著者
荒木 亮
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.94-102, 2020-07-31 (Released:2020-08-20)
参考文献数
64

鳴鳥である鳴禽類はそれぞれの種で特異的な特徴を備えた個体独自の歌をさえずり,求愛や縄張りの主張,個体の識別に用いている。ヒトの幼児が親の話すことばを聴き真似ることで次第に言語の発声を獲得してゆくように,鳴禽類のヒナは成鳥のさえずりを記憶し,記憶を頼りに未熟な発声から次第に成鳥と同様のさえずりへと発達させることで,種特異的な特徴を備えた歌を身につける。このためヒトの発声学習の理解につながるモデルとして,歌学習の神経メカニズムが盛んに研究されてきた。しかし,同種へ向けた情報伝達に重要となる歌い手の種を表す歌の形質を,個体識別可能なまでに歌が多様化する中でどのようにして維持するのか,その神経基盤については多くが不明のままである。鳴禽類の一種であるキンカチョウは集団で繁殖し,ヒナは複数個体のさえずりを聴きながら個体独自の歌を発達させる。本稿では,キンカチョウの種特異的かつ個体独自な歌の発達過程と,その獲得を発達初期で支える聴覚野神経の神経活動について著者の研究も含めながら紹介し,今後の課題について論ずる。
著者
水町 寿伸 米湊 健 鶴田 修 佐田 通夫 中原 慶太 前川 進 副島 満 高木 優 荒木 祐美子 芹川 習 田宮 芳孝 渡辺 靖友
出版者
一般社団法人 日本消化器がん検診学会
雑誌
日本消化器がん検診学会雑誌 (ISSN:18807666)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.43-54, 2009

背景:新・胃X線撮影法の前壁撮影ではフトン使用が必須とされている。しかし, フトンの具体的な使用法に関する報告は少なく, 胃形によっても撮影の難易度が異なる。目的:胃形に合わせて任意に調節可能なバスタオルのり巻き法の有用性を明らかにする。対象:施設検診において直接胃X線検査を施行した83例(鈎状胃群43例, 牛角胃群40例)。方法:バスタオルのり巻き法として, バスタオル1枚を鈎状胃群に対しては薄巻き, 牛角胃群には厚巻きに調節して撮影した。胃形別の前壁二重造影像(腹臥位正面位, 第二斜位)に関して, 1)ポジショニング, 2)示現範囲, 3)造影効果をバスタオル使用の有無別に比較検討した。結果:バスタオル使用の場合, 鈎状胃群では2)示現範囲, 3)造影効果が, 牛角胃群は3項目すべてが有意に適切となった。結論:バスタオルのり巻き法は胃形に対するバスタオル形状の調節が簡便で, 高い画像精度が得られる有用な手技と思われた。
著者
木戸 聡史 須永 康代 廣瀬 圭子 宮坂 智哉 田中 敏明 清水 孝雄 佐賀 匠史 髙柳 清美 丸岡 弘 鈴木 陽介 荒木 智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1197, 2010

【目的】本研究目的は、トイレ内の転倒者の検出による迅速な発見と保護を可能とするため、トイレでの転倒状態をより正確に検出するための解析アルゴリズムを構築することである。そのため、我々は静止画熱画像パターンを用いて健常被験者を対象に、正常なトイレ動作と、模擬的に再現したトイレでの転倒姿勢を16パターンのアルゴリズムで判別分析した。各アルゴリズムにおいて求めた判別率を検証し、より有効な転倒検出方法を検討した。<BR>【方法】被験者は歩行及びトイレ動作が自立できる健常成人男性5名とした。身体特性は、身長172.5±5.5cm、座高93.1±2.2cm、胸囲91.2±3.9 cmだった。熱画像センサはTP-L0260EN (株式会社チノー製)を用いた。熱画像センサの特性は解像度0.5 &deg;C、視野角60°、frame time 3 Hz、data point 2256 (47×48)で、地上から2.5mの高さに設置した。被験者が腰掛けるADL(日常生活動作)練習用便座の高さは0.4mとし、便座から0.4m離れた床面5か所に、印をつけた。被験者は模擬的な正常トイレ動作(NA)を1回実施した。NAは、トイレへの入室、便座への着座 、便座からの立ち上がり、トイレからの退室からなる動作とした。その次に、転倒を想定した姿勢変換(FA)を1回実施した。FAは、あらかじめ印をつけた5箇所の位置で、長座位(開脚・閉脚)、仰臥位(開脚・閉脚)となり、便座に対して着座する方向を変更して実施した。それらの動作および姿勢変換を熱画像センサで記録した。記録した熱画像のデータは47×48=2256 pointの温度データで、3Hzの間隔で取得した。被験者1人あたり、NAから20個、FAから60個の熱画像データを任意に抽出した。抽出した熱画像データは、熱画像のエリアを4、9、16、25、36、49、64、81エリアに分割し、分割した各エリアの分割内平均温度(Avg)と分割内最高温度(Max)を求めた。8×2=16個のデータ処理パターンごとに、被験者5名分のNAの100データとFAの300データを用い、判別分析を実施して、正常/転倒の判別率を求めた。統計解析ソフトウェアはSPSS Ver.17.0を用いた。<BR>【説明と同意】対象者に対して、ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は、植草学園大学倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】実験時の周囲温度は24.8±0.2&deg;Cで、被験者がいない状態の熱画像パターンの温度は最低23.9&deg;C、最高26.9&deg;C、25.1±0.3&deg;Cだった。NAの100データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.5&deg;C、26.0±1.1&deg;Cだった。FAの300データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.8&deg;C、26.0±1.0&deg;Cだった。熱画像パターンから被験者の表情は判別できなかった。4分割でMax(4Max)の判別率は75.0%、4Avgは88.0%、9Maxは90.8%、9Avgは90.5%、16Maxは94.0%、16Avgは94.3%、25Maxは96.8%、25Avgは96.0%、36Maxは96.3%、36Avgは95.5%、49Maxは95.0%、49Avgは96.3%、64Maxは96.8%、64Avgは97.3%、81Maxは96.3%、81Avgは97.8%で最大だった。81Avgでは判別分析で用いた81分割エリアのうち、判別率を導くための判別式の係数となった領域は21箇所だった。判別分析に使用したNA+FAの400データのうち、誤検出した数は、NAをFAと判別したものが1個、FAをNAと判別したものが9個だった。NAをFAと判別したものは判別式に使用しない領域に被験者の最高温度の領域があった。またFAをNAと検出した例は、便座に近接した領域で被験者の最高温度の領域がある場合が多く、便座に着座したパターンとの判別が困難だった。<BR>【考察】本研究は健常者をモデルとして、転倒を検出するためのアルゴリズムを検証した結果、熱画像センサのデータを81分割して各エリア内平均値を判別分析すると、トイレ動作の転倒を97.8%の判別率で検出した。誤検出した2.2%をさらに減らすためには動作や姿勢変換の加速度などの変化を転倒の判定に加えることが有効と考えられた。現状では、誤検出の部分を有人による看視で補助すれば転倒の判定は可能と考えられる。また本実験では、被験者の最高表面温度は約32&deg;Cで熱画像センサの温度分解能は0.5&deg;Cのため、室温31&deg;C以下で使用する条件下であれば、1秒以内に転倒が判別できる、被験者のプライバシーに配慮できる特性が得られた。今後は転倒判別に時系列的な要素を加えてより実用的な転倒判定を目指す。並行して病院や施設のトイレに熱画像センサを設置し、フィールドによる試験を実施する。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では、高齢者・障害者のADL支援に関するニーズを理学療法士として見極め、現場に必要なシステム開発への発想・着眼とシステムの検証を実施した。研究結果は病院および介護老人保健施設に必要な機器開発のための重要な基礎的データである。
著者
荒木 昇吾
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
構造工学論文集 A (ISSN:1881820X)
巻号頁・発行日
vol.57A, pp.890-899, 2011 (Released:2011-08-01)

Durability of timber bridges is improved by using concrete decks, because it substitutes a roof. In this case, dead load is increased but this disadvantageous point is canceled by making the timber-concrete composite girder. In Japan, Design Criteria for this type of timber bridges have been developed in 2002 at Nagano Prefecture. And this bridge had been constructed for the first in 2003. In this paper, the improvement method for this type of timber bridge is suggested, that is to product a composition precast girder that has T-beam cross section with the web made of timber and the upper flange made of concrete. And the advantage is discussed from the viewpoints of cost reduction and labor saving.
著者
荒木 俊之
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.203-213, 1994-04-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
42
被引用文献数
8 1
著者
矢野 陽子 新地 辰朗 荒木 賢二 河南 洋
出版者
日本教育情報学会
雑誌
教育情報研究 (ISSN:09126732)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.3-13, 2008-01-21 (Released:2017-04-18)
参考文献数
21

本研究では,ユビキタス社会の授業を想定して,インターネットと校内LANを用いて学生と教師がそれぞれのPC (=Personal Computer)を双方向に使用する教室での授業を試みたものである.ユビキタス社会ではメディアはシンプル化し,形状も縮小化してくる.学生の学習と教授方法には主にネットワークが用いられる事が予測される.そうした社会により近い環境を設定し,ペーパーレスで授業の完全ICT (=Information and Communication Technology)化の検証を大学の情報教育の授業で行った.本検証によりユビキタス社会の授業での問題点と効果及び課題について研究した.また,ユビキタス社会へ向けて授業のICT化が効果的に実施されるためには,学生側より教師側のメディアリテラシーの習得環境を整備する必要性が示唆された.
著者
宮本 昭正 可部 順三郎 荒木 英斉 牧野 荘平 児玉 太郎
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3-4, pp.171-179, 1966-12-31 (Released:2010-02-23)
参考文献数
9

Thirty eight asthmatic patients were studied on pulmonary diffusing capicity for carbon monoxide, history of bronchial asthma, chest X-ray and some of pulmonary function tests. Moreover, pulmonary diffusing capacity among normal subjects was measured and compared to that of asthmatic patients. DLCO was measured by Forster's single breath method modified by Oglivie and CO-workers. Krough's “Permiability” (KCO) was calculated from the same procedure as DLCO.1) Pulmonary diffusing capacity was found to decrease with advancing age and to increase with increasing either height or alveolar volume. Pulmonary diffusing capacity of asthmatic patients was almost equal to or higher than that of nomal subjects.2) No significant correlation was found between pulmonary diffusing capacity and FEV 1.0/FVC.3) Pulmonary diffusing capacity, especially KCO, showed an tendency to decrease with increasing severity of asthma and with advancing emphysematous change in chest X-ray.4) Asthmatic patients were divided into 2 groups; patients who had asthmatic symptoms since childhood, and patients who had the first experience of asthmatic attacks after adolescence. There was found no significant difference between pulmonary diffusing capacity of these 2 groups. From this result, an impression is given that long-standing bronchial asthma does not necessarily progress to diffuse obstructive emphysema.5) The more the patients showed severe asthmatic symptoms, the more marked emphysematous changes were proved in chest X-ray of the majority.6) Pulmonary diffusing capacity was measured among asthmatic patients with history similar to “Tokyo-Yokohama asthma”. No cases showed lowered pulmonary diffusing capacity. This result suggests that there is neither destructive changes as seen in the lung of chronic emphysema nor alveo-capillary block among these patients.
著者
久保 和彦 荒木 弘幸
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.162-166, 2010 (Released:2011-07-01)
参考文献数
2

医療保険のないホームレスに対する医療行為には種々の制約があるため、多くの社会的・医学的問題を抱えている。今回、国民医療費について大いに考えさせられるホームレス症例を経験した。症例は、40 歳、男性。船員で、海上勤務ばかりで自宅を持たず、陸上勤務時に置き引きに遭い、船に戻れず解雇されてホームレスになった。右血性耳漏が出現して当科を受診し、右真珠腫性中耳炎再発の診断で右耳手術 (canal wall down) した。退院すると通院加療ができないため、入院を継続して術後処置を続け、定期的なガーゼ交換が必要なくなってから退院した。この症例で、ホームレスでなければ払う必要のなかった過剰な医療費は 177 万 1,695 円だった。景気回復は、経済的な理由でホームレス化した約 3 分の 1 のホームレスを一般社会に戻せる。政府は保険診療点数を減らすことで国民医療費を下げるのではなく、もっと本質的な問題に力を注ぐべきであろう。
著者
荒木 一視
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.53-73, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
27

近代工業勃興期にある1920年代の中国の食料の海外依存を検討した。その背景には,増加する鉱工業労働者への食料供給をどのようにして担ったのかという問題意識がある。当時の中国の穀物生産は拡大していないものの,鉱工業労働者は大きな増加を見るからであり,輸入穀物によってそれを賄ったのではないかと考えた。そこで中国の北京大学図書館で閲覧した『中國各通商口岸對各國進出口貿易統計』によって当時の食料貿易を把握した。期間を通じて上海を中心とした中部の港では欧米からの輸入拡大が認められた。従来それは中国の工業化に伴う工業原料の輸入とみられていたが,食料貿易も大きなシェアを持っていたことが明らかになった。特に小麦,米,小麦粉などの穀物の輸入がその主力であった。小麦においてはオーストラリアをはじめとしてアメリカ合衆国やカナダ,米においては香港をはじめとして英領インドやフランス領インドシナなどアジアからの輸入が中心であった。このように,20世紀初めの中国の近代工業化の一翼を支えたのは海外からの食料供給であったといえる。同時にそれは今日経済成長を遂げる中国とその食料の海外依存という文脈にも当てはまる。
著者
池田 弘 櫻間 教文 黒住 順子 大森 一慶 荒木 俊江 真鍋 康二 福島 正樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-122, 2019
被引用文献数
1

<p>銅欠乏症による種々の血球減少症を併発した透析患者5例を経験した. 男女比は1 : 4, 平均年齢は76歳, 平均透析歴は5.2年, 原疾患は糖尿病2例, 多発性囊胞腎1例, 腎硬化症1例, 不明1例, 併存症は誤嚥性肺炎3例, 脳神経障害2例, アクセス感染2例, 大腸癌術後の低栄養状態1例, 化膿性脊椎炎1例であった. 1例で経腸栄養, 4例で亜鉛製剤投与が行われていた. 診断時の血中銅, セルロプラスミンの平均濃度は26.6μg/dL, 12.6mg/dLで, 汎血球減少症2例, 貧血+血小板減少2例, 貧血のみ1例であった. 3例に硫酸銅, 1例に純ココア, 1例に銅サプリ投与を行い, 全例, 血球減少が改善した. 透析患者ではリン制限に伴う銅摂取量減少, 亜鉛補充による腸管での銅吸収抑制から健常人より銅欠乏をきたしやすいと考えられる. ESA抵抗性の貧血や複数系統にわたる血球減少症をみたときは, 銅欠乏も念頭において診療を行う必要があると考えられた.</p>
著者
荒木 政人 角田 順久 飛永 修一 國崎 真己 岩崎 啓介 石川 啓
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.1190-1194, 2011-05-25
参考文献数
13
被引用文献数
2

症例は43歳,女性.1型糖尿病にて治療中.便秘と腹痛を主訴に前医受診し,左下腹部に強い圧痛を認めたため消化管穿孔が疑われ当院紹介.腹部CTにてfree airは認めず,S状結腸を先端として糞便塊を大量に含んだ著明な結腸の拡張を認めた.内科的治療に奏効せず,大腸内視鏡施行し粘土状の糞便を洗浄や鉗子にて破砕を試みると,周囲の腸管が全周性に深い潰瘍を形成していた.また,腹満による呼吸苦が出現したため緊急手術を施行した.開腹すると拡張したS状結腸は一部白苔を伴い,肛門側は虚脱していた.内視鏡にて潰瘍部を確認し,その肛門側にて腸管を切離.約1.6kgの便塊を押し出し,潰瘍形成した腸管を切除後,ハルトマン手術とした.術後経過は良好で,術後4カ月目に再入院し人工肛門閉鎖術を施行した.糞便性イレウスは透析患者や糖尿病を有する患者に発症しやすいが,穿孔が無く手術に至る例は少ない.文献的考察とともに報告する.

1 0 0 0 陽明學大系

著者
荒木見悟 [ほか] 編
出版者
明徳出版社
巻号頁・発行日
1971
著者
柴田 真理朗 杉山 純一 蔦 瑞樹 藤田 かおり 杉山 武裕 粉川 美踏 荒木 徹也 鍋谷 浩志 相良 泰行
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.296-303, 2010-07-15 (Released:2010-09-01)
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

すだち(気泡構造)からパンの食感を推定するために,粘弾性と気泡計測パラメータを計測し,それらの関係の定量化を行った.(1) すだちの構造把握に十分な数の気泡を含む大きさを持ち,合わせて試料間にバラツキが確保されるようにサンプリングするために,試料サイズの最適値を決定した.気泡パラメータの変動および実際の計測の安定性を考慮した結果,試料サイズの最適値は1辺20mmの立方体とした.(2) クリープ試験により得られた時間-歪曲線に4要素フォークト粘弾性モデルを適用し,4つの粘弾性係数(瞬間弾性,遅延弾性,遅延粘性および永久粘性)を得た.一方,イメージスキャナにより撮像したデータに,画像処理を利用した既往の研究8) の気泡検出法を適用し,平均気泡面積,平均気泡周囲長,単位面積当たりの気泡数,および気泡面積割合の4つの気泡パラメータを算出した.粘弾性係数および気泡パラメータの変動係数は7.5~49.2%であり,パン試料断面の部位によって不均一であることが明らかになった.(3) 粘弾性係数および気泡パラメータに相関分析を適用した結果,瞬間弾性,遅延弾性および永久粘性と気泡面積割合(画像全体に占める気泡面積の割合)に有意な相関がみられた(r>0.6, p<0.05).本実験で用いた試料においては計測した咀嚼面の気泡面積割合が大きいほど,「かたく」感じられることが示唆された.また,既往の研究と異なる方向の画像解析においても食感を推測できる可能を示せた.
著者
荒木 吉馬 川上 道夫 菊池 雅彦
出版者
一般社団法人 日本歯科理工学会
雑誌
歯科材料・器械 (ISSN:02865858)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.299-306, 1985
被引用文献数
3

前報において, トレー内の圧力分布は, 用いるトレーの形態に強く依存するものであることを指摘したが, 今回これをさらに具体的に実証するため, 3種の円形トレー, すなわち平板状のFタイプ, 同心円状のV字形溝を付したVタイプおよびVタイプの周縁にふちどりを付したRタイプにおいて内部圧力分布を測定するとともに, そのトレー形態による効果を流体力学的に検討した.<br> 各点の圧力は, Rタイプ, Vタイプ, Fタイプの順に大きかった.VタイプとRタイプのV字形溝より内側の圧力分布はほぼ平坦な形であり, 溝の部分で急激な圧力降下を示した.また, Rタイプのふちどり部分においても著明な圧力降下がみられた.<br> これらの特徴は解析結果とよく対応している.つまり溝およびふちどり部分では, 試料のせん断速度が高くなり, さらに溝の部分では流動路も長くなるので, それぞれの部分において特に圧力降下が著しくあらわれることになる.<br> 以上の結果から, トレー形態や筋圧形成が圧力分布に及ぼす影響はかなり明確に把握できるものと思われる.