著者
高松 敦子
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

運動性シアノバクテリア細胞は集団化することで、円盤形の回転型運動や彗星型運動など様々なマクロ構造をとる。H23年度は、標準環境下において、束状、円盤状、彗星状のそれぞれの集団形態の運動解析を行った。その結果、コロニー形態に係わらずバクテリア密度が高いほど運動生が優れていることを見いだした。そこで、H24年度はコロニー形態毎の運動速度の解析と、バクテリアが分泌する粘液を想定した理論モデルの構築に取り組んだ。並進運動を行うコロニー重心の運動速度は、一本鎖、束状、彗星状の順に大きいことが分かった。また、同じコロニー形態でもコロニーサイズ(設置面積)にわずかに依存して速度が大きくなる傾向が見られた。さらにコロニー速度は培地表面にバクテリア自身が分泌した粘液の有無に大きく左右されることがわかった。以上のことを纏めると、バクテリアが集合することで粘液分泌総量が増加し、それが培地から受ける抗力を低減するものと思われる。これを基に、彗星状の積層コロニーについて、底面細胞のみが駆動力を生成し、側面および底面細胞が全面、底面の水(または培地)からの抗力を受け、その他の細胞は粘液を分泌するという運動モデルを構築した。その結果、上述に見られたコロニー毎の運動特性の定性的な性質を説明することができた。しかしながら、バクテリアが自発的に集合し、それによって多様な運動が生成するメカニズムは解明されていない。鍵となる粘液の定量化、1本鎖同士の相互作用の定量的観察を通して、より現実的な数理モデル構築を行うことが今後の課題である。
著者
西谷 正 甲元 眞之 山本 輝雄 中橋 孝博 田中 良之 宮本 一夫 中園 聡
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

平成8年度は、本研究3個年計画の最終年度に当たるので、過去2年間にわたって実施した調査成果を総合的にまとめ上げることを主眼とする研究を実施した。そのため、収集した膨大な調査資料を改めて整理、分析するとともに、研究成果報告書の原稿を執筆した。その間、支石墓研究会も開催し、第15回をもって最終回とした。その際、中国の遼東半島や朝鮮の西南海岸部・済州島の支石墓について補足し、また、日本の出土遺物として重要な供献小壺についても研究の現状を把握した。その結果を要約すると、支石墓は中国の東北地方から朝鮮の全地域において、主として青銅器時代に築造された。中国では、いわゆる石蓋土壙墓が支石墓を考える上で重要である。おそらく中国で成立した卓子形の支石墓は、朝鮮の西北部にまず伝播した後、変容を遂げながら南部地方へと波及し、碁盤形支石墓を生んだ。朝鮮の全域で独特に発達した支石墓は、いうまでもなく、もともと巨大な上石とそれを支える支石からなることに特徴があるところから名づけられた墳墓である。ところが、最近の調査例のように、実に多種多量の形式が見られるようになってくると、形式分類もひじょうに複雑なものとならざるをえない。それでもなお、共通点として指摘できるのは、巨大な上石を使用していることであるのに対して、支石をもたないものもけっして少なくないのである。そこで、巨大な上石の下にある墓室の構造を基準として形式分類を試みた。日本の支石墓は、縄文時代終末期から弥生時代中期にかけて、北部九州を代表する墓制の一つである。上石の下部に埋葬施設としての土壙・甕棺・配石などがある。古くは、土壙の場合が多いが、新しくなると甕棺が多くみられる。甕棺を埋葬施設とする点は、日本独自の特徴である。支石墓の存在形態を見ると、大規模な群集を示さず、数基ないし十数基からなる。
著者
平野 亮
出版者
兵庫教育大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

骨相学は,19世紀前半の西洋世界を席巻した「脳科学」であり,その社会的・文化的影響については欧米を中心につとに研究の蓄積をみる。しかし,開化期以降の日本にも教育分野を含めた様々な領域でその流入が認められるにも拘わらず,これまでまとまった検討はなされてこなかった。そこで本研究では,①骨相学の流入・受容・展開についての広く文化的な概説史,②その理論が骨相学と知りながら受容した教育分野の歴史,③そうとは知らずに影響を被っていた教育分野の歴史,の3つのアプローチでこの主題に取り組む。近代以降の日本の教育学・思想の源流を探ると同時に,「啓蒙」時代の日本の一つの文化史を描き出すことを目指す。
著者
矢野 博明 伊藤 誠 山口 佳樹 井上 和哉 北原 格 原田 悦子 澁谷 長史
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では歩車混在空間において人および移動体それぞれが安全かつ安心して移動するために、自身の情報を発信する外向きヒューマンマシンインタフェース(外向きHMI)の評価のために、人が歩行する空間と車両が走行する空間を物理的に別々に構築し、バーチャルリアリティ技術や拡張現実感技術を用いて両者を統合するシステムを開発する。このシステムを用いて、歩車混在空間での人と移動体の間の情報のやり取りの特徴や、機械学習による行動予測に基づく外向きHMIを人や移動体に重畳してバーチャルに実装する。その時の反応や通行リスクの変化を比較することで、外向きHMIの開発・評価システムや外向きHMIの必要要件を明らかにする。
著者
村本 真 矢ヶ崎 善太郎
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では,文化財数寄屋建築を対象に現場診断結果を用いた耐震性能評価技術を開発する.本研究の目的は,合理的で信頼性の高い評価情報を得るべく,数寄屋建築を損傷させずに土壁と構造木材の材料特性を推定できる要素技術を提供することである.現地調査において,壁土と木材の材料特性が評価できれば,建物の性能評価に直接有益な情報とすることができる.さらに,薄い壁厚の土壁を有する架構の性能評価実験を通して,数寄屋建築のシミュレーション技術を構築する.数寄屋建築の地震時挙動のシミュレーションにより,効果的な耐震補強法を提案する.これらの要素技術を組み合わせて文化財数寄屋建築の保存設計に直接活用できる基盤を整える.
著者
高橋 直紀
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

歯肉上皮細胞は、物理的なバリアとして機能するだけではなく、細菌に対して免疫応答を誘導することで生体防御の最前線として重要な役割を果たす。近年同定された新規イオンチャネルであるTRPチャネルタンパクは炎症性疾患への関与も報告されている。本研究において、歯肉上皮細胞にTRPV1が遺伝子レベル・タンパクレベルで発現していることが確認され、TRPV1を介したシグナリングが細胞増殖能に関与していることが明らかとなった。これらのことより、歯周炎の病態形成におけるこれらのタンパクの関与が示唆された。
著者
川上 浩一 近藤 滋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

川上は、ゼブラフィッシュにおいては成魚のストライプパターン形成異常変異Hagoromoの原因遺伝子であり、マウスにおいては指形成異常変異Dactylaplasiaの原因遺伝子であるhagoromo遺伝子(Dactylin遺伝子)の産物の機能解析を.行った。すなわち、マウスDactylin遺伝子産物の生化学的解析を行い、特異的なターゲット蛋白質をユビキチン化し、蛋白質分解経路へ導く働きをするSCFユビキチンリガーゼの構成成分であることを明らかにした。近藤は、ゼブラフィッシュストライプパターン形成を制御する普遍原理の研究をさらに発展させた。縦じまと横じまをもつ近縁な熱帯魚種間でのパターン変化を説明する新しい理論を考案し、簡単なパラメーターの変化でパターンが変化しうることを証明した。これは、熱帯魚の体表面のストライプパターンが、「反応拡散システム」で作られるという近藤の従来からの仮説を強く裏付けるものである。
著者
廣田 照幸 宮寺 晃夫 小玉 重夫 稲葉 振一郎 山口 毅 森 直人 仁平 典宏 佐久間 亜紀 平井 悠介 下司 晶 藤田 武志
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

教育システム設計の理論的基盤を確立するために、現代の教育理論、社会理論や政治哲学がどのように役立つのかを検討した。教育が果たす社会的機能を考えると、社会の多様な領域の制度との関わりを抜きにして教育システムを構想するのは問題をはらむということが明確になった。本研究では、社会のさまざまな領域の制度、特に福祉や労働の制度を支える諸原理と教育システムを構成する諸原理とを一貫した論理、または相補的な論理でつなぐ考察を行った。
著者
籔谷 祐介
出版者
富山大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、集約化が計画されている公的集合住宅団地において、団地の共用空間マネジメントを団地居住者と団地周辺居住者が協働で行うことで、団地内外居住者がネットワークされた拡張型団地コミュニティが形成可能か検証し、それによる団地居住者への効果を明らかにすることを目的とする。具体的には、団地の集会所やオープンスペース等の共用空間を活用して、活用方法を話し合うワークショップとそれを試行する実証実験を繰り返し実施することによって共用空間のマネジメントの主体形成を支援し、拡張型団地コミュニティが形成可能か試行する。その後、団地居住者へのアンケート調査により、本手法が団地居住者に与える効果を解明する。
著者
鈴木 貴之 鈴木 真 笠木 雅史 井頭 昌彦 太田 紘史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度は、本研究プロジェクトの5つの研究課題のうち、従来の哲学方法論の批判的評価、哲学的自然主義の可能性と限界、実験哲学の哲学的意義の評価、という3つの課題についておもに研究を進めた。従来の哲学方法論の批判的評価に関しては、2017年10月に香港大学からマックス・ドイッチュ氏およびジェニファー・ネド氏を招いて、科学基礎論学会秋の研究例会および東京大学で、哲学における直観の重要性と信頼性に関するワークショップを開催した。また、笠木雅史が同月に開催された日本科学哲学会のシンポジウムで、分析哲学における哲学方法論の歴史について発表を行った。哲学的自然主義の可能性と限界に関しては、井頭昌彦が自然主義の定式化や代替案を論じた論文を発表し、鈴木貴之と太田紘史が、自然主義的な心の哲学の現状や課題について、論文や共著を発表した。また、鈴木貴之が道徳に関する心理学研究の哲学的意義について、2018年2月に東京大学で開催された社会心理学コロキウムで発表を行った。実験哲学の哲学的意義の評価に関しては、笠木雅史が文化間の実験哲学研究に関する問題について論文を発表し、鈴木貴之が哲学における責任をめぐる議論の現状と、そこにおける実験哲学の意義について論文を発表した。また、鈴木真が実験哲学についての辞典項目を執筆した。さらに、来年度以降に本格的に研究を進める予定であるメタ哲学的観点からの哲学史の見直しに関しても、2017年8月に東京大学で研究会を開催し、小山虎氏が20世紀前半における分析哲学と科学哲学の関係について講演した。
著者
山崎 弘郎 藤村 貞夫 北森 俊行 飯塚 幸三 栗田 良春 森村 正直
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

文部省学術用語集「計測工学編」の増補改訂を目的として、計測工学用語の標準化の調査研究を平成2年2月から平成3年度末まで下記の通り実施した。1.計測工学における学術上の概念を適切に表す用語を標準化することにより,同一概念を表現する複数の用語の流布を避け,混乱を防ぐことを目的として。主として次のような用語選択基準を設定した。(1)学術上の議論で現在実際に用いられる用語だけを採録する。(2)概念の階層構造に留意しその上位の用語から採録する。(3)他分野との境界領域にある用語も採録する。ただし,その用語がすでに文部省学術用語集で制定されていれば,それを尊重する。(4)内外の規格(JIS,ISO,IMEKO,VIM,SI等)との一貫性に留意する。2.計測工学の分類について検討を重ねた結果,20分野に分類し,上記選択基準1.にしたがって,現行用語約2,400語について検討し,分野別に用語の収集,選択を行い,計測工学用語集としての完備を図った。こうして12,000余語の用語を収集し,これを整理して,約8,000用語が標準計測用語として得られた。3.この調査研究の特長の1つは,作業を電子化し,効率化を図ったことである。これによって,委員による用語の収集,整理作業および委員間の情報交換が極めて容易に可能となった。さらに,海外からの用語デ-タファイル(国際計測連合編集の計測用語;ISO,IEC,BIPM等による用語集(VIM)等)を検討対象用語集として収集することができた。4.調査研究委員会開催日程平成2年2月2日から平成3年11月16日まで 9回委員会開催,平成3年2月21日から平成4年3月4日まで 4回幹事会開催。
著者
宮城 智央
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

外科手術において、立体構造の正確な把握は合併症回避と手術完遂には必須である。通常の医療画像は2次元であり、3次元コンピュータ画像(3DCG)の表示には特別なデータ処理が必要となる。3DCG手術シミュレーションは手術向上に有益であるが、普及している多くのシステムは人体構造や病変部などの形状が変形しない剛性モデルであり、立体視ができず、高価である。本研究では、実際に手術予定の患者データを用いて、シミュレーションの操作者の手と頭部をバーチャルリアリティ(VR)空間へ即時に反映し、立体視可能な手術のためのリアルタイムVR変形性物理シミュレーション・システムを安価に開発し、手術への寄与を評価する。
著者
平瀬 肇 今野 歩
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度に引き続き、マウス大脳皮質のニューロピル(神経網=微小突起の集合体)からのCa2+イメージングを行った。NMF解析法では、アストロサイトと神経細胞の局所ニューロピルシグナルを上手く分離できないことを実感しつつある。そこで、今年度の後半にニューロンには赤色蛍光Ca2+センサーを発現できるAAVベクターを利用した。本課題の目標の一つである「tDCS によるニューロピルの信号変化とその物理メカニズムの検証」をするために、遺伝子改変動物を用いて、光遺伝学的にアストロサイト由来ニューロピルのみに内因性Ca2+上昇を惹起する実験を行った。その結果、麻酔下と無麻酔の状態では異なる神経細胞の活動形式が観測された。今後は実験数を増やし、無麻酔の状態で起こる神経活動の変化のメカニズムを追究する予定である。また、もう一つの目標である「経験依存的なニューロピル反変化とグリア活性による動物の行動様式の変化」に取り組むために、顕微鏡下における恐怖条件付け学習装置の導入を行った。具体的には頭部を固定した状態で、筋電位信号を指標として聴覚刺激によるフットショックの条件付けを行った。試行錯誤が多かったが、漸く二光子イメージングが出来る段階に近づきつつある。さらに、アストロサイトの内因性Ca2+上昇が抑制される2型IP3受容体欠損マウスを用いて海馬脳波を測ったところ、経験依存的にリップル波の振幅と発生頻度が下がることを見出した。アストロサイトのCa2+上昇の後に起こる変化の物質的な面に迫るため、マイクロ電磁波を利用したマウス脳の固定も準備しつつある。昨年度に報告した薬理的に興奮させた状態でのニューロピルのシグナルであるが、思いがけない現象を見出しつつある。これについても2018年度中に論文発表を目指したい。
著者
國分 航士
出版者
九州大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、近代日本において議会政治が定着する過程を、統治機構としての天皇と議会の関係に注目して、明らかにすることを目的とする。そのために、以下の観点から分析を進める。(1)衆議院・貴族院の二院制を採る議会と、「第三院」として作動する枢密院や天皇との関係は、どのように変遷したのか。緊急勅令・緊急財政処分などの運用過程から考察する。(2)憲法に規定された権限を議会がどのように定着させたのか。天皇・内閣・議会の関係、天皇と議会との間の儀礼などとあわせて考察する。(3)議会の持つ国家・国民の代表性・象徴性が、天皇(君主)のそれとどのような関係にあったのか。御料地問題および国民の請願から考察する。
著者
福田 一史
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

FRBRは資源の内容とキャリアの区別を提案したが、その中で著作は属性と関連を精密に記録するための機能を持つ実体として明確化され、目録作成の主要な論点の一つとなった。本研究は、ボーンデジタルであり伝統的図書館資料と異なる特性を有する資料であるビデオゲームを対象に、その著作目録の構築・公開を目指す。そのために、以下を展開する。1) 事例調査とインタビュー調査を通じて、内容を記述する書誌的実体の定義・解釈・記述単位などの情報要求を抽出する。2) サンプルの分析を通じて、著作目録に必要な属性や関連など仕様を確立する。3) 著作目録を公開し、目録に対するユーザ評価の収集ならびに有効性検証を実施する。
著者
五神 真 吉岡 孝高
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

A. 光励起半導体励起子・電子正孔系における量子凝縮相の解明と制御(A-1) 準熱平衡状態励起子系の安定化された自発的BECの観測:希釈冷凍機温度において歪トラップした亜酸化銅1sパラ励起子の中赤外誘導吸収イメージングを実現し、更に励起子発光の精密分光を両立する実験系を組み立てた。精密分光による励起子温度評価に基づき、励起子温度を100mK台に保ちながらBEC転移密度を超える高密度領域での吸収イメージングを実行した。更に励起子発光の時間分解実験も進め、注目している低温高密度下の特異な発光の振る舞いに関わる重要な知見が得られている。(A-2) 非平衡励起子系の量子縮退:一般化されたドルーデ応答モデルに基づく理論計算から、ダイヤモンド高密度電子正孔系における誘電応答の緩和レートの周波数依存性を明らかにした。緩和レートは低周波側で減少し、極低温で発現が予測されている電子正孔BCS状態のギャップ周波数においては、ギャップエネルギーのレート尺度より十分に小さくなることを明らかにした。この結果は、フェルミ縮退した電子正孔系における量子多体現象を誘電応答測定で探索可能であることを示唆している。B. レーザー角度分解光電子分光による光励起状態のの新検出手法開拓光電子分光測定において、試料まわりの物質に起因した静電場を低減することで低い運動エネルギーを持つ光電子の放出角度をより正確に把握することに成功した。試料としてトポロジカル絶縁体Bi2Se3を用い、ピコ秒モード同期Ti:Sレーザーの四倍波を入射して角度分解光電子分光を行った。次に、同レーザーの第二高調波を半導体GaSeに照射して光励起し、直後に光電子放出用の第四高調波を照射することで、GaSeのバンド間励起に由来した伝導帯の電子分布を低温下9Kにおいて観察することに成功した。このとき連続光を試料に照射し続けることで試料の帯電を抑制した。
著者
倉田 敬子 松林 麻実子 上田 修一 山地 一禎 三根 慎二 宮田 洋輔
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

研究プロセスがデジタル化し,研究成果とデータの共有を目指すオープンサイエンスの時代に,学術コミュニケーションの将来を考えることは重要な課題である。本研究は,①オープンサイエンスで提案されてきた政策等の分析,②学術雑誌論文と研究データのオープン化のマクロな動向の把握,③個別の研究プロセスと研究データのミクロな調査の3つのアプローチから,学術コミュニケーション全体の生態系を具体的な根拠に基づき明らかにする。
著者
縣 信秀
出版者
常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

超音波刺激は、筋損傷からの回復を促進させることが明らかになりつつある。しかし筋損傷からの回復促進の治療戦略を設計するためには、超音波刺激による筋損傷からの回復促進効果と、そのメカニズムを明らかにする必要がある。そこで本研究の目的は、超音波刺激による筋損傷からの回復促進に、各細胞間のCross-Talkがどのように関与しているのかを明らかにすることとした。本研究の結果から、マウス培養筋衛星細胞を用いて、超音波刺激によって筋衛星細胞の増殖が促進することを明らかにした。また、刺激強度依存的に筋衛星細胞の増殖が促進することも明らかになった。
著者
山本 正治 渡辺 厳一 遠藤 和男
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

新潟県に多発する胆道癌(特に胆嚢癌)の原因として「複合要因説」を仮説にとり研究を進めてきた。即ち、「胆石症や胆嚢炎等を有する者がハイリスク・グループを形成し、彼らが地域特有の環境因子に暴露されることで胆嚢癌が発生する」という仮説である。地域特有の環境因子としては、種々因子を検討したなかで、ジフェニルエーテル系農薬(特にクロルニトロフェン、CNP)が残っている。この度の研究は、この仮説検証を動物モデルを用いて行うことにある。実験には雌ゴールデン・ハムスターを用い、次の5群を設定した。1群は胆石(ビーズ・ワックス)埋め込み手術+普通食、2群は胆石埋め込み手術+CNP(5000ppm)含有食、3群は発癌物質3-メチルコラントレン(3-MC)を含む胆石+普通食、4群は3-MC入り胆石+CNP、5群は胆嚢切開・縫合+普通食である。動物数はそれぞれ20匹とした。胆石埋め込み手術は、動物(9〜10週令)搬入1週間後に行い、その後2週間回復を待ち、投与実験を開始した。実験期間は、第22週までとした。なお、2群のCNP投与は第17週までとし、以後は普通食に切り換えた。CNP投与群(2群と4群)の体重増加は対照群(5群)及びCNP非投与群(1群と3群)に比べ、抑制されていたが、第17週の中止後は、1群、2群と5群で差を認めなかった。摂餌量も同様の傾向を示した。実験期間中の死亡例は、1群及び2群で、72週間中それぞれ3例(15.0%)であった。また、対照群(5群)でも3例(15.0%)であった。3群と4群で、17週間中死亡例はなかった。1群では肝臓の腫瘍1例、2群で肝臓の腫瘍を2例認めた。また、2群の胆嚢の緑色拡大を認めている。病理組織学的検索は、現在実施中である。3群と4群との間には、格別の差はなかった。