著者
吉岡 基 幸島 司郎 天野 雅男 天野 雅男 荒井 一利 内田 詮三 大谷 誠司 小木 万布 酒井 麻衣 白木原 美紀 関口 雄祐 早野 あづさ 森 恭一 森阪 匡通
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ミナミハンドウイルカの保全のために必要な基礎情報を得るため,分布や移動経路の把握,地域個体群間の関係に関する検討,行動解析,繁殖生理値の収集を行った.その結果,(1)伊豆鳥島周辺に本種が分布し,その個体群は小笠原や御蔵島の個体群との間に関係を有すること,(2)奄美大島での調査により,本種が同島周辺を生活圏とすること,(3)御蔵島個体群の社会行動の分析から,その頻度が性や成長段階によって異なること,(4)飼育個体の性ホルモン分析から,オスの精子形成は春~秋により活発になることなどが明らかになった.
著者
安河内 朗 前田 享史 石橋 圭太 樋口 重和 樋口 重和
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では光、温度、重力の各ストレスが及ぼす生理反応への影響から現代生活における適応性を評価した。その結果以下のことがわかった;1)朝の十分な光曝露と夜の電球色照明の選択は、概日リズムを調整し夜型化を抑制する。2)身体の運動不足や冬季暖房の慢性的利用は基礎代謝量を低下させ、耐寒性、耐暑性を低下させる。身体的運動はこれらの低下を向上させる。3)立ちくらみ頻度は夜型に多く、夜型は重力負荷に対する心拍応答が大きく直立耐性を低下させる。
著者
近藤 慶一
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

(緒言)腎細胞癌株及び臨床検体ではHypoxia Inducible Factor(HIF)αサブユニット(1αおよび2α)の発現パターンが異なることが知られています。構造的には非常に近似しているサブユニットなのですが、どのような機能の相違を有しているのかは明確になっておりません。そこでこのテーマを検討するために、それぞれのサブユニットに対して特異的に結合する蛋白を検索することを目的として実験を行いました。(方法) VHLが正常に発現されており、さらにHIF1α及びHIF2αの双方を低酸素環境で発現しうる腎細胞癌株としてACHN及びSN12Cの細胞株の抽出液からそれぞれのHIFαサブユニットに対する免疫沈降を行いました。HIFαと共沈降してきた蛋白をSDS-PAGEで分離し、銀染色を用いて発現量を比較しました。(結果と今後の展開)コントロール抗体に対して発現の違いが見られるバンドが複数種検出されており、この結果を2次元電気泳動にかけて確認しました。その結果を元にゲルから目的とするスポットを切り出して質量分析を試みたのですが、ゲル内に含まれている蛋白の量があまりにも微少で、信頼のおける解析結果がまだ得られておりません。同定されていない以上、この蛋白の細胞内での発現量を増加させることはできませんので、現在はHIFαとこの蛋白の親和性を増強させることを考えております。具体的には培養条件を変化させてHIF1αと2αがそれぞれ有為に発現するような環境を選び出し、その条件下での細胞抽出液を用いて親和性の変化を検証しているところです。
著者
中村 統太 西脇 洋一
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

新たな磁気・電気デバイスへの応用が期待されている磁気誘電体という物質群があります。本研究では、磁気誘電体に対する理論模型を構築し、磁場や温度による秩序状態の変化を機能制御の観点から計算機シミュレーションにより研究しました。詳細な磁場と温度の相図が得られ、実験未確認の新たな秩序相の予言まで行いました。また、臨界現象を解析する全く新しいスケーリング法の開発も達成することができました。
著者
西川 幸宏
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

物体内部の構造を三次元で観察できるX線CTは、空間分解能の向上とともに、産業分野での注目を集めており、急速に普及・発達しつつある。さらなる空間分解能の向上のためには、3つの要素技術が考えられる。点光源として用いるX線源の微細化、ベアリングを用いない試料回転機構、X線に対するコントラストの向上である。本研究では後者2つについて検討を行った。ベアリングレスのモーターシステムとして、連続回転するスピンドルモーターを使用し、高速カメラを組み合わせることで、試料の回転を止めずにCT撮影することに成功した。高コントラスト化については、検出器のシンチレータ-を薄くすることで、高エネルギーなX線に対する感度を大きく低下させ、低エネルギーのX線に対する感度を相対的に向上させた。これにより、高分子材料の種類の違いを区別できるコントラスト性能を達成し、高分子材料におけるX線CTの利用の可能性を大きく切り開いた。
著者
佐藤 裕子 中木 高夫 濱田 悦子 川島 みどり 木村 義 齋藤 彰 平木 民子 奥原 秀盛
出版者
日本赤十字看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究は看護学生の論理的思考を育成する教育方法の1つとして、看護方法学の授業教材として使用できるコンピューター・ソフトウェアの作成を目指した。このソフトウェアの基盤を構築するために未だ明らかにされていない看護者に特有な推論構造を解明する目的で平成10年度に予備調査を実施した。結果、経験の厚い看護者の推論をより密着して詳細に調査することが必要となり、平成11年度には本調査を実施した。結果、手がかりから仮説へと至る看護者の推論プロセスの特徴、対・患者場面で看護者の即座の行為を導く推論の特徴、さらに看護者に追加される情報によって推論が発展していくことが明らかとなった。得られた資料を土台として、平成12年度から平成13年度にかけて、ソフトウェアの主軸となるルールセットを構築していった。このルールセツト作成作業では現象データからどのような推論が生まれてくるかをシミュレーション化したうえで、現象→推論→根拠→否定手段の4要素のルールからなるセットを蓄積していった。これらをシステムに組み込む作業を経たうえで、ユーザーインターフェイスを開発、ソフトウェア化していった。これと平行し本研究で作成するソフトウェアの適用対象となる看護学生の思考発展調査を平成12年度から13年度にかけて行った。結果、看護学の専門的知識を学習する前の時期は自らの生活体験や身近な家族・親戚、ぞして講義などの影響が大きい学生の思考は、基礎実習を経ることによって、さらに看護過程や看護専門知識の学習を経ることによって、現象を見る視点が多様化し語彙量が増え、表現豊かになっていくという思考の発展が明らかとなった。学生の思考発展に応じた適切な時期と活用法を考慮に入れながら論理的思考を育成することを目指す本ソフトウェアの授業教材化と評価が今後の課題である。
著者
宮平 勝行
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成21年度は,サンパウロ市周辺で実施した聞き取り調査や収集した資料をもとに,継承沖縄語が沖縄人ディアスポラの日常会話やポルトガル語の地域月報,ポピュラー音楽,舞台劇などでどのように用いられているのかを調査した。ポルトガル語で書かれた沖縄の昔話などに出てくる沖縄語の借用に始まり,ポピュラー音楽に表れる沖縄語とポルトガル語のコード切替,移民100周年記念大会で披露された舞台劇での沖縄語のみによる語りなど,様々なコミュニケーションの位相で沖縄語の使用が確認できた。しかしながら,世代が進むにつれて沖縄語は用いられなくなり,3世に至るともっぱら比喩的コード切替(Holmes,2008)を通して沖縄人としてのアイデンティティを指標する様子をレポートした。一方でこうして失われつつある沖縄語を維持・継承しようとする非営利団体による沖縄語の講座もサンパウロ市郊外のビラ・カロン地区で開かれている。そこで,対面及びオンラインビデオ会議による聞き取り調査と記述式アンケート調査を実施し,沖縄人ディアスポラによる沖縄語継承の試みを報告し,その課題などを探った。考察にあたってはウェールズ語,マオリ語,スコットランド・ゲール語など,代表的な継承言語の研究成果を参照している。研究調査の結果からは,同講座が地域における継承言語の威信を高め,言語アイデンティティの高揚に寄与していることが明らかになった一方で,ディアスポラにおける沖縄語の普及にはいくつかの難しい課題があることを突き止めた。3世代におよぶ受講生の母語,第二・第三言語に関わる文化背景が多様であること,消滅の危機にある沖縄語を越境の地で学ぶ際の教材・人材の不足,さらに共通語としての英語が沖縄入ディアスポラに及ぼす脅威などである。うちなぁぐちの保護・維持にはディアスポラ共同体や沖縄単独の努力ではなく,沖縄を一員とする国際間協力が重要であることを説いた。
著者
戸渡 智子
出版者
福岡女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、日常生活において曝される温熱・光環境について、年間を通した実態調査を行うと同時に、唾液分析によりホルモン分泌量を測定し、環境要因と内分泌挙動との関係について検討を行った.その結果、温熱・光環境ともに内分泌挙動と有意な相関がみられ、特に光環境が内分泌挙動の変動に及ぼす影響については、短期の光曝露履歴が個人内変動と関係し、長期的な光曝露履歴が個人間の差と関係することが示唆された.
著者
日野 幹雄 福西 祐 灘岡 和夫 野上 啓一郎
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1988

植生は、地圏と気圏とを結ぶ径路であり、根系は土壌中の水分や化学物質のシンクである。葉は気圏への水蒸気のソ-スであるばかりでなく、光合成作用によって炭酸ガスを吸収し酸素を放出し、蒸散作用によりあるいは遮蔽効果により気温暖和の作用を行う。本研究は、植生の効果を考慮し地圏と気圏を一体として取扱う水文学の確立のための基礎研究である。1.風洞付きライシメ-タ-による実験:長さ4m、幅35cm、風路部高さ50cm、土壌部高さ50cmの風洞を二台製作し、一台は裸地のままあるいは芝生とし、他の一台は(稲科の)雑草を植え、比較実験を行い、次の結果を得た。裸地、芝生に対し雑草は日射の遮蔽と蒸散の効果により流下方向に大きな気温低下(最大3ー4℃)と湿度上昇(最大5g/m^3)をもたらす。雑草風洞のCO_2シンク量は日射量と、水蒸気ソ-ス量は飽差量と高い相関をもち、土壌水分は2次元的な因子として作用する。熱シンク量は水蒸気ソ-ス量及び流入温度で説明される。2.枯葉の保温効果:芝生とその上に枯葉層を作った場合の冬期夜間の風速・気温・地温等を測定し、長波放射による枯葉層上面の冷却・枯葉層内の保温効果を調べた。3.数値モデルNEO-SPAM,Soil,Plant,Atmospheric Modelの開発とシミュレ-ション:植生の存在を考慮した気流の運動および連続の方程式、熱および炭酸ガスの拡散方程式、根系をシンクとした土壌中の水分移動に関する不飽和浸透方程式、および新たに導いた植生の気孔の蒸発散・光合成作用を表す式により非定常三次元場の数値モデルを開発し、実験結果をシミュレ-トした。また、植生の配列が気候暖和に及ぼす効果を調べた。さらに植生による気候暖和が葉による遮蔽作用よりも、蒸散作用によるものであることを明らかにした。
著者
末田 達彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

木曽山中には、中世・近世に枯死したが、その後数百年の間腐朽を免れ、今日まで保存されている木曽ヒノキの倒木が散在する。これらの倒木が中近世に起源を持つものであることは、倒木更新し、現在では樹齢300年前後に達した老大木が、依然その上に鎮座していることから明らかである。本研究では、木曽山中を探索してこれら中近世の木曽ヒノキ倒木を発掘したうえ、これらを樹齢300年の木曽ヒノキ現生木の年輪曲線に繋ぎ、全体として西暦1100年代まで遡る長さ800年の標準年輪曲線を作成した。この標準年輪曲線と過去100年間の気象観測の応答関数解析により、中部山岳における年輪成長には、第一に成長に先立つ冬季の気温が、第二に前年成長期の降水量が、支配的な影響を及ぼしていると判明した。この結果から伝達関数を用いて過去800年の気温変動を復元したところ、13世紀中葉から19世紀中葉まで続く寒冷期を挟んで、その前には顕著な寒冷化の傾向が、その後には現在まで続く温暖化の傾向が現われた。この[寒冷化→寒冷期→温暖化]という気候変動は、それぞれ『中世の温暖期』の終焉部、『小氷期』、『地球温暖化』に対応するもので、北米、ヨーロッパなどの気侯変動などともよく同調している。また、本年輪曲線と過去の火山噴火の関係を解析したところ、南極やグリーンランドの氷床にまで硫酸降下の痕跡を残すほどの大規模な噴火の直後には、年輪成長が顕著に低落し、それが10〜20年ほど続くことが判った。この結果は、火山噴火で成層圏にまで吹き上げられた硫酸エアロゾルがその日傘効果により気候を寒冷化させるという気象学上の仮説を裏付けるものである。
著者
中島 映至 太田 幸雄 竹内 延夫 高村 民雄 沼口 敦 遠藤 辰雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、ほぼ当初予定した計画以上の成果をあげて終了した。主な成果としては、(1)船舶用のスカイラジオメーターが全自動で稼動し、観測船白鳳丸やみらいによる観測のみならず日本-オーストラリア間の2つの商船航路において定期観測を実現できた。それによって幅広い緯度範囲においてエアロゾルの気性積算の光学特性が明らかになりはじめた、(2)エアロゾル気候モデルがほぼ完成し、自然起源と人為起源のエアロゾルの放射強制力がシミュレーションできるようになったことが挙げられる。その結果、エアロゾルの一次散乱アルベドがアジアの広域において0.8から0.9と言う低い値であり大きな太陽放射吸収を引き起こしていること、そのために、産業革命以降の人為起源エアロゾルの直接効果による全球平均放射強制力は今まで言われていたものよりもかなり小さく-0.20W/m2程度であることが明らかになった。人為起源の硫酸塩エアロゾルと有機炭素エアロゾルによる冷却効果(日傘効果)の約半分が黒色炭素エアロゾルによる加熱硬化によって相殺されている。また、人工衛星によるエアロゾルと雲の光学的特性のリモートセンシング手法が確立され、1990年の1,4,7,10月の4ヶ月に適用された。その結果、低層の水雲の光学特性がエアロゾル粒子の気柱総数に依存する「エアロゾルによる間接効果」をはじめて全球規模で確認できた。産業革命以降の人為起源エアロゾルが海上で引き起こした間接効果の大きさは-1W/m2程度であると推定される。
著者
成田 健一
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、都市内に存在する緑地のもつ環境調節効果を多角的に把握する目的で、以下の二つの測定を実施した。一つは、夏季に行った短期集中観測で、グラウンドから樹林を通って市街地へとつながる側線を設定し、夏季における卓越風向に沿った緑地内部とその周辺の詳細な気温分布を測定した。その結果、これまでの数値モデル計算では表現されていなかった、平均流に逆らって乱流で輸送される水平熱輸送の存在が指摘された。このことは、たとえ風下側に位置するとしても、周辺市街地は緑地内部の熱環境に大きく影響を与えていることになり、緑地計画において緑地の規模を論議する場合にも、このような現象は無視できないと考えられる。二つめは、設計データとしての緑地効果の定量的な把握を目的に行った、1年間にわたる長期気温測定である。これまで我が国では「みどり」の熱的効果というと夏季の暑熱緩和機能のみが注目されてきたが、実際の設計を考える上では、冬季も含めた年間の環境把握がまずもって必要である。今回、1年間を通してのデータを解析することにより、落葉樹林における日中の気温低下には樹木の落葉・展葉と対応した明確な季節変化があること、それに対し夜間の気温差は年間を通して一定していること、緑地と周辺市街地との日最高気温差は盛夏には日中の最高気温時、秋以降は日没後の夕方から夜間にかけて出現頻度が高いことなど、興味深い成果が数多く得られた。
著者
波多野 純 野口 憲治 フォラー マティ
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、長崎出島のオランダ商館長などが遺した記録(模型、日誌など)を基に、日本の町家の地域的特質を、従来とは異なる目で分析する。オランダ商館長らが製作させた模型は、長崎の町家等をモデルとした。それらは、外観の特徴ばかりではなく、部屋の格式や用途によって室内意匠が異なることを正確に伝えている。また、その様相は、1822年~1828年代の状況を示している。
著者
藤田 潤 西山 博之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

一般に低温では細胞増殖・遺伝子発現ともに低下するが、哺乳類の精子形成細胞は体温よりも32度前後の軽度低温下でよりよく増殖・分化する。この理由・生物学的な意義は不明である。本研究では、軽度低温により特異的に誘導される低温ショック蛋白質Cirpの発現を制御する分子機構を明らかにし、ストレス応答との関連を解析した。またcirp遺伝子を欠失したマウスを作成し、Cirpの精子形成における役割を明らかにした。
著者
北田 敏廣 岡村 聖
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

"持続可能"な都市・地域形成の要件として、二酸化炭素排出の抑制が求められている。このために都市規模での省エネルギー・未利用エネルギーの有効利用が必要であるが、重要な方策の一つとして土地利用の制御・計画と植栽等地表面の制御に基づく熱環境の緩和が考えられる。本研究は、都市大気の交換特性(風の道)を良くし、超熱帯夜・超真夏日を緩和するために、どのように都市の空間構造を設計すれば良いかを明らかにすることを目的とした。名古屋市を対象に、都市空間を500mx500mのセルに分割し、セル内の熱環境に関わる空間構造を以下のパラメーターで表しGISの下でデータベースを作成した:(1)都市建造物群のセル内面積比と高度分布(建物を中・高層、低層に二分し、それぞれの建物表面積をLAI,Leaf Area Indexで表現)、(2)道路面積比、(3)裸地面積比、(4)植生群の面積比と高度分布(植物を高木、低木に二分し、それぞれの葉面積指数LAIで表現)、(5)開水面の面積比、(6)人工排熱強度。これらのデータを入力にして名古屋市を囲む領域に対して熱帯夜や極度の日中高温と空間構造パラメーターの関係を明かにするべく三次元キャノピーモデルによるシミュレーションを行った(典型的夏型気圧配置であった1995年7月24日-31日を対象にして)。夜間の高温度(熱帯夜)、日最高気温の出現場所等について、ほぼ再現できた。これによって、上に述べた意味での都市構造の違いを熱環境に結びつける三次元キャノピーモデルが構築できた。現在、このモデルを用いての感度解析研究を実行している。
著者
岡村 聖
出版者
名古屋産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

太平洋側沿岸部大都市の典型として名古屋を中心とした濃尾平野を対象に、当該地域の気候特性を活かした建物の空間分布、道路、植生、水田、水面分布等を調べることを目的とした研究を行った。手順としては、1.詳細な土地利用分布データの作成、2.空間3次元キャノピーモデルの改造、3.解析対象領域における真夏日、熱帯夜の温度空間分布の再現、4.省エネルギー都市空間構造に関するシナリオ作成及びモデルシミュレーションによる考察、の順に研究を進めた。1.については、(1)GISソフトウェア、(2)詳細な土地利用分布の基となるデータ、をそれぞれ導入し、当該データを作成した。2.ついては、並列計算機能を備えたあらゆる科学技術演算用サーバに対応可能なモデルソースコードへの改良を、計算時間の短縮に最も有効な支配方程式系およびキャノピー層内の熱収支計算について行った。3.については、(1)都市熱環境の広域性、(2)熱環境と都市空間構造の空間1次元性、(3)熱環境と都市空間構造の空間3次元性に対する知見を、それぞれ、研究発表として取りまとめた。例えば、(2)については、観測結果との比較によりモデルの有効性を確認すると共に、晴天で空間1次元性がなりたつ気象状況の場合、日中低層の建物が密集している地域がより高温になること、夜間高層の建物が密集している地域で気温が低下しにくいこと、等の結果を得た。4.については、3.(3)について更に研究をすすめ、極端な乾燥状態、湿潤状態等、様々な初期条件に対するモデルの感度解析を行いモデル細部のチューニングを行うと共に、3次元気象現象に対するモデルの有効性を検討した。今後、1.の詳細な土地利用分布データを入力とした、3次元モデルシミュレーション結果に基づく、省エネルギー都市空間構造に関するシナリオ研究を最終成果として取りまとめる予定である。
著者
小林 俊行 大島 利雄 関口 英子 寺田 至
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

表現の分岐則は、空間の対称性の破れを記述する数学理論である。本研究では、無限次元表現の分岐則の理論を指導原理の一つとし、幾何構造の対称性を用いた大域解析の基礎理論を推進した。特に、擬リーマン空間形における共形反転変換に対応し、二次錐上のフーリエ変換という概念を導入し、D型単純リー群の極小表現のシュレーディンガーモデルの理論を確立した。また、複素多様体における可視的作用という独自のアイディアを用いて「無重複表現」の基礎理論を推進した。
著者
倉田 敬子 上田 修一 村主 朋英 松林 麻実子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1 電子ジャーナルの現状と研究者の利用(1)既存学術雑誌の電子化の進展状況を継続的に調査することで、電子ジャーナルの黎明期の特徴がわかった。(2)STM分野の日本の研究者への質問紙調査により、電子ジャーナルの利用が急激に普及してきたことが判明した。ただし、利用者の多くがPDF版をプリントアウトしており、EJの新規な特徴を利用したものではなかった。これらの結果は日本および海外の査読つき学会誌に原著論文として掲載された。2 オープンアクセスの現状(1)オープンアクセスに関わる特に海外の政府、学会、出版社、大学等の動向の把握につとめ、Open Access Japanで主要な情報の提供を行った。(2)米国NIHによるPublic Access Policyの発布、実施を受け、医学分野におけるオープンアクセス進展状況調査に着手した。今回は、この施策の影響以前の2005年刊行論文のOA割合(26%)と特徴を明らかにした。(3)機関リポジトリ、オープンアクセスジャーナルの現状についても調査を行い、各時点でのデータを収集した。3 研究者の情報入手、電子メディア利用行動、オープンアクセスへの対処医学分野の研究者が雑誌論文を入手、利用する状況を調査した。最近読んだ論文の約7割が電子ジャーナルであり、PubMedから入手する論文が8割を超えていた。欧米における他の調査結果と異なり、サーチエンジンの利用は多くなかった。オープンアクセスの理念の認知度は34%と低かったが、無料での雑誌論文の利用は、PubMed Centralおよびオープンアクセス雑誌を通してかなりなされていることが判明した。
著者
浅川 麻美
出版者
岩手医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

う蝕病原性細菌の母子伝播について、妊産婦とその出生児間における機序を明らかにするために、まず母子間におけるう蝕病原性細菌の遺伝子学的相同性について検討した。対象は、岩手医科大学歯科医療センター小児歯科外来を受診している小児患者と、その母親とし、対象の児と母親の口腔内より滅菌器具にてプラークを採取し、試料とした。それらを生理食塩水にて、洗浄後、段階希釈を行い、バストラシン添加ミティスサリバリウス寒天培地(MSB寒天培地)にて37℃嫌気下にて48時間培養を行った。MSB寒天培地より採取したコロニーは、生化学的同定法およびPCR法にて菌種同定を行った。同定したS.mutansとS.sobrinusの分離株はトドヒューイット液体培地にて18時間培養し、増菌して菌液を調整した。その後菌液を低融点アガロースゲルに混和し、泳動用プラグを作成して、パルスフィールド電気泳動(PFGE)による解析を行った。プラグはlysozymeにで溶菌し、proteinaseKにで処理後、Sma Iにで制限酵素処理を行った。泳動条件は、switching time1.0〜3.0sec、pulse angle 120°electrophoresis 6v/cm、temperature 14℃とし、18時間泳動を行った。泳動後はエチジウムブロマイド溶液にて染色し、紫外線照射下にて観察を行った。本条件にて泳動を行った結果、明瞭にDNAのバンドパターンを観察することができ、遺伝子型の相同性の解析が可能であると考えた。今後は、母子間においてPFGEによる遺伝子型相同性の解析を行い、同時に口腔内におけるう蝕病原性細菌数、う蝕罹患率、生活習慣等を調査し、伝播形式とその菌株のう蝕罹患傾向との関連について検討していく予定である。
著者
井口 壽乃 井田 靖子
出版者
埼玉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

両大戦間期における中・東欧のグラフィックデザインに関する活動の全貌を実証的に解明するために、ドイツ、チェコ、ハンガリー出身のデザイナーが同時代に英米を訪問、あるいは移民した先の国のグラフィックデザインに与えた具体的な影響について、所蔵先のヴィクトリア・アルバート美術館(ロンドン)、クーパー・ヒューイット・デザイン美術館(ニュー・ヨーク)他にて調査をおこなった。アメリカでは、チヒョルト(ドイツ)とラディスラフ・ストナー(チェコ)、モホイ=ナジ(ハンガリー)の相互の影響関係と交流が浮かびあがった。ニューヨークで活躍したストナーはアメリカのデザイン界に中欧のデザイン理論と方法を根づかせ、1940年代にはアメリカ型のモダンデザインとして新しい造形を推進していった。シカゴでバウハウスの教育を継承したモホイ=ナジは、アメリカの視覚芸術の領域に彼のニュー・ヴィジョン理論を移植し、新しいメディアやテクノロジーと造形表現を融合する芸術作品の創造へと発展されたことが解明された。(井口)ベルリンにてモダン・アートの原理を商業や産業に応用するために開校した私塾「ライマン・シューレ」で知られるユダヤ系ドイツ人アルバート・ライマンは、1937年にロンドンに産業・商業美術学校を設立し、イギリスに商業美術に特化した教育実践を通じて、イギリス・デザイン界においてモダニズムの理論と実践に深く関わったことが解明された。(菅)以上のことから、大陸のモダニズムの流れは英米にて継承され、それぞれ異なる歴史と土壌をもつ土地で、新たな展開を導いたことが実証された。以上の研究結果から浮き彫りにされた国家の文化・産業政策とデザインの関係について、ナショナリズムの視点から研究を行っている研究者デイヴィッド・クラウリー(ポーランド研究)とエヴァ・フォルガーチ(ハンガリー研究)と意見交換を行った。さらにポーランドを事例とした先行研究David Crowleyによる"National Style and Nation-State",1992.を翻訳・出版した(邦訳『ポーランドの建築・デザイン史:工芸復興からモダニズムへ』彩流社、2006年、4月)。