著者
小林 正法 松川 順子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.109-117, 2011-02-28 (Released:2011-06-28)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本研究はThink/No-Thinkパラダイム(Anderson & Green,2001)を用いて,ポジティブ画像記憶の意図的抑制が可能かを検討した.方法は学習段階,Think/No-Think段階,最終テスト段階の3段階から構成されていた.学習段階において,実験参加者(N=34)は手がかり(ニュートラル単語)とターゲット(ポジティブもしくはニュートラル画像)の刺激ペアを学習した.その後,正解率が80%を超えるまで手がかり再認テストを行った.Think/No-Think段階では,手がかりのみが反復して提示された(0回,6回,12回).0回反復のペアは記憶の促進と記憶の抑制を評価するためのベースラインとして使用された.赤色の手がかりに対して,実験参加者はペアとなっていたターゲットを思い出した.緑色の手がかりに対しては,ペアとなっていたターゲットを抑制した.最終テスト段階では,手がかり再生テストを行った.結果,ポジティブ,ニュートラル画像共に,抑制されたターゲットはベースラインのターゲットよりも記憶成績が低かった.画像記憶の抑制が頑健であること,そして感情価によって抑制中の主観的体験が異なることが示唆された.
著者
秦泉寺 久美 渡辺 裕 岡田 重樹 小林 直樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.758-768, 2001-05-01
参考文献数
13
被引用文献数
15

新しい画像符号化標準のMPEG-4が標準化されつつある。これは、低いレートにおいてはH.26XやMPEG-1,2に代表される従来符号化法と比較してより高品質の画像を提供するものである。また、新しい機能であるオブジェクト単位の符号化を提供するものである。筆者らはインターネット等に適用できる超低ビットレート符号化方法の開発を行っている。従来法に比べて劇的な符号量削減が可能であるMPEG-4の符号化ツールである「スプライト符号化」に着目し、前景、背景の2層からなるビデオオブジェクトの自動抽出アルゴリズムを提案する。生成した前景、背景のビデオオブジェクトをそれぞれMPEG-4オブジェクト符号化並びにスプライト符号化に適用(スプライトモード)して、スプライトを用いないMPEG-4 Simple profileの符号化法(ノーマルモード)と比較検討を行った。特に、フレームレートや前景オブジェクトの割合を変化させ、符号量に与える影響を調査した。その結果、フレームレートに関係なく、前景比率が画面全体の10〜15%程度である場合にMPEG-4通常符号化方法の1/4〜1/2程度の符号量で同程度の画質を実現できることを確認した。また超低レート(128kbit/s、64kbit/s)においてフレームレート、客観画質の評価を行ったところ、同程度のSNRで倍以上のフレームレートを達成できることを確認した。
著者
小林 久芳
出版者
倉敷芸術科学大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

今年度の課題研究では、ペロブスカイト系触媒の特性を解明し、今後の実験サイドでの発展をサポートするため、多くの系について電子構造を系統的に研究した。ペロブスカイトとは狭義にはCaTiO_3のことであるが一般にABO_3という組成をもつ化合物群の総称である。種々の結晶系をとるが、正方晶系、立方晶系のものが多い。代表的なペロブスカイトであるSrTiO_3の単位胞を図1に示す。一般にAサイトのイオン(単位胞の頂点)は酸化還元電位に関係するが化学的には不活性であり、Bサイトのイオン(単位胞の中心)が反応性を決めている。BaTiO_3およびTiO_2の電子構造の計算によりバンドキャップはそれぞれ、1.7、1.9eVと計算されたBaTiO_3では7個のバンドが示されており、そのうち6個が原子価バンドである。これらのバンドの構成成分は、低エネルギー側から、Ti 3s、Ti 4p、Ba 5s、O 2s、Ba 5p、O 2pである。伝道バンドはTi3d+4sにO2p軌道が混ざったものである。SrTiO_3のバンド構成でも触れたが、これらの酸化物の最高被占原子価バンドは酸素の2p軌道を主成分として構成されている。通常、O2p軌道とO2s軌道は混成せず、後者は低エネルギー側に別のバンドを形成する。ペロブスカイト系の特徴は、O 2pバンドとO 2sバンドの中間にAサイト原子に由来するバンド(Sr 4p軌道あるいはBa 5p軌道)が形成されることである。また、SrTiO_3とBaTiO_3の比較では、Ba由来のバンドは、Sr由来のバンドに比べて、高エネルギー側に現われる。これは軌道がより広がり、軌道エネルギーが高くなったことに対応している。
著者
鈴木 義之 瀬崎 ひとみ 芥田 憲夫 鈴木 文孝 瀬古 裕也 今井 則博 平川 美晴 川村 祐介 保坂 哲也 小林 正宏 斎藤 聡 荒瀬 康司 池田 健次 小林 万利子 熊田 博光
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.147-149, 2011 (Released:2011-03-22)
参考文献数
4

To further improve therapeutic effect on chronic hepatitis C, we have administered NS3 inhibitor and NS5A inhibitor together, and examined effects of early antiviral agent therapy. The subjects were five cases where interferon is ineffective (null responders). The NS5A and NS3 inhibitors are oral drugs and were daily administered for 24 weeks. Figure 1 shows time-dependent change of the number of viruses after the therapy started, and rapid decrease of viruses is recognized. Within 12 hours, HCV-RNA decreased by more than 2 log IU/ml in every patient. Two patients became negative for the virus by the 15th day after the therapy started. Furthermore, 80% of cases by the 28th day and all the cases by the 56th day became negative. The new therapy has manifested excellent early antiviral effect.
著者
持永 大 小林 克志 工藤 知宏 村瀬 一郎 後藤 滋樹
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J94-B, no.10, pp.1293-1302, 2011-10-01

本研究は2030年までのネットワークが消費する電力を検討することを目標とする.消費電力の低減を検討するためにネットワークの構成を見直して,現在のパケット交換方式だけでなく,消費電力削減効果が期待できる光回線交換方式やコンテンツ配信ネットワークも活用した将来のネットワークの構成を想定する.この構成の特徴はアクセス回線網,広域中継網,中核拠点網に階層化することである.本論文では,インターネット上で転送されるコンテンツの大きさによって通信方式を変化させる手法を活用して,提案する方式の消費電力を従来のパケット交換方式と比較する.この消費電力の算出にあたっては,通信方式による効果だけでなく通信量・利用者数の将来の伸び,技術進化による省電力化効果も算入している.従来のパケット交換方式に加えて光回線交換方式,コンテンツ配信ネットワーク(CDN)方式を組み合わせたネットワーク構成の消費電力を検討した結果,いずれの方式においても消費電力を削減可能であり,パケット交換方式と回線交換方式を併用すれば,従来のパケット交換方式と比較して,67.7%の省電力化が達成できることが分かった.
著者
橋爪 敦子 中川 洋一 石井 久子 小林 馨
出版者
Japanese Society of Oral and Maxillofacial Surgeons
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-10, 2004-01-20
参考文献数
19
被引用文献数
7 3

We describe the preoperative use of limited cone beam computed tomography (CT) with a dental CT scanner for the assessment of mandibular third molars before extraction. Cone beam CT provides 42.7-mm-high and 30-mm-wide rectangular solid images, with a resolution of less than 0.2mm.<BR>The positional relationship between the mandibular third molars and the mandibular canal was examined by dental CT. Sixty-eight lower third molars of 62 patients whose teeth were superimposed on the mandibular canal on periapical or panoramic radiographs were studied. Dental CT scans clearly demonstrated the positional relationship between the mandibular canal and the teeth. The mandibular canal was located buccally to the roots of 16 teeth, lingually to the roots of 27 teeth, inferiorly to the roots of 23 teeth, and between the roots of 2 teeth. The presence of bone between the mandibular canal and the teeth was not noted in 7 of 16 buccal cases, 24 of 27 lingual cases, and 10 of 23 inferior cases on dental CT scans, suggesting that the cana was in contact with the teeth.<BR>Fifty-nine of the 68 mandibular third molars were surgically removed, and postoperative transient hypoesthesia occurred in 4 patients. Dental CT scans showed no bone between the mandibular canal and the teeth in all 4 patients. Hypoesthesia was not related to the bucco-lingual location of the mandibular canal or to the extent of bone loss between the canal and the teeth. However, hypoesthesia did not occur in patients with bone between the mandibular canal and the teeth. Thus, information on the distance between the canal and teeth on dental CT scans was useful for predicting the risk of inferior alveolar nerve damage.<BR>Because of its high resolution and low radiation dose, cone beam CT was useful for examination before mandibular third molar surgery.
著者
廣瀬 茂男 古田 勝久 原 辰次 美多 勉 小林 彬 三平 満司 小野 京右 廣瀬 茂男 長松 昭男
出版者
東京工業大学
雑誌
COE形成基礎研究費
巻号頁・発行日
1997

本年度は本研究の最終年度であるため,これまでの研究成果を集大成してロボットの実機を開発・製作し,11月に行われたロボフェスタの会場で広く一般に公開した.この公開は単なる展示ではなく,それぞれのロボットの実演を行いながら解説をした.実演したロボットは以下の通りである.また同時に国際シンポジウムを開催し,国内外の招待講演者を交えてスーパーメカノシステムについての活発な討論を行った.発表件数は基調講演5件,口頭発表27件,ポスター発表80件であった.完全自立型索状能動体ACM-R1 省自由度壁面4足歩行ロボットHyperion空気圧駆動型ヘビ型ロボットSlim SIime Robot 脚車輪型移動ロボットRoller Walker空圧駆動ヘビ型推進巻付ロボットPneumnake 作業型2足歩行ロボット自励ヘビロボット Twin-Frame型作業移動ロボットPara Walker-II完全自立3次元型索状能動体ACM-R3 全身型作業を行う4脚ロボット立体運動ヘビ型ロボットスーパーメカノアナコンダ 地雷撤去用4足歩行ロボットTITAN-IX3次元ヘビ型ロボット サンプルリターンロボット連結型多車輪移動ロボット玄武2号機 群型ロボット衛星連結型多車輪移動ロボット玄武3号機 親子型惑星探査ロボットSMC-Rover(Uni-Rover)瓦礫内探査ヘビロボット蒼龍1号機 3輪ローバーTri-Star II水中ヘビロボットHELIX スーパーメカノコロニー(SMC)実験システムイルカロボット トランポリンロボット超多関節自重補償型アームFloat Arm COEアクロバット・ロボットスーパーメカノボーイ受動2足歩行ロボット 鉄棒ロボットAcrobot自励歩行ロボット 二足歩行型階段昇降ロボットZero Walkerワイヤ駆動型走行ロボットRunbot 脚車輪型階段昇降車両Zero Carrier多自由度跳躍ロボット ワイヤー連結作業ロボットHyper-Tether1脚走行ロボットKENKEN 作業型クローラロボットHELIOS-IV恐竜型二足歩行ロボットTITRUS-III 自己変形ロボットハイハイロボット 全方向車両The Vutonヘビ型ロボットでは自励振動を利用して小さなエネルギーで推進力を得る制御方法を確立した.また,3次元動作を行う実験機を開発し,頭部を持ち上げる動作,鉛直面内の波を伝搬させる推進方法,捻転による転がり動作を実現した.さらに防水型の実験機により,水中で螺旋型体型をとり捻転することで推進する動作を実現した.また,イルカロボットでは宙返り方向転換を実現した.歩行ロボット関係では,自励運動を使った省エネルギー歩行制御,ホッピング,前転と起きあがり運動,恐竜型の2足高速歩行,ハイハイ型歩行などを実現した.また,自在変形を行うロボットでは,4角形や5角形の体型を作って移動する制御法を確立した.群ロボット関係では,親子型のローバーを開発し,多数の子機による親機の移動,探索動作,2台の子機による物資搬送などを実現し,スーパーメカノコロニーの基本的制御方法を確立した.ダイナミクスを応用したロボットでは,トランポリン運動,前方へのジャンプ,前転と起きあがり,鉄棒への飛び付き,大車輪,宙返り降りなどを実現した.
著者
小林 健二 齋藤 真麻理 山下 則子 鈴木 淳 武井 協三 寺島 恒世 大友 一雄 江戸 英雄 恋田 知子 小峯 和明 石川 透 徳田 和夫 福原 敏男 藤原 重雄 高岸 輝 恋田 知子 浅野 秀剛 キャンベル ロバート
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究はニューヨーク公共図書館スペンサーコレクションに所蔵される絵入り本の全容をつかむために、絵入り本解題目録の作成を目指して絵巻・絵本など絵入り写本類の調査研究を実施した。所蔵者の都合により悉皆調査は叶わなかったが、貴重な資料の調査と研究を進めることができ、その成果を『絵が物語る日本―ニューヨーク スペンサー・コレクションを訪ねて』と『アメリカに渡った物語絵―絵巻・屏風・絵本』、その英語版の報告書『Japanese Visual Culture― Performance,Media,and Text』の三冊の論文集にまとめて刊行した。
著者
リナート キャロル 小林 ひろ江
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、過去の研究に基づき構築された「言語間のライティング能力双向性モデル」が多言語学習者によるテキスト構築を説明できるかどうかを検証した。ケース・スタディの方法を使い、母語を含む3カ国語による29篇の作文、思考発想法プロトコール、インタビューデータを収集し、分析した結果、このライティング・モデルの有効性を確認し、また多言語学習者が既習言語知識をテキスト構築プロセスに使うライティング方略も明らかにした。
著者
新井 俊希 北村 和也 米内 淳 大竹 浩 林田 哲哉 丸山 裕孝 バン クイク ハリー 江藤 剛治
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 C (ISSN:13452827)
巻号頁・発行日
vol.J94-C, no.9, pp.252-260, 2011-09-01

最高撮影速度が200万枚/秒の30万画素超高速度CCDを開発した.この超高速度CCDはフォトダイオードと読出し用垂直転送路の間にフォトダイオード1個につきそれぞれ144個のCCDメモリを配置した特殊な構造により構成される.全画素一斉の並列動作で信号電荷をCCDメモリに記録することで超高速度撮影が可能になった.超高速度CCDの最高撮影速度を見積もるため,フォトダイオード中の電荷の移動時間により制限される最高撮影速度と,CCDメモリに印加される電圧波形がなまり,電荷転送容量が低下しその結果飽和信号レベルが低下することで制限される最高撮影速度について検討を行った.その結果,電圧波形なまりに起因する飽和信号レベルの低下が最高撮影速度を制限する主要因であることが明らかになった.対策として分割駆動と配線抵抗の低減について検討を行い,いずれも効果的であることを示した.計算結果を踏まえて,分割駆動の分割数を8とし画素配線抵抗を2分の1に低減することを行った超高速度CCD-V6を新たに設計し素子を試作した.駆動評価実験の結果,飽和信号レベルは30万枚/秒まで100%を維持し,100万枚/秒において50%,200万枚/秒において13%が得られていることを確認した.200万枚/秒におけるダイナミックレンジは36.8 dBであり,映像信号6ビット相当が得られていることを確認した.
著者
小林 知勝
出版者
北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門(地球物理学)
雑誌
北海道大学地球物理学研究報告 (ISSN:04393503)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.257-268, 2009-03-15

A feasibility test of a kriging method is conducted for estimate of a strain field. In this test the kriging method is applied to man-made data and actual ground displacement data observed in Taiwan. It is investigated how well the method can reproduce the given strain field and extract the complex strain field of Taiwan. To clarify the merits/demerits of this method, we compare the results of the kriging to those inferred from other analysis methods; one is a conventional method in which a strain is directly calculated using a triangulation network and the other is a method incorporating a spatial smoothing procedure. The results demonstrate that the kriging method enables us to provide a largescale strain field spatially smoothly, and further to simultaneously extract a localized deformation. Additionally it is noteworthy that this method is robust for anomalous data, i.e., weights of anomalies are suppressed automatically. On the other hand, the standard triangulation method cannot stably extract a large-scale strain field and at a certain case artificial strain errors are produced. This method is very sensitive to anomalous data and/or even to small fluctuations (errors) of data. The method incorporating a spatial smoothing procedure that has been developed and applied in many recent studies can robustly evaluate strain components that are spatially dominant in the analyzed domain, but miss out a small-scale deformation due to the smoothing.
著者
田中 悟 林 秀弥
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、企業間コーディネーションとしてのM&A行動や戦略的提携行動に対するインセンティブを明らかにした上で、これらの企業行動が経済社会にどのような効果を持つかを経済学・法学の両視点から検証することを目的として行われた。研究はまず、M&Aや戦略的提携行動に対して企業間の垂直的関係がどのような意味を持つかに焦点を当てて行われた。その結果、M&Aや戦略的提携行動に対するインセンティブが垂直的関係下で生じる買い手独占力と上流・下流両市場における市場競争の態様に大きく依存することが明らかとなった。次に、この種の垂直的関係を意識した企業間コーディネーションが流通分野や情報通信分野において多く見られることに着目して、この2分野に焦点を当てた検討を行った。情報通信分野においては、主に法学的視点からの検討が行われた。従来のM&A規制の問題点の精査を行った上で、この分野においては、企業のM&A行動を考慮したときにプラットフォーム規制のあり方が経済社会の成果に大きな影響を及ぼすことが示された。他方、流通分野においては、M&Aや戦略的提携行動が-チェーン展開を通じて-地域的に独立な複数の市場に対して行われるという顕著な特徴を持っている。こうしたときには、買い手独占力を背景としてチェーン企業が享受する投入物価格の低下が、買い手独占力を持たない企業の投入物価格の上昇をもたらす"Waterbed Effect"が生じる。この種の効果は、小売り企業の買い手独占力が水平的位置にあるライバル企業に外部効果を与えることを意味し、極めて大きな競争政策上の含意を持つことになる。そこで、この種の効果を考慮した法と経済分析を行い、買い手独占力をめぐる競争政策の運用に当たっては、買い手独占力が水平的な競争関係にもたらす外部効果をより詳細に検討することが必要となる点を明らかにした。
著者
林 兵磨
出版者
浜松大学
雑誌
経営情報学部論集 (ISSN:13407252)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-39, 2003-06
著者
酒井 治郎 林 兵磨
出版者
羽衣国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、近年、わが国で問題となっているNPO(非営利組織)と、それに伴う会計問題を対象に検討を行ってきた。これまでNPOに係る事件の背景には、NPO会計の不備がその原因の一つとなっていると考えられる。そこで、本研究はNPOの会計問題を解決し、これからのNPOの発展にも寄与することを意図している。まず、統一化の可能性を、アメリカの会計学者であるWiliiam.J.Vatterが提唱した理論から模索した。彼の理論には、企業のことを「私的な人格を否定した資金そのもの」とあるという認識であったが、この彼の見解を基盤にして、それを一部修正することによって、今日のNPO会計の問題解決および営利企業会計とNPO会計との統一化の可能性も見だせることを提案したのである。ところで、最近わが国では、既存のNPO法人(とりわけ公益法人)の非効率な経営実態など、様々な問題点が指摘されているところである。こうした問題点を改善するために、公益法人会計の中にも営利企業会計の考え方を導入しようとして、公益法人の会計基準も改訂作業が進められているところである。本来、企業会計は、資本主義社会における営利企業の発展に伴って確立されてきたものであり、また「一期間における費用と収益との適切な対応」させることを根幹においている。この考え方を公益法人会計にも適用することは、公益法人の管理者に対し、経営資源の有効的活用、効率的経営の実施を意識づけるのに役立つと期待されているのである。つまり、企業会計は営利企業のみならず、公益法人等NPOにとってもまた有用であるとする見解が台頭してきたのである。ただし、単純に既存の公益法人会計に企業会計方式を導入することはできない。株主が存在しない公益法人の「資本」概念をいかに確立するかという点があげられる。ちなみに、日本の公益法人会計改革において、前例として参考にしたアメリカ会計では、この課題に直面して、結局のところ株主の存在という点だけを必要以上に重視してしまい、NPO会計改革が不十分なものに終わってしまった。そこで、われわれの研究では、アメリカの失敗のケースも踏まえ、株主という存在も、組織体への資源提供者の一つの種類にすぎないと捉えることによって、公益法人にも営利企業における資本に相当するものの存在を認め得ることと提案したのである。こうしたわれわれの提案は、公益法人会計と営利企業会計との統一化を前進に寄与するものと考えている。さらに、わが国のNPO会計における具体的問題点の一つとして、学校法人会計もとりあげた。この中でとりわけ、学校法人会計の計算体系が、企業会計のそれとは大きく異なり、この学校法人会計の計算システムでは、固定資産の不必要な取得を誘発する等の問題点を指摘し、こうした点からも前述の公益法人会計のみならず、全てのNPO会計において、企業会計と統一した枠組みの中で捉えることの必要性を指摘したのである。