著者
黒木 英充 飯塚 正人 臼杵 陽 佐原 徹哉 土佐 弘之 間 寧 栗田 禎子 佐藤 幸男
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

地域間交流の問題は昨今盛んに議論されているが、東地中海地域は世界最古の文明を発達させ、古来活発な地域間交流を実現してきた。それは地中海という海域とその周辺地域における人間の空間的移動が極めて円滑であったことに拠っている。また、同地域では言語的・宗教的・文化的に多様な複合的性格をもつ社会が形成されてきたが、人間が文化的共同体の間を移動したり、その複合性を都市空間や文化活動で重層化したりする営みも見られた。この「明」の側面と、近現代においてパレスチナ問題を初め、バルカンの民族紛争、レバノン内戦、キプロス分割など、民族・宗派的対立もまたこの地域で進行してきたという「暗」の側面が、これまで別個に論じられてきたばかりで、両面を統合的に把握する努力が顧みられなかった。この欠を埋めて、民族・宗派対立問題に関する新たな解釈を打ち出し、人間の移動性がますます高まりつつある世界における文明交流の枠組み作りに資する知見を得るため、4年間にわたり、海外調査や国内での研究会、国際ワークショップを重ねた結果、次の点が明らかになった。1) 移動する人間に対する「保護」の観念が、東地中海地域で歴史的に深く根付き、それが制度化されてきたが、19世紀半ば以降、これが換骨奪胎され、「保護」の主体が法的基盤を持たぬまま入れ替わったことにより、現代の対立状況が招来された。2) 新たな「保護」のシステムを支える普遍的価値の創出が望まれる。これは現代の東地中海地域における民族・宗派問題の解決可能性を考慮するならば、一元的尺度による統治の実現をめざすのではなく、当該地域の複合的性格を反映した他者を包摂する弾力性に富んだ多元的な統治システムをめざすべきである。今後は、1)をふまえたうえで2)の点について、多角的で学際的なアプローチを展開する必要があろう。本研究はその方向性を明確に指し示すことができた。
著者
土佐 弘之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

地質学的「人新世」という危機的局面が突きつけている気候変動問題は、解決困難な「超意地悪問題(super wicked problems)」であるとも言われている。つまり、一見すると科学技術問題のようでいて、基本的には利害関係者が複雑に絡み合っている社会的な集合行為問題ということである。そのような解決困難な事態に直面しての反応を、いくつかのパターンに分け、特に気候変動仮説否認(リスク過小評価)の態度をとるグループの反・再帰性(reflexivity)の政治に焦点を当てて、その政治経済的メカニズムと社会心理学的メカニズムについての解明を行った。
著者
西谷 修 中山 智香子 真島 一郎 土佐 弘之 崎山 政毅 森元 庸介
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

折からの東日本大震災と福島第一原発事故は研究課題を先鋭化するかたちで起こり、これを受けて、グローバル化した世界における〈オイコス〉再検討という課題を、 現代の文明的ともいうべき災害や核技術の諸問題、さらに近年注目されている「脱成長」のヴィジョンに結び付け、主としてフランスの論者たちとの交流を通じて〈技術・産業・経済〉システムの飽和の問題として明らかにした。その内容や、そこから引き出される展望については、下に列記した雑誌諸論文や以下の刊行物に示した。『〈経済〉を審問する』(せりか書房)、報告書『核のある世界』(A5、100p.)『自発的隷従を撃つ』(A5、121p.)
著者
梅森 直之 坪井 善明 田中 ひかる 土屋 礼子 小林 聡明 鈴木 恵美 鶴見 太郎 加藤 哲郎 李 成市 野口 真広 毛里 和子 山田 満 若林 正丈 篠田 徹 齋藤 純一 浅野 豊美 安井 清峰 最上 敏樹 土佐 弘之 山崎 眞次 八尾 祥平
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

東アジア諸国間の対話と交流は、歴史に由来する論争により妨げられており、そのため東アジアの歴史和解の試みは「失敗」であると総括されることが多い。しかしながら、東アジアにおける歴史認識には、単に戦争責任だけでなく植民地責任をめぐる問題が主題化されており、世界的に重要な先駆的実践として評価されるべきものがある。東アジアの各地域は、民主化と経済発展を、異なる時期に異なるプロセスとして経験し、そのため現在の歴史に関する国民感情にも、大きなズレが生じている。東アジア諸国がこのズレを認識し、既存の国際法体系の批判的に検討しつつ歴史共同研究を推進することで、東アジアの歴史和解を推進することが可能となる。
著者
土佐 弘之
出版者
JAPAN ASSOCIATION OF INTERNATIONAL RELATIONS
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.168, pp.168_131-145, 2012-02-29 (Released:2014-03-31)
参考文献数
52

Marx-Leninism had justified its proletariats' dictatorship and had suppressed anarchism under the pretext of promoting emancipation from the oppression and exploitation of capitalism. Anarchism gradually re-emerged while oppression by Stalinism became conspicuous. Following the collapse of state socialism, neo-liberalism became hegemonic and rapid de-regulation brought in social polarization, which foregrounded the crisis of the electoral representative democracy as well as contradictions of capitalism. Responding to the crisis of the competitive democracy and neoliberal capitalism, new anarchism began to emerge including Zapatista insurgency (1994) and direct actions in Seattle (1999) or in New York (2011). Although some scholars also begin to examine its implications of new anarchism in the global politics, it is still remain marginalized in IR.This article will explore the politics of new anarchism in the context of global democratization beyond the territorial sovereignty system. First we critically examine the intricate relation between Hobbesian realism and anarchy by focusing upon the marginality of anarchism in the mainstream IR. Second we probe the current crisis of competitive representative democracy and emerging new anarchist movements by examining the incompatibility between the territorial state sovereignty and deepening of democracy. Third we probe implications of democracy against the state, savage democracy, by re-examining an argument on society against the state in the political anthropology. Last we examine the (im-)possibilities that anarchism would play a role of ‘democracy as a movement’ to promote ‘democracy as an institution’ such as electoral representative democracy beyond the limits of state sovereignty.As the global financial crisis indicates, the states cannot control a flow of powers effectively and tend to be shaken by its excess liquidity. While a growing flow of powers aggravates the crisis of the representative democracy based upon the territorial sovereignty, new anarchism begins to constitute a part of globalization from below by aiming to minimize domination. It is certain that the history of anarchism has continued to be a history of losers except a few cases of temporal autonomous zones such as the Paris commune (1871). However it is also certain that philosophical anarchism provides a valuable foundation for promoting global democracy by activating savage democracy.
著者
土佐 弘之
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.194, pp.194_1-194_13, 2018-12-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
45

This special issue is the attempt to scrutinize the current transition process of the regimes at the domestic or regional level as well as the global level. Its title ‘Regime Transition and Violence’ reminds us of the democratic peace theory. Following the end of the Cold War, there had been some optimistic prospect that the waves of democratization would transform the world order into more peaceful one, which the democratic peace theory suggested.However the use of force for the regime change brought about more violent situations, which we could notice in the case of Iraq. In addition, the liberal democracies themselves as well as the liberal international order began to face serious crisis, which questions the plausibility of “the end of history” argument.In other words, the rise of illiberalism and the consolidation of competitive authoritarianism seem to rebuke the liberal view of progressive history, which presupposes the inevitable transition toward the liberal democracy. Unlike the prospect of the democratic peace theory, the real world order seems to be rearranged in accordance with the deepening crisis of liberal order. Articles in this special issue argue about the problems with way in which the post-liberal world order (the post-liberal peace) as well as the domestic order is reconfigured each other.
著者
土佐 弘之
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.79-99, 2004-03-19

内戦状況や抑圧的政治体制の下における虐殺といった重大な人権侵害に対して如何なる対応を行うかといったことが,紛争後の社会をどう再建するか,平和構築を如何にして進めていくかといった課題もと絡みつつ,重要な現代的課題の一つとなっている.紛争の発生原因に遡って根本的に解決するためには,構造的な問題を一つ一つ解決していかなければならないのは言うまでもないが,そうした構造的な制約の中,過度期の正義についての的確な対応をとり続けていくことで,状況を改善していくことも可能なはずである.本稿では,赦しやアーカイブに関するジャック・デリダの議論などを補助線として使いながら,「移行期における正義(transitional justice)」の望ましい方向性について検討していった.そして,復讐へと傾斜したものについては赦しの方向へ,忘却へと傾斜したものについては記憶の方向へといったようにそれぞれ,いずれも何らかの形で不十分な対応を改めていく必要性があることを確認した上で,語りによる歴史物語の書き換えの動きの活性化,記憶再編の可動幅や共有化される記憶の地平の拡大が,沈黙を強いる抑圧的な構造的権力の解体と同時に重要であることを指摘した.
著者
初瀬 龍平 野田 岳人 池尾 靖志 堀 芳枝 戸田 真紀子 市川 ひろみ 宮脇 昇 妹尾 哲志 清水 耕介 柄谷 利恵子 杉浦 功一 松田 哲 豊下 楢彦 杉木 明子 菅 英輝 和田 賢治 森田 豊子 中村 友一 山口 治男 土佐 弘之 佐藤 史郎 上野 友也 岸野 浩一 宮下 豊
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、戦後日本における国際関係論の誕生と発展を、内発性・土着性・自立性の視点から、先達の業績の精査を通じて、検証することにあった。研究成果の一部は、すでに内外の学会や公開講座などで報告しているが、その全体は、『日本における国際関係論の先達 -現代へのメッセージ-(仮)』(ナカニシヤ出版、2016年)として集大成、公開する準備を進めている。本書は、国際政治学(国際政治学、政治外交史)、国際関係論(権力政治を超える志向、平和研究、内発的発展論、地域研究)、新しい挑戦(地域研究の萌芽、新たな課題)に分けた先達の業績の個別検証と、全体を見通す座談会とで構成されている。
著者
菅 英輝 初瀬 龍平 藤本 博 秋元 英一 土佐 弘之 松田 武 油井 大三郎
出版者
西南女学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、アメリカの戦争が秩序形成において占める位置、役割、およびその影響や帰結を体系的・包括的に検討することを通して、それが21世紀の世界秩序形成およぼす影響や問題点を分析・評価することを目指した。研究会は初年度3回、2年度4回、最終年度3回の他、総轄班の会合を2回開催した。初年度は全員の報告を義務付け、最終年度も全員に報告を義務付け、そのときの議論を踏まえて最終報告書用の原稿を提出してもらった。研究成果の公開を心がけ、分担者による学会報告の他、関西大学で海外研究協力者も招聘して国際ワークショップを実施した。ホームページでも研究活動を公開し、くわえて分担者相互の意思の疎通を図った。また、海外研究協力者や国内の知見提供者を招いての研究会開催は、知的交流を拡大するのに役立ち、人的ネットワークの確立という面でも成果を挙げた。この点は、平成19年度から開始することになった共同研究(基盤研究A)を組織するさいにも役立った。また、大型マイクロフィルム資料も購入し、資料面でも充実させることができた。代表者および研究分担者の3年間の研究業績としては、論文57(日本語)、論文8(英語)、編著10(日本語)、単著!(日本語)、単著1(英語)である。なお、現在、科研報告書用に提出された論文をもとに、書き直しをしてもらい、法政大学出版局より研究書として2冊刊行することが決定し、現在その作業を行っている。また、2冊のうち、1冊については、海外研究協力者ボブ・マクマン教授と代表者の菅が編者となって、英語での刊行を目指し、現在鋭意取り組んでいる。
著者
中村 覚 吉川 元 伊勢崎 賢治 高橋 和夫 中西 久枝 澤江 史子 栗栖 薫子 森 伸生 北澤 義之 立山 良司 坂井 一成 泉 淳 小林 正英 細井 長 齊藤 嘉臣 末近 浩太 土佐 弘之 木村 修三 小塚 郁也 福田 安志
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本プロジェクトは、国際関係論、安全保障論、中東地域研究の専門家による協働研究を通じて、日本における中東の安全保障問題に関する本格的な研究の基盤づくりを目的とした。また、中東における武力紛争の傾向や特質に関して論ずるのみではなく、短期的な紛争解決と、中長期的な予防レジームの構築に関する課題と可能性に関して考察した。その際に特に、日本への政策的示唆を生み出す視点を重視した。また当該の研究課題の遂行のために必要とされる国外の研究者とのネットワーク作りと同時に、国外への研究成果の発信で成果を上げた。
著者
土佐 弘之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

昨年度から今年度にかけて、内戦や抑圧的な権威主義・全体主義体制の下での虐殺など著しい人権侵害行為に対して、和平後または民主化後、どのような対応をすべきかといった、いわゆる「(民主化)移行期における正義(transitional justice)」問題についての研究を進めた。南アフリカの真実和解委員会などの真相究明委員会形式のものや旧ユーコスラビア国際刑事裁判所との国際刑事裁判所形式のものなど、各事例について文献サーヴェイをしながら、復讐/赦し、記憶/忘却といったアポリアを軸に、それぞれの事例の位置づけや移行期をめぐる正義の問題についての理論的整理を試みた。その成果の一部は、「移行期における正義(transitional justice)再考」といった論文として公刊する機会を得た。そこでの結論を繰り返すと、以下の通りである。過去に関する集合的記憶が社会的構築物である以上、過去をどう取り扱うかの選択肢について、私たちは一定程度の選択の幅をもっている。もちろん、それは様々な制約がある中での選択の幅ということであるが、本研究では、移行期における正義という問題、つまり過去の人権侵害という問題を取り扱う際、とられる選択は、どのようなバイアス性をもっているかといったことについて、和平・民主化プロセスのパターンとの関連で検討した。次に、復讐へと傾斜したものについては赦しの方向へ、忘却へと傾斜したものについては記憶の方向へといったようにそれぞれ、いずれも何らかの形で不十分な対応を改めていく必要性がでてくることについて、ジャック・デリダの二つのテクストを手引きにしながら理論的な検討を行った。もちろん、内戦後の社会再建ということを視野に入れた場合、こうした狭義の矯正的正義だけではなく、法的正義(法の支配)、回復的正義、さらには配分的正義など、複数の正義を同時に追求することが必要そうしたことを妨げているマクロ・レベル(特に世界システム・レベル)の構造的制約を取り払っていくことが必要であることも確認した。構造的な制約が少しずつ取り払われ、沈黙を強いる抑圧的な構造的権力を解体していくことができれば、語りによる歴史物語の書き換えの動きも活性化し、記憶再編の可動幅、さらには共有化される記憶の地平も広がっていく。「記憶の政治」の新たな展開は、信頼関係の再構築を促し、結果としては、内戦再発といった形での「絶対的な敵対関係」の暴走を食い止める可能性ももっている。そうした意味でも、「記憶の政治」そして「移行期の正義」の問題に対する的確な対応の模索は、単に過去にどう取り組むかという問題であるだけではなく、未来の社会を、どうデザインしていくかという問題ともなっていることを確認した。以上が、本研究の要旨であるが、以上のような研究を進めていく過程で、それと関連する形で、社会構築主義的アプローチによる国際関係論研究(批判的安全保障研究など)の分野を開拓する研究作業を進め、単行本『安全保障という逆説』などを公刊した。
著者
西谷 修 中山 智香子 米谷 匡史 真島 一郎 酒井 啓子 石田 英敬 土佐 弘之 石田 英敬 土佐 弘之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

21世紀グローバル世界秩序の構造的要素である戦争・経済・メディアの不可分の様相を歴史的・思想的に解明し、前半部を「ドキュメント沖縄暴力論」(B5、171ページ)として、また後半部を「グローバル・クライシスと"経済"の再審」(B5、226ページ)としてまとめた。