で発表できるよう準備を行う予定である。また,コーパスの仕様に関しては,上方落語家と相談を行い,土地情報や話者情報もデータに付加することを決めた。これにより演芸関係者らも使いやすいコーパスを作成することができるものと思われる。本年度の研究成果は,研究発表(2017年12月)の場において進捗情報の報告という形で発表した。発表の場ではコーパス開発者から多くのアドバイスを得ることができた。語彙研究に関しては,現在少しずつ進展中であり,来年度には数点の論文を発表できる予定である。
著者
杉村 孝夫 日高 貢一郎 二階堂 整 松田 美香
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2009-2011年度、大分県各地の言語生活の変容を探った研究の成果を踏まえ、2012-2014年度(本事業)では、福岡県3地点、大阪市東区、東京都区内、青森県津軽地域の各地で同様の会話を収録し、約60年前のNHK『全国方言資料』と比較し、方言の変容、特に共通語とは異なる方向への変容に注目して実態を解明し、要因を考察した。隣接優勢方言への変化、方言内部での自律的変化の他、臨時的バリエーションが多く観察される。これは言語変容に関する、注目すべき要素であることを改めて認識した。
著者
三原 芳秋 松嶋 健 花田 里欧子 岡本 雅史 高田 明 太田 貴大 鵜戸 聡 比嘉 理麻 高梨 克也 中川 奈津子 中谷 和人 アンドレア デアントーニ 赤嶺 宏介 川上 夏林
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「(人間)主体」の諸機能=学科を軸に制度化されてきた人文学を「生きている存在」一般の学として再編成する(=「生態学的転回」)ために、多様な専門の若手研究者が集い、「共同フィールドワーク」や芸術制作・コミュニティ運動の〈現場〉とのダイアロジカルな共同作業を通して従来型ではない「共同研究」の〈かたち〉を案出することが実践的に試みられ、その〈プロセス〉は確固たる端緒を開くに至った。また、環境・社会・精神のエコロジーを美的に統合する「エコゾフィー」的思考を共有する基盤となるべき「新たな〈一般教養〉」構築を文学理論の「生態学的転回」を軸に試みる企図も、国際的・学際的に一定の承認を得ることができた。
著者
井上 仁 東野 正幸
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1.教育用SNSの機能強化昨年度より開発を進めている教育支援用SNSについて、ウェブアプリケーション開発フレームワークであるRuby on Railsを採用して再構築し、以下のような機能強化を図った。1)WebSocket 機能を用いることでユーザ間のメッセージ送受信のリアルタイムレスポンス性能を向上させた。2)ラップトップパソコン、タブレット端末、スマートフォンなど、画面の大きさや縦横比といったレイアウトが異なる色々な端末に対して適した画面表示ができるように対応した。また、昨年度のシステムではMacBookAirの無線ルータ機能を用いてイントラネットを構成していたが、処理できる端末数が10台程度と限界があった。本年度は業務用無線ルータを用いることで30台程度の端末まで処理が可能となり、対応授業の幅を広げることができた。2.インターネットを用いたクラウドシステムの試作イントラネットのシステムでは遠隔地からの利用が難しい。そこでインターネットを利用したクラウドシステムを試作し、東京と北海道の学校から遠隔利用の試験を行った。3.授業実践によるシステムの評価と教育効果の検証本システムを用いたSNSの適正利用に関する授業実践を行った。授業では、教師が匿名で「名前を教えて」「どこに住んでいるの」などのメッセージをシステムに書き込んだ。これに対し、名前や居住地などを書き込む生徒が見られた。一旦操作を止め、「個人情報とは何か」「知らない人に教えても良いのか」などを生徒と話し合った。その発言をもとにスライドに表示し、投稿された内容を振り返り、個人情報の扱い、不適切な発言について話合った。生徒は興味、関心を持って、SNS コミュニケーションツールの適切な利用について考えることができた。また授業1か月後の追跡調査で、体験授業の内容についてよく覚えていることが確認された。
著者
巻 美矢紀
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究の最終年度として、理論及び実践(解釈論)にわたり、これまでの研究成果を公表した。理論に関しては、リベラリズムの公私区分に対する、フェミニズム、共同体論、共和主義、討議民主主義、ラディカル・デモクラシーなど、左右両派からの批判をふまえ、公私区分の再構成を試みた。具体的には、公私区分は公私の相互関連性を看過している、人格の分裂を強いる、ア・プリオリの私的領域は人民主権を侵奪するとの批判をふまえ、人民主権の制度化にとって公私区分が不可欠であることを明らかにするとともに、とりわけドゥオーキンの法・政治道徳理論をてがかりとして、人格の統合に配慮しつつ、公私の境界線を漸進的に変動させる公私区分論を提示した。さらに公私の相互関連性にかんがみ、「領域」の公私区分とともに、井上達夫が提唱する「理由」の公私区分を、憲法学においても導入する必要性を主張した。また実践に関しては、理論的研究成果をふまえ、私的領域の中核に位置する自己決定権について、アメリカの議論を中心にドイツの議論も参照しながら、自己の基底的信念にもとづく最終的判断権を留保して人格の統合を確保することが、自己決定権保障の趣旨であることを明らかにし、日本国憲法の解釈論に示唆を与えた。さらに、このような意味で決定的に重要な自己決定権の貫徹を阻止しうる存在として、家族という憲法上の法制度保障について考察し、両者の緊張関係を指摘しつつ、人格の根源的平等性を尊重すべきことを論じた。
著者
山本 秀人 月本 雅幸 松本 光隆 山本 真吾 土井 光祐 矢田 勉
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、和歌山県紀の川市の真言宗寺院興山寺所蔵文献の調査・研究を中核とする、和歌山県における真言宗寺院所蔵文献の実地調査と、それに基づく国語史的立場の考察・研究を主要目的とする。以下の調査研究活動を実施し、各成果があった。1.紀の川市興山寺の調査は、研究代表者・研究分担者・研究協力者の総勢13名で興山寺聖教調査団を組織し、経箱全94箱を分担して、文献毎(総計約6千点)の調書(書名、時代、装幀、寸法、訓点、奥書等調査)を作成する作業を行った。具体的には、15〜18年度に、原則4〜7日間の調査を計11回実施し(本科研支弁以前の14年度実施予備調査1回、15年度4月実施1回を含める)、18年度7月までに全94箱の調査を完了した。並行して、主要文献のデジタルカメラ撮影も行った(計129点)。これらに基づく、パソコンデータベースも18年度9月までに完成し、その冊子版文献目録も同10月に刊行した(私家版)。2.紀の川市興山寺のほか、田辺市高山寺、高野山(高野山大学図書館等)における調査も重点的に実施し、田辺市高山寺については主に主要文献の撮影を行い(計67点)、更に冊子版文献目録(本科研以前に一応の調査了、全73箱)を再調製して刊行した(私家版)。高野山においては注目される文献の実地調査を行った。ほか、京都(栂尾高山寺、仁和寺等)や東京(尊経閣文庫等)などにおける真言宗関係文献の調査も適宜実施した。3.以上の調査に基づく研究・考察は今後の課題とすべき点も多いが、例えば、平安時代書写を含む興山寺蔵大般若経写本六百帖は、仏教史上極めて貴重であることが判明した。国語学上重要な文献は高野山に多く、特にその数点について国語学上の研究を行い成果があった。更には和歌山県相互間の比較、京都地域等との比較の一層の進展も必要であり、今後の課題であるが、その基盤の構築は完了したと言って良い。
著者
板谷 厚
出版者
北海道教育大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は,組体操を「不安定な相手の身体とのかかわり合いの中で姿勢を維持する活動」と捉え,発達学的・体力学的観点から評価し,教材的価値を多面的に捉え直すことで,組体操の多様な行い方と評価観点を新たに提示することを目的とする.当該年度は,当初,組体操の姿勢制御にかかわる感覚統合機能に対するトレーニング効果およびコアトレーニングとしての効果を検討するために,健康な大学生を対象者とするトレーニング実験を実施する予定であった.しかし,旭川市立保育所の要請で幼児対象の運動遊びを実施する機会に恵まれたこともあり,三年目に予定していた組体操の多様な行い方と評価観点の提示についての研究を前倒しして実施した.組体操の多様な行い方のひとつとして運動遊びプログラム「ぼうけんくみたいそう」を開発した.「ぼうけんくみたいそう」は,ごっこ遊びの要素を強く打ち出したストーリー仕立ての組体操であった.物語の進行とともに,ひとりで行うポーズ(9種類)から2人組(5種類),3人組(2種類)へと段階的に複雑になるよう全16種類の組体操による演技を構成した.また,イメージをふくらませるために効果音や音楽を適宜用いた.組体操の効果を評価するために,保育所の年長児を対象にバランスの測定を実施した.プログラムのはじめと終わりに木のポーズ(閉眼片足立ち)を30秒間行い,その様子をビデオ撮影した.動画から30秒間の制限時間内に木のポーズを最大で何秒間維持できたかを測定した.対応のあるt検定の結果,木のポーズ持続時間は終わりではじめよりも高い値を示した(はじめ: 8.17 ± 8.33 s, 終わり: 11.07 ± 9.01 s, P = 0.022).したがって,「ぼうけんくみたいそう」は,幼児の閉眼片足立ち時間を即時的に向上させると考えられる.また,閉眼片足立ち時間は,組体操の効果を評価する方法として有用である.
著者
上谷 光作 村垣 泰光
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

Influenza A/Aichi/2/68, H3N2亜型のみならず, H1N1型(PR8)、H2N2型(Okuda)インフルエンザウイルスの増殖・精製を行い,ヒト肺腺癌細胞株A549細胞と初代培養されたヒト正常気管支上皮細胞NHBE細胞を用いて, M. O. I. 10以上でin vitroの感染実験系を構築した.これにより流行株の全ての亜型ウイルスにおいて,正常呼吸上皮細胞おける宿主免疫応答の解析が可能となった.インフルエンザウイルスを感染させた8時間後,細胞をインターフェロン(IFN)-α1,000 U. mlで刺激すると, IFNシグナル伝達経路の最下流に位置するSTAT-1の701チロシン残基のリン酸化は,驚くべき事に消失していた.つまりインフルエンザウイルス感染細胞ではIFN-αのシグナル伝達は遮断されていた. IFN-γで刺激するとやはりSTAT-1のリン酸化は抑制されていたが, IFN-α程では無かった.この実験結果によって, IFNが持つ抗ウイルス作用はインフルエンザウイルスには無効であることが示唆された.即ち,インフルエンザウイルスはIFNが持つ抗ウイルス作用に拮抗すメカニズムを有することになる.このメカニズムを解明すれば, IFNが持つ抗ウイルス作用にインフルエンザウイルスを回帰させることも可能となり,新規治療法の開発に繋がるものと考えられた.次に,最初にIFN-γシグナル伝達経路構成分子である,(1) IFNGR1,(2) IFNGR2,(3) Jak1,(4) Jak2,(5) STAT-1の5つ分子についてmRNAと蛋白発現を検討した. PCRによるmRNA発現量の検討ではウイルス非感染細胞と感染細胞で顕著な差を見出せなかった.しかしウェスタン分析による蛋白発現量に関しIFNGR1とJak1がウイルス感染細胞では選択的に抑制されており、他の分子の発現量には有意差は認められなかった。次にこれらの分子の蛋白発現量の違いがウイルス感染細胞内で発現されるウイルス蛋白分子に起因するものか検討をおこなった.ウイルス感染細胞内ではHA, NA, M1, M2, NP, PB1, PB2, PA, NS1, NS2の10個のウイルス蛋白が作られる.この中でどのウイルス蛋白がIFNシグナル伝達を遮断する原因分子であるか検討した.最初, IFN antagonistとして知られるNS1蛋白がIFN刺激によるStat1チロシンリン酸化を抑制する原因分子と想定し, NS1蛋白発現プラスミド(pCAGGS-NS1)をA549細胞に導入を試みたが効率が悪く,ヒト胎児腎細胞HEK293細胞に導入し, NS1蛋白を十分量発現させ,その後IFNで刺激しStat1チロシンリン酸化を検討した.その結果, NS1蛋白はStat1チロシンリン酸化を抑制しなかった.即ち, NS1蛋白はIFNシグナル伝達遮断のメカニズムは関与しないことが証明された。
著者
坂野 雄二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は,自律訓練法標準練習の習得に伴って生じる心理生理学的な変化を,自律神経系機能と心理的指標,行動的指標を用いて明らかにすることであった.心身ともに健康な男女大学生を対象として,約3ヶ月の自律訓練法標準練習習得期間の前後において,ストレス負荷としてスピーチ課題が課され,その際の心理生理学的測定,行動評定が行われた.生理学的な指標として,皮膚コンダクタンス水準,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,および心電図R-R間隔の周波数分析のそれぞれが,また,心理学的指標として主観的不安反応の変化,行動的指標としてスピーチ不安の行動評定のそれぞれが用いられた.また,自律訓練法の練習を行わない統制群,類似した心身の弛緩法である臨床標準瞑想法を実施する統制群が準備された.その結果,自律訓練法標準練習の習得によって,自律神経系交感神経機能と副交感神経機能の両者が賦活されること,特に,交感神経機能の賦活としては血圧値の上昇が,また,副交感神経機能の賦活としては心拍数の減少や皮膚コンダクタンス水準の低下が認められること,心理学的には不安低減効果が見られること,行動的指標で改善が認められること等の諸点が明らかにされた.臨床群を対象とした場合の自律神経機能の変化と,健常者を対象とした自律神経機能の変化の違いが示唆されるとともに,自律訓練法による自律神経系機能の安定化のメカニズムに関する示唆を得ることができた.また,自律訓練法が併用される治療法である行動療法の最近の発展を展望する中で,認知行動療法において自律訓練法がどのような役割を果たすことができるかについて理論的考察を行った.
著者
松井 暁 松元 雅和 向山 恭一 坂口 緑 伊藤 恭彦 施 光恒 田上 孝一 有賀 誠
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本プロジェクトでは、全体テーマであるグローバル・イシューを六つのパートに分け、グループに分かれて研究を推進する体制をとった。すなわち、グローバル市場、政治空間の変容、戦争と平和、環境・生命、主体・関係・アイデンティティの変容、変革の方向である。そのうち、グローバル市場については、伊藤恭彦が国際的な課税の正義に関する著作を発表した。政治空間の変容については、有賀誠が著作『臨界点の政治学』で総合的に考察している。松元雅和が合理的投票者の行動についての論考を、施光恒が愛国主義と左派を巡る論考を提出した。戦争と平和については、松元雅和がテロと戦う論理と倫理について、有賀誠が上述書で正戦論について検討している。環境・生命では、松井暁が生産性の上昇や労働からの解放といった現象とエコロジーの両立可能性を探求している。主体・関係・アイデンティティの変容では坂口緑のポスト・コミュニタリアニズム論や承認論の研究が進んでいる。最後に変革の方向については、施光恒がリベラルな「脱グローバル化」の探求という観点から、新自由主義、ナショナリズム、保守主義を比較検討し、田上孝一がマルクスの社会主義を哲学的観点から再考している。それぞれの研究は、すべて本プロジェクトのテーマであるグローバル・イシューとの関連を踏まえつつ進められている。すでに出された業績からは、本プロジェクトの特色である規範理論的なアプローチの成果が明らかに示されている。