著者
江原 慶
出版者
大分大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

近年,財政政策の目標を完全雇用とし,それに必要な資金を中央銀行と中央政府とが一体となって弾力的に供給しつつ,マイルドなインフレを達成しようとする「現代貨幣理論(MMT)」が注目を浴びている。MMTの背景に,ケインズ的な表券貨幣論があることはよく知られるが,ケインズ派と対立する貨幣論をもつとされる,マルクス経済学者の間でもMMTへの関心が高まっている。MMTが,貨幣論の立場の違いを 超えて一般的に成立するのか,検討する必要がある。そのため,本研究では,ケインズ派貨幣論・金融論との比較検討を行い,マルクス派MMTが実現可能かを検討する。それにより貨幣論史研究の成果が現代的な政策論議へと還元される。
著者
田村 美由紀
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2021-08-30

本研究では、中途障害(病気の後遺症による手指の麻痺や書痙、視力の低下など)を抱え、自ら筆を執って書くことに困難を極めた作家たちが、口述筆記という書字を他者に代行させる方法で創作活動を継続させたことに焦点を当てる。上林暁・三浦綾子・大庭みな子という三人の作家を具体的事例に取り上げ、障害学の視点から口述筆記による創作の実態を解明する。これらの作業を通じて、作家たちの中途障害との向き合い方や、口述者(被介助者)と筆記者(介助者)との関係性を、摩擦や軋轢といった側面も含めて多面的に浮き彫りにするとともに、口述筆記というケアの営みにおいて身体的な協働性がどのように構築されているのかを明らかにする。
著者
村田 雄二郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

研究1年目の今年度は、当初の研究計画にしたがい、備品購入による研究環境の整備、基礎的な文献の収集と調査を行った。また、北京に出張した機会を利用して、中央民族大学を訪問し、胡振華・索文清教授と面談し、中国の民族学研究をめぐって、研究交流を進めた。索教授からは、大陸におけるチベット近現代史研究の現況に関して、貴重な提言と示唆を得た。さらに研究開始後まもなく、日本の外交資料館に収蔵される外交文書「西蔵問題及事情関係雑纂」に、本研究に有用な資料が含まれることが判明した。次年度も引き続き、これらの資料や情報を活用した研究を進めて行くつもりである。以上の作業にもとづく今年度の研究成果は、次の通りである。1、 南京国民政府はその成立当初から、周辺民族、とくにチベット・新疆・モンゴルの統合問題を重要な政治課題に掲げ、行政院(内閣)に蒙蔵委員会を設置するなど、その実効支配のための制度や環境を整えようとした。2、 しかし、そうした努力にもかかわらず、対チベット関係においては、東チベット地区(中央は1939年に西康省を設置)で1930年唄から、チベット・漢軍の激しい武力衝突が頻繁に発生したことが物語るように、中央政府がチベットに実効支配を及ぼす力はなかった。1931年の満州事変が、国民政府による国家統一の危機をさらに深めたことはいうまでもない。3、 こうした状況の中で、1933年にダライ・ラマ13世が死去したことは、中央政府にチベット「介入」へのまたとない機会を提供するものだと受けとめられた。34年、ラサでのダライ・ラマの葬儀に列席した黄慕松は、中央大官の初めてのラサ入りとなった。また、40年の新ダライ・ラマ即位式典に蒙蔵委員会委員長呉忠信が参列したことは、国民政府のチベット関与を一歩前進させるきっかけになった。4、 ただし、呉忠信の式典参加をめぐっては当時から、「主宰」か「参列」かで、その解釈が大きく分かれており、民国期の中蔵関係を考える上での、一つの焦点となっている。次年度は、この点に的を絞り、黄慕松および呉忠信のチベット入りをめぐる中蔵関係の展開について、档案資料を駆使した個別研究を行うことにする。
著者
川上 民裕
出版者
東北医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ヒトiPS細胞由来メラノサイトを独自の条件設定で、効率よく分化・増殖させ、大量産生に成功した(特許取得)。本研究は、この細胞のさまざまな臨床応用へのステップである。①メラノサイトの欠如・機能不全疾患である尋常性白斑や脱色素斑への移植を含めた再生医療。②メラノサイトが癌化した悪性黒色腫の機序解明に使用し、重要因子の発見と有意義な治療法の開発。③美白化粧品の主成分である様々な物質のメラノサイトへの効果を検証する美白化粧品開発に利用。
著者
中川 忠彦
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

眼から入る光刺激は内因性光感受性網膜神経細胞を介し脳内ホルモンやコルチコステロイドの分泌を促進する。このため日常生活における照明光は脂質代謝に影響を及ぼし、脂質代謝異常症の発症や増悪に関与する可能性が考えられる。本研究では、普及の進む新たな照明源であるLED光によって生じる脳内ホルモンならびに脂質分解・合成酵素の変化についてマウスを用いて評価した結果、脂質代謝に影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
長田 礎
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2022-08-31

2019年のニッケル酸化物超伝導の発見は、高温超伝導機構の解明に向け、新しい道筋を与えた。しかし、ニッケル酸化物で起きる超伝導は、これまで正孔ドープした化合物に限られており、電子ドープ型化合物の合成報告はまだない。これは、母物質において、ニッケルがすでに Ni1+という異常低原子価状態をとっており、直接的にAサイトを4+イオンで部分置換することが困難であることに起因する。本研究では、酸化物ヘテロ構造による界面電荷移動を利用して、ニッケル酸化物の電子ドープを試みる。
著者
岡本 宜高 柳原 伸洋 橋口 豊 山口 育人 小長谷 大介 堀内 隆行 野村 真理 河村 豊
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

日本やドイツなどの第二次世界大戦の敗戦国の「戦後」に関しては、戦争責任や「過去の克服」に関する研究が国内外で進展してきた。一方で戦勝国の「戦後」については、大戦中の戦略爆撃による非戦闘員の大量殺戮、大戦後の統治領域での植民地主義や人種主義の継続など、数々の問題が指摘されているものの十分な研究がなされてこなかった。こうした状況を踏まえ、本研究は戦勝国の中からイギリスに焦点を当て、大戦から受けた複合的、重層的な影響を、外交史、西洋史、文化史、科学史の知見を融合して学際的かつ包括的に検証し、「戦後」をめぐる研究に戦勝国と敗戦国という境界線を越えた形での新たな視座を提示することを目指す。
著者
三瓶 良和 松本 一郎 大平 寛人
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年,蛇紋岩化作用に伴って発生する水素の意義が見直され,地球有機物圏は下部地殻~上部マントル域に飛躍的に広がろうとしている。その発見は生物地球化学的視点から始まったが,メタンおよびプロパン以上の無機起源中~長鎖炭化水素も見つかり地球内部炭素循環の理解の変革が求められている。それら超深度炭化水素・有機物は濃度的には希薄だが地球規模での総量は膨大であり,また炭化水素は移動して集積することができるため新たな炭化水素資源域として見直される可能性も高い。本研究では新たな未解明フロンティアである地下超深部での有機物の特徴と組成,その濃度,炭素の起源,炭化水素生成プロセス等についての解明を行う。
著者
西田 豊明 馬場口 登 谷口 倫一郎 黒橋 禎夫 植田 一博 伝 康晴 辻井 潤一 美濃 導彦 中村 裕一
出版者
京都大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2001

(1)講義のコミュニケーションに関する一連の研究の総括を行った.マルチモーダルセンシングによる会議環境の記録の手法について知見を得た.会話に適切な構造を与えて記録し,再利用を促進するための手法を提案した.非言語的な手がかりに注目した会話量子の自動抽出法の研究を行い,実装した.(2)会話の雰囲気や焦点などの自動認識と会話構造化のための知見を得た.会話記録をマルチメディアコンテンツとして加工する研究を行った.会話量子を風景として可視化できる会話コンテンツアーカイブシステムの開発を進めた.深い理解のための言語情報処理基盤の研究と,人間の言語活動に関する認知言語学的考察を行い,種々のアプリケーションシステムを構築した.(3)身体性のある知識メディアとしての会話ロボットを一部実装した.種々の身体表現が人間に与える影響を調査した.体格に依存しない情報提示を実現した.会話エージェントパッケージUAPを用いて,異文化コミュニケーションの学習支援システムと,ユキャンパスガイドエージェントシステムを試作した.(4)人間の嘘を視線・顔方向・表情のみから自動的に判別するシステムを構築し,その評価を行った.インタラクション時の行動的指標と生理指標とユーザのインタラクション状態の関連を明らかにした.ターン構成単位の認定のための手続き的な基準を与えた.包括的読解課題および局所的読解と,「心の理論」の関係を検討し,児童期の心の発達を分析した.同調性・信頼感と心的プロセスとの間の関連を実証的に検証した.対話中の身体動作を定量的に評価する手法を提案した.会話記録のスコアリング手法を提案した.ウェアラブルセンサ・環境センサを用いて獲得された多視点の同期した体験データを閲覧・分析可能とするシステムiCorpus Studioを開発した.
著者
清成 透子 高橋 泰城
出版者
青山学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

テストステロン(T)は一般に社会的支配性を促進すると考えられているが、Tと経済ゲーム実験における意思決定の関係は研究により一貫していない。本研究では、日常的に社会的地位格差のある集団(大学体育会ラグビー部)を対象に唾液中のT値と最後通牒取引ゲーム(UG)における意思決定との関係を一連の実験にて検討した。その結果、TはUGにおいて学年(社会的地位)の高い参加者の間では支配的な行動を促進することが明らかになったが、学年の低い参加者に関しては結果が安定しなかったため、今後のさらなる検討が必要である。
著者
前野 浩太郎
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

サバクトビバッタは混み合いに応じて行動や形態、生理的な特徴を連続的に変化させる相変異を示す。相変異形質の一つとして、本種の孤独相(単独飼育)メス成虫は群生相(集団飼育)のものに比べ小さい卵を産むが、成虫期に混み合いを経験すると大きい卵を産み始める。小型卵からは緑色の幼虫が孵化し、一方の大型卵からは黒い幼虫が孵化する。メス成虫がどのように混み合いに反応して卵サイズを決定しているのか調査した。まず、混み合いの感受期を明らかにするために、様々な長さの混み合いを産卵後色んな時期の孤独相メス成虫に処理し、次の産卵時の卵サイズを調査したところ、産卵2-6日前に経験する混み合いが卵サイズの決定に重要で、その感受期の間に経験する混み合う時間が長いほど卵は大型化することが分かった。次に、卵サイズの大型化を誘導する混み合い刺激(視覚、ニオイ、接触)を様々な組み合わせで処理したところ、接触刺激のみが重要であることが分かった。他個体との接触刺激を感受する部位を特定するために、混み合い処理を施す前に予め身体の様々な部位(触角、頭部、前胸、翅、脚)をマニキュアで塗り潰し、反応を調査したところ、触角が感受部位であることが分かった。孵化幼虫の体色が決まる仕組みを明らかにするために行った2種類の体色突然変異体を掛け合わせた実験より、群生相の孵化幼虫の黒い体色は色素沈着の有無を決定する遺伝子と黒化の強さを制御する遺伝子の二つが少なくとも関係していることを突き止めた。また、孵化時の大きさがその後の発育、脱皮回数、生存率に重大な影響を及ぼすことを明らかにした。非常に充実し、実りのある1年になったが、まだ研究は始まったばかりである。今後もサバクトビバッタの相変異の解明に尽力を尽くすと共に、バッタ問題に立ち向かっていきたい。最後に、研究に専念する機会を与えて下さった日本学術振興会にこの場を借りて御礼申し上げる。
著者
鈴木 康夫 徐 桂雲 WEBSTER Robe ITZSTEIN Mar WARD Peter A XU Guiyun VON ITZSTEIN Mark WEBSTER Rob 宮本 大誠
出版者
静岡県立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

近代病理学の基礎を築いたウィルヒョウ(Virchow)は、すべての病気は細胞の異常に起因する、という「細胞病理学」を確立した。細胞が生命を維持し、複製していくためには、核酸とタンパク質は必須であることは言うまでもない。本研究では、遺伝子の支配を直接受けない第3の生命鎖である糖鎖に焦点を当て、その機能を病気との関連において分子レベルで明らかにすることを目標とし、「糖鎖病理学」ともいえる領域に踏み込む研究を行うことを心がけた。この背景として、著者は、細胞表面の糖脂質、糖タンパク質糖鎖の構造と機能に関する研究を続けてきた.この過程で多細胞生物を構築する細胞はさまざまな接着の形を通して生物個体全体のシステムを維持しており、この乱れが疾患として認識されること、細胞の接着の多くが糖鎖を介して行われることを明らかにして来た.すなわち、糖鎖を介する細胞-細胞間、細胞-バクテリア間、細胞-ウイルス間の接着および認識が病態と深く関わることに注目していた。本研究では、初年度は、主に脈管系の糖鎖を介する接着分子(セレクチン群)の病態への関わりを中心とした研究を行い、次年度はこれに加えて、ウイルス(特にインフルエンザウイルス)の感染における糖鎖認識接着分子の分子生物学的研究を加えた。脈管系細胞には、サイトカインなどの刺激により発現される新しい糖鎖認識レセプタータンパク質群(セレクチンファミリー;E-セレクチン、L-セレクチン、P-セレクチン)があり、これらは、リンパ球のホ-ミング、好中球やリンパ球の血管内皮細胞への接着と炎症組織への遊走、血小板同士の凝集や、原発癌細胞の転移、浸潤などに深く関わることが我々の研究を含め明らかにされつつある.我々は、本研究において、L-セレクチンやP-セレクチンの新しい糖鎖性リガンドとして硫酸化糖鎖を見出し、さらに、腎炎や肺炎の発症や癌細胞の転移には標的細胞膜の硫酸化糖鎖へのL-およびP-セレクチンを介したリンパ球や血小板の接着が深く関わることを明らかにした。セレクチンファミリーは新しいレクチン様接着分子であり、白血球のローリングによる血管内皮細胞への接着開始において免疫学上極めて重要な役割を担うと同時に、続いて起こるスーパーオキシドやプロテアーゼ産生による組織細胞の損傷などさまざまな病態発現とも深く関わるタンパク質である。本研究では、硫酸化糖脂質であるスルファチドが、L-およびP-セレクチンと特異的に結合する糖鎖リガンドであること、L-およびP-セレクチン依存性の肺炎、腎炎さらに肝炎などを強力に阻止できることなどを見出した。また、スルファチドは、Bリンパ球上に存在しTリンパ球には存在しないこと、Bリンパ球の分化、増殖および抗体産生に深く関わることなど、免疫学上重要な現象を明らかにすることができた。さらに、スルファチドは、TNF-αの産生を抑制し、エンドトキシンショックの予防に極めて有効であることを見出すことができた。一方、インフルエンザウイルスはウイルス膜に宿主細胞表面の糖鎖性受容体への結合に必須なヘマグルチニン、および受容体を破壊する酵素(ノイラミニダーゼ)を有している。インフルエンザA型ウイルスは、ヒトのみならずブタ、トリ、ウマなど多くの動物にも感染し、世界的大流行を起こす。この原因は、ウイルスヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼの変異に起因する。本研究においては、ヒトおよび動物インフルエンザウイルスが認識する糖鎖性受容体の構造を明らかにし、次いで、どのようにして宿主の壁を超えるのかという宿主変異機構の一端を分子生物学的に解明できた。すなわち、インフルエンザウイルスヘマグルチニンの変異は、主として抗体による圧力の他に、受容体認識特異性、すなわちシアル酸分子種[N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)]認識特異性とシアル酸の結合様式(Neu5Aα2-3Galβ1-,Neu5Acα2-6Galβ1-)に対する認識特異性によるウイルスの選択が重要な因子であることを見出した。さらに、このシアル酸結合様式の認識特異性の発現にはLeu226のアミノ酸が極めて重要な役割をしていることも解った。以上の成果は、研究分担者である、Peter A.Ward教授(ミシガン大学・医学部・病理)、Robert G.Webster博士(St.Jude Children's Res.Hospial,Memphis・ウイルス学、分子生物学部門)、Mark von Itzstein教授(Monash University,Victorian College of Pharmacy)、徐 桂雲博士(中国科学院、化学研究所)との共同研究により成された。心より謝意を表するものである。
著者
鳥養 祐二
出版者
富山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

トリチウム水からトリチウムを効率よく回収するため,水素吸蔵合金電極を用いたトリチウムの回収法を提案し,検討を行った。平成12年度に吸蔵合金中に吸蔵された水素の同位体比測定装置を作成した。ガスの吸蔵反応において,重水素より軽水素の方が安定なPdを電極として使用すると,電解時間の経過とともに電極内部に軽水素が濃縮されるが,軽水素より重水素の方が安定なVを電極材料として使用すると,わずかではあるが,重水素が濃縮されることを見いだした。このような現象は今までに報告されていない。しかし,V電極は電解吸蔵の効率が悪く,濃縮率にばらつきが見られ,再現性に問題があった。そこで,Vの水素吸蔵量を増加させるためVにPdやPtを蒸着させたが。V単独では重水素の濃縮したのに対し,PdやPtを蒸着した場合、重水素の濃縮は見られなかった。次に,Vと同様に軽水素より重水素の方が安定なLaNi_5について検討した。電解時間1時間では重水素の比率が15%であったが,電解時間の増加とともに重水素の比率は増加し,電解時間10時間では40%に増加した。しかし,H/LaNi_5=4以上の水素を吸蔵させると,電極が壊れ,それ以上の水素を吸蔵させることはできなかった。水素吸蔵合金中での同位体濃縮挙動を説明するため,陰極上で軽水及び重水が電解され合金中に吸蔵される反応と,合金中からH_2, D_2, HDを放出する反応を仮定し,それぞれに反応速度定数を与え,反応を模擬した。Pd中では重水素の方が軽水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に吸蔵された重水素の比率が減少するという実験結果を再現することができる。反対に,VやLaNi_5では,軽水素の方が重水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に重水素の比率が高くなるという実験結果を再現することができる。この仮定が正しければ,電極を工夫し,更に水素を吸蔵させれば軽水素より重水素を濃縮できる可能性があることを示唆している。
著者
武者小路 公秀 宣 元錫 華 立 早尾 貴紀 小倉 利丸 羽後 静子 野田 真里 梶村 美紀 松原 弘子 鈴木 江理子 塩原 良和 金 敬黙 佐竹 眞明 近藤 敦 浜 邦彦
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、グローバル移住の女性化が進む日本と韓国両国の移住者コミュニティにおける人間の不安全状況とこれに対応する移住者自身と市民社会のサポーターの活動において、ヴェトナムとフィリッピンを送り出し国として進められた。その結果、移住女性が直面する公共圏と親密圏における諸問題の性格、特に、移住先と故郷との双方を生活圏とする新しい公共、新しい市民像の形成を目指す移住市民との協力活動の重要性が確認された。
著者
伊藤 要子 相原 真理子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ストレス環境から生体を防御するため、細胞はストレスタンパク(Heat shock protein : HSP 70)を誘導し、ストレスによる細胞傷害を素早く修復し、細胞を防御(生体防御)している。我々は従来より、HSP 70の生体防御作用を検討してきた。そして予め加温してHSP 70を誘導しておくことにより、次に来る大きなストレスによる傷害を防御できることを平成10、11年度の科研費基盤研究(C)の援助を得て報告した。そして、予備加温により筋肉疲労を防御する結果を得た。この結果は、まさしく運動能力向上を意味し、温熱療法によるHSP 70のスポーツ界への貢献の基盤となった。一方、スポーツもストレスであり、我々は、スポーツというストレスの場に自らを置き、HSP 70を誘導して健康維持に役立てている。そこで、我々は、実際の運動トレーニングに更に、要所に温熱療法を取り入れ誘導されるHSP 70によって競技能力のレベルアップを図ることを目的とした。この温熱療法を取り入れた運動トレーニングを温熱トレーニングと名づけた。そして、低温ミストサウナでの連続加温の条件決定をマウスで検討し、血中リンパ球中HSP 70は、39℃加温2週間で、下肢筋肉中HSP 70は39℃加温3週間で最大となった。よって、レスリング選手に2週間のトレーニングと終了後ミストサウナで39℃10-15分加温し、体力テスト2日前にマイルド加温を実施し、運動トレーニングのみと温熱トレーニング群で体力テストを比較した。その結果、温熱トレーニング群は、体力テスト、HSP 70、NK活性すべてで有意に勝っており、乳酸値も低下しており疲労からの回復も勝っていた。よって、従来の運動トレーニングの考えに、HSP 70の概念を導入し、様々な競技に対する練習・訓練の効果の評価にさいしてHSP 70も指標の1つとして評価する科学的トレーニングが必要と思われた。更に、スポーツを行うに際して、誰もが経験する筋肉痛に対し、これを予防する手段として、マイルド加温による予備加温を検討し有効であることが実証された。医学部学生5人に腕立て伏せ100回、スクワット100回を時間の制限無く実施させ筋肉痛実験を実施したところ、2日前にマイルド加温した予備加温群は自己評価での筋肉痛は有意に減少しており、筋硬度、CPK活性も有意に低下していた。マイルド加温によりHSP 70が誘導され、運動能力が向上することがオリンピックでも、レスリング選手によっても明らかとなった。マイルド加温をスポーツに取り入れた温熱トレーニングは、21世紀のトレーニングとして、HSP 70を指標とした科学的な最先端のトレーニングングである。また、マイルド加温の利用により21世紀のスポーツは、筋肉痛なくスポーツが楽しめる。しかし、このマイルド加温およびマイルド加温によって誘導されるHSP 70の効果は殆ど知られていないのが現況である。多くの人々にHSP 70を知っていただき、自分自身でHSP 70を高め、より健康的にスポーツを楽しんでいただきたい。
著者
吉野 相英 岩田 朋大 立澤 賢孝 古賀 農人
出版者
防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

BAFMEに関して、これまでの研究に精神症状発症や重症度との関連を報告した例はない。その理由として、BAFMEの症状を持つ患者は通常神経内科を受診するそのため精神症状を正確に捉えきれないことが考えられる。逆に精神症状が出現した患者が精神科を受診した場合、BAFMEと気づかず、例えば抗精神病薬による錐体外路症状の一部であるとされてしまうことが考えられる。本研究により、BAFMEの発症と精神病症状との相関を明らかにすることで、BAFMEの症状を持つ患者に対して適切な処置が施せる様になることに期待ができる。さらには、生物学的な機序が明らかにされていない精神疾患の病態生理の解明にも貢献できる。
著者
岡本 仁
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2016-05-31

手綱は、進化的に最も保存された脳の部分の 1 つであり、嫌悪刺激に対処するための行動の制御における役割で知られている。 ゼブラフィッシュでは、社会的闘争において支配的か服従的に行動するかの選択の制御において、背側手綱からその標的である脚間核までの2つの平行な神経経路が重要な役割を果たす。それぞれの経路は、その結合強度が空腹などの魚の内部状態に応じて可変的であり、注意を自分自身か外部に向けるかにおいても重要な役割を果す。 即ち手綱核が、自分自身の身体の状況に注意を払う勝者として、または他者や外界に注意を払う敗者として振る舞うかを制御するスイッチボードとして働く可能性が明らかになった。
著者
松永 明
出版者
鹿児島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

水素ガスが細胞毒性の高い活性酸素種であるヒロドキシルラジカルを選択的に消去し、虚血再灌流障害を抑制することが確認され、ラットの中大脳動脈閉塞による局所脳虚血再灌流モデルにおいては、2%の水素ガス吸入が脳梗塞の範囲を縮小し、神経学的予後を改善させることが報告されている。水素ガス吸入が心肺停止からの救命率の向上、および蘇生後脳症の発症の予防に有効かどうかを確認するために、ミニブタを用いた心肺停止モデルを作成し、水素ガス吸入が救命率向上および神経学的予後改善に寄与するかどうか検討を行った。気管挿管による全身麻酔下に心室細動による3分間の心肺停止を行い、1) 水素吸入群は除細動による蘇生開始後より100%酸素ガスに2%水素ガスを混合したガスを1時間吸入、2) 対照群は除細動による蘇生開始後より100%酸素ガスを1時間吸入した。水素吸入群と対照群において3分間の心室細動後の自己心拍回復率および蘇生後の血行動態に差を認めなかった。また、蘇生後の神経学的予後改善に水素吸入が影響を与えるかどうかは検討できなかった。幾つかの論文では水素ガス吸入による虚血再灌流後の臓器保護効果を認めているが、我々のミニブタを用いた心肺停止モデルにおいては、水素ガス吸入による救命率の向上は確認できなかった。また、水素ガス吸入による蘇生後の脳神経保護効果は検討できなかった。今後、心肺停止時間の異なるミニブタモデルを作成し、水素吸入が心肺停止からの救命率向上に貢献するか、また、蘇生後脳症を軽減させるかどうかさらに検討を重ねていきたい。
著者
金 樹英 西牧 謙吾 東江 浩美 田島 世貴 豊田 繭子 佐久間 隆介 篠原 あずさ
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

特別支援教育の経験がなく不登校のASD青年を対象にショートケアを実施した。研究期間中に利用登録したのは11人で、就労移行支援サービスや進学などで卒業したのは5人、2年以上利用継続しているのは3人だった。ショートケア利用により親の総合的な精神的健康度は改善がみられた。外来通院患者で不登校の有無で比較したところ、不登校群の方が全検査IQ(FSIQ)、言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)の得点が高く、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PSI)では差がみられなかった。発達障害を伴う場合(N=22)では、同様のパターンがより顕著にみられた。
著者
天畠 大輔
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

科研研究の最終年である今年度は、博士論文のデータ収集だけでなく分析枠組み作り、分析、そして考察執筆に着手した。博士論文では、アウトプットが困難な重度障がい者と介助者との関係性に焦点を当てるため、不足するデータを補う為に追加インタビューも実施した。具体的には、兵庫県に在住したS氏とその介助者への聞き取り調査を4月に実施した。これと並行して、今年度の研究目的の一つであるアウトプットが困難な重度障がい者を支援する支援機器について、国内外の情報を収集・整理した。具体的には、他者と円滑に意思疎通ができる手段として注目される「BMI(Brain-Machine Interface)」の最新技術と臨床現場を知る為にフランスのロックトインシンドローム協会を訪問し、専門家および患者家族へのインタビューを行った。これは、脳と外部機器を直結して意思疎通を可能にする最新技術である。医療技術の進歩によって脳障害をおった患者の生存率は上がった。しかし、回復後のコミュニケーション支援は不十分であることもわかった。本研究の意義は、コミュニケーションが困難な障がい者が生活するために「通訳者」の養成と制度化、および支援機器が行き渡ることが急務である事を明らかにした点である。この点が大きな社会的意義があると言える。