著者
宮崎 雅雄
出版者
岩手大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ネコがマタタビを嗅ぐと幸せそうにゴロゴロ転がる反応は、マタタビ踊りと言われ江戸時代頃から知られている日本人にとても有名な生物現象である。マタタビ活性物質については60年以上前に発見されていたが、ネコがマタタビに反応するメカニズムや生理的な意義は全く分かってない。またマタタビに反応しないネコがいる原因も未解明である。本研究の目的は、ネコがなぜマタタビに反応するか、マタタビ活性物質の受容機構とマタタビ反応の生理的な意義を解明し、動物-植物間の化学コミュニケーションの理解を深める。
著者
澁谷 智治
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では, 機密データの不正使用や盗難に対する効果的な対策を実現する, 秘密分散法と呼ばれるセキュリティ技術を取り上げる.機密データを分散共有するためのシェアとよばれるデータを生成する際, Komargodski らにより, 参加者数が未確定でも加算無限個のシェアが生成できる手法が提案されている. しかしながら, シェアサイズが最適性や, 秘匿計算への応用の可否については明らかではない.本研究では, これらの解明に取り組み, 加算無限個のシェアが生成可能な秘密分散法におけるシェアサイズの上界・下界の導出と効率的なシェアの構成方法の開発, および, その秘匿計算への応用について検討する.
著者
長総 義弘 紺野 慎一 菊地 臣一
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

セロトニンとセロトニン拮抗薬投与前後での神経根内血管と血流量の変化を検討した。方法:雑種成犬35頭。A群;非手術群、B群;バルーンのみを挿入したsham群、C群;馬尾に圧迫をかけ、解析時にバルーンを除去した群、D群、E群、F群、G群;馬尾に圧迫をかけ、解析時にバルーンを膨らませたままの群の7群を設定した。解析時にA, B, C, D群にはセロトニン0.5μM、E群、F群はセロトニン投与前にセロトニン受容体拮抗薬(0.5μg/ml、0.05μg/ml)、G群にはセロトニン投与後にセロトニン受容体拮抗薬(0.5μ9/ml)を投与した。デジタルハイスコープを用いて仙椎神経根の血管を記録し、血管径と血流量の計測を行なった。圧迫部位の神経根を採取し組織学的検討を行った。結果:[血管径]AとB群はセロトニン投与後、血管が拡張した。CとD群では、血管が収縮した。EとF群では、血管収縮が抑制された。G群では、血管が収縮は抑制されなかった。[血流量]AとB群でセロトニン投与後に血流量は減少しなかった。CとD群では血流量は減少した。E、F群およびG群では、血流量が増加した。電子顕微鏡学的検討では、馬尾圧迫下の神経根内血管のtight junctionが破壊されていた。考察:セロトニンは圧迫のない神経根内血管は拡張させ、慢性圧迫下の神経根内血管では血管収縮と血流量の減少を引き起こす。5-HT_<2A>受容体拮抗薬は、セロトニンによる慢性圧迫下での神経根内血管収縮反応と血流量の減少を抑制した。5-HT_<2A>受容体拮抗薬は、馬尾・神経根の血流低下により引き起こされる間欠跛行を改善させる可能性がある。今後、腰部脊柱管狭窄の保存療法の1手段として、有効性が期待できる。
著者
中村 高康 吉川 徹 三輪 哲 渡邊 勉 数土 直紀 小林 大祐 白波瀬 佐和子 有田 伸 平沢 和司 荒牧 草平 中澤 渉 吉田 崇 古田 和久 藤原 翔 多喜 弘文 日下田 岳史 須藤 康介 小川 和孝 野田 鈴子 元濱 奈穂子 胡中 孟徳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、社会階層の調査研究の視点と学校調査の研究の視点を融合し、従来の社会階層調査では検討できなかった教育・学校変数をふんだんに取り込んだ「教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM2013)を実施した。60.3%という高い回収率が得られたことにより良質の教育・社会階層データを得ることができた。これにより、これまで学校調査で部分的にしか確認されなかった教育体験の社会階層に対する効果や、社会階層が教育体験に及ぼす影響について、全国レベルのデータで検証を行なうことができた。
著者
今村 幸太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では日本労働者を対象にインターネット認知行動療法(iCBT)の閾値下抑うつ症状改善効果を12ヵ月間の無作為化比較試験で検討した。国内の電気通信企業の全社員(20,000人)を対象に参加を呼び掛け、835人(4.2%)が初回調査に参加した。適格基準を満たした706人を介入群と対照群に無作為に割付け(各群353人)、介入群に対してiCBTを提供した。両群ともに3、6、12ヵ月後に追跡調査を行い、抑うつ症状(BDI-II)および心理的ストレス反応(K6)について質問した。結果として、iCBTはBDI-IIおよびK6を有意に改善した。本iCBTは職場のストレスマネジメントに有用と考えられる。
著者
和田 小依里 佐藤 健司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日本食の発酵食品中に抗炎症効果を有する複数のピログルタミルペプチドが含まれていることを明らかにした。これらのペプチドは発酵の過程で生成されていると考えられるが、大腸炎誘発モデルマウスにおいて,微量で腸炎改善効果を示すことを示した。また、ピログルタミルペプチドは腸内細菌叢を正常化させることや抗酸化作用を有することも明らかとなった。一定の発酵条件下でこれらのペプチドを高濃度に含有する米発酵物サンプルを作成することができ、ヒト試験でも腸内細菌叢改善作用を示す可能性が示唆された。これらの結果から日本の伝統的な発酵食品の健康増進作用が期待される。
著者
青木 純一 前原 健二 樋口 修資 平田 昭雄
出版者
日本女子体育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

学校はこれまで民間企業などの職務経験を積んだ後に教職をめざす人達を積極的に受け入れてきた。教員以外の職務経験が学校という「閉鎖的」な場を活性化すると考えたからである。しかし、中途入職教員が採用後の教育活動や、校務分掌や研修といった業務においてその経験をどのように活かし、活かされているかといった実態調査は、これまで必ずしも行われていない。そこで、中途入職教員やその任命権者である教育委員会へのインタビュー調査や質問紙調査によってこれらの課題を明らかにする。
著者
亀山 渉 菅沼 睦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ネットワークを介したAVコンテンツ視聴時におけるユーザ主観評価を効率よく、かつ、精度よく推定する手法について研究する。具体的には、ユーザに装着する各種の生体情報測定器及びセンサ、並びに、ユーザが使用するデバイスから得られる多次元情報より、ユーザ主観評価を、ユーザ毎の違い、ユーザの満足度や興味、ユーザコンテクストを考慮し、かつ、リアルタイムに推定する手法を研究する。
著者
佐藤 いまり 平 諭一郎 日浦 慎作 佐藤 洋一
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2020-11-19

本課題では,質感を科学的に取り扱うための学術的知見を蓄積し,我々が視覚を通して感じる質感と物体が有する光学的特性,その光学特性を生む素材・制作工程との関係を明らかにすることで,本物の工芸品の「良さ」を科学的に論じる手段と,工業製品のさらなる高付加価値化に寄与する計測・評価技術の創出を目指す.特にデジタルな再現技術に人手を介した質感表現を加えた作品を準備し,その物理特性と質感の差異を能動的に解析することで,革新的な質感評価・質感合成技術の創出する。これにより、本物の工芸品の「良さ」を科学的に論じる手段と,工業製品のさらなる高付加価値化に寄与する計測・評価技術の創出を目指す。
著者
藤田 尚志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

経済的利用価値の高いと考えられる米糠からの二重鎖RNA(dsRNA)抽出方法を確立した。まず、米糠に含まれるdsRNAの安定性について粗抽出液に関して検討を行い、以下の結果を得た。dsRNAは温度依存性の安定性を示し、冷蔵以下の温度で安定であることを見出した。また、dsRNAの安定性は塩濃度依存的であることを見出した。以上より、抽出の塩濃度、温度の管理が非常に重要であるが明らかとなった。次に粗抽出液を濃縮する方法を確立した。さらに経済性を高めるため、濃縮方法の改良の検討を継続している。ピーマン由来dsRNAを用いてマウス個体での免疫賦活活性を検討した。ピーマン由来dsRNAを経鼻投与することによって季節性のH1N1インフルエンザウイルスのみならず高病原性H5N1インフルエンザウイルスに対しても強い防御効果があることを見出した。次に不活化H5N1ウイルスとともにピーマンdsRNAの皮下投与を行ないそのアジュバント効果を検討した。不活化ウイルスのみでは強い免疫応答は見られなかったが、dsRNAとともに投与することによって劇的な免疫効果が観察され、ピーマンdsRNAに強力なアジュバント活性がある事が判明した。最後にB16-F10メラノーマ移植マウスの系を用い、dsRNAの抗癌試験を行った。その結果、ピーマンdsRNAはNK細胞の活性化を通してB16-F10細胞の増殖を抑制する活性を有する事が明らかとなった。マウス個体を用いた結果は論文投稿中である。
著者
松波 弘之 吉本 昌広 冬木 隆
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1988

本研究では、6HーSic(0001)Si面、(0001^^ー)C面にオフアングルを導入することで表面のステップ密度を制御し、その基板上に6HーSiCの原子ステップ制御エピタキシャル成長を行った。成長機構の検討と不純物ド-ピングを行った結果は下記の通りである。1.原子ステップ制御エピタキシ-によるSiCの成長(1)Si面オフ基板ではオフ方向により成長の様子が異なる。[112^^ー0]方向オフ基板上には6HーSiCのみが成長する。一方、[11^^ー00]方向オフ基板上では長時間成長により、3CーSiCの混在が進む。(2)C面オフ基板では[112^^ー0]、[11^^ー00]のオフ方向に依存せず、6HーSiC単結晶が成長し、3CーSiCの混在は生じない。2.不純物のド-ピング(1)TMAを用いたA1のド-ピングを行い、p形層キャリア密度を4×10^<17>〜8×10^<20>cm^<ー3>の広い範囲で制御することができ、0.1Ωcm以下の低抵抗p層が得られた。また、フォトルミネセンス(PL)測定の結果からNドナ-のsite effectが確認できた。(2)TiCl_4流量を変化させることにより、Tiド-プ量を8×10^<17>〜2×10^<21>cm^<ー3>の範囲で制御することができた。Tiド-プ層のPL特性からTiに特有な発光が現れることを見いだし、これがTi等電子トラップに束縛された励起子発光であることを明らかにした。
著者
城村 由和
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ゲノムワイドな遺伝子発現抑制スクリーニングにより、老化細胞の生存・機能維持に関わる遺伝子群の単離に成功した。その中でも、グルタミンをグルタミン酸に変換する酵素であるグルタミナーゼ遺伝子に着目して詳細な解析を行った。その結果、グルタミナーゼの機能抑制は、老化細胞選択的に細胞死を誘導できることを見出した。また、そのメカニズムとして、細胞内pHホメオスタシスの制御が深く関与することも明らかになった。さらに、老齢マウスにグルタミナーゼ阻害剤を投与した結果、加齢に伴う腎障害が改善された。これらの結果は、グルタミン代謝酵素を標的とした薬剤が老化の予防や加齢性疾病の治療に有効であることを示唆している。
著者
千葉 拓 瀧井 猛将
出版者
名古屋市立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

食品紅花中にはセロトニン誘導体(N-(p-coumaroyl)serotonin(CS),N-ferutoyserotonin)の他、ポリフェノ-ル類に含まれる抗酸化物質が存在する。これらのセロトニン誘導体がグラム陰性菌のエンドトキシンリポ多糖(LPS)刺激によるヒト末梢単球からの炎症性サイトカインの産生を抑制する以外に、細胞増殖促進活性ももっていることを見出したのでその機序を明らかにする。そして、病気の予防、創傷治癒、また、抗炎症剤としての創薬の基礎的研究を目的とする。本研究では以下の点が明らかになった。1)LPSで活性化させた単球/マクロファージから産生される炎症性サイトカインであるIL-1α,IL-1β,IL-6,TNFαは、CS50μMで約50%、200μMで完全に阻害された。この効果はタンパク量レベル、mRNAレベルでも同様だった。2)CS類似化合物として、N-(p-coumaroyl)-tryptamine(CT),N-(trans-cinnamoyl)tryptamine(CinT)とN-(trans-cinnamoyl)serotonin(CinS)を合成し、抗酸化活性の構造活性相関を調べたところ、serotoninに付いている水酸基が抗酸化活性に関与していることが明らかになった。3)LPS刺激ヒト末梢単球からのIL-1α,IL-1β,IL-6,TNFαの産生抑制作用は、CS>CT>CinSの順で強められたが、CinTには作用が認められなかった。4)タンパク合成阻害作用は、CS,CTの方がCinS,CinTよりも強く認められた。5)正常なヒトやマウスの線維芽細胞増殖活性は、CS,CinS,CT>CinTの順であった。6)CSは、酸性の線維芽細胞成長因子(aFGF)や血小板由来の成長因子(PDGF)ではなく、塩基性の線維芽細胞成長因子(bFGF)や上皮成長因子(EGF)と共同して線維芽細胞を増殖させることが明らかになった。7)ラットの熱傷創に対する創傷治療速度について、我々が作製したCS軟膏やCinT軟膏,それに市販のゲーべンクリームを用いて調べたが,自然治癒に比べて著しい治癒効果はみられなかった。
著者
三枝 淳 森信 暁雄 河野 誠司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

関節リウマチ(RA)の関節破壊に関与している滑膜細胞(RA-FLS)の細胞内代謝に着目して研究を行い、以下の知見を得た。1. RA-FLSではグルタミナーゼ(GLS)1の発現が亢進しており、GLS1阻害によりRA-FLSの増殖は抑制された。2. GLS1阻害薬の投与により、関節炎モデルマウスの関節炎は抑制された。以上より、グルタミン代謝はRAの病態に関与していることが示唆され、GLS1は新たな治療標的と考えられた。
著者
真野 祥子 川上 あずさ
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、ADHD児の両親の夫婦関係・家族機能の側面が、ADHD児の不適応問題の発達にどう影響を及ぼしているのかを明らかにし、不適応問題の予防・改善のための援助方法を検討することを目的とした。11名のADHD児の母親に対して半構成的面接を実施し、質的帰納的に分析した。子どもの不適応問題の発達に影響を及ぼす要因として、夫婦間の関係性の状態が影響を及ぼしていることが考えられた。また夫婦間の良好な関係性維持のためには、双方向的なコミュニケーションの促進が必要であることが示唆された。
著者
石井 信子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

就学前幼児を対象として、幼児の発達の特徴を調査・研究した。①幼児の発達指数の分布はほぼ正規分布となるが、発達の偏りには非常にばらつきが大きいこと、②3歳児が5・6歳児より偏りが有意に大きい傾向があること、③神経発達障害児との比較では、発達の量的な遅れに関しては両者に有意な差はあったが、発達のアンバランスについては有意な差は認められなかった。幼児の発達特徴を明らかにすることにより、発達障害の診断の精巧化に貢献。親子の関係性改善の心理学的アプローチとして、個別の支持的相談と併行して集団療法を取り入れることが効果的であることを明らかにした。
著者
田村 悦臣
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1日3-4杯のコーヒー摂取は生活習慣病を予防する効果があることが報告されている。一方、ストレスホルモンや性ホルモンなどのステロイドホルモンの代謝異常は生活習慣病のリスク要因である。そこで、ヒト由来培養細胞を用いてコーヒーの影響を解析した。その結果、コーヒーは大腸がん細胞においてはエストロゲンの活性化、乳がん細胞においては不活性化に寄与する効果を示した。これらは、共にそれぞれのがん細胞の発症を抑制する効果を期待させる。一方、前立腺がん細胞では、男性ホルモンの活性化の傾向が見られ、予防効果との相関はなかった。また、神経系細胞では認知症予防効果が期待される神経ステロイドの産生を増加する効果を示した。
著者
矢野 卓也 宇佐美 真一 西尾 信哉
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ミトコンドリア遺伝子変異による難聴は、両側性感音難聴の2~3%に及ぶとされており、聴覚機能の維持にミトコンドリアが深く関与することは明らかになっているが、ミトコンドリア遺伝子変異により難聴を発症する詳細なメカニズムは未だ不明である。本研究では、難聴患者400名のミトコンドリア遺伝子解析を行うとともに、その臨床的特徴に関する詳細な分析を行った。その結果、日本人難聴患者における変異の種類と、頻度、また臨床的特徴を明らかにすることができた。また、ミトコンドリア遺伝子変異を持つ難聴患者由来の培養細胞を用いて、難聴発症のメカニズムを明らかにすることができた。
著者
鈴木 勝昭 武井 教使 土屋 賢治 宮地 泰士 中村 和彦 岩田 泰秀 竹林 淳和 吉原 雄二郎 須田 史朗 尾内 康臣 辻井 正次
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、自閉症の病態において脳内コリン系の果たす役割を明らかにすることにある。自閉症者脳内のアセチルコリンエステラーゼ活性を陽電子断層法(PET)により計測したところ、顔認知に重要な紡錘状回において有意に低下していた。さらに、この低下は社会性の障害の重症度と逆相関していた。すなわち、紡錘状回におけるコリン系の障害が強いほど、社会性の障害が強いという相関関係が示唆された。この結果は、自閉症のコリン系の障害は発達の早期に既に起こっており、顔認知の障害がもたらされ、もって社会性の障害の基盤となっていることを示唆している。そこで、認知の障害を注視点分布によって検出し、早期診断に役立てるために、乳幼児でもストレスなく注視点を測定可能な機器の開発を産学連携で行い、現在も継続中である。
著者
川上 文人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

1)研究の目的 本研究課題の研究目的は,ヒトの対人関係に大きく作用する非言語コミュニケーションを理解するための突破口として笑顔に焦点を当て,笑顔のヒト科における系統発生について実験室,飼育下,野生というさまざまな環境から体系的に明らかにすることである。本年度は大型類人猿における笑顔の使用場面を観察により探るため,高知県立のいち動物公園と日本モンキーセンター(JMC)において飼育下チンパンジーの観察を行った。本報告ではJMCでの観察結果について述べることとする。2)成果の具体的内容 JMCには2014年7月にチンパンジーの乳児が生まれ,その母親と父親と3個体で生活している。生後6か月までのビデオの分析で唯一笑顔が生じていた,母親による「高い高い」の場面を抽出し表情の分析を行った。ヒトとの比較を行うため,保育園で保育士に乳児を「高い高い」してもらい,同様の分析を行った。その結果,乳児も養育者もチンパンジーよりヒトの方が多く笑うこと,チンパンジーでは乳児が笑っても母親が笑うわけではないことが明らかになりつつある。3)意義と重要性 ヒトの笑顔の特殊性は,他者とともに笑い合うというところにあるようである。チンパンジーの場合は笑顔ではなく,グルーミングや音声によるあいさつによって対人関係を平穏に導いているのであろう。どちらの種においても笑顔は快感情の表れとしてもちいられており,笑顔の原因を探求することはヒトやチンパンジーを含む動物にとってよりよい環境を築く足がかりとなる。