- 著者
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天野 和孝
- 出版者
- 上越教育大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究ではエスカレーションの検証に適しているタマガイ科などの腹足類による二枚貝への穿孔捕食痕の新生代における時代的変遷を検討した.対象とした二枚貝は浅海性の貝類としてエゾタマキガイ,ヤマトタマキガイ,エゾシラオガイ,深海性の貝類として化学合成群集中の二枚貝である.その結果,以下のことが明らかとなった.(1)同時代の浅海性貝類の穿孔率は本州の個体群の方が北海道の個体群より高い(エゾタマキガイ,ヤマトタマキガイ,エゾシラオガイ).本州の個体群の方が穿孔率が高いことは,低緯度へと穿孔率が上昇するとしたDudley and Vermeij(1978),Allmon et al.(1990), Alexander and Dietl(2001)の結論と調和的である.(2)エゾタマキガイでは穿孔率は時代的な変化傾向は見られなかったが,エゾシラオガイでは鮮新世の個体群で低く,更新世前期以降高くなる傾向が見られた.(3)穿孔痕の位置は捕食者,被食者により異なる(エゾタマキガイ,エゾシラオガイ,ワタゾコウリガイ).(4)殻縁穿孔は更新世前期以降に出現した(エゾタマキガイ,エゾシラオガイ).これは北米のマルスダレガイ科への穿孔を検討したVermeij and Roopnarine(2001)の鮮新世以降という結果とほぼ一致している.他の種についても今後検討する必要があろう.(5)時代が新しくなるにつれて,捕食者-被食者のサイズ間の相関係数は低くなる傾向が見られた(エゾタマキガイ,エゾシラオガイ).これはエスカレーションと矛盾するように見える.ローカルな要因が働いている可能性もあり,もう少しデータを増やす必要がある.(6)化学合成群集では始新世以降穿孔捕食痕が見られ,中新世を通じて穿孔捕食活動が見られる.場合によっては浅海域の貝類に比較されるような穿孔率も認められた(ワタゾコウリガイ).