著者
大久保 恒正 安藤 寿博
出版者
高山赤十字病院
雑誌
高山赤十字病院紀要 (ISSN:03877027)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.17-26, 2015-03-01

人間にとっての痛みの認知は自分の体を正常に維持するためのものである。痛みの原因は炎症や術後性疼痛や疾患による神経の圧迫、心理社会的な要因が関与した疼痛など様々な原因がひとつ以上重なり合った反応で成り立っている。特に心理社会的要因が背景に存在する非器質性疼痛に対する治療には難渋することが多い。 最近ではSNRIやSSRIなどの新しい抗うつ薬が臨床応用可能となり選択の幅が広がっている。抗うつ薬鎮痛効果の主たる機序は下降性疼痛抑制系の賦活作用と考えられている。しかし抗うつ剤を少量あるいは短期間使用することで慢性疼痛が軽快する症例も数多く経験することから、下降性疼痛抑制系のみならず他の系の関与があるのではないかと推測される。腹側被蓋野(VTA)から側坐核(NAc)や腹側淡蒼球(VP)、扁桃体(Amyg)、前頭皮質(PFC)に神経線維束を送る中脳辺縁系経路と疼痛との関係が注目され、生体に痛み刺激が加わると、VTAから大量のドパミンが放出されNAcからμ-opioidが産生されて疼痛が抑制される。非器質性疼痛を訴える症例は、ストレスや不安、抑うつなどが存在するため、VTAからのドパミン放出が減少しμ-opioidが充分に産生されない状態に陥る。SSRIやSNRIの投与により、VTAのドパミンを充足させμ-opioidを充分に産生させて短時間の疼痛の抑制機構を働かせるのではないかと推測した。エスシタロプラムのドパミンのトランスポーターに対する親和性は極めて低いが、ドパミントランスポーターとの親和性以外の何らかの機序によりドパミンを増加させているものと考えられた。エスシタロプラムは初期用量が持続用量であるため、最初から高用量を使用可能であり、VTAのドパミンを速やかに補充しμ-opioidを産生させる一因となっていると思われた。非器質性の慢性疼痛を訴える症例にエスシタロプラムを投与した場合には、第一段階としてVTAへのドパミン補完によるμ-opioidによる短時間的な鎮痛作用があり、長時間を費やす症例に対してはμ-opioidと下降性疼痛抑制系との相補的作用による第二段階の鎮痛作用があるのではないかと思われた。
著者
三浦 皓子 鈴木 健二 鈴木 翼 大畑 光彦 中里 龍彦
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.33-39, 2015 (Released:2015-03-07)
参考文献数
25

【目的】末梢性顔面神経麻痺予後判定におけるMRIの有用性を検討した.【方法】発症後14日以内に受診した患者のうち,造影MRIを撮影した55例を対象とした.造影剤増強効果の有無により2群に振り分け比較した.また,全症例を対象とし随伴所見(痛み・帯状疱疹・味覚障害・聴覚過敏・涙分泌低下・MRIで造影剤増強効果)の有無と完治率との関連性を調査した.さらに,造影剤増強効果を認めた部位と随伴所見による障害部位診断との関連性について検証した.【結果】造影剤増強効果あり:A群35例,造影剤増強効果なし:B群20例であった.経過中の最低麻痺スコアおよび発症後1週間以内のelectroneurography値はB群で高かった.治療内容ではA群で入院治療・神経ブロックなど,濃厚な治療が施行された.完治率はA群71.4%,B群100.0%とB群で高かった.随伴所見の有無と完治率との関連性については,MRI上造影剤増強効果なしでのみ完治率が高かった.造影剤増強効果を認めた部位は膝神経節上が88.6%と最も多かったが,随伴所見から得られる部位診断では,鼓索神経下が48.6%と最も多かった.【結論】造影MRIは,末梢性顔面神経麻痺の予後を予測するうえで有用であることが示唆された.造影剤増強効果を認めた部位と随伴所見による部位診断との間に関連性は認めなかった.
著者
木下 博義 山中 真悟 中山 貴司
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.181-188, 2013-11-27 (Released:2013-12-12)
参考文献数
13
被引用文献数
5 2

本研究では,理科における小学生の批判的思考に焦点を当て,その実態を明らかにすることを第一の目的とした。さらに,小学生の批判的思考に影響を及ぼす要因構造を分析し,指導法考案へ向けての示唆を導出することを第二の目的とした。これらの目的を達成するため,小学校5,6 年生429 名を対象に,35 項目からなる質問紙調査を実施した。その結果,一つ目の目的に対して,児童の探究的・合理的な思考に比べて,反省的な思考や根拠を重視しようとする意識が低いことが明らかになった。また,二つ目の目的に対して,探究的・合理的に思考している児童ほど,反省的に思考したり,意見の根拠を重視したりしていることが明らかになった。これらの結果を踏まえ,児童の反省的な思考や根拠を重視しようとする意識を高めるためには,探究的・合理的な思考を培うような指導をすべきであるという示唆を得た。
著者
山森光陽 岡田涼 納富涼子 山田剛史 亘理陽一# 熊井将太# 岡田謙介 澤田英輔# 石井英真#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 2010年代に入って,教育心理学の分野でもメタ分析に対する関心が高まっている。日本では深谷 (2010),岡田 (2010),小塩他 (2014)によって,メタ分析による研究知見の統合が行われている。海外の教育心理学関係主要雑誌(Br. J. Educ. Psychol., Child Dev., Contemp. Educ. Psychol., Educational Psychologist, Educ. Psychol. Rev., J. Educ. Psychol., Learning and Individual Differences, Learning and Instruction)でも,2010年以降メタ分析を用いた論文数が急増しており,2018年では10月時点で28本にのぼっている。メタ分析による知見の統合には,ある介入の平均的な効果の提示が可能であることや,研究間差異を検討することで対象や条件による効果の違いを検討できることといった利点が認められる。 系統的レビューと呼ばれるメタ分析による知見の統合は,記述的レビューと異なり,統合対象とする研究文献探索の方法と分類基準を明示することが求められるなど,その手続きが精緻であることも関係し,レベルの高いエビデンスと捉えられ,その知見が流通することが多い。What works (U.S. Department of Education, 1986) に代表される,研究知見に基づく推奨される教育的介入のガイドラインは,1980-90年代は記述的レビューに基づいた内容であるのに対して,2000年代以降は系統的レビューの結果が反映されるようになってきた。さらに,2010年代には複数の系統的レビューのメタ分析(メタ・メタ分析,スーパーシンセシス)によるガイドラインが示されるようになってきている。 教育研究における複数の系統的レビューのメタ分析として広く知られているものに,Visible learning (Hattie, 2009)がある。学習者,家庭,学校,教師,教育課程,指導方法の各要因の下位138項目について,学力に与える影響のメタ分析の結果のスーパーシンセシスを行い,各々が学力に与える平均的な効果を効果量dによって示し,その効果の大小に対して理論的説明を行った。このスーパーシンセシスの対象一次研究数は延べ52,450本,延べ対象者数は8,800万人以上である。そして,スーパーシンセシスの方法やその内容は,イギリスやドイツをはじめとした諸国で,社会的な影響が大きいことが報告されている。 メタ分析による研究知見の統合の影響は,教育心理学をはじめとした教育研究の分野内に対してのみならず,教育政策,学校経営にまで及ぶと考えられる。国内では最近,平明に読めるメタ分析の入門書が複数出版されたことも契機となり,メタ分析による知見の統合を行う研究の本数が今後増加することが見込まれる。そして,研究知見の統合に取り組むに当たっては,研究分野内への影響のみならず,研究分野外への波及効果にも関心を払う必要があるだろう。このような現況を踏まえ,研究分野の内外に対して,「知見の統合は何をもたらすのか」を議論する。教育心理学におけるメタ分析研究の概況岡田 涼 教育心理学では,学力や動機づけ等の学習成果に影響を及ぼす要因やその先行要因を明らかにすることを目指すことが多い。得られた知見を教育実践や教育政策に反映させようとする場合,研究知見の信頼性や一般化可能性が重要となる。従来,研究知見の一般化を図るために行われてきた記述的レビューに比して,メタ分析は,複数の研究知見をもとに効果の程度を推定することで,より精度の高いエビデンスを得ることができる。同時に,個々の研究知見がもつ特徴を分析対象とすることで,平均的な効果だけでなく,効果の程度に影響する要因を検討することも可能となる。 このような特徴に鑑み,様々な研究テーマに関するメタ分析研究が増えてきている。国内でも,その報告数は増えてきており,注目度が高まっているといえる。学会によっては,執筆要項にメタ分析研究に特化した記載方法の指示が加えられたり,投稿の手引きでメタ分析研究の引用を推奨する記載をしている例もあり,メタ分析を受け入れる素地ができつつある。 一方で,メタ分析には,公表バイアスや一般化の水準の問題など,伝統的に指摘されてきた課題もある。また,メタ分析を行うためには,一次研究のレベルで必要な情報が報告されていることや,データベースが整備されていることなど,いくつかの前提条件もある。国内においてメタ分析研究が増えるに伴って,メタ分析研究の質が問われるようになることが予想される。 本発表では,まずメタ分析の考え方について簡単に触れ,メタ分析を用いた近年の教育心理学研究の動向を紹介する。その後,メタ分析の利点と限界を提示し,以降の発表につなげていきたい。一事例実験のためのメタ分析 山田剛史 様々な学会誌で特集号が組まれるなど(例えば, Developmental Neurorehabilitation, Vol.21(4), 2018; Research in Developmental Disabilities, Vol.79,2018; Journal of School Psychology, Vol.52(2),2014),近年,一事例実験(single-case experimental design)のメタ分析に注目が集まっている。一事例実験のメタ分析では,研究結果の統合の手続きとして,1)データの重なりの程度に基づく効果量(PND, NAP, Tau-Uなど)を利用する方法,2)平均値差に基づく効果量を利用する方法,3)ノンパラメトリック手法を利用する方法(randomization testsなど),4)マルチレベルモデルを利用する方法,など様々な方法が提案されている。こうした様々な提案がなされているが,メタ分析の手続きとしてスタンダードとなるものは未だ確立されていないのが現状である。 本報告では,平均値差に基づく効果量として,Hedges, Pustejovsky, & Shadish(2012)により提案され,Pustejovsky, Hedges, & Shadish(2014)で拡張された,ケース間標準化平均値差BC-SMD(Between-Case Standardized Mean Difference Effect Size,PHS-dとも呼ばれる)に注目する。 近年,BC-SMDを効果量として用いた一事例実験のメタ分析が数多く報告されるようになってきた。BC-SMDは,一事例実験研究の結果と群比較実験研究の結果を比較できる効果量として注目されている。Remedial and Special Education, Vol.38(2017年)の特集号を紹介しながら,BC-SMDを用いた一事例実験のメタ分析の実際について紹介する。教育研究的含意のある調整変数を推しはかる—外国語学習における明示的文法指導の効果—亘理陽一 言語形式に焦点を当てた文法指導の効果は,習得のメカニズムを研究する立場のみならず,教室での実践的課題としても長く議論が交わされてきた。Norris & Ortega (2000)は,1980年から98年までに出版された250超の論文の内,基準を満たす40研究の明示的指導(k = 71)の効果量の平均(d = 1.13)が,19研究の暗示的指導(k = 29, d = 0.54)を上回ることを示し,第二言語習得・外国語教育研究におけるメタ分析研究の嚆矢となった。 一方この研究では「明示的」と定義される範囲が漠然としており,その中身に関する意味のある調整変数は,後継のメタ分析においても明らかになっているとは言い難い。Watari & Mizushima (2016)は,Norris and Ortega (2000)を含む4メタ分析研究および日本の主要学会誌を対象とするメタ分析研究2本の182論文を対象とする再分析を行い,直後テストの結果において,暗示的指導との直接比較を行った45研究の明示的指導(k = 79)の効果量がg = 0.43 [0.28, 0.57]であり,形態論的・統語論的側面よりも,音韻論的側面や語用論的側面をターゲットとし(Q(3) = 8.68, p < .05),意味論的・機能的側面までを解説内容とする方が効果が大きいこと(Q(2) = 6.36, p < .05),さらに総括的な規則提示が高い効果をもたらしうる可能性などを示した。 しかし因果推論という観点で見れば,ここには説明変数・結果変数の関係や共変量の調整に問題の多い一次研究が多数含まれている。実験デザイン・測定法の異なる研究が混在し,メタ分析に必要な記述統計の報告不備すら依然指摘される現状(Plonsky, 2014)にあっては,知見の統合のメリットは限定的にならざるを得ない。今後は,関連他分野の研究者の協力も得て,共通尺度の開発も含め,統合に耐えうる一次研究の蓄積が求められることになると考えられる。エビデンスに基づく教育研究の社会的・学術的影響熊井将太 「エビデンス」という言葉が教育研究の領域でも存在感を高めてきている。実証的な知見に依拠した「授業の科学化」という要求は何も目新しいものではないが,今日の「エビデンス」運動の特殊性は,一方ではRCTやそのメタ分析といった特定の研究方法を頂点として学問的知見を階層化しようとする方向性に,他方では事象のあり方を客観的に明らかにする「説明科学」を超えて,そこで得られた因果的な知見をより直接的に利用可能なものにしようとする方向性に見出すことができる。このような「エビデンス」運動の特質は,必然的に従来の教育実践研究を担ってきたアクターと競合関係を作り,相互批判を生み出すこととなる。その中では,教育研究におけるメタ分析の有効性や課題とは何か,あるいはメタ分析から得られた知見の活用可能性と危険性とはいかなるものかが問われている(例えば,杉田・熊井(印刷中)など)。 本発表では,世界的に大きな反響を巻き起こしたJohn HattieによるVisible learning (Hattie, 2009)およびVisible learning for teachers (Hattie, 2012)を素材に上記の問題を考えてみたい。Hattieの研究をめぐる議論で興味深いのは,元来規範的なアプローチを主流としてきたドイツ語圏の国々において英語圏以上に議論が活性化していることである。加えて,Hattieの研究は,例えばバイエルン州のように,学校の質保障や外部評価の基準として政策的に受容されているところもある(熊井, 2016)。ドイツ語圏の議論と日本における教育実践研究の動向を見渡しながら,教育実践の複雑性の軽視や教育目標・内容論の欠如といった課題を指摘しつつ,他方で批判者側の「閉じこもり」の問題に言及したい。付 記このシンポジウムはJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。
著者
吉田 和也
出版者
独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

(目的)本研究の目的はインプラント埋入手術の際に使用されるサージカルテンプレートを応用してボツリヌス毒素を外側翼突筋に正確かつ簡単に注入する方法を開発することである。(方法)対象は不随意の開口を生じ、咀嚼障害や構音障害を主訴とする開口ジストニア17例(男性9例、女性8例、平均年齢47.6歳)とした。上顎の石膏模型をスキャンしたデータとCTデータをコンピュータ上で重ね合わせた。サージカルテンプレートを分析するソフトNobelClinician(ノーベル・バイオケア・ジャパン社)を用いて、注射針の先端が外側翼突筋下頭内の最も理想的な位置となるよう、両側2本ずつアンカーピンとして設計し、光造形法で刺入用ガイドを作製した。ガイドを患者の口腔内に確実に装着し、注射針をアンカーピンのスリーブに挿入し、筋電計で針先が筋内にあることを確認し、生理食塩水で希釈したボツリヌス毒素(ボトックス: グラクソ・スミスクライン社)を25-50単位注入した。顎口腔領域のジストニアの客観的評価法3を用いてボトックス注射の治療効果と合併症をガイドの有無で比較した。(結果と考察)ボツリヌス療法をガイドなしで31回、ガイドを装着して30回行った。注射針の刺入はきわめて容易で、偶発症はまったくみられなかった。ガイド使用によって(63.0%)、ガイドなし(54.1%)より有意に(P<0.002)客観的評価法による改善度が上昇した。本法は外側翼突筋へのボツリヌス治療の際に正確かつ安全な注射を行うために有用であると考えられた。
著者
落合 将太郎 原田 和樹 李 相逸 樋口 重和
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.69-76, 2017 (Released:2017-10-31)

The aim of the present study was to determine the measurement dependence of the effects of color light and to clarify the correlation between physiological responses and subjective impression. Seventeen male university students without color vision deficiency were exposed to blue light and red light (200 lx at eye level) at night for three hours. The effects of blue light on pupil constriction and melatonin suppression were significantly greater than the effects of red light. On the other hand, heart rate tended to be higher under the red light condition. There was no significant difference between the effects of blue light and red light on rectal temperature or alertness. Individual variations in the subjective impression of light were correlated with heart rate and rectal temperature but not with melatonin concentration or pupil constriction. The results suggest that the physiological effects of light depend on measurements and that these variations may be influenced by subjective impression.
著者
安井 雅彦 M. Sakti Alvissalim 山本 裕紹 石川 正俊
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.134-140, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1 3

Recently, the importance of 3D interaction is increasing. We realize immersive 3D environment based on eyeware-free 3D image and high-speed hand gesture interface. For the aerial image, we use a display technology called AIRR and the 3D high-speed handtracking and gesture recognition make it possible to manipulate the aerial image in high-speed. The system we integrated is called “AIRR Tablet” which recognizes hands or any other objects in high-speed beyond human perception. We achieved immersive input and output having a small delay. We can perform operations without any physical contact (Drag&Drop, Punch, Drawing, and Pinching).
著者
桃田 幸弘 高野 栄之 可児 耕一 松本 文博 青田 桂子 山ノ井 朋子 高瀬 奈緒 宮本 由貴 小野 信二 東 雅之
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.53-59, 2016-12-25 (Released:2017-04-12)
参考文献数
37

口腔顎顔面領域に発症する神経障害性疼痛は従来の薬物療法(非ステロイド性抗炎症薬,いわゆるNSAIDs)が奏効し難く,対応に苦慮する.1990年代,米国において新しい疾患概念として口腔顔面痛が提唱され,本邦においても,その対策は喫緊の課題とされる.近年,プレガバリン・トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(T/A錠)・加工附子末などが用いられ,その経験が蓄積されつつある.今般,われわれはプレガバリン,T/A錠および加工附子末製剤の三剤併用が奏効した口腔顔面痛の3例を経験したので報告する.患者は男性1名,女性2名,年齢50~81歳(平均65歳)であった.全例に対してプレガバリン,T/A錠および加工附子末製剤を併用し,痛みは緩解もしくは消失した.特記すべき有害事象は認められなかった.口腔顔面痛に対するプレガバリン,T/A錠および加工附子末製剤の三剤併用の有用性が示唆された.
著者
和田 一範 福濱 方哉 木村 嘉富
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.511-515, 2006-10-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
2
被引用文献数
1 2

富士海岸の東端に位置する沼津工区 (通称千本浜海水浴場) では, 隣接する沼津港防波堤の影響による沿い波などにより来襲波浪が増大し, 砂浜の侵食が生じたことから, 人工リーフと養浜を用いた侵食対策が実施され1999年度に事業が完了している. 事業完了後の地形変化や波浪観測結果を基に, これらの効果を長期的視点から分析したところ, 当初計画どおりの保全効果を持続的に発揮していることが確認された. また人工リーフと養浜を複合的に組み合わせることによって, 人工リーフの規模の縮小を図れること, 5年以上にわたり維持養浜することなく安定な海浜を維持可能であることが判明し, 今後の海岸管理システムについての有用な示唆を得た.
著者
佐藤 公昭 永田 見生 芝 啓一郎 小西 宏昭 前田 健
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.139-144, 2009 (Released:2009-12-19)
参考文献数
5

腰部脊柱管狭窄診断サポートツールの妥当性を検証し,九州・沖縄版簡易問診票の有用性と問題点について検討した.まず,手術で確定診断が得られた280例(腰部脊柱管狭窄症138例,腰椎椎間板ヘルニア142例)に本サポートツールを用いた調査を実施した.結果は感度92.0%,特異度63.4%であり,ABIの項目は足背動脈の触診で代用可能であった.次いで,50歳以上の腰・下肢症状を有す外来患者201例(腰部脊柱管狭窄症116例,他疾患85例)に,本サポートツールと簡易問診票の双方の調査を実施した.簡易問診票の項目とこれに対応する本サポートツールの項目との合計点には高い一致性を認めた(κ係数0.77).本サポートツールの感度は97.4%,特異度は53.6%であった.一方,簡易問診票の感度は95.7%,特異度は31.8%であり,他の疾患を腰部脊柱管狭窄症とする可能性が高くなることが今後の検討課題である.
著者
金坂 清則
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.252-295, 1975
被引用文献数
1 1

Many studies have been published to deal with Japan's urban growth which began at the Meiji era, but there seems to be very few works which focus its examination on the urban functions and city and region relationship on a meso-scale, and have a scope to develop into macro-scale study of the whole region. Since a regon exists as a part of the whole, attention to such a direction will be urgently needed.<br>The writer intends to explain a historical change in the city and region structure in the Niigata Plain-the country's second largest plain-and its surroundings for the period of about seventy years since the early Meiji era. To this end the processes of forming the Ura Nippon Region must be unraveled dynamically and regionally, and location and the sphere of influence of urban functions, which may be classified into four categories-administrative, cultural, economic and transportational, are examined in relation to city size and distribution of cities. Parts of the results obtained are summarised as follows.<br>1. In 1879 there were thirty-three cities and towns in the objective region, and thirty-four in 1935. Cities in 1879 are classified into three, ie. a city in Class I, four in Class II, and twenty-eight in Class III (See Figure 1).<br>2. The four cities in Classes I and II were separated each other by 30 to 40 kilometres, and the distances between Class III cities were around 6 to 9 kilometres, the intervals being quite uniform. The outline of this structure had already been formed by the middle of the eighteenth century. Since that time most of those cities have had periodical fairs, and half of them were nuclei of textile and hardware industries which had been located at the rural settlements around them (See Figures 1 and 2).<br>3. On this foundation the administrative and cultural institutions such as government offices and schools began to be located corresponding to city size at the early years of Meiji. At the same time economic activities, especially of modern manufacturing industies which tend to be unevenly distributed, began to be accumulated around those cities. The framework of established orders among cities was therefore not broken down but was solidified more as the time passed.<br>4. Consequently larger cities genarally developed more in proportion to their scale. If the Zipf's rule is applied, the three largest cities had smaller scale than the rule's ideal value, and Class III cities larger than the same in 1887, and the case was reversed in 1935. As a result the difference in the scale of the largest and the smallest cities increased by 2.7 times during the period. This was also the process when the order among cities became rank-sized (Table 11).<br>5. After the middle of the Meiji era the objective region was gradually subordinate to Tokyo, and formed into a part of the Ura Nippon Region. The trend was definitely fixed at the mid-Taisho years. The cities developed only slowly in this region, and their influence over the countryside remained weak. Therefore the countryside began to be controlled by the cities outside this region and by the outer realm. The large-scale landlordship was the most important internal factor to keep the rural country into stagnation.<br>6. Another factor to bring about such change to the region was a drastic change in transportation: a shift from maritime and river-borne traffic to the modern railway. This should not be overlooked.
著者
稲見 和典 中山 実 西方 敦博 清水 康敬
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.107-117, 1997-09-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
7

英単語学習において,英和辞典としてCD-ROM辞書を利用した場合と,印刷英和辞書を用いた場合の学習成績を比較した.その結果,制限時間内に辞書による単語検索回数を自由とした場合の,日本語の意味の記憶試験では1%,英語のスペル試験では5%水準の有意差で,CD-ROM辞書使用時の正答率が高いとの結論を得た.また,制限時間を設けずに辞書の利用回数を各英単語につき1回に制限した場合には,学習成績に差はなく,CD-ROM辞書を用いた方が,1単語ごとの記憶時間が長いことがわかった.次に,アンケートによる主観評価について因子分析を行い,「おぼえやすさ」,「学習のしやすさ」,「操作性」,「持続性」,「見やすさ」の5因子を抽出した.これらの因子評価点と学習成績との関係を調べたところ,「おぼえやすさ」と成績の間に相関関係があることがわかった.
著者
稲葉 浩幸
出版者
近畿大学商経学会
雑誌
商経学叢 = Kinki University journal of business and economics (ISSN:04502825)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.1-18, 2003-12-20

"本稿では, ファイアマークの図案を分析し, その由来や意図を検証することを目的とする。ファイアマークとは火災保険契約の証として, 被保険者宅に取り付けられたプレートのことであり, わが国では1887年に設立された東京火災のファイアマークが最古のものである。ファイアマークの役割は, 消防組織が消火活動を行う際の目印また保険会社の広告・宣伝という実益的な機能がクローズアップされるが, そのデザインには「水」や「魔除け」といった図案が多用され, 防火の「お守り」としての側面も見られる。こうしたファイアマークの歴史的・文化的価値を評価し, わずかに現存するファイアマークを保存していく必要がある。HIROYUKI INABA. Features of Fire Marks in Japanese Insurance Companies. In this paper, fire marks' designs are analyzed and it aims at verifying those origins and intentions. Fire marks are the plates attached in the insured's houses as a proof of a fire insurance contract, and the fire mark of the Tokyo fire insurance company founded in 1887 is the oldest thing in Japan. As fire marks' roles, there are utility-functions of the mark at the time of a firefighting organization performing fire-extinguishing activities and the advertisement of insurance companies. However, designs, such as ""water"" and a ""talisman"", are used abundantly and the side as a ""charm"" of fire prevention is also looked at by Japanese fire marks. It is necessary to evaluate such fire marks' historical value and cultural worth, and to save the fire marks who are slightly living."
著者
菊地 高史 正井 克俊 杉本 麻樹 Bruce H. Thomas 杉浦 裕太
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.477-483, 2017 (Released:2017-12-31)
参考文献数
21

In this paper, we propose EarTouch, a new sensing technology for ear-based input for controlling applications by slightly pulling the ear and detecting the deformation by an enhanced earphone device. It is envisioned that EarTouch will enable control of applications such as music players, navigation systems, and calendars as an “eyes-free” interface. As for the operation of EarTouch, the shape deformation of the ear is measured by optical sensors. Deformation of the skin caused by touching the ear with the fingers is recognized by attaching optical sensors to the earphone and measuring the distance from the earphone to the skin inside the ear. EarTouch supports recognition of multiple gestures by applying a support vector machine (SVM). EarTouch was validated through a set of user studies.
著者
小薗 修 大内 章子
出版者
日本労務学会
雑誌
日本労務学会誌 (ISSN:18813828)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.50-68, 2016-06-01 (Released:2018-01-24)
参考文献数
38

There has been an increasing interest in the question of how to enhance the effectiveness of the training program through a smooth transfer of the contents of Off-JT to the workplace. While the literature identifies several factors that contribute positively to the training effect, they have not been empirically validated and little is known about the transmission channels through which these factors enhance the training effect. Based on the questionnaire survey on participants in four training programs, this study empirically validates that those factors do have a positive impact on the training effect, and identifies the transmission channels. Specifically, we find that all ten factors identified in the literature ('learning readiness', 'personal match with the content and timing of training', 'training environment', 'quality of peers', 'post-training interaction', 'practice readiness', 'willpower', 'supervisor support', 'workplace climate' and 'motivation to grow') positively contribute to the training effect, and also make the following findings: (1) a causal relationship exists among some of those factors ('learning readiness' → 'personal match' → 'practice readiness' → 'willpower'); (2) 'supervisor support' and 'working climate' positively influence 'learning readiness', but 'motivation' does not affect 'learning readiness'; (3) 'training environment' and 'peer quality' have a direct positive impact on 'personal match', while 'personal match' is indirectly affected by 'supervisor support' through 'peer quality', by 'workplace climate' through 'training environment', and by 'motivation' through 'training environment' and 'peer quality'; (4) 'motivation' and 'post-training interaction' have a direct positive impact on 'willpower', while 'supervisor support' and 'workplace climate' have an indirect positive impact on 'willpower' through 'post-training interaction'; (5) there exists a positive correlation among 'supervisor support', 'workplace climate', and 'growth will'.