著者
大谷 清孝 松本 典子 藤本 まゆ 稲垣 瞳 横関 祐一郎 橘田 一輝 開田 美保 狐﨑 雅子 中村 信也 横田 行史
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.798-807, 2016-01-30 (Released:2016-03-16)
参考文献数
18

本邦では同時接種の有害事象および安全性に関する報告が散見されるが, 乳児期のみの検討は不十分である。そこで, 乳児に対する不活化ワクチンの同時接種の有害事象を解明するために検討した。2012年7月から2013年6月の期間において, 不活化ワクチンの皮下接種を施行した生後2か月以上の乳児を対象とした。その対象の保護者に対して, 調査票を配布し, 接種後1週間の有害事象の有無を調査した。対象を接種本数から単独接種群と同時接種群に群分けした。主要検討項目として, 入院を要する重篤な有害事象の有無とし, その他の検討項目として接種児背景, 全身症状と局所症状の有害事象の有無を比較検討した。対象は合計66名, のべ162回であった。調査票の有効回答率は91% (88/97) であり, うち単独接種群は46名で, 同時接種群は42名であった。同時接種の内訳はインフルエンザ菌b型ワクチン (Hib) +7価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV7) が14名 (32%) で最も多く, 次いでHib+PCV7+三種混合ワクチンが12名 (27%) であった。全例で入院を要する重篤な全身症状の有害事象は認めなかった。熱型推移では, 単独接種群と比較して同時接種群の方が接種後2日目の体温が有意に高かった (p=0.049)。その他の全身症状および局所症状では, 両群間において有意な差を認めなかった。乳児への不活化ワクチンの同時接種において, 接種2日目に発熱を認めることが有意に多いが, 入院を要する重篤な全身症状の有害事象を認めなかった。
著者
針間 克己
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.583-587, 2004-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

パラフィリアとは典型的でない性嗜好に対する医学的疾患概念である.典型的でない性嗜好の何が医学的な異常で何が正常なのか,何をもって医学的疾患とするのか.その境界線は,文化,時代の影響を受ける古典的には生殖に結びつかない性行動が異常とされた.その後, 1970年代のゲイムーブメントの影響を受けて,本人に苦悩があることをもって精神疾患とするようになった.しかし,2000年に出されたDSM-IV-TRにおいては,その行動が性犯罪となるものは,苦悩がなくても行動をもって精神疾患とされるように変更となった.すなわち現在では,パラフィリアは性犯罪グループと非性犯罪グループで診断基準が異なっだものとなっている.
著者
山口 直比古
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.467-472, 2016-09-01 (Released:2016-09-01)

病院には医療関係者のための図書室と,患者のための図書室の二種類の図書室がある。前者は医学図書館であり,主に医学情報を提供している。地域医療支援病院などの3割程度に設置されており,相互協力(ILLでの文献複写依頼)を中心に司書が一人で仕事をしている。後者は,患者・家族・市民のために医療・健康情報サービスを行っている。患者の立場に立ってインフォームドコンセントを支援する,という役割を担っている。全国に100以上の患者図書室が開設されている。それらの現状と問題点などを紹介する。さらに,一般市民に対する健康情報サービスが,公共図書館を中心に広がっているため,病院の図書室ばかりではなく,大学医学部図書館との連携・協力が求められている。
著者
岸 政彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.466-481, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
28

この論文で私は, 沖縄が語られるその語られ方の変化について書く. 具体的に取り上げるのは, 沖縄本島にあるA市の市史編纂室によって書かれる予定の, 新しい市史の取り組みである.この地域誌は, 行政が公式に発行する, いわばその地域の「教科書」である. それはその地域の, あるいは沖縄そのものについての「語り方」を規定する力を持っている.本論で特に, 沖縄本島にある「A市」の市史編纂室における新しい実践を考察の対象とする. A市史民俗編には, 古くから存在し, 沖縄的な伝統芸能や習慣を伝える集落だけではなく, 団地や建売住宅のニュータウンなども含まれることになっている. このことは, それまでの地域誌の民俗編が, 本来的な, 真正なる沖縄文化を記録し後世に伝える目的で書かれていたことを考えると, 画期的な試みであるといえる.本論ではA市の市史編纂室での聞き取り調査を通じて, 沖縄の語り方はどのように変わりつつあるのか, 語り方を変えるときに何が起きているか, それはどのようにして可能になるのかについて考える.
著者
二宮 由樹 岩田 知之 寺井 仁 三輪 和久
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.217-231, 2023-09-01 (Released:2023-09-15)
参考文献数
57

Why do humans try to discover better alternatives to solve a problem even when they already have a solution? Such flexibility to reject the familiar solution and to search for and discover better alternatives supports creative problem solving. Previous research has shown that participants who found alternatives are less likely to bias their attention toward the fixation-related areas, even when they are fixated on the trained procedure, compared to non-finder. The present study examined whether an intentional search for information irrelevant to the trained procedure under the successful situation is related to finding alternatives. Experimental results indicated that finders intentionally searched for a greater amount of information irrelevant to fixation, even when solving a problem with the trained procedure. In addition, it was shown that the difference in the intentional search might be caused by the strength of reinforcement of fixation on the trained procedure.
著者
吉良 枝郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.757-767, 2006-11-20 (Released:2010-03-12)

なお攘夷の激しい維新当初より, 京都官軍病院にイギリス公使館医を医師として招聘し, ついで御所への西洋医学の導入を認め, 典薬寮医師として蘭方医を採用し, 元年末には医学校である大学東校を開校し, 近い将来での医師開業試験の実施を布達した。明治新政府は, わが国の医学として, 初めて, 積極的に西洋医学を受容した。漢方医の影響下にあった旧幕府とは, 極めて対照的である。戊辰戦争で貢献した英国公使館医は, 大学東校の病院長兼医学教師に就任した。政府内には, 従来のオランダ医学に代わって, わが医学の教師役はイギリス医学がとの雰囲気があった。一方長崎医学校で学んだ若い蘭方医達は, 世界の医学界をリードしているとして, ドイツ医学のわが国への導入を提案した。厳しい討議のすえ, ドイツ人医学教師の招聘が決定された。初代のミュルレルは, 伝統的医学教育に固執する日本人教師らの抵抗を抑え, 厳しく, 徹底的に医学校を改革した。医学生は, 予科3年, 本科5年に亘り, 基礎科学, 基礎医学, 臨床を, ドイツ人教師によりドイツ語で教育された。極めて特異な事であったが, わが国初の医制を作り上げるためには欠くべからざる事であった。
著者
田中 正彦 三上 かつら
出版者
日本鳥類標識協会
雑誌
日本鳥類標識協会誌 (ISSN:09144307)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-46, 2017 (Released:2018-07-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

2016年9月12日,北海道亀田郡七飯町藤城にてスゲヨシキリ Acrocephalus schoenobaenus 1羽が捕獲された.本種の標識記録としては日本で初めて,確認記録としては日本で2例目である.環境は休耕田で,コヨシキリの群れと行動をともにしていた.当該個体は標識・計測を行った後,性不明幼鳥として放鳥した.
著者
吉川 徹朗 上田 恵介
出版者
国立研究開発法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

シキミという樹木の種子は猛毒をもつにもかかわらず、ヤマガラという鳥によって運ばれていることがわかっている。本研究では、この特異な相利関係がヤマガラの体内微生物に及ぼす影響を明らかにする。特に、シキミ種子に含まれる猛毒物質がヤマガラの内部寄生者を減少させる可能性に注目する。シキミ自生地の内外でヤマガラの糞を採取し、そこに含まれるDNAの量を分析することで寄生者などの微生物の組成やアバンダンスを明らかにする。そしてシキミの種子を食べることが、ヤマガラの体内寄生者を減少させるかどうかを検証する。
著者
高井 ゆと里
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.12-20, 2022-09-28 (Released:2023-08-01)
参考文献数
41

本稿では、医療資源の分配をめぐる正義を論じる政治哲学や生命倫理学の議論が希少性疾患をどのように扱 うかを批判的に吟味する。まず、コスト対効用比に注目するQALY評価は、希少性疾患の治療費が総じて高 く、またその現状は正義とは無関係の資本主義の論理によるものであるため、希少性疾患を不当に不利に扱うものである。他方で運の平等主義は、実際の分配則として同時に支持される仮想的保険市場が希少事例を除外するため、やはり希少性疾患に対して不利な理論とならざるを得ない。加えて、いずれの理論もそのうちに健常主義的な前提を抱えており、しばしば「障害」カテゴリーと密接な関係にある希少性疾患(患者)に対して差別的な議論を展開してもいる。希少性疾患の患者集団がそのもとに置かれている不正義を解消するためには、分配的正義論における健常主義を乗り越えるのみならず、社会の障害者差別を可能な限り解消し、希少性疾患の研究開発の遅れを産み出してきた、医学研究を取り巻く環境をも変える必要がある。
著者
永田 憲史
出版者
関西大学出版部
巻号頁・発行日
2010-09-30

はしがき・・・i初出一覧・・・iii文献および資料の引用方法・・vi第一章 はじめに・・・1第二章 永山事件第一次上告審判決に至るまでの状況・・・7第三章 永山事件第一次上告審判決以後の動向・・・11第四章 検察官上告五事件の検討・・・37第五章 検察官上告五事件に対する判断後の動向・・・57第六章 犯行当時少年であった被告人に対する死刑選択基準・・・73第七章 光市事件第一次上告審判決の理論的検討・・・105第八章 光市事件第一次上告審判決後の動向・・・135第九章 光市事件差戻控訴審判決の理論的検討・・・179第一〇章 おわりに―裁判員裁判における死刑選択基準を見据えて・・・195資料一 最高裁において永山事件第一次上告審判決以降に確定した死刑判決一覧・・・203資料二 最高裁において第二次世界大戦終戦後に犯行当時少年の被告人に対して確定した死刑判決一覧・・・237資料三 刑訴法四一一条二号により破棄された死刑に関する判決一覧・・・247資料四 永山事件第一次上告審判決以降に控訴審でなされた無期懲役の判断に対して死刑選択基準に関する判例違反を主張して検察官によりなされた上告を棄却した最高裁の決定一覧・・・249資料五 最高裁において裁判官が刑訴法四一一条二号による破棄を相当とする反対意見を述べた決定一覧・・・251判例索引・・・258

10 0 0 0 OA 世界商売往来

著者
橋爪貫一 (松園) 著
出版者
青山堂
巻号頁・発行日
vol.〔正〕, 1872
著者
小林 昭裕
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.521-526, 2017-03-31 (Released:2017-09-13)
参考文献数
16
被引用文献数
3 2

Based on previous research of the evaluation method of cultural ecosystem service (CES), this study examined a trial evaluation method grasping the multi-functionality of CES provided by urban parks located in the suburb of Tokyo metropolis. This method was focusing the relative importance of the multi-functionality by selecting the most valuable and the second valuable functions with the mail-back questionnaire survey. Result showed the importance of some function affected by the socio-demographic attributes of users and their attitude of CES. The similarities and differences of mutual relationships among functions were observed in these parks. Also, these relationships were affected by the socio-demographic attributes of users and their attitude of CES. There supposed to be a need to establish an indicator characterizing the supply function of CES of the park as well as to a multi-tiered evaluation method according to the proximity to the park. In order to understand the dynamics of changes among factors affecting CES evaluation, an evaluation method that include the relationship between supplier and receiver of CES should be developed.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.413-435, 2013-09-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
123
被引用文献数
1

景観研究は多様化している.日本では工学分野を中心に景観は多分野で議論されている.英語圏地理学では,景観の視覚的側面を重視する歴史研究から現代芸術を対象とした動向がある.本稿では,遠近法主義の概念を歴史研究から整理するとともに,現代芸術を対象とした近年の景観研究を整理した.ドイツの画家リヒターに関する美学研究を参照することで,地理学への風景芸術研究の導入線とした.写真を模写するフォト・ペインティングという技法を用い,ぼかしや上塗りを施すことによって,彼の風景画は抽象画とも類似したものとなっている.そうした風景画を制作することによって,リヒターは因襲的な風景芸術をアイロニックに再現し,遠近法に基づく因襲的な見る方法に挑戦しているといえる.
著者
渡部 俊太郎 足立 俊輔
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.115-124, 2007-02-10 (Released:2019-09-27)
参考文献数
79
被引用文献数
5

超短パルス発生技術の進展について,発振器も含めた比較的小出力の領域の短パルス化,TW級高出力レーザーにおける短パルス化および高調波を用いたアト秒パルスの発生について報告する.可視域ではチャープ鏡や適応型位相制御などの技術革新によりモノサイクルに近づきつつある.高出力増幅器では主にチタンサファイアレーザーが用いられてきたが,より広い帯域が得られるパラメトリック増幅に変わりつつある.高次高調波ではアト秒パルスの発生と計測が達成され,100アト秒(attosecond,10-18秒,以降asを使用)を切るパルスが目標となっている.
著者
辺 清音
出版者
日本華僑華人学会
雑誌
華僑華人研究 (ISSN:18805582)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.28-48, 2021 (Released:2023-09-27)
参考文献数
27

Chinatowns, exotic tourism resources as they are, receive increasing global popularity these days and their events attract millions of tourists every year. Based on the fieldwork of Kobe Chinatown’s 150th Anniversary from January 2017 to June 2019, this paper discusses how and why non-Chinese diversity can be presented publicly in Chinatowns, where are originally regarded as ethnically “Chinese-ness.” Firstly, this paper finds out that the preparatory committee of Kobe Chinatown’s 150th Anniversary is composed of diverse groups, such as Kobe Chinatown Development Association, Kobe Tourism Bureau, and other associations of tourist attractions. Such groups bring tourist resources with multi-cultural backgrounds to Kobe Chinatown. These tourist resources reflect the local characteristics of Kobe as an international city. Secondly, this paper identifies the local characteristics presented publicly in the jazz events and the main festival of Kobe Chinatown’s 150th Anniversary. According to the informants working in Kobe Chinatown, the appropriation of non-Chinese diversity conveys their Kobe-ness. In this paper, investigating from the participation of diverse participants, the occurrence of non-Chinese diversity in Kobe Chinatown’s 150th Anniversary is analyzed. For non-Chinese participants, their non-Chinese diversity could promote local tourism. For local Chinese participants, the acceptance of non-Chinese diversity results from their place-making of Kobe Chinatown where they can express their experience, feelings, and collective memories in Kobe.
著者
庄山 茂子 川口 順子 栃原 裕
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.111-117, 2007-05-25 (Released:2017-07-28)
参考文献数
19
被引用文献数
2

To clarify the differences in the perception of color between two groups with different iris colors, we measured color discrimination ability by the 100 hue test under an illuminance of 500 or 30 lx in Caucassian females with blue-green irises and Mongoloid females with brown irises, and obtained the following results. The total deviation score at 30 lx did not significantly differ between the Caucasian and Mongoloid groups, but that at 500 lx was lower in the Mongoloid group, suggesting that color discrimination was easier at 500 lx in the Mongoloid group. In the Caucasian group, hue discrimination was more difficult in the region from green (G) to purplish blue (PB) compared with the Mongoloid group under an illuminance of 500 lx, and the spectral luminous efficiency decreased in the blue (B) region in the light condition. In both groups, color discrimination in the red (R) region was law at 30 lx, showing significant differences between 30 lx and 500 lx. In the Mongolian group, the discrimination ability in the blue (B) region was significantly lower at 30 lx than at 500 lx. Since color perception differed between the two groups with different iris colors, universal designs giving attention to differences in iris color are necessary.