著者
丹尾 安典
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, 1978-12-30

Gauguin a peint 4 tableaux sur le theme de femme nue couchee-"La Perte du Pucelage" (vers 1891), "MANAO TUPAPAU" (1892), "TE ARII VAHINE" (1896), "NEVERMORE" (1897). Bien que ce ne soit pas un nu, on peut ajouter en plus, "TE TAMARI NO ATUA" (1896), comme oeuvre similaire. Il semble qu'il y ait un rapport etroit entre "Olympia" de Manet et ces oeuvres. Gauguin l'avait copie vers 1891. Mais selon nous, cette copie s'etait faite a l'intention de resoudre les problemes picturaux que posait "La Perte du Pucelage" plutot que par admiration pour Manet. Le resultat apparait clairement dans "MANAO TUPAPAU". Dans ces deux tableaux, le theme de femme nue couchee et ses elements deja se revelent. Dans le premier tableau se trouve le renard a l'intention de deshonorer le pucelage de la jeune fiille et dans le deuxieme, elle est effrayee par l'esprit des morts ; c'est une variation du theme "Paradis perdu" qu'il avait commence a peindre depuis l'an 1889. Les el ments en sont, la femme nue couchee, la nature, la fleur, l'animal, la figure sinistre, l'interieur et le lit. Apres "TE ARII VAHINE" et "TE TAMARI NO ATUA", Gauguin a reussi a inclure tous ces elements dans un tableau unique, a savoir "NEVERMORE". Gauguin en est arrive a ce chef-d'oeuvre plein d'originalite en evitant le fort contraste qu'on trouve dans "Olympia" par exemple. Les chercheurs ont compte les tableaux de Manet, Bernard et Cranach comme des oeuvres en rapport avec ses tableaux de femme nue couchee. Nous pouvons egalement en ajouter un, "La Femme a la Puce" de Cezanne. Il nous semble que ce tableau a exerce une grande influence sur cette serie, car il l'a possede dans sa collection et qu'il l'a rapporte de Copenhague a Paris en 1891 ou il a peint deux oeuvres de femme nue couchee, "La Perte du Pucelage" et la copie de "Olympia".
著者
北村 旅人 今井 隆生 松尾 隆昌 阿部 厚 塚本 高久 栗田 賢一
出版者
Japanese Society of Oral and Maxillofacial Surgeons
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.487-489, 2000-08-20
被引用文献数
3 1

Among 90 cases of partial Monosomy of the short arm of chromosome 9 that have been described in the literature, only 4 cases have been reported in Japan. We describe a new case associated with cleft palate. The patient was a 1-month-old girl. She came to our hospital for treatment of cleft palate in 1994. Because of her peculiar facial appearance, including slanted eyes, flat nasal bridge, and prominent forehead, we conducted a chromosome analysis, which revealed a partial monosomy of the short arm of chromosome 9 (9p-syndrome). At the age of 2.5 years, her physical development was favorable, and we performed palatoplasty with the patient under general anesthesia. She is being observed at the department of pediatrics and our department since the operation.
著者
山田 尚勇
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.253-311, 1995-03-31

多様性を持つ人類は、いろいろな能力において個人差が大きい。その中でも感覚器系の能力が他と大きく異なっている人たちとして、先天盲や先天聾の人たちがある。そのほか、難読症者の中にも感覚器系の異状によるものがみられる。さらには、異状の程度としては低いものと思われている人たちとして、左利きがある。 また人類を他の動物から大きく引き離している能力の一つとして、言語の使用がある。この言語には、もっともふつうなものである音声言語のほかに、それを墨字や、盲人の用いる触字(点字)に写した文章があり、またそれらとは少し系統の異なるものとして、今では手話が自己完結の言語として認められている。 本稿では上記の感覚障害者たちが、必要に合わせて適当な特殊言語を用いているのに並行して発現する、大脳の言語処理機能の特殊性や異状性について、手話の活用を中心に、脳科学的、心理物理学的な一般向けの展望を試みる。 さらに健常者が手話という特殊言語を第2言語として習得し駆使しようとするときに起こる一般的な問題と、その軽減の可能性について考察をする。
著者
滝川 桂子 馬場 景子
出版者
名古屋文理大学短期大学部
雑誌
名古屋文理短期大学紀要 (ISSN:09146474)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.87-91, 1999-03-31

本研究は, 先行研究からの流れを受けて, 文部省認定・工業英語検定試験(以下, 工業英検)から工業英語の専門性と英語教育との接点を見出す目的をもっている.さらに目的を包括するために, 高等教育機関におけるESP(English for Specific Purposes)教育の適応性を考察する.今回は, 四年制大学工学部に在籍する学生128名に工業英検4級と3級の試験問題を与え, その得点状況を比較分析した.結果, 4級及び3級の選択問題に関しては先行研究を裏付ける結果となったが, 3級の特徴である記述問題では被験者全体の得点率が極めて低調であり, 英語教育の見地から大きな課題を残す結果となった.つまり3級の記述問題では単に工業の知識だけでは克服できない, 英語の文章力の問題が大きく影響を与えていると考えられる.現段階ではtechnical termやjargonという語彙教育中心と思われているESP教育に次なる展開を見出すことが可能になってきた.
著者
佐藤 智子 黒岩 幸子 佐々木 肇
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.215-243, 2000-11-01

1999年9月、岩手県の全市町村に対して実施した「姉妹都市および国際交流に関するアンケート」は、100%の回収率で集計、分析を行った。岩手県内の9市町およびその提携先であるアメリカ、カナダ、オランダの8都市については、現地に出向いて調査も行った。これらの結果を総合することにより、岩手県の市町村レベルにおける姉妹都市および国際交流の現状と問題をある程度把握することができた。政治・経済・文化の中心地東京から遠隔の地というイメージが強く、国際化や国際交流とは疎遠と思われている岩手県だが、県内59市町村の約3割にあたる18市町村が10カ国23市町と姉妹都市提携を行っており、市町村レベルでの積極的な国際交流への取り組みの姿勢が見られた。岩手県の姉妹都市交流の特徴は、欧米先進国志向、青少年交流、官主導に集約される。この三つの特徴は、岩手県の姉妹都市交流の推進力であると同時に、交流の意義や継続にかかわる問題も孕んでいる。交流の問題点および今後の課題としては、民間レベルでの交流の拡大、アジア諸国との交流、姉妹都市交流の意義と目的の見直しがあげられる。
著者
重野 寛 吉田 徳文 大平 千里 横山 光男 松下 温
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1407-1408, 1990-03-14

ネットワークレイアウトの自由度を考慮した場合、無線通信はケーブルで物理的に接続する必要がないため、端末の持ち運びが可能になり、通信媒体として有望である。しかし、無線のみによるネットワークシステムは、回線品質の問題や、通信開始、終了時におけるオーバーヘッドの存在により実用的なシステムを実現するのが困難と思われている。そこで、レイアウトの自由度を損なうことなく満足のいくスループットを確保するために、上位ネットワークの通信には既存のLANを用い、下位ネットワークには、通信媒体として無線を用いるような2層構造を構造を持つネットワークシステムを提案する。
著者
三樹 弘之
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.279-280, 1994-09-20

共同作業というと、一般には、米国人よりも日本人が得意と思われているようである。それでは、行動と会話の両方が混在する日常的な協同に於て、日本人、米国人の協同作業にはどのような特徴が存在し、それがどのような協同形態としてあらわれるのだろうか?このような疑問に答える手がかりを掴むために、日本ペア9組、米国ペア9組の被験者を用いて、日常的な協同作業に関する実験(協同によるキーボード台の組立)を行った。会話分析をもとにした協同のプロセスの詳細に関する議論は既に前の2つの論文(三樹1993、三樹1994)で行っているので、この論文では、日本ペア9組と米国ペアの間で発見された協同形態の違いについて議論する。異なる協同形態として発見されたパターンを提示して、異なる協同形態に見られる定性的な特徴について言及し、最後に形態の違いを生じた文化的背景について触れる。
著者
長野 秀樹 宝達 勉 土本 まゆみ 井出 誠弥 山上 正 山岸 郭郎 藤崎 優次郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.491-497, 1987-06-15
被引用文献数
1

精製ウイルスをトライトンX-100で可溶化したものを抗原とするELISA法により中和試験でほとんど交差性がみられなかったB42株 (マサチューセッツ型), グレイ株 (デラウェア型) およびA5968株 (コネチカット型) の3株間に強い交差反応がみられた。ELISA法ではB42株は血清学的に相互に異なると思われている上記3株以外の8株と強く反応し, 鶏血清のB42株に対するELISA抗体価は中和抗体価と平行して推移した。
著者
矢部 雅人 山口 和彦 小林 欣吾
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.743, pp.155-160, 2003-03-19

近年,Shannon限界に迫る新しい符号化・復号方式としてターボ符号・復号という誤り訂正方式が注目を浴びている.最近ではW-CDMAに採用され,その他の用途への利用,標準化も検討されている.しかし,ターボ符号・復号にはまだ検討されていない問題があり,バースト誤りに対する耐性もその1つである.インタリーバを利用しているためにバースト誤りに強いと思われていることが多いが,kのインタリーバは主に符号の特性を改善するためのものであるため実際はそうではない.本稿ではターボ符号のバースト誤り訂正能力について再検討し,よりバースト誤り通信路に適する手法を探る基礎となる検討を行った.
著者
松本 俊之 志田 敬介 金沢 孝
出版者
社団法人日本経営工学会
雑誌
日本経営工学会論文誌 (ISSN:13422618)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.332-343, 2002-02-15
被引用文献数
4

立位姿勢・3次元作業域における動力式ドライバーを用いたタッピンねじ締め作業において, 作業方向と作業位置による作業者の作業姿勢が締結品質や作業負荷に影響すると考えられる.このことを確かめるための実証的研究を行った.実験結果から, 作業可能と思われている作業方向と作業位置でも締めつけトルクが許容範囲を下回ることがあり, 不良締結となる場合があり, 不良締結となる作業方向と作業位置は, 左方向では身体の右側の作業位置, 前方向では身体の前方の遠い作業位置, 下方向では身体の高い位置であることが判明した.また, 作業方向と作業位置によって, 最大押圧力と最大傾き力は一様でなく, 力をかけすぎる作業方向と作業位置は, 左方向では身体の正面の作業位置, 前方向ではほとんどの作業位置である, 傾き力が大きい作業方向と作業位置は, 左方向ではほとんどの作業位置, 前方向では低い作業位置であることが判明した.作業設計と製品設計において, これらのことを考慮する必要がある.
著者
飫冨 順久
出版者
日本マネジメント学会
雑誌
日本経営教育学会全国研究大会研究報告集
巻号頁・発行日
no.39, pp.103-105, 1999-06-25

近年、わが国では企業倫理に関する研究がさまざまな視点から進められ、多数の研究報告がなされている。また、経団連が企業行動憲章を公表し、多くの企業が特徴ある行規準動を策定している。しかしながら、バブル崩壊後の不祥事は、主として優良企業といわれている企業であったり、行政からの指導と監督が厳しく他の産業と比較して厳格な企業行動をとっていると思われている金融・・証券業界などに反倫理的行動が集中しているように思われる。本報告では、企業倫理と企業の社会責任の関係について、理論と実践の側面から論じてみてみたい。この点については、すでに〓田馨教授が主として「経営の倫理と責任」(1989年千倉書房)で理論的に整理され独自の見解を論じておられる。ここでは、〓田見解について、報告者の若干の私見を述べさせて頂き、繰り返し起こる企業の反倫理的行動に対し批判的検討を行いたい。また、マルチドメスティクやトランスナショナルと呼ばれる企業が増大してきているように、各国の企業行動は、国籍を越え世界規模になりつつある。したがって、今日グローバル・スタンダード経営、世界標準の経営または、共通競争ルールの策定が問題視されてきている。企業倫理のグローバル・スタンダードの重要性とその策定条件について論じてみたい。その場合、各国の企業倫理は、風俗・習慣・文化・宗教など価値観にもとづき、合意形成されてきており、異質性の高いこれらを考慮すると、必ずしも一致・共通するとは考えにくい。ここでは、ホフステット(G.Hofstede)の理論を検討し、共通性を求めてみたい。最後に、企業倫理のグローバルスタンダード策定の方向を提示しむすびとしたい。
著者
矢部 雅人 山口 和彦 小林 欣吾
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SST, スペクトル拡散 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.745, pp.155-160, 2003-03-19

近年,Shannon限界に迫る新しい符号化・復号方式としてターボ符号・復号という誤り訂正方式が注目を浴びている.最近ではW-CDMAに採用され,その他の用途への利用,標準化も検討されている.しかし,ターボ符号・復号にはまだ検討されていない問題があり,バースト誤りに対する耐性もその1つである.インタリーバを利用しているためにバースト誤りに強いと思われていることが多いが,このインタリーバは主に符号の特性を改善するためのものであるため実際はそうではない.本稿ではターボ符号のバースト誤り訂正能力について再検討し,よりバースト誤り通信路に適する手法を探る基礎となる検討を行った.
著者
鄭美紅 成田 佳慶 樫森与志喜 星野 修 神原 武志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告数理モデル化と問題解決(MPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.37, pp.27-30, 2001-05-10

突発的騒乱に対して魚群が示す秩序的集団対応において個体間の相互模倣がどのような働きをするのかを調べるために 我々は魚群の群行動をシミュレーションするモデルを提案した。このモデルは個体の意志決定のルールに基づくモデルである。近隣個体に対する模倣は群れ行動になる一つの要素として考えられている。そのほか 衝突回避行動も群れ行動になるもう一つの方策と思われている。我々の研究では 個体が隣魚の何をどのように、そしてどの程度真似することについて調べた。スクール運動に最適な相互模倣をする群れは自己組織臨界状態であることを明らかにした。さらに 最適模倣の群れは 突発的騒乱に対して優れた動的安定性を持つのかについて調べた。本研究では 魚群の突発的分裂および発散を二種類の突発的騒乱として採用された。魚群の動的安定性を評価する量は分裂及び発散された群れが一つの群れに戻る回復時間と回復臨界距離の二つの量である。調べた結果により我々のモデルは突発的騒乱に陥った魚群の秩序的対応に対しても有効であることが分かった。A simulation model of collective motion of a fish group was presented to investigate the role of allelomimesis of fish individual in emergence of dynamically stable schooling behaviors. It was shown that the schooling behaviors generated using the optimal values of the allelomimesis rate correspond to a self-organized critical state. The main purpose of the present modeling is to investigate whether the tactics of individual decision-making suited to generate good schooling behaviors work well also in maintaining dynamical stability of the fish school under emergent affairs. It was found that the tactic suitable for schooling generates the dynamically stable response of the school to emergent affairs.
著者
釘貫 靖久 中村 幸司 飛騨 健一 吉川 宏昭
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.341-346, 1997-12-01
被引用文献数
3

ハクサイにおいて,小胞子からの胚横体形成能及び植物体再生能の品種・系統間差異を調査した。小胞子1×10^5個当りの胚横体形成数及び植物体再生数に有意差が認められた。日本型ハクサイでは胚横体形成数および植物体再生数が著しく少なかった。`Hsifu Early 30 days'は胚横体形成数が最も多かったが,胚横体からの植物体再生率は低かった。`Hsifu Early 30 days'と比較すると,`Homei'は胚横体形成数は少ないものの,植物体再生数は有意に多かった。また、胚機体形成数と植物体を再生した胚横体の割合との間に相関が認められなかった。これらのことから,胚横体形成を支配する遺伝子と胚横体からの植物体再生に影響を及ぼす遺伝子とは異なっているのではないかと推定された。高再分化能を日本型のハクサイヘ導入するために,`Homei'と`野崎2号'とのF_1を用いて小胞子培養を行った。これら再分化植物のうち,比較的日本型に近い形質を持ち,再分化能が高い系統の選抜が可能であった。このような高い植物体再生能を持つ日本型ハクサイの作出により,日本でのハクサイにおける半数体育種法の適用が容易になると考えられる。
著者
上田 厚 二塚 信 上田 忠子 有松 徳樹 上野 達郎 永野 恵 野村 茂
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.32-44, 1984-01-20
被引用文献数
2

い草農民は,収穫期に短期間ながら高濃度,以後の畳表製織工程により年間を通じ比較的低濃度の染土じん暴露を受ける.染土は,遊離けい酸含量15〜25%の粘土性の粉体で,収穫時にい草泥染として用いられる.い草農民には,約20年間の作業によりその20%にじん肺所見が認められるようになるが,そのX線写真上の症度や肺機能障害の程度は比較的軽度の者が多く,一般に,い草作業者のじん肺は比較的予後の良いものとされている.このことは,染土の生体作用に関する実験的研究によっても裏付けられているが,作業環境の改善はこの10年間でようやく着手された段階であり,作業者が裸手にて発じん源たる乾燥束を取り扱う作業形態よりみて,い草農民の染土じん吸入量は相当量に達しているものと思われ,今後の作業の状況如何ではより重篤な症例の出現する可能性は否定できない.また,かかる緩徐な線維形成をきたす粉体の吸入によるじん肺について長期にわたって追跡した例はほとんどみられない.かかる見地より,著者らは,1970年に調査されたい草農民の対象者を,1980年に再び健診し,この10年間の胸部X線写真所見およびその他の呼吸器所見の変化の様態を観察し,それが作業者の粉じん暴露の実態といかなる関連を持つかを検討した.対象者は男子51名(58.6±5.3歳),女子37名(54.4±38歳)で,前回と同様,胸部X線直接撮影,BMRCによる問診,肺機能検査,その他の内科的検査で,胸部X線像については,同一対象者の前回と今回の写真をともに,1978年版じん肺標準写真(労働省)を参照して同時に読影した.1980年のX線像では,12階尺度1/0以上が,男子49.0%,女子62.2%に認められ,1970年(男子25.5%,女子21.6%)に比し有意な増加を示した(p<0.01).所見は,小粒状影を混えるが不整形陰影を主とし,中下肺野に強く認められた.また,尺度の進展例は男子62.7%,女子67.6%であった.呼吸器自覚症状の有症率は,男子43.1%,女子41.4%で,前回と今回で有意な差異をみないが,男女ともにぜい鳴の有症率が増加の傾向にあった.肺機能検査では,男子19.6%,女子18.9%に一秒率の低下をみ,より深部気管支領域の障害を示す%MMFの低下(80%以下)を,男子51.0%,女子40.5%に認めた.X線写真有所見者やその進展例に,必ずしも,肺機能異常や呼吸器自覚症状有症率が高い傾向は認められないが,これらのおのおのの検査の有所見者は,正常者に比し,い草経営面積,年間畳表生産量あるいは染土じん暴露指数〔Exposure Index=(い草面積×年数)+1/5(年間畳表生産枚数×年数)〕が高値を示し,有症率と作業量との関連か認められた.これらの成績よりみて,以下の3点がい草農民のじん肺に関し重要であると思われる.1)い草作業者のじん肺の本態は,染土じんの吸入,沈着に伴う,とくに細気管支領域および肺胞壁の炎症性病変を主とするもので,さらに,い草自体の有機じんとしての関与も無視しえないものがある.2)い草作業者のじん肺の進展性はそれほど著しいものではないが,作業者には,X線写真上のじん肺所見のみならず,肺機能低下や呼吸器自覚症状が広範に出現し,さらに,それらの有症率には染土じん吸入量との関連が認められる.3)一般に,い草作業者の呼吸器障害の程度や頻度は,女子に高い傾向を認めるが,これは,とくにこの10年間のい草労働に占める女子の労働配分の相対的な上昇に対応している.したがって,本研究により,い草農民のじん肺所見は,畳表製品化作業に伴う長期の染土じん吸入に起因するものであり,今後とも,定期的なじん肺健診と適切な粉じん環境の衛生工学的改善が必要とすることが示唆された.