著者
林 真貴子
出版者
近畿大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、1930年代初頭の農山漁村経済更生運動下でおこなわれた、農村で組合を形成して負債を整理するという問題解決の方法およびその法過程について検討することである。具体的には、1933(昭和8)年に制定された農村負債整理組合法(昭和8年法律第21号)の施行過程において、組合形成の母体となった農業集落としての「むら」が負債整理の法過程において果たした役割と「組合」を用いた問題解決の方法、さらに同時期に実施された金銭債務臨時調停法(昭和7年法律第26号)との関係を調査・分析した。本年度は、国立国会図書館、法務図書館、国立公文書館および県立市立公文書館等における資料収集を継続した。収集した資料は、おもに各道府県における負債整理組合法の施行細則、実施手引書等、農村(都市)生活改善運動の啓蒙文書、京都地方裁判所や神戸地方裁判所における各種調停法施行時の統計、同法の実態調査等に関するものである。農村負債整理組合法は無限責任の負債整理組合を隣保共助の精神に則り、生活共同体の単位で設立し、債権者も債務者もまたいずれでもない人もすべてが組合員となって、負債の整理を目指すところに特徴がある。組合は、組合員の負債整理計画を検討し、償還方法その他条件の緩和に関する協定を斡旋し、組合員(債務者)に対する負債整理資金の貸付を行なう。この新たな貸付に対して組合員は無限責任を負うことになる。政府は、昭和恐慌期の負債については、「善良なる債務者の更生」のために、農村では生活共同体単位で無限責任を負わせて(条文上は有限責任組合の設置も認めているが)、負債整理を断行するとともに、都市部の小額(訴額千円以下)の紛争については、裁判所が関与した調停手続によって債務者保護に資する解決を図った。農山漁村経済更生運動から続く農村資金計画は、土地、資本、労力の分配の適正、生産販売購買の統制を、各種組合を通じて行なっていった。農業金融の合理化によって負債の固定化を防止しようとした。このような組合方式による負債整理と近代法とのかかわりについて、本研究では収集資料に基づいて分析した。その結果は論文として公表する。
著者
西山 要一 酒井 龍一 栗田 美由紀 魚島 純一 泉 拓良
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

平成25・26年度も中東情勢は安定せず現地調査を中止した。それに換え25年度はレバノンとイタリアおよび国内の研究者で研究会を開催し研究の経過・成果・課題について報告と討論を行い、26年度は報告書の原稿を執筆した。ブルジュ・アル・シャマリT.01-Ⅰ地下墓は碑文から紀元196/197年にリューシスのために築造され、孔雀・魚・パン・ワイン壺などの壁画から死者の平安を祈る葬送観念、炭素14年代測定、出土遺物の材質分析などの人文科学と自然科学の学際研究によりレバノン古代史を明らかにした。また温度・湿度・微生物など地下墓環境・壁画の修復は文化財保存の論理と技術の移転も行い大きな国際貢献ができた。
著者
小木曽 真樹
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

グリシルグリシンと脂肪酸が結合した簡易なペプチド脂質は水中でアルカリ金属以外のほぼ全ての金属イオンを捕捉して、ファイバー状やチューブ状などのナノ構造体を形成することがわかった。金属を捕捉したファイバーやチューブの還元処理や焼成処理により金属ナノ構造体へ変換できることも明らかにした。アルカリ土類金属存在下で希少金属のみが補足できることを明らかにし、油田の随伴水処理や海水資源化などへの応用可能性を見出した。
著者
村山 眞維
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.今回東京で行った質問票調査によれば、我国の法律業務は個人の不動産や相続・離婚など主に個人を顧客とする仕事と、中小企業を主な顧客とする仕事とが中心となっている。渉外関係などを突出した部分とする大企業関係の法律業務は、増えてきているように見えるが、まだ法律業務の基本構造を変えるには至っていないように思われる。2.刑事弁護の担手は徐々に減少してきているようである。少なくとも国選受任者の割合は2割に満たない。国選弁護の主な担手は、登録後十年未満の弁護士と老令の弁護士、および刑事弁護を続ける意志のある比較的少数の中堅弁護士である。これに対し、私選弁護はより広い弁護士層によって受任されており、いわゆる一般民事案件と同様なものとして受任されているように見える。3.以上の状況は、今世紀初頭の米国と比較し、国選弁護に類似の問題をもつ反面、弁護士会について大きな相違いがある。ビジネスロイヤ-が主導権をもった米国と異なり、東京では一般民事案件を扱う個人経営弁護士が運営の中心となっている。これは、法律業務の構造と、法律専門職の理念の相違とも関連しているのかもしれない。4.国選弁護活動は、私選弁護活動に比べ余り活発に行なわれているとは言えない。ただし、それは国選事件の内容が活発な弁護活動を必要としないようなものであるからかもしれず、その点の今後の検討が必要である。5.法律業務の構造変化がもたらし得る影響をより明確にするためには、刑事事件の受任がいかなる業務環境の下で、どのような動機によってなされているかを、面接調査などの方法により明らかにすることが必要であろう。
著者
田村 智彦 加藤 隆幸
出版者
横浜市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

血球系特異的転写因子Interferon Regulatory Factor 8(IRF8)は、ミエロイド系前駆細胞からマクロファージへの分化を促進する一方、好中球への分化増殖は抑制する。また、IRF8欠損マウスが慢性骨髄性白血病(CML)様の病態を呈し、多くのヒト骨髄性白血病においてIRF8の発現が失われていることから、IRF8はヒト白血病において重要ながん抑制因子である事が示唆されている。当研究は、IRF8の機能解析を通して自然免疫細胞の分化機構、ひいては細胞分化の基本原理を理解し、ヒト白血病に対し新しい病態理解と治療法を確立するための基盤を築くことを目指している。本年度は、IRF8と顆粒球系のマスター転写制御因子C/EBPαが結合する事を生細胞においてBiFC法(Bifluorescence Complementation Assay)のみならずFRET法(Fluorescence Resonance Energy Transfer)でも確認することができた。また前年度見出した新しい細胞分化制御転写因子であるが、これはIRF4であり、IRF8とIRF4という二つの血球系IRFがミエロイド系細胞分化において似通った活性を持つ事を、in vitro分化系のみならず、IRF8, 4ダブル欠損マウスの作製によって証明することができた。CML患者ではIRF4の発現も低下している事が報告されており、この結果はCML病態や治療を考える上でも興味深い。今後、本挑戦的萌芽研究で得た結果をさらに発展させ、ミエロイド細胞における転写因子複合体の精製等によってより包括的な理解に繋げて行きたい。
著者
岡田 光弘 小林 直樹 照井 一成 田村 直之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

次の3点を中心に研究を進めた。1.証明論と意味論の統合的見方について研究を進めた。カット消去定理等の証明論の基本定理の成立条件がPhase semanticsによる意味論的分析により明らかになることを示した。又、Simple logic等の線形論理の基礎理論に対して、証明論と意味論の統合を進めた。さらに、直観主義論理Phase semanticsと古典論理Phase semanticsとの密接な関係を明らかにした。Phase semanticsの成果に基づいてカット消去定理の意味論的条件の研究を進めた。2.Reduction Paradigmによる計算モデルとProof-Search Paradigmによる計算モデルを統一的に分析できる論理的枠組の確立に向けた研究を進めた。ゲーム論的意味論等の観点からの分析も加えた。(岡田・Girard等フランスグループとの共同研究)これまでのReduction Paradigm(関数型言語の論理計算モデル)とProof-Search Paradigm(論理型言語や証明構成の計算モデル)の内的な統合を可能にするLudics等の新たな論理体系理論の分析をGirardグループらと共同で行なった。3.線形論理的概念がプログラミング言語理論やソフトウェア形式仕様・検証理論、計算量理論等にどのように応用され得るかのケーススタディーを行なった。例えば昨年に引き続き、ダイナミック実時間システムのシステマティックな設計・検証や認証プロトコル安全性証明等を例にとり、線形論理的観点や手法の応用可能性を示した。この目的でフランス及び米国共同研究グループとの共同研究を行なうとともに、計3回の成果報告会を日仏共同で行った。
著者
横山 斉理
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

研究成果は、大きくは以下の4点にまとめられる。第1は、スーパー業態のマクロ指標の整理により、日本の流通構造における中小商業者の位置づけを確認することができた。第2は、事例研究により、小売業の店頭従業員においては、店頭従業員特有の知識構造プロセスが存在することを確認した。第3は、小売店舗への来店客から得られたデータを顧客満足度モデルを用いて分析した結果、一見不利に思われる価格において優位性がみられることが確認された。第4は、小売店頭の従業員から得られたデータの分析結果から、店頭従業員の能力獲得には外部環境のプレッシャーがポジティブに働く場合とネガティブに働く場合があることが確認された。
著者
東 利一
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は,サービス・リレーションシップの創出プロセスの解明であった。「新規顧客をどのようにして固定客にするか」という問題意識のもと,百貨店・ブランド化粧品の新規顧客との関係において,以下の2点が明らかになった。①関係性構築のためには,新規顧客の接客当初から信頼の提供が重要である。②関係性構築のためには,新規顧客の接客当初から親近感というBCの魅力が重要である。
著者
中西 竜也
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

近代に活躍した著名な中国ムスリム学者、王静斎が著した、コーラン(クルアーン)の漢語注釈、『古蘭経訳解』の内容を、その典拠となったアラビア語・ペルシア語のコーラン注釈と比較しつつ検討し、とくに次の二つの点を明らかにした。第一に、当該漢語注釈書においてその中国ムスリム学者は、聖戦や、それによって防衛すべきウンマ(ムスリム共同体)についての教説を、近代の中国社会やイスラーム世界の歴史的諸状況に応じて、どのように表現したか。第二に、近代イスラーム世界でしばしば批判にさらされた、スーフィズム(イスラーム神秘主義)、とくに聖者崇拝をめぐる問題を、どのように語ったか。
著者
高永 茂 小川 哲次 木尾 哲朗 田口 則宏 永松 浩 鬼塚 千絵 西 裕美
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究ではまず医療現場において画像資料を収集した。収集した画像データをRIAS、社会言語学、語用論の3つの方法を用いて分析した。さらに質的研究法と量的研究法に関して、多方面から検討した。RIASは基本的に量的研究法に立脚する分析手法である。もう一方の言語学分野の分析手法は、質的な研究を基本にすることが多い。この両者を融合させるためにマルチモーダルな研究法に注目して新たな分析手法を模索した。また、「医療コミュニケーション教育研究セミナー」を開催して多職種間の学術的交流を図った。なお、データの収集は各研究機関の倫理委員会の審査を経て行った。
著者
堀田 真紀子 玄 武岩 西村 龍一 田邉 鉄 宇佐見 森吉 川嵜 義和 坂巻 正美 富田 俊明 常田 益代 竹中 のぞみ 原田 真見 浜井 祐三子 石橋 道大
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、文化の持つエンパワメント機能に注目し、地元北海道を中心に、小規模農業従事者、障害者、少数民族といった社会的、経済的弱者を主体にしたり、対象にした文化発信を研究。全員がイニシアティブを担える脱中心的な構造を持つものほど、当該者のエンパワメントにつながること、また地域の立場と、海外の類似事例の担い手との交流や、実践者と研究家の交流が、とくに効果的に働くことを明らかにすることができた。
著者
鍵 直樹
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

フタル酸ジエチルヘキシルのような準揮発性有機化合物(SVOC)は,喘息だけでなく化学物質過敏症の原因になっている。室内空気中のSVOCは,蒸気圧が低いために単体の分子(ガス相)あるいは,浮遊粉じん上(粒子相)の双方に存在する。しかし,これらの分配係数の測定法が必ずしも確立されているとは言い難い。そこで本研究では,超音波アトマイザで関東ロームの試験浮遊粉じんを発生させて,拡散チューブを用いてガス相および粒子相のDEHPの分離測定を行うことを試みた。その結果の1つとして,特定の条件下においてガス状DEHPの試験浮遊粉じんへの吸着特性はラングミユア型を示すことが示唆された。
著者
佐治 英郎 荒野 泰 前田 稔 井戸 達雄 大桃 善朗 中山 守雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

細胞殺傷性の強い高エネルギーβ線を放出する放射性核種を結合した化合物を体内に投与して癌細胞周辺に送達・集積させることにより、その放射線が透過する範曲内で癌細胞を直接死亡させることが可能となる。この『内用放射線治療薬剤』の開発するために、本研究では、有効な放射性核種の選択とその製造方法、充分な治療効果を得られる放射能のデリバリーシステムの構築・担体分子への旅射性核種の効率的結合法、放射線量に関する放射線生物学的評価等について総合的に調査し、以下の結果を得た。1.癌の治療に十分な飛程、線量などを与える放射性核種の選択を行い、放射性ヨウ素-131、レニウム-186、 188、ルテチウム-177、銅-64等のβ線放出核種が有効であることを認めた。2.1での選択された旅射性核種の製造のための核反応の選択、製造方法、他施設への運搬、院内サイクロトロンによる製造系について、時間、方法を含めてシュミレーション的に調査し、これが可能であることを見出した。3.放射性同位元素を用いた癌の治療には、癌細胞自身あるいはその周辺に多量の放射能を集積させること、および非標的組織からの速やかな放射能の消失を達成するために、放射能のキャリア分子を探索し、抗体、リポソーム、核酸、腫瘍部位に発現受する容体結合物質などにその可能性があることを認めた。4.「がんの内用放射線治療薬剤の開発に関するシンポジウム」を開催し、上記の結果を報告すると共に、それに関して、他の薬学、臨床放射線治療分野、核医学診断分野などの医学、核反応と放射性核種の製造分野の研究者と癌の内用放射線治療薬の有効性について討議した。この結果は今後の内用放射線治療薬の開発研究に有益な情報となった。
著者
佐保 賢志
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本年度の研究では、前年度に提案したUWBドップラーレーダ干渉計法を、複数人体・複数目標へ適用する手法を検討した。まず2人の歩行人体が同時に計測される場合において、ドップラーレーダイメー一ジの判別分析に基づく両人体の分離識別法を提案した。提案手法は、得られたイメージと受信信号電力に基づき、各人体のイメージから教師データを計測毎に抽出し、得られた教師データを用いたサポートベクターマシンを適用する。提案手法を実環境下に適用した結果、ドップラー効果の利用のみでは分離識別が困難なほぼ同速度で歩行する2人体の分離識別に、95%の確率で成功した。本成果は判別分析技術とレーダイメージング技術の融合であり、両者の適用範囲を広げることにも貢献した。続いて、UWBドップラーレーダ干渉計を3人以上の目標に適用し、その特性を調べた。その結果、各人体のわずかな運動の変化に基づき、観測範囲内の4人程度の歩行者をイメージングすることができた。次に、これらの歩行者の分離並びに人数推定のため、得られたイメージのクラスター分析を行う手法を提案した。提案手法により、2~4人の人体の人数推定が実現した。この成果により、通常の会議室や交差点などにおいても、レーダによる監視技術が適用可能となり得ることを示した。さらに、複数目標を分離・追跡するのみでなく、詳細な形状の情報を把握する手法を提案し、数値計算によりその有効性を実証した。提案手法では追尾フィルタにより各目標の運動推定を行い、UWBレーダで得られた散乱点軌道を推定運動で保証することで形状推定を実現する。同手法により、人体の両腕及び胴体を仮定した目標の高精度イメージングが実現し、レーダによる人体識別のさらなる高度化が期待できることを確認した。
著者
天野 真輝
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究ではマルチホップ・メッシュネットワークの具体的な事例として,ノードに音響センサを搭載したセンサーネットワークを取り上げ,アプリケーションをベースとして通信や情報処理の手法を解析および提案した.平成19年度の主要な研究成果としては1.平成18年度に開発したセンサーノード間の無線通信プログラムライブリを作成することで,拠点ノードへ情報を集中転送させるスター型の通信構造を可能とした.この通信プログラムを用いることで,センサーノードを空間的に複数配置して広範囲の音声情報計測を可能とした.2.単一のセンサーノードによって計測された足音情報に対して,3つの特徴量を提案し歩行者数の推定との関係を解析した.提案した特徴量はそれぞれ・計測時間内パルス数:計測時間8[s]内において,一定のしきい値を超えた信号の総数・1パルス信号の強度平均:時間0.125[s]内に含まれる一定のしきい値を超えた信号列を1パルスとして考え,1パルスに含まれる信号強度の平均を取ったもの・全信号平均強度:一定のしきい値を超えた信号に関する平均強度を考えた.計測時間内パルス数および1パルス信号の強度平均は歩行人数に対して比例関係があり,全信号平均強度は無相関であった.このため前者2つの特徴力が歩行者数の推定の指標となる.結果として単一のセンサーノードで得られる局所的な足音情報によって歩行者数の推定が可能となった.さらに局所的な処理手法の提案によって通信負荷を増加させることないシステムの構築ができた.
著者
石井 啓豊
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、図書館が担ってきた社会的共有のための知識資源基盤としての役割をネットワーク上で実現する知識資源コモンズに注目し、特に、ピアプロダクションに基づく知識資源コモンズ(KRCP)と伝統的図書館の成立に関する組織論的、経済学的な理論枠組みを明らかにすることである。本年度は21年度末に実施した市民による資料アクセス行動の調査結果の分析を行い、リアル書店や図書館、ネットワーク上の書店や情報源へのアクセスなど多様な側面に関する行動実態が明らかにした。また、一般市民がネットワーク上で知識資源を共有できる代表的なサイトについて、提供内容、方法、知識資源の形成、サイトの経済的裏付け等に関する調査を行った。この2調査と公共図書館のサービス展開に関する調査(21年度)、および文献調査に基づいて図書館とKRCPに関する多面的な検討を行い、論点整理と理論的枠組みの可能性を探った。主な論点と検討事項は、(1)図書館の機能特徴と組織的位置付けの分析、(2)図書館サービス展開の構図の検討、(3)コモンズの視点からみた図書館協力活動の分析、(4)ネットワーク利用者の資料アクセス行動、(5)経済制度の理論を援用した図書館制度成立の理論化の検討、(6)知識資源コモンズに関して、知識資源共有過程と機能、目的領域と活動領域、参加者、コミュニティ、コモンズ成立の組織論、知識資源の社会的配分などの論点と問題構造の検討などである。その結果、伝統的図書館成立の理論化の基本的構図と図書館によるコモンズ的活動の構図を得ることができた。その構図は必ずしも図書館の社会的機能としての知識資源共有を担うネットワーク上のコモンズの可能性を示唆するものではなかったが、一方、それを知識資源の社会的配分問題として理論化することの可能性が明らかになった。
著者
水口 雅 山内 秀雄 伊藤 雅之 高嶋 幸男 岡 明 齋藤 真木子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

急性壊死性脳症(ANE)と痙攣重積型急性脳症(AESD)の病因を解明するため、遺伝子解析を行った。全国的な共同研究により日本人患者の末梢血検体を集積し、候補遺伝子の変異・多型を調べた。AESD の発症にミトコンドリア酵素 CPT2 多型とアデノシン受容体 ADORA2A 多型、ANE の発症に HLA 型が関与することが明らかになり、病態の鍵となる分子が同定された。日本人の孤発性 ANE は、欧米の家族性 ANE と異なり、RANBP2 遺伝子変異が病因でないことが判った。
著者
河岡 義裕 新矢 恭子
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では、高病原性H5N1鳥インフルエンザによるパンデミックの危機に備え、H5N1ウイルスの生物学的性状を分子レベルで解析した。H5N1ウイルスがヒトへ伝播するために重要な様々なアミノ酸を特定するとともに、ヒトの呼吸器におけるレセプター分布などを明らかにし、鳥インフルエンザがヒトへ伝播するメカニズムを解明した。また、本研究期間中にパンデミックが発生したことから、H5N1ウイルスのみならず、パンデミックウイルスの抗インフルエンザ薬耐性ウイルスの出現頻度や、出現メカニズムを明らかにした。さらに、インフルエンザウイルスの粒子形成について解析を行い、ゲノム-ウイルス蛋白質複合体の立体構造を明らかにし、8本のゲノムの粒子への取込機構の一端を明らかにした。本研究により得られた成果は、次のパンデミック予測、感染拡大阻止、薬剤開発などに役立つものとなる。
著者
秋葉 剛史
出版者
埼玉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

「唯名論を現代的な観点から彫琢し擁護する」という本研究の目的の達成に向け、平成25年度中に以下のような研究を行った。まず、博士論文の内容を発展させ、より包括的な議論に仕上げた。同論文では、「単純な述定命題のtruthmaker(この種の命題を真にするもの)」という理論的役割に注目し、この役割を果たす存在者は実在論の枠内(事態説)でよりも唯名論の枠内(トロープ説)でこそ満足な仕方で与えられると論じた。昨年度はこの議論を拡張し、truthmaker概念を採用することの動機づけをより丁寧に補強するとともに、従来この概念を採用することの一つの障壁とみなされていたスリングショット論法に応答する論考を加えた。以上の内容は、学術単著『真理から存在へ――<真にするもの>の形而上学』として近日出版予定である。また、現代形而上学の成果をドイツ・オーストリア学派の理解にフィードバックする一つの試みとして、現代形而上学における有力学説の一つである「性質の因果説」の見解を、特にE・フッサールが展開した性質・物体構成論を読み解くための手がかりとして用いることを試みた。その成果は、第12回フッサール研究会シンポジウムにおける提題として発表した。さらに、「実在論と唯名論」という理論的対立の基本に立ち返り、その意義をより広く非専門家に知らしめることを目指し、次の仕事も仕上げた。一つは、現代形而上学全般についての著作『ワードマップ現代形而上学』(新曜社、2014年)であり、この中で私は「普遍」「個物」「形而上学手のさらなる広がり」という三つの章の執筆を担当し、形而上学的対立を検討する一般的な意義とその方法について特に丁寧に紹介した。もう一つは、現代哲学において普遍の問題について論じるための必読文献となっているD. M. ArmstrongのUniversals : An Opinionated Introductionの翻訳であり、この中では詳細な訳注によって著者の議論を補足するとともに、この問題のそもそもの背景や争点についても解説した。
著者
横山 俊治 柏木 健司
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

四国山地では付加体の硬岩が滑っている.四国山地の尾根は、至る所で、約100年に一度発生する南海地震によって裂けている.この裂け目に流れ込んだ雨水が特定の岩相の地層を劣化させ、劣化した地層には初生地すべりのすべり面が醸成されていく.付加体地すべりは尾根の裂け目から滑り出し、地すべり末端の侵食がなくても滑動を続ける.