著者
梶原 忠彦 川合 哲夫 赤壁 善彦 松井 健二 藤村 太一郎
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

最近"磯の香り"(マリンノート)はアメニティー機能を有する海洋系複合香として注目されている。例えば、そのタラソテラピー(海洋療法)における機能性芳香剤としての利用、あるいは水産食品への香味香付与によってみずみずしさを増強し、商品価値を高めるなど種々の用途開発がなされようとしている。ここでは高品質のマリンノートを安定供給できる最新の遺伝子組み換え技術と伝統的養殖技術を両輪とし化学合成を組み込んだ、未利用植物材料(沿岸汚染藻類、野菜クズなど)を利用する生産システムの技術開発を目指した研究に於て、次のような研究成果を得た。(1)紅藻ノリより、不飽和脂肪酸に酸素を添加しオキシリピン類(ヒドロペルオキシド)を生成する機能を有する新規のヘムタンパク質をはじめて単離することができ、このものはグリンノート生産に極めて有用であることが分かった。(2)ヤハズ属褐藻の特徴的な香気を有するディクチオプロレン、ディクチオプロレノール及びそのネオ一体の両エナンチオマーを酵素機能と合成技術を併用して、光学的に純粋に得ることに成功し、絶対立体位置と香気特性との関連を明らかにした。また、ネオ-ディクチオプロレノールから生物類似反応により、オーシャンスメルを有する光学活性ディクチオプテレンBに変換することに成功した。(3)緑藻アオサ類には、(2R)-ヒドロペルオキシ-脂肪酸を光学特異的に生成する機能を有することを実証した。また、このものはマイルドな条件下で海藻を想起する香気を有する長鎖アルデヒドに変換できることが分かった。(4)アオサ類に含まれる不飽和アルデヒド類を立体選択的に合成し、熟練したフレーバーリストにより香気評価を行った結果、これらは海洋系香料としての用途が広いことが分かった。
著者
林 巌 岩附 信行
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

我々の住む社会において,機械の振動,騒音,不快さといったNVHの分野における問題を解決し,人間にとって快適な居住空間を作り出すことが重要な課題となっている.しかし,機械から発生する騒音を最小にし,かつ心地よくリズミカルな音で機械の稼働状況を知らせる静音最適構造設計手法といったものがまだ十分に明らかにされていない.そこで本研究では,すずむし,こおろぎ,あるいはかんたんなどの鳴き声の美しい昆虫の翅の構造と発音メカニズムを工学的に解明するため,昆虫の翅の構造の精密測定と振動モード解析を行い,そしてその結果を工学的に静音最適設計へ応用するため,平板を対象として厚さを局部的に変更し,またいくつかの編み目パターンを掘り,発生する振動モードおよび音のコントロールについて検討した.本研究で,得られた結果は以下の通りである.(1)昆虫の翅の構造の精密測定こおろぎの翅をプラスチックでモ-ルドし,微少量ずつ削り出し断面を写真撮影する方法により,翅脈のため凹凸が激しい翅の形状を精密に測定でき,翅脈は波板状の構造であることが分かった.(2)昆虫の翅の振動モード解析(1)で測定したデータから,こおろぎの翅の有限要素モデルを作成し,翅脈の端にある翅と胴体の付け根,およびこすり器にたいして種々の境界条件を与え振動モード解析を行った結果,こおろぎの鳴き音の主成分の周波数に一致する固有振動数は見られなかったが,音に寄与している振動モードを確認することができた.(2)編み目模様をもつ平板の振動モード特性局部的な厚さの変化を含む編み目パターンをもつ平板の実験モード解析を行った結果,編み目による固有振動数および振動モードの特性を明らかにすることができ,編み目の変更による音響放射パワー最小化のための検討を行った.
著者
遠藤 正之
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1 制吐薬オンダンセトロンとメトクトプラミドのモルモット乳頭筋活動電位に及ぼす影響近年心筋活動電位第三相を形成する遅延整流カリウム電流の抑制がリエントリー型の不整脈に対して抗不整脈作用を発揮するのであるが、逆にその作用により致死的不整脈が誘発されることが明らかとなり注目されている。5-HT3受容体遮断薬であるオンダンセトロンとドパミン受容体遮断薬であるメトクトプラミドはいずれも術後の制吐剤として使用されるが、オンダンセトロンはイヌの心室筋細胞で遅延整流カリウム電流を抑制することが示されている。そこでモルモット乳頭筋の活動電位に対する両薬物の作用を検討した。その結果オンダンセトロン3uMおよび10uMは刺激頻度0.2,0.5,1.0,2.0Hzのいずれにおいても90%再分極における活動電位持続時間APD90を、濃度依存性に延長した。一方メトクトプラミド3uM、10uMは同様の刺激頻度において、APD50,APD90に対し明らかな延長作用は示さなかった。2 炭酸水素ナトリウムのモルモット乳頭筋活動電位に及ぼす影響心肺蘇生時にはしばしば大量の炭酸水素ナトリウムが、代謝性アシドーシスの補正のために投与されるが、本科学研究費に基づく研究で、炭酸水素ナトリウムがモルモット乳頭筋のAPDの延長と静止膜電位の過分極を生じることが明らかになった。種々の薬物を用いた検討から、APDの延長にはナトリウムイオンの増加が、過分極には炭酸水素イオンの増加が関与していることが明らかになってきている。3 冠動脈血流量に対する二酸化炭素分圧の影響冠動脈攣縮等による心筋虚血も麻酔中の致死的不整脈を誘発しうる。本研究ではモルモットLangendorff心を用いて、定圧潅流を行い冠潅流量を測定した。潅流液中の二酸化炭素分圧を40mmHgから80mmHgに上昇させると、血管内皮依存性に一酸化窒素の作用を介して潅流量が増加した。一方二酸化炭素分圧を20mmHgに低下させると、潅流量は約10%減少したが、一酸化窒素合成酵素阻害薬を前処置しておくと、その減少は増強された。
著者
笠原 清志 白石 典義 木下 康仁 田中 重好 唐 燕霞 門奈 直樹 中村 良二
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今まで、中国に進出した日系企業では、比較的安定した労使関係が維持されていたが、反日デモ以降当局が厳しい締め付けをしているにもかかわらず、広州、大連といった地域では、大規模な労働紛争やストライキが発生している。2005年10月から翌月にかけて、中国に進出した日系企業の労使関係に関する調査を実施した。調査対象は従業員二百人以上、日本側の出資比率51%以上の日系企業829社(住所変更その他による返送23社を含む)で、有効回答は213社であった。これによると、日系企業の22.1%がストを経験し、主に「賃金や賞与問題」(74.5%)、「雇用問題」(17%)が原因だった。ストの長さは半日以内が34%、一日が38%と比較的短期間で解決している。この間、ストの際に、工会は問題解決に「大変協力的であった」(12.8%)、「協力的であった」(27.7%)と、日系企業の責任者は、工会活動を一般的には高く評価していることがうかがえる。中国では、工会とは関係ないところで突発的にサボタージュやストが発生するという特徴があり、その解決に工会が経営側と一緒に対処しようとする傾向にある。今回の調査でも、工会主席の83%は上・中級の管理者が兼務しており、そもそも一般の労働者の利害が十分に反映されるメカニズムにはなっていない。一定数の党員がいる組織では、外資系企業でも党支部や委員会の設立が党や政府の方針になっている。党支部や委員会は経営には全く関与しないのが建前だが、行政との交渉や企業内でトラブルが生じれば、党書記は公式、非公式を問わず何らかの形で関与する。今後、社会主義市場経済の下で独自の中国的労使関係を確立していくには、欧米型の対決型労使関係モデルよりも、日本的な協調型労使関係モデルが参考になるであろう。すなわち、日本の労使関係で確立してきた「事前協議の徹底」、「雇用維持の努力」、そして「成果の公正な配分」といった慣行やシステムが、工会の労組化に大きく貢献すると思われる。
著者
土屋 由香 戸澤 健次 貴志 俊彦 谷川 建司 栗田 英幸 三澤 真美恵
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

冷戦初期(1950年代を中心に、1970年代初めまで視野に入れて)に、米国の政府諸機関-国務省、陸軍省、広報文化交流庁(USIA)、中央情報局(CIA)など-およびそれらに協力した民間部門-一般企業、ハリウッド映画業界、財団、民間人など-が行った対外広報宣伝政策について国際共同研究を行った。米国側の政策のみならず、韓国、台湾、フィリピン、ラオスにおける受容の問題も取り上げ、共著書『文化冷戦の時代-アメリカとアジア』(国際書院、2009年)にまとめた。
著者
佐々木 衞 聶 莉莉 園田 茂人 伊藤 亜人
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1,研究の目的中国朝鮮族家族の移住と定住、そして民族的アイデンティティの自覚とエスニシティの形成を、大都市に移住した家族と個人を対象に研究調査した。調査実施地は、北京、青島、上海、深〓および韓国ソウルであった。2,調査概要主な調査内容は次のものであった。(1)都市に居住する中国朝鮮族の移動と就業状況について、政府機関や報道機関および大学に勤務するもの、私営企業家、都市に出稼ぎに出てきている家族を訪問し、インタビュー記録を整理した。(2)韓国ソウルでの海外出稼ぎ者に対する訪問調査とその支援組織の活動を調査した。(3)延辺朝鮮族自治州創立50周年記念事業、青島における中国朝鮮族の運動会、朝鮮族学校など大都市における民族的な文化活動を調査した。3,調査から得られた暫定的な知見(1)都市への移動者(1)都市への移動は学歴・職歴が鍵になっている。大学卒業者もしくは軍隊経験者は、新しく企業を始めるにも文化的な資原を経済的な資源に転換している。これに対して、一般の地方出身者の多くは雑業層に就く。(2)「運動会」の挙行は、移住地にあらたな絆と凝集を構成する機会を提供している。(3)出稼ぎ者が集住する地域は、アメリカ社会学のシカゴ学派がtransition zone(推移地帯)と見なす地域である。(2)家族・親族の絆の再構成(1)同郷・親族ネットワークが相互支援のために不可欠の役割を果たしている。(2)誕生日や還暦の祝いが活発になっているが、家族における儒教的構成原理を状況主義的に再構成している。(3)エスニシティの構造(1)朝鮮族が「故郷」としての北朝鮮から自立的な立場を確立し、また、中国で生きる手段として中国語の習得を選択しているが、これらは「脱朝鮮族」の傾向を生んでいる。(2)他方では、朝鮮族であることが、韓国チャンネルとの接点を作り経済的な新たなチャンスとなっている。韓国にたいして「同胞」としての優遇を期待することも強くなっている。(3)中国朝鮮族としての自覚が高まっているとすれば、一種の「再朝鮮族」を見ることもできよう。4,これからの展開以上の研究成果をふまえて、論文集の刊行を計画している。
著者
小出 哲士 北川 章夫 若林 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,ディープサブミクロンVLSIチップのレイアウト自動設計に注目し,ディープサブミクロンVLSIチップの実用化と共に顕著になってきた回路のパフォーマンスの考慮,ハード・ソフトマクロブロックの考慮,及び設計時間の短縮,等の問題を解決するための以下の新しいレイアウト設計手法を開発した.1.パフォーマンスを考慮した回路分割手法の開発回路のパフォーマンスを最適化するために,論理合成後に行われる回路分割において,回路のパス遅延を陽に考慮した回路分割手法を開発した.2.パフォーマンスを考慮したフロアプランニング手法の開発ハード・ソフトマクロを取り扱うフロアプランニングにおいて,バッファ挿入と配線幅調整を考慮した概略配線とフロアプランニングを実用的な計算時間で同時に求める手法を開発した.3.パフォーマンスを考慮した配置手法の開発タイミングを考慮したクラスタリングと新しい配置モデル(アメーバモデル)に基づくタイミングドリブン配置手法を開発した.4.パフォーマンスを考慮した配線手法の開発6層以上の配線層に対して,配線幅とバッファ挿入を考慮したスタイナ木生成アルゴリズムを用いて,与えられたタイミング制約を満たす概略配線経路を階層的に求める手法を提案した.5.パフォーマンスを考慮した階層的バッファブロックプランニング手法の開発チップ領域をグローバルビンに分割し,タイミングを考慮したバッファブロックプランニングを階層的に行う手法を提案した.6.パフォーマンスドリブンレイアトに対する適応的遺伝的アルゴリズムの適用エリート度に基づく適応的遺伝的アルゴリズムを提案し,レイアウト設計手法に適用した.また,高速化のためのLSI化を行い,パフォーマンスドリブンレイアウト手法の数10倍の高速実行の見通しを得た.
著者
小松 幸平 森 拓郎 北守 顕久 荒木 康弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

CO_2を長期間固定する方法として、戸建て住宅や大規模な公共建築物を全て木造建築とすることは有効な方法であり、既に2006年に「木造低層公共建築物を促進させる法律」が施行されている。本研究はこの法律に沿って、高強度・高剛性、そして大地震にたいしても崩壊せず地震後に現状復帰可能な木造ラーメンフレーム構造を戸建て木造軸組構造住宅から3階建て大規模集成材構造建築物に至るまで安心・安全に適用できる技術を開発したものである。
著者
長谷川 浩二 尾野 亘 森崎 隆幸 米田 正始 平家 俊男 森崎 隆幸 米田 正始 平家 俊男
出版者
独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

心不全のより根本的治療を確立するためには、心筋細胞情報伝達の最終到達点である核内の共通経路を標的とした治療法を確立する必要がある。我々は内因性ヒストンアセチル化酵素(HAT)活性を有するp300とGATA帳写因子群の窃力(p3O0/GATA経路)が心不全発症における遺伝子発現調節に極めて重要であることを示した(Mol Cell Biol 2003; 23: 3593-606、Circulation 2006: 113: 679-90)。本研究においては、p300によるGATA4のアセチル化部位を同定し(J Biol Chem. 2008;283:9828-35)し、またp300の特異的アセチル化阻害作用を持つクルクミンが心不全の進行を抑制することを高血圧性心疾患ならびに心筋梗塞後の2つの慢性心不全ラットモデルにおいて証明した(J Clin Invest 2008;118:868-878)。一方、心筋細胞の脱落が激しい末期心不全の根本的な治療には心筋再生療法が必須である。我々は、多分化能と無限増殖能を持つ胚性幹(ES)細胞において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)による刺激が、ヒストンや転写因子GATA4をアセチル化し、心筋分化効率を著名に上昇させることを見出した(J Biol Chcm 2005; 280: 19682-8)。本研究においては、マウス胚性幹(ES)細胞においてCyclin dependent kinase (CDK) 9が転写調節因子GATA4と結合し、その分化に関与していること(2007年11月, American Heart Association にて発表)、ES細胞の分化過程で発現が上昇するmiRNA-1がCDK9の翻訳抑制を通じて心筋分化を負に制御しているという新たな知見を得た(Circ J in press)。ES細胞と同様の多分化能と無限増殖能を持つ人工多能性幹(iPS)細胞において心筋分化システムを確立し、iPS細胞の株間には大きな分化効率の差異が存在すること、心筋分化効率が極めて低いiPS細胞株でもTSAにより、著明に心筋分化が亢進することを見川した(2008年Rcgenerative Medicine & Stom Collで発表)
著者
中谷 正生 飯尾 能久 小笠原 宏 佐野 修 山内 常生
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

断層の滑り摩擦の絶対値を知るために、来るべき地震の断層のすぐそばに精密温度計のアレーを設置するという世界で初めての観測を行った。南アフリカの金鉱山に、地下3kmでの採掘活動が大規模な地質断層のそばで行われているところがある。我々は、この地点で長さ30m程度の多数のボーリングを行い、コアと、孔内ビデオ映像の詳細な解析により、厚さ20mを超える複雑な断層帯の構造を三次元的に描きだした。その結果、断層帯の片側と母岩の境界の厚さ10cm程度の部分だけが、損傷が激しく、際だった弱面になっていることが見出された。この構造は面をつらぬくボーリング孔がカバーする全範囲(10x10m程度)にわたって連続しており、また、相当に平面的であった。この面を中心に、距離1m以内に多くの温度計を設置することができた。断層帯は、主に母岩の砕屑物が固結した岩石でできていたが、その中で面構造を示す部分はごくわずかであった。数センチの厚みで、剪断の集中による葉状構造が観察される所は他にも数カ所あったが、先に述べたものだけが、ぼろぼろの状態で、全ての掘削孔で、この面を通る部分だけ、壁の材質がリング状に失われていた。連続観測された温度データは非常に安定で、この鉱山で発生が期待されるM2-3クラスの地震が、上述の弱面で起こった場合、その滑り摩擦強度が、実験室から予想される値の1/10程度でも、測定することができるほどである。これは、いわゆる地殻応力問題で取りざたされている断層強度の範囲の全域をカバーできていることになる。地震によって起こった発熱による周辺岩盤温度の時間変化をみるこの観測では、地震後1ヶ月ほどのデータが必要だが、地震の被害を受けやすい断層直上での観測であるため、地震後に観測機器にアクセスできなくなる可能性もある。そのため、データの収録、伝送、電源供給方法は無線を含めた多重化を行った。
著者
小杉 康 佐々木 亨 橋本 雄一 鈴木 正章 瀧川 渉 山崎 京美 富岡 直人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「噴火湾北岸縄文エコ・ミュージアム」の基本計画を作成し、小幌洞窟遺跡、有珠6遺跡の発掘調査による学術成果に基づいて、それぞれの遺跡をサテライトとして整備して、コア・ミュージアムを開設した。
著者
岩岡 中正 首藤 基澄 吉川 榮一 谷川 二郎 中村 直美 中山 將
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、[I]人間社会基礎論研究と[II]比較地域論の二方向から、近代(化)の検証と今日的意義およびその普遍化可能性について考える。[I]の(1)の哲学・倫理学・美学部門では、近代の主観主義的人間観の射程の研究(中山)、個人主義概念の基礎的研究(岡部)、自由主義的人間観の限界と地球全体主義の提唱(篠崎)が、(2)の法哲学・政治学部門では、近代リベラリズムにおける自律概念の研究(中村)、脱近代パラダイムの視点からの、「普遍」としての「近代の研究(岩岡)、アレント研究を通しての、政治的アイデンティティの研究(伊藤)が行なわれた。[II]の(1)の「英米における近代化」では、16世紀の英語の語彙の近代化の研究(上利)、シェイクスピアの戯曲における英国近代化の萌芽の研究(谷川)、19世紀英国小説に見る労働者と近代化の影についての研究(大野)、アメリカ小説に見る、コマ-シャリズムという近代化の悪き側面についての研究(里見)、さらに(2)の「アジアにおける近代化」では、祭元培の人権意義の非西洋的由来に見る中国近代化の特殊性の研究(吉川)、夏目漱石と芥川龍之介における日本近代化の理念の比較研究(首藤)、国民国家的視点からの日本近代化の研究と近代化論の批判的考察(小松)が行なわれた。通算13回の研究発表会と11回の研究打ち合わせ会から、以下の視点を得た。つまり、[II]グループの研究から、今日、単線的進歩の近代化論は受け入れられず、西洋も含めて世界の諸地域が多様な近代化をとげてきており、したがって近代化の一義的普遍化は困難であること、しかし他方、[I]グループの研究が示すように、やはり現代社会には「近代」に共通の普遍的な成果と問題点およびその克服の試みがあるという認識に立って、地域的な多様な近代化における個別性と、真の近代がめざす「人間の善き生」という普遍性をどう止揚するかという視点の重要性を確認した。この視点から今後さらに近代についての研究を進めたい。
著者
田仲 浩平 塚本 寛 田仲 浩平 塚本 寛 福富 純一郎
出版者
徳島文理大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

研究では,血液ポンプに対し水圧変化および管路抵抗の変化,また血液ポンプ回転数の周期変動試験を組み込んだ自動負荷試験機を開発し,生体の循環動態同様の機械的な負荷能力の機能を確認することにある.開発した試験機については,疑似血液,拍動成分,コンプライアンス管などの追加と生体循環に近似した病態プログラムの機能を付加し,血液試験や動物実験回数を減少させつつ,多様な血液ポンプ類の特徴を明らかにし評価することが可能である.
著者
八神 健一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、パルボウイルス非構造タンパク(NS)がTリンパ球にDNAメチル化を誘導し、アポトーシス抵抗性や細胞増殖性等の形質変化を起こすことを明らかにし、in vivoにおいてNSの発現によりコラーゲン誘導性関節炎の発症率への影響を検討した。NSを発現させたマウスTリンパ球は大半の細胞がアポトーシスにより死滅したが、生存細胞ではDNAメチル化の亢進によりBmperの発現が抑制され、ウイルス再感染抵抗性を獲得することが明らかとなった。また、NS発現ベクターを接種したDBA/1マウスにコラーゲン関節炎を誘導したが、その発症率は対照群との間に有意な差は認められなかった。
著者
白川 仁 駒井 三千夫 後藤 知子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高等動物の組織内で変換・生成されるビタミンK(メナキノン-4、以下MK-4)の変換機構と生理的意義の解明を目的として、MK-4の新しい作用(抗炎症効果、性ホルモン産生調節)とビタミンK3からMK-4への変換の分子機構を解析した。MK-4処理によって炎症シグナルを仲介する分子の活性化が阻害され、性ホルモン産生を活性化させるリン酸化酵素の活性化が明らかになった。また、MK-4変換には昨年報告のあった酵素の必須性が再確認された。
著者
佐藤 忠信 小長井 一男 堀 宗郎 澤田 純男 本田 利器 盛川 仁 張 至鎬 濱田 政則
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、エジプト側研究協力者が主体となりナイルデルタを取り巻く地震活動資料の収集を行った。また、過去に発生しカイロ市に被害を及ぼした地震の断層破壊過程を明確にするとともに、将来発生する地震のシナリオを作成した。日本側研究分担者はエジプト側研究者の協力の下にカイロ市を取り巻く地域の詳細な地盤調査の資料収集を行った。収集した資料の内容は以下のようである。1.ボーリング調査(PS検層、サンプリングを含む)と室内試験2.微動調査および屈折法探査(板叩き)による地盤構造調査3.重力異常による深層地盤調査4.RI(ラジオ・アイソトープ)コーン貫入試験による浅層地盤物性調査さらに、得られた資料からカイロを含むナイルデルタ地帯の地盤構造をモデル化するとともに、エジプト側の研究協力者と共同して、ナイルデルタ地帯の地震危険度マップを作成した。特に、今年度は最終年度であるので、平成18年9月にエジプト国立天文台・地球物理学研究所を研究分担者全員と研究協力者1名の合計6名で訪問し、研究の途中経過発表会をエジプトで開催するとともに微動観測点の選定を行なった。また、カイロ内の特定構造物の耐震性能を評価するために用いる動的解析用の入力地震動のシミュレーション方について議論した。特定地点を選定し微小地震の観測を継続するためのプロジェクトを立ち上げた。そのために必要な予算措置をエジプト国家地震局に申請すると共に、エジプト国立天文・地球物理学研究所の地震観測網を利用してナイルデルタにおける微小地震活動を評価した。
著者
小佐野 重利 京谷 啓徳 諸川 春樹 浦 一章
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

北イタリアのヴェローナ市とその近郊に残る14-16世紀の壁画と美術館や公私収集に所蔵される板絵作品のうち、ヴェローナ地方画家たちの活動に関連する作品の写真撮影調査を行ない、特に、少なくとも13人の画家と1人の木彫家を輩出した芸術家一族バディーレ家に関する包括的な研究を実施した。報告書では16世紀中葉からヴェネツィア派絵画の巨匠となるパオロ・カリアーリ、通称ヴェロネーゼを誕生せしめたヴェローナの約2世紀に亙る絵画史研究にとり基礎的な資料となる成果を刊行する。写真撮影されたのは、ヴェローナ内外の12聖堂の壁画、ヴェローナ市立カステルヴェッキオ美術館所蔵のバディーレ一門の作品と1財団と1個人の所有する板絵である。それに基づく成果として、ヴェネツィア大学セルジョ・マリネッリ教授のバディーレ一族に関する包括的検討にはじまり、ヴェローナ市内サン・ピエトロ・マルティレ聖堂とサンタ・マリア・デッラ・スカラ聖堂のバディーレ一門に関する論考を小佐野重利、郊外ではブッソレンゴのサン・ヴァレンティーノ聖堂身廊壁画、エルベのサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂アプスの壁画、ティーネの教区聖堂サン・ヴィンチェンツォ聖堂内陣壁画について、それぞれ論考を諸川春樹、小佐野重利、京谷啓徳が執筆し、ヴィチェンツァ大聖堂およびナントの2新出壁画の修復中間報告をヴェネト地方歴史美術文化財局監督官キアラ・リゴーニが公刊する。研究資料編として、浦一章によるジョヴァンニ・バディーレ関連古文書の一部邦訳と解題のほか、現場での調査記録および撮影写真の目録を掲載する。新知見については、小佐野がイタリア語論文をVerona Illustrata, No.16(2003),pp.13-16にも掲載した。
著者
杉本 恒美
出版者
桐蔭横浜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

超磁歪振動子を用いて浅層地中内に時間的に周波数を変化させたチャープ波を発生させ、受振波形にパルス圧縮法を適用することで分解能の飛躍的改善を図った。最初にシミュレーションにより期待される分解能の検討を行なった後、実際に屋外で確認実験を行なってシミュレーションと同等の分解能が得られることを確認した。従来のハンマー法による分解能約50cmと比較すると約半分以下の約20cmの分解能を実現することが出来た。
著者
平田 大二 新井田 秀一 山下 浩之 田口 公則 笠間 友博 小出 良幸
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.自然史リテラシーの育成を目指した学習プログラムの開発と実践自然を総合的、能動的にとらえ、自然に接する能力や態度をもつことができるような自然史リテラシー育成の取り組みを行うとともに,市民の自然に対する知的好奇心と知的ニーズに応えるため,「誰もが,いつでも,どこでも,いくらでも」利用できる学習システムの運用と実践を行った.さらに地域の自然と実物標本からなる各種データベースの構築し、ネットワークを活用した自然を理解するための学習プログラムを展開した。2.インターネットを活用した人と博物館のネットワークの構築遠隔地の博物館同士、あるいは博物館と利用者とが相互交流できるインターネットを活用した双方向型ネットワーク・システムの構築し、実践と評価を行った。また、小中学校における授業や課外活動での連携、博物館活動におけるボランティアや友の会との連携などの活動を展開し、児童生徒から社会人、研究者まで多様な階層を交えたネットワークの構築を試みた。3.データベースの拡充すでに公開しているデータベース「地球のからくり」、「神奈川の大地」、「地球地学紀行」、「人と大地と」に加えて、神奈川県および周辺地域を対象とした地球科学分野のデータベース(DB)「神奈川の地球誌」の構築を進めた。さらに火山灰DBと神奈川の川DBの構築、地球科学文献DB、丹沢山地の地形・地質DB、航空写真DB、の補完、愛媛県西予市城川地質館と周辺地域を対象とした地形地質DBの補完を行った。
著者
新庄 文明 川崎 浩二 林田 秀明 吉田 治志 久保 至誠 久保田 一見
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

N県下の歯科保健に関する地域格差や課題を明らかにするため、4つの調査と分析を行った。(1)受療調査:全歯科診療所における平成16年7月第2火曜日の受診者全数17,117人(女性57%)の年齢区分は小学生相当年齢に最初のピークがあり、55-64歳が最大であった。訪問診療は1.2%を占めたが、全受診者の25%が受診した県庁所在市19地区のうち3地区、および別の1市が全訪問診療の75%を占めており、これらの地区で訪問診療が全診療に占める割合は、11%、2.4%、1.3%、3%と、特定の地区で集中的に実施されていた。(2)歯科医師の活動調査:県歯科医師会全会員を対象とする保健活動の実情調査では、回収数25%の時点で訪問診療実施経験なしが22%、52%は訪問診療のみを実施、26%が居宅療養管理指導、摂食機能療法などを併せて実施していた。(3)幼児の生活とう蝕の関連:3歳児う蝕有病者率を市町村別にみると離島、および島原半島南部が有病率が高く、また、「近隣に歯科医院がある」、「できるだけ遅くまで甘味食を与えない」という回答者の多い地区では、う蝕有病者率が低かった。(3)離島住民の口腔保健:平成14年〜16年に離島で歯科健診を実施した1343人の約4割が未処置う蝕、15%が2本以上の未処置う蝕を有し、年齢差はなかった。65歳以上の3割以上が義歯を必要としつつ義歯を使用せず、歯が原因で不快な思いをしたことのある人の割合は歯数が少ないほど多かった。(4)児童相談所健診:N県下2箇所の児童相談所において、平成16年5月下旬以降の被虐待児を含む一次保護対象者の口腔診断査を行い、10月までの対象者70名の41%に未処置歯あり、20%に痛い歯があり、14%は「歯で困った時、我慢する」と回答した。以上の結果より、離島や歯科医療の希薄な地域、保健習慣不良、被虐待児など重点的に取り組む対象者がうかびあがり、訪問診療などの実施状況にも地域格差のあることが明らかとなった。