著者
榊原 寛
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.74, pp.19-36, 2009

本稿の目的は, 革命や観光地化を経た近年のザンジバル島がどのような文化変容を経験しているか, その動態を描き出すことである。ザンジバル島は19世紀に中継交易港として栄え, アラビア半島やインド亜大陸からの多くの移民により「ストーンタウン」が形成された。この町の建築には, 当時の豊かな商人や貴族によって豪奢な木彫ドアが取り付けられた。しかし1964年に勃発したザンジバル革命によって島の社会構造や民族構成は大きく変化し, 豊かな住民や職人が島外へ流出するとともにドア製作の伝統も衰退したとされる。だがその後の政府の尽力などにより, 現在では製作は復活し, 新たな世代の職人も生まれている。このような背景を踏まえ, ザンジバル革命前のドアと, 革命後のドアとのデザイン面での変化とその要因を, 残されたドアの調査と職人への聞き取りから考察した。この研究から明らかになったのは, 第一に, アラブ・インドからの影響下で生成されたストーンタウンの文化と, より「アフリカ的」であるとされる郊外の文化とのダイナミックな相互交流のプロセスであり, 第二に, 現在のドア職人によってアラブ・インド・アフリカなどの各文化要素が自由に取捨選択され, 融合され, 新たな文化が生み出されつつある胎動であった。
著者
榊原 佳織
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、ミトコンドリアを選択的に処理するマイトファジーの分子機構解明を目指した。酵母を用いた遺伝学的手法によって、マイトファジー制御に関与する新規分子として、リン脂質PC合成に関与するリン脂質メチル基転移酵素(Opi3)を見いだした。マイトファジーが誘導されると、ミトコンドリアを処理する過程で隔離膜が形成されるが、その膜の形成にはリン脂質PEと結合するAtg8が必要である。我々はOpi3とAtg8との関係を調べ、リン脂質代謝が関与するマイトファジー制御機構の解明を試みた。これまで我々が行った解析では、opi3欠損細胞ではマイトファジー効率が極端に低下し、Atg8の過剰な蓄積を認めていた。そこで、opi3欠損細胞内におけるAtg8を精製し、質量分析よりAtg8に結合するリン脂質を同定した。その結果、opi3欠損細胞ではPEではなく、PC合成過程に産生される中間産物PMEがAtg8に結合していることを見いだした。次に、in vitro解析より、Atg8はPEと同様にPMEとも結合することが確認できた。通常、Atg8-PEはシステインプロテアーゼであるAtg4で切断され、Atg8がリサイクルされることが膜の形成に重要であることが知られているが、我々の解析によってAtg8-PMEはAtg4 による切断効率が極端に低下することが分かった。また、opi3欠損細胞内におけるAtg8の局在を観察したところ、マイトファジー誘導後に液胞に運ばれるべきAtg8が、液胞外に集積していることが認められた。以上の結果から、リン脂質メチル基転移酵素であるopi3の欠損によって、Atg8はPMEと結合することが分かった。PMEと結合したAtg8はAtg4による切断を受けにくくなり、リサイクルされないAtg8は蓄積し、隔離膜形成が効率よく行われず、マイトファジー効率が極端に低下したと考えられる。
著者
斎藤 弘樹 木浪 由菜 川畑 未夢 大原 伊織 藤谷 雄二 五東 弘昭 榊原 和久
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.278-286, 2016-12-20 (Released:2017-01-06)
参考文献数
24

In order to clarify the mechanism to induce biologically hazardous phenomena in the environment by the reaction of the Secondary Organic Aerosol (SOA) and to identify reactive species in SOA atmosphere (particles and gaseous constituents are coexisting), experiments of capturing reactive species in the gas chamber where SOAs were generated via the reaction of ambient air containing α-pinene with ozone have been carried out by taking advantage of radical scavenging reagents. The obtained adducts in SOA atmosphere were analyzed by ESR (Electron Spin Resonance) and LC/MS (Liquid Chromatography/Mass Spectrometry). ESR signal intensities of the radical scavenging samples exposed by SOA atmosphere were smaller than those of the control sample due to the formation of diamagnetic adducts. And new peculiar peaks (α-pinene radical adducts produced by the trapping reactions with radical scavenging reagents) were detected by LC/MS. Thus, it is plausible that reactive species in ambient air can be identified surely from analytical approach of the adducts formed with radical scavenging reagents.
著者
岡田 遥平 荒井 裕介 飯塚 亮二 榊原 謙 石井 亘 檜垣 聡 北村 誠
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.295-300, 2014-07-15 (Released:2014-11-01)
参考文献数
20

循環動態の安定している脾損傷に対して,interventional radiologyや保存的加療などの手術を行わない管理(nonoperative management: NOM)が一般に行われている。今回我々は,鈍的脾損傷に対するNOMの経過中に巨大な脾仮性動脈瘤の遅発性破裂を来しながら,動脈塞栓術にて救命できた症例を経験したので報告する。症例は17歳の男性。自転車による転倒で当院救命救急センターをwalk inで受診した。腹部造影CT検査で外傷学会臓器損傷分類脾損傷IIIb型と診断したが,造影剤の血管外漏出を認めず,また循環動態も安定していたため安静臥床の方針とした。第9病日の腹部造影CT検査で脾内に直径38×41mmの脾仮性動脈瘤を認めたが,待機的にTAE (transcatheter arterial embolization:経カテーテル動脈塞栓術)を検討することとし厳重に経過観察の方針とした。第10病日に突然の腹痛を訴えてショック状態となったため腹部造影CT検査を施行し,脾仮性動脈瘤破裂と診断した。直ちに血管造影および塞栓術を施行し止血した。塞栓術後は再出血なく経過し,第30病日に独歩退院となった。鈍的脾損傷による脾仮性動脈瘤を認めた場合,直径10mm以上の症例は手術やTAEなどの治療介入が必要になるとの報告があり,また多くの症例で介入が報告されている。文献検索および本症例報告から,脾仮性動脈瘤の直径が10mm以上であれば,診断後に可及的速やかに血管造影検査,塞栓術を考慮すべきと考えられる。
著者
永野 敬子 勝谷 友宏 紙野 晃人 吉岩 あおい 池田 学 田辺 敬貴 武田 雅俊 西村 健 吉澤 利弘 田中 一 辻 省次 柳沢 勝彦 成瀬 聡 宮武 正 榊 佳之 中嶋 照夫 米田 博 堺 俊明 今川 正樹 浦上 克哉 伊井 邦雄 松村 裕 三好 功峰 三木 哲郎 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.111-122, 1995-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

近年の疾病構造の欧米型への移行が指摘される中, 日本人における痴呆疾患の割合はアルツハイマー病の比率が脳血管性痴呆を越えたともいわれている. 本邦におけるアルツハイマー病の疫学的調査は, アルツハイマー病の原因究明に於ける前提条件であり, 特に遺伝的背景を持つ家族性アルツハイマー病 (FAD) の全国調査は発症原因の究明においても極めて重要であると考える.私たちは, FAD家系の連鎖分析により原因遺伝子座位を決定し, 分子遺伝学的手法に基づき原因遺伝子そのものを単離同定することを目標としている. 本研究では日本人のFAD家系について全国調査を実施すると共に, これまでの文献報告例と併せて疫学的検討を行った. また, 日本人のFAD家系に頻度の高いβ/A4アミロイド前駆体蛋白 (APP) の717番目のアミノ酸変異 (717Va→Ile) をもった家系の分子遺伝学的考察も行った.その結果, FADの総家系数は69家系でその内, 平均発症年齢が65歳未満の早期発症型FADは57家系, 総患者数202人, 平均発症年齢43.4±8.6歳 (n=94), 平均死亡年齢51.1±10.5歳 (n=85), 平均罹患期間6.9±4.1年 (n=89) であった. APP717の点突然変異の解析の結果, 31家系中6家系 (19%) に変異を認めた. また各家系間で発症年齢に明らかな有意差を認めた. 1991年に実施した全国調査では確認されなかった晩期発症型FAD (平均発症年齢65歳以上) 家系が今回の調査では12家系にのぼった.FADの原因遺伝子座位は, 現在のところ第14染色体長腕 (14q24.3; AD3座位), APP遺伝子 (AD1座位) そのもの, 第19染色体長腕 (19q13.2; AD2座位), 座位不明に分類され, 異なった染色体の4箇所以上に分布していることとなる. 日本人のFAD座位は, APPの点突然変異のあった6家系はAD1座位であるが, 他の大部分の家系ではAD3座位にあると考えられている. 今回の解析結果より, 各家系間の発症年齢に差異があることからも遺伝的異質性の存在を示唆する結果を得たが, FAD遺伝子座位が単一であるかどうかを同定する上でも, 詳細な臨床経過の把握も重要と考えられた.
著者
榊原 一紀 玉置 久
出版者
横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)
雑誌
横幹連合コンファレンス予稿集 第8回横幹連合コンファレンス
巻号頁・発行日
pp.D-3-1, 2017 (Released:2018-02-18)

Approaches for achieving super smart-energy management of transportation, electric and gas systems in cities are conducted from multiple points of views. In this paper, we examine the comprehensive modeling and optimizing approaches for the super smart societies by introducing mathematical programming techniques.
著者
榊原 由貴
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

一般相対論は宇宙論的観測をよく説明するが、この際暗黒物質や暗黒エネルギーといった未知の構成要素の存在を仮定する必要がある。これらの起源を理解するには、長スケールで重力自体の変更が必要になるのではないかという見方がある。長スケールでの重力の変更として自然なものに、重力子に質量を持たせる方法がある。それが、有質量重力子理論である。近年の研究で、有質量重力子理論が一般相対論と同様に時空の計量だけ含んでいる場合は安定な一様等方膨張宇宙解の構成が困難だが、もう一つ計量を導入した双計量重力理論ではそのような問題を回避できることがわかっている。我々は、双計量重力理論を重力として採用した時に標準的な宇宙論を再現でき、精密化が進む宇宙背景放射や宇宙の大規模構造などの観測と無矛盾でありうるかを確認することを目標として、特にビッグバン以前の宇宙を記述するインフレーションシナリオに注目して研究を行った。初年度には、双計量重力理論におけるインフレーション解の構成を実現しうるミニマルなモデルについて行い、その安定性を明らかにした。さらに、構成したインフレーション時空上で生成される重力波のスペクトルを求めた。次年度では、これらの解析を一般の双計量重力理論に拡張し、インフレーション中に重力波と同様に生成される曲率ゆらぎも求めた。結果、インフレーションシナリオに対する宇宙背景放射観測からの制限は、一般相対論の場合に比べ一般の双計量重力理論において厳しくなることが明らかになった。このことから、本研究の結果を利用し観測的に双計量重力理論をモデルを制限できると期待される。
著者
船坂 陽子 松中 浩 榊 幸子 山村 達郎 山本 麻由 錦織 千佳子
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.299-308, 2005

イオントフォレーシスによるビタミンC誘導体の日光性黒子や雀卵斑などの色素斑に対する効果を確認するために,2種類のイオントフォレーシス装置を用いた臨床試験を実施した。<BR>5%リン酸L-アスコルビルナトリウムを,院内用のイオントフォレーシス装置にて医師が週1回3ヵ月,家庭用のイオントフォレーシス装置にて被験者自身が1日1回4ヵ月,それぞれ片顔にイオントフォレーシスを施行し,もう一方は対照側として無塗布および単純塗布のhalf face法とした。<BR>皮膚所見ならびに画像解析の結果,イオントフォレーシス側において,それぞれ32例中31例,37例中37例に有効性を認め,対照側よりも高い改善効果を得た。<BR>また,分光測色計を用いた皮膚色の測定によって皮膚が明るくなることが,さらにレプリカを用いた皮膚表面の形態観察によって皮溝と皮丘から形成される頬部のきめが均一になることがわかった。<BR>以上のことから,イオントフォレーシスは,ビタミンC誘導体の色素斑に対する効果を高めるとともに,皮膚色やきめをも改善することが明らかとなった。
著者
榊原 正義 桂林 浩 鈴木 敏克 守屋 康正
雑誌
情報処理学会研究報告マルチメディア通信と分散処理(DPS)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.83, pp.75-80, 1991-09-24

多くの情報をボトムアップに整理し、構造化する手法であるKJ法を利用してグループによる情報整理を支援するために、同期会議支援システムICE90の一つのアプリケーションとして、電子KJ法システムを構築した。電子KJ法システムは、各参加者が個人作業空間として使用するワークステションを通してKJカードの作成や移動等の操作を並行して実行できることを特徴としている。紙を使った従来のKJ法と比較すると、試行錯誤を行いながらのグループ編成や、グループ単位でのカードの操作が容易に行えるようになることが確認された。For the purpose of supporting groupwork to organize information, the authors developed ICE90: a face-to-face meeting support system. It has KJ-Method support function as one of its applications. The KJ-Method support function on ICE90 enables participants to create and operate KJ cards at the common workspace in parallel through each workstation for individual use. In comparison with the conventional KJ-Method with paper, it is easier to group KJ cards by trial and error, and to operate multiple cards in a group with ICE90.
著者
桂林 浩 鈴木 敏克 榊原 正義 守屋 康正
雑誌
情報処理学会研究報告マルチメディア通信と分散処理(DPS)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.83, pp.63-38, 1991-09-24

オフィスでの作業は共通の目的を達成するための会議などの共同作業が中心であるが、ワークステーションによる支援は個人作業が中心である。そこで、ワークステーションによる会議の支援を考えた。まず個人作業用ワークステーションの応用可能性を検討し、次に会議支援特有の機能を実現した会議システム(E)を構築した。さらに、オフィスで行われている会議を3つのタイプに分類し、本システムにおける各タイプに対するワークステーションの利用可能性を検討した。その結果、会議タイプにより改良方法は異なるが、ワークステーションを使って支援できることを確認した。Cooperative work to achieve the shared target is the nucleus of office works, however personal work support is the major objective of many computer-supported systems. Therefore, the establishment of computer-supported meeting system is considered. We investigate the potentialities to use workstations at meetings, before making a system which includes special functions for the meetings. We classify meeting types into three, and investigate the applications of this system to support each meeting type. Consequently, the workstations indicate the potentialities to support meetings, though it requires some improvement according to meeting types.
著者
瀬戸 卓弥 竹内 優志 橋本 正弘 伊藤 惟 市原 直昭 川久保 博文 北川 雄光 宮田 裕章 陣崎 雅弘 榊原 康文
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

食道癌は10年生存率が20%前後の癌であり、膵臓癌や肝細胞癌と並んで致死率の高い癌である。また、食物を運ぶ蠕動運動による狭窄と癌による狭窄の判別が難しく診断の難しい癌であることも知られている。そこで本研究では、過去に食道癌と診断された患者のCT画像を用いて畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と 再帰型ニューラルネットワークの学習を行うことにより、新規のCT画像に食道癌が存在するか否かを判別するシステムの構築を目的とした。結果として、CNNとLSTMを用いた診断支援システムの構築に成功し、80%を超える精度で分類を行うことができた。
著者
三木 文雄 生野 善康 INOUE Eiji 村田 哲人 谷澤 伸一 坂元 一夫 田原 旭 斎藤 玲 富沢 磨須美 平賀 洋明 菊地 弘毅 山本 朝子 武部 和夫 中村 光男 宮沢 正 田村 豊一 遠藤 勝美 米田 政志 井戸 康夫 上原 修 岡本 勝博 相楽 衛男 滝島 任 井田 士朗 今野 淳 大泉 耕太郎 青沼 清一 渡辺 彰 佐藤 和男 林 泉 勝 正孝 奥井 津二 河合 美枝子 福井 俊夫 荒川 正昭 和田 光一 森本 隆夫 蒲沢 知子 武田 元 関根 理 薄田 芳丸 青木 信樹 宮原 正 斎藤 篤 嶋田 甚五郎 柴 孝也 池本 秀雄 渡辺 一功 小林 宏行 高村 研二 吉田 雅彦 真下 啓明 山根 至二 富 俊明 可部 順三郎 石橋 弘義 工藤 宏一郎 太田 健 谷本 普一 中谷 龍王 吉村 邦彦 中森 祥隆 蝶名林 直彦 中田 紘一郎 渡辺 健太郎 小山 優 飯島 福生 稲松 孝思 浦山 京子 東 冬彦 船津 雄三 藤森 一平 小林 芳夫 安達 正則 深谷 一太 大久保 隆男 伊藤 章 松本 裕 鈴木 淳一 吉池 保博 綿貫 裕司 小田切 繁樹 千場 純 鈴木 周雄 室橋 光宇 福田 勉 木内 充世 芦刈 靖彦 下方 薫 吉井 才司 高納 修 酒井 秀造 西脇 敬祐 竹浦 茂樹 岸本 広次 佐竹 辰夫 高木 健三 山木 健市 笹本 基秀 佐々木 智康 武内 俊彦 加藤 政仁 加藤 錠一 伊藤 剛 山本 俊幸 鈴木 幹三 山本 和英 足立 暁 大山 馨 鈴木 国功 大谷 信夫 早瀬 満 久世 文幸 辻野 弘之 稲葉 宣雄 池田 宣昭 松原 恒雄 牛田 伸一 網谷 良一 中西 通泰 大久保 滉 上田 良弘 成田 亘啓 澤木 政好 三笠 桂一 安永 幸二郎 米津 精文 飯田 夕 榊原 嘉彦 螺良 英郎 濱田 朝夫 福山 興一 福岡 正博 伊藤 正己 平尾 文男 小松 孝 前川 暢夫 西山 秀樹 鈴木 雄二郎 堀川 禎夫 田村 正和 副島 林造 二木 芳人 安達 倫文 中川 義久 角 優 栗村 統 佐々木 英夫 福原 弘文 森本 忠雄 澤江 義郎 岡田 薫 熊谷 幸雄 重松 信昭 相沢 久道 瀧井 昌英 大堂 孝文 品川 知明 原 耕平 斎藤 厚 広田 正毅 山口 恵三 河野 茂 古賀 宏延 渡辺 講一 藤田 紀代 植田 保子 河野 浩太 松本 慶蔵 永武 毅 力富 直人 那須 勝 後藤 純 後藤 陽一郎 重野 秀昭 田代 隆良
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.914-943, 1987
被引用文献数
2

Clavulanic acid (以下CVAと略す) とticarcillin (以下TIPCと略す) の1: 15の配合剤, BRL28500 (以下BRLと略す) の呼吸器感染症に対する有効性と安全性をpiperacillin (以下PIPCと略す) を対照薬剤として, welI-controlled studyひこより比較検討した.<BR>感染症状明確な15歳以上の慢性呼吸器感染症 (慢性気管支炎, びまん性汎細気管支炎, 感染を伴った気管支拡張症・肺気腫・肺線維症・気管支喘息など) およびその急性増悪, 細菌性肺炎, 肺化膿症を対象とし, BRLは1回1.6g (TIPC1.5g+CVA0.1g) 宛, PIPCは1回2.0g宛, いずれも1日2回, 原則として14日間点滴静注により投与し, 臨床効果, 症状改善度, 細菌学的効果, 副作用・臨床検査値異常化の有無, 有用性について両薬剤投与群間で比較を行い, 以下の成績を得た.<BR>1. 薬剤投与314例 (BRL投与161例, PIPC投与153例) 中, 45例を除外した269例 (BRL投与138例, PIPC投与131例) について有効性の解析を行い, 副作用は293例 (BRL投与148例, PIPC投与145例) について, 臨床検査値異常化は286例 (BRL投与141例, PIPC投与145例) について解析を実施した.<BR>2. 小委員会判定による臨床効果は, 全症例ではBRL投与群78.8%, PIPC投与群79.4%, 肺炎・肺化膿症症例ではBRL投与群 (79例) 82.1%, PIPC投与群 (73例) 79.5%, 慢性気道感染症症例ではBRL投与群 (59例) 74.6%, PIPC投与群 (58例) 79.3%の有効率で, いずれも両薬剤投与群間に有意差を認めなかった.<BR>3. 症状改善度は, 肺炎・肺化膿症症例では赤沈値の14日後の改善度に関してPIPC投与群よりBRL投与群がすぐれ, 慢性気道感染症症例では胸部ラ音, 白血球数, CRPの3日後の改善度に関してBRL投与群よりPIPC投与群がすぐれ, それぞれ両薬剤投与群間に有意差が認められた.<BR>4. 細菌学的効果はBRL投与群68例, PIPC投与群57例について検討を実施し, 全体の除菌率はBRL投与群75.0%, PIPC投与群71.9%と両薬剤投与群間に有意差は認められないが, Klebsiella spp. 感染症においては, BRL投与群の除菌率87.5%, PIPC投与群の除菌率16.7%と両薬剤群間に有意差が認められた. また, 起炎菌のPIPCに対する感受性をMIC50μg/ml以上と50μg/ml未満に層別すると, MIC50μg/ml未満の感性菌感染例ではBRL投与群の除菌率69.6%に対してPIPC投与群の除菌率94.7%とPIPCがすぐれる傾向がみられ, 一方, MIC50μg/ml以上の耐性菌感染例ではPIPC投与群の除菌率12.5%に対して, BRL投与群の除菌率は66.7%と高く, 両薬剤間に有意差が認められた.<BR>5. 副作用解析対象293例中, 何らかの自他覚的副作用の出現例はBRL投与群5例, PIPC投与群11例で, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>6. 臨床検査値異常化解析対象286例中, 何らかの異常化が認められた症例は, BRL投与141例中45例 (31.9%), PIPC投与145例中28例 (19.3%) で, 両薬剤投与群間に有意差が認められた. 臨床検査項目別にみると, GPT上昇がBRL投与140例中26例 (18.6%), PIPC投与140例中14例 (10.0%), BUN上昇がBRL投与128例中0, PIPC投与127例中4例 (3.1%) と, それぞれ両薬剤投与群間での異常化率の差に有意傾向が認められた.<BR>7. 有効性と安全性を勘案して判定した有用性は, 全症例ではBRL投与群の有用率 (極めて有用+有用) 76.3%, PIPC投与群の有用率の74.8%, 肺炎・肺化膿症症例における有用率はBRL投与群81.0%, PIPC投与群75.3%, 慢性気道感染症症例における有用率はBRL投与群70.0%, PIPC投与群74.1%と, いずれも両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>以上の成績より, BRL1日3.2gの投与はPIPC1日4gの投与と略同等の呼吸器感染症に対する有効性と安全性を示し, とくにβ-lactamase産生菌感染症に対しても有効性を示すことが確認され, BRLが呼吸器感染症の治療上有用性の高い薬剤であると考えられた.