著者
若菜 章 尾崎 行生 酒井 かおり
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

自家不和合性カンキツに蕾自家受粉を行って遺伝子型がホモである8種類の実生群(S1S1, S2S2,-, S11S11)を作出し,これらの花粉を多数のカンキツに授粉して, S1からS11までの不和合性対立遺伝子を持つ品種群を明らかにした.ハッサク(S4S5)やウンシュウミカン(SfS4)がS4対立遺伝子を持つクネンボの雑種であることが分かった.交配後1年で幼樹開花した実生の不和合性と和合性を基に, S遺伝子と連鎖するDNAマーカーを決定したが, S遺伝子のクローニングはできなかった.
著者
渋井 進
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

大学評価における大量のデータ・指標の効率的な利用を目的とし、評価者を支援するシステム構築へ向けた検討を行った。過去の評価書のテキストデータを分析する事により、教育評価において、いくつかの重要な指標が明らかとなった。また、直感とデータを一致させる事で認知的な負荷を軽減する事を目的として、データ表示法としての顔グラフに着目し、文献調査や心理実験により、その定義法についての検討を行った。
著者
長尾 桂子 身内 賢太朗 中 竜大 矢ケ部 遼太
出版者
新居浜工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

宇宙から到来する暗黒物質の方向を検出できる検出実験では、方向情報を利用して暗黒物質の様々な性質を調べることができると考えられる。暗黒物質の速度分布は先行研究から非等方的な成分を含むことが示唆されており、この検証には方向を検出できる検出実験が適している。本研究では、方向情報を利用して速度分布の非等方性を検証するのに必要なイベント数や検出器のエネルギーしきい値等の条件を、モンテカルロシミュレーションを利用して明らかにした。
著者
宮原 ひろ子 門叶 冬樹 堀内 一穂 横山 祐典
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

マウンダー極小期(西暦1645-1715年の黒点消失期)において発生していた約28年に一度の宇宙線の1年スケールの異常増加の正確な年代を決定するため、山形大学高感度加速器質量分析センターに導入された加速器質量分析計を用いて、樹木年輪中の炭素14の測定精度を向上させるための基礎実験を行った。多重測定によって加速器質量分析計の安定性の検証と測定精度向上のためのメソッド開発を行い、従来の1/4以下の測定誤差を達成することに成功した。
著者
森 紀之
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アリルイソチオシアネート(AITC)の投与によるTRP受容体を介した糖質エネルギー代謝変化へのインスリン分泌機構の関与について検討した。AITCはTRPV1を介して血中インスリン濃度を上昇させること、マウスの膵臓より単離した膵島に直接作用しインスリン分泌を促進しうること、さらにAITC投与による糖質エネルギー代謝変化および血中インスリン濃度の上昇にはアドレナリンβ受容体を介した交感神経系が関与することを示した。
著者
鈴木 努
出版者
東北学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

この研究では福島第一原発事故後にいわき市在住者らによって設立された地域SNS上で行われた放射能汚染のリスクについてのコミュニケーションの可視化を行った。その結果、科学的な知識をもつ人は特定の分野ではリーダーシップを発揮するが、人々を媒介する役割は果たしていなかった。リスクコミュニケーションにおいては共感的態度がより重要であることが示唆された。人々の不安に影響を与える要因を分析するためのウェブ調査では、情報収集の活発さやリスク認知が放射線の影響に対する不安を高めることが分かった。科学技術への関心や放射線に関する知識は不安を低減する可能性はあるが一貫した結果は得られなかった。
著者
高西 淳夫
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,人間とロボットの社会的インタラクション,特にロボットから人間の心理への積極的な働きかけの実現を目的とした研究を行った.研究期間を通じ,等身大2足ヒューマノイドのハードウェアとソフトウェアを開発し,センサ入力に対し大げさに反応を返す視覚刺激を通して人間に面白い印象を与えるロボットを実現した.さらに,触覚刺激によって人間の笑いを誘発するくすぐりロボット,人間の笑い状態を定量取得するセンサを開発した.
著者
守屋 文夫
出版者
高知医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

尿中濫用薬物の簡易スクリーニングキットであるトライエージ(フェンシクリジン、ベンゾジアゼピン類、コカイン代謝物、アンフェタミン類、オピエイトおよびバルビツール酸類を同時に検出可能)を溶血液にも応用可能な試料の前処理法を考案した。本前処理法は、血液1mlにスルフォサリチル酸50mgを加えて除蛋白後、上清に酢酸アンモニウム25mgを加えて中和するといった極めて簡便かつ迅速な方法であり、僅か5〜10分で透明な除蛋白液を得ることができる。本前処理法を応用したトライエージスクリーニング法によるフェンシクリジン、ジアゼパム、ベンゾイルエクゴニン、メタンフェタミン、モルフィン、フェノバルビタールおよびセコバルビタールの最小検出限界は、それぞれ50ng/ml、900ng/ml、600ng/ml、1,000ng/ml、600ng/ml、900ng/mlおよび900ng/mlであり、中毒レベルのそれら薬物を検出するに十分な感度を有していた。但し11-カルボキシ-テトラヒドロカンナビノールの場合、除蛋白処理操作中に薬物が蛋白と共に共沈してしまうため、十分な検出感度を得ることはできなかった。腐敗試料では、細菌の代謝により産生されるフェネチルアミン等の腐敗アミンによりアンフェタミン類偽陽性となるため、結果の判定に際し注意が必要であった。なおフェネチルアミン単独では、5,000ng/ml以上の濃度でアンフェタミン類偽陽性となった。本スクリーニング法を法医解剖48例の溶血液および混濁尿に応用した結果、薬物検出感度および特異性にやや問題があるものの、法医学実務上非常に有用であることが確認された。
著者
近藤 悠介 中野 美知子 吉田 諭史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、スマートフォンやパソコンで使用されるようになってきている音声認識技術を利用し、英語学習者のスピーキング能力を自動的に採点するシステムを開発することである。本研究では、設定された状況において適切な発話が求められる課題を用いて英語学習者のスピーキング能力の自動採点を試みた。音声認識技術は外国語の音声の認識において話されている状況や内容によって精度がかなり下がる。本研究で作成した課題のうち、認識の精度が高い課題においては、自動採点システムが算出するスコアは、実際に運用できる精度のものが得られた。
著者
秦 剛平
出版者
多摩美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

紀元後1世紀のユダヤ人著作家フラウィウス・ヨセフス(37/38-100年頃)はその浩瀚な著作、『ユダヤ戦記』全7巻、『ユダヤ古代誌』全20巻、『アピオーンへの反論』全2巻、それに『自伝』をギリシア語で書き残した。英語圏でのヨセフスの著作の英訳は1602年に始まった。本研究では17世紀から19世紀中頃までに刊行された諸訳を収集し、近代語訳に付されている序文や前置き、訳注、論文などに認められる反ユダヤ主義的な言説等を抽出、さらには印刷上の活字媒体やレイアウトなどに認められる反ユダヤ主義的な傾向等を分析し、英語圏におけるキリスト教的反ユダヤ主義の形成にヨセフスの著作の近代語訳がはたした役割を明確にした。
著者
吉本 圭一 亀野 淳 稲永 由紀 塚原 修一 村澤 昌崇 椿 明美 藤墳 智一 江藤 智佐子 酒井 佳世 木村 拓也 志田 秀史 三好 登 川俣 美砂子 飯吉 弘子 濱中 義隆 新谷 康浩 伊藤 一統 松高 政 坂野 慎二 長谷川 祐介 沼口 博 内田 由理子 安部 恵美子 渡辺 達雄 永田 萬享 飯田 直弘 舘 昭 小方 直幸 伊藤 友子 立石 和子 有本 章 赤司 泰義 秋永 雄一 佐藤 弘毅 杉本 和弘 竹熊 尚夫 ジョイス 幸子 吉川 裕美子 菅野 国弘 TEICHER Ulrich LE MOUILLOUR Isabelle SCHOMBURG Harald 石 偉平
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、ユニバーサル化した第三段階教育システムを対象とし、大学型・非大学型の教育プログラム単位での機能的分化と質保証のあり方を探究した。教育の目的・方法・統制の観点で、学術型とキャリア・職業型の教育を実証的に把握した。(1)共同IR型卒業生調査から学修成果の修得と活用、コンピテンシーの必要と修得という2つのベクトルがみられた。(2)非大学型教員調査の結果から機関の職業・地域志向性と個人の研究志向性との葛藤がみられた。(3)WILなどカリキュラム調査から教育高度化と内外ステークホルダー関与の方向性について、分野別の特徴を把握した。(4)国家学位資格枠組(NQF)から日本への示唆が得られた。
著者
安田 浩一
出版者
松本歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

喉頭の感覚や運動に深く関与する上喉頭神経が、呼吸と嚥下運動にどのような役割を担っているかをWistar系ratを用いて検討した。Ratの上喉頭神経は喉頭付近で3枝に分かれる。本研究では、甲状軟骨前縁から喉頭に入る枝をR.Br、輪状甲状筋に分布する枝をM.Br、下咽頭収縮筋を経て甲状腺の背側に至る枝をC.Brとした。HRP神経標識法を用いて、各分枝の運動神経細胞の中枢局在および一次求心線維の中枢投射部位を検索した上で、機能的な解析を行うために、各分枝の中枢側切断端から遠心性神経放電を、末梢側切断端から求心性神経放電を導出した。その結果、R.Brは喉頭粘膜へのairflow刺激に応答する感覚線維を有し、それらの感覚情報は孤束核外側部に収束することが明らかになった。M.Brには感覚線維が含まれないことから輪状甲状筋にはproprioceptorは存在しないと考えられた。また、輪状甲状筋を支配する運動ニューロンは、主に吸息期に活動することが明らかになるとともに、延髄のrostral ventral respiration groupに属することが示唆された。C.Brに支配される下咽頭収縮筋にはon-off typeの応答を示すproprioceptorが存在し、その感覚情報は孤束核外側部に入力することが明らかになった。また、迷走神経背側運動核に小型の、疑核の吻側部には中型の運動ニューロンの細胞体が局在していた。下咽頭収縮筋にはproprioceptorが存在することにより、迷走神経背側運動核の小細胞は筋紡錘などを支配するγ-motoneuronの可能性が示唆された。
著者
高木 征弘
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

金星大気スーパーローテーションの熱潮汐波メカニズムと子午面循環メカニズムの両方に着目した研究を行った結果,雲層高度のスーパーローテーションには両者がともに作動していることを明らかにした。また,これによる金星上層大気の現実的な大気構造の再現に成功し,雲層中で活発な傾圧不安定波が励起されていること,従来「ロスビー波」と呼ばれてきた波はこの傾圧不安定波で説明できること,極域のコールドカラーの成因には熱潮汐波の誘導する子午面循環が重要であることなどの結果を得た。
著者
吉田 千文 山田 雅子 伊藤 隆子 雨宮 有子 亀井 縁
出版者
聖路加国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ソフトシステム方法論に基づくアクションリサーチ(内山2007)を用いて、人々が最期まで望む地域で安心して暮らし続けられるための新しい看護管理学の中核概念を探索し記述した。中核概念は以下の5つ。看護すること:自身や他者を気遣い世話すること。人は皆元来看護する力を有する。地域:人々の重層的関係が存在する複雑な場。元来看護する力が備わる。看護専門職:人々や地域への信頼を基に其々の世界間を行き来でき、状況に合わせて柔軟に役割を変化させて支え続ける存在。専門職連携:目的ではなくより良い実践の結果。地域包括的視点に基づく看護管理:統制ではなく看護力発揮にむけ人々を力づけ共に学習しその仕組みを創ること。
著者
富永 健一
出版者
東京大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

本プロジェクトの目的は、社会調査データに関するデータバンクを作成することによって、データの共同利用を促進することにある。この目的のために、昭和58年度および59年度において、日本における社会調査データの所在・形状・内容等についてのアンケート調査を実施し、その回答に基づいて社会調査データについてのデータベースを作成した。データベースはパーソナル・コンピューターにファイル化することで必要に応じた検索を可能にするとともに、情報の一部を冊子に編集してアンケート調査に回答した研究者の配布した。本年度の作業は、実際に磁気テープ化された社会調査データを収集し、コードブックを作成してデータの共同利用を可能にすると共に、研究メンバーによるそのデータの分析を行うことである。収集されたデータは、研究メンバーの専攻分野とデータの入手可能性に鑑み、社会階層に関する分野に限定されたが、日本(1955年,1965年,1975年),米国(1962年,1973年),英国(1972年),西独(1980年),ポーランド(1972年)と広く国際的に協力を得ることができた。これらのデータはすべて磁気テープ化されており、SPSSによる集計のための基本プログラムが作成され、東大計算機センターをはじめとする日本の主要な計算機センターでの利用が可能になった。またコードブックについては、日本は研究代表者である富永などによってすでに作成されていたが、諸外国のそれは英語ないし独語で書かれていて使いにくいので、邦訳した上で冊子にまとめ、広く日本の研究者にとって利用できるよう作業中である。以上の作業に基づいて、研究メンバーが各国のデータを分担し、時系列的な社会移動のトレンド分析ないし国際的な社会移動パターンの比較分析を行い、その結果を論文化した上で冊子にまとめることによって社会階層研究に貢献すると共に、データバンクの有効利用の可能性を示すべく作業中である。
著者
尾澤 重知 江木 啓訓 森 裕生 網岡 敬之 牛島 健太 吉田 光希
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、大学教育において、効果的なポスター発表方法を学ぶための学習プログラムや、ポスター発表の改善を支援するためのシステムの開発と評価を行った。学習者が制作した学習ポートフォリや、発表中の表情や視線について量的・質的に分析をした結果、本プログラムや提案システムの有用性を明らかにすることができた。これらの知見の中でも、ポスター作成の準備段階で自身の研究の図式化を促すことの効果や、聴衆に対する疑問の投げかけ方が全体の印象を左右することを明らかにした点が本研究の成果である。
著者
鎌倉 稔成 庄司 裕子 渡邉 則生
出版者
中央大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

映像コンテンツに関する評価履歴データに対してパラメトリックな潜在因子モデルを適用することによるレコメンドシステムにおける予測精度の検証と,評価性能の向上化を目指した統計モデルの改良を行った.ここで考えているレコメンドシステムは,評価データに基づいて消費者(ユーザ)に対して商品やサービス(アイテム)を個々に推薦をするというものである.ユーザとアイテム間の関係を確立するために,評価履歴データのようなユーザのアイテムに対する過去の行動情報を分析する手法として潜在因子モデルと近傍モデルの2つが挙げられる.潜在因子モデルがユーザとアイテムの両方を直接プロファイルするのに対し,近傍モデルではユーザとアイテム間の類似性を解析している.本年度は潜在因子モデルに注目し,Ho and Quinn(2008)が提案している潜在因子モデルを利用したパラメトリッグな回帰モデルを基礎としたベイズモデルの方法を利用した.映像コンテンツに関する評価データとして,「キネマ旬報」の評価データおよび米国のDVDレンタル会社Netflixの評価データを用いていた.キネマ旬報における総合評価とモデルによって推定した作品の潜在品質にはほとんど差異なく,その作品の潜在品質は,その作品を評価した評価者間の系統的差異すなわち評価者の評価における特徴(評価基準や品質識別力)をもとに決定されるということが分析結果として得られた.また,評価者の特徴は大きく2つ,多くの評価者がベスト10に選んでいる作品に対して,高い評価を与えるという識別力がある平均的な評価傾向の評価者と,多くの評価者がベスト10に選んでいる作品に対しては低い評価を与え,選んでいない作品に対しては評価をするという識別力がない個性的な評価傾向の評価者とに分類できることが判明した.
著者
富田 道男 斉藤 学 春山 洋一 南出 隆久 畑 明美
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度科学研究費補助金では、アルミ鍋からのアルミニウム溶出に及ぼす溶液の影響について調べ、溶出量は酸性溶液で多くなり、酸の種類にも影響されることを明らかにした。2%の酢酸、リンゴ酸、及びクエン酸のそれぞれの溶出量は、100cm^2当たり4.2mgと酢酸が最も多く、リンゴ酸、クエン酸では少なかった。また、酢酸の場合、溶出量は試料温度とともに指数関数的に増えることがわかった。さらに、標準的な食物の調理にアルミ鍋を使用した場合に、鍋から溶出する量も含めて、1人1食分に含まれるアルミニウムの量を調べた。その結果、米飯185g、ポ-クビーンズ163g及び五目豆244gを1食分とした場合、3.4mgのアルミニウムを摂取することになることがわかった。また、食品原材料の中には、鶏の手羽肉のように、100g当たり1.3mgものアルミニウムを含んでいるものがあることも明らかになった。このことを踏まえて、平成8年度科学研究費補助金では、食物の他にも、日常の食物によく使用される食品に含まれるアルミニウムの量の測定に重点をおいた。食品30種について測定した100g当たりのアルミニウム含量を畜肉、魚類、農産物それぞれに分けて平均すると、畜肉の平均アルミニウム含量は2.2mg、魚類では2.4mg、農産物では、葉菜類の平均含量が5.3mgと最も多く、次いで大豆の4.5mg、果菜類0.93mg、根茎菜類0.63mgであった。
著者
冨士 薫 武田 節夫 田中 圭
出版者
京都大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

イチイ科植物から単離されるタキソ-ルは乳癌、卵巣癌等に対して強い抗腫瘍活性を持つことと作用機序の特異性の両面から今日最も注目されている天然由来の抗癌剤の一つで、1990年代の抗癌剤と称されている。本研究では新規タキソ-ル類似構造(タキソイド)を有する抗癌活性物質の開発を目的とし、各種中国産イチイ科植物につき成分研究を行ない、新骨格を持つリ-ド化合物の発見と活性物質への化学変換が可能なタキソイドの検索を行なった。Taxus chinensis, Taxus Yunnansis並びにTaxus chinensis ver. maireiからそれぞれタキソ-ルを含む既知ジテルペン16種と共に、20種以上の新ジテルペン化合物の単離に成功し、そのうち16種の新化合物の立体をも含めた構造解明に成功した。この精密構造解明には、2次元核磁気共鳴法が効果的で特に遠隔^<13>C-^1H COSY法(ROESY)により各種の置換基の結合位置を決定することができた。これらの新ジテルペンは従来型のタキソイド4種、6/8/6のタキソイド転位体といえる5/7/6系新骨格ジテルペン12種であった。後者の型のジテルペノイドの大部分は溶液中で室温下数種の立体配座の混合物として存在し、それらの詳細な溶液中での立体配座を明かにした。尚、その存在比はテルペンのB及びC環上の置換基の有無、種類、位置により種々変化する。新化合物のtubulinに対する活性については残念ながら現在のところタキソ-ルに匹敵する活性は認められていない。抗癌活性物質開発のための化学変換に必要な上記5/7/6型を含む化合物の量的確保と、それらへの抗癌活性に必須とされるC13位側鎖の導入、並びに活性試験を行なう予定である。また、活性配座解析と計算化学データに基づく人工設計タキソ-ル系抗癌剤の開発については現在なお進行中であり、今後継続していく予定である。