著者
及川 清昭 槻橋 修 藤井 明 大野 秀敏
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は日本の都市空問における特徴のひとつである建物間の隙間に焦点を当て,隙間の定量化手法を提案し,市街地における隙間の面積と分布様態の特性を明らかにすることを目的としている。建物間の隙間は,建物配置図において半径rの円が掃過できない領域として定義する。円の直径が隙間の幅に相当する。隙間の領域を抽出する方法として,建物配置図を画像化(1画素50cm角)し,画像処理技法における図形の収縮(erosion)と拡大(dilation)という操作を援用する。すなわち,半径rの円に対応するディジタル図形によって建物平面を拡大し,その後収縮するという方法を用いる。これはモルフォロジーにおけるclosingと呼ばれる操作に相当し,画像処理の結果,隙間が抽出可能となる。この計量手法を東京都23区と大阪市24区における建物配置全体に適用し,以下のような知見を得た。(1)隙間率(グロスの面積比)は東京都においては,隙間の幅1.5mの場合は0.5%,幅2.5mでは1.4%,幅3.5mでは2.4%,大阪ではそれぞれ0.6%,1.3%,2.0%と計量された。局所的には10%を超える地域も多く,隙間の面積は市街地形成上無視し得ない量となっている。(2)隙間率と建物の密度指標(棟数密度・周長率・建蔽率)の値とは高い相関を示す。(3)隙間率の高い地域は,東京都ではJR山手線外周沿いに,大阪市ではJR大阪環状線外周沿いに環状に連担する。(4)隙間率の高い地域は住宅密集地域であり,人口密度が高く,緑被率は低い。震災対策重点地域とも重なり,都市の安全上の問題を抱えている。なお,本研究は数理的考察に加えて,隙間の生成過程について歴史文化的な面からも考察することを目的としていたが,建物配置に関する法令・慣習なとの資料をもとに若干の考察を加えるに留めた。また,隙間の利用状況に関する現地調査を行い,隙間のもつ機能についても検証した。
著者
藤江 真也
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

<1.顔表情認識システムの構築>昨年度の研究結果を踏まえ,本年度は,まず顔表情認識システムを構築した.認識対象とする表情としては,「笑顔」「しかめ」「見開き」と,平常を含む4表情とした.顔領域の中で,上記の表情で特に変化の大きかった眉間,眉毛を含む目,頬,口の部分画像を切り出し,主成分分析(PCA)や線形識別分析(LDA)などに基づき次元圧縮を施したベクトルを特徴量とし,サポートベクターマシンを用いて認識を行った,その結果,80%を超える認識率が得られた.<2.顔方向・視線認識システムの構築>上記に述べた顔表情システムは,基本的にユーザの顔が対話ロボットに正面を向けている場合を想定している.実際の対話では,ユーザの顔向きは様々に変化する.また,顔向きや視線はユーザとシステムとの間での発話権(発話の順番)のやり取りに大きな影響を与えるため,これらを認識することは顔表情と同様に適切な対話制御のために不可欠である.本研究では,画像のテンプレートマッチングの一手法であるLucas-Kanadeアルゴリズムを用いて,顔画像テンプレートマッチング問題を3次元情報を考慮して解くことで顔向きの推定を行った.また,ここで得られた結果から目の部分面像を切り出し,PCAやLDAなどを用いて得られた特徴ベクトルを,部分空間法を用いた識別器にかけることによって視線認識を行った.これらの結果,顔向き認識は平均誤差約5度,視線認識は76%の認識率という結果が得られた.これらのリアルタイムのデモンストレーションをノートPC上に実装した.
著者
橋本 博公
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

コンテナ船や自動車運搬船で問題となっているパラメトリック横揺れの定量的予測のため,時々刻々の没水断面に対して流体力を計算する数値予測モデルを構築し,このモデルに強制横揺れ試験から得た横揺れ減衰力を用いることで,規則波中パラメトリック横揺れの定量的予測が可能であることを確認した.また,パラメトリック横揺れ防止効果に及ぼすアンチローリングタンク形状の影響,船首・船尾形状の影響を調査し,それぞれについての設計指針を得た.
著者
真鍋 陸太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、1つの共通するインターネット上の地図を複数の団体が使用でき、必要に応じて複数の団体の情報、すなわち異なるテーマの情報を重ね合わせて表示して議論できるようなシステムとした(=18年度成果)、インターネット上の双方向・開放型の地理情報システムである「カキコまっぷ」(以下、新カキコまっぷ)を、複数の団体で試用して、システムの意義・課題を検討した。具体的には、東京都23区全域を対象とするベースマップ(地図)を用意し、子育て支援関連の情報を発信している「ママパパぶりっじ(せたがや子育てネット)」、世田谷区若林地区でまちづくり活動をおこなっている「若林マップを作ろう!」プロジェクト、東京山手線程度の広さを対象として自転車に関する情報交換をおこなっている「東京バイカーズ」の3つの既存のカキコまっぷ使用団体の情報を「新カキコまっぷ」に再掲載し、さらに範囲全域を対象とした「何でも投稿」、文京区本郷地区を対象とした「本郷マップ」の2つの新しいレイヤー(=テーマ)も設定し、東京23区を対象とした多層型のインターネット地図型掲示板の運用実験をおこなった。結論として次の3点が明らかとなった。1点目は趣味的な自転車とベビーカーといった日常では同じ場面で議論することが少ないテーマが1つの地図上に掲示され投稿者が相互の情報に触れることで特定の場所・事象に関してこれまでには発想しづらかった新しい観点からの考察が可能となった。2点目は、対象範囲が共通でテーマが異なるインターネット地図掲示板を想定して研究を進めたが、個別テーマを扱う団体にとっては他の情報に触れたいという動機が低く、本システムに対する満足度は高くなかった。また、3点目として、使用できる地図の範囲は東京23区全域であったが、個別団体が扱う範囲はそれぞれ異なることから、システム利用初期に表示される地理的範囲の設定についての自由度が課題となった。
著者
菊地 正 椎名 健 森田 ひろみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

スクロール提示とは,限られたスペースに文字を右から左(あるいは下から上)に移動させることで,文章を提示する情報伝達手段を意味する。本研究では,観察者が読みやすいと感じるスクロール提示条件を明らかにするため,以下の研究を行った。1)同時に表示可能な文字数(以後,表示文字数)を1〜15文字の間で操作し,最も読みやすいと感じるスクロール速度(以後,快適速度)に調整するよう観察者に求めた。快適速度は表示文字数に伴って増加するが,表示文字数が5文字以上ではほぼ一定となった。また,街頭に実在するスクロール提示装置の平均スクロール速度(調査対象数242)は,本実験の各表示文字数条件の快適速度と比較して,およそ2倍遅いことが確認された。2)スクロール提示条件における,表示文字数(2,5,15文字)および速度(上記実験結果に基づき,快適速度,その2倍,あるいは1/2倍の速度のいずれかに設定)が操作された。観察者は,それぞれの提示条件から受ける印象について,14項目を7件法で評定するよう求められた。実験の結果,5および15文字条件では,観察者がほぼ同様の印象を受けることが明らかにされた。また全ての表示文字条件において,2倍速条件では,より"理解しにくいと"と評価されやすく,1/2倍速条件では,より"いらいらする"と評価されやすいことが明らかにされた。3)スクロール提示枠の,中央,左端,右端のいずれかの上または下に車仮名一文字が短時間提示された。観察者の課題は,文字刺激に対する無視または弁別反応を行いながら,スクロール提示文を快適速度に調整することであった。実験の結果,文字刺激が提示枠右端に提示される場合,文字刺激に対する課題の有無に関わらず,快適速度が低下することが明らかにされた。このことは,スクロール提示文の読みの最中の有効視野が,提示枠の右側に広く分布している可能性を示している。
著者
伊藤 誠悟
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

無線LANを用いた位置推定手法に関して,受信電波強度の変化量を考慮し近接性方式(Proximity)および環境分析方式(Scene Analysis)を組み合わせた無線LANハイブリット位置推定手法について提案した.本手法では位置推定の際に,第一段階として,受信電波強度から近接性に基づき位置推定に使用するアクセスポイントを選択し,選択されたアクセスポイントを利用しベイズ推定により位置推定を行った.本手法を用いる事により,無線LANアダプタを保持する端末ならば,屋内環境において2m〜10m程度の精度で位置推定が可能となった.また,市中の実環境において無線LANを用いた位置推定システムに関する基礎検討を行った.無線LAN位置情報システムで利用するための基準点情報を住居地域及び商業地域において収集し,収集方法に関して収集効率と位置推定精度及びカバー率の観点から検討および評価を行った.実験結果より,屋外環境において基準点情報を用いた位置情報システムの推定精度は約30m〜50mであり,名古屋,大阪,東京の商業地域,住居地域等において全ての街路の半分の経路による収集でもカバー率が80%程度になることが分かった.この推定精度は,基準点情報の誤差に,無線LANによる屋外位置推定誤差が相加された精度である.また,収集時間は1平方キロメートルあたり5000秒程度であることが分かった.例えば,東京のJR山手線内側(総面積約65平方キロメートル)において,80%程度のカバ「率の広域な位置情報システムを構築する場合,162500秒(約45時間)程度の収集時間が必要である.我々の検討がこのような概算を行う際の指針となる.
著者
西川 栄一
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

デイ-ゼル主機の排熱回収の蒸気発生器である排ガスエコノマイザの伝熱面は、排ガス中に含まれるス-トで汚され、種々の障害に悩まされる。とくに問題なのは堆積したス-トが燃焼し、ひどい場合には伝熱面がメルトダウンに至る「ス-トファイア」と呼ばれる深刻な事故が生じることである。本研究によりス-トファイアの機構を解明し、防止のための方策を提示できた。1 事故実態の調査分析・・・・ス-トファイア事故データを集めて分析し、主な関係因子は運転状態、循環条件、伝熱面の形状であることを明らかにした。2 ス-トファイアのシミュレーションモデルの構築・・・・ス-トファイアの計算機シミュレーションモデルを構築した。モデルは実際の現象をうまく再現していることが確認され、伝熱面に堆積したス-トが燃焼する諸条件、伝熱面の上昇温度などが推定可能になった。3 鉄鋼材料の酸化速度に関する分析・・・・上のシミュレーションモデルにより、堆積したス-トの燃焼熱だけでは伝熱面が溶融するまでには到らないことがわかった。そこで伝熱面フィンなど鉄鋼材料の酸化速度に関する諸条件を調べた。その結果実用されているフィンの場合、一定の条件ではメルトダウンを引き起こす熱源となり得ることが明らかになった。4 メルトダウンの機構・・・・メルトダウンに到る過程は以下のようであることが解明された。ス-ト燃焼発生→→不均等加熱のためドライアウト発生→→熱除去効果喪失のためフィン温度急上昇→→フィン材の酸化速度急上昇による酸化熱のためフィン温度さらに上昇→→メルトダウン5 水循環設計条件の分析・・・・排エコは、強制循環の並列水平管で構成され、しかも低圧なので水側がドライアウトしやすく、水循環設計条件が重要である。国内排エコの設計条件を調査した。その結果ドライアウトの可能性の高い設計がなされている排エコも存在することが明らかになった。6 本研究の結果に基づいて一連のス-トファイア防止策を提言し、海運、造船、排エコメーカなどでそれが採用され、現在ス-トファイア事故は急減することとなり、大きな成果を得た。
著者
増子 崇 武田 信司 長谷川 雄二
出版者
社団法人エレクトロニクス実装学会
雑誌
エレクトロニクス実装学会誌 (ISSN:13439677)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.116-124, 2005-03-01

デカメチレンビストリメリテート二無水物(DBTA)を酸成分として合成したポリイミド, エポキシ樹脂, および銀フィラーからなるコンポジットフィルムを調製し, それらの種々特性を検討した。硬化前においては, Tgを超える温度領域でメルトダウンし, 熱可塑型フィルムに特有の挙動を示したが, 硬化後においては, 含有するエポキシ樹脂成分の橋かけ化の効果により, 上記の温度領域での流動が抑制された。これらのフィルムを介して, 異なる熱ひずみを有する材料同士を貼り合わせたときの接着強度は, 主としてフィルムの弾性率と応力緩和特性の影響を受けることがわかった。本報では、ポリイミドの構造とフィルム特性との関係について詳細に論じた。
著者
河田 惠昭 田中 聡 林 春男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

プレート境界型巨大地震として南海地震を取り上げ,これによる地震・津波災害の被害軽減策を危機管理の立場から考究した.まず,南海地震津波が広域に西日本太平洋沿岸を襲い,臨海大都市で大きな被害を起こす恐れがあることから,最終年度に大阪市を取り上げ,そこでの氾濫シミュレーションを実施し,氾濫水の特徴を見いだした.すなわち,大阪市北区梅田地区を対象に,M8.4の南海地震を想定し,地震動によって堤防が沈下し,その部分から津波が市街地に流入したという条件の下でシミュレーションを行った.その結果,氾濫水の市街地氾濫は面的に広がるために浸水深の距離的減少が大きいために,津波の場合が破堤点と地下空間の距離が短く,地下空間への浸水量は洪水の氾濫の場合よりも大きくなることがわかった.そこで,津波や高潮氾濫の被害軽減を図る危機管理上の項目を,2000年東海豪雨災害を参照して整理した.その結果,高潮氾濫の場合には路上浸水が始まり,床下浸水,床上浸水,地下空間浸水というような時系列によって被害が段階的に進行し,それぞれに対して防災対策が存在することを明らかにした.一方,津波氾濫を想定した場合,まず地震が起こることが先行するから,二次災害対策として津波防災が存在することがわかった.したがって,地震とのセットで防災対策を立てる必要があり,しかも高潮に比べて時間的余裕があまりないので,選択的に対策を進めざるを得ないことを指摘した.さらに,津波,高潮災害の危機管理上,最大の問題は超過外力に対してどのような考え方を採用するかということである.そこで,受容リスクと受忍リスを新しく定義して対処する方法を提案した.これらを参照して,浸水ハザードマップを防災地理情報システム上で展開する場合に情報を集約するプログラムを開発し,その有用性を明らかにした.
著者
中島 章光
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

太陽活動の影響によって磁気嵐やサブストームなどの擾乱現象が発生すると、太陽風エネルギーが磁気圏を介し電離圏に流入する。このエネルギー流入過程を解明するためには、地磁気擾乱時のオーロラ粒子の加速・加熱過程について調べることが重要である。昨年度は、磁気嵐中のサブストーム発生時に、広いエネルギー範囲(50eV-30keV)にわたって降り込み電子が増大する現象"broadband electrons(BBEs)"について調査を行った。本研究によって、BBEsは磁気赤道面で加熱された高エネルギー電子と、より地球近傍で加速された低エネルギー成分により構成されていることが示唆された。磁気嵐中のサブストーム発生時に観測されるBBEsの研究に加え、本年度は、サブストーム回復相において数秒から数十秒の周期で点滅するオーロラ現象である、パルセイティングオーロラについて、その原因となるオーロラ粒子降り込みについての調査を行った。パルセイティングオーロラの生成については、磁気赤道面で粒子が散乱され、数keV~100keVの高エネルギー電子が電離圏へ降り込むというモデルが提案されてきた。しかし、近年では磁気赤道面より地球に近い領域からの粒子降り込みであることが示唆されている。先行研究のほとんどが低高度衛星のデータを用いていたのに対し、本研究ではTHEMIS衛星のデータを用いて、パルセイティングオーロラ発生時の磁気赤道面付近における電子のピッチ角分布の特徴を初めて明らかにした。パルセイティングオーロラ発生時に磁気赤道面付近で1-10keVの電子フラックスが沿磁力線方向に大きく変動し、特に1-5keVの電子のフラックスは、地上から観測したオーロラの点滅とほぼ同じ周期で振動していることを示した。本研究の結果から、パルセイティングオーロラに寄与するオーロラ電子の一部が磁気赤道面付近から電離圏へ降り込んでいる可能性が示唆された。
著者
徳山 長
出版者
社団法人日本経営工学会
雑誌
日本経営工学会誌 (ISSN:03864812)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.360-367, 1976-03-31

個別生産工場(発電プラントや一般産業用プラントのシステムおよび制御機器, 構成機器を生産する)における能率管理システムの革新事例を紹介する。たんに能率管理の局面のみでなく, 現場管理の実体と, 生産環境の変質(品質保証の重視, 技能育成と伝承の必要性, 班長の改善力向上, 等々)を十分加味し, 管理方式の見直しを図った。おもな革新点は(1)管理者(とくに係長)の率先力の発揮, (2)班長の自主性と改善力の発揮, (3)能率管理の視野の拡大と方式の改善, (4)標準時間の純化と時間管理の改善, である。新方式導入後6ヵ月で約6〜22%の生産性向上の成果をえた。加えて, 個別生産工場の将来の生産方式を想定するに, 「標準時間」のあり方について私見を述べる。
著者
坂井 淳一
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

新潟県特産ユキツバキ(Camellia rusticana)の資源としての可能性を検討するため、その種子オイルからの搾油、精製、構成脂肪酸、抗酸化性物質などの含有成分の分析を行い、"雪椿オイル"としての可能性を検証した。合わせて、ヤブツバキ(Camellia japonica L.)の成分検索の報告を参考にしながら搾油滓について、サポニン類等含有成分の検索、単離を行い、搾油滓の有効利用を検討した。原材料となる雪椿種子については、新潟県東蒲原郡阿賀町役場の協力により、同町鹿瀬地区の角神原生種雪椿園(面積約5,000m^2)から種子の採取を行った。その結果、ユキツバキ果実22.9Kg、同乾燥種子4.0Kgを得ることが出来た。この種子を圧搾法による搾油を行った所、粗油0.5Lを得ることができた。一方、採取ならびに搾油データを比較するため、本学五十嵐キャンパスに植栽されているヤブツバキからも同様に採取を行い、果実41.8Kg、同乾燥種子9.8Kgを得、これからヤブツバキ粗油2.6Lを得た。先行してこのヤブツバキ粗油を用いて種々精製方法を検討した結果、吸着剤(白土、シリカゲル等)を用いず、荒ろ過とメンブランフィルターを用いる精密ろ過により、粗油の香りやα-トコフェロール(ビタミンE)を損なうこと無く精製できることがわかった。この結果を雪椿粗油についても同様に適用して精製を行ない、成分分析、試供用サンプルに供した。分析の結果、雪椿精製油はヤブ椿由来の市販椿油と同等以上のオレイン酸を含有し、α-トコフェロールの存在も確認した。一方、雪椿搾油残渣3.43Kgについてはそのメタノール分画からサポニン類混合物130.9gを得ており、ODSカラムクロマト、HPLC分取によりこれまでに8種類の存在を確認した。現在も単離、同定を続けており、今後、生理活性等の試験に供する予定である。
著者
國土 典宏 幕内 雅敏 中山 健夫 有井 滋樹 小俣 政男 工藤 正俊 神代 正道 坂元 亨宇 高安 賢一 林 紀夫 門田 守人
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.562-570, 2007-11-25
参考文献数
7

平成14-15年度の厚生労働省診療ガイドライン支援事業により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン研究班」(班長:幕内雅敏)が組織され,ガイドラインを作成し,2005年2月に書籍として刊行した.発刊後ほぼ1年を経て,臨床現場でガイドラインを用いるより多くの医師による評価を目的として,日本肝癌研究会全会員に対するアンケート調査を実施した.ガイドライン内容の妥当性だけではなく,普及・利用の現状と可能性に関する評価のために16項目からなる質問票を作成し2006年3月,質問票を本研究会個人会員2,279名に送付し,843名(37.0%)から回答を得た.回答者年齢の中央値は47歳,卒後年数は93.9%が10年以上であり,中央値は20年であった.専門領域は内科系55.6%,外科系37.8%,放射線科系4.4%,病理2.0%であった.最近3カ月で診療した患者数は外来で20名以上が45.7%,入院で10名以上が44.8%であり,現在activeに肝癌診療に関わっているベテラン医師からの回答がほとんどであった.ガイドライン認知度についての質問では,「ガイドラインをみたことがある」が72%であり,日常診療に役立つかどうかの質問では,「大いに役立つ」,「役立つ」を併せて78.8%であった.ガイドラインのどの部分をよく利用するかを尋ねたところ,「治療のアルゴリズム」が77%と最も多く利用されており,次いで「診断・サーベイランス」39%,「経皮的局所療法」38%,「手術」34%と続いた.「ガイドラインを使用して治療方針に変化がありましたか」という質問には「変化した」という回答は20.8%とむしろ少なく,「変化はないがガイドラインが自分の推奨に近いことを確認し自信が持てた」が40.3%と多くを占めた.「変化した」内容については,「治療選択に時間がかからなくなった」が50%で,「時間がかかるようになった」の8%を大きく上回っていた.一方,「ガイドラインは医師の裁量を拘束すると思いますか」との質問には43.9%が拘束されると回答した.解答率が37%と高くないという問題はあるものの,本調査によって肝癌診療ガイドラインがわが国の肝癌専門医に広く認知され利用されていることが明らかになった.本アンケート調査の結果は2006年度から開始されているガイドライン改訂作業の参考資料になると期待される.<br>
著者
酒井 寿郎 田中 十志也 川村 猛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

脂肪細胞分化において、分化誘導のマスターレギュレータPPARγが分化を完成させるメカニズムの一端として、ヒストン修飾酵素の発現を制御し、エピジェネティックな制御機構を担うことを解明した。また、Wntが脂肪細胞分化を抑制する機構として、核内受容体COUP-TFIIの転写を促進し、これがPPARγの転写調節領域に結合し、ヒストン脱アセチル化複合体を介してPPARγ発現を抑制するメカニズムを解明した。
著者
安里 練雄 平田 永二 新本 光孝 篠原 武夫
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.61-70, 1999-12-01

沖縄県における林業従事者の雇用の促進や就労環境の改善に寄与することを目的に,森林組合傘下の13作業班について,年間の就労日数や作業内容等の就労実態調査を行った。その結果を要約するとおよそ次の通りである。1) 作業班員には60歳以上の者が多く,5年以上の林業経験者が約60%を占めている。2) 沖縄本島の作業班は,班長の個人経営体的性格が強く,森林組合と班長の間で「下請け」契約を交わして事業を行っている。宮古,八重山の作業班は,森林組合が作業班員を直接雇用し,作業班長は連絡調整の役割を担っている。3) 作業班の年間の平均就労日数は162.6日で,労働日の66%に相当し,就労の機会が少ない。作業班の差も大きい。4) 作業班の月平均就労日数は13.6日である。月別の平均就労日数率は,5月の最低28%から2月の最高82%と,時期的に変動が大きい。5) 13作業班の全作業員(179人)による年間の就労のべ人数は,23,763人/日である。月別の平均就労人数は1,980.3人である。6) 作業班の年間の就労人数率は平均53%である。作業班により11%から103%と,就労機会に大きな差がある。7) 作業班の月別就労人数率は,5月が最低で21%,1月が最高で70%となって,月別の差が大きい。年間を通じて就労の機会が不安定である。8) 作業の内容は,複層林の下刈り作業が最も多く,次いでマツ防除作業,単層林下刈り作業,育成天然林作業などとなっている。複層林下刈り作業は国頭村及び宮古森林組合傘下の作業班に多く,マツ防除作業は沖縄北部森林組合傘下の作業班に多い。9) 作業班全体での年間作業総日数は2,114日である。このうち65.6%は市町村有林の事業で,32.0%は県有林又は県の事業で,これ以外の事業はごくわずかである。県や市町村主導の林業活動が展開されており,行政の取り組みの影響が極めて大きい。10) 多くの作業班長は就労日数の増加を望んでいる。全ての森林組合,作業員のほとんどが「事業量の安定確保による通年雇用の確保」を最重要課題としている。
著者
油井 信弘
出版者
岩手大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、PP2C機能研究のためのPP2C阻害剤と活性化剤を提供することと、その分子メカニズムを明らかにし、真核細胞におけるPP2Cの機能を解明することを目的とした。昨年度ではPP2Cを活性化するPisiferdiol(1)と阻害するSanguinarine(2)を見出し、そのin vitroにおける各種ホスファターゼに対する作用とHL60細胞に対するアポトーシス誘導活性を調べたが、今年度では、それらを論文としてまとめるとともに、1のカルシウムシグナル伝達に関わる遺伝子変異酵母(zds1 Δerg3Δpdr1/3Δ)に対する生育円活性について調べた。1は、0.3M CaCl_2を含むYPD培地での遺伝子変異酵母株に対してCa^<2+>依存的、濃度依存的に生育円活性を示した(0,5μg/disc,11.0mm)。また、FACS解析により、1のCa^<2+>によるG_2期遅延の抑圧が観察された。さらに、cnb1Δ株とmpk1Δ株に対する合成致死作用でmpk1Δに特異的に作用し、WT株に対するLi感受性の増大を示すことから、カルシニューリン経路に作用することが示唆されたが、直接の酵素阻害は300μMでも認められなかった。そこで、遺伝子変異酵母株におけるCa^<2+>シグナル伝達に関わるタンパク質のリン酸化状態と発現を調べたところ、1は0.1M CaCl_2によって亢進されたリン酸化Cdc28を脱リン酸化すると同時に、Cdc28pのチロシンキナーゼSwelpとカルシニューリンCnblpの減少を引き起こした。これまでに、酵母のPP2CホモログPtc1の抑制がカルシニューリンの活性化に関わると推定されており、1は遺伝子変異酵母株においてPP2Cを活性化させることで、カルシニューリンを抑制することが示唆される。
著者
中條 直樹 佐藤 昭裕 神山 孝夫 岡本 崇男 酒井 純 塚原 信行 山口 巌 山田 勇 今村 栄一 水野 晶子 田中 大
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

2008年度には、本プロジェクトにおいて正本と位置づけた『ラヴレンチー版原初年代記』のコンコーダンス(CD)を作成し、2009年度には、その異本の一つである『ラジヴィル年代記』のコンコーダンス(CD)を作成した。最終年度においては前年度に電子化を終えていた『トロイツァ年代記』について徹底した校正を行い、そのコンコーダンスを作成し、これら三つの年代記のコンコーダンスを一枚のCDに収めることにより、共通する語の文脈等の環境の差異の検証を飛躍的に容易に可能にした。