著者
下田 俊介 大久保 暢俊 小林 麻衣 佐藤 重隆 北村 英哉
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.294-303, 2014 (Released:2014-08-25)
参考文献数
15
被引用文献数
7 7

The Implicit Positive and Negative Affect Test (IPANAT) is an instrument for the indirect assessment of positive and negative affect. A Japanese version of the IPANAT was developed and its reliability and validity were examined. In Study 1, factor analysis identified two independent factors that could be interpreted as implicit positive and negative affect, which corresponded to the original version. The Japanese IPANAT also had sufficient internal consistency and acceptable test–retest reliability. In Study 2, we demonstrated that the Japanese IPANAT was associated with explicit state affect (e.g., PANAS), extraversion, and neuroticism, which indicated its adequate construct validity. In Study 3, we examined the extent to which the Japanese IPANAT was sensitive to changes in affect by assessing a set of IPANAT items after the presentation of positive, negative, or neutral photographs. The results indicated that the Japanese IPANAT was sufficiently sensitive to changes in affect resulting from affective stimuli. Taken together, these studies suggest that the Japanese version of the IPANAT is a useful instrument for the indirect assessment of positive and negative affect.
著者
阿部 幸浩 原田 正志 渡辺 直樹 水戸岡 靖子 久保田 冬彦 大田 康雄
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
ポリマー材料フォーラム講演要旨集 第15回ポリマー材料フォーラム
巻号頁・発行日
pp.145, 2006 (Released:2008-03-11)

ポリインジゴは、その化学構造から還元するとロイコ体になり、また、空気酸化により容易に元のインジゴ構造に戻ることが予想され、このことはポリインジゴ繊維はリサイクル可能であることを示唆する。また、分子軌道計算より理想的に紡糸できれば、p-アラミド繊維の約2倍の弾性率を示す可能性が示された。我々は、この繊維の開発を目指して原料合成ルートの探索を行い、ポリインジゴ重合の検討を行った。
著者
久保 知義 宝山 大喜
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.5-10, 1967-01-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
7

異なつたCr2O3含量をもつクロム革に及ぼす比較的高温熱処理(100°~190°C)の影響を物理的性質および 水抽出物の組成の変化から考察した.1. クロム革の熱処理による物理的性質の劣化が認められ,引張強さおよび柔軟度の荷重は増加し,伸びは減少した.しかし,革のCr2O3含量が高くなるにしたがい劣化の程度は比較的少なくなり,また,熱処理時の水分が高水分の場合よりも低水分において熱処理の影響が少ないことを認めた.2. 水抽出物の組成について,溶出蛋白質量,酸度,硫酸根およびpHを測定した.溶出蛋白質量は未鞣製皮の場合に比し非常に少なく,100°~130°C熱処理における溶出量は対照と変らないが,160°~190°Cの熱処理において,Cr2O3含量1%以下の革では大きく増加した.そして,このような傾向は低水析よりも高水分の場合において大きいことを認めた.
著者
池澤 優 近藤 光博 藤原 聖子 島薗 進 市川 裕 矢野 秀武 川瀬 貴也 高橋 原 塩尻 和子 大久保 教宏 鈴木 健郎 鶴岡 賀雄 久保田 浩 林 淳 伊達 聖伸 奥山 倫明 江川 純一 星野 靖二 住家 正芳 井上 まどか 冨澤 かな
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、欧米において成立した近代的宗教概念とそれに基づく宗教研究が、世界各地、特に非欧米社会においてそのまま受容されたのか、それとも各地域独自の宗教伝統に基づく宗教概念と宗教研究が存在しているのかをサーヴェイし、従来宗教学の名で呼ばれてきた普遍的視座とは異なる形態の知が可能であるかどうかを考察した。対象国・地域は日本、中国、韓国、インド、東南アジア、中東イスラーム圏、イスラエル、北米、中南米、ヨーロッパである。
著者
久保田 達矢 武村 俊介 齊藤 竜彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

沖合で発生する地震のセントロイドモーメントテンソル (CMT) 解の推定において,海陸の地震波形を同時に用いると,陸上記録のみを使用した場合よりもはるかに高い解像度でセントロイドの水平位置を拘束できる (Kubota et al., 2017).近年,東北沖には日本海溝海底地震津波観測網S-net (Seafloor observation network for earthquakes and tsunamis along the Japan Trench) (Uehira et al., 2012) が展開された.この観測網と陸上の地震観測網の記録を活用することにより,沖合の地震のCMT解,とくに発生するセントロイド位置とセントロイド深さの推定精度の向上が期待される.しかし,海域における地殻構造は陸上とは大きく異なっているため,海水や堆積層などの低速度層を考慮した地震波伝播計算が重要である (e.g., Noguchi et al., 2017; Takemura et al., 2018).海域の地震について,海陸の観測網を同時に用いてCMT解を高精度で推定するためには,上記のような海域特有の不均質構造を考慮する必要がある.本研究では,地震動シミュレーションにより合成された海域・陸域の地震観測網におけるテスト波形をもとに,海域特有の構造が陸から離れた沖合で発生する地震のCMT解の推定,特にセントロイドの深さの推定におよぼす影響について考察した.本研究では東北沖のプレート境界で発生する逆断層型の点震源 (深さ ~18 km) を入力の震源として仮定し,テスト波形を地震動シミュレーションにより合成した.地震動伝播は3次元差分法 (e.g., Takemura et al., 2017) により計算し, Koketsu et al. (2012) による3次元速度構造モデル (JIVSM) を使用した.計算領域は960×960×240 km3とし,水平にΔx = Δy = 0.4 km,鉛直にΔz = 0.15 kmの格子間隔で離散化した.時間方向の格子間隔をΔt = 0.005 sとした.合成波形に周期20 – 100 sのバンドパスフィルタを施し,CMT解の推定を行った.セントロイド水平位置は沖合の観測網を用いることで高い精度で拘束できる (Kubota et al. 2017) ため,本解析では震央を入力震源の位置に固定し,セントロイド深さおよびモーメントテンソルの推定を行った.CMT解の推定に使用するグリーン関数は,3種類の異なる速度構造モデルを使用した.1つ目は,F-netメカニズム解の推定に用いられている内陸の構造を模した1次元速度構造モデル (Kubo et al., 2002) (内陸1Dモデル) である.この構造では,海水層や浅部の低速度層は考慮されていない.2つ目は,海域の構造を模した,海水層および浅部低速度層を含んだ1次元構造モデル (海域1Dモデル) である.最後は,合成波形の計算にも使用した3次元の速度構造モデル (JIVSM) (3Dモデル) である.1DモデルにおけるGreen関数の計算には波数積分法 (Herrmann, 2013) を用いた.内陸1Dモデルによるグリーン関数を使用では,最適解の深さは ~17 kmと,入力震源の深さとほぼ同様となった.セントロイドの深さ5 – 30 kmの範囲で,テスト波形の再現性に大きな差異はなく,深さ方向の解像度はさほど高くないと言える.一方で,3Dモデルによるグリーン関数を使用した場合,入力と同じ深さに最適解が推定された.セントロイドの深さ15 – 25 km範囲でテスト波形の再現性が高く,内陸1Dモデルと比べて深さ解像度が改善した.海域1D構造モデルを用いたCMT解では,3Dモデルと同様の結果が得られた.以上より,海域特有の構造を考慮したグリーン関数を用いることで,CMT解のセントロイド深さについて浅い解を棄却できるようになることがわかった.一方で,テスト波形の計算と同じ3次元速度構造モデルを用いた場合でも,セントロイドの深さを拘束することは難しいことも明らかとなった.本解析に使用した周波数帯域 (20 – 100 s) においては,深さ15 – 25 kmの範囲では3次元構造を用いて計算されるグリーン関数間の差が少ないことが原因と考えられる.
著者
田久保 興徳 生田 邦夫 片岡 弘明 古谷 正之 古谷 賢次
出版者
日本スキー学会
雑誌
スキー研究 (ISSN:1349449X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.79-81, 2015 (Released:2018-02-08)
参考文献数
3

スキーは日常から離れた雪山で行うスポーツであり,一旦傷害が発生すると,環境・地理的条件のために救命救急が困難な状況が発生しうる.われわれはスキー場から救急隊を介さず直接当院に依頼を受け,当院の医療用ヘリコプター(医療ヘリ)を使用し,患者を搬送するシステム作りを試みている.箱館山スキー場(滋賀県高島市今津町)は滋賀県の北部に位置し,当院から直線距離約50km で,ヘリでは15分である.平成27年2月に,箱館山スキー場で実際に雪上搬送トレーニングを行った.問題点として,(1)着陸地点が限られる,(2)天候に左右されやすい,(3)着陸時の足場の問題,(4)病院からの交通,(5)費用等があり,救急車ほど安易に使用出来るものではないが,患者の利益のために活用が可能であれば,今後,他のスキー場,また様々なスポーツ現場に適応を広げていきたいと考えている.
著者
廣戸 聡 忍久保 洋
出版者
社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.37-44, 2018-01-01 (Released:2018-01-16)
参考文献数
37

Recently, π-conjugated molecules with curved-π surface have attracted considerable interest for their unique properties originating from their curved structures. However, most of them consist of only carbon and hydrogen atoms. In these situations, we have developed novel synthetic protocols for construction of distorted structures directly from 2D π-conjugated molecules under mild reaction conditions. By applying phenol and aniline oxidation methods, we have succeeded in the synthesis of highly distorted cyclophanes, π-extended heterohelicenes, and highly twisted porphyrin oligomers. Furthermore, we have succeeded in the synthesis of a nitrogen-embedded buckybowl as a novel bowl-shaped π-conjugated molecule with a pyrrolic nitrogen in its skeleton. These heteroatom containing curved-π conjugated molecules exhibit unique characteristics due to the combination of the curved structure with heteroatoms such as circularly polarized luminescence, strong C60 binding, and near IR electrochromism. We believe that the chemistry of heteroatom containing curved-π conjugated molecules would enhance the potential of three-dimensional π-conjugated molecules for molecular materials.
著者
久保田 謙作
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_504-I_509, 2012 (Released:2012-09-18)
参考文献数
4

海岸構造物の損傷・磨耗状況や消波ブロックの被災状況を知ることは,海岸構造物を維持・管理する上で極めて重要である.しかしながら,これまで消波護岸の海中部の磨耗状況を詳しく調査した例は殆どなく,磨耗のメカニズムも殆ど明らかにされていない.したがって,護岸や消波ブロックの磨耗・損傷の現地調査データの蓄積が望まれている.本論文では,新潟県親不知海岸における高速道路高架橋の波浪対策護岸工の磨耗調査を詳しく行い,損傷メカニズムを明らかにしている.さらに,現地海岸の構成材料および海象状況に応じた対策法を策定,実施しており,現時点でのその効果についても紹介している.これらの調査・対策法は,同様な波浪および海岸等の自然条件下で磨耗対策を実施する際に役立つものと考えられる.
著者
久保 正敏
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.943-986, 1991-03-28
被引用文献数
2

This paper traces the history of Japanese popular songs fromthe viewpoint of "Travel". The historical span of the discussionis confined to the Showa era, for the following two reasons:1) The modern system of producing popular songs wasestablished at the very beginning of the Showa era;2) The distinct contrast between urban areas and the provinces,together with the social unrest in those days, motivated thetraveling and drifting of the people, and consequently broughtthe travel songs or sight-seeing songs into fashion.In this paper, travels sung in popular songs are categorizedinto three types: outward travel, homeward travel, andwandering travel. Outward travel is motivated by a yearningfor some place and can thus be viewed as future-oriented travel.Homeward travel is motivated mainly by homesickness or somememory of the past. Wandering travel is accompanied byhomesickness in many cases. The popular songs of the Showaera are reviewed according to these three types of travel.In sections 1 and 2, the themes of travel in popular songs aresummarized, and then songs whose words contain place namesor descriptions of local scenery are analyzed. It is pointed outthat changes in the ratio of the number of such songs to thenumber of all popular songs are very similar to change inpopulation drift.In sections 3, 4 and 5, popular songs are reviewed andanalyzed in regard to outward travel, homeward travel, andwandering travel respectively. The evident correlation betweenthe words in these songs and the social environment is shown.Section 6 deals with a few songs relating to spiritual travels.In section 7, changes in travel songs are reviewed froma unique analytical viewpoint. Assuming that the story of thewords of a popular song is scenarized, each song can becategorized as either a close-up type or a long-shot type interms of camera angle, according to the words depicting scenesand manners and the personal pronouns contained in the wordsof the song. Based on this idea, several genres of travel songs areparameterized and mapped on a two-dimensional space, correspondingto the camera angle of the story of the song. Theresult of the mapping shows that travel songs became more andmore of the close-up type with the passing of time, which seemsto parallel the increasing tendency of Japanese society towardprivate-life-oriented conservatism.
著者
大久保 賢一 井口 貴道 石塚 誠之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.68-85, 2015-02-25 (Released:2017-06-28)

研究の目的 本研究では、機能的アセスメントにおける情報収集と行動支援計画の立案を標的とした研修プログラムを実施し、その効果を検討した。研究計画 異なった順番で手続きを実施する2グループを設け、事前テスト、中間テスト、事後テスト、維持テストの結果から介入の各要素の効果を明らかにすることを試みた。場面 大学研究室において実施した。参加者 教員養成課程に在籍する6名の大学生が対象であった。介入 行動分析学に関する基礎的な内容、そして機能的アセスメントの実施と行動支援計画の立案に関する「講義」と、チェックリストとフィードバックを用いた「演習」を実施した。行動の指標 架空事例に対して参加者が収集した情報の分析、立案した支援計画における方略の種類と数、および妥当性、行動分析学に関する知識、そして研修プログラムに関する感想に関するデータを収集した。結果 ほぼ、すべての従属変数において改善がみられ、特に「結果事象」に関する情報収集と方略の立案においては事前テストからの大きな変化がみられた。結論 本研究において実施した研修プログラムによって全般的な改善がみられたが、グループ間によって異なる傾向がみられた。以上のことから、妥当性の高い行動支援計画を立案するためには、チェックリストやフィードバックを用いたトレーニングを行うだけでは不十分であり、行動分析学に関する基礎的な知識が前提条件となる可能性が示唆された。
著者
大久保 街亜
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.1, pp.81-89, 2011-03

Reaction time is used to measure various types of human performance such as perception, memory, and problem solving. Many constructs, from unconscious prejudice to intelligence to personality, can also be measured by use of reaction time. It is, therefore, fundamentally important to remove the influence of spurious long reaction time in a positively skewed distribution, which reaction time data tends to follow. The present article evaluated methods for dealing with reaction time outliers. These methods were categorized into three types : Sample selection, transformation, and whole distribution analysis. In this article, I summarized pros and cons of these methods and made suggestions for a practical reaction time analysis.
著者
大久保 明
出版者
慶應義塾大学大学院法学研究科
雑誌
法学政治学論究 : 法律・政治・社会 (ISSN:0916278X)
巻号頁・発行日
no.94, pp.127-157, 2012

一 はじめに二 イギリスの対独講和構想とヴェルサイユ条約三 連合国会議における条約執行をめぐる英仏論争 (一) パリ、一九一九年七月―一九二〇年一月 (二) ロンドン、一九二〇年二月―三月四 カップ一揆後の混乱とルール派兵問題 (一) ドイツによる非武装地帯派兵許可要求 (二) 仏白軍による五都市占領とイギリスの反応五 おわりに

3 0 0 0 IR 牛久助郷一揆

著者
大久保 京子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.167-179, 2016-03-01

文化元(一八〇四)年に牛久宿で起きた牛久助郷一揆については、小室信介編『東洋民権百家伝』の第三秩に掲載されたことで世に出るまで、その地域ですらほとんど知られることがなかった。また掲載された後も、顕彰活動が起こることもなく、研究もいまだ地域的なものにとどまっているのが現状である。本稿は牛久助郷一揆の紹介と、義民として近代以降も活用されていくのに必要な条件について考察する。牛久助郷一揆牛久助郷騒動佐倉宗五郎東洋民権百家伝
著者
井上 貴央 海藤 俊行 川久保 善智 徳永 勝士 篠田 謙一 椋田 崇生
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.古代人の脳の微細形態解析弥生時代人および江戸時代人の脳組織の一部を細切し、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、脳組織のミエリン鞘が三次元的なネットワークをなしているのが確認できた。現代人の脳ではこのようなネットワークの観察ができていないが、古代人の脳では、ネットワーク以外の構造物が融解していた結果による。古代人の脳の残存例は、比較的分解されにくいミエリンを構成するリポ蛋白質の残存によることが明らかになった。2.山陰の古代人の形質人類学的研究これまでに収集された山陰地方の古代人骨についてデータベースを作製し、青谷上寺地遺跡など一部の人骨資料については接合・保存処理作業を行い、写真撮影、計測を行った。山陰地方の弥生時代人・古墳時代人、江戸時代人について顔面平坦度の計測を行い、東日本の古人骨と比較検討した。さらに、岡山県彦崎貝塚遺跡の縄文人骨の形態学的解析を行った。その結果、渡来系弥生人の範疇に入る山陰地方の弥生人の中には、縄文的な色彩を残している個体があることが判明し、北部九州の渡来系弥生人とは異なった形質をもつものがあることが明らかになった。また、青谷上寺地遺跡の弥生人は、北部九州の渡来系弥生人より韓国の礼安里古墳人に近いことが統計解析によって明らかになった。3.脳と骨組織のDNAの抽出古人骨のミトコンドリアDNA抽出を試みたところ、古墳時代の骨からは検出できなかったが、弥生時代の資料では、30点中9点からDNAを抽出することができ、Dループの塩基配列を決定することができた。そのハプロタイプはD4型が多かったが、Fも存在し、当初考えていたように単一な集団ではなく、ある程度多様な遺伝子配列を持つ集団であることが明らかになった。歯牙からのDNAの抽出も試み、さらに数体分からのDNAデータが得られたが、人骨の所見とは異なっていた。コンタミネーションの可能性を含め、慎重に分析を行う必要があるものと思われる。江戸時代の脳組織からは21点中8点からDNAの抽出に成功し、ハプロタイプを決定した。弥生時代の脳からはDNAの抽出はできなかった。また、核のDNA抽出はできなかった。
著者
久保 明教
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.518-539, 2007-03-31
被引用文献数
1

1999年に販売が開始されたエンターテインメント・ロボット「アイボ」は、生活空間において人々の間近で動作する初めてのロボットとして多くの注目を浴びた。本稿では、アイボの開発と受容の過程を横断的に検討し、テクノロジーにおける科学的側面と文化的側面がいかなる関係を取り結ぶかについて考察する。科学およびテクノロジーを社会的ないし文化的事象として捉える研究は近年盛んになされてきたが、その多次元的な性質ゆえにテクノロジーを包括的に考察することには困難が伴う。本稿では、アイボという技術的人工物が科学的知識、工学的製作、日常的実践等の接点となっていることに注目し、異なる領域に属する諸要素が接続される様々な局面を分析することで、境界横断的なテクノロジーの動態を捉えることを試みる。そこで明らかになるのは、開発と受容の過程において、科学的要素と文化的要素が組み合わされる中でアイボの有様が方向づけられていったことである。開発過程においては、人工知能研究およびロボット工学上の成果である設計手法を基盤にしながらも、ロボットをめぐる人々の想像力に基づいた語りを工学的装置へと翻訳することによってアイボがデザインされていった。一方、受容過程においては、アイボ・オーナーの生活する空間に特有の日常的な事物の有様とアイボの機能システムの作動が結びつくなかで、アイボの動作が様々な形で解釈されるようになり、開発者の想定を超える意味をアイボは獲得していった。筆者は、開発者による工学的デザインとアイボ・オーナーによる解釈が科学的要素と文化的要素を組み合わせることで妥当性を生み出す営為であったと分析した上で、実在と意味を媒介するテクノロジーの働きにおいて科学と文化の相互作用が捉えられることを示した。
著者
村井 源 森井 順之 二神 葉子 皿井 舞 菊池 理予 江村 知子 今石 みぎわ 久保田 裕道 山梨 絵美子 田良島 哲 岡田 健
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.238-245, 2014-05-24 (Released:2014-12-01)
参考文献数
10

東日本大震災後に行われた文化財レスキューの概要を, 活動記録のテキストを計量的に分析するアプローチによって抽出した. 出現語彙のうちで活動内容・文化財・被害状況の三つに対応するものを計量し, 文化財レスキュー活動の時系列的な変化を明らかにした. 被災後にも被害状況と必要な対処は刻一刻と変化していくため, その特徴を踏まえて防災活動や今後の対策を行うことが必要である.
著者
和田 哲郎 廣瀬 由紀 西村 文吾 星野 朝文 上前泊 功 田渕 経司 大久保 英樹 原 晃
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.61-67, 2012
被引用文献数
1

平成13年の医師法の一部改正により聴覚障害者が医師になることが可能となった。しかし, 医学教育で求められる極めて多くの情報を, どのように聴覚障害医学生に伝えるかという方法論は確立されておらず, 公的な支援制度もない。我々は, 上記の医師法改正後, 全国で3人目となる聴覚障害医学生を受け入れた。様々な関係団体と協力し, 本人の日常コミュニケーション手段である手話あるいはパソコン要約筆記を用いて情報保障に努めた。講義にはパソコン要約筆記が, 臨床実習では手話通訳が有効であった。しかし, 専門用語など特殊な内容が多いため, 対応可能な手話通訳者の養成と確保などの課題も明らかとなった。スムーズな支援のためには, 1) リーダーシップ, 2) きめ細かな連絡, 3) 信頼関係が鍵になると考えられた。個々の障害学生の希望と教育環境によって対応は変わってくると考えられるが, このような経験が蓄積, 共有され, 今後の聴覚障害学生教育の一助となることを希望し報告する。