著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.42-56, 2023 (Released:2023-01-31)
参考文献数
3

ベネズエラは2014年以降7年連続のマイナス成長が累積し、経済規模(GDP)が5分の1に縮小するという未曾有の経済危機を経験した。同時にハイパーインフレにも悩まされた。それが2021年後半以降、経済成長率がプラスに転じるとともにインフレ率が100%台にまで低下した。ベネズエラ経済が好転の兆しをみせている背景には何があるのか。本稿では、「やむにやまれぬ」マドゥロ政権による国家介入型経済政策の緩和と事実上のドル化の広がりを指摘する。
著者
西野 友年 日永田 泰啓 奥西 巧一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.763-771, 2000-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
22
被引用文献数
4

多粒子系の基底状態や素励起を観察したければ,理論武装するのも一法ですが,ともかく系のハミルトニアンを計算機で対角化して,まずは物理現象を目前で観察するのも賢明な選択肢です.しかし相手は天文学的な自由度を持っ問題だけに,数値的対角化を適用できる系のサイズには強い制限があります.約10年前のこと,S. R. Whiteはこの制限をアッと驚く密度行列の使用法により取り払いました.密度行列を介して出現頻度の低い状態を無視することによって,系の物理的性質を高い精度で保ちつつ数値計算で取り扱うべき自由度を劇的に減らして見せたのです.この方法は密度行列繰り込み群と呼ばれ,多粒子系の数値実験的解析に活躍しています.
著者
堀江 秀樹 氏原 ともみ 木幡 勝則
出版者
Japanese Society of Tea Science and Technology
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.91, pp.29-33, 2001-07-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
7
被引用文献数
8 4 8

キャピラリー電気泳動法を用いて,茶葉中の主要カテキン類,テアニン,カフェインの茶浸出液への溶出特性について解析した。主要カテキン類の中でも,エステル型カテキン類は遊離型カテキン類に比べて溶出されがたいこと,カフェインは低温では時間をかければ溶出され,また高温では極めて溶出されやすいことが明らかになった。
著者
藤本 義一
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.511-514, 1976-07-15 (Released:2011-11-04)

洋酒ブームといわれてからすでに久しい。どこの家庭にも洋酒のボトルが見られるようになった。しかし, その伝来の歴史となると, 知る人は意外に少いように思われる。ここに洋酒界に著名な筆者に, 洋酒伝来をお書き願った。筆者は憶測で物事を晒ることを好まないという。氏の史観は, 資料を丹念にあたリ, 資料からうらづけられた事実を曲げることなく記すことだという。その理詰めに展開される洋酒伝来の歴史の中に, 読者は自然に魅きこまれていくことだろう。まずはご一読を
著者
西道 啓博
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.656-665, 2022-10-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
37

宇宙開闢後わずか38万年後の姿を捉えた,宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background, CMB)は,観測可能な最大スケールにおける宇宙の姿を明らかにした.全天のあらゆる方向から届く,灼熱のビッグバン宇宙の黒体輻射の名残りは,到来方向に依存してO(10-5)の微小な温度の違い(揺らぎ)を示しており,その詳細な分析がΛCDMモデルと呼ばれる現代の標準宇宙モデルの確立に決定的な役割を果たした.ところが,最近になってCMBと近傍宇宙の観測との矛盾が取り沙汰されている.ハッブルテンションと呼ばれるこの問題は,ΛCDMモデルの綻びを示しているかもしれない.CMB期から遥かな時を経て,微小な種揺らぎは重力により増幅され,やがて形作られる星,銀河,銀河団といった階層的な宇宙の大規模構造.宇宙初期の姿を2次元天球面上のスナップショットとして写し出したCMBに対して,大規模構造は非線形進化を経て作られた複雑なネットワーク状の3次元パターンであり,潜在的により多くの情報を有している.時間的にも距離スケール的にもCMBとは相補的な大規模構造は,ΛCDMモデルの妥当性をより厳密に検証する可能性を秘めている.大規模構造の観測データから宇宙モデルやそこに内包される宇宙論パラメータを導くには,理論予言と観測データの比較に基づく統計推論が必要となる.様々なモデルとパラメータの組み合わせの中で,観測を最もよく再現するものは何かという問題である.これを高精度に行うには精巧な理論予言が必要となる.宇宙の構造形成シミュレーションは,計算コストの高さから長らく統計推論への応用が叶わなかった.近年飛躍的に進展したデータ科学的方法論は,文字通り天文学的に大容量のデータを用いて人類が実証可能な最大スケールの現象を解き明かそうという宇宙論においても有用である.上記の問題は,いわゆる「シミュレーションに基づく推論」の範疇にあり,宇宙論,物理学だけに留まらず気象科学,生態学,疫学,分子動力学,工学,経済学などの諸分野に共通する大きなテーマとなっている.シミュレーションに基づく宇宙論を可能とすべく,我々は大規模シミュレーションデータベースの構築と,エミュレータの開発を目的とした「ダーククエスト計画」を2015年より推進している.2018年には初期のデータベースに基づく,ソフトウェア「ダークエミュレータ」の完成を見た.その後,模擬観測データを用いた種々のテストをクリアした後,このほどすばる望遠鏡が世界最高精度で測定した重力レンズ効果,およびスローン・デジタル・スカイ・サーベイが提供する現存する最大の銀河の3次元地図へと応用し,遂に宇宙論的帰結を導くことに成功した.計算コストの大きなシミュレータをエミュレータに置き換えることが,シミュレーションに基づく推論の具体的な実装例として機能することを実証した.今後ますます増える観測データと,先鋭化するデータ科学の方法論の応用は,宇宙論の景色を大きく変えるかもしれない.すばるが,日本が,世界の宇宙論をリードするには,このような新しい手法が導き出した帰結を,どれだけ説得力を持った形で世に提示できるかが1つの鍵になるであろう.今後の展開からますます目が離せない.
著者
増井 啓太 浦 光博
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.330-343, 2018 (Released:2020-01-18)
参考文献数
73
被引用文献数
1

The Dark Triad (DT) is a constellation of three dark personality dimensions, which includes Machiavellianism, psychopathy, and narcissism. It may be that these three personality traits are conceptually distinct; however, they have overlapping features such as callousness and interpersonal manipulation. The DT is characteristic of a maladaptive personality. Previous studies have revealed a positive relationship between DT and socially deviant behaviors and hostile interpersonal cognition. However, individuals with high DT scores are not always self-centered, but show altruistic and prosocial responses in certain situations. In this article, we have introduced the adaptive strategies of people with dark personalities. We then reviewed the associations between DT, social success, attractiveness, and building relationships with other people. Finally, we summarized the significance of adaptive strategies used by people with dark personalities.
著者
堀 洋祐 湯村 翼
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.97-106, 2021-08-23

本研究では,相手の存在を感じる音声通話を実現する糸電話型デバイス“ミエナイトデンワ”を提案する.携帯電話などの音声通話では相手の存在をあまり意識せずに会話することが多い.本デバイスは「見えない糸で結ばれた糸電話」をコンセプトに,2対のコップが空間的に向かい合ったときのみ音声通話を可能とする。会話のために相手と向かい合っているという状況を必要とすることで,相手との繋がりを強く意識した「対話」を実現できる。
著者
尾方 隆幸 大坪 誠 伊藤 英之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.44-54, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
22

琉球弧の最西端に位置する与那国島で,数値標高モデル(DEM)による地形解析と,露頭における地層・岩石と微地形の記載を行い,隣接する台湾島との関係も含めてジオサイトとしての価値を検討した.与那国島の表層地質は,主に八重山層群(新第三系中新統)と琉球層群(第四系更新統)からなり,地質条件によって異なる地形が形成されている.与那国島の代表的なジオサイトとして,ティンダバナ,久部良フリシ,サンニヌ台が挙げられる.ティンダバナでは,八重山層群と琉球層群の不整合が崖に露出し,地下水流出に伴うノッチが形成されている.久部良フリシでは,八重山層群の砂岩が波食棚を形成し,岩石海岸にはタフォニが発達する.サンニヌ台には正断層の露頭があり,断層と節理に支配された地形プロセスが認められる.与那国島のジオサイトは,外洋に囲まれた離島の自然環境や背弧海盆に近いテクトニクスを明瞭に示しており,将来的には台湾と連携したジオツーリズムやボーダーツーリズムに展開させうる可能性を秘めている.そのためにも,地球科学の複数分野を統合するような基礎的・応用的研究を継続することが必要である.
著者
佐藤 英人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.14, pp.907-925, 2007-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
57
被引用文献数
1 5

本研究の目的は, 大規模オフィス開発事業に伴うオフィス移転を, 従来, 住居移動で議論されてきたフィルタリングプロセスを適用して分析し, 新たに供給されるオフィスビルが, 既存市街地内のオフィスビルに対して, 不動産経営上, どのような影響を与えるのかを解明することである. 分析の結果, 横浜みなとみらい21地区には, 横浜市内から転出した企業が多く, 新旧オフィスビル間にはテナント企業の争奪が認められた. 争奪によって空室となった既存市街地内のオフィスビルでは用途転用が確認され, 公共施設や商業施設への転用が認められた. また, 引き続き事務所として利用されたオフィスビルは, 横浜市内への進出を目指す中・小規模企業の受け皿となっている. したがって, 大規模オフィス開発事業に伴うオフィス移転は, テナント企業の連鎖移動を誘発させ, 結果的には, 既存市街地のオフィスビルに入居するテナント企業の選別格下げが起る.
著者
小原 満穂
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.33, no.10, pp.901-918, 1991 (Released:2012-03-23)
被引用文献数
1

我が国では戦前にもシンクタンク的業務は行われており, 特に満鉄・調査部は南満州鉄道が満州を実効ある植民地支配を確立するための解決策を探る目的で設置され, 多くの実績を残した。戦後のシンクタンクブームは3回あり, いずれも社会, 経済のパラダイム変革期にあたっていることが特徴である。我が国の代表的大型シンクタンクのうち野村総研は合併によりシステム機能強化の先陣を切り, シンクタンク機能をSI業務の上流に位置づけている。三菱総研は正統派シンクタンクを目指し高等研究学院や研究開発用のラボラトリーを設置している。大和総研はシステムを利用した経済予測に力を入れている。富士総研はマクロ経済を中心とした政策提言, 解析技術を重視している。日本総研は地域開発, 先端技術の研究開発を特徴としている。
著者
滝澤 旭 佐々木 文雄 小池 和弘 奥田 舜治 大沢 伸孝
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.640-645, 2020-10-25 (Released:2020-10-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1

我々は,尿遠心上清液中に24種類の蛍光物質の検出,確認し報告している。今回,尿沈渣中に蛍光を持つ結晶(無晶性尿酸塩,尿酸アンモニウム塩,尿酸),精液や糞便由来と思われる植物繊維,ムコ多糖体様物質,花粉などが蛍光を持つことを確認した。尿沈渣から分離精製した無晶性尿酸塩,尿酸結晶などのブタノール抽出液の蛍光スペクトル分析,薄層クロマトグラフィー(thin-layer chromatography; TLC)分離から,これらの結晶に4~7種類の蛍光物質の存在を確認した。これらの蛍光物質は結晶や結石形成時,尿の上清液中に存在する蛍光物質が取り込まれたものであると推察した。
著者
Tetsuma Kawaji Satoshi Shizuta Takanori Aizawa Shushi Nishiwaki Takashi Yoshizawa Suguru Nishiuchi Masashi Kato Takafumi Yokomatsu Shinji Miki for the TRANQUILIZE AF Registry Investigators
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
pp.CJ-23-0263, (Released:2023-09-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Background: This study assessed the prognostic importance of B-type natriuretic peptide (BNP) concentrations for clinical events after catheter ablation for atrial fibrillation (AF).Methods and Results: We enrolled 1,750 consecutive patients undergoing initial AF ablation whose baseline BNP data were available from a large-scale multicenter observational cohort (TRANQUILIZE-AF Registry). The prognostic impact of BNP concentration on clinical outcomes, including recurrent tachyarrhythmias and a composite of heart failure (HF) hospitalization or cardiac death, was evaluated. Median baseline BNP was 94.2 pg/mL. During a median follow-up of 2.4 years, low BNP (<38.3 pg/mL) was associated with lower rates of recurrent atrial tachyarrhythmias than BNP concentrations ≥38.3 pg/mL (19.9% vs. 30.6% at 3 years; P<0.001) and HF (0.8% vs. 5.3% at 3 years; P<0.001). Multivariable Cox regression analyses revealed that low BNP was independently associated with lower risks of arrhythmia recurrence (hazard ratio [HR] 0.63; 95% confidence interval [CI] 0.47–0.82; P<0.001) and HF (HR 0.17; 95% CI 0.04–0.71; P=0.002). The favorable impact of low BNP on arrhythmia recurrence was prominent in patients with paroxysmal, but not non-paroxysmal, AF, particularly among those with long-standing AF.Conclusions: Low BNP concentrations had a favorable impact on clinical outcomes after AF ablation. The heterogeneous impact of baseline BNP concentrations on arrhythmia recurrence for the subgroups of patients divided by AF type warrants future larger studies with longer follow-up periods.
著者
杉森 玲子 前野 深
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.59-73, 2023-06-30 (Released:2023-07-27)
参考文献数
41

Historical materials have revealed that the Hokkaido-Komagatake Volcano erupted in 1640. In this study, we reviewed in detail the historical materials from a period closer to the eruption, which had yet to be investigated. We then evaluated the reliability of the historical materials and tried to interpret their descriptions from a volcanological point of view. As a result, we found descriptions that support the previous understanding of the number of deaths, tsunamis, and volcanic edifice collapses, or provide more detailed information. In contrast, we also found descriptions of the duration of the 1640 eruption, which lasted about one day and night, of the fallout tephra containing charred wood chips suggesting the occurrence of high-temperature phenomena and subsequent buoyant plumes, and of the volcanic activity that continued for a long time after the eruption. Examination of these historical materials revealed a picture of the eruption that could not be understood from the historical materials used in the past. This study demonstrates that investigating the characteristics of historical materials and the reliability of their descriptions and comparing the information obtained from them with volcanological knowledge can be useful in clarifying the phenomena and processes of past volcanic eruptions.