著者
田口 正樹
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

今年度は、前年度に収集した「ドイツ・スイス中世書庫カタログ」と「オーストリア書庫カタログ」の分析を継続するとともに、これらの史料集の刊行以後に公にされたデータやこれらがカバーしていない地域についても情報を収集し、あわせて考察を試みた。調査から浮かび上がった中世後期の学識法蔵書の姿は多様であり、一般的な言明は容易でないが、全体として見ると1450年ごろに変化が生じたように思われる。それ以前は、書庫の所在、蔵書の保有者、蔵書の内容などすべてにおいて教会的性格が顕著であり、法学文献の中心は教会法で、かなりの数見られるローマ法文献もそれと結びつく限りで現れる。蔵書目録の中には、金印勅書や助言学派の助言文献を教会法文献として分類する例もある。一方、1450年以後になると、いくつかの都市で都市参事会の書庫が確立しはじめるとともに、俗人の蔵書も知られるようになり、ローマ法文献の数も以前より増えてくる。またこの時期には、活版印刷術の発展ともおそらく関係して、都市や教会が新たに法学文献の入手を積極的に行う例がいくつか見られる。こうした動きは16世紀にも継続されていき、それまで学識法と最も縁遠かった下級貴族のもとでも、学識法文献が見いだされるに至るのである。以上の整理は、上記史料集がカバーする南・中ドイツだけでなく北ドイツでもおおよそ妥当するように思われる。一方、ドイツ以外の地域としてベルギーの状況と比較すると、ベルギーの方が、ローマ法文献がより早くから豊富に所在するように見えるが、この点はなお詳しい分析を要する。また、法学文献の利用状況を示す史料を余り多く見いだせなかったため、文献の所在とは別にその利用を詳しく解明することは課題として残った。
著者
福澤 仁之 安田 喜憲 町田 洋 岩田 修二
出版者
東京都立大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

すでに入手済みの福井県三方五湖水月湖における過去15万年間の年稿堆積物コアおよび鳥取県東郷池における過去5万年間の年稿堆積物の観察および記載を行った.その結果、1年毎に形成される年稿葉理(ラミナ)と、地震による津波や乱泥流によって形成される厚い葉理を分離し識別することが可能となった.地震による葉理はその前後の年稿に比べて、層厚が厚く粒子比重が大きいことが特徴であり、分級化構造も認められる.また、水月湖の場合には、氷期の葉理は1年に2枚の暗灰色葉理が認められることがあり、この暗灰色薄層は夏期と冬期の菱鉄鉱濃集層である.すなわち、氷期における水月湖は冬期に氷結して垂直循環が停止した可能性がある.一方、東郷池にはこのような冬期の暗灰色葉理が認められず、冬期に氷結しなかった可能性が高い.これらの事実は、湖沼の年稿堆積物を用いて編年を行なう際の留意点を示しており、今後、放射性炭素年代の測定を行なって、これらの仮定を裏付ることが是非必要である.一方、これらの年稿堆積物に含まれる風成塵鉱物の同定および定量を行って、次のことが明らかになった.1)中国大陸起源の風成塵鉱物の一つであるイライト(雲母鉱物の一種)の結晶度は、最終氷期の最寒期(ステージ2およびステージ4)において最も良好になるが、最終間氷期(エ-ミアンすなわちステージ5)においては最も不良になる.ただし、エ-ミアンの中ではほとんど結晶度の変動は認められなかった.2)イライト堆積量の変動についてみると、氷期には多いが間氷期には少ない.しかも、年稿との対比から、その変動は数年単位で急激に変動していることが明らかになった.これらの事実は、氷期から間氷期へあるいはその反対の移行期に、中国大陸へ湿潤な空気をもたらすモンスーンと、日本列島周辺に風成塵をもたらす偏西風の強度が数年間で急激に変動したことを示しており、その変動現象は注目される.
著者
伊藤 谷生 宮内 崇裕 金川 久一 伊勢崎 修弘 佐藤 比呂志 岩崎 貴哉 佐藤 利典
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は本研究の最終年度であるため、2000年9月に行われた日高超深部地震探査結果の解析を行い、日高衝突帯の超深部構造を明らかにする糸口を見つけだすことが中心的課題であった。このため、年度の前半は、探査結果解析のための前処理を千葉大学所有の反射法処理システムを用いて行い、後半は、新たに導入した汎用地震探査処理システムSuper XCを用いて解析作業を進めた。また、この作業と平行して、測線周辺の地質調査を行った。これらを通じて明らかになったことは以下の点に要約される。1)日高主衝上断層(HMT)は低角であり、しかも地下2km程度でほとんど水平になる。これは、変成岩類主帯の構造から推定されてきたことと調和的である。2)TWT14秒付近に顕著な反射面群として把握されているものは、自然地震の震源分布との対応関係から太平洋プレート上面と推定される。3)デラミネートした千島下部地殻下半分のイメージは現在までの処理過程では把握されていない。その理由としては、高角なためイメージングできない、破砕されているため地震波が散乱し反射面を形成できない、エクロジャイト化して上部マントルと区別できない、の3つが考えられるが、1つを特定できない。4)東北日本側のウェッジにも顕著な反射面が認められ、当初考えられていた単純なデラミネーションーウェッジモデルよりも複雑な"刺しちがえ"構造の存在が碓定される。5)イドンナッブ帯中の冬島変成岩類の西縁断層は衝上断層である。6)日高超深部地震探査と平行して行われた遠地自然地震のレシーバ関数解析についての予察的研究によれば、4)に対応するインターフェースの存在が確認される。これまでの解析は最もベーシックな段階であるにもかかわらず、日高衝突帯超深部構造解明の糸口を与えるものである。今後の木格的な処理作業によって、解明へ大きく前進するであろう。
著者
横堀 学
出版者
北里大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

モルモット咽頭粘膜および輪状咽頭筋におけるニューロペプチドの動態に関する研究において定量的評価方法の手技の獲得ができた。また形態学的に免疫染色を用いて咽頭粘膜組織上のspの染色、および染色されたspの定性的評価方法について検討し。
著者
大森 正之 石岡 憲昭 東端 晃
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

宇宙環境下での光合成活性の測定を目指して、宇宙実験用にJAXAにより開発された全自動型微細藻培養装置を用い、藍藻スピルリナ(Arthrospira platennsis)を実験材料として地上での準備研究を行った。スピルリナは6日間の培養により、クロロフィル量では約9倍、タンパク質量にして約9倍に増加した。光合成活性は、酸素の発生量およびH218Oから発生した酸素の同位体比の変化、また13Cの取り込み量により測定した。その結果、光合成活性が高い精度で測定できることが実証された。宇宙利用を想定したナノバブル水は、ハンドミキサーで作成できた。ナノバブル水は藍藻Anabaenaの増殖を促進した。
著者
加藤 耕一
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、農村舞台の保存・活用の実態調査およびその方策を示すことを目的としている。今年度は、3ヵ年計画の初年に当たり、農村舞台の保存・活用に関する基礎調査を中心課題とした。基礎調査は、舞台建築の実測調査および使われ方のヒアリング調査からなり、調査対象地域としては、徳島県を中心としているが、舞台形式に関連性のみられる淡路島(兵庫県)を補足的に踏査した。調査の結果、徳島県に農村舞台が112棟現存していることを確認した。加えて、舞台機構または舞台装置の仕掛けに関して重要と思われる農村舞台(今山、小祖谷、拝宮、府殿、法市)については、復原のための実測および痕跡調査を行い、小祖谷と法市の両舞台が仮設舟底舞台形式(多目的な平舞台から人形芝居専用の舞台形式である舟底舞台へと転換する舞台形式)であることを明らかにした。また、これらの農村舞台調査と並行して、「小屋掛け舞台」と呼ばれる仮設式の舞台を調査した。小屋掛け舞台は吉野川流域および淡路島に分布しており、悉皆的調査には及んでいないが、比較的保存状態のよい小屋掛け舞台の部材を実測し、痕跡調査と併せて組立て方法の聞き取りを行い、小屋掛け舞台の構造および仮設工法を明らかにした。本研究では、地域の人々との共同作業を通して、地域から人的組織を掘り起こし、活用支援のための人的ネットワークをつくることを基本理念としている。平成15年度は、研究者・建築家などの専門家や一般市民らとともに、農村舞台活用支援団体「阿波農村舞台の会」の設立に参加し、組織的に農村舞台調査、保存・活用方法の検討、支援活動をはじめた。平成15年9月22日に復活公演を催した法市農村舞台では、調査および住民への調査報告・説明会を本研究により行い、舞台の修復・復原や公演企画などの作業を、地域住民と阿波農村舞台の会、教育委員会との連携で取り組んだ。
著者
持田 諒 三宅 茜巳
出版者
岐阜女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

岐阜県には地歌舞伎保存会が28座ある。研究代表者は、30年に亘る人間国宝を中心とした歌舞伎・文楽等伝統芸能の舞台監督体験を踏まえ、地芝居及び芝居小屋の現状調査を2006年から2008年の3年次に亘って実施した。又、それらを支える技術職人が数年にして他界していくことも痛感、一人の職人に秘められた時代層も同時に消滅することを痛感した。調査に当たっては古老の聞き書き、映像収録を重視し後世の生きた教材とした。又、未調査の〓殿型農村舞台の撮影、実測も実施した。
著者
安田 徳子
出版者
岐阜聖徳学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

各地の地芝居に伝承された古台本はそれぞれの歴史と特徴をよく伝えているので、本研究では、出羽・赤城山麓・伊那谷・東濃・三河・小豆島の地芝居を対象として古台本の調査を行い、ほとんどの地芝居が江戸時代後期から明治初期までに上方系の旅役者によって伝えられたこと、その後も旅役者が地芝居に濃密に関わってきたことが明らかとなった。江戸系の台本も多少はあるが、明治以降の流入である。地芝居は義太夫芝居の奉納が根底で、浄瑠璃本を台本として伝える地域も多い。
著者
赤尾 勝一郎 佐伯 雄一
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

植物体内に生息する窒素固定細菌は窒素固定エンドファイトと呼ばれている。窒素固定する植物は根粒菌の共生するマメ科植物とフランキアの共生する十数種の植物に限られている。しかし、ブラジルにおいて、20数年前、サトウキビの中には根粒構造を伴わない共生窒素固定系の存在が示された。窒素固定エンドファイトの生息するサトウキビの中には60〜70%の窒素固定寄与率を示す場合のあることが報告された。その寄与率はマメ科植物-根粒菌の共生系に匹敵する。また、窒素固定エンドファイトは、サトウキビの他にイネ、ムギ、ソルガムといったイネ科の主要作物、バナナ、パイナップル、チャなど、科を越える多くの植物種に内生することも明らかにされた。このことは、マメ科以外の作物にも窒素固定機能を付与することの可能性を示した。しかし、これを実現させるためには幾つかの解決すべき問題点がある。その中で特に重要なことは、有用菌の選抜と、植物体内への定着と増殖である。増殖と定着の指標には窒素固定量の把握が必須であり、本研究では、この3点を重点的に検討した。研究期間は平成16年から19年までの4年間であり、前半では、GFP標識のHerbaspirillum sp.の接種試験、サトウキビとサツマイモから単離した窒素固定細菌の同定と窒素固定活性の測定と、サトウキビとサツマイモから単離した窒素固定細菌へのGFPによる標識を試みた。後半には、GFP標識菌を利用した接種法の検討と、一定の生育期間を通じて窒素固定量を推定する方法を検討した。その結果、サトウキビから12菌株、サツマイモから27菌株の窒素固定細菌を単離した。供したHerbaspirillum sp.、Enterobacter sp.、Pantoea sp.に関する宿主特異性は認められなかったが、菌と植物種や品種との間には親和性の強弱が認められた。また、接種法としてはレオナルドジャーに植えた幼植物の地下部に10^8cells/mlの高濃度が高い効果を示したが、実用技術としては萌芽茎への接種を検討すべきであるとの結論を得た。
著者
安藤 昌也
出版者
産業技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、家庭環境で使用される家電製品などのインタラクティブ製品の製品評価が、どのような心理的構造によって行われるかを明らかにした。研究の結果、ユーザの製品操作の自己効力感と製品関与が製品評価に強く影響していることが分かった。また、長期利用の間には評価されるポイントが徐々に変化し、使用後1カ月では「ユーザビリティ」が、半年程度では「使う喜び」を感じるかどうかが評価の中心であることが示され、その評価は製品関与が強く影響していることが分かった。
著者
中谷 文美 宇田川 妙子 石川 登 今野 美奈子 宇田川 妙子 石川 登 金野 美奈子 松前 もゆる
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、日本、オランダ、イタリア、ブルガリア、マレーシアという5つの異なる社会において、広い意味での「仕事」をめぐる事象や社会通念が、それぞれの社会におけるジェンダー規範や政治的・経済的変化との相互作用の中で、どのように変容し、あるいは維持されてきたかという問題を比較・検討した。その結果、何が仕事で、何が仕事でないか、といった区分も含め、多様な労働観が各社会に存在すること、また急速な産業化、政治体制の変化、社会政策の展開などが、仕事の水準をめぐる規範や特定の労働の担い手などに変化をもたらす過程を明らかにできた。
著者
弘中 満太郎
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ベニツチカメムシの採餌におけるナビゲーションには,視覚情報が用いられ,キャノピーからコンパスの参照軸としてのギャップを選択することで成し遂げられる.本種は複眼における個眼の配置から,後方に視野としての死角をもつ.この死角に位置する視空間情報の優先順位を低くすることで,ギャップに重み付けをしていることを実証し,動物の空間情報選択システムが感覚情報処理系の制約に強く影響を受けること明らかにした.
著者
森藤 大地
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

統語知識の中でも特に,複文構造の獲得に焦点を当てシミュレーションを行った.英語において,複文には4種類の構造が存在する.これらの構造は,関係節によって修飾される名詞が,「主節内」および「関係節内」で主格または目的格のどちらの役割を果たすかという2つの要因によって生成される.複文の4つの構造に対する成人の理解度は異なっており,右分岐文の理解が中心埋め込み文に比べて容易であることが示されている.この理解の困難さの違いは,複文自身が持つ構造的な複雑さ,および言語環境における複文構造の典型性の2点から説明されている.また,最近の幼児における複文理解を調べた研究からも,複文それぞれの理解度は構造の典型性や頻度など言語刺激のもつ統計的な性質を反映していることが示唆されている.もし,この示唆が正しいものであるならば,統計的な性質を反映した統語獲得を行う能力を有するニューラルネットワークモデルに対して幼児が経験する言語刺激として尤もらしいコーパスで学習を行えば,人の示す複文理解を再現できると考えられる.尤もらしいコーパスとは,複文だけを含むのではなく,単文や等位接続文,分裂分や関係節修飾名詞句など多くの文構造を含むコーパスである.シミュレーションには,私達が提案した自己組織化マップを含む再帰的ニューラルネットワークを用いた.シミュレーションの結果,複文だけで学習したネットワークに比べ,単文や等位接続文を含む尤もらしいコーパスで学習したネットワークは,人の複文理解をよく再現し,構造による理解の困難さの違いを示した.この結果から,先行研究で示唆されているように,人の統語学習,特に複文学習は言語刺激の統計的性質を反映した形でなされること示した.
著者
小塩 允護 肥後 祥治 干川 隆 佐藤 克敏 徳永 豊 齊藤 宇開 竹林地 毅
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、国内外の知的障害のある人の生涯学習の展開について、法制度の変遷、文化的背景等の社会的要因、参加者及び保護者のプログラムに参加した経緯、これまで受けてきた支援や教育のヒストリー等、支援者の障害に関する認識とプログラムの内容等の個人的要因を検討し、わが国における知的障害のある人のために有用な生涯学習プログラムや支援方法等を開発することである。本研究の成果として,海外の生涯学習のプログラムの開発を行うための資料を整理し,生涯学習における支援プログラムの開発に寄与することができた。研究最終年次である平成18年度は、年度当初に研究協議会を開催し、3年間に得られた結果を整理し、報告書の項立てと執筆分担などを決めて、平成19年2月までに報告書を作成した。アメリカのシラキュウス地区では、シラキウス大学とシラキウス学区との提携で行われているオン・キャンパス・プログラムについて、プログラム参加者、支援者、企画責任者との面接調査を行った。また、障害のある人の自己権利擁護運動と生涯学習との関連についてシラキウス大学の研究者から情報収集した。イギリスのロンドン地区では、イギリスの自閉症協会が運営する自閉症学校2校(初等教育学校、中等教育学校)、ハートフォード州立の初等教育学校1校、特別学校2校(初等教育学校、中等教育学校)を実地調査するとともに、自閉症協会の教育部門責任者、自閉症協会運営の高機能自閉症に特化した就労支援機関(プロスペクツ)責任者、ハートフォード州教育委員会のスベシャリスト・アドバイザリー・サービス担当者との面接調査を行い、イギリスが推進する教育改革やインクルーシブ教育、自閉症協会が推進するSPELLに代表される支援理念が自閉症のある人の生涯学習を進める上でどのようなインパクトを持つかについて資料収集した。報告書では,知的障害のある人の成人教育の概略,北米における知的障害のある人の高等教育機関での生涯学習の展開,オーストラリアにおける知的障害のある人の生涯学習,フィンランドにおける特別ニーズ教育と障害のある人の生涯学習,ニュージーランドの知的障害のある人の生涯学習,イギリスにおける特別な教育的ニーズに応じる教育と生涯学習の項目で,分担執筆した。
著者
甲田 直美
出版者
滋賀大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

文彩を施された言語と,普段我々が"文法性"などということを意識しない透明な言語との対立点の整理,および事態の再現性に関わる文法的表現効果の可能性の追求を行った。現実世界から表現世界への移行の過程,つまり芸術や物語テクスト表現のもつフレーム,枠の特殊な組織の問題について整理した。テクストにおける再現性を考察する際に判別役となるのは,我々の日常の認識や体験性の制約からくる文法制約が創造的言語使用においては必ずしも守られないという点である。しかし,このような差異は,一談話領域に固定のものではなく,歴史記述や叙事的物語作品においても,語る視点が完全に排除されることはなく,感情や評価,文間の配列構成(因果関係や,注釈による),様態化作用を伴う発話主体標識によって,テクスト構成者による介入現象が起こる。視点の問題と再現芸術について,表現と表現されるものを有している芸術の諸形式と視点の問題は直接関連している。たとえば,「枠」の問題に固有の構成的側面,つまり芸術テクストにおける枠を表現する形式的方法は談話分析において「視点」の術語によって記されてきた。視点と関連して,出来事の記述を行う人物の空間・時間的位置(すなわち空間と時間の座標軸における語り手の位置の確定)の問題,構成の手法の整理を空間・時間のパースペクティブの面を中心に検討した。
著者
田中 開 井上 正仁 寺崎 嘉博 長沼 範良 池田 公博 笹倉 宏紀 井上 和治
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、主として治罪法以降の刑事訴訟関係立法や実務の運用に関する貴重な資料を、その散逸・滅失が危ぶまれる現時点において、収集・整理することが、現行法の解釈に際してのみならず、将来予想される刑事訴訟法の全面改正を検討するについても、有益と考えられることに鑑み、主として治罪法以降の刑事訴訟法典の立案・制定の過程、および、実務の状況を跡付けようとの意図のもと、実施されたものである。その結果、寺崎嘉博教授による、「任意処分と強制処分との区別について・再論」などの論稿が生み出され、また、井上正仁ほか編『日本法律学事典』(第一法規)および井上正仁・渡辺咲子・田中開編著『刑事訴訟法制定資料全集-昭和刑事訴訟法編(2)』(信山社)の出版作業が進行中であるなどの成果を得た。また、本研究では、単に歴史を振り返るにとどまらず、刑事訴訟法の基本原理・原則や基本問題について再考するとともに、現在進められている、また、今後進められるべき刑事手続の改革についても検討を行い、(1)刑事免責、(2)ハイテク犯罪関係立法、(3)証人保護、などに関し、一定の成果を公表することができた。3年間の研究の中において痛感したことの一つは、古く貴重な文献・資料をデジタル化などの方法により早急に保存することが緊急の課題だということである。折角、遠方の大学図書館に赴きながら、貴重な資料につき、保存上の理由から、複写ができなかったこともあった。また、第二次世界大戦中の空襲により貴重な立法資料が焼失してしまったこと、など、予期せぬ障害に遭遇することもあった。ともあれ、前述のような一定の成果が得られた。研究期間は満了したが、今後さらに、研究を深め、更なる成果の公表につとめたい。
著者
大和 毅彦
出版者
東京都立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

所有権が明確に定義されていないため共有地の資源が過剰に利用された結果,さまざまな社会的損失が生じる問題は「共有地の悲劇」と呼ばれる.本研究では,この重要な問題を解決するための社会制度・メカニズムの設計に関する理論的分析とパソコンを使用してのシミュレーション分析を行った.共有地の悲劇が起こっている経済において,問題解決を目指す制度・メカニズムが自発的に生まれてくる可能性について吟味した.いま,湖に面している漁村を考えよう.労働に関して収穫逓減の場合には,漁村の各漁師が非協力的に行動するナッシュ均衡での総労働投入量はパレート最適な水準よりも大きくなり,漁が過剰に捕獲され共有地の悲劇が起こる.しかし,漁師間で十分なコミュニケーションが可能であれば,協力が生まれ,共有地の悲劇を回避できる余地はないのであろうか,いま,あるグループに属する漁師の間で話し合いが行われて,彼らの総所得を最大にするように彼らの総労働投入量を決定し、捕獲された魚の総量は彼らの間で再分配するような提携が結ばれたとする.外部性が存在するために,提携を形成することによって獲得可能な利得は,提携のメンバー以外の漁師の行動・協力関係に大きく依存する.提携を形成することにより,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が慎重な悲観的予想をしている場合には,コアが存在することを示した.つまり,いかなる提携によっても拒否されず,いかなる提携を考えても,その提携の力だけでは改善不可能な配分が存在する.よって,自由な交渉が可能ならば,パレート最適性が達成され共有地の悲劇を回避できるのである.しかし,この結果は提携構造に関する予測に依存し,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が楽観的予想をしている場合には,コアは存在しない.
著者
細井 義夫 池畑 広伸 小野 哲也
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

ヒトの放射線高感受性遺伝病である、毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telengiectasia、 AT)の原因遺伝子ATMの発現や活性を修飾することにより、癌細胞の放射線感受性を高めることが可能かどうかを確かめるたもの基礎的実験を行った。まず臨床的に放射線抵抗性であることが知られている悪性脳腫瘍において、ATMのRNA量がどのように変化しているかを調べた。Glioblastoma4例、Astrocytoma grade III4例、Astrocytoma grade II例について検討を加えた。手術標本よりtotal RNAをAGPCにより調整し、RT-PCR法により半定量した。その結果、Gliobalstomaでは4例中1例で、Astrocytoma gradeIIIでは4例中3例でATMのRNAが正常脳に比較して増大していた。ATMの異常をヘテロに持つ人由来の細胞は、正常細胞に比べ放射線高感度感受性であるという報告がある。従って、放射線感受性とATM遺伝子産物量との間に相関関係が認められる可能性がsる。このため、放射線抵抗性癌でATMの発現が高いとしたならべ、それが放射線感受性と関係しているかどうかを検討する必要が考えられる。次にアンチセンスとセンスATMが癌細胞の放射線感受性に及びす影響を検討した。アンチセンス、センスATMは転写開始部位より22baseの長さで作成した。投与量は20μMとなるように1日3回投与した。投与は4日間行い、投与開始より3日間に放射線を照射した。使用した細胞は、培養脳腫瘍細胞T98Gを用いた。その結果、このプロトコールは細胞毒性がみとめられ、た。また、放射線感受性に関しては、アンチセンスATMの投与によりT98Gの放射線感受性は高められたが、センスATMの投与によっても放射線感受性は高くなった。これは毒性によるためだと考えられるが、投与量を変更することが必要だと考えられた。
著者
林 洋子 木島 隆康
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

画家・藤田嗣治が、1920年のパリで国際的な名声を得た最大の理由に、彼が確立した「乳白色の下地」に、裸婦や静物を細く黒い輪郭線で描く独創的な技法が挙げられる。油性の地塗層に水性の墨で描く物理的な謎を生前の彼は秘密とし、死後も長らく詳細がわからなかった。本研究を通じて行われた、近年の作品修復成果の分析、技法再現、文献調査の照合によって、その秘密が「タルク(ケイ素とマグネシウムの水酸化物)」にあることが判明した。
著者
石渡 晋太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

立方晶ペロブスカイトSrFeO3は、金属的伝導性とらせん磁性を併せもつ希有な酸化物として古くから知られていたが、単純ならせん磁性では説明できない磁気輸送特性を示すことから、スカーミオンなどのトポロジカルに新しいらせん磁性相の存在が期待されていた。本研究では、フローティングゾーン法と高圧合成法を組み合わせることで、SrFeO3およびその周辺物質の大型単結晶育成に世界で初めて成功し、磁化・抵抗・ホール抵抗測定から多彩な新奇らせん磁性相を含む磁気相図を確立した。さらに磁場中における偏極中性子回折実験を行うことで、この系が4つの磁気伝搬ベクトルを有するmulti-Qらせん磁性体であることを見いだした。