著者
宮崎 英樹 笠谷 岳士
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

過去のものとなったテレビジョン撮像管技術を現代のナノ材料・ナノ計測技術で蘇らせ、表面近傍の光学像を分解能62nm、無染色で撮像する電子走査型超解像光学顕微鏡を開発した。光電子放出に伴う蓄積帯電電荷を読み出すアイコノスコープ方式と、蛍光点を走査して試料を照明するフライングスポットスキャナ方式の構築を目指した。前者については研究期間内に完成形を示すことはできなかったが、後者は市販の走査電子顕微鏡に組み込めるユニットの開発まで成功した。生きた細胞の観察を可能とする環境セルを開発し、位相物体が無染色で撮像できる原理がパーセル効果に由来することを明らかにし、実際に生きたままのヒト肺細胞の観察に成功した。
著者
丹下 健 益守 眞也 坂上 大翼 山本 福寿 本間 環
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

常緑樹の葉は、冬季であれば低温障害を受けることのない低温や降霜によって秋や春には甚大な被害を受けることが知られている。これは常緑樹が周囲の温度環境の変化に応じて樹体の低温耐性を変化させていることを示している。本研究では、暖温帯を主な生育地域とするスギを材料として、周囲の温度環境をどのように感知し、葉の低温耐性を高めたり低めたりしているのかを明らかにすることを目的に、実験的に地下部と地上部の温度環境を別々に制御して葉の水分特性がどのように変わるのかを調べた。葉の膨圧を失うときの水ポテンシャルは、秋から冬にかけて低下し、特に気温が5℃以下で急激に低下する季節変化を示す。この水分特性値の変化は、凍結温度の低下や細胞外凍結時の細胞内水の減少に対する耐性を高めるものである。このような季節変化が、地温を下げることによって早まり、暖めることによって遅れること、水分特性の変化には1週間程度の時間がかかることを明らかにした。この時、飽水時の浸透ポテンシャルの低下は明瞭でなかった。また、地温が5℃以下の時に葉を暖めても葉が低温耐性を失なわず、苗木全体を暖めることによって低温耐性を失う(可逆的な変化)ことを明らかにした。地温の低下に伴う葉の水分特性値や糖濃度の変化を検討し、膨圧を失うときの水ポテンシャルの低下に寄与しているのは、細胞内溶質の増加よりも、体積細胞弾性率(細胞壁の堅さ)の増大の方が大きいことを示した。以上の結果から、秋から冬にかけての地温の低下に応答して、スギの葉が低温に対する耐性を獲得することを明らかにした。季節はずれ降霜(晩霜、早霜)の害は、気温に比べて地温の季節変化が穏やかであり、急激な気温の低下に樹木が応答できないために発生すると考察した。
著者
加藤 照之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

高頻度でサンプリングしたGPSデータの地震計への応用可能性を目的してシミュレーションと観測の両面から研究を行った.シミュレータを用いた検証を行った結果,数Hz程度よりも高い周波数の地面振動を受信する際には位相,振幅に有意なずれが生じることが明らかとなった.一方,実際の観測でどのような波形が取得できるかについて,3台のGPS受信機を用いた観測を実施した.いわき,鹿嶋,静岡の3か所に受信機を設置し,50Hzでの観測を実施した.この結果2013年9月20日に福島県浜通りで発生した震度5強の地震による振動波形を取得することにはじめて成功した.
著者
中井 泉
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

文化財のオンサイト分析用ポータブル蛍光X線分析装置を開発し、国内外の遺跡・社寺・美術館等において、出土ガラスや収蔵ガラスのその場分析を行い、日本の古代ガラスの組成的変遷を解明した。また、西アジアから東アジアまでのユーラシア大陸各地のガラスの組成と比較し、古代世界におけるガラスの西から東への流通について考察した。顕著な成果は、日本のガラス工芸の最高傑作である東大寺法華堂不空羂索観音菩薩の宝冠(国宝)のガラスの全容を解明し、日本の古代ガラスの変遷から宝冠を理解できたことと、今まで、未解明であったキルギス、ラオス、カンボジアのガラスを現地で分析し、日本のガラスとの関連を明らかにできたことである。
著者
須之部 友基 国吉 久人 坂井 陽一
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

単系統群を形成するハゼ科ベニハゼ属・イレズミハゼ属を用いて, 一夫一妻,一夫多妻を示す種について,繁殖行動への関与が知られるアルギニンバソトシン(VT)およびイソトシン (IT) の上流域を種間で比較し, 配偶システムとの関連を探索した. 配偶システムは5種で一夫一妻, 7種で一夫多妻であった.一夫一妻3種, 一夫多妻2種について, VT遺伝子及びIT遺伝子上流域の塩基配列を決定した.配偶システムと関連は見られなかったが,雌雄異体のカスリモヨウベニハゼと雌雄同体の他種の間に塩基配列の変異が認められた.これはVTが性転換に関係した転写調節機構を有している可能性を示唆している.
著者
岩本 通弥 森 明子 重信 幸彦 法橋 量 山 泰幸 田村 和彦 門田 岳久 島村 恭則 松田 睦彦 及川 祥平 フェルトカンプ エルメル
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、日独の民俗学的実践のあり方の相違を、市民社会との関連から把捉することを目指し、大学・文化行政・市民活動の3者の社会的布置に関して、比較研究を行った。観光資源化や国家ブランド化に供しやすい日本の民俗学的実践に対し、市民本位のガバナビリティが構築されたドイツにおける地域住民運動には、その基盤に〈社会-文化〉という観念が根深く息づいており、住民主体の文化運動を推進している実態が明確となった。
著者
扇原 淳 山路 学
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,高齢者介護施設における感染対策の実態と感染対策を目的とした研修プログラムの開発とその評価を行った.その結果,集団感染が起こってから研修や感染マニュアルの整備を行っている可能性が否定できなかった.また,感染管理に関するビジュアルマニュアルを含む学習管理システムを開発し,その効果の検証を行った.その結果,開発した研修プログラムについては肯定的な評価を得られたが,画像コンテンツの表示の方法についてはいくつかの改善点が指摘された.今後は,学歴や職歴等の多様な背景を有する介護施設職員の個別性に配慮した感染対策研修プログラムのカスタマイズの方策について検討が必要である.
著者
鷹野 誠 伊藤 政之 武谷 三恵 山下 潤 桑原 宏一郎
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、徐脈性不整脈に罹患し人工ペースメーカー植え込み術を受ける患者数は増加の一途である。これは自動能をもつ洞房結節ペースメーカー細胞の変性・脱落が原因であり、再生心筋による治療の可能性が注目を集めている。そこで洞房結節のペースメーカー細胞に特異的に発現するHCN4という分子の遺伝子座にホタルの発光蛋白質を組み込んだ遺伝子改変マウスを作成した。このマウスではペースメーカー細胞をホタルのように光らせることができる。この光を手がかりに、ペースメーカー型の再生心筋細胞を簡便かつ定量的にスクリーニングする方法を開発することができた。
著者
福本 義憲 保阪 靖人 荻野 蔵平 岡本 順治 伏見 厚次郎 幸田 薫 重藤 実
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

言語構造・文法を抽象的な規則の体系とみなす近代の構造主義的言語理論と並んで、文法構造とコンテクストの不可分な関係を重視する言語理論がある。前者は構造言語学、生成文法と引き継がれて、意味構造・統語構造・音韻構造の一定の自律性を前提としているのに対し、後者は、コンテクスト・発話状況・日常知識・発話者の意図を出発点とし、文法(意味・統語・音韻)のコンテクスト依存性に着目する。だが、このふたつの観点は必ずしも互いに対立するものではなく、むしろ相互補完的な働きをしている。言語能力と言語活動の全体像を捉えるためには、他方を排除するのではなく、この相互補完的な観点に立脚する必要がある。この考え方は「文法と知識のインターフェイス」というキーワードに集約することができる。本研究では研究分担者がそれぞれ独自の領域を研究することによって、全体像を捉えようとするものであり、各研究者の成果は、個別の論文並びに、平成15年度に作成した成果報告集にまとめられている。細かな4年間の活動については成果報告書にまとめられているが、特に次のような活動を行ってきた。1.4年間にわたる、研究成果報告集の作成を行い、そのために2003年9月21日に研究分担者が集まる会合を都立大学で開いた。2.毎年研究分担者との会合を開くとともに、海外の研究者を招き、講演会並びに討論会を開催してきた。3.研究分担者の研究を進めるために、研究代表者並びに研究分担者がドイツ語圏(オーストリア・ドイツなど)へ資料収集並びに研究発表に出かけた。4.日本独文学会(年二回)で口頭発表並びにポスターセッションでの発表を行った。
著者
馬場 敏幸 苑 志佳 相澤 龍彦 河村 哲二 近藤 章夫 兼村 智也 折橋 伸哉 佐藤 隆広 田中 美和
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

今年度はブラジルサンパウロ、ジョインビレ、カシアスドスルを訪問した。ジョインビレとカシアスドスルはこれまでの調査で判明したブラジルの金型クラスターである。ジョインビレはドイツ系移民による工業都市であり、ブラジル第一の金型集積地である。ブラジル金型工業会もジョインビレに位置する。ジョインビレの金型技術は大手配管メーカーと大手家電メーカーの部品成形およびそれらの成形のための金型作成を核として形成されていった。やがて蓄積された技術をもとにして自動車など他産業向けの金型作成も盛んに行われるようになった。ジョインビレでは金型メーカーおよび中核企業である家電メーカーの金型部門を訪問した。金型はドイツ・マイスター風の金型製作手法がとられ、製作される金型品質はグローバルレベルであった。カシアスドスルはプラスチック射出成形が盛んなイタリア系の移民都市である。金型製作はイタリアカロッチェリア風の金型手法がとられ、製作される金型品質は高かった。今年度の訪問により、これまでの企業のグローバル化および企業の成立・調達・技術系製などの経営学的・工学的知見に加え、ブラジル金型産業クラスターの成立という経済地理的観点からも大きな知見が得られた。特に興味深かった点は、金型クラスターごとに異なる形成経緯である。すなわち、コスモポリタン的な形成がなされたサンパウロABC地域は1950年代以降の自動車産業振興に伴って金型クラスターはコスモポリタン的に形成されたが、ジョインビレ地域はドイツ系移民のもちこんだ工業蓄積と共に形成され、カシアスドスル地域はイタリア系移民のもちこんだ工業蓄積と共に形成された。ブラジルの金型産業の形成・発展に「移民」のキーワードが重要であるとの点が明らかになった。これはアジア地域の地場民族による金型産業・クラスター形成とは異なるタイプの金型産業・クラスター形成であり、大きな発見であった。
著者
栃内 文彦 札野 順 西村 秀雄 岡部 幸徳 金光 秀和 夏目 賢一 金 永鍾 デイビス マイケル プール イボー・ファン・ダ ピーターソン マーティン ニッケル フィリップ バーグ ポール・ファン・デン ワグナー-ツカモト シグモンド
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

社会のグローバル化を十分に踏まえた技術者倫理教育のための教材開発に資するべく、日・米・蘭の三カ国で技術者の価値観についての実証的比較研究を行ない、以下の成果を挙げた:1)「ソーラーブラインド(英語吹替版)」を用いたケースメソッド型の事例教材パッケージの開発、2)「技術者が重視すべき価値がモノづくりの現場においてどの程度重視されているか」に関する、日・米・蘭の工科系大学で学ぶ学生間における認識の違いの明確化、3)技術者倫理教育・研究ネットワークの拡大、4)現在行なっている技術者倫理教育のための教材開発への貢献、5)モノづくりにおけるアジア・イスラム的価値観に関する調査・研究の基盤構築。
著者
最上 敏樹 吾郷 眞一 山形 英郎 酒井 啓亘 桐山 孝信 中川 淳司 中谷 和弘 児矢野 マリ 兼原 敦子 坂元 茂樹
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

3年+1年にわたって研究会の開催や協議を通じ、この意欲的な分野の先鞭をつけてきた。とりわけ立憲主義の問題は、わが国ではこの共同研究がきっかけになって活性化したと言っても過言ではなく、わが国学界に最先端の論題を導入し、国際水準の議論ができる基盤を作ったと自負している。それと旧来の機能主義の理論枠組みをどう接合するかについても大きな展望が開けた。
著者
尾田 正二 久恒 辰博 三谷 啓志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

亜致死線量の放射線照射よりも拘束ストレスの方がメダカ成魚の心拍により大きな影響を及ぼしたことから、低線量の放射線照射が脊椎動物の自律神経に与える影響も極めて小さく誤差レベルと結論する。ただし低線量率での慢性的な放射線の影響は未検証であり今後の課題である。マウス頭部への高線量放射線照射によって認知機能の一過的な低下を確認した。メダカ稚魚、成魚の遊泳を自動追尾して軌跡を数値化する手法を開発し、首都圏ホットスポットでの空間線量に相当する極低線量率にてメダカ胚、稚魚、成魚を慢性照射し、その高次脳機能への影響を検証・評価する手法を開発した。低線量慢性曝露実験の実施が将来のタスクとして残された。
著者
高須 晃 亀井 淳志 ロザー バリー 赤坂 正秀 大平 寛人 KABIR M.F. OROZBAEV. R. JAVKHALAN O. 松浦 弘明 貝沼 雅亮
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

三波川帯のエクロジャイトの変成作用は,①高温型変成作用イベント,②2回のエクロジャイト相変成作用イベント,そして③藍閃石片岩相-緑れん石角閃岩相変成作用イベントの4回の変成イベントが認められる.これらの変成作用は120-90 Maの比較的短時間に,海洋プレートの沈み込みの開始(大陸側プレートによる接触変成作用),沈み込みの継続(地温勾配の低下による低温エクロジャイト変成作用)海嶺の接近(地温勾配の上昇による高温エクロジャイト変成作用)そして海嶺の沈み込み(狭義の三波川変成作用と変成帯全体の上昇)によって説明できる.
著者
塩村 耕 阿部 泰郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

日本を代表する古典籍専門図書館である西尾市岩瀬文庫について、全所蔵資料の約95%について調査を終了し、書誌データベースを作成し、公開運用した。このような詳細な書誌データベースは日本でこれまで例がなく、その新たな学術基盤としての有効性を実証した。同時にデータベースより得られた知見を活用して、重要資料を選定し、全文テキストデータを作成して、データベースにリンクさせた。また、名家自筆本を選定し、筆蹟サンプル画像データを作成して、データベースにリンクさせた。このような統合型データベースを実験的に公開運用し、日本の人文学の新たな学術基盤のあり方として世の中に提案した。
著者
根立 研介 中村 俊春 平川 佳世 武笠 朗 深谷 訓子 皿井 舞 武笠 朗 田島 達也 深谷 訓子 劔持 あずさ 皿井 舞 宮崎 もも 中尾 優衣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

平成22年度は、研究代表者の根立は、8月下旬から9月初旬にロンドン・大英博物館、ウィーン・応用美術館、ケルン・東洋美術館を、また12月下旬中国・寧波・寧波市博物館及び蘇州・蘇州市博物館等を訪れ、日本の鎌倉・江戸時代の彫刻及び日本の古代・中世彫刻の規範である中国の南北朝・唐・宋彫刻の調査を実施し、資料収集を行った。また、国内では、霊験仏として名高く、模刻も盛んに行われた奈良・長谷寺十一面観音像の室町時代の模刻像の調査(於鳥取県倉吉市・長谷寺)等を実施した。分担者の中村は、昨年度に引き続き、西洋バロック美術の模倣と創造の問題に関して資料収集を行った。また、21年度から分担者となった平川は、9月にルーブル美術館(パリ)、サバウラ美術館(トリノ)、ドーリア・アンフィーリ美術館(ローマ)を訪れ、ルネサンス以降イタリアの宮殿装飾として定着した古代ローマの表象において北方ヨーロッパにおける伝播を確認する調査を実施した。連携研究者は、個々人のテーマを進展させたが、特に武笠朗は昨年度に引き続き、善光寺式三尊像の模刻を巡る研究を進展させた。なお、研究代表者根立は、本研究のテーマとも密接に関わる霊験仏の問題を『美術フォーラム21』22号(2010年11月発行)で特集として編集するとともに、根立、武笠が論考を発表した。なお、最終年度に入った本研究の成果を検討する研究会を、10月3日に実施し(第二回目は、東日本大震災の影響もあり中止となった)、活発な意見交換を行った。また、3月下旬には、研究代表者・同分担者・連携研究者8人の研究成果の論文を掲載し、この科研を総括する報告書を刊行した。
著者
加藤 昇平 本間 昭 遠藤 英俊
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題では、高齢者の発話音声に着目し、音声韻律特徴ならびに脳血流解析を用いた認知機能障害のスクリーニング技術を研究した。音声情報のみを用いた1次スクリーニングと、近赤外分光法により認知課題中の脳機能を計測する2次スクリーニングからなる、音声-脳血流ハイブリッド認知症スクリーニングを開発した。この技術に加えて、MCIをさらにサブタイプ分類(健忘を伴うMCI(A-MCI)および伴わないMCI(N-MCI))できる脳血流解析技術を開発した。健常群12名とMCI群19名の被験者を対象とした予備研究で、日常会話の認知活動において健常群とA-MCI群の脳血流賦活に有意な差を確認した。
著者
佐藤 康邦 谷 隆一郎 三嶋 輝夫 壽 卓三 山田 忠彰 勢力 尚雅 高橋 雅人 熊野 純彦 下城 一 船木 享 湯浅 弘
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

哲学的概念としての「形態」に関する問題は古くて新しい。形態という概念は、内容に対して事物の表面に漂う外面的なものを指す一方で、「かたち」という和語からして、かたいもの・確固とした真理という含意もある。西洋思想では、プラトンのイデア、アリストテレスのエイドスなど、古代ギリシアに遡りうる概念である。近世以降、機械論や還元主義を特徴とする自然科学の立場から、形態概念は排斥されがちであったが、美的形態や有機体の形態を扱うカントの『判断力批判』は、近代思想における形態論の先行例といえる。その形態論的発想は、むしろ、現代では、最先端の科学において見出される。構造主義生物学、ゲシュタルト心理学、認知心理学、量子論、熱力学(シナジェティクス)、複雑システムなどの多領域において、形態論の復権の動きが認められ、自然科学と人文科学との積極的対話の可能性が開かれつつある。倫理学においても、この観点から新たに検討されねばならないだろう。本研究では、形態という概念を手がかりに、人文科学としての倫理学の独自の意義と使命とを問い直すことを意図した。倫理思想史上の諸学説を形態論の観点から再考しつつ、応用倫理学や規範学という狭い領域に限定せず、現代の科学論における形態論復権の動向に対応する新しい倫理学の可能性を探究した。(1)古代ギリシア思想(2)古代ユダヤ思想(3)中世キリスト教思想(4)カントの形態論(5)近代思想(ドイツ観念論・イギリス経験論)(6)現代思想(7)科学論(8)藝術・文藝(9)日本近代思想(和辻哲郎・西田幾多郎・三木清)。以上の分野を専門とする研究分担・協力者を(若手研究者の研究発展にも寄与すべく特に留意)組織し、毎年度数回の全体会議において、各々の個別研究をふまえた対話・討論を行った。以上の研究成果は、最終年度に論集(成果報告書)としてまとめられたほか、別項11にある各員の業績を通じて公表された。
著者
山田 孝子 園田 節子 王 柳蘭 藤本 透子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

多文化空間に生きる越境者集団における共同性再構築のメカニズムを、地域間比較のもと、チベット難民、中国系カナダ人、タイ北部の雲南系ムスリム、カザフ人帰還者の諸事例を人類学的・歴史学的視点から実証的に分析した。その結果、越境者の共同性再構築には、越境者ネットワーク、無私/慈悲の精神にもとづく個人や宗教者のリーダーシップの存在、ホスト社会との政策を最大限活用する共生の戦略、祝祭と宗教実践をとおした「伝統」の主張などが重要な道筋となることが明らかにされた。また、あらたな地域空間の創出を理解する上で、「下からの共生」という視点が重要となることが提起された。
著者
松山 恒明 小金沢 孝昭 鎌田 慶朗 渡辺 孝男 田中 武雄 中屋 紀子 本田 強
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、総合講義「学校給食」の実践を行なう中で、研究会や現地見学を行いながら、教員養成課程で行なうべき「学校給食」関連の講義内容を検討してきた。調査・検討の結果、まず第一に学生の反応であるが、学校給食や食に関する内容について関心が高く2年間とも各300人の学生が受講した。学生たちは、学校現場で行われている学校給食に関心が高く、またこれらを客観的に捉えることのできるこの講義に興味を示した。学校給食への理解については、講義開始時のアンケートで子供たちと食べる昼食程度にしか学校給食を捉えていなかった学生も、講義終了時には学校給食が食や環境、健康を理解する上で重要な教育機会であることに気づくようになった。この点については各年度に行なった学生アンケートに詳しく報告されている。第二に講義内容であるが、2年間の講義実践と学生の反応によって教員養成課程の「学校給食」の講義内容は概ね4つの領域で講義すると、「学校給食」の持っている教育機会を説明することが可能であることが明らかになった。1つは学校給食の現状とその安全性についててある。ここでは学校給食がどのような目的のために、どのように運営されているのかを実践報告を交えながら講義した。2つは、こどもたちの食生活がどのような状況にあるのかを明らかにすることである。日々の食生活でどのような点に問題点があるのか、学校給食で補える課題を整理した。3つは学校給食で食べている食がどのように生産されているのか、食についての基礎知識の習得である。とくに食と環境とのつながりにも留意した。4つは食と健康とのつながりについての基礎知識の習得である。食事が健康にどのように関連しているのかを具体例をあげて講義した。これらの研究成果は、昨年度の中間報告書と今年度の最終報告書に整理してあるが、この研究を通じて、学枚での食・栄養教育の重要性ならびに教員養成課程での学校給食に対応した講義の必要性が確認された。また、今後は各教科と学校給食とを連携させた栄養教育の研究が課題となった。