著者
矢崎 義雄 山崎 力 小室 一成 永井 良三 方 榮哲 世古 義規 栗原 裕基
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

循環器系において、血行動態という負荷による心・血管系の変化を、器官のレベルばかりでなく、細胞・分子レベルでとらえることは、心肥大、心不全および血管攣縮、動脈硬化症などの循環器疾患の発症機構を解明する上できわめて重要な課題である。特に物理的な刺激が細胞内の応答機構に生化学的なシグナルとなって伝達され、代謝を調節する機序は、生体が外界からの刺激を受けて反応する現象を生化学的に解明するモデルになるものとして、医学ばかりでなく生物学の広い領域から注目されている。われわれは細胞に物理的な負荷を加える装置を独自に開発するとともに、分子生物学の最先端技術を導入することにより、従来では、生化学的なアプローチが因難であった、物理的な負荷に対する心筋および血管内皮と平滑筋細胞における応答機構の解析を行った。その結果、本研究は循環器疾患の基礎的な病態である心肥大や心不全、あるいは血管攣縮や動脈硬化病変の形成などの病因を遺伝子や分子レベルで捉える研究の発端となって、この分野での知見の著しい進展をもたらすところとなった。具体的には1)心筋の負荷に対する応答機構の解明として、独自に開発したシリコンディシュを用いて心筋細胞に直接機械的なストレスを与え、胎児性蛋白と核内癌遺伝子の発現機序をフォスファチジルイノシトール代謝を中心に解析し、肥大を形成する心筋細胞内応答機構のしくみを明らかにした。さらに形質変化をきたす心筋蛋白のアイソフォーム変換機序をgelshift法などを用いて検討し、心筋の負荷に対する適応現象を遺伝子レベルから究明した。2)血管内皮および平滑筋細胞における血流ストレスに対する応答機構を、固有に存在する遺伝子の発現調節機序を解明することによって、血流に対応した臓器循環が調節されるメカニズムを明らかにした。
著者
中橋 和博 大林 茂
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、亜音速場でよく用いられる縦渦導入による境界層剥離制御法が超音速流中の境界層剥離に対しても有効かどうかを数値解析でもって調べること,およびそのための効率よい数値計算手法の構築を目的とし,研究を以下のように進めて大きな成果を得た.1.超音速流中のボルテックスジェネレーターまわりの詳細な数値計算を効率よく行うための数値解法の開発を進めた.従来の差分法計算法に生じる計算特異点等の問題点を解決するため,非構造格子法によるナビエ・ストークス計算コードの開発を進めた.その結果,計算特異点等の問題が解決されたことにより計算時間は従来の計算法に比べ数分の1に減らすことが可能になり,その有効性を確認した.この計算法は,世界的に現在主流の差分法に基づく計算法に取って代わりうる能力があり,数値流体力学研究への貢献は非常に大きい.2.平板上に三角錐状の突起をつけた場合および同様の形状の空洞を設けた場合について,それらが超音速流中において誘起する流れ場をナビエ・ストークス数値計算により調べた.その結果,突起形態および空洞形態ともその後流に対の縦渦を誘起することを確認し,かつその誘起渦度の強さは三角錐の開き角と一様流のマッハ数との関係で大きく変化することを見いだした.また,空洞型ボルテックスジェネレーターは超音速場での衝撃波発生および空力加熱問題点で有利であるが,生成された縦渦が下流では壁面へと進んで平板境界層と融合し,境界層外の運動量を境界層に導く効果は弱くなってしまうこと,また,三角錐開き角とマッハ数との関係も上流境界層が厚い場合は明確ではないとの結果を得た.以上の研究において,備品として購入したコンピュータはプログラム開発および計算前処理と後処理端末として非常に有効であった.
著者
本間 哲哉
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

廃棄プラズマ・液晶ディスプレイパネル、ブラウン管、プリント配線板、蛍光管、集積デバイスなどからの有用金属リサイクル技術の開発を行った。各種金属・金属酸化物の各種酸水溶液への溶解性、電気化学的測定、析出・回収物の結晶構造解析、不純物分析などを行った結果、①金属、金属酸化物は、HF、HF/H2O2、などの酸水溶液に可溶で、廃棄物の室温同時一括処理が可能であること、②貴金属、レアメタル等の金属、金属酸化物を、金属ごとに分離・回収できること、③析出したAu、Ag、In、Cuの濃度が72~95 重量%であること、などがわかった。また、リサイクルInの透明導電薄膜への応用可能性が高いことがわかった。
著者
片峰 茂 伊藤 敬 西田 教行 桑田 一夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

われわれが化合物データベースより見出した新規抗プリオン物質GN8がリコンビナントプリオン蛋白に対して実際に結合するかどうかを,をBIAcoreT100を用いて調べた結果から,GN8が実際にリコンビナントプリオン蛋白に対して結合し,その解離定数は,4μM程度であることが分かった。全長のマウス・リコンビナント・プリオンのNMRスペクトル(HSQC)をGN8の存在下及び非存在下で測定した。その結果,GN8の特異的結合サイトが,N159とE196であることが明らかとなった。これらの部位は,ミリ秒からマイクロ秒の遅いタイムスケールの揺らぎを行っており,遺伝性のヤコブ病における変異部位とも関連していることが確認された。また,GN8の類縁体を複数(60種類),有機合成し,抗プリオン活性を測定した結果,そのいずれにおいても,ほぼ抗プリオン活性が認められた。このことより,GN8の基本骨格を保ちつつ,抗プリオン作用が最大になるようにその化学構造を最適化することが可能であることが分かった。プリオン感染マウスに対し,GN8を脳内投与したところ,特に副作用もなく,優位な寿命延長効果が認められたことから,GN8は,抗プリオン薬のリード化合物として非常に有望であると考えられる。GN8小分子化合物で脳血液関門を通過しやすいことが期待され,実際培養脳血液関門モデルを通過することが判明したが、マウス末梢投与においても有効であることが分かりつつある。以上により,GN8の作用メカニズムは,細胞型プリオンに結合し,その立体構造を安定化させるためであることが明らかとなった。
著者
武藤 多津郎 山本 紘子 宮地 栄一
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

我々はこれまで遺伝性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子の一つであるプレセニリン1(PS1)の突然変異がもたらす脂質とくに糖脂質代謝への影響を明らかにし、それが神経細胞の情報伝達に如何なる影響を与えるのかを主に脂質ラフトの観点から研究を展開してきた.その結果現在まで下記のような事実を明らかにした.1)変異PS1の発現する神経芽細胞腫では、グルコシルセラミドのsteady state levelが著減しており、したがって全ての種類のガングリオシドもまた著減している.2)この異常は、同じ変異PS1を発現するトランスジェニックマウス脳組織を用いた解析でも確認された.3)これら異常の原因を詳細に調べたところ、グルコシルセラミド合成酵素蛋白量が変異PS1の発現により著明に減少することが明らかとなり、この変異PS1の有するγ-セクレターゼ活性が前記酵素を切断・分解している可能性が示唆された.4)さらに、最終年度ではこうした変異PS1を発現する神経芽細胞腫を用いてパッチクランプ法でイオンチャネル機能を及ぼす影響を調べたところ、変異型細胞ではNaチャネル機能大きな異常が存在することを見出した(論文作成中)5)また、上記のグルコシルセラミドの本症病態発現に於ける意義を探るため、この中性糖脂質に対する自己抗体を有する疾患を同定するためのスクリーニングを神経患者血清を用いて実施し、陽性となる疾患を同定した.これら疾患は何れも亜急性の記憶・認知機能障害を呈する疾患であった(FEBS Lett 2006)
著者
加藤 仁美
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

これまでの研究成果は次のように要約される。(1)散居集落成立の自然的、歴史的背景:壱岐島は玄武岩台地からなる丘陵性の島であり、湧水や溜池など水源の確保、防風のための背戸山の必要など地形・地質・気象等の自然的条件と、潘政期に実施された地割制度や触と浦の二元構成にみられる歴史的要因とが相俟うて、散居集落の形成が全島規模で展開し、今日まで維持されている。(2)土地利用パタ-ン:南斜面を選んで、背戸山ー宅地ー前畑ー田畑というワンセットの土地利用の定型が認められ、これを“壱岐型土地利用パタ-ン"と名付けた。散居のユニットを構成しているのはこの内背戸山ー宅地ー前畑からなる屋敷廻りの私有地であり、面積は約50a、大旨隣家と接しており、宅地間距離は約70mで、クラスタ構造の結合の仕方とみなせる。田畑は地割制度の影響で分散所有されており、農作業の利便性には集約化の課題が残っている。(3)空間構成:触は里道で境界づけられているが、中心性は希薄であり、集村のような空間のヒエラルキ-は無い。共同空間としては井、辻、家畜の埋葬地など壱岐独特のものがある。屋敷迴りの土地利用は自給的、生態系維持のユニットを構成している。宅地内は母屋・隠居、釜屋、納屋、牛舎等からなる多棟構成であり、構築的な景観をなしている。(4)触と構中の社会構成:散居疎住をソフトな面で支えている触と講中という緊密な社会構成が存在し、今日も機能している。(5)壱岐島の散居集落の特徴と課題:壱岐の特徴は、屋敷が丘陵に立地し、周辺に田畑を集約的に所有していない。その為に散居の規模は比敷的小さいが、散居のユニットを構成している背戸山ー宅地ー前畑からなる屋敷廻りの土地利用は今後も継承すべき豊かな空間である。田畑の集約化、社会空間の変容に対する秩序の形成等が今日的課題としてある。
著者
鋤納 心 坂根 直樹 大原 こころ
出版者
独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,低AGEs食レシピの開発を目的に,血中AGEsと食事の要因を探索するため食習慣の改善を中心としたダイエットプログラムにおいて,AGEsの変化と栄養素の変化を検討し,また調理方法の違いにおいて血中AGEs濃度の影響を調べた.栄養素の変化ではビタミンD,食物繊維,不溶性食物繊維に負の相関が見られ,体重とは関係なく独立してビタミンDの変化が血中AGEsの変化と関連した.血中CMLは食事摂取より増加が見られたが,その増加量は一般食と低AGEs食で同程度であった.一方,食後2時間の血糖値やインスリンは一般食よりも低AGEs食の方が低かった.
著者
久保 憲昭
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】蟯虫の感染経路については、感染マウスとの接触および感染マウス飼育ケージ内の床敷きを介して感染することは知られているが、それ以外の感染経路が存在するか否かは未だ不明である。今回、長崎大学先導生命科学研究支援センター動物実験施設において、ネズミ盲腸蟯虫の駆虫薬による駆虫後に再発を経験したこともあり、再発を防止するためには蟯虫卵の飼育室内分布状況を明らかにし、感染経路を探し出すことが必要と考え、実験を行うこととした。【方法】ネズミ盲腸蟯虫の感染を粘着テープ法により確認したAKRマウス♂9匹を実験に使用した。飼育方法は、木製チップを入れたプラスチックケージに給餌器兼用のステンレス製フタに飼料と給水瓶をセットして3匹ずつ3ケージに分けて入れ、一方向気流方式飼育ラック内で1週間飼育した。蟯虫卵分布の観察ポイントとして、ケージ本体、フタ、給水瓶、床敷き、給餌後残飼料、飼育棚、排気ダクト内粉塵、ケージ交換時着用手袋と実験着及び実験台、マウス固定器、電子天秤用体重測定カップの12カ所を設定した。蟯虫卵の検出は対象物により飽和庶糖液による浮遊法または粘着テープ法で行った。今回実験着以外は浮遊法で検査を行ったが、前処理として対象物を0.05%Tween20液1Lで洗浄後、その洗浄液を金網製ザルで濾した後、遠心分離機にて3000rpm10分間遠心して沈渣を検査に供した。【結果及び考察】今回の実験で蟯虫卵が検出されたのは、検出個数が多い順に、床敷き462個、ケージフタ33個、ケージ15個、飼育棚8個、マウス固定器・給水瓶3個、排気ダクト内粉塵2個、手袋・体重測定カップ・実験台1個で、実験着と給餌後残飼料は0個であった。今回の実験の結果から感染経路を推測すると、使用済みの床敷き、ケージ、フタを介して感染している可能性が高く、また、飼育棚、マウス固定器、給水瓶、排気ダクト内粉塵、手袋、体重測定カップからの感染も少なからずあることが示唆された。
著者
長谷川 政美 堀 寛 岡田 典弘 宝来 聰 五條堀 孝 宮田 隆 植田 信太郎
出版者
統計数理研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

ミトコンドリアを持たない真核生物について、蛋白質をコードしているいくつかの遺伝子の系統学的な解析を行い、真核生物の初期進化に関して新たな知見を得た(長谷川)。進化の過程で遺伝子の多様化がどのように進んだかという問題を明らかにするために、多数の遺伝子族の分子進化学的解析を行った。その結果、遺伝子重複による遺伝子の多様化は、真核生物の進化の過程で徐々に起きたのではなく、断続的かつ急速に起きたことが明らかになった(宮田)。HIVの遺伝子を分子進化的に解析し、その進化速度が異常に高いことを明らかにし、このウイルスの感染者体内における進化のメカニズムに関してもいくつかの知見を得た(五條堀)。3人の現代人と4種の類人猿で、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を調べた結果、現代人の共通祖先の年代は約14万年前と推定され、「アフリカ単一起源説」が強く支持された(宝来)。独自に開発したSINEによる系統樹推定法を用いて、クジラの起源の解明とタンガニイカ湖のカワスズメ科魚類の系統関係の決定を行った。クジラの起源に関しては、クジラ目と反芻亜目とカバが単系統をなすことを明らかにした(岡田)。その他、動物体色の発現機構の進化(堀)、細胞内共生細菌の進化(石川)、脳で特異的に発現している転写因子class III POUの分子進化(植田)、無脊椎動物の生体防御系の進化(石和)、などについても成果を挙げた。
著者
遠海 友紀
出版者
京都外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では初年次教育の授業において、学生の自己調整学習を促すこと目的とし、課題に取り組む際の評価基準表を学生自身が作成する過程を取り入れた授業のデザインと評価を行った。学生が自分たちで評価基準表を作成する授業デザインを検討する際に必要となる要素を明らかにするために、授業を複数回実施し、(1)学生が作成した評価基準の妥当性を検証した。また、学生が自分たちで課題の評価基準表を作成することの効果を明らかにするために、(2)教員評価と学生の自己評価の関連の検証、(3)学生が自分たちで評価基準表を作成した際にどのように捉えたのかについての評価、(4)学生の自己調整学習に関する意識の変化の検証を行った。
著者
國安 弘基 傳田 阿由美 笹平 智則 大森 斉 藤井 澄 バワール ウジヤール 傳田 阿由美 笹平 智則 大森 斉 藤井 澄 バワール ウジャール
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本課題ではアンギオテンシン系の腫瘍における作用を総合的に検討した。高血糖は大腸癌細胞にレニン発現を誘導し、キマーゼとともにアンギオテンシンを活性化し、肝転移を促進した。アンギオテンシン分解産物のアンギオテンシン1-7受容体であるMAS1の発現は乳癌特にスキルス癌で顕著に低下しstage、リンパ節転移、HER2発現と逆相関した。MAS1は乳癌における新たな癌抑制遺伝子と考えられた。このように、癌におけるアンギオテンシンの役割に応じた標的治療が有効であると考えられる。
著者
羅 〓
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012

膀胱癌に高頻度に生じる遺伝子変化として、第9、17染色体の欠失およびFGFR3遺伝子の点突然変異が挙げられる。本研究では膀胱癌患者尿から上記遺伝子変化の高感度な検出法を確立し、臨床的有用性を検討した。遺伝子変化はパイロシークエンス法を用いて定量した。膀胱癌組織116例を対象とした検討では、上記遺伝子変化は99症例に認めた。同症例尿では87例に遺伝子変化を認めた。一方、20症例の健常者尿にこれらの遺伝子変化を認めなかった。すなわち本定量系を用いることで感度75.0%、特異度100%の精度で尿からの膀胱癌診断が可能であった。尿細胞診では同症例尿での検出感度は44.0%であった。これらの結果より、本定量系は尿から膀胱癌を診断する優れたツールになり得ることが示唆された。
著者
宮本 みち子 長須 正明 樋口 明彦 平塚 眞樹 津富 宏 西村 貴之 新谷 周平
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

現代における若者のリスクは、教育から労働市場への移行の困難として表現されてきたが、それは特定の階層に集中している。これらの若者は家庭・学校・職場のいずれにおいても不利な立場で連鎖的に社会から排除されている。日本・オランダ・オーストラリア・イギリス・フィンランドの国際比較から日本の特徴をみると、若者の自立を担保する社会保障制度は極めて弱体である。社会的に孤立し就労困難な若者の増加に歯止めをかけるためには、所得保障と就労支援サービスのセット、教育・福祉・労働・保健医療制度の連携が必要である。ターゲットを絞った支援サービスだけでなく、若者の社会参加とエンパワメントを若者政策に位置づけるべきである。
著者
松浦 雅人 大久保 起延 泰羅 雅登 小島 卓也
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は日本大学医学部倫理委員会の承認を受け、対象者はすべて文書と口頭にて研究の主旨を説明し、インフォームドコンセントの得られたpaid volunteerである。視標誘導性サッケード、アンチサッケード、視標追跡眼球運動、注意喚起時の追跡眼球運動の4課題を、健常者21例、統合失調症18例、てんかん16例、てんかん性精神病9例に行い、課題遂行中の機能的MRIを撮像した。課題呈示と眼球運動のモニタリングにはVisible Eyeを用い、MRI装置は通常の1.5T臨床用装置を用い、EPI法を用いて3mm厚で全脳を撮像した。各40秒間の課題遂行と40秒間のbaselineを5回繰り返すbox-carデザインとし、画像解析にはSPM99を用いた。健常者は,サッケード課題遂行時に前頭眼野,補足眼野,頭頂眼野が賦活され,アンチサッケード課題遂行時にはさらに前頭前野,および線条体-視床の賦活が増加した.これは,要求される課題負荷量の増加に応じて脳賦活量も増大した結果で、生理的賦活増加現象と考えられる.追跡眼球運動遂行時には左側の前頭-頭頂眼野が賦活され,注意喚起時には右側前頭-頭頂眼野の賦活が増加した.統合失調症は、サッケード課題遂行時にすでに前頭前野を含む前頭葉皮質の過剰賦活がみられ、前頭葉の機能効率低下あるいは容量低下があると考えられた。また、アンチサッケード課題による線条体-視床の賦活はみられず、皮質下の機能低下が示唆された。さらにアンチサッケードで左半球皮質の賦活増加がみられず、注意喚起で右半球の賦活増加がみられず、左右半球側性化障害も示唆された。一方、てんかん群でも皮質の過剰賦活や生理的賦活欠如がみられたが,てんかん性精神病群ではこのような所見は明らかでなく,てんかん性精神病の神経回路障害は統合失調症のそれとは異なると考えられた.
著者
湯上 浩雄 齋 均 金森 義明 佐多 教子 圓山 重直
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

我々は、熱光起電(Thermo-Photo-Voltaic : TPV)発電に関する研究を行っていく過程で、フォトニック結晶と類似の表面ナノ構造により熱放射スペクトルが制御できる可能性が有ることを見出した。本研究では、この量子共鳴効果を用いた熱放射スペックトル制御機能の発現原理の解明と、TPV以外の熱工学応用分野への適応性に関して研究を行う。本研究では,熱放射スペクトルの制御を行うことにより,より高効率な熱利用システムを構築するとともに、作製したナノ構造エミッタの熱・光学特性を評価し、機能性発現原理と応用について考察する。前年度行った、Maxwell方程式の厳密解を求めるRigorous Coupled-Wave Analysis(RCWA)法に基づいた解析プログラムコードによる、最適な微細構造の決定、微細領域の放射スペクトルを測定するための放射測定装置の設計と製作に引き続き、以下の研究を行った。・可視領域の輻射スペクトルを選択的に放射する表面ナノ構造体を高融点金属に作製し、高温耐性を有する構造を実現するために、単結晶タングステン金属を用いて表面微細構造を製作し、1400Kにおいても安定な構造を得ることができた。・実際の試料の製作に当たっては製作誤差が不可避であり、それを考慮して改めて設計を行い、周期1.0-1.2μmの試料を作製した。これにより可視〜2.0μmの放射率が増大し、波長特性が改善された。・開発したRCW法に基づく数値解析と、微細構造のパラメータを変化させた試料の放射特性の比較から、今回得られた熱放射特性の変化は、主としてマイクロキャビティ効果に起因することが実験的に示された。
著者
湯上 浩雄 金森 義明 井口 史匡
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では,高温物体の表面に波長と同程度の周期構造(回折格子)を形成することにより、熱放射スペクトルの制御を行い、熱光発電システムや化学反応プロセス等の高効率な熱利用システムを構築することを目的としている。昨年度の研究において、Maxwell方程式の厳密解を求めるシミュレーションコードにより、各システムに最適な微細構造の決定を行うとともに、可視領域の輻射スペクトルを選択的に放射する表面ナノ構造体を高融点金属に作製するためのプロセス研究を行ってきた。この成果にもとずき、本年度は以下の研究を行った。1.昨年度までに整備したフーリエ赤外分光器を中心とした熱放射スペクトルの絶対値を測定する装置により,単結晶および多結晶タングステン試料表面に製作した表面回折格子からの熱放射を測定し、キャビティ深さと熱放射スペクトルについて系統的に調べた。その結果、キャビティ深さが浅い場合は、表面プラズモンポラリトン共鳴による放射が観測されるが、キャビティ深さの増大とともに、孤立したキャビティ内部の電磁波モードからの放射が支配的となることが分かった。2.光学定数が複雑な分散関係を示す材料に適応可能なFDTDプログラムコードを開発して,構造との共鳴効果による熱放射スペクトルへの影響を定量的に解析すると共に、実験結果との比較を行った。その結果、開発したFDTDコードにより、熱放射スペクトルが再現でき、実験と定量的な比較が出来る事が分かった。3.これまでの研究成果の取りまとめを行と共に、今後の研究の方向性や更に研究すべき課題について検討した。
著者
牧野 俊郎 若林 英信 松本 充弘 吉田 英生 花村 克悟 山田 純 MIYAZAKI Koji
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

熱ふく射(thermal radiation)は物質における荷電粒子の熱振動に起因する電磁波であり,工業的にも身近にも得やすいエネルギーであるが,そのままではPlanck分布の及ぶ広い波長域に分散し,また,指向性が弱いぼんやりしたふく射である.そのため,レーザーの場合のように特定の波長にそのエネルギーを集中して工学的な機能を発揮させるためには有効でないことが多かった.本研究は,この熱ふく射を特定の波長帯域のふく射が強調されるスペクトル機能性のふく射に変換し制御する技術の開発をめざすものである.電磁波動論・分光学・固体物性論・伝熱工学を基礎として分光熱工学の実験・理論研究を行い,エネルギー工学と生活環境工学のために有効なハードシステムの実現をめざす.牧野・若林・松本は,(1)薄膜系の放射ふく射の干渉と(2)薄膜系のふく射放射理論を検討し,(3)薄膜系エミッターの試作を行った.さらに,(4)表面の鏡面反射率・半球反射率・指向放射率のスペクトルの同時測定法を提案し,(5)熱ふく射に関するKirchhoffの法則を電磁波のレベルで実験的に検証した.また,牧野は,本研究を総括する視点に立ち国内の講演会や国際会議において本研究に関する多くのKeynote講演などを行った.吉田は,スペクトル機能性ふく射を用いる熱・光起電力発電システムを熱システム工学的に検討した.花村は,(1)矩形マイクロキャビティによる放射率の波長制御に関する分光実験・計算を行い,(2)近接場光によるナノギャップ発電に関する実験装置を設計し,(3)GaSb光電変換素子を自らの実験室において試作した.山田は,(1)薄膜系エミッターからの放射ふく射の計算と(2)人体の皮膚の反射に関する分光実験・計算を行い,(3)色素増感太陽電池の改良を検討した.
著者
牧野 俊郎 花村 克悟 山田 純 宮崎 康次 松本 充弘 若林 英信
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,スペクトル機能性ふく射の制御技術開発をめざす熱工学の研究の展開を図るものである.そのような技術は,とりわけ,熱光起電力発電(TPV)システムの開発において重要であり,また,わかりやすい.電磁波動論・分光学・固体物性論・伝熱工学を基礎として分光熱工学の実験・理論研究を行い,熱工学のシステム的な視野をもって,エネルギー工学と生活環境工学のために有効なハードシステムの実現をめざす
著者
熊野 智之 花村 克悟
出版者
神戸市立工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

熱光起電力発電への展開を念頭に置き、セラミックスの近赤外領域における放射率を希土類元素を用いて選択的に向上させる実用的な技術の開発を行った。具体的には、多結晶アルミナ基板上に、エルビウムをドープした釉薬を形成させ、1000℃での放射特性を実験的に明らかにした。本研究は、釉薬を応用し、また塗布方法として基板埋没法を提案し、かつ釉薬の薄膜化について検討したという点で独自性に富んでおり、従来にない興味深い結果が数多く得られた。
著者
梶田 信
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ヘリウム照射により形成されるナノ構造金属を熱光起電力発電に応用するために,その耐熱性,エミッタンスの変化を明らかにした。耐熱性に関しては,温度が上昇するとナノ構造が収縮していくことが明らかになり,熱光起電力発電用としては低温(1000K以下)で利用する必要があることが分かった。放射率の変化を調べたところ,広い波長範囲で放射率が 1 に近くなっており,少し収縮が起こった材料においては近赤外領域のみ放射率が高くなることが分かり,無駄な熱の放出がないことから,熱光起電力発電用により適していることが分かった。