著者
田中 俊次 永島 俊夫 黒瀧 秀久 小林 道明 堀内 淳一 高井 寛 小川 昭一郎 小松 輝行
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究プロジェクトは、「環オホーツク海圏交流」を促進するため、環境科学的学術交流に的を絞り、持続的可能な経済発展交流の研究を追求することを目的とした。研究計画及び研究成果については研究分担者が所属する5大学の、1995年以来の各種の地域とのコンソーシアム開催事業によって、その課題を絞り込んで環境科学研究のテーマを設定してきた。そこで具体的な対象地域を設定し、社会科学的アプローチ、人文科学的アプローチ、自然科学的アプローチといった多種多様の切り口から分析を行ってきた。主な研究実績は下記の通りである。1.分析視点を深めるとともに、調査研究方法の検討会議を開催した。具体的には、これまでに先駆的に海圏交流研究を行なっている研究者に講演して頂き、研究手法・論理展開を参考としつつ、国際的見地からの環境問題への視座や、伝統的地域圏交流の再確立、広域圏交流へむけた新たな研究の視座を盛り込む研究手法を検討した。2.環オホーツク海圏における環境科学研究に関する基礎資料及び比較のための環日本海圏域における基礎資料の収集及び国内調査を実施した。3.「環オホーツク海圏広域交流」形成の課題を明らかにするため、北東アジア(モンゴル、ロシア・サハリン、中国東北部)を対象に、環オホーツク海圏における農畜産業の展開や環境汚染の状況、国際交流に向けての取り組みなどについて、各国の関係機関を中心に聞き取り調査を実施し、また関係機関からの提供資料や広域交流関連の文献などを用いながら、研究を深化させてきた。本研究の主な研究実績としては、「越境広域経営」や「環境ガバナンス論」を土台に、環オホーツク海圏の持続的な資源の利用と管理のための環境ガバナンスの構築を目指して、学術的なグランドデザイン「(仮称)OSERIEG(The Okhotsk Sea Rim for Environmental Governance)ビジョン」のモデルを検討し、「環オホーツク海圏」の位置づけを明らかにしたことがあげられる。
著者
田中 顕悟
出版者
鹿児島国際大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、アメリカにおけるMilitary Social Workの実践状況ならびに専門職(Military Social Worker)の養成課程の把握をすすめ、我が国におけるその活用について検討を進めることにある。とりわけ、Deploymentに関わる支援と、Military Cultureに着目した。その結果、この2点については、Militaryに関係する人々への支援過程においては必要不可欠な視点・知識であることが明らかになるとともに、それらは、我が国において関連する支援活動に従事する専門職においても、その支援活動の過程において活用が可能であることが明らかとなった。
著者
小澤 周二 池松 和哉 那谷 雅之 池村 真弓
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

アルコールの長期に渡る多量摂取においては致死的不整脈との関連が示唆されており、そのメカニズムには細胞内シグナル伝達経路の関与が考えられているが明らかにはなっていない。そこで、慢性アルコール投与マウスモデルの心筋細胞における遺伝子発現プロフィールをマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析を行った。その結果、急性期及び離脱期それぞれで異なる遺伝子プロフィールを示し、急性期にはJAK/STAT経路の活性化やサイトカインを介した炎症反応が生じ、離脱期にはSTAT3及びSTAT6の活性が持続し、細胞増殖すなわちリモデリングが生じている可能性が示唆された。
著者
神田 孝治 遠藤 英樹 須藤 廣 松本 健太郎 吉田 道代 高岡 文章 藤巻 正己 藤木 庸介 濱田 琢司 鈴木 涼太郎 山口 誠 橋本 和也
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,近年におけるツーリズム・モビリティの新展開に注目し,それを特定の地域に焦点をあてるなかで検討するものである。その際に,「科学技術の進展とツーリズム」,「ダークツーリズム」,「サブカルチャーとツーリズム」,「女性とツーリズム」,「アートとツーリズム」,「文化/歴史遺産とツーリズム」という6つのテーマを設定している。本年度は初年度であったが,各テーマに関連するいくつもの成果が生み出された。特に,「科学技術の進展とツーリズム」に関わるものは,神田孝治・遠藤英樹・松本健太郎編『ポケモンGOからの問い─拡張される世界のリアリティ』(新曜社, 2018)を筆頭に,多数発表されている。本研究課題の成果が,モバイルメディアがもたらす新しいツーリズムに関する研究を牽引するものとなっていると考える。また,研究会も積極的かつ有益な形で実施された。第1回研究会は,観光学術学会や人文地理学会地理思想研究部会と共催するなかで,Durham UniversityのMike Crang氏による“Traveling people, things and data: borders and global flows”と題した講演とそれを受けたシンポジウム「ツーリズム,モビリティ,セキュリティ」を実現した。第2回研究会は,観光学術学会との共催によるシンポジウム「おみやげは越えていく―オーセンティシティ・ローカリティ・コモディティ」と,和歌山大学・国際観光学研究センターのAdam Doering 氏による“Mobilities for Tourism Studies and “beyond”: A Polemic”と題した講演会を実現した。こうした取り組みが,モビリティに注目した先端的な観光研究の知を,広く関連する研究者に提供する役割を果たしたと考える。
著者
山田 禮司 永石 隆二 北辻 章浩 籏野 嘉彦 熊谷 友多
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

酸化物や金属を添加した水溶液に放射線を照射することで誘起される化学反応に関する実験研究を行い、光触媒反応が困難な広いバンドギャップ(5-10eV)をもつアルミナ、ジルコニア等の酸化物を硫酸水溶液に添加し、0.4モル付近の最適濃度で、高い水素生成反応収率や金属イオンの還元収率を実現することができた。放射線触媒反応機構に関して、酸化物添加と金属添加での水素生成反応の差異や表面反応等に関する知見を得た。
著者
奥村 直毅
出版者
京都府立医科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究は、角膜移植後の患者に対してRhoキナーゼ阻害剤の点眼投与により角膜移植後の長期成績を改善させる新規薬物療法、またフックス角膜ジストロフィなど角膜内皮のアポトーシスを原因とする角膜内皮疾患に対して、アポトーシス、細胞死を制御することによる角膜移植によらない新規治療法の開発を目標として行った。角膜内皮のアポトーシス関連分子へのROCKシグナルの影響についてウエスタンブロッティング法などにより解析を行った。現在も検討を継続中であるが、従来十分明らかにされていない角膜内皮のアポトーシスシグナルの解明は新規治療法、予防法の開発につながると考える。さらにマウスを用いた角膜移植モデルにおいてRhoキナーゼ阻害剤点眼の影響を検討して、角膜移植後に特記するべき重篤な副作用を認めないことを確認した。また、共同研究を行ったシアトルアイバンクより研究用角膜の提供を受けて、1ヶ月間の器官培養を行いRhoキナーゼ阻害剤の影響を検討した。この検討により、ヒト角膜を用いた器官培養において、Rhoキナーゼ阻害剤がアポトーシス、細胞死を抑制することを、免疫組織学的染色および電子顕微鏡による解析により明らかにした。このことは、従来培養細胞において我々が確認したRhoキナーゼ阻害剤がアポトーシス、細胞死の抑制作用がヒト組織においても有用であることを初めて示したものであり臨床応用化の観点から重要な知見である。この結果を受けて現在、角膜移植後の患者へ角膜移植後の長期成績を改善させるためにRhoキナーゼ阻害剤の点眼の投与を行う、新規治療法の臨床研究の準備を進めている。
著者
内藤 幸一郎 城本 啓介
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では記号力学系理論とp-進数論に現れる非アルキメデス的性質等の特異性を利用した複雑性解析研究とその耐量子計算機暗号理論への応用を主目的とする。H27年度からの継続研究では、記号力学的に定義されるp-進数を振動数として持つ準周期的力学系の再帰的挙動解析を行い、軌道の予測不能性が生じるための十分条件を導いた。この研究結果は学術論文誌J.Nonlinear and Convex Anal.に掲載発表された。p-進多重近似格子に現れる最短ベクトル問題の計算困難性を利用した格子暗号系の提案とLLLアルゴリズムを用いたその安全性に関わる数値実験結果を学術論文誌Linear and Nonlinear Analysisに3編発表した。さらに、p-進馬蹄写像で定義される記号力学系のカオス性を証明し、この応用として擬似乱数生成器を提案し、生成されたp-進擬似乱数列の乱数度をランダム行列理論検定により評価した。この研究成果については国際学会NACA2017で基調講演発表を行い、同国際会議論文誌に掲載予定である。量子計算機の実現が予想される事例が頻繁に報告されている現在、特にランダム性を取り入れ安全性をより高めた暗号研究が早急に必要であるため、p-進擬似乱数生成器の提案は耐量子計算機暗号研究における重要な基礎研究成果である。分担者は暗号理論に関連する符号理論分野における研究成果を、国際学術論文誌Designs, Codes and Cryptographyに論文発表を行い、国際学会 5th International Combinatorics Conferenceで講演発表を行った。さらに、Melbourne 大学でのDiscrete Structures and Algorithms Seminarなど、国内外で複数の研究集会で最新の研究成果の講演発表を行っている。
著者
石黒 章夫 青沼 仁志 松坂 義哉 加納 剛史 坂本 一寛
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

現在のロボットは,設計時に想定した稼働環境や使用目的に極度に最適化されているため,その振る舞いは著しく単調かつ画一的であり,またそれゆえに環境や身体の変化に対して脆弱である.一方で生物は,身体が持つ膨大な自由度の間に時空間的秩序を生み出すことで,適応的かつ多様な振る舞いを自己組織的に創り出している.本研究では,特異な対称性を持ち,自切する動物であるクモヒトデに着目し,状況依存的に多様かつレジリアントな振る舞いを発現する機序の解明を目的とした.その結果,比較的シンプルな自律分散制御則によって優れた適応性と耐故障性を有する振る舞いを再現できることを実験的に明らかにした.
著者
川本 重雄 福田 美穂 福田 美穂 CHO Jaemo PHAN Thanh Hai
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の宮殿建築の特徴を、そこで開かれた儀式の歴史的変化やアジアの宮殿儀式との比較により解明することを目的として研究を実施した。日本の宮殿儀式が儀式の性格に応じて、大極殿院、豊楽院、武徳殿、内裏、神泉苑を使い分けていたことにまず特徴があること、一方で内裏にそうした儀式が収斂していく傾向も早くからあり、それが内裏正殿である紫宸殿の空間や清凉殿の使い方に強い影響を与えていることなどが明らかにできた。また、古代の宮殿儀式を見ると、中国の影響はあるものの、韓国王朝やベトナムのグェン王朝とは異なり、日本的な要素が実はかなり強いことが確認できた。
著者
河村 一樹 立田 ルミ 喜多 一
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

情報プレースメントテスト(以下,IPTと略す)で必要となる知識・スキル体系について,10エリアすべてにおいて策定した。これによって,プレースメントテストの出題範囲とレベル度合を明らかにすることとした。その際には,情報処理学会一般情報教育委員会が策定したGEBOKとの関連についても考慮した。IPTを実施する際に,即本番とするのではなく,あらかじめ予備という形で進める(プレIPT)ことになった。そこで,プレIPTとして,エリア毎に10問作問し相互にレビューを行った。プレIPTのプラットホームとしては,Moodle,WebClass,BlackboardといったCMS,あるいは,大学独自のアンケートシステムとした。2017年4月の新学期に,科研費メンバーの本務校あるいは非常勤大学において,プレIPTを実施した。プレIPTを実施後,収集したデータをもとに大学毎に分析を行い,学会等で講演発表を行った。また,顕著となったいくつかの問題をクリアーするとともに,IPTの作問(各エリア20問ずつ)を行い,メンバーによるレビューを実施した。その上で,日経BP社により,IPTをシステム化(情報プレースメントテストシステム:IPTS)した。システム化においては,日経BP社が独自に開発したクラウドシステムあるいはMoodleのコースとして実装した。具体的には,10エリアから各5問(計50問)をランダムに抽出した上で,シャッフルして出題することとした。こうして,2018年度4月の新学期以降に,IPTを各大学で実施するための準備を終えた。
著者
木村 健治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

日本における西洋古典の受容の中で、ギリシア・ローマ演劇の上演を史的に辿るのが本研究の目的であった。その結果判明したことは以下の事柄である。1.上演には優れた翻訳が必要であり、翻訳には--特にギリシア・ローマの古典の翻訳には--学識が必要であるということ。2.西洋古典の受容は、16世紀のキリスト教伝来とともに始まるが、間に鎖国があり、本格的には1868年の明治時代以降であるということ。3.本格的な上演には、京大、東大に西洋古典学科が設立され、日本西洋古典学会が設立されるというような制度的な準備も必要であったということ。4.この結果、本格的な上演がなされたのは、1960年以降ということになるということ。日本における上演の特徴は、上演がバランスよくなされてきたとはとても言えない状況で、そこには日本的な受容の仕方があった。1.日本における古典学の研究がドイツのそれの影響を強く受けて発展してきているので、ドイツの学風を色濃くもっているということ2.ギリシア偏愛、ローマ軽視ということ。古典学研究のこのような傾向を反映して、日本におけるギリシア:ローマ演劇の上演は圧倒的にギリシア演劇が多いということ。3.従って、上演回数の多い順から記すと、ギリシア悲劇、ギリシア喜劇、ローマ悲劇、ローマ喜劇という順になる。ローマ喜劇は今回の調査の限りにおいて、日本では一度も上演されたことがないジャンルであると結論することができる。以上の研究の成果を報告書にまとめ、さらに、世界に発信すべく、英語版も付して、刊行した。
著者
前田 しほ 高山 陽子 喜多 恵美子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題は、北東アジア地域において、近代化モデルとしての社会主義が文化としていかに発達したのかという観点から、DPRKに注目し、①公的プロパガンダの観察・資料収集・文化コード解読、②ソ連・中国からの近代化モデルの輸入と現地化の調査・分析・検討、③日本から朝鮮半島への社会主義イデオロギー・芸術流入のプロセスの調査・分析・検討、④他の社会主義国家との比較・分析の4点を主要課題とする。初年度である平成29年度は、研究基盤の整備と構築と位置づけた。研究分担者のほか、研究協力者を複数加え、旧ソ連・中国・朝鮮半島と研究対象国や専門分野が異なる研究者がチームを組むため、共同研究としての体制を整える必要があり、複数回の研究打ち合わせと全メンバー参加の研究会を二回行った。6月の第一回研究会(会場:大谷大学)では、各自の研究紹介を行い、問題意識の共有を図り、今後の研究方針を検討した。本研究課題においては、海外調査が重要であるため、初年度は調査機材をそろえることに重点をおき、予備調査として、ロシア、ウクライナ、ドイツ、中国、韓国、ベトナムにメンバーを派遣した。別途、メンバー三名が私費あるいは他費でDPRKに渡航し、調査を行った。またDPRKに関する資料を豊富に所蔵する朝鮮大学校においても、資料収集と調査を行った。これら各調査では現地の研究状況の把握に努め、現地協力者・協力研究機関確保の可能性を探った。2月の第二回研究会は、朝鮮大学校朝鮮問題研究センター・朝鮮文化研究室との共催で研究発表・調査報告を行うものとなった。朝鮮大学校からは会場提供のほか、発表者・司会者・討論者がでての共同研究会となり、聴衆として参加した教員・学生を交えて、活発な議論が行われた。また予備調査の報告を受けて、二年目以降の本格的な調査の方向性・方針を固めた。総じて、初年度としては良好なスタートを切ったと考えている。
著者
河原 康雄
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究課題では4年間にわたりDedekind圏における情報意味論と関係型プログラミングおよびその基礎となる関係理論の研究を行った。その成果の概要としては、(1)関係の基数理論の端緒を開いた。(2)完備束における単調関数は最小・最大不動点をもつというTarskiの定理(1955年)を、関係理論を駆使してDedekind圏において証明した。(3)量子計算を表す3近傍局所遷移規則をもつ古典的な有限セルオートマトンを、固定境界条件、半固定境界条件、自由境界条件、巡回境界条件について、完全に決定した。(4)Hoareに始まるプログラムの意味としての関係のdemonic合成とdemonic順序についての概念を、Dedekind圏における関係理論から検証した。ことにまとめられる。この研究費補助金により九州大学において恒常的に実施した研究成果の発表、特に、国際的研究集会International Conference on Relational Methods in Computer Science/Applications of Kleene Algebrasでの研究発表に加え、プログラム委員としての役目を果たすことができた。ここに関係者のすべての皆様に謝意を表します。
著者
川島 京子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

エリアナ・パヴロバが日本で展開したパヴロバ・バレエスクールの実態研究に続き、本年度は、彼女によってもたらされた日本のバレエを、世界的なバレエ伝播の中で捉えるべく考察してきた。彼女の来日前経歴については、日本、グルジア、ウクライナ、ロシアの各関係機関に協力を要請し、調査を続けている。現在までにエリアナ・パヴロバの家系に関する資料は確認できたが、彼女が師事した教師については未だ確証を得ていない。彼女のロシアでの芸歴調査は、日本バレエの出自を知ることでもある為、本研究において引き続き最重要課題としてゆきたい。本年度の研究発表としては、彼女の日本での22年間に及ぶ活動のうち、彼女がまだバレエスクールを設立していない来日当初の活動(1919年亡命来目〜1924年関東大震災によって離日)に注目する事によって、上記テーマについて考察した。来日背景、活動内容、日本側のバレエ受容という観点から、彼女によって日本に移植されたバレエがロシア革命によって世界中に伝播したロシアバレエの一片であり、外国人居留地から生まれた西洋文化の一つに位置づけることが出来る。しかし、当時日本に於いて、バレエが学校教育からは除外され、逆に文化人を対象に女性の身体の西洋化の目的でもてはやされた中で、エリアナのバレエ活動は文化人・資産家の子女を対象にして生涯プライベートで行われることとなった。さらに、それが日本の伝統芸能の家元制度に自然に組み込まれる事によって、現在の日本バレエの特殊性を生む結果ともなったといえる。以上については、年度末に舞踊学会誌に投稿すべく準備中である。また、本研究において、エリアナ・パヴロバに関する第一次資料を収集してきた。これらを直弟子及び関係者からの証言と照合し、現在、100近くの公演の詳細と日本滞在中の足取りの大部分が明らかになった。収集した資料については、資料集としての発表を準備中である。
著者
狭間 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ヴァリニャーノの『日本史』(1601年)は、彼が三度来日しておこなった日本宗教研究の集大成であるとともに、イエズス会による日本布教活動の蓄積された成果でもある。本研究では、同書が(1)高名なフロイスの『日本史』と比べて、日本人の宗教的心性を信徒の霊的救済に見たこと、(2)ルター主義と一向宗(=浄土真宗)の類似性を、信仰者の信心内容における同質性に見ていることを考察、解明した。
著者
青木 滋之 吉田 茂生 伊勢田 哲治 戸田山 和久 熊澤 峰夫 渡邊 誠一郎 矢島 道子
出版者
会津大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

これまでの科学哲学ではあまり中心的に扱われてこなかった、地球惑星科学の歴史・哲学に関する基盤研究を行った。第一班:地球惑星科学の方法論、第二班:地球惑星科学の科学史、第三班:科学の科学、という3つの班による研究成果は、Nagoya Journal of Philosophyの10号,11号に論文集として公刊された。
著者
中野 晃一
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1993年以降の政党政治の変動が地方分権改革の政治過程にどのような影響を与えたのかを探る観点から、以前の改革過程に比して、政策結果・政策過程・アクター・リソースに関して変化が見られたか否かに焦点を絞って研究を進めてきたが、平成14年度までに調査そのものは概ね完了し、平成15年度では、主として調査結果を英文論文の第としてまとめることに意を注いだ。研究計画の順調な進捗を受けて、平成16年度には、論文の最終的な国際学術誌・論集等への投稿(ないし寄稿)・出版を目的とした。そのため、補足的調査をし、論文の更なる推敲を行い最終稿をまとめることが本年度の研究活動の中心となった。従って、研究経費としては、研究補助・資料整理のための謝金、論文執筆のための図書・ソフトウェア・コンピュータ関連消耗品・文具等の物品費、地方分権改革関連資料についての補足調査を目的とした宮城県仙台市への国内旅費が主たるものとなった。本研究計画を締めくくる研究成果の発表としては、1990年代の日本における政党政治の変動(政権交代および連立政権)が、政策過程と政策そのものの変化に影響を与えた事例として、日本社会党と総評の役割に注目して、地方分権改革を(情報公開と立法府の行政府チェック機能強化とともに)考察した英文論文「‘Democratic Government' and the Left」をRikki Kersten・David Williams(編)、The Left in Japanese politics(Routledgecurzon/Leiden Series on Modern East Asian Politics & History)(Routledge,2005)に出版した。
著者
竹谷 純一 宇野 真由美 山口 茂弘
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

有機半導体の単結晶フィルムを基板に「貼り合わせる」独自の方法を見出し、これまでにない高性能の有機トランジスタを実現した。また、本デバイスのホール効果測定の手法を開発して、界面でのキャリアの伝導の機構がバンド伝導的であることを明らかにした。さらに、液相から単結晶を広い面積にわたって基板に展開する溶液プロセスを開発し、本研究の桁違いに高い性能の有機単結晶トランジスタを実用化する方策を示した。
著者
多田 英俊
出版者
京都府立嵯峨野高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

1、研究目的鴻池幸武は昭和十年代に活躍した演劇評論家である。幼少より父善右衛門の趣味でもあった浄瑠璃義太夫節に親しみ、長じては人形浄瑠璃文楽および歌舞伎の研究に着手し、私家版として二つの芸談『吉田栄三自伝』『道八芸談』を著した。とはいえ、卅一歳の若さで戦没したこともあり、研究の具体的内容や方向性等については整理されないまま現在に至っている。したがって、論理的思考と音楽的感性を兼ね備えた鴻池の論考を検討することにより、戦後の豊竹山城少掾(二世豊竹古靭太夫)に代表されるいわゆる義太夫節の近代化というものの本質と、その延長線上にある現在の人形浄瑠璃文楽を、新たな視点からとらえ直すことが可能となる。2、研究方法今回はその第一段階として、鴻池幸武が残した評論を分析しその中核となる観点を体系的に把握することを主眼とした。鴻池の評論は、「浄瑠璃雑誌」を中心として、武智鉄二主宰の同人誌「劇評」に寄稿されたものがほとんどで、その他浄瑠璃を中心とした演劇批評誌に散見された。収集した資料は、検索が容易に進められるよう、まずパソコンを利用してデジタル化した。その上で、各評論を検討してその主題を分類し整理した。評論により取り上げられた音源については、SPレコードからデジタル化されたものを入手し、音声処理ソフトを導入してその雑音等を除去した上で、丸本および五行本と照らし合わせながら精密な聞き分けを行った。3、研究成果鴻池幸武の主張を端的に表現すれば、「風」を体現できない浄瑠璃はもはや義太夫節ではないのであり、体現できたもののみが芸術的価値を有する、というものであった。そして、現状においてそれが可能なのは、二世豊竹古靱太夫であると結論付けられている。また、「風」の伝承にあって最も重要な役割を果たしたのは、三味線の名人二世豊沢団平と彼が中心となった彦六座であり、それは現行文楽座における技巧の優劣や番付上の位置とはまったく無関係とする。文楽座の櫓下であった古靭は、彼を育てた相三味線三世鶴沢清六が、団平によって鍛えられた二世竹本大隅太夫の相三味線を務めていたことから、「風」の正統的後継者として芸術家たる評価を受けるに至った。このように、戦後の近代化の象徴は、明治期にその原形が見出されたのである。