著者
今井 博之
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.32-41, 2010 (Released:2011-11-12)
参考文献数
24
被引用文献数
2

傷害(injury)は子どもや比較的若年の成人に多いので社会的損失が大きい.より若年の早死に焦点を当てたYPLL(損失生存可能年数)によると,傷害はガンや心疾患を凌駕する第一位の座を占めており,公衆衛生上の重要問題の一つである.かつて事故予防(accident prevention)と呼ばれていた分野は,今日では傷害制御(injury control)と呼ばれるようになった.その背景にはこの分野での過去数十年の進歩による概念の変遷がある.つまり,感染症制御モデルに倣った公衆衛生学的アプローチがその主軸となっている.傷害制御の基本的原理は,(1) Haddonマトリックスに示されるように,必ずしも事故の発生頻度を減らさないでも傷害の重症度を減らすことは可能であり,また,それらの対策には予防-介入-事後対策など包括的な実践が可能であるという考え方である.さらに,(2) 受動的-vs-能動的対策,(3) 3E(教育,工学,法制化)アプローチ,などの理解も不可欠である.本稿は,これらの基本的原理を解説することを主な目的とした.そしてさらに,近年発展をとげてきた行動科学的アプローチ(傷害氷山のエコロジカル・モデル,プリシード・プロシード・モデル,Haddonマトリックスの第3の軸)や,セーフコミュニティ運動が,傷害制御にどのように関わっているのかについても言及した.
著者
坂東 昌子 田中 司朗 今井 匠 真鍋 勇一郎 和田 隆宏
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.122-134, 2017 (Released:2020-02-19)
被引用文献数
1

従来の低線量被ばくの影響評価そして放射線防護の枠組みを一新する可能性のある理論が開発されている。その名をモグラたたき(WAM)モデルと言う。このモデルが導く最も重要ことは,低線量被ばくの影響はモグラたたきのように潰されていって,時間経過とともにその影響が蓄積してはいかないということである。これは現行の放射線防護の基盤であるしきい値なし直線(LNT)モデルが70年にわたって築いてきた枠組みにチャレンジするものである。ここでは,このことを議論した2016年秋の大会企画セッションの内容を紹介する。
著者
中谷 英章 入江 潤一郎 稲垣 絵美 藤田 真隆 三石 正憲 山口 慎太郎 岡野 栄之 今井 眞一郎 安井 正人 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-P-M-2, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】最近の動物実験においてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の細胞レベルでの減少がインスリン抵抗性やアルツハイマー病に代表される老化関連疾患を引き起こすこと、NAD中間代謝産物であるニコチンアミドヌクレオチド(NMN)を投与することによりNAD量を増加させ、病態を改善することが報告されている。しかし、ヒトにおけるNMN投与の安全性については不明である。そこで我々は健康成人男性にNMNを経口投与し、その安全性を確認する臨床試験を行った。【方法】10名の健康成人男性に対し、100mg、250mg、500mg のNMNを1週間毎に段階的に経口投与し、投与前と投与後5時間までの血液データや尿データ、投与時の身体計測、心電図、胸部レントゲン、眼科検査を行った。【結果・考察】NMNの単回経口投与により血圧、心拍数、体温、血中酸素飽和度は変化しなかった。血液データでは、軽度の血清ビリルビンの上昇、血清クレアチニン、クロライド、血糖値の低下以外は変化を認めなかった。投与前後での眼科検査や睡眠の質スコアは変化を認めなかった。また、血中のNMNの最終代謝産物は濃度依存性に上昇し、体内でNMNの代謝がきちんと行われたことが確認された。【結論】健康成人男性においてNMNの単回経口投与は大きな副反応を認めず安全であった。
著者
岩田 泰介 高橋 里沙子 伊藤 舞 今井 有紀 岸 竹美 戸村 慎太郎 山本 杏菜 藤田 淳
出版者
Japanese Society of Veterinary Anesthesia and Surgery
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.17-23, 2022 (Released:2022-12-21)
参考文献数
15

術中出血リスクが高い待機手術を受ける犬猫42頭に対して、術前希釈式自己血採血・輸血を実施した。日本自己血輸血学会のガイドラインを基に、プロトコルを作製した。希釈式自己血採血・輸血の関連する重度な有害事象は認められず、安全に実施できた。また、同種血輸血を回避できた症例がいたことから、希釈式自己血輸血は有用性が高いと考えられた。
著者
今井 倫太
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2I6OS4a01, 2023 (Released:2023-07-10)

インタラクションの文脈を捉える人工知能技術が出現しつつある。本稿では、ある情報を人同士の会話に合わせた情報と変換したり、ある人の発言を、既に進行中の会話に合わせた物へと適応したりする情報文脈化技術について提案する。情報文脈か技術の実例を検討することで、人や情報をインタラクションの文脈へ載せるコンテキストラインディング支援の可能性について考察する。
著者
今井 清 吉村 愼介
出版者
JAPANESE SOCIETY OF TOXICOLOGIC PATHOLOGY
雑誌
Journal of Toxicologic Pathology (ISSN:09149198)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.7-12, 1988-05-31 (Released:2009-01-22)
参考文献数
7
被引用文献数
6 6

The spontaneous tumors in Sprague-Dawley rats were studied in 510 females and 450 males which have been used as control groups of various chronic toxicity tests. The incidence of spontaneous tumor was 86.9% in males and 96.0% in females, respectively. In female rats, the most frequent tumor was pituitary adenoma, and followed by breast tumor, insuloma, and adreno-cortical adenoma. In contrast, pituitary adenoma, insuloma, adrenal pheochromocytoma, and hepatic tumor were common tumors in males. The incidence of pituitary adenoma, mammary tumor, thymoma, and adrenocortical adenoma was higher in females than males. On the other hand, the incidence of lung tumor, hepatocellular carcinoma, follicular cell adenoma of the thyroid, pheochromocytoma, and renal tumor was higher in males. Leukemia was also noted about 2.3% in males and 0.8% in females, and all of them were myelogenic leukemia. Moreover, various other tumors were found in other organs or tissues, but their incidences were low.
著者
中村 美香 近藤 浩子 岩永 喜久子 今井 裕子 杉田 歩美 須川 美枝子 永井 弥生
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.279-288, 2016-11-01 (Released:2017-01-18)
参考文献数
35
被引用文献数
5 6

【目 的】 看護職がインシデント・アクシデントを繰り返し起こす要因を明らかにする. 【方 法】 インシデント・アクシデントに関する先行研究の質問項目を参考にして, 質問紙を作成した. 急性期病院1施設の看護職689名に対して, 無記名自記式質問紙調査を実施した. 対象者を6か月間のインシデント・アクシデントの頻度によって3群 (0回, 1~2回, 3回以上) に分け, インシデント・アクシデントに関連する質問の項目平均得点を比較した. 【結 果】 有効回答は461名 (有効回答率92.9%) であった. 「不安・緊張」, 「混乱」, 「抑うつ」, 「従順な性格特性」, 「判断力の不足」, 「連携不足」, 「過酷な勤務状況」, 「業務多忙」の8項目の項目平均得点は, インシデント・アクシデントが3回以上の群が有意に高かった (p<0.05~0.001). 【結 語】 看護職のインシデント・アクシデントの頻度は, これらの8項目と関連していた. よって, これらの項目はインシデント・アクシデントのリスクを把握するスクリーニング項目として活用可能であることが示唆された.
著者
今井 良一
出版者
土地制度史学会(現 政治経済学・経済史学会)
雑誌
土地制度史学 (ISSN:04933567)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-16, 2001-10-20 (Released:2017-12-30)

The purpose of this article is to clarify the logic governing the behavior of farming emigrants by analyzing the realities of their village management and living arrangements. In those days, the political purpose in dispatching the first group of emigrant peasants, called the pilot group of emigrants, was to maintain public security, in order to control Manchuria. In order to achieve this goal, it was essential to make these emigrants settle in villages without employing Chinese labor and thus avoid conflict between them and the local Chinese. The first emigrant group of peasants established cooperative management and communal living (the village being divided into ten communities based on member's prefecture of origin) within three years after their settlement in Manchuria (from 1933 to 1935), shifting to unit-based cooperative management and joint living in 1936 (each unit consisted of four farmers). Soon afterwards, in 1937 they changed to individualized farm management and living. In particular, the unit-based joint management did not rely on employing local labor but used draft animals to supplement family labor.This was considered the most rational management style and the most promising agricultural policy. Contrary to this initial policy, however, local labor was employed in the subsequent year of 1937. This facilitated more extensive agriculture, following an increase in the cultivation area for wheat and other grains for animal consumption. Since there was an abundance of forest resources in the first district settled, the migrants decided to branch out into the forestry industry, which would produce greater revenues with the utilization of draft animals. Because of this, migrant farmers easily mastered individualized management. However, none of the massive revenues obtained through forestry operations were ever used for the improvement of agricultural management. In addition,the emigrant farmers cut down trees so recklessly as to drive forest resources to the verge of exhaustion. It is, therefore, concluded that such operations did not reflect the farmer's interest in the permanence of resources ; rather, it resulted from blatantly plunder-oriented colonialism.
著者
笠置 智道 高見 和久 山田 明子 坂井 聡美 原 高志 酒井 勝央 安田 圭吾 今井 裕一
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.336-341, 2015-05-30 (Released:2015-06-01)
参考文献数
11

症例はうつ病の36歳女性.糖尿病は未診断.入院1週間前より食事をせず飲酒のみの生活が続き,反復する嘔吐と共に意識状態が悪化し救急搬送された.糖尿病性ケトアシドーシスと診断しインスリン持続投与を開始.それに伴い血清K値は入院時の2.7 mEq/lから1.3 mEq/lまで低下したため,インスリン投与を一時中断しその間72時間で計660 mEqのKを補充した.その後血中ケトン体は減少するもアシデミアがさらに進行し,低Alb血症,低P血症を伴い複雑な酸塩基平衡異常を呈した.Stewartのphysicochemical approachにより酸塩基平衡を解析すると,強イオン性代謝性アシドーシスが主体で,原因として希釈,大量食塩水負荷,急性尿細管障害,ケトン体尿排泄の関与が示唆された.種々の電解質の欠乏を伴った酸塩基,水電解質平衡を総合的に理解するためにStewart法が有用であった.
著者
北山 育子 今井 美和子 安田 智子 澤田 千晴
出版者
東北女子短期大学 研究活動推進委員会(紀要・年報部会)
雑誌
東北女子短期大学紀要 (ISSN:09142711)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-8, 2019-02-08

【目的】青森県に残されている特徴ある家庭料理について聞き書き調査をし、主菜を中心としたおかずの特徴を明らかにすることを目的に報告する。【方法】平成25年~27年に、県内を6地域に区分し、津軽、下北、南部地域の計25地区で調査した。調査対象者は41名で60~80歳代であった。さらに、平成29年~30年に4ヶ所において取材、料理撮影を行なった。【結果】本県は新鮮な魚介類が入手し易い環境であるため、豊富な魚介類中心の主菜があげられた。特徴としては、魚の乾物を利用した料理や、豊富にとれる米を利用した飯ずしなどが見られた。また、冬が長く厳しいため、魚介類をたっぷり使用した汁物が各地域であげられた。地域別では津軽地域で魚介類の加工品を利用した料理のほか、甘い味付けの茶碗蒸しなどが見られた。下北地域では鮮度の良い魚介類を利用した刺身や焼き物、南部地域で馬肉料理も見られた。
著者
今井 聖
出版者
日本社会病理学会
雑誌
現代の社会病理 (ISSN:1342470X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.81-96, 2020 (Released:2021-11-01)
参考文献数
13

本稿では、(1)「大津 いじめ事件」の報道を分析し、個別の事件の展開過程においても〈新たな概念〉の下での過去の再構成が起こり得ることを示し、(2) そのような事態がいじめの事実認定の実践にいかに影響するのかを、同級生の証言に基づいて明らかにする。「大津いじめ事件」に関する先行研究では、伝聞情報として確認されていたはずの「自殺の練習」がいかにして「問題」とされ、その「自殺の練習」の事実認定がいかに帰結したのかが十分に検証されていなかった。本稿では、テレビニュース場面の理解可能性に基づき、「重要な証言」としての「自殺の練習」情報の使用が「隠蔽」問題の構築につながったことを示す。その上で、Ian Hacking の議論を参照しながら、「自殺の練習」報道が、同級生たちにとって〈新たな概念〉の下での過去の再構成が可能な状況をもたらすものであったことを述べ、メディア報道と事実認定の実践との関係を捉えるための新たな視点を提示する。
著者
今井 悠介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、アリストテレス-スコラ的な類種概念による秩序から別の秩序への転換という視点を軸に、デカルト存在論の特質を描くことを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。1/存在論を形作る概念枠組みの変化を研究するため、前年度に引き続き主にスアレス、エウスタキウスらデカルト以前の近世スコラ哲学者との比較を行った。スアレスの区別論において、他の諸々の区別を三つの区別のみに帰着させるという構造化がなされ、この構造化・単純化を引き継いだのがデカルトであることを明らかにした。エウスタキウスにおいてはこのような構造化がなされておらず、デカルトのものと異なっている。以上の系譜関係は認められつつも、普遍自体の考察を素通りし、区別の徴表の議論を実体論に先立たせ、その前提とさせるデカルトの議論構成において、スアレスの体系構成の換骨奪胎が起こっており、存在論の議論構成においてもドラスティックな変化が起きたことを明らかにし、以上の成果を日本哲学会において発表した。2/デカルトの強い影響を受けた近世スコラ哲学者であるクラウベルクの検討、およびアルノー、ニコルの『ポールロワイヤル論理学』の検討を行った。クラウベルクにおいて、アリストテレスのカテゴリー論批判の議論とデカルト哲学の摂取が結びつく次第を検討し、また、『ポールロワイヤル論理学』において、オルガノン的枠組みとデカルト哲学の概念群がどのように架橋されているのかを検討した。その結果、デカルト哲学の概念群が、オルガノン的枠組みの一部を刷新し、後の哲学者の体系構成に変化を与えるものであったことを明らかにした。3/デカルトの存在論に関するマリオン、クルティーヌらの先行研究を整理し、デカルト哲学の体系構成の検討を行った。また、本有性、明晰判明性等々の概念群の関係を整理することで、観念の理論がデカルト存在論とどのように関係するかという問題の一端を明らかにした。
著者
松本 伊左尾 今井 誠一
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.112-117, 1980-03-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

みその熟成中において,乳酸生成におよぼす対水食塩濃度や酵母添加量などの影響につき検討を行い,つぎの結果を得た。(1) 乳酸発酵はみその対水食塩濃度により大きく影響を受け, 22%を越えるとPc. halophilusを106/gレベル添加しても乳酸はほとんど生成されなかった。(2) 仕込時にエチルアルコールが1%以上存在すると,乳酸発酵は著しく抑制された。(3) 熟成中の乳酸発酵はS. rouxiiの作用により影響を受け,確実に乳酸生成を期待するにはPc. halophilusをS.rouxiiよりも1オーダー以上多く添加しなければならないことが知られた。
著者
今井 信雄
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.89-104,175, 2002-10-31 (Released:2016-05-25)

The great Hanshin earthquake disaster took place on January 17, 1995, and inflicted severe damage upon the society of the affected area. The damages were various in kind but the experience of the earthquake disaster no longer exists in its original form. Rather, the experience of the earthquake disaster is arranged as " a memory of the earthquake disaster " among the people of the area.and they create " the meaning " of it. This paper considers the many monuments and cenotaphs that have been placed in the stricken area and clarifies how the experience of the earthquake disaster is memorialized and creates meaning. I analyze the system of memory and the meaning of the earthquake disaster from four phases by considering 116 monuments. The four phases are the "death of face to face relationships", the "death of non-face to face relationships", the "life of face to face relationships", and the "life of non-face to face relationships". Each of the four phases creates a different system of meaning in society. The epitaphs shows that many monuments consist of a combination of the four phases, and these monuments make up new system of the meaning. If the system of the meaning differs from monument to monument, memories of the earthquake also vary.As Maurice Halbwachs has noted.the frame of the group is composed from many layers, and the meaning is also being made many layers. A frame and its contents compose the memory of the group. "The frame" of the group in the upper layer is a part of the system of meaning in society. In other words, piles of layers have taken away the variety of memories or meanings about the great Hanshin earthquake disaster.
著者
神田 浩 上田 雅俊 今井 久夫
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.443-455, 1997-12-28 (Released:2010-08-25)
参考文献数
23

加圧回転式ブラッシングの代表的方法あるローリング法における歯ブラシ線維の損耗が, ブラッシング時の歯みがき圧およびプラークの除去効果にどのような影響を及ぼすかをin vivoおよびin vitroの両面から検討した。すなわち, in vivo実験では, ローリング法を被験者に行わせ, 歯ブラシ線維の損耗と歯みがき圧との関連性について経週的に観察を行った。その結果, 頻回使用により, 歯ブラシが損耗する (歯ブラシ線維先端の位置の変化, 形態学的変化ならびに歯ブラシ線維の硬度試験) と歯みがき圧が増加することが確認できた。また, in vitro実験では, 独自に考案したin vivoにおけるローリング法と同じ動作が可能なブラッシングマシンを使用し, 歯ブラシの損耗が実験的プラーク除去効果にどのような影響を及ぼすかについて客観的に評価した。その結果, 歯ブラシが損耗する (歯ブラシ線維の硬化の低下) と, 実験的プラークの除去効果 (実験的プラークのscratching areaの面積%, 実験的プラークをほどこしたmetallic plateの重量差) が低下する傾向が確認できた。これらの結果から, 歯ブラシの形態変化のみならず, プラーク除去効果の面からも, ローリング法用歯ブラシの使用限界は, 使用圧の大小にかかわらず, 3から4週程度と考えられ, 主観的判断によりとらえられていたことが, より客観的に評価できたといえる。