著者
蘇米雅
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
ジャーナル「集団力学」 (ISSN:21854718)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.102-130, 2010-07-01 (Released:2013-04-16)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本稿は、中国・内モンゴルにおいて自然保護政策として実施された生態移民が、地域生活に及ぼす影響を環境正義の観点から考察する。1949年以降、内モンゴルでは、国策として、遊牧から定住への移行が強制され、さらに放牧地が細分化・固定化されたため、草原は耕地化され、その結果、砂漠化が進行、大都市でも黄砂被害が深刻な問題となった。政府は、黄砂被害を食い止めるために、生態移民政策を打ち出した。その政策は、砂漠化の原因は過放牧にあるという前提に立ち、草原を囲い込んで禁牧にするとともに、牧民を都市に移住させるというものだった。本研究は、内モンゴル正藍旗にあるオリックガチャーとバインオーラガチャーという2つの村における生態移民の経緯を、参加観察によって詳しく追尾し、環境社会学で議論されている「環境正義」について新しい視点を導入しようとするものである。 バインオーラガチャーでは、2002年の生態移民によって、牧民は30キロ離れた移民村に移動、集住することになった。生業も、モンゴル牛数10頭の放牧から輸入ホルスタイン牛数頭の畜舎飼育に変化した。高価なホルスタイン牛の購入費は、借金として村民の肩にのしかかった。かつては自家消費に回していた牛乳も商品化され、生活のすべてが貨幣なしには成立しなくなった。また、村民全員に集住が強いられたため、元の村の構成単位(ホトアイル)は壊され、近隣の結びつきは弱体化してしまった。そのような村民が、生活の現状をなげくとき、現状と対比されるのは、元の牧民生活だった。 2004年、バインオーラガチャーよりも早く生態移民が実施されていたオリックガチャーの移民村で、村民の一部が、違法行為を覚悟で、元の草原で再放牧に乗り出した。彼らは、畜舎で飼っていたホルスタイン牛を連れて、元の草原に戻り牧民生活を再開したのだ。それは、も元のホトアイルを新しい形で創造する試みであり、モンゴル語の「スルゲフ」(再生)を連想される試みであった。 本稿では、再放牧の動きを、新しい共同性に基づく正義に支えられた動きであると考察した。すなわち、地検・血縁による自然的共同性でもなく、また、生態移民政策に見られるような人為的共同性でもない。一見、昔の共同性への回帰に見えはするが、それは、人々が内発的に創造する共同性、すなわち、内発的共同性に基づく正義が再放牧を支えているのではなかろうか。
著者
本多 裕一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100268, 2013

【はじめに、目的】 昨今,理学療法学生の精神面の弱さが指摘され,実習を継続できない事例も散見される.これを受け,臨床実習とストレスの関係を調査し,本校の実習指導における介入尺度の一つとするべく本研究を行った.学生個々のストレスに対する強さが異なる中で一定の尺度の下,平均以上の者と未満の者とで実習に対するストレスの感じ方に差があるか否かを検証した.また実習の要素として大きな比重を占めると考えられるスーパーバイザー(以下S.V)との関係性とストレスについても検証した.【方法】 学生(有効回答 男42名,女15名25.45±6.2歳)に対し,2種類の質問紙調査を行い,統計処理を行った.実習1期及び2期それぞれの開始前後にSOC(sense of coherence)縮約版13項目スケール(東京大学大学院医学系研究科健康社会学・Antonovsky研究会作成)を実施した.同スケールは,スコアの低い者は主観的健康感がよくない者やうつ状態の割合が高く,少しのストレッサーでも心身の健康が悪化しやすい.逆に高い者は多くのストレッサーがあっても健康が損なわれにくく「ストレス対処能力」が高いとされ,以下の3つの下位尺度が含まれる.即ち日々の出来事や直面したことに意義がある,あるいは挑戦とみなせる感覚を示す「有意味感」,自分の置かれている状況を予測可能なものとして理解する感覚を示す「把握可能感」,困難な状況を何とかやってのけられると感じられる感覚を示す「処理可能感」である.「有意味感」について「あなたは自分のまわりで起こっていることがどうでもいい,という気持ちになることがありますか?」など4項目,「把握可能感」について「あなたは,気持ちや考えが非常に混乱することがありますか?」など5項目,「処理可能感」について「どんな強い人でさえ,ときには自分はダメな人間だと感じることがあるものです.あなたは,これまで自分はダメな人間だと感じたことがありますか?」など4項目,合計13項目の質問から構成され,それぞれ7件法で評価,点数化(範囲は7~91点)される.一般平均は54~58点とされる.続いて2期目実習終了後に質問紙調査(4件法で1~4の順序尺度をコード化)を行った.質問A:「実習中にストレスを1.とても感じた ~ 4.全く感じなかった(ストレスの程度)」,S.Vとの関係性について,質問B:「(S.Vに対して)質問は1.とてもしにくかった ~ 4.とてもしやすかった(質問しやすさ)」,質問C:「指導内容は1.全く理解できなかった ~ 4.とても理解しやすかった(指導内容の理解)」の3項目を準備した.そしてSOCスコアについて平均以上と未満の者,また1期前と1期終了後(2期開始前)でスコアが同じか上がった者と下がった者に群分けした.そして質問Aについて,選択肢1.2(概ねストレスを感じた)と3.4(概ねストレスを感じなかった)を群分けし,それぞれの群について2×2分割表を作成,χ²検定によって検証した.更に質問AとB間, 質問AとC間の相関関係をスピアマンの順位相関係数検定によって検証した.有意水準5%で検定した.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に則り,文面及び口頭にて調査の趣旨,個人情報保護について説明し,同意を得た学生に対して行った.【結果】 SOCスコアに関する2つの群と質問Aとのそれぞれの分割表に有意差は認められなかった.質問AとB及びAとCの関係について,それぞれrs=0.57(P<0.01),rs=0.42(P<0.01)の「相関」が認められた.【考察】 今回の調査では,実習前のSOCスコアは実習中のストレスの程度に反映するとは言えず,指導介入尺度の一つとして単純に取り入れることは難しいことが示唆された.このことは実習施設ごとに実習生への接し方や対応方法が異なるため,SOCスコアの高い者が過負荷に感じたケースやその逆のケースも見られたこと,また一部クリニカル・クラークシップが導入されていたことなどが要因と考えられた.一方,S.Vとの関係性について,その一端を示すと考えられた「質問しやすさ」や「指導内容の理解」と「ストレスの程度」との間に「相関」が見られた.このことから,S.Vとの関係性の如何がストレスの程度に影響を与えた可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】 理学療法教育における臨床実習にクリニカル・クラークシップの導入が検討され,現在一部導入されている.今後,従来型実習からクリニカル・クラークシップに移行していく過程において,学生のストレスと実習ならびにS.Vとの関係性がどのように変化していくのかを捉えることで,養成校における指導方法の方向性を探る一端になると考える.
著者
山本 達郎 野中 崇広 篠崎 友哉
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

プレガバリン・ガバペンチンの作用部位であると考えられているα2δ-1の発現を、青斑核と中脳水道周辺灰白質で検討した。青斑核ではα2δ-1は発現せず、近傍にある三叉神経中脳核に発現していることが分かった。坐骨神経切断によりα2δ-1の発現に大きな変化はないことが示された。中脳水道周辺灰白質では、α2δ-1の発現はほとんど見られなかった。プレガバリン・ガバペンチンが青斑核を介して鎮痛効果を発揮していることが報告されてきたが、青斑核ではなく近傍の三叉神経中脳核に作用し、その結果として青斑核を活性化し鎮痛効果を発揮する可能性が示唆された。
著者
笠原 啓介 加野 彩香 大谷 智輝 阿部 遼
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.C-141_2-C-141_2, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>日本では,1986 年,WHOのオタワ憲章で宣言されたヘルスプロモーションを踏まえて,健康日本21が制定され,セルフコントロールにより健康を増進させる方向性・目標が示された.健康はいかにして生成されるか,健康はいかにして回復され維持され増進されるかという視点に立った健康要因に着目した考え方が健康生成論であり,これはヘルスプロモーションの概念に合致している.健康生成論の核となる概念に首尾一貫感覚(sense of coherence:SOC)があり健康保持能力の基礎となり,これはストレス対処能力の指標とされる.日本では2015年にメンタルヘルス不調の未然防止のためのストレスチェックも開始され,メンタルヘルスへの関心も高まってきている.看護師を対象としたSOCの先行研究はみられるが,リハビリテーション(以下リハ)職種を対象とした先行研究は少ない.そこで今回,当院のリハ科職員のSOC,QOLの実態を把握し,今後の健康増進・メンタル不調の防止の対応を検討する目的で調査を実施した.</p><p>【方法】</p><p>リハ科職員30名(男性20名,女性10名,平均年齢30.8±6.4歳,経験年数7.2±4.4年)を対象とした.ストレス対処能力はSOC-13(13項目7件法),QOLはSF-8を使用し身体的QOL(以下PCS)と精神的QOL(以下MCS)を評価した.基本属性(喫煙,飲酒,趣味,運動習慣,食習慣,睡眠)およびSOCとQOLの関連を検討した.検定にはスピアマンの順位相関係数,マンホイットニーのU検定を使用し有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>SOCは一般平均とされている54点~58点であったものが4名,53点以下が11名,59点以上が15名であった.PCSは各年代の標準値未満が14名,標準値以上が16名,MCSは標準値未満が18名,標準値以上が12名であった.SOCは年齢(rs=0.49),経験年数(rs=0.46),MCS(rs=0.37)に関連がみられた.</p><p>【結論】</p><p>SOCは年齢,経験年数に相関がみられた.これは経験年数が高い者は低い者に比べ,把握可能感(今後の状況がある程度予測できるという感覚),処理可能感(何とかなる,何とかやっていけるという感覚)が高いためと考える.戸ヶ里は,健康要因には中心的な役割を果たすSOCと汎抵抗資源(金銭,地位,社会的支援,能力等健康に関する資源)があり,汎抵抗資源が人生経験の質を育みSOC を形成すると述べている.今回の結果も地位などの汎抵抗資源は経験年数が高い者ほど高かったためSOCとの関連がみられたと考える.QOLとの関連については,Dragesetらによる研究同様に精神的QOLとの関連であった.ストレッサーが強くSOCが低いほど,健康の破綻,悪化をきたしやすく,SOCが高い人ほど,ストレッサーに上手く対応処理する能力があるとされており,SOCを上げることで精神的健康度を上げることが重要とされている.今回の結果より今後,職員の精神的健康度を含め健康的な心身の維持増進のために,SOCを高める取り組み(汎抵抗資源を動員し,ストレッサーの成功的対処を導き)などを行いたいと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究を実施するにあたり,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,対象者には文書にて十分に説明を行い同意を得て実施した.</p>
著者
Koji YAMAMOTO
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Communications (ISSN:09168516)
巻号頁・発行日
vol.E98-B, no.9, pp.1804-1823, 2015-09-01
被引用文献数
63

Potential games form a class of non-cooperative games where the convergent of unilateral improvement dynamics is guaranteed in many practical cases. The potential game approach has been applied to a wide range of wireless network problems, particularly to a variety of channel assignment problems. In this paper, the properties of potential games are introduced, and games in wireless networks that have been proven to be potential games are comprehensively discussed.
著者
犬飼 博子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1233-1239, 1998-11-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2

子どもの運搬の身体的負担を明らかにするために, (1) 子どもの運搬方法の野外調査, (2) 心拍数, エネルギー代謝率測定, (3) おんぶ, だっこについてのアンケート調査を行った.これらの実験, 調査を通して「子どもを運搬すること」を総合的にとらえることを試みた.結果を要約すると以下のとおりである.(1) 東京駅構内の野外観察から, 屋外の移動において, 最も頻度の高い子どもの人力運搬方法は, だっこ (腕・子守帯) 203例 (78.1%) であった.(2) おんぶは17例 (6.5%) 観察された.すべての事例において, 子守帯が用いられていた.(3) 子どもを運んで移動するエネルギー代謝率は, だっこ (腕) 3.7±0.34, だっこ (子守帯) 3.1±0.32となり, 比較的重い作業だった.(4) おんぶ (子守帯) で移動する場合のエネルギー代謝率は, 2.8±0.28で, だっこよりも身体負担が軽かった (分散分析の結果p<0.01で有意).(5) 立位実験でのおんぶ (子守帯) の心拍数は, だっこより上昇した.これは, おんぶの用具の装着が困難なためと考えられる.(6) おんぶ (子守帯) は, だっこ (子守帯・腕) に比べて身体負担が軽いけれども, 実際の生活ではあまり行われていないことがわかった.(7) だっこ (腕・子守帯) は, 身体負担が重いのにもかかわらずよく行われていることも明らかになった.(8) アンケート調査では, ベビーカーの普及が高かったが, 人力運搬方法では腕によるだっこ, 次いで子守帯によるだっこが多かった.これは野外調査と一致する.疲れを感じる身体部位も腕によるだっこでは腕, 子守帯を使っただっこ・おんぶでは肩が多かった.(9) 研究結果から, おんぶの見直しを含むいくつかの今後の課題を得た.
著者
原田 眞澄
出版者
中国学園大学/中国短期大学
雑誌
中国学園紀要 = Journal of Chugokugakuen (ISSN:13479350)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.51-58, 2015-06-16

おんぶや抱っこは単に搬送の手段としてではなく,子どもを育児するうえで肌と肌がふれあう温もりの伝わる関わり方で,大人と子どもの間に精神的つながりを深める効果に言及する者もいる。しかし,日本に特有の風習とされるおんぶひもを使ったおんぶは年々減少傾向であると感じられる。犬飼は1998年の研究で外出時の子どもの運搬方法におんぶひもを使ったおんぶは全体の6.5%と報告したが,現在はもう少し少ないと推測できる。一方保育所ではおんぶひもを使うことは多く,東日本大震災でも避難時に重宝した。私はこの違いに興味をもち,平成27年2月15日~3月23日の期間に,倉敷市立中央図書館,中国学園図書館の育児雑誌や育児書に関する情報収集と,インターネットやベビー用品売り場でおんぶひもに関する情報収集をおこなった。その結果,親世代に向けた育児雑誌の情報およびベビー用品売り場などにおんぶひもとういう表現は全くなくなっていて,抱っこやベビーカーによる育児が当たり前という印象を受けるものであった。少子化で,一人の親が子どもを抱っこできる余裕ができたことも背景として考えられる。育児雑誌でおんぶ兼用抱っこひもでおんぶをする場面が紹介され,親の立場からのメリットが紹介されていた。近年脳科学の分野でミラーニューロンが発見され,子どもをおんぶして大人のしていることを一緒に見ることが脳に良い刺激を与えることがわかった。今後は,子育て支援や保育学生への教育においてこの最新の情報提供をおこない,TPOに応じておんぶをすることの取り組みにつなげていきたいと考える。
著者
一丸 禎子
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.87-106, 2009-03-28

本論は学習院大学から申請した科学研究補助金(平成20 年度)によりデジタル化されることになった日本の「マザリナードコレクション」をインターネット上で次世代型の人文科学研究のコーパスとして構築するための方法を考察する。初めに近年の人文科学研究をとりまくWeb 環境の例として、フランス語圏の電子図書館、研究用サイトの歴史的発展の経過を分析し、新しい技術を応用して、より開かれた形態での共同作業が今後の人文科学研究を活性化することを確認する。つぎにその分析結果を生かしつつ、具体的事例として「マザリナードコレクション」をコーパスとしてWeb 上に公開することの意義および人文科学研究への貢献を考察する。
著者
古川 浩一 神田 達夫 舟岡 宏幸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.1039-1043, 2011-11-30 (Released:2012-01-27)
参考文献数
15

非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)は,腹部の動脈の攣縮・狭小化による血流低下で,広範囲の腸間膜虚血や腸管壊死が惹起されことが知られている。しかし,この腸間膜虚血症を従来の検査方法で,早期に選択的に簡便に評価することは困難と言える。一方,重症急性膵炎においてもNOMIはしばしば発生し,その病態や予後への関与が報告されている。今回,膵炎に発生するNOMIに対し,小腸粘膜に特異的に分布する腸管由来の脂肪酸結合蛋白(I-FABP)を測定し,NOMI診断への臨床的意義につき検討した。IFABPは急性膵炎の重症度に関連する病態を示し,腸間膜血流に関連する造影CT検査におけるグレードの膵外進展度に相応した数値上昇を認めた。潰瘍性大腸炎例での計測とI-FABPの小腸粘膜への特異的な分布を考慮すると,急性膵炎に併発する小腸粘膜傷害を直接的に反映していると言える。以上より,I-FABPは急性膵炎時のNOMIの早期診断や病態評価に有用な指標と考えられる。
著者
梅澤 猛 大澤 範高
雑誌
マルチメディア,分散協調とモバイルシンポジウム2016論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.872-875, 2016-07-06

スマートフォンやタブレットには多くのセンサが標準装備されており,それらを活用して端末周辺の環境情報をセンシングすることができる.周囲の環境情報を元に,自己位置を推定することで,屋内移動の支援に必要な大まかな位置情報を得ることができると考えられる.自律移動ロボットをはじめ,環境センシングにより自己位置推定を行おうとする例は多数あるが,mm ~ cm 単位での細粒度推定を目指すものが多く,粒度を粗くすることによって,高精度な推定手法を比較的手軽に実現できないかを検討したい.現状の携帯端末に標準的に搭載されているセンサについて,それぞれから得られるデータ種別とその特徴に基づいて,自己位置推定に使用する環境情報としての適正を検討する.
著者
小椋 裕太 大村 英史 東条 敏 桂田 浩一
雑誌
研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:21888914)
巻号頁・発行日
vol.2021-EC-59, no.34, pp.1-8, 2021-03-09

認知的音楽理論は,音楽を「聴く側」の認知過程を踏まえた音楽の分析理論である.その一つである Generative Syntax Model (GSM) は,和声進行に関する文脈自由文法を定義することで,和声進行における期待-実現の構造を階層的に表現できることを示した.しかし,GSM をはじめとする従来の認知的音楽理論は楽曲聴取後の認知構造のみを表現しており,楽曲聴取中の認知構造である音楽的期待については議論されていない.しかし,楽曲聴取中の期待の逸脱や実現こそ音楽の意味である.そこで,本研究では楽曲途中の認知構造の表現を行うために,GSM を確率文脈自由文法に拡張する.これにより,漸進的構造解析を行うことが可能になる.このモデルを実装した和声解析システムを用い,ジャズ楽曲の和声進行の解析を行った.解析結果から,提案モデルが和声進行における楽曲途中の解釈の多様性や,楽曲における意外性の生じる位置を示唆していることが分かった.
著者
清水 陽子 中山 徹 土佐野 美裕
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.82, no.732, pp.423-432, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2 13

This research aims to explore the nature of the local city which is revealed by the dwelling-place selection trend of Nara’s younger generation. Therefore, this research analyses the tendency and the stated reasons of the younger generation's for relocating. From 2007, the population of Nara - which is the subject of our research - began to decrease, and it continues to decline to this day. Although the percentage of the whole population comprised by the younger generation was 33.1% in 1980, it has since decreased to 23.2% in 2012. Our chosen research method was to use a questionnaire. We distributed 2,000 questionnaires to people moving away from Nara (referred to hereinafter as ‘movers’) and received 467 completed questionnaires. Furthermore, we distributed 3,000 questionnaires to people relocating to Nara (referred to hereinafter as ‘transferers’) and received 850 completed questionnaires. Of the stated reasons for relocating, the four highest ranked are: ‘marriage’, ‘employment’, ‘purchase of a dwelling’, and ‘living with parents, or the neighbourhood ’. These four reasons account for 70 percent or more of the total number of relocations. In this research, we analysed the trend, focusing particularly on these four reasons. Concerning relocations due to marriage, people who lived in Nara up to the age of 30 years relocated due to marriage, and live in privately rented homes in which the rent is comparatively high for a married couple despite their double income. Conversely, for transferers, people lived in their first home up to the age of 30, then moved into Nara for reasons of marriage, with their wife performing the role of a housewife and the couple living in a privately rented house. For relocations caused by employment, unmarried people up to 30 years old moved to homes where the commuting distance was short. For transferers living in privately rented houses, both unmarried people aged 35 and over and married couples thought construction years , the distance of their commute, etc. to be important. For movers relocating due to purchase of a dwelling house, the important factors for people living in a privately-owned house in which the family household is aged 35 and over comprise price, public peace and order , and the aesthetic qualities of the property. In the case of transference, people living in privately owned houses in which the family (including a wife who is a housewife) is aged 35 and over consider construction years, price, and public peace and order to be important. Families aged 35 and over consider proximity to their parents' dwellings to be important, and living together with parents or moving to live close to them may justify moving. Movers tend to live near their parents, while transferers tend to become parents and live together. Movers and transferers actively pursue relocation between neighbouring municipalities. All the respondents were conscious about the importance of purchase price, rental price, and the distance to their workplace (for convenience).Subsequently, the environment in which housing is located (including the beauty of rows of houses, the quality of a landscape, and public peace and order) is considered to be important. By focusing on strengthening the factors considered by people to be important when selecting their dwelling-place, local authorities can increase the attractive power which draws residents to an area. We consider that Nara must improve ‘the distance from a station and a bus stop’ and ‘the beauty of rows of houses and good quality of a landscape’, since these are factors which movers were found to consider as important.
著者
元井 玲子 矢野 育子 尾崎 淳子 鋒山 香苗 山本 崇 深津 祥央 石塚 良子 松村 由美 谷口 正洋 東村 享治 松原 和夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.135, no.10, pp.1177-1184, 2015-10-01 (Released:2015-10-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

The use of iodine contrast agents occasionally causes serious allergic symptoms including anaphylaxis. At Kyoto University Hospital to prevent nephropathy we began recommending water intake before and after administration of iodine contrast agents in September 2012. In the present study we investigated the effect of water intake on the incidence of allergy-like events after the use of non-ionic iodine contrast agents. We extracted the occurrence of allergy-like events from the incident report system in our hospital from January 2011 to September 2014, and classified these events into the following 3 grades: 1+ (follow-up); 2+ (medication treatment); and 3+ (hospitalization). The allergy-like incidence rate was calculated for subsequent evaluation according to season and water intake. Allergy-like events significantly decreased from 0.49% before the recommendation of water intake to 0.26% at 1 year and 0.20% at 2 years after implementing the recommendation. The incidence of allergy-like events was significantly higher in summer than in winter before water intake was recommended. After implementing the recommendation, the value for summer significantly decreased to an incidence similar to that of winter. Respiratory and gastrointestinal allergy-like symptoms were dramatically decreased after implementing the recommendation. Water intake may be useful for preventing allergy-like events associated with non-ionic iodine contrast agents, especially during the summer.
著者
李 志炯 Lee Jee-Hyung
出版者
筑波大学比較・理論文学会
雑誌
文学研究論集 (ISSN:09158944)
巻号頁・発行日
no.21, pp.176-154(1, 2003-03-31

はじめに 『分配』は、昭和二年八月『中央公論』に発表された島崎藤村の短編小説である。この小説は、藤村の晩年の大作である歴史小説『夜明け前』以前に書かれたものとしては最後の小説である。小説の内容は藤村の実体験を題材としている。 ...