著者
藪田 貫 浅倉 有子 菊池 慶子 青柳 周一 桑原 恵 沢山 美果子 曽根 ひろみ 岩田 みゆき 中野 節子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では通常の分担者による研究会の積み重ねという形を取らず、日本の各地で「江戸の女性史フォーラム」を順次開催し、地域の女性史研究の成果と資料に学ぶというスタイルで3年間、進めた。その結果、大阪(2005.7)徳島(2005.12)、鳥取(2006.5)、東京(2006.7)、福岡(2006.12)、金沢(2007.9)、京都(2007.11)の7ケ所で開催することができた。その成果は、いずれも報告書の形で公表されているが、地域に蓄積された女性史の成果の掘り起こしと交流に貢献できたと確信する。とくに藩制史料の中から奥女中を含め、武家の女性の発掘が進み、菊池(柳谷)・浅倉・桑原らが中心となって「藩社会の中の女性」が一つの新しい潮流となっている。また活発な研究活動は、国内外の学会発表という形でも結実した。国内では立教大学日本学研究所の公開シンポジュウム(2006.5)に沢山と藪田が、ジェンダー史学会・女性史総合研究会共催のシンポジュムには曽根ひろみ(協力者)が、それぞれパネリストして参加した。国際的な学術交流では、鳥取と京都のフォーラムにアメリカとオーストリアから研究者を招き、また藪田が、ケンブリッジ大学での研究会「江戸から明治の女性と読書」(2006.9)、ボストンでのアメリカ・アジア学会分科会「19世紀日本の売買春と政治」に報告者として参加した。研究課題としてあげた研究者の世代交代を進め、若手研究者を養成するという点では、若い大学院生のフォーラムへの参加も少なく、残念ながら十分な成果を挙げていない。また分担者の研究の成果にもムラがあり、地域的にもまたライフコースについても、均等に成果を上げるには至らなかった。反省点であり、今後の課題である。
著者
松崎 瑠美
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近世後期における武家の女性の実態やジェンダーの仕組みについて、薩摩藩島津家を事例として、分析を進めた。その結果、側室の中には、藩内で正室格として処遇される者が存在したが、幕府への公式な手続きを経た正室と違い、幕府との儀礼という政治的役割は担えなかったこと、幕府との儀礼や島津家の縁組決定過程の分析から、大名家の「奥」と江戸城大奥とを結ぶ奥向のルートの構築過程と、表向のルート及び奥向のルートの利用形態を具体的に明らかにした。また、当該時期・地域の庶民の家について、建築構造面から家の間取りを比較し、「表」と「奥」に明確に区分された大名家の家と、区分のない庶民の家という階層性の違いを明らかにした。さらに、近代初期における島津家について分析した。その結果、邸宅における「表」と「奥」の空間分離や、「表」と「奥」それぞれに対応した職制の存在が見られ、近世のジェンダーの仕組みが引き継がれていた。また、一家の掟である家憲の分析によると、明治期の家憲では、母親が未成年の家主の後見人となり得たが、大正期の家憲では、後見人は親族・分家の男性に限定された。これは法制面での変化であるが、実態面での変化はどうであったのかを今後明らかにする必要がある。以上のように、今年度の研究では、近世後期と近代の一時期における武家社会の女性やジェンダーについて明らかにした。今後も、通時的な視点で引き続き幕末期や近代の分析を進めていきたい。
著者
山本 博文 佐藤 孝之 宮崎 勝美 松方 冬子 松澤 克行 横山 伊徳 鶴田 啓 保谷 徹 鶴田 啓 保谷 徹 横山 伊徳 小宮 木代良 杉本 史子 杉森 玲子 箱石 大 松井 洋子 松本 良太 山口 和夫 荒木 裕行 及川 亘 岡 美穂子 小野 将 木村 直樹 松澤 裕作
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、江戸時代および明治時代に編纂された史料集を網羅的に蒐集し、その記事をデータベースとして一般公開すること、蒐集した史料の伝存過程および作成された背景について分析・考察すること、を目的としている。本研究は、従来、交流する機会のなかった異なる分野の研究者が、1つの史実を通じて活発な議論を戦わせる土壌を作り、近世史研究の進展に大きく寄与することになった。
著者
稲田 奈津子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1、天一閣博物館・中国社会科学院歴史研究所天聖令整理課題組校證『天一閣蔵明鈔本天聖令校證附唐令復原研究』(中華書局、2006年11月)が刊行されたことを受け、喪葬令の全体的再検討をおこなった。特に唐令の条文排列の問題を中心に、前掲書における呉麗娯氏の復原案を再検討するとともに、旧稿における自説の訂正・補強をおこなった。その研究過程で、律令制研究会(池田温氏主宰)および儀礼史研究会(金子修一氏主宰)において口頭報告し、そこでの成果をふまえ、論文「北宋天聖令による唐喪葬令復原研究の再検討-条文排列を中心に-」をまとめた。2、奈良時代儀礼を復原する上で重要な参考資料となる正倉院宝物に関して、東京大学所蔵の巻子本『正倉院御物写』の分析を糸口に検討をおこなった。その成果は、第26回正倉院文書研究会において口頭報告し、論文「森川杜園『正倉院御物写』と日名子文書」(『正倉院文書研究』11号掲載予定)にまとめた。3、唐代の皇帝喪葬儀礼史料である「大唐元陵儀注」の分析を継続しておこなった。本史料の主要部分の分析は本年度でほぼ完了し、近年中に註釈および考察を集成した単行本を刊行する予定である。4、国内調査は計5回実施し、九州国立博物館・奈良文化財研究所等における資料調査をおこなった。国外調査としては、中国北京故宮博物院や陵墓などの周辺史跡において資料収集および調査をおこなった。5、律令制・儀礼史関係図書を中心とした資料の収集をおこなった。
著者
三上 正男 長田 和雄 石塚 正秀 清水 厚 田中 泰宙 関山 剛 山田 豊 原 由香里 眞木 貴史
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ダストの気候インパクトの定量的評価を高精度に行うことが出来るダストモデルの開発を、(1)発生過程の観測解析、(2)ダスト輸送途上の解析、(3)ダスト沈着量の観測解析と(4)ダストモデルの高度化のための技術開発により行った。(1)では、粒径別鉛直ダスト輸送量の評価法を確立し、ダスト発生モデルの検証を行い、スキームの最適化を行った。また(2)衛星及び地上ライダーの解析から、アジア域ダストがサハラ等に較べて高高度・長距離にわたって輸送される実態や、輸送中のダストでは粒径分布変化よりも内部混合の進行による形状変化が重要であることを明らかにした。さらに(3)乾性・湿性沈着観測ネットワークによる沈着フラックスの観測データを用いて、全球ダストモデルMASINGARの粒径分布とモデルのダスト発生過程の改良を行うと共に(4)高精度データ同化システムと衛星ライダー観測値を組み合わせ、全球ダスト分布の客観解析値を作成し、東アジアのダスト発生量のモデル誤差推定を行なった。また同同化システムにより、モデルの再現性を大幅に向上することが可能となった。これらにより、発生・輸送・沈着各過程を寄り現実的に再現できるモデルを開発することが出来た。
著者
原田 幸明 芳須 弘 山口 仁志 井島 清 井出 邦和 片桐 望
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

地球環境問題に対応するサスティナブルな物質・材料の設計・選択・評価に資するための、物質・材料のマテリアル・リスク指標を、"持続的供給リスク"、"環境変動リスク"、および"毒性リスク"としてとらえ、それぞれに対する指標を数値化した。この数値化において、元素ごとに共通の手法を用いることで横断的な比較を可能とし、材料や部材の設計に用いることができるようにした。さらに、これらの指標の適用方法を"持続的供給リスク"を表す関与物質総量を中心に例示した。とくに、リサイクルの適用に関して実際のリサイクル技術の開発と合わせて都市鉱石化の評価に関与物質総量を用いるという新しい適用方法も明らかにした。
著者
馬場 章
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では、わが国科学技術黎明期たる江戸時代の計量統制に関する従来の研究の問題点に鑑み、彫金・大判・分銅という三家業を営んだ後藤家の分銅に関わる文献・器物資料を対象に調査・整理・分析・考察を行った。また、後藤家の分銅関係の文献資料に構造分析を加え、分銅の製造・流通過程と検定の全貌を解明した。さらに、後藤家伝来の器物資料である各種分銅の精密計測を行い、文献資料と器物資料の相関を解明した。後藤家伝来の分銅のうち、特に「正本分銅」は、後藤家が製造した分銅の基準になったと推測されるので、精緻な重量の測定を行った。平成17年度は以下の3点の研究を行った。1、史料翻刻昨年度に引続き、分銅関係資料の解読作業を行い、未翻刻の一次資料である「分銅御用諸書留」の解読作業を完了した。「分銅御用諸書留」により、近世後期から明治初年にかけての分銅の検定にかかわるプロセスや流通する分銅の公定価格の推移を知ることができ、これまで未解明であった分銅の製造・流通過程と検定の全貌を明らかにした。2、分銅調査未整理の分銅関係の器物資料のうち、千枚分銅模型・「正本分銅」・市中分銅・極小分銅など各種分銅及び分銅製作道具を調査・整理し、1点毎のデータを採取した上で目録を作成し、写真撮影を行った。分銅の重量・寸法に関しては、デジタル機材を活用して精緻な値を求めた。特に、「正本分銅」については、国立科学技術博物館の協力を得て、精緻な重量の測定を実施した。3、報告書の作成上記1、2の調査・作業で得られた成果を掲載した報告書を作成した。ここには分銅・諸道具一式の目録、「正本分銅」の各種データ、分銅関係資料の解読文が掲載される。これらの成果を踏まえ、本研究の目的である後藤家伝来の分銅に関わる文献資料および器物資料の構造化と両者の相関関係を考察し、その結果を論考として掲載した。
著者
丸山 文裕
出版者
独立行政法人国立大学財務・経営センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本の大学における収入は、長年にわたって専ら政府予算、家計の負担、付属病院など事業収入で構成されてきた。大学システムの規模が小さければ、政府の負担によってのみ大学の運営をすることは可能であろうが、より多くの人々が大学教育を受けようとすると、財政規模は莫大になり、政府の負担だけでは賄えない。これは日本のみならず、高等教育人口がより大きいアメリカでも共通の現象である。本研究課題は、大学の授業料の検討であるが、授業料問題は政府の負担と家計の負担のバランスの問題でもある。本研究では、このバランスをまずデータをもって検討した。他方、大学の経営にとっては、政府予算が削減されると、それを補う方法として授業料の値上げが考えられる。2004年の法人化以後は、国立大学も私立大学と同じように、経営の自立性が求められ、授業料設定も部分的に自由化された。経営の健全化からは、授業料値上げが必要な大学もある。しかし国立大学は国民に安価な授業料で、良質な高等教育機会を提供するという使命を有している。また授業料の値上げは、優秀な学生の確保の点から見て安易にはできない。このように授業料設定は、大学の使命、高等教育機会、大学の経営、学生募集の問題とも密接にかかわっている。本研究は、日本とアメリカの大学での授業料問題を、高等教育費負担、高等教育機会、大学経営、学生募集などの観点から、理論的およびデータを分析し実証的に検討した。そこで得られた数々の知見は、政策的意義を持ち、今後の国立大学授業料水準を考える上で有用と思われる。
著者
玉木 賢策 沖野 郷子 岡村 慶 沖野 郷子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

研究期間内に複数回の海底熱水鉱床探査航海を実施し、まだ未確立の部分の多い海底熱水鉱床の探査手法の確立を目指し、同時に海底熱水鉱床の形成機構に関する研究を実施。海底熱水鉱床が形成される中央海嶺系(実験海域:インド洋)、島弧火山系(伊豆小笠原火山弧)の比較研究により研究を実施する。探査航海に使用する装置としては、有人潜水調査船「しんかい6500」、ROV(Remote Operated Vehicle : 有索無人潜水艇)、海水化学現場分析装置を搭載した採水システム、潜水船等搭載型深海磁力計を使用し、深海探査を実施する。本研究期間中に、中央海嶺および島弧火山系のそれぞれにおいて新たな熱水鉱床を複数発見することを目指す。探査手法として(X)磁気探査手法と(Y)化学探査手法についての開発を行う。
著者
清家 泰 奥村 稔 三田村 緒佐武 千賀 有希子 矢島 啓 井上 徹教 中村 由行 相崎 守弘 山口 啓子 日向野 純也 山室 真澄 山室 真澄 中野 伸一
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

実験区(高濃度酸素水導入窪地)の他に、対照区(高濃度酸素水導入の影響の及ばない窪地)を設け、比較検討した。湖底直上1m層への高濃度酸素水の導入による改善効果として、明らかになった研究成果の概要を以下に示す。(1)対照区では底層水中に高濃度の硫化水素(H_2S)が観測されたのに対し、実験区ではH_2Sが消失した(H_2S+1/2O_2→H_2O+S^0↓)。(2)対照区では底層水中の溶存酸素(DO)濃度が無酸素に近い状態で推移したのに対し、実験区では窪地全域のDOが増大した。また、対照区では底層水中の酸化還元電位(ORP)が負の領域で推移したのに対し、実験区では正の領域まで上昇した。(3)湖底堆積物中のH_2S濃度を鉛直的にみると、対照区では表層部のみでH_2S濃度の減少が観られたのに対し、実験区では表層から5cm程度の深度まで濃度が激減した。また、メタンCH_4(温暖化ガス)もH_2Sの鉛直分布と同様の傾向を示した。(4)対照区に比べ実験区では、底層水中PO_4^<3->に明瞭な減少傾向が観られた。実験区の湖底泥表面に酸化膜の形成が観られたことから、湖底泥界面における共沈現象及び湖底からのPO_4^<3->の溶出抑制が示唆された。(5)対照区に比べて実験区では、底層水中の無機態窒素(NH_<4+>+NO_<2->+NO_<3->)に減少傾向が観られた。酸素導入により、湖底泥界面における窒素除去機能(硝化・脱窒)が活性化したことを示唆する。湖底堆積物の深度別脱窒活性を観ると、対照区では表層部のみ活性を示したのに対し、実験区では表層から5cm程度の深度まで顕著な活性を示した。この結果は、高濃度酸素水の供給により、脱窒部位が大きく拡大したことを意味する。(6)対照区ではベントス(底生生物)が皆無であったのに対し、実験区では、アサリやサルボウガイのような二枚貝の加入は認められなかったものの、多毛類を中心とするベントスの棲息が確認された。以上のように、松江土建(株)社製の気液溶解装置を用いるWEPシステムは、無酸素水塊への酸素供給を起点に、生物に有毒なH_2Sの消失、温室効果ガスであるCH_4の消失、栄養塩(N,P)の減少及びベントスの復活等に絶大な効果を発揮した。通常、還元的な湖底堆積物に対する自然任せの酸素供給では、その効果は、精々、湖底泥表層部の数mmまでと云われていることを考えると、本システムによる底質改善効果(泥深約0~40mm)は絶大である。このようにWEPシステムは、本研究で対象としたような比較的広範囲の窪地に対して有効であり、特に湖底の底質改善に極めて有効であると云える。今後、ランニングコストの低減が図れれば、有用性はさらに高まるものと考えられる。
著者
江崎 雄治 西岡 八郎 小池 司朗 山内 昌和 菅 桂太
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、地域別の将来人口推計の方法について検討した。主な成果は以下の通りである。(1)世界各国の実状を調査し、コーホート要因法が標準的手法であることを確認した。(2)人口移動に関するより適切な推計モデルについて検討した。(3)独自の質問紙調査を実施し、将来の出生の見通しについて議論を行った。(4)外国人の出生、死亡の将来人口推計に対する影響は小さいことが確かめられた。(5)市町村別世帯数の将来推計について課題を整理した。
著者
伊藤 賢一
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的に掲げた「公共空間の希薄化と個人化傾向を説明する統一的な理論モデルを構築すること」は、十分完成した形には至らなかったものの、ある程度中心的なアイディアを示すことができたと考える。中核となるアイディアはBeck(1986)らが提示しているものと殆ど同型であるが、Beckらが必ずしも結びつけて論じなかった地域コミュニティの変容や、新しいメディアの浸透、消費行動の変化なども、さまざまな社会制度やしくみの組織化にともなう「意図せざる結果」として描くことができるのではないか、というものである。これは、現在起こっている社会変動の一面を捉えるだけでなく、多くの社会理論が指摘している傾向性をまとめあげ、現代社会が直面している大きな社会変動の意味を見通す成果になりうると考える。
著者
梅崎 昌裕 河野 泰之 大久保 悟 富田 晋介 蒋 宏偉 西谷 大 中谷 友樹 星川 圭介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

地域研究者が土地利用図を作成するために必要な空間情報科学の最新技術について、その有用性と限界を検討した。具体的には、正規化法による地形補正、オブジェクトベースの分類法による土地被覆分類、数値表層モデルの分析による地理的変数の生成が、小地域を対象にした土地利用図の作成に有用であることが明らかになった。さらに、アジア・オセアニア地域における土地利用・土地被覆の変化にかかわるメカニズムの個別性と普遍性を整理した。
著者
川人 祥二
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、極短時間の光の変化を画素単位で捉える排出制御型電荷変調素子 DOM (Draining Only Modulator)を用いた高時間分解撮像デバイスとバイオイメージング、 超高分解能 3 次元計測への応用について研究を行った。DOM 素子を用いて試作した蛍光寿命イメージセンサにより 2.5ns と 10ns の蛍光寿命の差を明確に区別したイメージングが可能であることを示した。DOM 素子を用いた TOF3 次元計測に対しては、極短時間パルス光に対する素子応答を用いた高分解能距離計測方式を考案し、試作により 300μm の分解能(2ps の時間分解能)を得た。
著者
浜元 聡子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、地方分権下のマカッサル海峡島嶼部地域における社会経済的変化をぶんせきすることである。この研究が始められた2005年当時、インドネシア国内における地方分権は、安定した速度で着実に進行していた。なにかが具体的に変化しているというよりは、地方分権という言葉が遠隔の島嶼部にも届き、住民が生計活動上の変化をこの言葉に期待していたといえる。2007年前半ごろから次第にこの状況が悪化しはじめた。要因の第一は、マカッサル海峡地域における自然資源利用が深刻な資源枯渇に直面しているという認識を、末端の零細漁民でさえもつようになったことである。第二に、石油燃料価格の上昇により、より漁獲の多い漁場を求めて海を移動することができなくなった。海を生活世界の基盤としてきた人々の様相が、このふたつの要因により大きく変化し始めた。2005年ごろから、零細漁民やその妻たちを対象とするマイクロクレジットが島嶼部地域に浸透していたが、ここから融資を受ける世帯が急増した。融資を受ける対象にすらなれない世帯は、条件に適する世帯に代理申請を頼むようなこともある。マイクロクレジットそのものは、沿岸部における品行世帯を救済するために。海洋漁業省が主導してきたプログラムである。漁労活動による収入を増加させるための融資は、教育費や生活費に回されるようになった。零細商業を営んでいた人は運転資金が減少し。貧富の差が拡大した。2008年にはもう一度、石油燃料価格の値上げが予定されている。収入が激減し、生活苦が重く圧し掛かる島嶼部の暮らしに、地方分権という言葉に期待されていた社会経済生活の好転は、現実のものとはならなかった。
著者
金井 守
出版者
田園調布学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

研究3年目の22年度は、これまでの研究成果をソーシャルワーク世界会議、社会福祉学会で発表した。また、サービスの質と権利擁護に関係しサービス利用契約の現状と課題を探るため、7施設・1団体を訪問し、事業者へのヒアリングを行い、契約書等の資料を収集した。さらに、これらの分析を行い、民法や権利擁護その他の文献研究を通して3カ年の研究のまとめに取り組んだ。(1) サービス提供事業者の契約に対する取り組みについて、事業者等へのヒアリング、収集した契約書等から以下のことが認められた。(1)事業者が、利用者との契約を通した権利義務関係の発生の意義を認め、契約締結をサービス利用の主要な入口として評価していること。(2)利用者の契約締結の支援、利用料支払い、入院や退所時の支援など契約を取巻く生活状況に課題があること。(3)身体拘束の禁止等国が定めた運営基準に基づく規定を除き、契約書の中にサービスの質に直接的に触れる規定が見あたらず、サービスの質の担保に課題があること。(2) 収集した契約書等資料の分析や文献研究の結果、以下の点が認められた。(1)利用者はサービスの受け手の地位から契約を通して権利主体としての地位を獲得したこと。(2)福祉・介護サービスの利用が契約関係を通して市民法上の権利として認められること。(3)利用者の契約締結能力、代弁、身上監護など、利用者の権利擁護が課題であること。(4)権利擁護ネットワークの構築を通してコミュニティー強化を展望。(3) 理論上の課題として、以下の点が挙げられる。(1)契約を通した福祉・介護サービスの利用への転換は、福祉・介護領域におけるパラダイム転換を伴う重要で基本的な変化であること、(2)福祉・介護サービス利用者が権利主体として認められることから、事業者・家族等の関係者は利用者の権利擁護に努める責任が生じていること、(3)市民法を中心とする「権利・法」概念とそのシステムが福祉・介護領域に進出したことから、福祉・介護領域では、利用者の権利主張と権利擁護が重要な課題として浮上していること。
著者
佐藤 嘉倫 近藤 博之 尾嶋 史章 斎藤 友里子 三隅 一百 石田 浩 三輪 哲 小林 大祐 中尾 啓子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地位達成過程の背後にある制度に着目することで、不平等を生み出すメカニズムのより深い理解をすることが可能になる。たとえば、貧困にいたるプロセスは男女で異なるが、それは労働市場と家族制度における男女の位置の違いを反映している。また、日韓の労働市場の制度の違いにより、出産後、日本の女性のほとんどが非正規雇用者になるが、韓国の女性は正規雇用、非正規雇用、自営の3つのセクターに入る、という違いが生じる。
著者
関口 章
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

アセチレンのsp炭素をケイ素原子に置き換えたケイ素-ケイ素三重結合化合物「ジシリン」を世界に先駆けて安定に合成することに成功し、その分子構造を決定している。炭素-炭素三重結合化合物アセチレンが直線構造を持つのとは対照的にジシリンはトランス折れ曲がり構造を持ち、三重結合を形成する二つのπ結合は非等価であり、そのπ軌道準位はアセチレンのそれと比較すると著しく高いなどの特徴を有する。今回、ジシリンの物性、及び反応性を明らかにすると共にそれらに対する置換基の電子的、立体的効果を評価した。特に、今回、ジシリンと炭素-窒素三重結合を有するニトリル類との反応性を検討したところ、炭素パイ電子系と全く異なる反応性を示すことを明らかにした。1. 三重結合ケイ素化合物ジシリンに対して過剰量のトリメチルシリルシアニドを無溶媒条件下、室温で加えると、溶液の色は赤褐色へと変化した。ベンゼン中から再結晶することでジシリンービス(シリルイソシアニド)錯体の紫色結晶が得られた。一方、ジシリンのヘキサン溶液に対して2当量のトリメチルシリルシアニドを加えた場合、微量のビス(シリルイソシアニド)錯体とともに1, 4-ジアザ-2, 3-ジシラベンゼン類縁体が主生成物として得られた。2. ポリアセチレンの化学ドーピングによるソリトンやポーラロンの発生などの諸物性との関連から、ケイ素-ケイ素三重結合化合物、ジシリンのアルカリ金属による-電子還元反応を検討した。その結果、カリウムグラファイト、^tBuLiとの反応で容易に電子移動を起こし、安定なジシリンアニオンラジカルを生成することを明らかにした。これらのアニオンラジカルの分子構造や電子状態をX線構造解析、ESR測定、理論計算などを用いてアニオンラジカルの諸物性を明らかにすることができた。最終目標のポリジシリンの合成には至っていないが、新しいπ電子化合物三重結合ケイ素化合物ジシリンの興味ある反応性を明らかにすることができた。
著者
鍾 淑玲
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は台湾の近代流通構造および小売業展開の特徴を明らかにすることを目的として、まず、台湾における現地資本と外国資本の小売企業の競争状況、主要小売業態の上位企業の経営概況、そして、小売国際化の特徴を把握した。個別企業研究は、2大コンビニエンス・ストア・チェーンの展開による小売国際化、大手自転車メーカーの流通チャネル政策による流通近代化、外資系小売企業の中国市場参入の実態と影響を考察し、最後に台湾の流通政策と伝統的な商業集積の近代化との関係を明らかにした。
著者
高橋 秀依 南目 利江
出版者
帝京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では、新規な糖の連結法の開発を行い、それによって新たな機能を有する糖関連生物活性物質を創出することを目的としている。まず、血糖効果作用を有するエーテル結合糖であるcoyolosaの構造を基本とし、その類縁体合成を行った。coyolosaはメキシコのヤシの木の根から得られた天然物で、ピラノースが6位同士でエーテル結合した極めて珍しい構造を有している。このようなエーテル結合糖の安定供給をめざし、還元的エーテル化を用いて化学合成を行った。また、生物活性の検討によってエーテル結合糖に血糖効果作用があることを確認した。続いて糖のその他の部位(2〜4位)にエーテル結合を形成すべく、オキシランの開環反応を利用したエーテル結合形成を試みている。オキシランの開環にあたっては位置選択性が重要であるが、糖の環状に形成されたオキシランの場合は糖の水酸基の立体化学及び反応条件(塩基性もしくは酸性)が影響し、適切な基質及び反応条件を用いることで所望する位置選択性がもたらされることを明らかにした。また、この研究の過程で新しいグリコシド結合形成反応を見出し、エーテル結合とグリコシド結合を併せ持つハイブリッド型の糖の連結を行った。さらに、ピラノースの1位にメチル基を導入した1C-メチル糖のグリコシル化及びカルバメートによる糖の連結を行い、様々な連結様式による糖鎖構造の創出を行った。これらの検討によって得られた糖類の生物活性を他機関において検討していただいている。