著者
佐藤 周之 上野 和広 長谷川 雄基 珠玖 隆行
出版者
高知大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-02-07

本研究課題は,ベトナム社会主義共和国内における農業水利施設のコンクリートを対象とし、品質評価ならびに農業水利施設の機能不全の原因究明を行うとともに,材料学的な見地から最適な施工・維持管理手法の提案を行うものである。本研究の遂行には、ベトナムにおける現地調査が不可欠である。そのため、2019年度中に原位置調査を実施するための発電機や変圧器、その他様々な資・機材の手配や調査計画の立案を進め、2019年度末からの実行へと移るだけの状態としていた。ところが2019年度末からの世界的なコロナ感染拡大の影響を受け、まず2020年3月のベトナムへの渡航を中止した。その際は、ベトナム側の入国禁止措置が主たる理由であった。2020年度初以降、日本での感染拡大も続き、海外への渡航が全面的に困難となっていった。2021年度は、我が国ではようやく11月、12月に感染拡大が収束したため渡航を計画したが、今度はベトナム側が再度のロックダウンとなり、研究協力者であるVinh大学側の研究者にも感染者が出たとの連絡があった。我が国でもオミクロン株の流行が起こり、そのまま年度末を迎えた。そこで、研究分担者ならびに現地カウンターパートの了承を得た上で、当初予定であった研究終了期間を2021年度末から2022年度末へと、再度の研究期間の延長申請を行った。以上の理由から、本年度(2021年度)は具体的な研究成果を上げることができなかった。そこで、2022年度への延長申請を行った。研究活動としては、研究手法と想定する内容の基礎研究を国内で進め、一定の進捗をみることができた。
著者
端詰 勝敬 岩崎 愛 小田原 幸 天野 雄一 坪井 康次
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.303-308, 2012-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

広汎性発達障害は,他の精神疾患を随伴しやすいことが報告されている.しかし,摂食障害の随伴については不明な点が多い.今回,われわれは摂食障害と自閉性スペクトラムとの関連性について検討を行った.84名の摂食障害患者に対し,自己記入式質問紙による調査を実施し,健常群と比較した.摂食障害は,健常群よりも自閉性スペクトル指数(AQ)の合計点が有意に高かった.病型別では,神経性食欲不振症制限型が「細部へのこだわり」とAQ合計点が健常群よりも有意に高かった.摂食障害では,自閉性スペクトラムについて詳細に評価する必要がある.
著者
平野 聖 石村 眞一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.55-64, 2007-09-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本論では,扇風機のデザインの歴史を研究することを通じ,我が国家庭電化製品のデザイン開発における特徴を解明する一助としたい。明治,大正時代の史料を調査することにより,以下のことが判明した。明治時代には,先進国から我が国へ輸入された製品が,扇風機を普及させる中心的役割を果たした。欧米では,天井扇の需要が大いにあったが,我が国においてはほとんどなく,卓上扇風機を中心に開発が進められた。我が国における職人の能力は高度であった為,欧米から導入された技術を受容できる余地があった。当初は町工場も扇風機を製造していたが,やがて財閥系の大企業が製造を独占するようになる。大正時代に入ると多くの大企業が扇風機製造に進出し,各社の宣伝活動が盛んになった。大正時代前半には,扇風機のデザインにおける基本的な4つの要素が出揃った。すなわち,黒色,4枚羽根,ガード,首振り機能である。扇風機は高価であったので,大半の人々は扇風機の貸付制度を利用していた。その結果,扇風機はステイタスシンボルとして機能した。
著者
長澤 哲郎 木村 育美 阿部 裕一 岡 明
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.295-298, 2006-07-01 (Released:2011-12-15)
参考文献数
12

ヒトヘルペスウイルス6型 (HHV-6) による脳炎・脳症のうち, 解熱・発疹期に短時間のけいれんが群発する症例の報告が散見される. 今回,この「けいれん群発型HHV-6脳症」において,急性期にsingle photon emission computed tomography (SPECT) にて患側の脳血流量増加が示された.これまで, けいれん群発型HHV-6脳症におけるSPECTでは全例で脳血流量の低下が報告されているが, いずれも慢性期に測定されていた. 本症例では,けいれん群発当日に患側大脳半球で血流量増加が認められた. けいれん群発型HHV-6脳症は予後不良例も報告されており, 今回はじめて血流量増加が確認されたことは, この脳症の病態解明と治療を検討する上で意義があると考えられた.
著者
大野 敦子 鈴木 萌人 矢田 幸博
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.50-59, 2022-01-25 (Released:2022-02-10)
参考文献数
37

紅茶の香りが自律神経活動に及ぼす効果について検討した結果,ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香り吸入後に縮瞳率および指尖皮膚温は有意に上昇した.その効果は,アッサム紅茶とウバ紅茶の香りの効果より大きかったことから,交感神経活動を抑制し,副交感神経活動を優位にする鎮静作用が高いことが示唆された.香気成分分析によりダージリン紅茶セカンドフラッシュに特徴的な香気成分;ゲラニオール,ホトリエノール,2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン,2-フェニルエチルアルコールを選定し,紅茶飲用時の規定濃度でそれぞれ吸入した結果,ホトリエノールのみが縮瞳率を有意に上昇させた.濃度依存性を検討した結果,ホトリエノールは5 ppm以下の低濃度において縮瞳率は有意に上昇した.さらに,ホトリエノール50 ppm吸入後に縮瞳率ばかりでなく,指尖皮膚温も有意に上昇したことから,ホトリエノールはダージリン紅茶セカンドフラッシュと同様の鎮静作用を有することが示された.以上の結果から,ホトリエノールはダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りによる鎮静作用の発現に寄与する最も重要な成分であることが示唆された.
著者
中村 衣里 上田 友佳子 橋本 ゆかり 和田 宏美 松浦 寿喜
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.163-168, 2014-12-24 (Released:2017-01-27)
参考文献数
14
被引用文献数
2

The present study compared differently grades of powdered green tea (matcha) in order to clarify the relationship of matcha grade with their chemical constituents and functionality. The inhibitory effects of matcha on intestinal absorption of sucrose were examined in rats using portal cannulae. The contents of theanine, arginine and glutamic acid showed positive correlations with the quality of matcha. On the other hand, comparison of the catechin contents of differently grades of matcha revealed negative correlations between the quality of matcha and EGC, EC and EGCG content. Functionality was determined based on the duration of glucose absorption inhibition following matcha intake in portal vein-cannulated rats. Comparison between the high quality and low quality of matcha revealed a significantly reduced blood glucose concentration was observed with the low quality matcha as compared with the high quality of matcha, confirming glucose absorption inhibition. In the present study, we have shown that the relationship of quality of matcha with their chemical components and functionality.
著者
梅木 佑夏 田淵 貴大
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.914-924, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
25

目的 受動喫煙には子どもの健康への悪影響がある。そのため,2018年4月1日に東京都では「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が施行された。日本における子どもの受動喫煙の防止を目的とした条例の影響について評価した報告はいまだ存在しない。本研究では,東京都の条例の施行前後の家庭における喫煙ルールの変化について分析し,条例の影響を評価した。方法 2018年1月26日~3月20日および2019年2月2~25日に日本の一般住民を対象としてインターネット縦断調査を実施した(JASTIS研究)。東京都居住者とコントロール地域居住者それぞれにおける2018年および2019年の家庭が屋内禁煙である者の割合の変化を差分の差分(Difference-in-Difference, DID)法を用いて分析した。結果 コントロール1(東京都を除いた46都道府県に居住する者),コントロール2(関東地方を除いた都道府県に居住する者),コントロール3(政令指定都市を有する都道府県に居住する者)の3種類のコントロールを用いて解析を行ったが,共変量調整DIDは,コントロール1で−1.0%ポイント(95%信頼区間(CI)=−5.8, 3.9),コントロール2で−1.0%ポイント(95% CI=−5.9, 4.0),コントロール3で−1.0%ポイント(95% CI=−5.9, 3.9)であり,いずれのコントロールを用いた場合も有意差を認めなかった。また,性別,年齢,喫煙状況,世帯年収,住居,仕事の状況,学歴,婚姻状況のいずれの属性で層別化した場合でも有意差は認められなかった。結論 本研究により,「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」施行前の2018年と施行後の2019年で,東京都民の家庭での喫煙ルールは変化しなかったことが明らかになった。今後の自治体における受動喫煙防止条例の立案および推進方策について検討する上で,本研究は有用な資料になるものと考えられる。
著者
西川 典子 内田 千枝子 波田野 琢 服部 信孝
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第43回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-C-P-044, 2022 (Released:2022-12-26)

【目的】パーキンソン病(PD)における不安症状は頻度が高く、しばしばQOLの低下や治療薬の忍容性の低下につながる。不安症状に対する治療は抗うつ薬などが推奨されているが、患者は服薬量が増えることを懸念することが多い。対面式の認知行動療法(CBT)はPDのうつ症状治療として有用であることが報告されている。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行発生と研究時期が重なったため、来院せずに自宅で受講可能なオンラインCBTに変更した。オンラインCBTは、うつ病、痛み、糖尿病の治療として、対面式CBTに劣らない有効性が示されている。そこで私たちは、パーキンソン病(PD)の不安に対するオンライン少人数グループCBTの実施可能性および有効性を検討した。【方法】本研究では、不安を有するPD患者を対象として、熟練した臨床心理士により、構造化されたCBTプログラムを8セッション実施した。CBTはZOOMを使用してオンライン方式で行われ、少人数グループは臨床心理士1名とPD患者4名で構成した。同意取得してスクリーニングの後、無作為に実施群と待機後実施群に分け、二群間でCBTによる不安症状軽減を評価して比較した。主要評価項目はHAM-A(ハミルトン不安尺度)の改善度、副次評価項目はHAM-D(ハミルトンうつ尺度)、GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)、PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)、PDQ39(Parkinson's Disease Questionnaire-39:生活の質の指標)の改善度とした。臨床試験登録システム(UMIN000044247)に登録後、順天堂大学医学部研究倫理委員会の承認(H20-0080)を得て、本研究を開始した。【結果・考察】不安症状を有するPD患者32名が登録し、そのうち28名が研究を完遂した。研究脱落者4名の内訳は、1名が自己都合による中止、2名が待機期間中の抑うつ症状の悪化による中止、1名が併存疾患の手術による中止であった。群間比較試験では、CBT群と待機群との間でHAM-Aの改善度に有意差はなかった。CBT介入前後で比較すると、HAM-Aの改善度に差はなかったが、HAM-DとPDQ-39は有意に改善した。【結論】少人数のオンラインCBTは、PDの不安は改善しなかったが、うつ病とQOLを有意に改善した。
著者
武田 晃
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.19-31, 1964-10-25 (Released:2008-11-12)
参考文献数
37
被引用文献数
7 7

1. 人工授精後最長21日間, 平均11.1日間にわたり受精卵が産出された, 注入後6日までは90%以上の受精率を示したが, 13日以降は40%以下に低下した。2. 人工授精後4日までは卵管各部のスメヤー中に精子が見出されたが, その後は漏斗部後半ならびに子宮部から腟部への移行部附近のスメヤーのみに局限され, 前者においては7日後, 後者においては22日後にも精子が認められた。3. 漏斗部後半および子宮-腟移行部に存在する腺の腺腔中に, 前者においては15日後, 後者においては30日後にいたるまで精子が包蔵されていた, しかし22日以降においては腺腔中に包蔵された精子は分解像を呈した。また腺腔中に発見される精子の数は漏斗部においてはきわめて少ないが, 移行部においてはしばしば集団状をなし前者にくらべはるかに多かった。4. 注入精子数が6億ないし1.5億のときには高い受精率を示したが, 3000万では半減し, 400万では受精卵は全く得られなかった。400万注入の場合スメヤー中には精子を見出すことはできなかったが, 移行部の腺腔中には精子が包蔵されていた。5. 移行部の腺腔中には受精卵産出期間であると否とにかかわらず精子が発見されたが, 漏斗部の腺腔中においては受精卵産出期間中には精子発見例が多く, 無精卵産出期に入ったものでは少なかった。6. 精子を包蔵する腺は漏斗部後半3~5cmの間, および子宮部から腟部への移行部1~1.5cmの間のみに存在した。7. 死亡精子を人工授精した場合にも精子は卵管を上昇したが, 腺腔中には全く侵入しなかった。
著者
伊藤 亜美 伊藤 佑亮 森本 章倫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.614-621, 2022-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
23

2050年カーボンニュートラルの実現のため,世界各国で電気自動車(EV)の普及が進められている.一方,火力発電の割合が大きい電源構成を有する日本では,EVの導入のみでは環境負荷の削減効果が十分に得られない.本研究はEVの完全普及を前提とし,EVの課題に対処可能なシェアリングや電源構成の見直しも想定した交通体系について,ライフサイクルを考慮して定量的に環境負荷を評価することを目的とする.分析では,ライドシェアの利用率を変化させ,シミュレーションを行う.その後,電源構成比率を変更し,環境負荷を算出する.その結果,2030年の削減目標値を達成するにはEVとライドシェアの組み合わせが最も適しており,さらにライドシェアの利用率の増加や電源構成の見直しに関する政策を行うことでさらなる削減効果が期待できることを明らかにした.
著者
篠原 正
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.116-120, 2014-04-15 (Released:2014-11-14)
参考文献数
31
被引用文献数
4 9

大気腐食は,結露あるいは降雨などの薄い水膜の下で発生し,進展する.水膜の組成は,大気汚染物質沈着速度に依存し,大気の湿度および温度条件ともに変化する.多くのセンサや測定法が,大気環境の腐食性あるいはその環境中での腐食挙動を評価するため開発された.本稿では,それらのセンサや測定法によって評価される,水や付着物あるいは環境因子の役割に基づいて,大気腐食研究の現状と将来展望について述べる.
著者
柴野 良美
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.51-63, 2020-06-20 (Released:2020-08-20)
参考文献数
43

本稿は,コーポレートガバナンスの仕組みが,企業組織のヒエラルキーの最上位にいる経営者による不正を防ぐことができるのかを検証した.2006年から2015年の日本の上場企業の不正会計を対象とした実証分析の結果,コーポレートガバナンスの仕組みは,経営者以外による不正会計を減少させるが,組織階層の最上位にいる経営者による不正会計を防ぐことは困難であることが示された.資本アプローチによるガバナンスに新たな視点を示す.
著者
植野 弘子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.377-411, 1992-03-31

本稿は、台湾漢民族における死霊と土地の超自然的存在との関連についての一試論である。漢民族においては、祖霊と死霊は明確に区別されている。死霊―「鬼」は、子孫をもたず、あるいはこの世に恨みを残して死んだものであり、冥界で不幸な境遇にあるとされる。こうした「鬼」はこの世にさまよい出で人々に不幸を振りまくことになる。しかし、「鬼」は可変的性格をもち、祖先にも神にも変化する存在である。これまでの研究においては、「鬼」は霊的世界のアウトサイダーであり、「鬼」を無体系なものとみなしてきた。しかし、「鬼」はけっして混沌たる世界を漂漾しているのではない。人と「鬼」との交信には「鬼」を統轄する神々が登場する。この神々は陰陽両界に関わるとともに「地」に関わる神であり、「鬼」が昇化して神になったものもいる。落成儀礼〈謝土〉において、人は建造物を建てた土地から邪悪なものを払い、その土地を「陰」の世界の土地の持ち主〈地基主〉から買い取らねばならない。〈地基主〉とは、かつての土地の持ち主で死後その霊がその土地に残ったものとされている。つまり「鬼」であり、「鬼」が土地の主となるのである。土地は「陰」から「陽」の世界のものとなって初めて人が住むのにふさわしいものとなる。土地は陰陽の両界をつなぐ場である。人と死霊は「地」に関わる超自然的存在によって媒介され、人はその住む地によって冥界と切り放せない現世を知るのである。漢民族は冥界をこの世と同様にリアルに描いている。そして、冥界と地とを結び付けることによって、また「鬼」という浮遊性をもつ超自然的存在に一定の秩序を与えることによって、人が他界を生活の中に感じ、また解釈を与えているのである。