著者
山下 三郎 中川 孝 河野 信弘 西川 友之
出版者
Japanese Society of Sport Education
雑誌
スポーツ教育学研究 (ISSN:09118845)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.35-43, 1993-06-30 (Released:2010-08-10)
参考文献数
32

The purpose of the present study was to examine the relationships between three factors (physique, motor ability and intelligence quotient) of the 57 mentally retarded boys and girls from 8 to 17 years old in 1989. The physique factor was composed of standing height and body weight. The motor ability factor was composed of 50m dash run, standing broad jump and softball throw for distance. Their intelligence quotients were rated by Tanaka-Binet intelligence test. Their z-scores of physique and motor ability were computed by the means and standard deviations of physique and motor ability in the Japanese normal children.The following results were obtained.1) The mentally retarded boys and girls had significantly moderate correlation coeffients between z-scores of 50m dash run, standing broad jump, softball throw and intelligence quotients.2) There were no relationships between z-scores of physique and intelligence quotients in both sexes with the exception of body weight in girls. The mentally retarded girls had significantly negative correlation coefficient between body weight and intelligence quotients.3) There were no relationships between z-scores of standing height and motor ability in both sexes. The mentally retarded boys had significantly positive correlation coefficients between the z-scores of body weight and the z-scores of standing broad jump, softball throw.
著者
田口 正樹 佐々木 健 林 信夫 加納 修 大月 康弘 小川 浩三 松本 英実 鈴木 直志 新田 一郎 櫻井 英治 粟辻 悠 西川 洋一 佐藤 公美 小林 繁子 神寳 秀夫 佐藤 雄基 佐藤 彰一 石部 雅亮
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

前近代の西洋と日本について、法律家を中心に、公証人、弁護人、軍人、商人など多様な専門家を取り上げて、専門家と専門知を存立・機能させる環境、専門家と専門知が権力構造において占める位置、専門家間の組織形成とネットワークの広がりといった側面を検討して、専門家と専門知の発展を国制史に組み込んだ。ドイツの研究グループとの学術交流により、専門家に関する文化史的視点を補強して、その意味でも従来の国制史の枠を広げた。
著者
望月 友美子 西川 浩昭
出版者
日本健康学会
雑誌
日本健康学会誌 (ISSN:24326712)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.39-51, 2018-03-31 (Released:2018-04-20)
参考文献数
36

Purpose: Occupational health nurses are considered specialists of health management for the workers in their companies, but they are working with many kinds of difficulties.Nevertheless there are little studies of influences owing to the numbers of workers in the companies, therefore, we tried to make it clear that there exist the component pattern of the difficulties which effects on occupational health nursing activities and the differences depend on the number of workers, between less than one thousand and more.Object: A questionnaire survey was conducted for the occupational health nurses who were on the active services and attended the seminar held by the Occupational Health Promotion Center in the Tokai area. 28 items of experiences felt difficult in the business, were used for exploratory factor analysis, and t-test of the factor scores were conducted between the groups composed the numbers of workers. 4 items of experiences felt difficult in the business, and learning environment such as possibility study of in/out office were compared using Mann-Whitney’s U testResult: The response rate was 75.4% and number of valid respondents was 240 (73.8%). According to the exploratory factor analysis of difficulties in business, 4 factors were obtained, and called Factor1 co-operation and using information with related workers, Factor2 Activity and evaluation of the occupational health activities, Factor 3 activity one’s company and Factor 4 treatment of mental health. No differences on the numbers of the companies were seen the means of factor score by using t-test.Conclusion: We found it clear that there are four component factors which effect the difficulty business of the occupational health nurses. About the difference of difficulty in the activity to be able to put according to a scale, the significant difference was not recognized.
著者
西川 賢
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.88-98, 2012 (Released:2017-09-01)
参考文献数
71

本論文においては,第一に,政治的保守主義に関する有意な経験的実証研究を行うために,客観的に正当な根拠があると考えうる基準において,政治的保守主義を概念化することを試みる。第二に,先行研究を検討することでアメリカの共和党の保守化を対象にして,政治的保守化という現象の説明可能な三つの競合する理論を提示する。(1)政治的活動家に関する理論:これは共和党の保守化を保守主義の理念を媒介する政治的活動家の活動とそれを媒介する政治制度から説明する。(2)決定的選挙と政党再編に関する理論:この理論によれば共和党の保守化は決定的選挙とそれに伴う再編を通じて生じたものとして説明できる。(3)イシュー・エヴォリューション:これは共和党の保守化を個々の争点領域におけるイシュー・エヴォリューションが長期間にわたって重畳的に蓄積されて生じたものとして説明する。
著者
村田 安哲 板本 和仁 磯崎 恒洋 原口 友也 西川 晋平 檜山 雅人 谷 健二 井芹 俊恵 伊藤 晴倫 中市 統三 田浦 保穂
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1+2, pp.10-14, 2019 (Released:2020-05-08)
参考文献数
12

我々は膀胱から尿道に渡る移行上皮癌と診断された症例に遭遇した。症例に対し、膀胱と尿道の全摘出術を適用し、排尿機能維持のために小腸の一部を用いて導管を作成、腹壁への尿路変更を実施した。術直後から良好な尿流出を認め、造影X線CT検査では小腸導管は造影効果が認められ、血流は良好であることと良好な尿の排出が確認された。術後397日の定期検査では全身状態は良好に維持されていたが、術後495日目に斃死した。下部尿路系の移行上皮癌に対し、獣医学領域における新たな治療法が示唆された。
著者
西川 純司
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要 = Journal of Kobe Shoin Women's University : JOKS (ISSN:2435290X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-9, 2020-03-05

かつてミシェル・フーコーが「生命=史」(bio-histoire)と呼んだ、人類と医学的介入の関係の歴史を記述することは、現在においても重要な課題として残されている。本稿は、戦前日本のサナトリウム(結核療養所)で主に結核患者を対象に行われていた日光療法という医療実践の一端を明らかにするものである。とりわけ、正木不如丘(1887-1962)が行っていた医療実践を事例とすることで、近代日本の結核をめぐる「生命=史」の端緒を開く試みとしたい。 明治以降の近代化を社会的背景に、結核は人びとの生を脅かす伝染病として大正・昭和初期の社会で蔓延していた。そうしたなか、日光(紫外線)に結核菌を殺菌する作用があるということが発見されると、1920 年代半ばまでには日本においても日光の紫外線を利用するサナトリウムが見られるようになった。しかし、実地での治療は容易ではなかったことから、富士見高原療養所の正木は日光療法を行うための最適な条件―日光浴場の配置や構造、設備など―に細やかな注意を払う必要があった。また、日光療法の科学的根拠を発見することができなかったがゆえに、正木は苦悩しながら日光による治療を実践していた。
著者
原田 聡 杉田 隆 田嶋 磨美 津福 久恵 坪井 良治 西川 朱實
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第50回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.77, 2006 (Released:2006-09-12)

【はじめに】皮膚常在真菌であるMalasseziaはアトピー性皮膚炎の増悪因子である。本菌は細胞外にリパーゼを分泌することにより皮脂を分解しそれを自らの栄養源としている。この度は、アトピー性皮膚炎の標準的治療薬であるステロイドおよびタクロリムスがMalasseziaの分泌性リパーゼ産生および遺伝子発現に及ぼす影響について検討した【材料および方法】菌株:アトピー性皮膚炎患者皮膚の主要構成菌種であるM. globosaおよびM. restrictaの臨床分離株を用いた。リパーゼ遺伝子変動:degenerate PCRによりリパーゼ遺伝子をクローン化し、各種薬剤存在下での遺伝子発現変動をreal-time PCRを用いて調べた。分泌性リパーゼ産生:各種薬剤存在下でpNPP法によりリパーゼ活性を測定した。【結果および考察】臨床濃度に相当するステロイド存在下では、リパーゼ遺伝子の発現およびタンパク産生の抑制が認められた。一方、タクロリムスは、臨床濃度の約1/60以下で遺伝子発現およびタンパク産生の亢進が認められた。しかしながら、タクロリムスは臨床濃度ではMalasseziaに対して殺菌的に働くので、リパーゼ活性の亢進は臨床上問題にならないと考えられる。【会員外共同研究者】内田夕貴、斉藤美沙
著者
福岡 講平 柳澤 隆昭 渡辺 祐子 鈴木 智成 白畑 充章 安達 淳一 三島 一彦 藤巻 高光 松谷 雅生 西川 亮
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.387-391, 2015 (Released:2016-02-06)
参考文献数
11

【緒言】脳幹部腫瘍は, 極めて予後不良な疾患であり, 生存期間の延長に寄与したと証明された化学療法は, 未だ存在しない.今回我々は,放射線治療後再進行を来した脳幹部腫瘍に対する低用量持続経口エトポシド療法の投与経験を報告する.【方法】当院で加療した脳幹部腫瘍症例に対し,後方視的に経口エトポシド療法の効果および有害事象に関し検証した.【結果】対象症例は,11例で,診断時年齢中央値5歳(3–10歳),男女比は1:10であった.10例が画像所見のみで診断し,1例が他院にて生検施行され,膠芽腫と診断された.診断から中央値7か月(2–19か月)で放射線治療後の腫瘍再進行を認め,経口エトポシドが開始になっていた.経口エトポシドへの治療反応性に関しては,画像所見が改善,または変化無であった症例は,画像評価の行われた9例中3例であったのに対し,臨床症状は11例中8例で改善または維持,ステロイド投与量は投与中であった8例のうち,2例で中止,2例で減量を行うことができた.エトポシド投与期間は,中央値6か月で,最長24か月投与が可能であった症例も認められた.症例の全生存期間は,中央値19か月(6–38か月)であった.【結語】脳幹部腫瘍,放射線治療後再進行例において,経口エトポシド療法により明らかに臨床症状の改善が得られる症例が認められ,試みるべき治療方法であると考える.
著者
田中 周平 高見 航 田淵 智弥 大西 広華 辻 直亨 松岡 知宏 西川 博章 藤井 滋穂
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.9-15, 2020 (Released:2020-01-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1

2015年に琵琶湖岸の132の抽水植物群落を対象に, 単独測位携帯型GPSを用いたオオバナミズキンバイの植生分布調査を実施した。琵琶湖岸12か所の観測所における風速, 風向および有効吹送距離を元に群落ごとの有義波高を算出し, オオバナミズキンバイの生育地盤高との関係を検討した。その結果, 1) 有義波高18 cm以上の群落ではオオバナミズキンバイは確認されなかった。2) オオバナミズキンバイは55群落で確認され, 地盤高別の生育分布を整理すると, 琵琶湖標準水位B.S.L. -150 cm~-50 cmに分布する群落 (沖型) , B.S.L. -90 cm~-30 cmに概ね均等に生育する群落 (準沖型) , B.S.L. -50 cm~-30 cmに集中して生育する群落 (準陸型) , B.S.L. -30 cm~-10 cmに集中して生育する群落 (陸型) の4タイプに分類することができた。3) 平均有義波高は沖型, 準沖型, 準陸型の順に5.5 cm, 9.4 cm, 13.2 cmであり, 有義波高によりオオバナミズキンバイの生育地盤高をある程度説明することができた。
著者
桝元 敏也 桝元 智子 吉田 真 西川 喜朗
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.121-124, 1998 (Released:2007-03-29)
参考文献数
16
被引用文献数
2 4

ミズグモ (Argyroneta aquatica) は水中で生活を行う唯一のクモであるが, 日本では生息環境の分断化と悪化から限られた水域にしか生息しておらず, 早急に保全の対策が必要とされている. ところが, ミズグモの生息環境に関する情報はこれまで報告されていなかった. ミズグモを保全するための研究として, 我々は1996年の5月に京都府深泥池において, ミズグモの生息水域と生息しない水域の水の温度, pH, 溶存酸素 (DO) を比較した. その結果, ミズグモの生息する水域は pH と DO が共に低かった. 特に DO は魚の生息のできないほどの低い値であり, このことによってミズグモは天敵である魚から逃れることができるとみられる. また, この低 pH と DO は深泥池に分布するミズゴケによる環境形成作用によって維持されており, ミズグモの保全にはこのミズゴケ群落を維持することが重要である.
著者
石橋 正 西川 弘之 釆 輝昭 中村 洋
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.6, pp.351-360, 2008 (Released:2008-12-12)
参考文献数
30
被引用文献数
10 10

ブロナンセリン(ロナセン®)は大日本住友製薬株式会社で創製された新規抗精神病薬であり,ドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する強い遮断作用により抗精神病作用を発現する.リスペリドンやオランザピンといった第二世代抗精神病薬の多くはセロトニン5-HT2A受容体結合親和性がドパミンD2受容体より高いが,ブロナンセリンでは逆にドパミンD2受容体結合親和性がセロトニン5-HT2A受容体よりも高く,ドパミン-セロトニンアンタゴニストと呼ぶべき特徴を持っている.また,アドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリン性アセチルコリンM1など,他の受容体への結合親和性は低いことから,ブロナンセリンは極めてシンプルな受容体結合特性を有する新しいタイプの第二世代抗精神病薬といえる.更に,各種動物試験より,本薬が第二世代抗精神病薬の特長といえる「臨床用量での精神症状改善効果と副作用の分離」を示すと考えられた.臨床試験ではハロペリドールとリスペリドンのそれぞれを対照とした2つの国内二重盲検比較試験を実施し,いずれの試験でも精神症状改善効果の対照薬に対する非劣性が検証され,特に陰性症状の改善効果はハロペリドールより高かった.また,有害事象や副作用の発現割合では,ハロペリドールより錐体外路系症状や過度鎮静が,リスペリドンより高プロラクチン血症,体重増加,食欲亢進,起立性低血圧が少なかった.長期投与試験でも効果は維持され,目立った遅発性有害事象の発現はなかった.これらのことより,ブロナンセリンの持つドパミン-セロトニンアンタゴニストと呼ぶべき特徴と選択性の高い極めてシンプルな受容体結合特性は,医療現場で有効性と安全性のバランスがとれた高い治療有用性を発揮し,統合失調症の急性期から慢性期まで幅広く使用できるfirst-line drugに位置付けられることが期待される.
著者
西川 治
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.819-836, 1991-12-05 (Released:2009-11-12)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1
著者
西川 満則 横江 由理子 久保川 直美 福田 耕嗣 服部 英幸 洪 英在 三浦 久幸 芝崎 正崇 遠藤 英俊 武田 淳 大舘 満 千田 一嘉 中島 一光
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.491-493, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面した患者・家族の苦痛を和らげquality of life(QOL)を改善するプログラムである.日本の緩和ケアは,がんを中心に発展し非がんへ広がりつつある.当院では,非がんも対象に加え緩和ケアを推進すべくEnd-Of-Life Care Team(EOLCT)を立ち上げた.当初6カ月間の延べ依頼数は109件で,約4割を占める非がんの内訳は,認知症,虚弱,慢性呼吸器疾患,慢性心不全,神経難病等であった.活動内容は,オピオイド使用も含めた苦痛緩和,人工呼吸器・胃瘻・輸液の差し控え・撤退の意思決定支援(Advance Care Planning:ACP),家族ケアで,法的・倫理的問題に配慮し活動している.このEOLCTの活動は,老年医学会の立場表明,厚生労働省の終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインに親和的であり,非がん疾患も含めた緩和ケアを推進する有用なシステムになりうる.特に胃瘻や人工呼吸器の選択に象徴される難しい意思決定を支援する働きが期待される.
著者
竹田 奈央子 渋谷 静英 塚本 能三 西川 隆 柏木 敏宏
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.304-311, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
20

症例は 83 歳, 右利き男性。視覚失認, 大脳性色覚障害, 失語症, 前向性健忘を呈した。MRI では左側の舌状回・紡錘状回を含む後頭葉から側頭葉内側下部に出血性梗塞, および左視床, 右後頭葉の内側下部に脳梗塞を認めた。一般的に, 視覚対象の認知は実物や写真より線画のほうが難しいと考えられている。しかし, 症例では線画に比べ実物や写真の認知が不良であった。症例の視覚認知機能をさらに検討した結果, 輪郭情報にもとづく対象の認知は比較的保たれていたが, 陰影や奥行きの情報を統合し, 立体感のある対象として認知することが困難であると考えられた。
著者
赤澤 直紀 原田 和宏 大川 直美 岡 泰星 中谷 聖史 山中 理恵子 西川 勝矢 田村 公之 北裏 真己 松井 有史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100299, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】マッサージは筋機能回復の促進,遅発性筋痛の軽減には効果があると報告されているが関節可動域に与える効果については十分に検証されていない.Hopper(2005)は健常者のハムストリングス筋腹に5分間の揉捏法を施行したマッサージ群とコントロール群のHip Flexion Angle(膝関節伸展位股関節屈曲角度:HFA)変化量に有意差は認めなかったと報告している.一方,Huang(2010)は,健常者のハムストリングス筋腱移行部に対する30秒強擦期のHFA変化量はコントロール期より有意に高値であったと報告している.これら先行研究の結果の違いについては筋腹,筋腱移行部といったマッサージ部位の違いが影響していると推察されるが,関節可動域にマッサージ部位の違いが与える効果を検証した報告は見当たらない.本研究の目的は,健常成人のHFAにハムストリングス筋腹,筋腱移行部といったマッサージ部位の違いが及ぼす効果を検証することである. 【方法】対象は両側他動HFA60°以上の健常成人男性32名(32肢)とし,この対象者を筋腱移行部マッサージ(筋腱移行部)群,筋腹マッサージ(筋腹)群,コントロール群へ無作為に割り付けた.介入マッサージ手技はGoldberg(1992)によって脊髄運動神経興奮抑制の効果が確認されている圧迫を採用した. Goldberg(1992)の報告を参考に圧迫内容はgrasping・lifting・releasing,圧迫周期は0.5Hz,施行時間は3分,圧迫圧は18.7mmHgと設定した.筋腱移行部群のマッサージ部位は大腿骨内・外側上顆から4横指近位の範囲とし,筋腹群のマッサージ部位はさらに4横指近位の範囲とした.コントロール群のマッサージ部位はアウトカム測定下肢の対側ハムストリングス筋腹とした.介入時の対象者肢位は有孔ベッド上腹臥位とした.アウトカムは盲検化された評価者によって測定された介入前後のHFA,HFA60°受動的トルクとした.HFAはデジタルカメラで撮影した画像を基に画像解析ソフトImage Jを用いて0.01°単位で解析した.なお,介入後HFA測定時受動圧は介入前HFA最終域受動圧に一致させた.HFA受動圧測定には徒手保持型筋力測定器を使用し,対象者の踵骨隆起部で測定した.統計解析は各群の介入前後のHFA変化量の比較に介入前HFAを共変量とした共分散分析,事後検定として多重比較法を実施した.またHFA,HFA60°受動的トルクについて各群内の介入前後比較に対応のあるt検定を実施した.本研究における統計学的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨と手順を書面と口頭により説明し,研究の目的,危険性等について理解を得た上で,文書で同意を得た.本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て実施した.【結果】無作為割り付けの結果,筋腹群11名,筋腱移行部群11名,コントロール群10名となり各測定項目ベースラインで3群間に有意差は認められなかった.共分散分析の結果,主効果を認め多重比較法により筋腱移行部群HFA変化量(4.1±1.4°)はコントロール群(-1.5±1.4°)より有意に高値を示した.筋腹群HFA変化量(0.89±1.4°)と筋腱移行部群,コントロール群HFA変化量には有意差は認めなかった.HFAは筋腱移行部群で介入前と比較し介入後に有意に高値を示した(69.9±3.0°→74.7±4.6°).HFA60°受動的トルクは筋腱移行部群で介入前と比較し介入後に有意に低値を示した(42.5±12.8Nm→36.3±15.4Nm).HFA,HFA60°受動的トルクについて他2群では有意差は認められなかった.【考察】筋腱移行部へのマッサージはHFAを拡大させ得る可能性がある一方,筋腹へのマッサージはHFA拡大に効果が少ない可能性が示唆された.また,筋腱複合体の柔軟性を反映する受動的トルクに関しては筋腱移行部群で介入直後に低下する傾向を示した.近年,関節可動域の拡大においては筋腱複合体の柔軟性向上とstretch toleranceの増大が大きく影響すると報告されている.本研究においては,介入前後のHFA測定時の受動圧を対象者内で統一したためstretch toleranceがHFAに影響を与えたとは考えにくい.従って筋腱移行部群の介入後でのHFA拡大にはハムストリングス筋腱複合体の柔軟性向上が寄与したのではと推察された.【理学療法学研究としての意義】ハムストリングス筋腹,筋腱移行部といったマッサージ部位の違いがHFAに与える効果の差異を明らかにした点で理学療法研究としての意義があると考える.