著者
高山 陽子 矢野 寿一 新井 和明 平潟 洋一
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

A(H1N1)pdm09を用いて市中感染型MRSA(ATCC BAA-1680:USA300)、院内感染型MRSA(ATCC BAA-1699:USA100)のMDCK細胞への侵入性について検討した結果、ATCC BAA-1680の侵入性はATCC BAA-1699よりも高いこと、いずれもA(H1N1)pdm09の先行感染存在下で侵入率が増強していたことが判明した。本研究により、A(H1N1)pdm09先行感染後のCA-MRSA感染のメカニズムを解明する上で、その一つとして侵入性がかかわることを示唆する重要な知見を得た。
著者
小野瀬 善行
出版者
釧路公立大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

1980年代にオルタナティブな教員資格認定制度(alternative routes to teacher certification、以下ARTC)を導入すべきと述べたマーティン・ハバーマン(Martin Haberman)の主張やテキサス州における議論を分析することにより、導入当初、ARTCは、大都市部を抱える学校区において、臨時免許状や無資格の教員を減らすという、社会的公正の達成という観点が含まれていることを確認した。
著者
青柳 直子
出版者
浜松学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、通学形態が心身機能や身体活動を含めた日常の生活行動とどのような関連があるのかという点について検討を行うことを目的とした。東海地区山間部の小規模公立小学校の児童4~6年生59名を対象として、通学形態、心身機能および生活行動に関する質問紙調査、生化学指標の測定および1週間に亘る身体活動量の連続測定を実施した。その結果、日常的な気分・心身症状の程度や生活行動を含めた身体活動の増減は通学形態と関連があることが示唆された。
著者
堤 マサエ
出版者
山梨県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は直系制家族に焦点をあて、どのように世代継承と世代間相互扶助が行われ、バランスを保っているかを明らかにすることであった。ここでは、直系制家族の世代継承はどのようであるか、子育てや老人介護はお互いに世代間で支えあい、衡平性を保っていると言えるのか、を探ってきた。その結果、(1)世代継承に関しては、少子化のため、若い世代ほど長男が跡を継いでいることが明らかになった。「家」を継承するのは長男と決まっていた時代から誰でも可能な時代になったにもかかわらず、長男である重みが現実にはある。また、土地の相続は制度的には均分であるが、一括相続がほとんどであった。このような状況のなかで、地域社会では集団営農、農業の起業化が進められてきている。家族、世帯の持続を地域全体で継承するという方向である。(2)相互扶助関係について、親は子どもが学校へ行き、結婚、独立していく過程において、どのような援助をしているか、を調査した。その結果、男女、きょうだい数に関係なく、親は子どもへの必要な援助を行っている。子どもはどの程度の経済力が親にあるかをわきまえ、援助を得ている。親は誰が老後の面倒をみてくれるかを見極めながら、援助の度合いを調整している。子どもも自分の人生の歩みと親からの援助とがどの程度マッチするかの折り合いをつけ、親子関係の調整を図っている。親子の相互扶助により、親子で衡平性を保っている。それは親の最期の看取りの時期においても同様な世代間相互扶助関係が保たれている。(3)直系制家族は相互扶助を実現しやすい家族形態であるが、住まい方に大きく規定される。屋敷内別棟同居よりも上下階別同居の方が介護は可能である。家族内での世代間の経済援助はお互いに年金、給料を出し合い、助け合う姿があった。世代間衡平性は生活構造的に長期的な見通しの検討が必要であることが示された。
著者
有賀 弘 高橋 進 曽根 泰教 坂野 潤治 半沢 孝麿 佐々木 毅
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

本研究の目的は, 政治過程における議会の機能を政治思想史的, 政治史的, 現状分析的に多角的に検討することにある. こうした政治学的なアプローチを駆使することによって, 単なる法制度論のレベルで終わりがちだった議会制の研究は, より一層の前進を見ることができるのである.本研究による第一の成果は, 20世紀に入ってからの行政国家化, 福祉国家化とともに議会機能が低下したという通説的な理解である議会無能論ないしは議会無用論に対して, 再検討を加えた結果, 次の点が明らかになったことである. (1)シンボル・統合機能, (2)立法機能, (3)代表機能, (4)(議院内閣制における)行政部形成機能, (5)争点明示機能, (6)行政部統制機能, (7)政治的補充機能などのすべての議会機能が一様に低下したのではない. むしろ「政治」課題や案件の増大に伴って, 政策形成や決定の機能は, 議会だけでなく行政部や政党, マス・メディアや「運動」などの政治的生体に分担されるようになったが, その多くは, 議会の媒介的機能を通じて政治の「場」に登場してきているという点である.第二の成果は, 従来の議会研究においては, 議会制民主主義のモデルとしてのイギリスや強い影響力をもつアメリカの議会がおもに歴史的視点に立って分析されてきたが,本研究においては, 両国だけでなくドイツ, イタリア, オランダそして日本の議会も分析の対象とし, しかも比較的最近の動向まで扱っているために, かなり網羅的になった点である.とくに日本の議会制については, 戦前の帝国議会と戦後の国会の双方を扱い, しかも議会機能の諸モデルの検討や代替モデルの仮説的提示, 各種の事例やデータによる分析を行っており, 包括的な検討が加えられた.本研究の成果は, 今後さらに議会研究を進める際, その重要な拠り所となるであろう.
著者
山尾 大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、現代イラクにおけるイスラームと政治の動態を、シーア派宗教界とシーア派イスラーム主義政党の関係性とその変化に着目して分析することにある。21年度は、昨年度に分析したイスラーム主義政党の歴史的なイデオロギーの変容を元に、なぜそのような変容が生じたのかを分析し、それが2003年のイラク戦争後にいかなる影響を与えているかという問題を解明することに力点を置いた。また、これまでの研究成果を、博士論文にまとめる作業を行った。具体的には次のことを行った。(1)1990年代のイラク国内のイスラーム主義運動を、社会運動の観点から分析する作業を進めてきたが、それを論文にまとめ、海外ジャーナルに英文で投稿する。(2)1990年代の亡命組イスラーム主義政党、具体的にはダアワ党とイラク・イスラーム革命最高評議会の歴史的展開とイラク政治との関係を、彼らが発行していた地下機関紙を解析することで明らかにする。(3)1980~90年代の亡命組イスラーム主義政党と、国内のシーア派宗教界、および国外の宗教界との関係を分析し、とりわけ金銭的な支援のネットワークを解明する。この作業は、党の内部文書の解析とともに、聞き取り調査を実施することで、明らかにする。(4)以上で分析した関係性が、2003年のイラク戦争後の政治運営において、いかに影響しているかという問題を、イスラーム主義政党の離合集散、合従連合に着目して明らかにする。その結果、とりわけ1980年代から1990年代後半のイラク国内外のイスラーム主義政党のイデオロギーと活動実践が明らかになり、同時にそれらが2003年の戦後イラクにおいて、政治対立のいかなる側面で問題となっているのか、この構造とメカニズムを明らかにした。これらの成果を、国外の学術雑誌と国内のジャーナルに投稿し、さらに共著の論文集として発表した。この分野は、実態の解明が喫緊の課題であるにもかかわらず、我が国のみならず、世界的にも研究が未着手である。これを解明したことで、イラク政治の重要な一側面の解明に貢献した。
著者
泉谷 周三郎 有江 大介
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現代の大衆社会の原型が形成された19世紀英国・ヴィクトリア時代の知的文化的環境の特質を、当時の社会的な諸問題を念頭に置きながら代表的思想家J.S.ミルとその周辺の諸家の知的営為を中心に検討した。具体的には、自由、正義、宗教を選び、人文・社会科学の2つの領域から考察をぶつけ合った。それにより、英国国教会系知識人、福音主義やユニテリアン、ロマン主義や功利主義の相互関係を、当時の社会改良運動に目配りしつつ従来にない形で明らかにした。
著者
盛永 審一郎 加藤 尚武 秋葉 悦子 磯部 哲 今井 道夫 香川 知晶 忽那 敬三 蔵田 伸雄 小出 泰士 児玉 聡 小林 真紀 坂井 昭宏 品川 哲彦 松田 純 山内 廣隆 山本 達 飯田 亘之 水野 俊誠
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1)20世紀に外延的に同値された神学的-哲学的概念としての「尊厳」と政治的概念としての「権利」は内包的に同一ではないということ。また、「価値」は比較考量可能であるのに対し、「尊厳」は比較考量不可であるということ。2)倫理的に中立であるとされたiPS細胞研究も結局は共犯可能性を逃れ得ないこと、学際的学問としてのバイオエシックスは、生命技術を押し進める装置でしかなかったということ。3)20世紀末に登場した「身体の倫理」と「生-資本主義」の精神の間には何らかの選択的親和関係があるということ。
著者
LOPEZ Larry 町村 尚
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

森林群落は、季節的に融解層を深くしないというプロテクトの役目を果たしている(カラマツ林と白カンバ林の場合)。森林群落下の気温はアラスより低い。しかし、この研究の結果によると湿潤草地の活動層は森林の深さと同じである。土壌水分が多いので、冬に凍った水は春になると水分の熱伝導度と潜熱の関係で解けにくくなる。カラマツ林の土壌断面の結果を見ると、活動層の塩分濃度は低いが、永久凍土に入ると急に高くなる。現在のアラスは永久凍土が破壊されてからできたものである。それで、今でも中央ヤクチアの永久凍土の塩分濃度が高いので、数センチの凍土がこの地域にとても大きな影響を与えると考えられる。その上で、森林は気候変動の関係で耐塩性草原になると二酸化炭層の吸収力75%下がることが明らかになった。現在、森林の蒸発散量はOverstoryとUnderstoryとがそれぞれ50-50%に分かれている。それで森林がなくなると水収支が徹底的に変化すると恐れがある。最後に、森林火災が起きる後進林生態に対しては大きな影響があるが,15年間ぐらい経つと森林と永久凍土が復活することを明らかにした。
著者
田近 英一 多田 隆治 橘 省吾 関根 康人 鈴木 捷彦 後藤 和久 永原 裕子 大河内 直彦 関根 康人 後藤 和久 大河内 直彦 鈴木 勝彦 浜野 洋三 永原 裕子 磯崎 行雄 村上 隆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

約25億~20億年前に生じた全球凍結イベントと酸素濃度上昇の関係を明らかにするため,カナダ,米国,フィンランドにおいて地質調査及び岩石試料採取を実施し,様々な化学分析を行った.その結果,同時代の地層対比の可能性が示された.またいずれの地域においても氷河性堆積物直上に炭素同位体比の負異常がみられることを発見した.このことから,氷河期直後にメタンハイドレートの大規模分解→温暖化→大陸風化→光合成細菌の爆発的繁殖→酸素濃度の上昇,という可能性が示唆される.
著者
原田 慈久
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

低温域の水の電子状態を軟X線発光分光を用いて観測し、水素結合の切断に相当するピークが氷の領域でも一部残り、これが内殻正孔ダイナミクスによるものである可能性を示した。一方、アセトニトリル-水混合系においては、低温域で水混合のミクロ不均一性が増大しても電子状態の変化は小さく、ゆらぎのサイズは軟X線発光で電子状態変化を捉える領域に比べて十分大きいことが示唆された。
著者
天川 裕史 高畑 直人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

二次イオン質量分析計(SIMS)によるホウ素同位体比の基礎的な分析手法の検討を行い、標準試料(NIST951)と併せ幾つかの実試料(海水、温泉水、大気の凝縮水)のホウ素同位体比の測定を行った。SIMS(使用機器はNanoSIMS)の測定にはシリコンウェハー上で試料溶液を赤外線ランプで乾固したものを供した。その際、従来は測定試料中のホウ素の散逸を防ぐため、ホウ素を除去した海水の添加を行う手法が推奨されてきた。しかし、NanoSIMSによる分析においては海水を標準試料や温泉水に添加するとホウ素のビーム強度はむしろ何も添加しない場合に比べ著しく低下し、この手法は必ずしも有効ではないことが示された。海水試料については単に乾固したものとその上に金の蒸着を行ったものの分析を行った。金の蒸着を行っていない海水のδ^<11>B値を直近のNIST951の測定値を用い計算すると+32〜+73となり、推奨値の+39.5とは異なる値となった。一方、金の蒸着を行った海水のδ^<11>B値を同様に金の蒸着を行ったNIST951の測定値を用い計算すると+44〜+46となり、より推奨値に近い値となった。金の蒸着にはブランクめ問題が懸念されるものの、確度の高い分析を行う上では有効かもしれない。温泉水試料のδ^<11>B値は+2.6と+5.6となり、Kanzaki, et. al.(1979)やNomura, et. al.(1979)やNomura, et. al.(1982)による日本の火山ガスの値の範囲(+2.3〜+21.4)の値となった。また、大気試料のδ^<11>B値(+1.7)は、Miyata, et. al.(2000)により報告されている東京大学海洋研究所周辺で採取した大気試料の分析値(-5.1、-1.8、+5.0)と大きくは異なっていない。これらの事実は、NanoSIMSは天然試料のホウ素同位体比の分析に十分堪えうることを示している。
著者
渕野 由夏
出版者
福岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、訪問看護師の職業性ストレスが睡眠障害に及ぼす影響(因果関係)を明らかにすることを目的とした縦断的研究を行った。平成17年度に実施した質間紙調査に協力の得られた333名のうち、質問紙に氏名・所属等の記入がなかった者を除く319名を調査対象とした。調査方法は平成17年度と同様の方法の郵送法による質問紙調査(NIOSH職業性ストレス調査票と独自に作成した睡眠調査票からなる調査票)を実施した。その結果、216名から回答が得られ(回収率67.7%)、今回はこのうち男性を除く211名を解析対象者とした(有効回答率97.7%)。はじめに、NIOSH職業性ストレス調査票の各尺度の得点を平成17年度実施調査(以下、前回調査)結果および平成18年度実施調査(以下、今回調査)結果から個人毎に尺度別に算出し、前回調査に比べ今回調査の方がストレスが減少した者を「ストレス改善群」、ストレスが増加した者を「ストレス悪化群」とした。次に、睡眠状況に関する項目の合計点(以下、睡眠状況得点)と睡眠感に関する項目の合計点(以下、睡眠感得点)についても、前回調査および今回調査の調査結果から個人毎にそれぞれの得点を算出し、睡眠状況、睡眠感各々ついて、前回調査に比べ今回調査の方が改善した者を「改善群」、変化がなかった者を「変化なし群」、悪化した者を「悪化群」とした。そして、ストレス改善群、ストレス悪化群と睡眠状況。睡眠感の改善群、変化なし群、悪化群の関連についてχ^2検定により検討を行った。その結果、睡眠状況については、職務満足感はストレス悪化群の方がストレス改善群に比べ、睡眠状況悪化群の割合が有意に高く(p<0.05)、また、役割葛藤、量的労働負荷についても同様の傾向がみられた(p<0.1)。また、睡眠感については、役割葛藤、職務満足感のストレス悪化群の方がストレス改善群に比べ、睡眠感悪化群の割合が有意に高く(p<0.05)、また、量的労働負荷、上司からの社会的支援についても同様の傾向がみられた(p<0.1)。したがって、役割葛藤、職務満足感、量的労働負荷、上司からの社会的支援が悪化すると、睡眠状況・睡眠感の悪化に関連したり、関連のある傾向があることから、これらの職業性ストレスは訪問看護師の睡眠障害へ影響を及ぼす要因(因果関係のある要因)であることが明らかになった。
著者
中嶋 敦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、芳香族有機分子ナノ集合体について、内部温度を制御した有機結晶や薄膜の電子物性を微視的に理解するための構造相転移現象を解明することを目的として研究を推進した。平成21年度は、孤立分子とバルクの橋渡しを実現する観点から分子の有限多体系に着目し、特に温度を規定した環境下で、その構造の秩序性を解明するための実験研究に取り組んだ。特に、有機金属クラスターをプローブとすることによって、表面上に形成される2次元自己組織化単分子膜(SAM)の2次元融解に関する成果を得た。アルカンチオールSAMにおいて注目されることは、2次元炭化水素鎖が表面上で「相」に対応する秩序状態をもつかという点である。この自己組織化したSAMの秩序性の挙動を明らかにするために、鎖長の異なる様々なアルカンチオールSAM基板を調製し、その表面上にバナジウム(V)-ベンゼン(Bz)1:2組成サンドイッチクラスター正イオンV(Bz)_2^+を10-20eV程度の入射エネルギーで打ち込み、蒸着されたサンドイッチクラスターの熱力学的安定性や配向特性を評価した。昇温脱離スペクトルの測定からSAMの炭素鎖長がC4からC22まで長くなるにつれて、脱離しきい温度が高温側にシフトし、ナノクラスターの脱離の活性化エネルギーは、C4-,C8-SAMで約60.0kJ/molであったが、C22-SAMでは、化学吸着熱に匹敵する~150kJ/molへと著しく増大していることがわかった。また、反射型赤外スペクトル測定から、C22-SAMのように鎖長が長い場合には、V(Bz)_2クラスターは蒸着時にSAM内に進入することによって捕捉されることがわかった。そして、室温以上まで固体基板上に固定される原理は、アルキル分子鎖の自己組織化に基づく秩序化によっていることを明らかにした。これらの成果を含めて、第四回公開シンポジウム(5/30-31、東京)、および、国際シンポジウム(1/7-9、京都)においてポスター発表を行ない、さらに、成果報告会(3/7-8、東京)において研究成果について講演を行った。
著者
中山 正昭 金 大貴
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

励起子状態が極めて安定な銅ハライドと ZnO を活性層として、薄膜型マイクロキャビティ(微小共振器)を作製し、励起子-光子強結合によるキャビティポラリトンの制御を行った。励起子-光子相互作用を反映するラビ分裂エネルギーを活性層厚と光子場形状によって系統的に制御することに成功し、室温においてもキャビティポラリトンが安定に存在することを実証した。さらに、ポラリトン凝縮に起因するポラリトンレーザー発振を確認した。また、 ZnO マイクロピラミッドの自己組織化成長を確立し、 発光増強効果を確認した。
著者
河原 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、アメリカ映画におけるポスト古典映画の諸相を明らかにするべく、近年積極的に行われてきたポスト古典論争の再検討を、とりわけインディペンデント映画研究、ニューメディア論との比較検討から重点的に行った。インディペンデント映画研究においては、とりわけ、ポスト古典初期ともいえる60年代後半からそのキャリアをスタートさせたデイヴィッド・リンチを主たる研究対象とし、彼の作品の製作・配給・上映形態がいかなる変化を遂げてきたのかを検証した。そこで明らかになったのは、深夜上映からブロックバスター、テレビドラマ、ウェブサイトへと、変則的ながらもゆるやか移行を見せるリンチの製作態度が、ポスト古典論を展開する理論家が提示してきた現代アメリカ映画の諸特徴と連動するのみならず、90年代以降のニューメディア論とも共振しているということである。また、テレビドラマのパイロット版を映画として公開したり、ウェブサイトでの公開用に撮影したデジタル映像を映画館でフィルム上映したりする近年のリンチの変則的な製作態度を、オールド・メディアとしての映画からインターネットをはじめとするニューメディアへの移行という直線的なメディア史の記述方法に疑問を投げかける重要な事例として検討した。これらの結果判明したことは、現代はむしろ、ヘンリー・ジェンキンスが説くように、新旧のメディア双方が乗り入れ、奇妙な同居を見せる時代として理解されるべきであり、このように理解したとき、リンチの映画および60年代以降のポスト古典映画は旧来の古典映画とニューメディアを段階的に繋ぐ領域として、より広義にはポストモダンへの移行を記述するメディアとして、意義深い視点を提供するであろうということである。研究成果は日本映画学会および日本アメリカ学会において順次発表される予定である。
著者
平出 正孝 齋藤 徹 松宮 弘明
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

水中の各種疎水性有機汚染物質を、迅速かつ高効率に除去するため、アドミセルを調製した。アルミナと陰イオン界面活性剤、シリカと陽イオン界面活性剤から調製したアドミセルの内部は疎水的であり、疎水性有機汚染物質が容易に捕集された。また、水酸化アルミニウムと陰イオン界面活性剤の併用により、有機汚染物質や殺菌剤が効果的に除去できた。捕集後いくつかの汚染物質は、バクテリアにより分解されることが分かった。
著者
菅 和利 大澤 和敏 赤松 良久 恵 小百合 大久保 あかね 岡本 峰雄
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

観光資源が主たる資源のパラオ共和国においては、宅地造成、農地開墾(焼畑)など土地利用形態の変化に伴う赤土流出と自然環境への影響は総合的視点から検討すべき課題である。本研究ではパラオ共和国での国土管理の指針を提供することを目的とし、赤土流出量の現地観測とモデル計算とを行った。造成地からは、草地・裸地の約300倍の年間約700t/haの赤土流出量が観測された。観測値はモデル計算での推定結果とよく対応していた。また、環境保全の観点から旅行者数と環境容量についての検討も行った。
著者
斎藤 之男 石神 重信 SHIGENOBU Ishigami
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度(1)スイッチを使わない老老介護を目標に,これまでの基礎研究をベースにバイラテラルサーボによるオムツ交換支援ロボットの試作を行った。(2)おむつ交換は,赤子のオムツ交換姿勢がよく,股部を5cm上昇するのに体重の約1/2が先端にかかり,本システムは,約35kgfの出力(関節部で120kgf)の高出力が得られた。(3)オムツ交換支援ロボットの総重量は,約35kgfであるから,自重と同じ出力が得られたことになり,このような条件は,産業用ロボットに対しても,始めての成果である。平成12年度(1)一般の風呂へ老人を入浴させる介助用ロボットの設計を行った.自由度3の内,2自由度にバイラテラルサーボ系による動力を挿入した。設計条件は,体重60kgfとし,車椅子からの移乗により団地サイズへの入浴を目指した。(2)バイラテラルサーボ系の改良点として空気が入ることがあり,平成11年度より改良を行っているものの長期使用に際しては,シリンダの曲がり,ピストンの曲がりが生じ,設計変更を行った。平成13年度(1)本システムは,福祉用ロボットとして従来不可能であった体重を直接保持することのできるシステムから平成12年度の入浴介護支援ロボットの再検討を行った。(2)バイラテラルサーボに用いるシリンダを実用に耐える設計に改良し,試作・実験を行った。(改良品は,オムツ交換支援ロボット用として利用し,2001年10月に開催されたロボフェスタ神奈川2001に出展した。)(3)新たに二関節同時駆動用シリンダの開発を行った。(4)頸椎損傷者を対象とした上肢動力装具の設計を行った。
著者
山中 克夫
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

痴呆高齢者の中には暗いすみの壁に方便したり,洗面台に座って大便をしたりしまう者が存在する。これは,中枢性の異常や泌尿器そのものの異常による失禁とは性質が異なり,いわゆる「勘違い」による現象である。現在のところ,この問題のメカニズムや対処法について科学的に検討した報告はみあたらない。そのため,医療・福祉の現場では,経験的な方法や口コミ情報に頼っている。平成12年度では、老人病院外来でアルツハイマー型痴呆と診断された高齢者1名についてフォローアップし、どのような間違いが起こり、家族はどのような点で失敗しているのか分析を行った。さらに、認知心理学的な視点から、対処法を考え、その効果をみた。対象は、70歳の男性であった。6年ほど前から物忘れが起こるようになり、現在、長谷川式簡易評価スケールで0点、Mini-Mental State Examination(MMSE)で3点(復唱のみが正解。物の名称も答えられない状態)であった。特に見当識面で非常に重篤な問題を呈しており、スリッパをテーブルにおいたり、植木を家の中に入れてしまったりと、行動のフレーム自体が崩壊しているような状態であった。トイレについては、特に夜間に、隣の場所である洗面台やお風呂と間違い、用を足そうとしてしまう状況であった。家族の対処法を尋ねると、トイレの明かりをつけ、オリエンテーションをつけようとしていたが、一向に問題が改善しない状況にあった。これはトイレの明かり自体を誰かが「入っている」と知覚したのだと考え、逆に周囲の洗面所、風呂場の明かりをつけ、トイレの明かりを消す方法を提言した。その結果、トイレの場所の誤りは改善した。これらの誤認識についてアフォーダンス理論と関連させ、考察を行った。