著者
野呂 影勇 落合 勲 井上 哲理
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究は、コンピュータを中心としたマシンへの人間の感情の働きかけ、マシンからのメッセージに対する人間の受けとめ方に関する研究であり、その調査では対人行動の分析、特に交流分析を援用して深層面接を行った。そして面接結果をもとにコンピュータ操作場面の分析を行った。分析から以下の知見を得た。1.コンピュータに対するさまざまな態度基本的には大人(A)と大人(A)の理性的な交流、自分をコンピュータに順応させていく(AC)ような交流をとっている。しかし、エラーや不測の事態が起こった場面では攻撃的な傾向、動揺して萎縮する傾向(AC)、成果がでた時には自然な感情表現(FC)ややさしい言葉をかける(NP)などのさまざま態度をとっていることがわかった。2.交差交流(くいちがい)が起こっている順応したこども(AC)からコンピュータを罵倒するなどの態度をとる、あるいは養育の親(NP)から「がんばって」といった働きかけをするなどの働きかけを行っても、コンピュータからのメッセージが理性的な大人(A)の立場から発せられているため交流にくいちがいがおこっていた。3.熟練者のマシンとのやりとりの特徴コンピュータの熟練者達は、マシンとの表面のメッセージ上の理性的な大人(A)と大人(A)のやりとりのみならず、子供(C)や親(P)の状態にメッセージを自分なりに置き換えて使用していることが分かった。これらの結果から、操作者の情緒や感性を誘発し、創造的な作業を可能にするためには、人間の自由な子供(FC)の引き出す養育の親(NP)や自由な子供(FC)部分をコンピュータにもたせることが必要であると思われる。
著者
木下 謙治 山下 祐介 吉良 伸一 坂本 喜久雄 米澤 和彦 篠原 隆弘 岩元 泉
出版者
福岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1. 九州の農業は、国内での農業生産のシェアを伸ばし、生産額も全国平均をかなり上回る数値をあげてきた。しかし、農外所得が低いために、農家所得は都府県平均の8割程度にとどまっている。2. 九州の各地で、佐賀県の代表的な水田地帯のようなところまで含めて、有力な専業農家は稲作への依存度を低めている。土地利用型農業の衰退化といえるが、それとともに、水田を如何に維持してゆくかが大きな問題となってきている。集落営農、機械共同利用組合、農作業センターなど様々な共同が必要となってきている。3. 南九州を中心とする畑作地帯では、茶、疏采園芸、花卉、畜産など多様な生産活動が展開しており、水田地帯よりも見通しは明るい。畑作地帯が有望となってきた背景には畑地潅漑が進展してきたことが大きい。いっそうの潅漑施設の整備が望まれる。゛4. 中山間地の農林業については、大分県上津江村でみたように、複雑な山間立地にみあった複合経営が必須である。そして、それを補うものとして、地場産業起こしが必要である。いわゆる、官民一体の地域づくりの運動の中に農林業を位置づけねばならない。5. 九州の農業を担っている中核的農家は、直系的家族である。家的な構成は、やはり、農家では今後とも維持されてゆくであろう。家=家父長制と考える必要はない。21世紀においても、農業の中心的な担い手は農家であると思われる。6. グローバルにみれば、九州農業は、日本農業と同じく零細な小農経営にとどまっている。むらに関わる共同は、なお、必要である。しかし、自治組織と生産組織との乖離は進んでいる。新しい農村コミュニティの形成も視野にいれなければならない。
著者
松岡 心平 天野 文雄 磯田 道史 小川 剛生 落合 博志 高桑 いづみ 高橋 悠介 竹本 幹生 橋本 朝生 姫野 敦子 宮本 圭造 山中 玲子 横山 太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、観世文庫が所蔵する貴重な能楽関係文献資料の調査・整理・保存・公開によって、今後の能楽研究の発展の基礎を築いた。資料はマイクロフィルムに撮影・保存したうえで、これをデジタル画像化し、文献調査に基づく書誌情報と統合してデータベース化した。これはデジタルアーカイブとしてWeb上に公開され、資料が世界中から検索・閲覧可能になった。さらに「観世家のアーカイブ展」の開催を通じて、研究によって得られた知見の普及をはかった。
著者
表 章 竹本 幹夫 山中 玲子 西野 春雄 表 きよし 橋本 朝生 天野 文雄 松岡 心平
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、能楽が現代にいたるまでの問に全国各地でどのように成長・発展したかを具体的に跡づけ地方能楽史の体系的な位置づけを行うことを最終的な目標として、(1)全国の地方諸藩の能楽資料の残存状況を調査し、(2)藩政日記中の演能記事、演出資料、演能記録等を可能な限り収集・整理し、(3)地方各都市における能楽の浸透の程度や演能の際の経済的基盤、役者確保の方法、技法の伝播の仕方など、様々な問題を具体的な資料によって跡づける作業を行ってきた。その結果、資料収集の面では、予想通り各藩の藩政日記は能楽資料の宝庫であることが確認され、特に東北・北陸諸藩を中心に撮影・収集が進んだ。が、逆に、量があまりにも厖大なため、これらの大藩や江戸・京・大坂といった大都市の状況については全体を俯瞰する論をまとめるまでに至らず、基礎資料としての能楽関係記事年表や、個々の役者に関する考察等、一側面を切り取った論考を掲載することになった。一方、比較的資料が限られた小藩に関しては、調査・考察が行き届き、複数の都市について、まとまった研究成果を挙げることができた。その結果、江戸時代には大都市のみならず、地方の小都市においても、それなりに能楽への取り組みが行われていたこと、能の演じ手を確保するために他藩の役者に協力を仰いだり素人の教育を任せたりするシステムや、地方在住役者間のネットワークのようなものができていたことも、新たに判明した。この他、名古屋の笛方役者、藤田六郎兵衛家蔵の能楽文書悉皆調査と撮影も、本研究の成果の一つであるが、これについては別途資料目録を作成すべく、準備中である。
著者
安田 一郎 渡邊 朝生 日比谷 紀之 川崎 清
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では「北太平洋中層水の元である亜寒帯水の亜熱帯への中層への流入が変化することにより、黒潮・黒潮続流の表層海流系を長期的に変化させる」という作業仮説を立て、データ解析・数値モデル実験・観測を行った。まず、(1)流速等観測資料を整理することにより、親潮水が西岸境界流として南下し風成循環境界を横切って亜熱帯循環域に流入する過程と亜寒帯前線に沿う渦混合過程の2つの過程を通じて、計10Svもの亜寒帯水が亜寒帯から亜熱帯へ輸送されることが明らかとなった。(2)北太平洋水平1/4度の3層モデルを用いて、オホーツク海における中層の層厚を観測データに合うように深層から中層へ等密度面を横切る輸送3Svを与えた結果、ほぼ同じ量の海水が西岸境界付近の親潮を通じて循環境界を横切り、亜熱帯循環域に流入することが明らかとなった。オホーツク海周辺海域での強い潮汐混合に伴う等密度面を横切る湧昇とオホーツク海低渦位水の形成・親潮南下・亜寒帯から亜熱帯への中層水輸送の関係を理論的に解明することができた。(3)黒潮続流域において、垂下式超音波流速計・走行式水温塩分プロファイラによる詳細な観測を行い、黒潮続流中層に、波長約200kmの前線波動が存在し、この波動が下流方向に向かって振幅を増加・砕波することによって2つの異なる水塊が効率良く混合することが明らかとなった。
著者
丹治 愛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ヴィクトリア朝英国における生体解剖をめぐる論争は、めざましい発展を示しながら唯物論化していったヴィクトリア朝の科学(生体解剖とはそのような科学の典型としての生理学が生み出した新しい科学的方法だった)と、18 世紀後半以降、福音主義などの影響とともに発展していた動物愛護の文化が真っ向から衝突した事件であった。そのようなものとしての生体解剖論争のなかに、そしてその論争のディスコース圏のなかで書かれた多くの文学作品(たとえばウィルキー・コリンズの『心と科学』、H・G・ウェルズの『モロー博士の島』、G・B・ショー『医者のジレンマ』など)のなかに、われわれは、宗教性を離れて没道徳的に真実を追求しはじめた唯物論的な科学にたいするヴィクトリア朝人のさまざまな反応を見てとることができるだろう。
著者
西川 精宣 森 隆 狩谷 伸享 池下 和敏
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、racemic ketamineと比べて強い鎮痛作用、睡眠作用を持つS(+)-ketamineの硬膜外投与と全身麻酔薬を同時投与した場合の循環に対する作用の機序を解明することである。Whole animal study(ウサギ)で1%(0.5MAC)イソフルレン麻酔下に racemic ketamine,S(+)-ketamineを0.5mg/kgおよび1.0mg/kg下胸部硬膜外投与すると、ともに動脈圧、心拍数、腎交感神経活動のは有意に低下したが、この投与量の範囲では用量依存性も異性体特異性も支持する結果は得られなかった。また、Muscarine M2受容体やNOの関与も否定的であった。ウサギ定流量ランゲンドルフ標本でracemic ketamineとS(+)-ketamineのdose-response curveを作成した結果では、IC_<50>はともに300μM前後の高濃度であり、2剤間で有意差を認めなかった。両者が持つナトリウムチャンネルの遮断作用が高濃度で神経周囲に分布したため差が出なかった可能性がある。当初、脊髄の中間質外側細胞柱の細胞を培養してパッチクランプ法で検討する予定であったが、分離・培養に難渋した。継代培養したラットのmicroglial cell lineが入手できたので、この細胞でPatch clamp studyでの実験を施行したところ、イオンチャンネル型ATP受容体のP2X7受容体の電流に対しては、臨床濃度のチオペンタールでは増強作用があったが、臨床濃度(100μM)のケタミンでは有意な作用を示さなかった。一方、高感度でリアルタイムに組織のATP濃度を測定できるバイオセンサーを用いて、細胞外伝達物質としてのATPの増減を脊髄で調べ、交感神経活動との伝達機構としてのATPの役割の検討を試みた。低酸素刺激をはじめとした神経障害誘発で脊髄のATP濃度と交感神経活動の変化を測定し、S(+)-ketamineとracemic ketamineの作用の検討を行った。しかしながら、さまざまな神経障害刺激を負荷しても脊髄の細胞外ATP濃度の上昇が観察されず、バイオセンサー自体のATP特異性反応にも疑問が持たれた。
著者
奥原 真哉
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は将来を担う小中学生の自然エネルギーについての学習の一助となり、ものづくりへの意欲と興味の向上に繋がることをねらい、直線翼垂直軸風車を用いた環境教育教材の開発を目的とした。研究内容として簡易製作が可能な直線翼垂直軸風車の工作キットの開発と、それを用いたものづくり教室を開催し、環境教育教材の有効性を検討した。簡易製作型工作キットは風力発電についての教材としては稀である垂直軸風車により開発した。翼型はNACA0018とし、金型を用いた樹脂成形により製作した。その他の部品もりベット等により固定ができる簡易組み立てが可能な構造とすることにより、ヤスリ等の手工具だけで製作することができ、小学生の低学年でも製作が可能な教材となった。また、ひと目で発電を確認できるよう、LEDと電子オルゴールを使用した。LEDは色の異なるものを複数用いることにより風車の出力の大きさを確認できる。ものづくり教室は小中学生を対象に、開発した工作キットを用いて実施した。ヤスリを使用して部品の角の仕上げと発電機やLED、電子オルゴールの配線、部品の組み立て調整を行った後、扇風機を使用して製作した風車の発電を確認する簡単な実験をするという内容で実施した。教材の有効性の検討材料とするため、受講者とその保護者にアンケート調査を行った。アンケート結果は再生可能エネルギー(風力エネルギー)やものづくりに対して関心が深まったという回答が多数であり、総じて良い評価となった。しかし、回転している風車が危険であるという意見もあり、風車キットの改善点も示された。また、開発した教材の製作コストも課題として残った。アンケート結果などから本研究で開発した環境教育教材は小中学生の風力エネルギー利用についての学習の一助となり、環境意識の啓蒙と創造(ものづくり)への意欲・興味の向上に寄与するものになると思われる。
著者
清水 紀芳
出版者
電気通信大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は,身体性を有するユーザインタフェースに関する研究における最終年度に当たり,初年度及び次年度の研究成果を用い,ユーザインタフェースが身体性を持つことの意義に関する調査と,人型ロボットの動作生成や運動を指示するための操作方法の検討を行った.情報世界内の人と同様の身体性を持つCGアバタを操作する際に,それと同形状のロボットをユーザインタフェースとして用意する.そして,ロボットとCGアバタの動作を同期させることで,ユーザは直感的にCGアバタを操作することが出来る.この身体性を有するユーザインタフェースでCGアバタを操作するシステムを,日本科学未来館にて4ヶ月間展示を行い,ワークショップも数日間開催して一般の人々に体験してもらうことで,人型ロボットをユーザインタフェースとして使用する意義に関して知見を得ることが出来た.また,人型ロボットの動作や運動を指示する操作手法として,カメラ画像内に映るロボットに対して直感的にペン入力で操作を行うシステムを作成した.これは拡張現実感技術を組み合わせる事により,モニタ上にペンで移動方向を指示することにより,実世界のロボットを直感的に指示した方向へ歩行させることや,ペンでのジェスチャ入力を用いることにより座る,立つといった複数の動作指示も可能とした.ロボットは多くの関節を持つため,複数の関節を用いた動作を生成する際には多くの時間が必要となっていた.これに対し,CGキャラクタのモーション作成では,逆運動学を用いることで手先位置や胴体の位置を指示するのみで複数の関節を同時に,容易に指示することが可能である.このモーション作成手法を実世界での人型ロボットに対して利用することで,多関節を持つロボットの動作作成を容易にすることを可能にした.
著者
石村 真一
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

家庭電化製品の普及については、1950年代後半より内閣府によって調査が行われて統計化されている。しかし、それは家庭における使用率を単に示しただけで、具体的な使用場面について言及しているわけでもない。また、家電製品の技術革新について触れているわけでもない。本研究においては、戦後に製作された映画の家電製品に関する使用場面を通して、技術革新をどのように生活者が受容したかを探ることを主たる目的としている。使用したVHS、DVDの映画は400本程度である。特に、洗濯機、扇風機、テレビといった大衆の必需品となっている製品を中心に、映画の中から使用場面を摘出した。こうした使用場面を時系列に整理し、使用場面の増減について統計処理を行った。次に、過去の文献史料、フィールド調査等で得た日本の家電史のデータと比較し、技術革新と製品の形態、製品の変化生活での対応という点を考察した。その結果、電気洗濯機は自動化が進み、乾燥まで含めた完全自動化を生活者も望んでいることが読み取れた。扇風機は脚の短い台置き型から、脚の長さを可変するタイプに一部移行するが、それほど大きな変化がないと読み取れた。テレビについては、技術革新が最も顕著に見られ、ブラウン管の変化から液晶、プラズマと変化する中で、テレビの形態も大きく変化している。しかしながら、居間にて家族がテレビを観るという家族での行為は、現在も継承され、一種のコミュニケーションの場になっている。すなわちテレビも含め、家庭用電化製品の技術革新は、常にユーザーの受容があって、成り立っているということになる。映画の場面は、著作権の問題があり、論文を紙媒体で扱う場合は、著作権法32条の引用で対応可能ですが、電子ジャーナル化には許諾が必要になります。この許諾には高額な費用がかかることから、現状では電子ジャーナルへの掲載は極めて難しいようです。
著者
神野 耕太郎 佐藤 勝重 佐藤 容子 酒井 哲郎 山田 幸子 廣田 秋彦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

神経電位活動の光学的測定法は、中枢神経系のシステムレベルでの“機能"や“機能構築"の研究で新しい強力な実験手段とストラテジーとなってきている。ところが、この方法は、二次元計測に限られ、「三次元計測」が出来ないことが一つの大きな難点となており、それを克服するための新しい方法の開発が緊急性を要する重要問題になっていた。このような状況を背景にして、本研究は、「中枢神経系におけるニューロン活動を光学的シグナルとして三次元的に計測する方法を開発し、確立する」ことを目的として行われた。この研究を推進するに当たっては、これまでわれわれのグループで開発してきた「ニューロン電位活動の光学的多チャンネル二次元計測システム」をベースにして、「三次元計測法」をハードとソフトの両側面から検討し、その開発とその適用についての研究を進めた。(1)光学切片法の基本的手法の開発:原理的には光学顕微鏡による三次元画像法に準じる方法で、「形態画像の鮮明度」を「光学的シグナル」に置き換えて処理する。対象標本を光照軸(Z軸)に沿って移動させて焦点面をずらしながら光学切片を作る。各々の切片(焦点面)から光学シグナルを多エレメントフォトダイオードを用いて同時記録し、フォトダイオードに対応する二次元平面(x,y)とZ軸方向に沿って得られるシグナル系列をもとにして、ニューロン活動領域の三次元像を求める手法を開発した。これを主として脳幹に適用し、舌咽神経核、迷走神経核、三叉神経脊髄路核などに対応するニューロン活動領域の三次元像を再構成する方法を導いた。(2)共焦点レーザ走査蛍光顕微鏡を用いる方法:共焦点光学系では合焦点位置と光学的に共役な位置(共焦点面)にピンホールを置き、焦点面を移動させて、厚みのある組織標本を光学的にスライスすることにより、複数の焦点面からシグナル系列が得られる。この方法により、特に脳皮質の層構造に対応するニューロン活動の三次元像を再構成する方法の開発を手がけたが、まだ未完成であり、今後も続けて検討することになった。
著者
平下 政美
出版者
金城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

【目的】最近体温の日内変動パターンが暑熱負荷様式の違いにより特徴的に変化することがラットを用いた実験で示された。本実験では冬期に一日一定の時間に繰り返し運動した後、熱帯地方へ移動することで12日間の連続的暑熱暴露を経験し、再び日本へ帰国したときの、基礎体温の経日的変化や、暑熱暴露経験前後の運動パフォーマンス(最大酸素摂取量:Vo_2maxと無酸素性作業閾値:AT)、体液量あるいは体温調節反応がいかに修飾されるかについて検討した。【方法】毎日一定の時間に持久的運動トレーニングを繰り返す被験者を用いて、日本とタイに合宿生活をさせ、この時の基礎体温、運動前後の安静時体温及び運動時発汗量を連日記録した。また暑熱暴露経験前後のAT(Vslope法)とVo_2max及び血液成分を測定・分析した。【結果と考察】基礎体温の経日的変動:日本における基礎体温は35.9℃であった。タイにおけるそれは36.4℃付近を推移し、再び日本に戻った2日で36.3℃と高いレベルを維持した。日本においては運動後の体温は運動前の体温に比べ常に低い値をしました。しかしタイではその逆であった。運動時発汗量は日本においてはおよそ700g/hを示したがタイで1400g/hと顕著に増加した。これに対して飲水量は日本では飲水量は観察されなかった。タイではおよそ500g/hであった。これらの結果からタイにおける基礎体温の上昇は慢性的な脱水の可能性が示唆された。また12日間の連続暑熱暴露経験後は血漿量が増加し、暑熱暴露前に比べて暑熱暴露後のVo_2maxやATは増加傾向を示した。この暑熱暴露後の運動能の上昇は血漿量の増加によるものと示唆された。
著者
松崎 健太郎
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

暑熱暴露により、ラット視床下部におけるBrdU陽性細胞数が顕著に増加した。さらに、暑熱暴露によって誘導されたBrdU陽性細胞の一部は抗NeuN抗体によって染色され、その数は暑熱暴露開始後33日から43日の間に顕著に増加した。これらの結果より、ラット視床下部の神経前駆細胞は暑熱暴露により分裂が促進されることが明らかになった。また、暑熱暴露によって分裂した神経前駆細胞は暴露開始30日以降に機能的な成熟神経細胞に分化することが推察された。長期暑熱馴化の形成に視床下部神経新生が関与する可能性を考えた。
著者
塩出 貴美子 中部 義隆 宮崎 もも
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

富美文庫所蔵の江戸時代の絵入本及び絵巻コレクションを調査し、その全容を明らかにした。同コレクションは絵入本10件27冊及び絵巻6件12巻からなり、その大半は奈良絵本・絵巻と通称されるものである。主題は古典、舞の本、お伽草紙、風俗に分類される。これらの全作品について、基礎データの収集、写真撮影、本文(詞書)の翻字、絵の分析等を行い、解題を作成した。また、一部の作品については個別に考察を加え、同主題の作品や様式的に近似する作品と比較した。
著者
土屋 正史 豊福 高志 野牧 秀隆 力石 嘉人
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,ゼノフィオフォアの餌資源利用形態や他の微小生物との生態的な関係を明らかにするために,分子系統解析,細胞な微細構造の観察,炭素・窒素安定同位体比分析を行った。現場培養実験では,炭素ラベルしたグルコースと窒素ラベルした珪藻(Pseudonitzschia sp. NIES-1383)を現場培養装置に添加し, 2日間の培養を試みた。その結果,ゼノフィオフォアは,突発的な沈降有機物に素早く反応し,餌資源を効率的に捕集し利用することで,急速な成長を促すことが示唆された。
著者
星川 保 豊島 進大郎
出版者
東海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

加齢の動作の退行に与える影響を検討するために、歩行動作を対象として加齢による歩行動作の変化を平均年齢70.3±6.0歳の男子6名と、平均年齢79.8±9.3歳の女子5名を被験者とした3年間の高速VTR撮影,及び座標値変換法による測定から検討した。1. 1995年と1997年で男女共に統計的に有意な変化を示した測定項目2. 1995年と1997年で男女共に統計的に有意な変化を示さなかった測定項目
著者
竹森 繁 田澤 賢次
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

現在の温熱療法の主流は誘電加温法であるが,癌局所のみを選択的に加温するのは困難である.一方,電磁誘導加温法では選択的な加温が可能である.過去に磁性体としてDextran Magnetite(DM),Thermosensitive magneto-liposome(TMs)を用いた方法を開発し,その特性・治療効果について報告してきた.TMsは内部に封入した抗癌剤などの薬剤を温度感受性に徐放する性質を有し,選択的温熱化学療法が可能であるが,粒子径が小さく塞栓作用が弱かった.この問題点を解決すべく,新たにDMアルブミンマイクロスフェア(DM-AMs)を開発し,誘導加温法を行い,その特性と新しい温熱治療法について検討した.DM-AMsの粒径は条件を変更することで任意に作製でき,今回の実験には粒径4-6μm,鉄含有量39.6%のものを用いた.前年度の実験で,出力7kW,周波数500KHzの誘導加温装置と,光センサー式温度測定装置を用いた計測では,in vitroではDM-AMsの濃度20mg/mlで6℃/3分,10mg/mlで6℃/7分の温度上昇,in vivoではラットの肝尾状葉に経動脈的に投与し塞栓後,誘導加温を行ったところ,肝尾状葉は43℃に加温された.直腸温は36.7℃であり,投与局所のみ加温された.組織学的所見では,肝尾状葉の類洞,肝動脈は塞栓され,腫瘍内へもDM-AMsが取り込まれていた.塞栓加温後3日目の肝臓の病理組織所見では,辺縁部の腫瘍細胞は粗な配列を示し,他の部分は壊死と繊維化が始まっていた.以上のようにDMアルブミンマイクロスフィアによる塞栓を併用した誘導加温法は,有意に肝実質を加温することが可能であった.抗癌剤を同時に封入することで,薬剤を徐放性に放出する性質を合わせ持つことが期待され,十分量を塞栓することにより腫瘍内組織のみを選択的に加温し,局所の温熱化学療法を行える可能性が示唆された.本研究結果については第14,15回日本ハイパーサーミア学会において発表した.
著者
国分 紀秀 中澤 知洋 渡辺 伸
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

ガンマ線を用いた天体観測における観測限界感度を大幅に引き上げ、新世代のラインガンマ線天文学を開拓するため、ガンマ線を集光することが可能なガンマ線レンズの開発と、集光したガンマ線を高感度で観測する検出器の開発を行った。ガンマ線レンズの試作機を用いた基礎特性の測定と、人工衛星搭載用焦点面検出器のプロトタイプの開発を行い、性能実証を行うことが出来た。
著者
松澤 孝男 河原 永明 長本 良夫 山本 茂樹 森 信二 添田 孝幸
出版者
茨城工業高等専門学校
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1995

我々の勤務する茨城工業高等専門学校は、日本原子力研究所東海研究所の研究用原子炉群や、日本原子力発電(株)の発電用原子炉、原研大洗研究所の材料試験炉、高温ガス炉、動燃大洗工学センサーの高速増殖試験炉「常陽」、原研那珂研究所の核融合試験炉JT-60に囲まれたひたちなか市に存在する。本校の学生の就職先として、“地場産業"であるこれら原子力関連企業や研究所を選ぶ者も多い。ところが、本校の学生の放射性同位元素や放射能に関する興味・関心は低い。学生及び教職員に環境中の自然放射能の存在と量を認識させることを試みた。CR-39というプラスチック板を固体飛跡検出器とするラドンガスモニター(ラドトラック)を学内の様々な居住空間に吊しラドン農業を測定した。算術平均29.7Bq/m^3、幾何平均21.3Bq/m^3であった。ラドン農業の分布は対数正規分布であった。次に、茨城県全域に点在する本校の学生の自宅178軒の学生の寝室のラドン濃度の測定を同じラドンガスモニターでおこなった。ラドン濃度の分布は学校と同じく対数正規分布であったが、幾何平均10Bq/m^3、幾何標準偏差2で、放医研の全国データや本校の居住空間のデーターのラドン濃度の1/2ないし1/3であった。このようにして自然放射線の存在を実感(認識)させた後、更に学生が自ら進んで放射線や放射能・原子力のことを調べることができるよう助言を与えた。(A)政府機関が情報公開やPAのため無料で公開している次のパソコン接続によるデーターベースへの接続方法の説明と検索結果を示した。[1]JOIS(NUCLEN、原子力情報)[2]アトムネット、(財)(NUDEC)、[3]原子力百科事典ATOMICA(B)学生に、放射線測定機器の無料貸出しの紹介を行なった。シンチレーション式サーベイメーター(はかるくん)、放射線計測協会(C)各種資料館の紹介、[1]茨城原子力センター展示館、[2]動燃展示館(アトムワールド)、[3]日本原電東海発電所展示館(東海テラパーク)、[4]見学バス(D)外国旅行する学生・教職員へ線量計による自然放射能の計測依頼(タイ、中国、南極)(E)RI教育用のビデオテープの購入・視聴(「アイソトープとは」日本アイソトープ協会)(F)新聞・テレビ報道に現れた放射線・原子力関連の事項の紹介と説明(FBR,もんじゅ)
著者
気賀沢 保規 高橋 継男 石見 清裕 神鷹 徳治 櫻井 智美 高瀬 奈津子
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は6世紀から9世紀頃の中国南北朝後期隋唐期における石に刻まれた文字資料の「集成・データベース構築」とそれによる「地域社会文化」の研究を目的とした。今日、当該時代の墓碑や墓誌など石刻資料が第一次資料として注目される、しかし資料の系統的、網羅的な整理・把握とその情報の共有化の態勢が不十分である、その反省に立ち、資料の収集・整理・データベース化とその考察に努めた。以下のような具体的成果をあげることができた。(1)およそ7千点にのぼる唐代墓誌の所在を整理して『新版唐代墓誌所在総合目録』を刊行した。このことで内外の学界関係者から評価され、この時期の墓誌研究を前進させるために貢献できた。(2)唐代に先立つ時期の墓誌を初めて全面的に集約した「隋代墓誌所在総合目録」(483点)・「北朝墓誌所在総合目録」(779点)を刊行した。あわせて北朝から階代の関中(陝西省)の民族問題を石刻資料から論じた馬長寿著『碑銘所見前秦至隋初的関中部族』(全111頁)を、関連石刻も補って翻訳し、石刻による「地域社会」研究を進めた。(3)石刻関係資料の系統的入手と整理発信を長期的に可能にするため、東アジア石刻文物研究所(於明治大)を設署し、機関誌『東アジア石刻研究』創刊号を刊行した。並行して貴重石刻拓本の収集、新出・新報告資料の把握に努め、それら収集資料の一部は毎年、「解説」を付して展示公開とシンポの準備をした(次年度以降毎年開催)。(4)石刻資料研究では現地調査が必要で、三度にわたり院生・若手研究者を帯同して山東・河南・河北一帯の遺跡と文物所蔵機関を調査し、調査結果と情報を研究会で報告し、2本の報告論文にまとめた。(5)石刻をめぐる研究分担者の成果は「中国石刻史料をめぐる諸問題」と「石刻史料から探る北朝隋唐仏教の世界」の2セミナーで報告し、それを『中国石刻資料とその社会』論集に集約して、「地域文化」研究に繋げた。