著者
早島 大祐 大田 壮一郎 衣川 仁 谷 徹也 坪井 剛 小原 嘉記 山田 徹
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

中世後期の都鄙関係の実態を分析するにあたり、この時期に台頭した守護の動向を押さえる作業は重要である。 しかし近年進められた守護所研究などにおいて、守護所の国支配の中心としての機能は低いと指摘されている。本研究ではこれまで全く注目されていなかった、守護が分国に創建した菩提寺(国菩提寺)の役割に注目することで、守護の分国支配の実態、ひいては分国と京のあいだの都鄙交通の実態を解明することが目的である。具体的には禅僧の移動や荘園の代官請などを通じて、京ともつながっていた国菩提寺の実態を明らかにし、守護 所研究の成果ともつきあわせることで、守護による分国支配が複合的に進展していたことが明らかになると予想されるだろう。最終年度にあたり本年度は、成果の集約にむけて、報告会などを中心に活動した。(1)最終の調査旅行を8月23~24日にかけて行った。調査地は北陸方面だった。(2)成果執筆会議を9月1~2日にかけて京都女子大学にて開催した。(3)さらに上記日程で報告できなかった関係者には、10月9日に報告を行った。(4)以上、([2)~(3)の報告と質疑を経て、最終報告会を12月26~27日に開催した。以上の検討を経た上で、『中近世武家創建禅院の研究』(仮題)を2019年度に刊行予定である。
著者
後藤 雅史 川村 孝
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

感冒の前駆症状を呈する時期における葛根湯の投与が、症状顕在化の抑制や治癒期間の短縮に効果があるか、一般用医薬品の総合感冒薬と比較し検討した。葛根湯群 168 人、パブロン群 172 人が最終的な解析対象となった。重症化した人数(割合)は、葛根湯群で 38 人(22.6%)、パブロン群で 43 人(25.0%)であり、群間で有意な差は認めなかった(P=0.66)。
著者
笹竹 英穂
出版者
至学館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

女子大生の性犯罪についての防犯意識の阻害要因を解明することを本研究の目的とした。阻害要因として,楽観主義バイアスを取り上げた。楽観主義バイアスは,被害にあう頻度および被害の程度の2つを設定し,それぞれ直説法と間接法で測定した。その結果,特に被害体験がある場合には,楽観主義バイアス(程度)が高いと防犯意識が低いことが明らかとなった。
著者
富永 一登 川合 康三 釜谷 武志 浅見 洋二 和田 英信 緑川 英樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

『文選』の伝承から見た文学言語の型の形成と継承を追究するための基礎作業として、まず『文選』詩編(12巻分)の訳注作業を完成した。原稿作成は25年度内に完了したので、近々にこれを出版社から刊行し、広く社会に公表する予定である。また、『文選』所収の主な詩人の経歴や作品についてのコメントをまとめた。これも刊行予定の訳書に付載する。更に近年の『文選』研究の整理や唐代宋代の詩人への『文選』の影響についても、学術雑誌などに掲載し、著書としても刊行した。また、台湾大学の柯慶明・蔡瑜の両教授を招聘して『文選』の文学言語の継承に与えた影響について討論を行い、研究成果の国際的交流を行った。
著者
下山 巌 奥村 雅彦 小暮 敏博 町田 昌彦 馬場 祐治 本田 充紀 岡本 芳浩
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

H28年度において実施した研究の実績概要は以下の通りである。1.高温低圧環境高速X線回折(XRD)装置及び蛍光X線分析装置(XRF)の導入:複数の候補からリガク製XRD装置SmartLab3を選定し、低圧加熱実験可能な電気炉と2θに対して10°以上の範囲の同時測定可能な高速2次元検出器を併用することで、加熱時及び冷却時の構造変化をその場観察できる装置を導入した。また、XRF装置も導入した。2.アルカリ塩化物試薬におけるカチオン依存性の解明:非放射性Csを収着させた風化黒雲母(WB)をモデル土壌とし、CaCl2とKCl単塩をそれぞれ添加した際のXRD、XRF測定を行った。CaCl2添加により700℃低圧加熱で100%のCs除去率を確認した。一方、KCl添加では約50%のCs除去率となった。また、CaCl2添加時はXRDパターンが大きく変化したのに対し、KCl添加ではWBの構造がほぼ保たれた。これらの結果から同じ塩化物でも1価と2価のカチオンではWBからのCs脱離過程が異なることを明らかにした。また、昇温脱離法(TDS)を用いた分析でもCaCl2添加時にCs脱離が促進されることを確認した。X線吸収分光法(XAFS)を用いた加熱中のその場観察の研究ではNaCl-CaCl2混合塩へのCs溶出が観察された。それと共に、600℃付近より高温側と低温側でCs脱離過程が異なる可能性を見いだした。以上の知見に関しては欧文誌に論文発表すると共に、国内外の学会において報告を行った。3.福島汚染土壌による実証試験:福島の帰還困難区域から粘土質汚染土壌を採取し、加熱処理による放射能変化をNaI検出器により調べた。その結果、KCl、MgCl2試薬では低圧加熱の方が大気加熱よりも高い放射能減衰率が得られたがCaCl2試薬では両者で大きな差が見られず750℃大気加熱で約97%の放射能減衰が得られた。
著者
松井 彰彦 金子 能宏 川越 敏司 関口 洋平 田中 恵美子 西倉 実季 福島 智 森 壮也 両角 良子 山下 麻衣 澤田 康幸 遠山 真世 井伊 雅子 石川 竜一郎 岡崎 哲二 澤田 康幸 清水 崇 遠山 真世 長江 亮 星加 良司 山下 麻衣 臼井 久実子 加納 和子 川島 聡 河村 真千子 倉本 智明 栗原 房江 坂原 樹麗 佐藤 崇 瀬山 紀子 長瀬 修 山森 哲雄
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2007

いわゆる「障害者」のみならず、長期疾病者や顔にあざのあるユニークフェイス等、制度と制度の狭間に落ち込んでいる人々にも焦点を当て、彼らが直面する社会的障害の共通項を探った。ゲーム理論や障害学を用いた理論研究に加え、障害者団体や地方自治体を通じた障害当事者およびその家族への調査、企業を対象とした調査、長期疾病者を対象とした調査、ネパールやフィリピンでの海外調査を展開し、報告書にまとめた。
著者
渡利 泰山 大河内 豊 高柳 匡 Chung Yu-Chieh Kehayias John 西尾 亮一 Gang Dong-Min Weissenbacher Matthias
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

素粒子物理の現象論や模型構築というアプローチは、低エネルギー有効局所場の理論を言語とする。そのため、この理論的枠組みの持つ限界から逃れられない。今回の研究では、超弦理論を用いて、その限界を打破する試みを2通りの方法追及した。1つは、超弦理論のコンパクト化を用いるものである。フラックスコンパクト化の解の統計学をF-理論で適用可能にすることにより、ゲージ群、湯川結合定数などの分布関数を導いた。もう1つは、AdS/CFTを用いたハドロン高エネルギー散乱の理論的枠組みの拡張。2体から2体への散乱ながら、非弾性散乱でも扱えるように拡張し、一般化されたパートン分布関数の定性的性質を弦理論を用いて導いた。
著者
林 博貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、超弦理論の真空を用いて現象論における問題を解明することである。その中でも特に、F理論のコンパクト化は四次元の超対称性大統一理論に出現する物質場と湯川結合を全て生成することができるため、現象論を議論する超弦理論の真空として非常に魅力的である。本年度はF理論を用いた超対称性大統一理論における陽子崩壊問題について議論した。超対称性を持った大統一理論は、繰りこみ可能な陽子崩壊を引き起こす演算子の存在が一般には許されてしまう。そこで、F理論を用いて大統一理論を構築した際にも、この項をなんらかの方法で禁止する必要がある。我々の研究以前まででよく用いられてきた方法は、あるゲージ群を大統一理論のゲージ群へ破る際に導入する随伴表現スカラー場の期待値を特殊に調節することによって、余分なU(1)対称性を低エネルギー理論に残すというものである。このU(1)対称性によって次元四の陽子崩壊演算子は禁止されると思われてきた。しかし、内部空間の構造をよく調べるとこの期待値が発散し、ゲージ理論の近似が悪くなる場所があり、そこを考えてもU(1)対称性が残るかは自明ではない。そこで、我々は期待値が発散する場所も含めたF理論の内部空間全体を詳細に解析することで、生成されると思われてきたU(1)対称性が実際には破れていることを示した。さらにその元で、次元四の陽子崩壊演算子が生成されることをも明らかにした。我々の研究によって初めて、ゲージ理論の枠内を越えた寄与が物理的帰結を与えることが示され、F理論の内部空間全体の構造も重要であることが認識された。
著者
加藤 光裕 米谷 民明 大川 祐司 菊川 芳夫 風間 洋一 奥田 拓也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

H29年度は、当初計画の最終年度であったので、これまでの研究のまとめも兼ねて、駒場研究会「弦・場・素粒子」を開催し、他機関の研究者との情報交換と討論等、研究交流を行った。各分担研究に関しては、以下の通り。■加藤は、N=2超対称SYK模型の格子化に成功し有限自由度の場合について解析を進めている。また、N=4超対称SYK模型の構成についても取り組みを開始した。■米谷は、前年度の研究成果(共変的行列理論、および南部力学のハミルトン・ヤコビ理論の定式化)に基づき、さらに発展させるべく考察を進めた。■風間は、ブラックホール時空の地平線近傍における、代表的な異なる観測者によって量子化されたスカラー場のヒルベルト空間の構造の詳しい比較研究を行い、等価原理が量子論的にも成り立つことを示した。■菊川は、H28年に引き続き、フェルミオン行列式のゼロ点を境界にもつ,複数のLefschetz thimbleの経路積分への寄与を有効的に取り組む手法の検証と開発に取り組んだ。■大川は、プリンストン高等研究所の大森氏との共同研究により超リーマン面の超モジュライ空間の分割に基づく開いた超弦の場の理論の構成法を開発し、ボソンを記述する弦の場の4次までの相互作用を具体的に構成した。■奥田は、2次元の超対称性をあらわに保つ繰り込みの処方を定式化し、分配関数や vortex 演算子の相関関数の局所化計算に適用した。結合定数が空間的に変化する2次元理論のインターフェースを構成し期待値の局所化計算を行った。
著者
水野 直樹 藤永 壮 宮本 正明 河 かおる 松田 利彦 LEE Sung Yup 庵逧 由香 洪 宗郁 金 慶南
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日中戦争・アジア太平洋戦争期の植民地朝鮮の政治や社会・文化を理解するために必要な資料を国内外の図書館・文書館で調査・収集し、そのうち重要と認められる資料を選んでWEB上の資料集を作成した。これらのほとんどは、文書資料として残されているだけで、印刷されることがなかったため、一般市民のみならず研究者も閲覧・利用に不便をきたしていたものである。WEB上の資料集は、今後の歴史研究に利用でき、また広く歴史認識の共有にも役立つものとなっている。また植民地期とその直後に朝鮮に在住していた日本人の回想記・手記類についても、目次・著者略歴などのデータを整理してWEB上で提供することとした。
著者
西村 直道
出版者
名寄市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

メトキシ化されたペクチンが大腸内に常在する細菌によって発酵される際、メタノールが遊離され生体に供給される可能性を明らかにするため、メトキシ化度の異なるペクチンをラットに与えたときのメタノール遊離量および血中ギ酸濃度の変化を調べた。その結果、ペクチンは大腸内発酵でメタノールを遊離し、生体内へのメタノール供給源となることが判明した。この発酵には、大腸菌が寄与していることもわかった。また、高メトキシペクチンほどメタノール遊離量が多く、血中ギ酸濃度の上昇を引き起こす可能性も示唆された。以上より、ペクチンは大腸内発酵によって生体内にメタノールを供給することがわかった。
著者
成 元哲 牛島 佳代 松谷 満 阪口 祐介 永幡 幸司 守山 正樹 高木 竜輔 田中 美加
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、原発事故が福島県中通りに居住する親子の生活と健康にどのような影響を与えているのかを明らかにし、必要な支援策を検討することにある。そのために、参与観察、聞き取り調査、調査票調査を通じで、原発事故後、中通り9市町村に暮らす親子は急激な生活変化を経験しており、それに適応できない母親は精神健康の低下を経験しており、それが子どもの問題行動につながっていることを明らかにした。親子への支援策は、経済的負担感と補償をめぐる不公平感を軽減し、放射能への対処をめぐる認識のずれを軽減する。また、保養・避難を選択できる環境にし、福島での子育て不安、健康不安を軽減することが必要である。
著者
横澤 一彦 河原 純一郎 齋木 潤 熊田 孝恒
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

高次視覚研究用の実験ソフトウェアと実験データベースの作成を行った。新たな実験環境を実現するにあたり、様々な環境で動作することを念頭に置き、Jaba環境で動作する実験ソフトウェアと実験データベースを作成し、インターネットで公開した。更に、シミュレーション・モデル構築を目指す高次視覚研究を展開した。線運動錯視探索のモデル(Kawahara & Yokosawa,2001)では、探索の誤答率を,線運動がおのおの独立して生起するという仮現運動モデルによって予測した。その結果、様々な状況での探索成績がこのモデルで予測可能であることを確認すると共に、線運動錯視が視覚的注意によって起こる場合と,独立して画面内の複数の位置で起こる仮現運動によって起こる場合があることが示唆された。視覚的選択過程モデル化(Kumada & Humphreys, in press)を試みた結果、従来の認知心理学における反応時間の分析では、正答反応のみが分析の対象として用いられてきたが、誤答の反応時間が、正答の反応時間の分布と比較した場合に極めて有意義なデータをもたらすことを発見し、それらを可視化する手法としてLOC分析(Latency Operation Characteristics analysis)を開発した。パルスニューラルネットワークモデル(齋木,2002)を使って、選択的注意のモデルとして,CrickとKochの提案した視覚的注意の時間タグ付け仮説を実装し,視覚的注意の神経生理学の古典的知見であるMoran & Desimone(1985)の結果をシミュレートした。第2標的への遅延マスキングがない場合にも注意の瞬きが見られる場合があることを実験的に見いだしたので、表象減衰による注意の瞬きモデル(Kawahara, in press)を提案し、第2標的の視覚表象は時間経過とともに減衰することによって、注意の瞬きが起こる過程の説明をした。
著者
前田 太郎
出版者
東京海洋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

嚢舌目ウミウシは、餌海藻の葉緑体を細胞内に取り込み光合成を行わせる(機能的盗葉緑体現象)。今までは嚢舌目Volvatellidae科が、盗葉緑体現象が獲得される前の祖先的な形質状態を残すグループと考えられてきたが、今回、嚢舌目内の分子系統解析により、嚢舌目の分化と同時に盗葉緑体現象が獲得され、その後Volvatellidae科内で失われたことを示した。これにより、盗葉緑体を獲得する以前の祖先種の生活史や形態の見直しを行い、盗葉緑体というユニークな現象の進化を、信頼できる系統関係から考察することができるようになった。さらに、嚢舌目ウミウシの内、盗葉緑体の光合成能保持期間が最も長い(約10ヶ月)チドリミドリガイ(Plakobranchus ocellatus)について、葉緑体DNA上にコードされるrbcL遺伝子を標的としたクローンシーケンシング解析とt-RFLP解析により、1,単一のチドリミドリガイ個体が、8種の藻類(嚢舌目ウミウシの中では最も多い)に由来する葉緑体を保持すること、2,8ヶ月間に渡り、経時的に、野外個体内の葉緑体組成を計測したところ、組成が月ごとに大きく変化することが示された、今まで、チドリミドリガイは機能的盗葉緑体に強く依存し、幼体期に摂食をして葉緑体を得た後は、摂食を行わないと考えられてきたが、もし野外で摂食が希ならば、葉緑体組成は変化せず、月間で同じような組成を示すはずなので、この結果は、野外でチドリミドリガイが頻繁に摂食を行い、葉緑体を補充していることを示している。このことから、野外の個体は、光合成のみに依存せず、海藻の摂食からも栄養を得ていることが示唆された。これは、機能的盗葉緑体を行う種の、野外での栄養取得状況を初めて確度高く推定したものである。
著者
野村 大成 梁 治子 足立 成基 藤川 和男 本行 忠志 中島 裕夫 奥村 明之進
出版者
独立行政法人医薬基盤研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

N5雄親マウスへの原子炉放射線(中性子0.2Gy+γ線0.2Gy/時間)、0.2、0.4、0.8、1.2 Gy精原細胞期照射により、F1マウスのマイクロサテライト突然変異が対照群に比べほぼ直線的に増加し、突然変異率は、3.5x10^<-2>/Gy/遺伝子座であり、60Coガンマ線と比較し、原子炉中性子線のRBE は約16 になった。変異はメンデル遺伝し、白血病も有意に増加した。遺伝子発現の異常も子孫マウスに見られた。
著者
今村 展隆 小熊 信夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

我々は、ウクライナのすべての州から診断依頼を受けた過去6年間(1995〜2001年)に、5,483名の患者(成人2,199名、子供3,284名)を調査した。中でもチェルノブイリ原子力発電所の事故当時、7.5〜25cGyの放射能を浴びたチェルノブイリ除染作業者のうち、144名に血液学的疾患が認められた。我々はまた、モノクローナル抗体を用いた,形態、細胞化学,免疫細胞化学および免疫型質解析によって、90名の患者に血液学的悪性疾患を認めた。その内訳は、急性リンパ性白血病4名、B細胞型の慢性リンパ性白血病(B-CLL)16名、B細胞性リンパ腫2名、多発性骨髄腫12名、その他の非ホジキン悪性リンパ腫7名、Sezary症候群2名、願粒リンパ球性白血病6名、急性骨髄性白血病15名、慢性骨髄性白血病8名、真性赤血球増加症1名、本態性血小板血症3名、および骨髄異形成症候群9名であった。血液学的悪性腫瘍患者の平均年齢は57.1±1.3歳で、男女別では男性のほうが多かった(84名;93.3%)。悪性でない血液疾患が8名(再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少性紫斑病)に、また、骨髄の転移性癌が5名に認められた。造血機構の持続的障害(リンパ球増加症、好中球増加症、造血細胞の異形成変化)は、26名の患者で検出された。この患者グループについては、根本的な病因の性質を明らかにするため、最新の分子遺伝子解析法を用いてさらに詳しく調査する必要がある。6名の除染作業者については、明白な血液学的障害は認められなかった。血液学的悪性腫瘍の発生率は、血液以外の悪性腫瘍発生率および被爆しなかった患者の悪性腫瘍発生率と比較して高率である。我々の研究室で調査したチェルノブイリ除染作業者の集団では、造血組織およびリンパ系組織の主要な悪性疾患の形態をすべて登録し、その中では、慢性リンパ性白血病(19%)を含む慢性リンパ増殖性疾患が優位に多かった(57.4%)。慢性リンパ性白血病は、最近になるまで放射線に関連する白血病であるとは認識されていなかったため、この事実は特に重要である。こうした見解は原爆被爆者生存者の白血病発生率に関するデータに完全に基づいたものであった。一方、日本では古典的なB-CLLは珍しい形態の白血病であり、全白血病の5%に満たない。米国およびヨーロッパでは、B-CLLは成人で最も優勢な白血病形態のひとつである。除染作業者のうち16名のB-CLL患者に関する我々のデータと、Research Center of Radiation Medicineの血液診断所でB-CLL患者36名を観察したKlimenko教授のデータは、電離放射線への曝露はB-CLLのリスクを増加させないという一般に受け入れられた見解に疑問を投げているように考える。こうした一般的見解が優勢になると、除染作業者やウクライナおよびベラルーシの汚染地域に住む住民の間で、B-CLLの発生率が増加していることに関する疫学的データを無視する決定的要因になりかねないと考える。
著者
庄山 茂子 栃原 裕 川口 順子
出版者
県立長崎シーボルト大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

虹彩色の異なる2群間における色の見えの差異を明らかにするために、虹彩色が青-緑系の自人女性と茶系の黄色人女性を対象に、100 hue testを用いて照度500lxと30lxの2条件下で色彩弁別能力を測定し比較した。その結果、次のような結果が得られた。総偏差点を比較すると、30lxでは両群間に差は認められなかったが、500lxでは両群間に差が認められ、茶系群の色彩弁別能力が高かった。500lxは、茶系群にとっては弁別しやすい照度であったと推察された。青-緑系群は、照度500lxで緑(G)〜青紫(PB)領域にかけて、茶系群より弁別しにくく、明所では青(B)領域の比視感度が下がる現象がみられた。両群ともに、赤(R)を中心とした領域は30lxの弁別能力が低く、照度間に有意差がみられた。茶系群は、青(B)領域で照度間に有意差がみられ、30lxの弁別能力が低かった。虹彩色の異なる2群間で、異なる見えの現象が認められたことから今後、様々な虹彩色の違いにも着目したユニバーサルデザインの必要性が示唆された。さらに、サングラスの使用頻度別に色彩弁別能力をみると、茶系群では、500lx、30lxの両条件下でサングラスを使用していない群の総偏差点は、時々あるいは頻繁に使用する群よりわずかに高かった。青-緑系群では、500lxで使用していない群の総偏差点と時々あるいは頻繁に使用する群の総偏差点との間に有意差が認められ、使用していない群の総偏差点は高く色彩弁別能力が劣っていた。虹彩色が青-緑系でサングラスを使用しない群は、紫外線の影響を受けているのではないかと推察された。