著者
成田 悠輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

交付申請書に記載した研究計画にほぼ沿った研究が進行している。この研究計画は「人々はそれぞれ異なった時点に生まれ死ぬため、社会的意思決定のための投票が行われる各時点で人々が持つ利害の規模は人それぞれに異なる。そのような状況を明示的に考慮した場合に動学的に望ましい投票制度は何か?」という問いを、世代重複モデル上の動学的投票制度の下で人々がプレイするゲームとして定式化・分析しようとするものである。今年度は人々のインセンティブや戦略的行動を捨象した場合に望ましいと考えられる投票制度を見つけるという予備的理論分析を予定している。この予備的理論分析はすでに終えつつあり、当初の研究計画通りの進捗であると考えている。また、当初の研究計画には含まれていなかった公立学校選択制の制度設計に関する新しい研究に着手し、論文"Promoting School Competition Through School Choice:A Market Design Approach"(小島武仁氏(Stanford大学助教授)、John William Hatfield氏(Stanford大学助教授)との共同研究)をまとめた。この研究は、公立学校選択制の制度選択が公立学校の自己改善インセンティブにもたらす影響を分析し、公立学校に自己改善による競争を促すような公立学校選択制の制度を提案するものである。この論文についてはすでに共著者の小島武仁氏が東京大学経済学部および公正取引委員会で招待講演を行っており、今年度中に英文国際学術誌に投稿する予定である。
著者
吉田 邦彦 牛尾 洋也 今野 正規 橋本 伸 RodriguezSamudio RubenEnrique 西原 智昭 広瀬 健一郎 ゲーマン・ジェフリー ジョセフ 上村 英明 木村 真希子
出版者
北海道大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2021-10-07

世界中の先住民族への過去の不正義の理論的・比較法的研究は、国連の先住民族の権利宣言に基づく漸進的進展がある。法的問題としては、土地・環境問題、遺骨返還、知的所有権、先住権(漁撈権など)などがあり、日本の状況は諸外国からは学ぶところが多い。他方で、国際政治の大きな変化で、民族紛争は分散的継続で、強制移民や先住民族の周縁化・深刻化も見逃せない。本研究では、国連との関係も密にし《世界標準》との関連で、先進諸国・発展途上国・日本近隣諸国の先住民族をグローバルに検討し、先住民族の諸課題の現場的考察との照合から、日本の先住民族(アイヌ民族、琉球民族)が抱える諸問題を学際的・経験的(実証的)に解明する。
著者
韓 京子
出版者
青山学院大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

本研究は、植民地朝鮮・台湾・満州における文楽(義太夫)享受の諸相について考察するものである。近代、特に1930年代は、毎年といえるほど盛んに外地における興行・巡業が行われていた。本研究では、興行の実態や内地人の素義会の活動を具体的に調査しその全体像を明らかにし、また、外地に住む人々にとっての古典芸能(文楽)の意味を考察する。文楽が外地を巡業という形で興行が行われ、素義会も越境する形で活動が行われたことから、本研究は研究の軸を植民地朝鮮・台湾・満州に設定し、共時的な視点から文楽(義太夫)の享受について分析することで、近代文楽史を重層的で多面的なものにすることを目的とする。
著者
大塚 美智子 森 由紀 持丸 正明 渡邊 敬子 小山 京子 石垣 理子 雙田 珠己 田中 早苗 中村 邦子 土肥 麻佐子 原田 妙子 小柴 朋子 滝澤 愛 布施谷 節子 鳴海 多恵子 高部 啓子 河内 真紀子 増田 智恵 川端 博子 薩本 弥生 猪又 美栄子 川上 梅 渡部 旬子 倉 みゆき 丸田 直美 十一 玲子 伊藤 海織 角田 千枝 森下 あおい 上西 朋子 武本 歩未
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2014~2016年に関東、関西、中部、中国、九州地区で3200名、約50項目の日本人成人男女の人体計測を行い、マルチン計測による3200名と三次元計測による2000名のデータベースを構築した。これにより、アパレル市場の活性化と国際化が期待でき、JIS改訂の根拠データが得られた。人体計測データの分析の結果、現代日本人は20年前に比べ身長が高く、四肢が長いことが明らかになった。また、若年男子のヒップの減少と中高年成人女子におけるBMIの減少が顕著であった。
著者
鈴木 睦 山下 善之
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

アミノ酸の連続分離濃縮を目的として、イオン交換樹脂の移動層型向流接触装置を作成し、その濃縮分離特性を数値シミュレーションおよび実験によって検討した。アミノ酸はその等電点より低いpHにおいては陰イオンとして存在し、陽イオン交換樹脂に吸着される。そこで、移動層内に塔頂から塔底に向かってpHが大きくなるようなpH匂配を形成しておくと、塔頂に向かって行くフィード液中のアミノ酸は、等電点を越えたところで陽イオン交換樹脂に吸着され、下方に運ばれてpHが大きくなると脱着する。この過程が繰り返される事により、塔内のアミノ酸はその等電点に近いpHを持った位置に濃縮してくることになる。まず濃縮特性を調べるために、L-ヒスチジン水溶液をフィードとし塔内のアミノ酸濃度の経時変化を高速液体クロマトグラフィで測定した。この際、フィードの流量は一定としたが、固相の流速は塔の中心部が目的のpHになるように制御した。測定結果をみると、ヒスチジンの濃縮が見られ、その位置も数値シミュレーションとも一致していた。次に分離特性を検討するために、L-ヒスチジンとL-シスチンとの2成分のアミノ酸を含む水溶液を用いて同様の実験を行なった。実験の結果、2種類のアミノ酸はそれぞれカラムの違う位置で濃縮し、分離可能なことが確認された。また、各成分の濃縮位置は、数値シミュレーションの結果とも一致した。
著者
真野 弘明
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の研究実施計画に基づき、ハナカマキリの体色を形成する色素分子の生化学的解析を行った。昨年度の研究により、ハナカマキリ体色の赤色色素としてキサントマチンを同定したが、色素の抽出条件およびHPLCによる分離条件を検討した結果、ハナカマキリの色素抽出物には通常型のキサントマチンのほかに、分子上のカルボキシル基を1つ欠失した脱炭酸型のキサントマチンが含まれることを見出した。赤と黒を基調とした体色を持ち、カメムシ幼虫に擬態しているとされるハナカマキリの1齢幼虫では、相対的に多量の脱炭酸型が含まれていた。一方、花に擬態する2齢幼虫以降のステージでは、脱炭酸型キサントマチンの含有比率が次第に低下すると判明した。1齢幼虫の赤色部位はやや黄色味がかった赤色であるのに対し、後期幼虫の赤色部位は紫がかった赤色をしており、この色調の違いはキサントマチンの通常型と脱炭酸型の含有比率の違いによって生み出されている可能性が考えられた。また、ハナカマキリ後期幼虫の脚部にある花弁様構造の反射スペクトルを測定した結果、534nm付近に吸収ピークをもつスペクトル形状を示した。これは中性バッファー中における酸化型および還元型キサントマチンの吸収スペクトル(吸収極大波長はそれぞれ440nmと495nm)とは大きく異なる一方、還元型キサントマチンの凝集体の懸濁液の吸収スペクトルとは良く似た形状を示した。以上の結果から、ハナカマキリの花擬態に特有の赤紫色は、還元型キサントマチンが組織内に凝集体として存在することによって形成されていると推測された。
著者
上野 千鶴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、高齢社会の地域福祉の担い手として注目をあつめている市民事業体が経営体として継続可能な条件をさぐることを目的としたものである。対象は九州地域の生協グリーンコープ連合が設立した、グリーンコープ福祉連帯基金傘下の福祉ワーカーズ・コレクテイブ(2001年12月現在で63団体)である。介護保険施行後、指定事業者として居宅家事・介護支援事業、ミニデイサービス事業等に参入した。第1次調査ではワーカーズ・コレクティブの団体および個人を対象に、定量および定性調査を実施した。その分析からあきらかになったことは、(1)経営コストは時間費用で200%と出て、企業体とくらべても競争力がある。(2)生協による創業期支援が果たした役割が大きい。(3)ワーカーの分極化(やりがい型とボランティア型)を射程に入れた労働編成が課題である。(4)経営研修を含む代表とワーカーの研修プログラムが必要である、などである。第2次調査では利用者とその家族を対象に、定量調査と定性調査の両方を実施した。ワーカーズ・コレクティプおよび代表の追跡調査およびケアマネージャー、地域の関連書団体のインタビュー調査もあわせて実施した。介護保険に対する評価は利用者・家族ともに満足度いが、利用率は約60%(全国平均49%)と抑制されており、その理由に需要と供給のミスマッチ(サービスのメニュー、時間帯、保険外利用等)が挙げられた。ワーカーズ・コレクティブの団体および個人にとっては、利用者数、ケア件数、ケア時間数共に急成長をみせ、ワーカー報酬、役員手当ともに増大し、経営的にも安定した。定性調査からは身体介護と家事支援の区別がつきにくい実態に対し、報酬格差が大きすぎる問題が指摘され、家事介護1本化への制度の手直しが求められる。周辺調査からは、ケアマネージャーの地位と報酬、権限と能力の低さが問題として浮かび上がってきた。以上の調査から、地域福祉の需要と供給の安定したサイクルを構築するために、市民事業体が果たす役割が大きく、かつその条件を介護保険が提供したことを確認することができた。865字
著者
橋本 英樹 近藤 克則 野口 晴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

健康・機能状態の社会的格差をライフコースの視点から検証する際、幼少期情報を想起情報に頼らざるを得ないことが多い。代理指標として脚長などの客観的マーカーの利用可能性を検討した。高齢者パネル調査(くらしと健康調査)を用いて脚長(幼少期の栄養状態の代理指標)と親職種、幼少期「生活困難度」との関係を見たが、有意な関係は認められなかった。一方、脚長は、学歴と収縮期血圧の関係を有意に媒介していた。社会経済的要因による社会的選択の影響を考慮し、同朋情報を用いてバイアス補正を検討したところ、同朋との到達学歴の一致・不一致により学歴と健康・生活習慣との関連性が異なっていた。社会的選択の影響を考慮する必要がある。
著者
柴田 悠
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

全国郵送質問紙調査を実施し、公的サポートである「保育」(保育所への通園)と、私的サポートである「家庭育児」(先行研究によれば親の社会経済地位によってその質は異なる)の、交互作用に考慮に入れながら、それらが成人後の幸福感やその諸要因に与える長期的影響を、保育所通園の傾向スコアを用いた因果推論によって検討した。その結果、「不利な家庭」(社会経済地位:下位1/2)出身の20~44歳回答者では、保育所に通うと(幼稚園のみに通う場合と比べて)、将来、非正規雇用になりにくくなる、有配偶者の確率が高まる、対面交流の頻度が増えるなどの傾向が見られ、さらにそれらの結果として主観的幸福感が高まる傾向が見出された。
著者
南里 康弘 出原 賢治
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

IPFは肺組織における不可逆的な線維化を特徴とする疾患であり、既存治療薬の効果は充分でなく、新しい治療薬の開発が急務である。我々は、ペリオスチンが線維化に重要なサイトカイン TGF-bにより誘導されると共に、ペリオスチンとTGF-bシグナル間にクロストークが存在し、肺線維化機序において重要な役割を持つと考えるに至った。本研究では、クロストークを阻害するインテグリン阻害剤 (CP4715)を同定し、間質性肺炎モデルマウスへ投与した結果、クロストークシグナルを阻害し、肺線維化に対して軽減効果を示した。これらから、ペリオスチン/TGF-bのクロストークの阻害がIPFの新たな治療戦略として期待される。
著者
鄭 ビョウ
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

自己免疫疾患の発症誘因は、未だ大部分が未解明である。水疱性類天疱瘡 (BP) は最も頻度の高い自己免疫性水疱症であるが、近年、2型糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬を服用中にBPが生じることが知られるようになってきた。本研究では、DPP-4阻害薬関連BPにおける自己抗体産生機序を明らかにする。本症ではHLA-DQB1*03:01保有者が多いことに着目し、同HLAを持つ健常人におけるBP180反応性T細胞の有無を解析する。また、DPP-4阻害薬がTリンパ球に及ぼす影響を、細胞培養や制御性T細胞欠損マウスの実験で明らかにする。本研究により免疫自己寛容破綻の機序を解明し、自己免疫疾患の本質に迫る。
著者
田中 健二朗
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では離乳後約2か月間にわたって隔離環境で飼育されたラットの社会的行動とオキシトシン産生細胞の活動レベルを解析し、幼い時期に "ひとりぼっち" で育つことが精神的な発達に及ぼす影響を明らかにした。ラットは通常、単なる物体(非社会的刺激)よりも同種の他個体(社会的刺激)により強い興味を示す。しかしながら隔離飼育された雌性ラットにおいてはこのような性質が認められなかった。また同ラットは他個体に近づく行動が少なく、社会的な関わりへの動機づけが低下していた。さらに同ラットの視床下部オキシトシン産生細胞において、同種の他個体との接触に伴う反応が正常なラットのものと比べて低下していた。
著者
宗林 留美
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

海洋の200m 以深、すなわち中層以深は光合成生物にとって生存に必要な光が届かないにも関わらず、本研究により駿河湾と太平洋亜熱帯域の200m〜2000m で微細な光合成生物であるピコ植物プランクトンが深度によらず一定に分布していることが明らかになった。中層以深のピコ植物プランクトンは表層から海底までの水柱全体に対して、春の駿河湾では26〜69%を占めたが、夏の駿河湾と亜熱帯では0.7〜10%に留まり、ピコ植物プランクトンが沈降粒子に付着して中層に輸送されている可能性が示された。
著者
穂刈 正昭 藤村 幹 川堀 真人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

「心停止・重症SAH・低酸素・外傷性脳圧亢進」等によってもたらされる「広範性脳損傷」は「難治性の意識障害(遷延性意識障害)」をもたらし、その治療法の開発は急務である。本研究は「間葉系幹細胞」から分泌され神経保護作用を有する「エクソソーム」を「高濃度で脳内に到達させる」ため「経鼻的投与法」を採用し、その治療効果を検討する。①異なる時間軸での効果検証(「急性期」および「慢性期」投与に対するエクソソームの脳内分布と治療効果)、そしてその新規的作用機序である②「脳-腸」相関機構の解明を目指す。
著者
澤村 大輔 Tha KhinKhin 境 信哉
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

外傷性脳損傷では持続的な高次脳機能障害,特に認知制御機能である注意機能とワーキングメモリの低下をきたすが報告されている.近年では,外傷性脳損傷後高次脳機能障害に対するリハビリテーションの成果が報告されているが,慢性期における報告は少なく,特に重症度に応じた効果については十分なエビデンスが集積されていない.重症度に応じたトレーンングの有用性を明らかにすることは,臨床における効果的な治療実践,また対象者自身のセルフマネージメントにおいて重要な情報となる.本研究では慢性期外傷性脳損傷患者を対象に認知制御機能に焦点を当てたトレーニングの効果を重症度別で証明することで標準的な治療としての確立を目指す.
著者
妹尾 春樹 佐藤 岳哉 今井 克幸 佐藤 充
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

北緯80度に位置するスバルバール群島(ノルウエー領)にて、知事の許可を得て、以下の哺乳類および鳥類を捕獲して肝臓を、高速液クロによるビタミンAの分析、および形態学的手法(塩化金法、ビタミンAの自家蛍光観察のための蛍光顕微鏡、透過型電顕、石井-石井鍍銀法、アザン染色、HE染色、Sudan III脂肪染色)によって解析した。捕獲した哺乳類は北極グマ(3頭)、北極キツネ(8匹)、ヒゲアザラシ(6匹)、ワモンアザラシ(6頭)、スバルバールトナカイ(7頭)であり、鳥類はシロカモメ(22羽)、ウミガラス(4羽)、ニシツノメドリ(6羽)である。高速液クロによる分析では、北極グマ肝臓が最も高濃度にレチニルエステル(23,300nmole/g wet weight)を貯蔵しており、ついで北極キツネ(18,439±2,314)、ヒゲアザラシ(5,956±5,857)、ワモンアザラシ(1,551±2,486)、スバルバールトナカイ(921±264)であり、鳥類ではシロカモメ(4,710±3,164)、ウミガラス(1,589±225)、ニシツノメドリ(1,183±589)であった。塩化金法では肝臓星細胞が特異的に黒染し、蛍光顕微鏡下にこれらの細胞の脂質滴から強いビタミンAの自家蛍光が発していた。北極グマおよび北極キツネ、ヒゲアザラシの肝臓ではHE染色、Sudan III脂肪染色でも容易に星細胞の脂質滴が認められた。また、これらの動物は自然のなしたビタミンA過剰症といえるが、肝臓には線維化などの病理学的所見は見られなかった。透過型電顕を用いたモルフォメトリーでは、星細胞の数はヒトやラットを含む他の動物と差は無かった。しかし、透過型電顕で星細胞に含まれる脂質滴の占める面積は北極グマおよび北極キツネ、ヒゲアザラシでは有意に大きかった。北極グマおよび北極キツネ、シロカモメ、ヒゲアザラシなど北極圏における食物網(food web)の上位に位置する動物は大量のレチニルエステルを肝臓星細胞に貯蔵している。モルフォメトリーでは、これら動物においては星細胞の数は他の動物と差は無かった。しかし、各細胞に含まれる脂質滴の占める面積が有意に大きかった。すなわち、各々の星細胞のビタミンA貯蔵能が高いことが示唆された。北極圏の食物網の上位に属する哺乳類と鳥類は星細胞にヒトやラットなどの動物の20-100倍高濃度のレチニルエステルを貯蔵していた。さらに興味深いことに北極キツネでは肝臓からビタミンAが溢れ出し、腎臓に貯蔵されていた。このことは内分泌かく乱物質による汚染を示唆している。
著者
古賀 純子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

申請者の研究はベルクソン哲学を音楽との関わりについて考察するものである。これまでに(1)20世紀の作曲理論をベルクソン哲学の観点から解釈すること、(2)ベルクソンの哲学理論を演奏という具体的な芸術活動の場に置き直す、という二つの方向で研究を行ってきた。平成18年度は、上記二つの方向性をふまえながら、20世紀音楽とそれ以前の古典音楽の時間構造をより詳細に分析する研究を行った。音楽作品は通常、拍節構造とメロディという二重の時間構造を持つ。ある種の現代音楽は規則的な反復に基づく古典音楽の拍節構造を「音楽的時間を不当に束縛している」と考える。しかしベルクソンの時間概念に照らすと、古典的拍節は「自由」で「創造的」な持続(dur□e)の時間構造と矛盾しない。音楽家は規則的な拍子に従いつつも、厳密に均等な時間配分で演奏するわけではなく・現実的にはそれらを伸縮させつつ独自の旋律形体を創造する。ベルクソン哲学から導き出される創造的時間の本質は、数的計測と不規則に合致しつつ、創造的主体が自らの選択によって旋律形体を形作るプロセスに存在すると考えられる。このようなベルクソン的時間論から見た場合、規則的拍節を持たない20世紀音楽、および伝統的な東洋音楽の時間構造はどのように解釈されるだろうか。申請者は以上のような問題意識のもと、これまで行ってきたオリヴィエ・メシアン、ジョン・ケージの研究に引き続き・ピエール・ブーレーズ、ヤニス・クセナキスの音楽作品の分析に着手している。この研究のため、18年9月、ひと月間パリに滞在し、ジョルジュ・ポンピドゥーセンター付属の公共情報図書館および国立近代美術館資料室で文献・資料の調査を行い、執筆中の博士論文に有用な情報を収集した。
著者
中谷 友樹 矢野 桂司 井上 茂 花岡 和聖 伊藤 ゆり 田淵 貴大 埴淵 知哉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は(1)日本社会を対象としたADI指標(地理的剥奪指標)の提案と、(2)小地域(近隣地区レベル≒町丁字スケール)におけるADIと健康指標との関連性を近隣環境要因の媒介に着目した評価、の2点である。ADIについては、貧困・剥奪に関連した国勢調査の小地域統計資料を利用して算出し、各種の健康指標との関連性を分析した。結果として、主観的健康感やがんの生存率など、各種の健康指標の悪化と地理的剥奪の高さとの関連性を報告し、その背景となる近隣環境との関係を考察した。これらを通して、健康の地理学における学際的研究の推進とともに、日本における小地域統計を利用した統計の高度利用について検討した。
著者
永井 宏
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

性同一性障害者がホルモン療法を受けることにより,性差があるといわれている認知機能が彼らの自覚する性別に見られる傾向へ変化するか,また性ホルモン投与により心理学的特性が変化するかを検討した。男性ホルモン投与は,認知機能のうち空間認知機能を向上させ,心理学的特性において,抑うつ・不安を軽減させたことから,ホルモン療法が部分的に認知機能や心理学的特性に影響を与える可能性が考えられた。
著者
佐々木 剛
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

注意欠如多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder;ADHD)は、多動・衝動性および不注意を基本症状として、種々の生物学的要因(ドパミン仮説を例に挙げれば、背外側前頭前野皮質―尾状核―淡蒼球-視床と続く神経回路の障害)を基盤に、養育に関連した心理的要因や環境要因、さらに行動統制を要求される現在の生活環境などが複雑に絡み合って症状を呈するものと理解されている。治療としては認知行動療法を中心とする心理社会的な治療・支援の提供と、不注意や多動性・衝動性の改善を目的とする薬物療法が主として行われている。近年、チペピジンヒベンズ酸塩などのGタンパク質共役型内向き整流性K+(GIRK)チャネル活性化電流抑制が神経興奮の制御に重要であることが示唆されており、その作用を持つ薬剤がADHDの新たな治療薬として期待されている。本臨床試験の主要目的は、80名の小児思春期ADHD患者(6歳から17歳)を対象として、チペピジンヒベンズ酸塩またはプラセボを4週間投与した際の臨床症状への有効性および忍容性を比較検討するものである。プラセボ対照、ランダム化、二重盲検、並行群間比較による探索的臨床試験であり、主要評価項目は、実薬群とプラセボ群における投与前から 投与4週間後のADHD-RS合計得点の変化量であり、副次的評価項目は、ADHD-RSの下位尺度の合計得点の変化量、DN-CAS各得点の変化量、CGIの変化量、血中バイオマーカーの変化量である。平成29年度は、3名が臨床試験同意・実施し合計20名の進捗となった。