著者
菅原 敏
出版者
宮城教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

16年度には、前年度に完成した測定装置を用いて水素濃度の広域分布を明らかにするための観測を拡充した。さらに、標準ガスの整備や、極域雪氷中のフィルン空気などの解析を同時に進め、以下の項目が明らかとなった。★高精度分析の結果、これまでに用いてきた一次標準ガスが、長期的に濃度変化する現象が確認された。このため、比較的濃度が安定する体積の大きなシリンダーを用いて製造された作業用標準ガスを基準にして、一次標準ガスの濃度変動を推定しすると同時に、今後新たなシリンダー内面処理を施した標準ガス製造方法が必要であることがわかった。★航空機や船舶を用いた全球的な定期観測を継続し、観測領域を拡充した。その結果、水素濃度の季節変動や緯度方向の南北勾配などが見られた。また、北極や南極などでの空気採集を行っている国立極地研究所、東北大学と協力し、その試料空気を分析した結果、さらに広域的な緯度帯での分布が明らかになった。★南極や北極の極域表層のフィルン層で採取された過去の空気を分析した結果、金属容器内面における長期間にわたるサンプル空気の変質の影響のために、正しい過去の水素濃度の変遷の推定が難しいことが判明した。このため、フィルン空気のサンプリングをガラス容器で実施することや、サンプリングサイトにおいてフィルン空気の吸引中にリアルタイムで測定するなどの改善が必要であることがわかった。
著者
林 良嗣 加藤 博和 〓巻 峰夫 加河 茂美 村野 昭人 田畑 智博
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

社会基盤整備プロジェクトのLCAにはSocial/Dynamic LCA概念の具体化が必要であることを示し、各社会システムに対してLCAを実施したところ、以下に示す成果を得た。1.交通・流通システム:1)道路改良事業の事業計画段階において、環境負荷削減効果を自動車走行への波及効果を含めて定量的・包括的に評価するための方法論を構築し、自動車走行状況に応じた削減効果の発現条件を明らかにした。2)航空路線を削減し新幹線輸送に転換させることの有効性について、LCAを導入して検証を行う方法を提案し、新幹線整備をCO_2排出量の観点から評価した。3)容器入り清涼飲料水の流通段階の環境負荷排出の内訳をLCAにより詳細に分析し、流通・販売形態によってLC-CO_2が大きく異なることを明らかにした。2. 廃棄物処理・上下水道システム:1)ごみ処理事業を対象とし、中長期視点から処理施設の維持・更新とごみ処理に係るLCC、LC-CO_2を算出することで、将来からみた現在のごみ処理施策の実施効果を評価するモデルを開発した。地方都市でのケーススタディでは、現在のごみ処理施策実施に伴うLCC、LC-CO_2を積算し、これらを削減するための処理政策を提案・評価した。2)生活排水処理システムについて、計画段階でLCAを適用のするために必要な原単位を整理・分析し、実際の計画へ適用したところ、排水処理技術の進展についても考慮が必要なことが明らかになった。3. 都市システム:1)地域施策や活動にLCAを適用する際の課題を整理し、地域性の表現、地域間相互依存の考慮といったLCAの手法面で検討が必要な項目を明らかにした。2)郊外型商業開発のLCAを用いた分析の枠組みを整理し、時系列的な変化を考慮することの必要性や統計データの精度に改善の余地があることを示した。なお、日本LCA学会誌Vol.5 No.1(2009年1月発行)において、研究分担者・加藤博和が幹事を務めた特集:「社会システムのLCA:Social/Dynamic LCAの確立を目指して」は、本研究の成果公表の一環として位置づけられている。
著者
藤枝 繁 佐々木 和也
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.755-761, 2005-09-15
参考文献数
30
被引用文献数
1 39

カキ養殖が盛んな広島湾江田島・倉橋島において, 海岸に漂着する発泡プラスチック破片とその主な発生源である発泡スチロール製フロートの港内における不適切な使用および海岸漂着後の放置の実態について調査した。34地点から245,656個の漂着物が回収され, そのうち98.6%が発泡プラスチック破片であった。同破片は98.5%が10.0mm未満の微小破片で, 漂着密度は44,521.3個/m^2であった。フロートは58港で6,760個が防舷物として使用されており, 一港あたりの平均使用個数は140.7個/港, 海岸漂着密度は1.1個/kmであり, いずれの値も江田島で高かった。
著者
齋藤 義夫 田中 智久 朱 疆
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

複雑な三次元自由曲面形状の利用が増え、早い段階で設計情報と実際に加工された形状の確認が必要になっている。ところが、三次元の自由曲面形状はデータ量が多く、測定に時間がかかり、 実際の形状と目標形状の相違を把握することも難しいことから、加工と計測の融合が必要不可欠となってくる。そこで、CG分野で利用されている画像簡略化手法を適用し、加工と計測を結合 した発泡スチロール用加工システムの構築を試み、形状創成に関する新たな知見を得ることがで きた。
著者
大橋 久利 OUK Sunheng SAY Bory MOM Chim Huy 林 行夫 三上 直光 糸賀 滋 真貝 義五郎 土屋 圭造 SORN Samnang
出版者
東京成徳大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

戦後カンボジアの社会・文化を総合的に研究することを目指した当研究班は国連主導の制憲議会選挙-カンボジア「王国」復活-内政面での整備という最も重要な時期である1993、94年に現地調査を行なう機会を得、分担した各分野で所期以上の成果を収めることができた。大橋久利は和平過程を至細に追求、分析する一方、両年度それぞれ500人を対象とした政治意識調査を訪問面接のかたちで実施した。その結果、与党三党の支持層分析、国王への忠実度分析その他で成果を上げた。カンボジアでの地域研究で統計処理をふくめた調査が行われたのはこれが初めてであり、今後地域研究でこの種意識調査がどのように役立ち得るのかで一石を投じた。真貝義五郎はカンボジア在住ベトナム人の人口を把握するため内務省、プノンペン市当局、ベトナム大使館などで多角的に調査資料を収集、その上に立ってカンボジア国民の対ベトナム人意識を調査した。そして在住ベトナム人からの聞き取り調査を重ねたが、「ほかに行くところのないベトナム人が移住してきた」というのが実態であり、両民族間の関係は簡単には氷解しそうにない。和泉模久はカンボジア文学史をまとめ、カンボジア文学の現状を紹介することに目標を定め、93年度はプノンペン大学文学部のト-・サオ、プ-・サミ-両教授とも相談して文学史作成に必要な資料の提供を受けた。滞在中両教授から受けたクメール文学の傑作についての講義は稔り多いものであった。94年調査では93年調査の成果の上の立ってカンボジア文学史年表の作成を行ないながら、カンボジア文学の傑作についてそれぞれ若干の概要を日本語で記す作業を行った。カンボジア文学史作成は、わが国では初めてのことである。糸賀滋は93年調査に引続き94年、2度にわたって調査を実施した。調査項目は、経済概況、外資投資の現況、外国援助の現状、工業部門の現状と民営化、教育の現状などである。経済概況ではUNTAC景気が一段落する一方、国際機関の指導による構造改革で財政、物価、為替面で改善が見られた。中期的な再建計画については、農業の再建と雇用確保が重要だが、当面、外資と援助の有効利用が課題である。工業部門についていえば、これまで中心となってきた国営企業が民間にリ-スないし売却され、観光目当てのサービス業などで活動を再開している。教育事業への援助はまだ不十分である。三上直光はポル・ポト時代、ヘン・サムリン時代、現代と世界史上でも例のないほど激変したカンボジア社会で、言語がどう変化したかという興味深いテーマを追求した。シハヌ-ク時代より現代に至る。カンボジアにおける政治的、社会的変動の歴史は、カンボジア語の語彙に、(1)単語の誕生、復活(2)単語の消滅、衰退(3)単語の意味・用法の変化(4)類似概念を表す語彙の交替、といった変化を引き起こしている。ポル・ポト時代には、社会主義用語が登場し、恐怖政治的な側面を反映する語彙が被調査者の記憶に今なお深く刻まれていること、次のヘン・サムリン時代には新たな社会主義志向に関連した用語などが登場した。そして現代までは、かつてシハヌ-ク時代に用いられた王族への敬語などの語彙が復活し、また民主制や市場経済に関して新語が作られている点が目立った語彙変化として指摘される。林行夫は79年以降、今日に至までの仏教の復興経過を、詳細にトレースしうる資料を得ることができた。93年度では、その寺院組織や在俗信徒の活動を広域に踏査したが、94年度は個々の寺院について具体的な事例を儀礼を通じて得ることができた。国家が認定する得度式の復興過程についても新しい資料を得て、従来論議されてきた事実とは異なる仏教サンガの実像を、隣国ベトナムのクメール・クロムとの関係で明かにすることができた。土屋圭造はカンボジアの農業構造などについての資料を収集した。
著者
阿部 栄子
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.571-580, 1965-09

症例検討会 昭和40年4月23日(金) 東京女子医科大学本部講堂
著者
定延 利之 杉藤 美代子 友定 賢治 CAMPBELL Nick 犬飼 隆 森山 卓郎 本多 清志 朱 春躍
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

「音声言語」教育の基礎資料を作成するという本研究の目的を果たすために、基礎資料の全体的デザインを検討し、検討結果を反映させる形で調音映像資料と、会話音声資料の作成をおこなった。調音映像資料については45回を越える実験を通して「母音」「rとl」「有声音・無声音」「口蓋化」「促音」「無声化」「早口言葉」「りきみ」「空気すすり」等の映像資料を元にした。その中心は日本語であるが、比較対照のために英語・中国語の実験もおこない、調音映像の資料を作った。会話音声資料については、基礎資料作成のための材料として、大学生対話や低年齢層話者も含めた家庭内会話、社会人会話など100時間にせまる会話の映像と音声を記録・観察した。これらの作業の過程で、たとえばりきみや空気すすりのように、これまで軽視されていた行動が、大きな役割を果たすことを明らかにした。また、調音動態と会話分析の双方を収容する包括的な枠組みとして「文法」(音声文法)の必要性を明らかにした。以上の作業を通して得られた知見は、その都度「基礎資料の全体的デザイン」の再検討に反映した。得られた知見の学会発表や論文集出版、パネルディスカッション企画、24回の打ち合わせを通して、音声文法の若手研究人材の育成につとめた。これらの知見を日本語教育や国語教育に真に役立てるために、日本語教育や国語教育の関連学会大会でのデモや発表をおこない、「日本語音声コミュニケーション教育研究会」「日本語音声コミュニケーション研究会」を立ち上げ、成果を問うた。それとともに、インターネット上に基礎資料のサンプルを一部英語版も含めてアップし、国際的な規模で、教育現場の意見のフィードバックをおこなった。また、われわれの活動を広報するために、学会講演や一般書の出版、国際ワークショップ開催や新聞インタビュー、広報誌でPRするとともに、インターネット上にホームヘージを開設した。
著者
岩田 重雄
出版者
一般社団法人日本計量史学会
雑誌
計量史研究 (ISSN:02867214)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.11-27, 2010-08-10
被引用文献数
1
著者
石川 有美 阿部 俊明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

糖尿病網膜症の治療評価マーカーや新規治療薬の検討を行った。まずバソヒビンに注目した。(1)血漿中のバゾヒビン濃度と網膜症は相関はないが、増殖性の変化が強いほどバソヒビン濃度が低い傾向だった。(2)hypoxia-inducible factor(HIF)でGFP誘導される網膜色素上皮細胞を作成し培地中に眼内液を添加すると血管内皮細胞増殖因子(VEGF)とGFPは発現が有意に相関することが判明した。糖尿病網膜症眼内にはHIF を誘発する因子が有意に多く含まれていた。
著者
山田 省吾
出版者
神戸市看護大学短期大学部
雑誌
紀要 (ISSN:13428209)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.123-130, 2005-03-01

本稿は、アメリカにおける在外研究(2003年11月〜2004年2月)の成果をまとめたもので、上下二部構成からなるエッセイのその第一部に当たる。冬のボストン、ケンブリッジ滞在中の生活やアメリカ各地をめぐる旅によって触発された思索と、テクスト(絵と詩)の解読とを重ね合わせることで、19世紀アメリカの「ルネッサンス」、「鍍金時代」、「南北戦争」下におかれた近代人の精神構造を明らかにする。この第一部では、ニューヨークのメトロポリタン美術館で目にした、黄昏の風景画家サンフォード・ギフォードの油彩画『迫り来る嵐』の孕む重層性を読み解き、さらに、それをモチーフにして詩作されたハーマン・メルヴィルの『戦闘詩篇』中の一篇、「迫り来る嵐」の提示する主題「人間の究極の知」についての考察(第二部)への橋渡しとする。
著者
井手 誠之輔 KIM Jongmin
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

アメリカの美術館・図書館において、高麗時代及びそれに関係する中国の写経の調査を行った(Kim、7/13-7/24)。1)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』第45巻、高麗、スペンサー図書館、カンサスシティ2)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』第78巻、高麗、クリーブランド美術館、クリーブランド3)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』断簡、高麗、ハーバード大学燕京図書館、ケンブリッジ4)『紺紙金字妙法蓮華經』、朝鮮王朝、ハーバード大学燕京図書館、ケンブリッジ5)『紺紙金字維摩詰経』、大理、メトロポリタン美術館、ニューヨークこれらの調査によって、14世紀の高麗写経が高麗大蔵経ではなく、さまざまな中国の大蔵経のテクストを参照していることを改めて確認した。13世紀の末に高麗写経の形式や様式に大きな変化が起こったことが指摘しうるが、その理由は、元時代の支配が強まる過程で、高麗王朝は、元に写経生を派遣して、都の大都で中国の規範にしたがった写経を制作したことに求められる。これまでに井手は、13世紀から14世紀の高麗仏画は、同時代の元時代の仏画とさほど強い関係性をもっていないことを明らかにしてきたが、この共同研究では、仏画と写経において中国の受容に大きな違いがあることが確認されることになった。なお、高麗版大蔵経にのみ典拠をもつ40巻華厳経の場合は、法華経とは逆に忠実に高麗のテクストにもどいていることも確認し、これらについては、Kimが韓国の仏教美術史学会の紀要に論文を発表した。
著者
矢野 澄雄 福田 博也
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ヒトの骨の質・強さを非評価する方法について、前腕骨の固有振動数の計測と骨密度などにより指標となるものを提案し、主に50歳代以上の年齢層別推移を調べて、指標間の比較検討を行った。そのため、通常のpQCT骨密度検査での前腕遠位4%断面に加えて、20%断面でも測定し、そのCT画像からの生体特性も用いた。得られた研究実績は次のとおりである。1.20%断面での総骨密度と皮質骨密度を測定し、4%断面での総骨密度や海綿骨密度との加齢的低下傾向を比較した。20%断面の総骨密度は4%断面に対して、どの年齢層でも2〜2.5倍程度の値であること、20%断面の皮質骨密度の低下率は総骨密度より小さいことがわかった。2.筋肉が骨への荷重となることに関して、筋肉の影響を評価するために、前腕20%断面でのCT画像から、筋肉断面積と皮質骨断面積を算出した。その面積比(B/M比)を指標として、加齢的推移を調べた。その際、筋肉領域と脂肪の部分とは画像の閾値の差がわずかであるため、画像解析で両者が分離しにくい例が見られた。この原因を検討し、筋肉断面積を求める画像解析上の基準・方法を決めた。3.前腕骨固有振動数も計測した被験者では、ヤング率相当の骨強度指標を三種類算出し、年齢層別の加齢的推移を調べた。それらの比較から、4%断面の総骨密度を用いた場合の骨強度指標が低下率と実用上で有利と考えられる。また、データ数は少ないものの、骨強度指標、骨密度、B/M比およびその他の特性の加齢的低下傾向を比較することができた。年齢層別低下率は骨強度指標が総骨密度やB/M比より大きい。骨密度や骨断面積の方が、筋肉断面積や骨強度指標よりも早い時期から低下している。