著者
栗原 岳史
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本年度は,昨年度に引き続き,1950-60年代の科学者たちについて米国政府がどのように理解していたのかを解明するために,主として米国国立公文書館の所蔵する文書史料の調査を行ってきた.これまでに,科学研究活動全体が米外交政策の重要な手段の一つとしての役割を果たしていたことを,かなり具体的に明かにすることができた.昨年度までに原子力技術の日本への導入に関する米外交政策を中心に調査を進めてきたが,米の外交政策は科学全体に及んでおり,原子力技術の日本への導入はその一部にすぎず,科学に関する米外交政策全体の中で,原子力技術がどのような位置づけられていたのかを明らかにする必要があることが明らかになってきた.第二次世界大戦の終結から1950年までに,米国務省は外交政策における科学の重要性を自覚するようになり,科学に関する外交政策を体系的にまとめた報告書を作成し,その報告書の勧告に従って,国務長官の下に科学局を新設し,主要国に科学者を科学アタッシェとして派遣するようになった.日本への原子力技術の導入はこの枠組みの中で行われたものであった.米外交政策の目的は,主要国と共同で科学研究を進めることで国家安全保障にとって重要な科学知識を得ることや,科学の振興によって経済発展をもたらして政治を安定させることで,当時の冷戦体制の中で対立していた共産主義勢力の浸透を防ぐということにあった.そのため,米に批判的な科学者たちの動向を注意深く観察していたことを示す公文書史料をいくつか発見しすることができた.これらの調査成果の一部を,2017年6月4日に香川県の香川大学で開催された日本科学史学会などで発表し,幾人かの研究者たちから助言をいただくことができた.
著者
菊池 秀明
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

19世紀の中国長江流域における社会変化を、太平天国とそれに対抗した湘軍=曾国藩の創設した地方武装勢力の主張や政策を中心に検討した。太平天国は福音主義運動の「文明化の使命」という理念に影響を受け、中国の伝統文化に対する激しい攻撃を行った。だが彼らの攻撃的な行動は「中庸」を重んじる中国知識人の受け入れるところとならず、漢人エリートたちは満洲人貴族との間に深刻な対立があったにもかかわらず、太平天国に反対した。
著者
安藤 直子
出版者
東北福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

これまで遺伝資源としてまた文化資源として保護されてきた農用馬や在来馬を、保護に止まらず積極的に活用することを求める日本馬事協会の方針転換により、生産・飼養者が「生きた文化財」としての馬の価値を捉え直し、文化財に経済的な価値を付与する様相を分析した。特に天然記念物としての在来馬を文化財保護制度の枠組みの中で活用する際に生じる様々な問題を分析し、文化を資源化し活用する際の主体の戦略を考察した。
著者
野村 大成 本行 忠志 中島 裕夫 岡 芳弘 藤川 和男 足立 成基 梁 治子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.ヒト臓器・組織置換マウスの作製と維持:IgG、IgM値が検出限度以下のC57BL/6J-scid等を大量生産し、ヒト甲状腺、骨髄、肺、胎芽組織片等の長期継代維持を行った。2.核分裂放射能の影響:(1)近畿大学原子力研究所原子炉UTR-KINKI(熱出力;1W,炉心分の熱中性子;最大10^7n/cm^2・sec程度)を用い、照射SCIDマウス体内での正確な中性子線、ガンマ線被曝線量を得た。(2)ヒト甲状腺、肺組織を移植したSCIDマウスに中性子線1回0.2Gyの照射を7日毎に6回および4回繰り返した。ヒト甲状腺、肺組織ともに、ρ53,K-ras, c-kit,β-catenin、RET、bak、BRAF遺伝子の変異は得られていない(γ線11-33Gy急照射では、20例中8個のP53,c-kitの突然変異が有意に発生したが、緩照射では0であった)。また、GeneChipを用いた遺伝子発現異常の解析(8,500遺伝子)をヒト甲状腺とヒト肺組織において4回照射1週間後に行ったところ、甲状腺で59.7、肺では11.5個の遺伝子で4倍以上の変化がみられた。3.放射性ヨード(^<131>I)の影響:0.5MBq/マウスのI-131投与を週1回繰り返した。37週以上群で18例中6個の突然変異が誘発された(p53,β-catenin)。0.06〜0.5MBq/マウス1回投与でも25-51.5個の遣伝子発現異常がみられ、強い影響を確認できた。4.チェルノブイリ核施設崩壊事故被曝者にWT1遺伝子の発現異常が有意に検出された。白血病発生のとの関連が2例にみられた。被曝者F_1のマイクロサテライト変異の調査も行った。5.放射線障害防護実験:ガンマ線による発生異常、白血病に対し、担子菌菌子体由来物質の有意な予防効果をみつけた。以上、当初計画どおりの成果を得た。
著者
福田 純也
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

最終年度となる本年度は,主に「どのような言語項目は意識的注意が当たりやすく,どのようなものは当たりにくいか」,そして「意識されやすい言語項目はより良く習得されるか」という点に関して,認知心理学において近年注目を浴びている半人工言語学習パラダイムをもちいた実証的調査を行った。こ本年度に実施した実験においては,主として言語項目の形式-意味の結びつきの卓立性が言語項目の意識されやすさと,その結果得られる意識的・無意識的知識にどのように介在するかを調査した。実験には43人が参加し,半人工言語の限定詞を学習した。学習者は,[+/-単数],[+/-有生],および [+/-行為者]が設定された。[+/-単数]は明示的に教授される項目であり,[+/-有生]は付随的学習条件かつ卓立性の高い項目,および[+/-行為者]は付随的学習条件かつ卓立性の低い項目として設定した。そのような調査の結果として,学習時の意識と,その結果得られる知識のタイプ(意識的・無意識的知識)には,当初から予想していたものより複雑な関係が見られることが明らかになった。具体的には,卓立性の高い項目は意識的知識としても無意識的知識としても学習されやすく,無意識的に学んだ場合は無意識的学習のみが促進されていた。卓立性が低い言語項目は意識されたとしても無意識的知識として習得されにくく,意識された場合においてのみ意識的知識が得られる可能性が示された。そして,無意識的学習を行った学習者は,直後テストにおいてはいかなる知識も得ていない見えたものの,時間が経つにつれて徐々に文法規則に対する知識表象が発現する可能性が示された。この結果は,無意識的知識の習得をも促進するといったプロセスを示唆し,さらに卓立性の低い項目はそのようなプロセスが促進されにくく,意識のされやすさと習得は卓立性を介して複雑な関連を持つことを示している。
著者
隠岐 さや香 野澤 聡 小林 学 但馬 亨
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、力学、光学、流体力学、および他の数理的な工学理論の分野など「混合数学」として分類されていた諸分野の知識産出に関して、道具や実験機器など(物質・技術文化)が果たした役割を検証した。「混合数学」の歴史は科学史上における二つの重要な時期に関わる。第一は17世紀末におけるニュートン科学のインパクトと18世紀後半の欧州における代数解析の発展である。この時期は、数学の適用が自然哲学の領域に広がったのだが、理論知を産み出すために適切な方法や「実験」の位置付けについての論争があったことが本研究でわかった。第二の時期については数学は工学諸分野に本格的に応用されたのだがその試行錯誤の様子を分析した。
著者
河合 徳枝 仁科 エミ 森本 雅子 仁科 エミ 森本 雅子
出版者
国際科学振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ヨーロッパ多声合唱の源流といわれるグルジア伝統ポリフォニーの音響構造の特徴と、その生理的・心理的効果を検討した。グルジア伝統ポリフォニーは人間の可聴域上限を大幅にこえ非定常的に変化する超高周波成分を豊富に含むこと、その音律は12平均率とは異なる独特のものであること、そうした音響構造は聴取者の基幹脳活性と相関の高い脳波ポテンシャルを増大させ心理的な好感度を高けることに寄与していることが見出された。
著者
山本 直彦 田中 麻里 牧 紀男
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、インド洋大津波後のバンダアチェ市内外に建設された再定住地を対象とした。まず、全住戸への質問紙調査を行い、被災前の住宅所有状況などを把握した。次に範囲を絞って悉皆調査を行い、再定住地入居後の生活について聞き取りを行った。以上から生活再建を、①仕事の再建(仕事があること)、②コミュニティ形成が進むこと、③住宅に住み続けられることを視点として、市内と市外の再定住地を比較した。市外の再定住地入居者は、市内の再定住地入居者より、いずれの生活再建状態も厳しく、今後の定住・転出動向は、インフォーマルセクターの仕事へ従事か否か、仕事場へ通勤可能か否かで分かれる可能性があることを指摘した。
著者
寺田 喜平
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

水痘ワクチン接種後、特異細胞性免疫や抗体が陽性化しても、約20%に軽症ではあるが再感染することが明らかになっている。しかし、その原因については不明である。私どもは、水痘ワクチン接種は自然感染と異なる経路で感染することや接種後ウイルス血症が少ないことなどから、分泌型IgA抗体(sIgA)分泌が誘導されるNALTへの抗原刺激が少なく、ウイルス侵入部位で第一に働くsIgAが低いためではないかと推論した。水痘感染約3ヵ月後に唾液を採取した自然感染群26名と水痘ワクチン接種群28名、少なくとも水痘感染後2年以上経過した群23名、小児悪性疾患寛解中の群23名、60歳以上の高齢者群20名、小児科で働く医療従事者の群14名、抗体が陰性である陰性コントロールの群11名を対象に、唾液中の水痘帯状庖疹ウイルス(VZV)特異sIgA抗体をELISA法で測定した。ワクチン群が自然感染群に比較して有意に(P=0.0085)低値で、2例はcut-off値以下であった。高齢者の群は低くなく、帯状庖疹を既往歴に持つ人はない人に比べて高い傾向にあった。医療従事者の群は最も高く、有意にほかの群より高値であった。水痘ワクチン接種後は、自然感染後に比べ有意に唾液中のVZV特異sIgA抗体は少なかった。しかし、帯状疱疹のリスクの高い悪性疾患患者や高齢者では、sIgAは低くなく、帯状疱疹の既往のある人ではかえって高値であった。これは細胞性免疫は低いために帯状疱疹になってもsIgAが保たれているため、水痘の再感染は非常に稀であることを反映していると思われた。sIgAが保たれる原因として外因性あるいは再活性化した内因性VZVによるものと考えられた。現在、不活化した水痘ワクチンを鼻腔内へ噴霧し、sIgA抗体を賦活化することができるか検討中である。
著者
山下 俊一 大津留 晶 高村 昇 中島 正洋 光武 範吏 難波 裕幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

チェルノブイリ原発事故後激増した小児甲状腺がんの成因と長期健康影響を明らかにする研究目的で、すでに確立した海外拠点との学術交流による分子疫学調査を計画的に推進することができた。特にWHOやNCRP、EUなど欧米の放射線安全防護に係わる国際プログラムに積極的に参画し、低線量被ばくのリスク評価・管理について交流実績を挙げた。旧ソ連3ヶ国(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)における放射能汚染地域の住民データ、生体試料の収集から遺伝子抽出活動を継続し、放射線誘発甲状腺がん疾患関連遺伝子群の探索を行い、候補遺伝子のSNPs多型を解析した。その結果、DNA損傷修復酵素、がん抑制遺伝子群のSNPsの交洛関係を見出した。同時にChernobyl Tissue Bankという国際共同研究体制の運営に継続参画し、放射線誘発甲状腺がんの潜伏期や被ばく時年齢、病理組織像などの違いを詳細に検討し、臨床像の特徴についての解明を試みた。その結果、放射線被ばくによる甲状腺癌は非被ばくの散発性甲状腺がんと比較してもその予後や再発率に大差なく、通常の診断治療指針の遵守による生命予後の良さを明らかにすることができた。網羅的遺伝子解析の途中結果では疾患感受性遺伝子SNPs候補を見出している。上記研究成果は国内外の学会で報告すると同時に、WHOなどの低線量被ばく安全ガイドラインへの取組に保健医療行政上からも貢献している。放射線の外部被ばくによる発がんリスクだけではなく、放射性ヨウ素類の選択的甲状腺内部被ばくにより乳幼児・小児期被ばくのリスクが明らかにされ、今後の原発事故対策や放射線安全防護基準策定の基盤データの整備につながり社会的波及意義が大きいと期待される。
著者
尾久士 正己 富田 晃彦 曽我 真人 中山 雅哉
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

理科教育の中での天文分野の特徴は、その観察対象のスケールが桁違いに大きいことである。そのため、天文現象を理解するときには、学習者の視点を自身から遠く離れた宇宙空間に置く必要がある。この視点移動は、理科教育だけでなく、大人になるために非常に重要な概念の獲得であるが、子どもたちにとっては難しいとされてきた。そこで、我々は、身近な天体である地球、金星、太陽の位置関係を学ぶ教材として、金星の太陽面通過のインターネット中継とe-learning教材を、また、地球、月、太陽の位置関係を学ぶ教材として、日食の全天周映像のインターネット中継を使った教材を開発し、教育実践した。金星の太陽面通過の教材では、視点を太陽系内に置き、地球上の離れた2点からの観測データから、宇宙のスケールの基本単位である、地球=太陽間の平均距離(1天文単位)を求める教材を開発した。また、日食教材では、現地にいる観測者にしか経験できない、月の影に入るという感覚を、疑似体験できるよう、観測地の全天周映像をすべて、インターネットで遠隔地のプラネタリウムドームで再現するという実験を行った。その結果、ほとんどの被験者が、日食は月の影に入る現象であることを認識し、視点を地球から離れた宇宙空間に容易に移動することができた。また、同時に取得した気温や地表面温度のデータから、よりリアルな疑似体験の実現についても方向性を示すことができた。この成果から、今後はプラネタリウムが星座の動きを学習するだけの施設ではなく、様々な疑似体験が可能な空間であることを示すことができた。
著者
田原 淳子 真田 久 嵯峨 寿 近藤 良享 建石 真公子 舛本 直文 師岡 文男 來田 享子
出版者
国士舘大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オリンピック競技大会を招致する上で、国際オリンピック委員会(IOC)から求められる諸条件と評価される点について最近の動向を明らかにした。さらに、日本における過去のオリンピックの招致活動をその後の状況を含めて検証し、問題点と評価される点を明らかにした。将来のオリンピック競技大会を招致、開催するにあたり、重視すべき観点は、環境・人権・教育の3 点に集約された。
著者
横尾 美智代
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

昨年度は少人数のインタビューや参与観察を中心に調査を実施した。その結果明らかになった問題点について、本年度はさらに集団を対象に身体影響やライフスタイルに関する自記式質問紙調査を実施した。また一方でパソコン使用に伴う身体影響について、客観的指標(血圧)を用いて測定した。データ入力、解析等の作業は長崎大学医学部5年生9名(大西翼、小竹源紀、梅津久、榊原聡介、山内祐介、山口麻紀、和田英雄、吉村映美、伊藤暢宏)の協力を得た。自記式質問紙調査は、60歳以上の高齢者116名(男性52名、女性64名)に56項目の質問紙を配布した。調査は平成15年6-7月に市内2箇所の高齢者パソコンサークルで実施した。回答率は100%であった。特徴的な結果を列挙すると、自覚症状としてパソコン使用前後で変化が見られた項目は「目の疲れ」は症状の悪化が指摘されていた。頭痛、肩頸腰痛、手指の痛み、視力低下等は症状に変化は見られなかった。また、パソコン学習開始後の外出回数の変化は、「増えた」という回答が17%、「変化無し」が57%であった。他の項目『身だしなみ』や『睡眠時間』の変化はほとんど見られなかったが、パソコン使用により外出機会が増加したことが指摘された。一方、血圧測定は11名の協力者(男性3名、女性8名,平均年齢67.8 SD±42)に簡易型血圧計(オムロンHEM-741C)を貸与し、起床時、就寝時、パソコン使用前後の血圧測定と、一日のパソコン使用時間の記入を依頼した。期間は約30日間であった。対象者には降圧剤服用者が3名含まれていた。各人の平均値を求め、パソコン使用前後の血圧値の変化を対応のあるT検定で解析したところ、拡張期、収縮期ともに血圧に有意な違いは見られなかった。使用時間は10分から数時間と大きな開きがあったが、血圧との関連は見られなかった。以上のことから、パソコンに関心のある高齢者は引きこもる傾向よりも、外出機会が増える傾向が示唆された。これは、彼らの多くが外に指導を仰いでいるためであると思われる。閉じこもり傾向の自覚はみられなかった。パソコンと血圧値には関連がみられなかったが、対象人数、調査期問には課題が残されている。特に、対象者間の調査期間、パソコン使用時間の違いは解析のバイアスになったことが推察される。今後はさらに長期問の観察が必要であると思われる。
著者
柴田 みどり
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,比喩やアイロニーといった修辞表現の理解過程が,字義的な理解と比較してどのような神経基盤によって支えられているのかをfMRIを用いて明らかにした.その結果,比喩理解では,左下前頭回(BA45)と内側前頭回(BA9/10)により大きな賦活が見られた.またアイロニー理解では,内側前頭回(BA9/10),上側頭溝により大きな賦活が見られた.これらの結果より,比喩やアイロニー理解では,矛盾した発話から意味関係や発話意図を推論するという高次認知過程の関与が示された.
著者
吉崎 誠
出版者
国際教養大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

(1)研究目的:本研究は、マネージメントのあり方を視野に収めて、国立大学法人化後の大学経営に求められるようになった戦略計画(中期目標・中期計画)の形成のプロセスのあり方と、それを実践するマネジャー職の役割について検証するものである。(2)研究方法:このために、戦略計画の構造・内容に係る先行研究を整理するとともに、本研究の底本となった"Strategic Planning for Public and Nonprofit Organizations-Rev.ed."(1995;Jossey-Bass)の著者であるJohn M.Bryson(Professor,University of Minnesota)に、大学組織における戦略計画の構造、策定過程などについてインタビューを行った。また、米国の主要な大学の戦略計画をWebから得るとともに、ミネソタ大学、オレゴン州立大学を訪問し、戦略計画の形成過程、マネジャーの係わり等に関して、トップマネジャー(副学長)やミドルマネジャー(学部長)、これらを支援するInstitutional Research Officeの所長などの担当者へのインタビューを試みた。また、日本同様に、最近大学の法人化に踏み切った台湾の国立臺灣大学、真理大学、開南大学を訪問し、トップマネジャー(学長、副学長)およびミドルマネジャー(学部長など)へのインタビューを行い、大学における戦略計画に係わる情報を収集した。(3)研究成果:戦略計画は、いまや大学におけるマネージメントを語る上での共通のツールとなっていると言っても過言ではない。それは、プランニングされたビジョン・戦略・計画などを組織の内外に対する最も重要なコミュニケーションとなっている。これら戦略計画は、アメリカの大学では、トップダウンとボトムアップのミックス型で形成されている。タスクフォースを形成し、内部環境分析・外部環境分析を行い、多くの構成員が数年をかけ議論し策定に至っている。また、いい提案は他のタスクフォースに紹介し、各タスクフォースの意見に傾聴するなどProvost(副学長)の果たした役割が大きいが窺われた。他方、戦略計画の導入に日の浅い日本および台湾の大学における戦略計画は、トップダウン的な手法により策定している傾向にあり、戦略計画にも進化のフェーズがあることが見てとれた。今後の課題としては、日本の大学において戦略計画(中期目標・中期計画)を経営にいかに浸透させるか、またマネジャーの果たす役割などについて、引き続き検証していきたい。
著者
松本 佳穂子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

近年その進歩がめざましいライティング自動採点システムを、英作文の評価だけでなく指導にも利用する授業モデルを構築し、その効果の検証を行った。まず自動採点システム自体の精度を分析すると共に、文法や語法指導などをそのシステムに委ね、教師がより重要な側面である内容、構成、論理展開などの指導に時間と労力をさけるような授業モデルが、通常授業とほぼ同程度の学生の伸びをもたらすという結果を得た。更に学生の特性によって適切なモデルが違うことが判明したので、その違いに合わせたモデルの最適化を図った。
著者
沖原 謙 塩川 満久 柳原 英兒 松本 光弘 菅 輝 出口 達也
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は,これまで,現場の指導者を通して言葉で表されてきた複数の選手の動きや,チーム全体の動きを定量化して,分析することでサッカー戦術を客観的に解明していくことであった。この目的を達成するためにDLT法を用いて選手の位置を時系列に沿って座標化し,選手の動きを客観化し,分析を行った。そして本研究の成果については,以下に示すとおりである。1.「攻撃は広く,守備は狭い」という原則と,「一試合を通してチームの状態をコンパクトに保つ」という2つの異なったチーム戦術の原則について分析を行なった結果,本研究の成果では,試合を優位に進めているチームでは,「一試合を通してチームの状態をコンパクトに保つ」という分析結果は得られなかった。「一試合を通してチームの状態をコンパクトに保つ」は,いくつかの先行研究でも試合を優位に進めているチームの現代サッカーの特徴と報告されてきたが,「攻撃は広く,守備は狭く」の原則の方が,よいチームの状態として機能しているという結果が,本研究から得られた。2.各々の選手の時系列に対するスピードの変化の平均を算出し,これをチームのスピードの変化として表すと,対戦チーム間において,スピードの変化には明らかに連動性があった。3.日本代表が採用している守備戦術である"フラットスリー"の分析において,この"フラットスリー"のフィールド上の頻度とスピードの変化を分析することで,フラットスリーの守備戦術が,ゲームにおいて機能しているかどうかという評価を加えられる可能性を示した。4.1で述べた「攻撃は広く,守備は狭い」という原則が優先される時,この原則は相対的なチーム関係において有効であり,攻守の切り替え時に相手チームよりも効率よく広がり,効率よく狭くなる方法が,今後の現代サッカーの新しい理論として構築される基礎研究となるであろう。
著者
大井 奈美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度の研究成果としては以下の三点を挙げることができる。第一に俳句研究にたいする成果について述べる。オートポイエーシス概念にもとづく情報学すなわち基礎情報学を応用して近現代俳句を分析することにより、既存の諸アプローチによる研究(たとえば文献学的研究、テクスト論的研究、認知科学的研究など)では十分にとらえきることが難しかった俳句独自の特徴について多角的にあきらかにした点を挙げることができる。その特徴とは、第一に俳句が俳句結社などの共同体やメディアと非常に密接な関係を結んでいる点、第二に共同体やメディアと作家とのあいだに師弟関係に代表される力関係が存在する点であった。こうした特徴にかんして、本研究の情報学的=構成主義システム論的アプローチによって、たとえば俳句結社における作句に、結社誌の存在や師弟関係がいかなる影響をおよぼすのかを説明することができた。以上述べた俳句研究における成果にとどまらず、基礎情報学という理論的枠組を発展させた点も本研究の第二の成果として挙げられる。具体的には、通時的な考察の導入、自律システム同士の関係性、システムの作動メカニズムと情報概念との有機的関係づけなどをとおして理論を深化させることができた。成果の第三として、既存の文学システム論研究が抱えていた問題点に一つの解決をあたえたことを挙げることができる。基礎情報学は二次観察概念を核とするセカンド・オーダー・サイバネティクス(ネオ・サイバネティクス)に含められる理論的枠組であるが、セカンド・オーダー・サイバネティクスを応用する文学研究は、すでにドイツを中心におこなわれてきた。それには、いわゆる経験的文学研究の潮流もふくまれていた。本研究をつうじて、文学システム論が有していた、文学テクストをめぐる理論を研究作業のなかに位置づけることが難しいなどの弱点を克服する道が拓かれ、情報学的=システム論的文学研究の可能性が拡張された。
著者
久保田 晃弘 岩崎 秀雄 高橋 透
出版者
多摩美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

個人レベルでゲノムデータを解読できる、ポスト・ゲノム時代のバイオメディア・アートに関する調査研究を行なった。バイオメディア・アートのポータルサイト「Bioart.jp」を立ち上げた。バイオアートの父と呼ばれるアーティストのジョー・デイビスを日本に招聘し、ワークショップ等を開催した。最終年度には3つの展覧会を開催し、本とカタログを出版した。
著者
山中 伸弥
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

NAT1は翻訳開始因子の一つであるeIF4Gと相同性を有する蛋白質で、新しい癌抑制遺伝子の候補である。我々は以前、RNAエディティング酵素であるAPOBEC1をトランスジェニックマウスの肝臓で過剰発現させると肝細胞癌を誘導することを報告したが、その肝臓で異常にエディティングされているmRNAとしてNAT1(novel APOBEC1 target #1)を同定した。NAT1のmRNAのエディティングは複数の停止コドンを生み出し、結果としてNAT1蛋白質をほぼ完全に消失させた。eIF4Gは他の翻訳開始因子であるeIF4AやeIF4Eと結合し、それらの機能を統合しているが、NAT1はeIF4Aに結合するがeIF4Eには結合しないことがわかった。またNAT1を過剰発現させると蛋白質合成を抑制した。そこで、NAT1は、eIF4Aへの結合をeIF4Gと競合する結果、蛋白質合成をを抑制するというモデルを提唱した。今回、我々は遺伝子ノックアウトによりNAT1の生体内での機能を検討した。NAT1+/-マウスは外観や生殖能力は正常で、1年以上経過しても腫瘍の多発は認められなかった。一方、NAT1-/-マウス胚は原腸形成期に致死であった。NAT1-/-ES細胞は正常の形態を示し、予想に反して蛋白質合成や増殖速度も正常であった。一方、NAT1-/-ES細胞はフィーダー細胞除去やレチノイン酸刺激による分化が抑制されていた。さらに、NAT1-/-ES細胞ではレチノイン酸により変化する遺伝子発現の大部分が抑制されていた。またレチノイン酸応答配列からの転写も抑制されていた。これらの実験結は、NAT1は全般的な蛋白質合成の抑制因子ではなく、初期発生や細胞分化に関与する特定遺伝子の発現制御因子であることを示唆した。